2017年12月14日

「Mr.Long ミスター・ロン」チャン・チェン主演、SABU監督 暴力、人情、食、疑似家族──奇跡の化学反応

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 「ポストマン・ブルース」(97)、「天の茶助」(15)のSABU監督最新作「Mr.Long ミスター・ロン」。15年、台湾・高雄国際映画祭に参加した監督に、顔見知りだったチャン・チェンが出演を希望したことで始まった作品。監督は数カ月後、チャン・チェン(張震)にあて書きした脚本を完成させた。

 台湾南部の高雄。パスポートと札束入りのバッグの前で、バカ話する5人の男。そこへ殺し屋のロン(チャン・チェン)が現れ、場は凍りつき、5人は瞬時に殺されてしまう。ナイフ1本で仕事を片付けたロンは、バッグを依頼主に渡す。凄腕の殺し屋ぶりが強烈に焼き付けられる。

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 次の殺しの依頼を受けたロンは、台湾を離れ、六本木のナイトクラブに現れる。台湾マフィアのジャンを狙うも失敗。ジャンと手を組む日本のヤクザにつかまってしまう。麻袋をかぶせられ、河川敷に連れて行かれ、パスポートも焼かれ、半殺しにされるロン。そこへ突然、青年の賢次(青柳翔)が飛び出した。賢次が刺され、混乱する現場。ロンはナイフを奪って逃走する。

 命からがらたどり着いた場所は、北関東の空き家街だった。瀕死のロンに、近所の少年・ジュン(バイ・ルンイン)は食べ物や薬を運んでくる。体力を回復した後、ジュンの家に行くと、薬漬けになった台湾人の母リリー(イレブン・ヤオ)がいた──。

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 「クーリンチェ少年殺人事件」(91)、「レッドクリフ」(08)、「グランド・マスター」(13)など、中華圏で活躍する台湾人俳優のチャン・チェンを迎え、暴力、人情、食、疑似家族と、結びつきそうにない要素を混ぜ合わせ、奇跡の化学反応を引き出した。

 凄惨な暴力で幕を開けた物語は、逃亡先での近所の人たちとの交流に広がる。ロンへの親切な対応が、温かい空気となって場を包む。冒頭に刺された賢次の過去が、重要な鍵になる構成がうまい。

 ロンがめぐり合う幸せと反比例するように、膨らみ続ける不穏な空気。クライマックスでは再び刃が登場、暴力がさく裂する。さらに一歩踏み込み、それまでのネガティブな要素をすべて洗い流す幕引き。監督の力技が心地よい。相反する暴力と人情、静と動を使い分け、演出は繊細でダイナミック。寡黙だが情に厚い殺し屋、チャン・チェンの魅力も十二分に引き出している。台湾と日本で繰り広げられる斬新で心温まる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「Mr.Long ミスター・ロン」(2017年、日本・香港・台湾・ドイツ合作)

監督:SABU
出演:チャン・チェン(張震)、青柳翔、イレブン・ヤオ、バイ・ルンイン、有福正志

2017年12月16日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://mr-long.jp/

作品写真:(C)2017 LIVE MAX FILM / HIGH BROW CINEMA

タグ:レビュー
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2017年12月11日

「恋とボルバキア」体は男、心は女 切ない思いがほとばしる

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 体の性イコール心の性。それが当たり前と思って生きている人は多いだろう。しかし、世の中には、そうでない人も存在する。体の性と心の性が一致しない人たち。「恋とボルバキア」は、そんな人たちにカメラを向け、彼らの私生活や恋愛を追ったドキュメンタリーだ。男性として生まれながら、男という性になじめず、女装をしたり、男性に恋をしたり――。

 周囲の人間がみな理解してくれるわけではない。差別もある。好奇の目もある。想像もできない困難や障害。それらに耐えながら、彼らは自分たちなりに生きる道を模索している。そんな生々しい息づかいまで伝わってくる。

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 監督は「アヒルの子」(10)でデビューした小野さやか。7年ぶりの劇場公開作となるが、その間、テレビでドキュメンタリー番組を手がけるなどしながら、機をうかがってきた。満を持して完成させた作品だ。

 養父への思慕から女装に走った男性。妻子を養いながら女装イベントに参加し、抑圧してきた願望を解き放つ中年男性。さまざまな登場人物の中で、ひときわ輝いて見えるのが、“みひろ”だ。おしゃれしたさから女装を始め、男の姿では味わえなかった快感に酔った。多くの男性からアプローチされ、心がどんどん女になっていった。

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 やがてひとりの男性に恋をした。彼の前で、みひろは完全に女になりきる。男でいる時のみひろ。女装した時のみひろ。映画は2人のみひろを映し出す。男に戻れば声まで男になり、女装すれば声も、体つきも女に変身してしまう。変幻自在。でも、ベースはあくまで女。

 みひろには意中の男性がいる。彼を呼び出し、2人きりになる。期待に胸が高鳴る。しかし、思いがけない事実を知らされる。泣き濡れるみひろの顔。感情が噴き出し、素顔があらわになる瞬間。ドキュメンタリーの醍醐味である。

 トランスジェンダーは他人事(ひとごと)だと思っていた。だが、この映画を見終わって、彼らと自分を隔てる境界が少し薄れたように感じる。他者と共存するには、他者への想像力が不可欠。しかし、他者を知らないことには、想像力も働かない。「恋とボルバキア」は、彼らと私たちとの共存に必要な想像力を与えてくれる。

(文・沢宮亘理)

「恋とボルバキア」(2017年、日本)

監督:小野さやか

2017年12月9日(土)、ポレポレ東中野ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://koi-wol.com/

作品写真:(c)2017「恋とボルバキア」製作委員会
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2017年12月08日

第18回東京フィルメックス ジャック・ターナー特集「私はゾンビと歩いた!」「夕暮れのとき」

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 第18回東京フィルメックス(2017年11月18〜26日)「ジャック・ターナー特集」では、没後40周年を迎えたターナー監督の「私はゾンビと歩いた!」(43)と「夕暮れのとき」(56)が、ともに35ミリフィルムで上映された。

 「私はゾンビと歩いた!」は、「キャット・ピープル」(42)に続きターナー監督が再びヒットさせたホラー映画。南国ハイチの豪邸で住み込みの看護婦として働くことになったカナダ人のヒロインが、病に伏せる当主の夫人を治療する過程で経験する不気味な出来事を、美しいモノクロ映像の中に描いた作品だ。 精神を患った夫人の奇怪な行動、当主と弟との確執、当主の母親とブードゥー教との関わりなど、ミステリアスな要素が絡み合い、サスペンスを盛り上げていく。

 雪の降り積もるカナダと、太陽の降り注ぐハイチ。支配する白人と、隷属する黒人。寡黙で内向的な兄と、饒舌で社交的な弟。そして生と死。ストーリーは決して単純ではないものの、二項対立の構成にインパクトがあり、最後まで緊張が途切れない。タイトルの意味がついに不明である点など、解明されない謎も多いが、そこがまた魅力でもある。不思議な作品だ。

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 ホラー映画で有名なターナー監督だが、「過去を逃れて」(47)などフィルム・ノワールにもすぐれた作品がある。「夕暮れのとき」はその1本。レストランで美しい女と知り合った主人公が、怪しい2人組に連れ去られる。彼らは何者なのか。主人公はなぜ襲われたのか。物語が進行するにしたがって、主人公と2人組との因縁が明かされ、女の素性も分かってくる。

 冒頭シーンで主人公に話しかける男は、味方なのか敵なのか。主人公と女の運命はどうなるのか。予断を許さぬ展開、小気味よい演出、キレのあるアクション。ターナー円熟期を代表する傑作だ。

(文・沢宮亘理)

「私はゾンビと歩いた!」(1943年、米国)

監督:ジャック・ターナー
出演:フランシス・ディ、トム・コンウェイ、ジェームズ・エリソン、エディス・バレット

「夕暮れのとき」(1956年、米国)

監督:ジャック・ターナー
出演:アルド・レイ、ブライアン・キース、アン・バンクロフト、ジョスリン・ブランド、ジェームズ・グレゴリー

作品の詳細は公式サイトまで。

http://filmex.net/2017/

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2017年12月06日

「ビジランテ」地方の閉鎖社会と深い闇 父の暴力に支配される三兄弟 入江悠監督、地元を舞台に渾身の作品

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 幼い頃に失踪した長男・一郎(大森南朋)。市議会議員の次男・二郎(鈴木浩介)。デリヘル雇われ店長の三男・三郎(桐谷健太)。別々の道、世界を生きてきた三兄弟が、父親の死を機に再会。運命は交差し、欲望、野心、プライドがぶつかり合い、凄惨な方向へ向かう──。「SRサイタマノラッパー」の入江悠監督がオリジナル脚本で挑む渾身の新作。監督の地元・埼玉県深谷市で撮影された。

 兄弟の子供時代。暴力で息子たちを支配してきた父・武雄(菅田俊)を3人がナイフで切りつけ、逃げるように川を渡り、凶器のナイフを小箱に入れて埋める。追いついた父は力づくで自宅に連れ戻し、容赦なくせっかんする。耐えられなくなった一郎は弟2人を残し、行方不明となる。

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 それから30年。二郎は地元の有力者だった父の跡を継ぐように議員となり、街の自警団のリーダーも兼任していた。議会最大会派に所属し、妻・美希(篠田麻里子)の尻に敷かれつつ、出世コースを這い上がろうともがいていた。三郎は地元暴力団が経営するデリヘルの雇われ店長として、裏社会を渡り歩いていた。

 そんな矢先、父の武雄が亡くなった。地元市議会は、武雄の所有地にモールの建設を計画。了承すれば二郎の出世は約束される。あとは三郎が同意するだけだった。三郎は二郎を思い、父の遺産と相続を一任する。しかし二郎の計画は、30年ぶりに現れた一郎が持つ「遺産相続に関する公正証書」で狂い始める。

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 入江監督は「SRサイタマノラッパー」(09)、続編「SRサイタマノラッパー 女子ラッパー☆傷だらけのライム」(10)で、遊び半分だったラップが魂の叫びに変わる瞬間をエモーショナルに描いた。3作目「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」(12)でコミカルなタッチは影を潜め、暴力と焦燥感が作品を支配。方向性の変化が感じられた。続く「22年目の告白 私が殺人犯です」(17)がヒットし、今回初心に立ち返り、地元を舞台に勝負に出た。

 「ビジランテ」とは「法や正義が及ばない世界。大切なものを自ら守り抜く集団」を意味するという。父の暴力に支配され育った三兄弟。閉鎖的な地方都市を舞台に、痛く息苦しい暴力描写を交え、人生の悪循環を描き出す。外国人住民と地元自警団との摩擦と抗争。街を支配する市議会の黒い闇。三郎が生きる裏社会。地方の濃密な社会が映し出される。

 大森、鈴木、桐谷の熱演もさることながら、二郎を陰で操る妻役の篠田が一皮むけ、悪女をあやしく演じる。暴力で息子たちにトラウマを植え付けた父役の菅田は、インパクト絶大な凄みのある演技。鈍いボディブローを長時間打たれ続けたように、体に衝撃が残る渾身の一作だ。

(文・藤枝正稔)

「ビジランテ」(2017年、日本)

監督:入江悠
出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作

2017年12月9日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://vigilante-movie.com/

作品写真:(C)2017「ビジランテ」製作委員会

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2017年11月29日

「探偵はBARにいる3」人気シリーズ第3作 大泉×松田コンビ、緩急つけてテンポよく

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 なじみのクラブでバカ騒ぎをする探偵(大泉洋)。相棒の高田(松田龍平)の後輩・原田(前原滉)から「恋人の麗子(前田敦子)を探してほしい」と依頼が舞い込む。軽い気持ちで引き受けた探偵は、麗子がモデル事務所を装った風俗店でバイトしていたと知る。探偵はオーナーを名乗る美女、峠マリ(北川景子)と偶然すれ違い、かすかに既視感を覚える──。

 「探偵はBARにいる3」は、札幌在住の推理小説家・東直己の「ススキノ探偵」シリーズが原作。2011年から映画化されてシリーズになった。大泉と松田のコンビで人気を博し、今回は初のオリジナル・ストーリー。監督は前2作の橋本一から吉田照幸にバトンタッチした。

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 行方不明になった麗子は、謎の殺人事件を目撃していた。探偵のもとに持ち込まれた麗子探しは、探偵と高田を窮地に陥れる入り口だった。モデル事務所のバックには極悪非道な北城仁也(リリー・フランキー)率いる北城グループ、北城の愛人の峠がいた。街の探偵には手に負えない強大な悪が敵に回る。

 シリーズ3作目の今回は、おなじみの舞台である札幌の歓楽街・ススキノを舞台に、ささいな依頼が大事件に発展する。探偵のモノローグを多用するハードボイルドの王道を受け継ぎ、脚本と演出に小技を利かせる。大泉と松田のかけあい、間合いが絶妙だ。ガチガチの推理ものと違い、コミカルな要素をふんだんに取り入れる。松田の父、優作が演じたドラマ「探偵物語」に通じる作風だ。

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 監督が代わってアクションが大々的に押し出された。これまでは危機一髪の探偵を、遅れて高田が助けに入り、無敵ぶりを痛快に披露してきた。今回は空手の師範代で鳴らす高田も太刀打ちできない強敵。アクションの見せ方も工夫され、前2作にない緩急ある動きが特徴だ。

 今回は探偵の過去がキーになる。探偵と峠をつなぐ線が、峠の切ない過去を浮かび上がらせる。クライマックスはエキストラ約2000人を動員。松重豊、田口トモロヲ、マギー、安藤玉恵ら常連キャストの息の合ったアンサンブル。初参加の北川景子の憂い。リリー・フランキーのサディスティックな演技。前2作を上回り、歯切れ良く仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「探偵はBARにいる3」(2017年、日本)

監督:吉田照幸
出演:大泉洋、松田龍平、北川景子、前田敦子、鈴木砂羽

2017年12月1日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.tantei-bar.com/

作品写真:(C)2017「探偵はBARにいる3」製作委員会
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 10:33 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする