2019年09月21日

「見えない目撃者」猟奇的殺人と盲目のヒロイン 満足度高いサスペンス

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 警察官として将来を嘱望されながら、自らの過失による事故で視力と弟を失い、失意の底にあった浜中なつめ(吉岡里帆)。ある夜に遭遇した車の接触事故で、立ち去る車内から助けを求める少女の声を耳にするが、警察はなつめの訴えを聞き入れない。視覚以外の並外れた感覚、警察学校で培った判断力、持ち前の洞察力から、誘拐事件と確信するなつめは、現場にいたもう一人の目撃者・国崎春馬(高杉真宙)を探し出す──。

 韓国映画「ブラインド」(11)のリメイク作品だ。中国でも「見えない目撃者」(15)としてリメイクされた。今回の日本版は「重力ピエロ」(09)の森淳一が監督と共同脚本を手がけた。

 猟奇的殺人事件を題材とした「羊たちの沈黙」(91)、「セブン」(95)のヒットで、ハリウッドでは似たような作品が多く作られた。ブームは日本にも来て「CURE」(97)など秀作が作られてきた。それらに引けを取らないのが「見えない目撃者」だ。

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 吉岡は主演2作目で、盲目の難役。冒頭で事故に遭う前の姿があるものの、その後はほぼ視力を失った状態で、笑顔さえ見せない。メイクも感じさせず、女優らしさを封印した。視力を失った主人公は、サスペンス映画では古くから登場してきた。オードリー・ヘップバーン主演の「暗くなるまで待って」(67)が有名だ。

 「猟奇的殺人事件」と「盲目のヒロイン」。やや手あかのついた設定だが、警察の手を借りながら連続少女誘拐の真相を探る過程はスリリング。丁寧な演出が説得力を生み出し、自然に物語に引き込まれる。一方、小出しに明かされる犯人のえげつない手口、儀式殺人へと発展する陰惨なエピソードが、不気味さと言いようのない重みを与えている。

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 ハンデを抱えたなつめは、警官時代に培った判断力と、視覚以外の感覚を覚醒させる。触覚や聴覚から脳に浮かんだイメージを、シンプルな鉛筆画のように視覚化したシーンが効果的だ。さらに、なつめの手、足、目となり協力する春馬の存在が頼もしい。物語が進むうちに二人が疑似姉弟のように発展する構成もうまい。

 ようやく「セブン」に、日本映画が追いついたと思わせる。最近の日本映画の中では満足度が高いサスペンスの力作だ。

(文・藤枝正稔)

「見えない目撃者」(2019年、日本)

監督:森淳一
出演:吉岡里帆、高杉真宙、大倉孝二、浅香航大、酒向芳

2019年9月20日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.mienaimokugekisha.jp/

作品写真:(C)2019「見えない目撃者」フィルムパートナーズ (C)MoonWatcher and N.E.W.
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2019年09月18日

「アナベル 死霊博物館」恐怖の人形巡るシリーズ第3弾 原点に返りシンプルに

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 超常現象研究家のウォーレン夫妻の家に、強烈な呪いを持つ人形「アナベル」が運び込まれ、地下の博物館に他の呪われた品々と一緒に厳重に封印された。夫妻が仕事で家を空けた日。娘のジュディ(マッケナ・グレイナ)は年上の少女メアリー(マディソン・アイズマン)、ダニエラ(ケイティ・サリフ)と3で一夜にを過ごす。しかし、ダニエラが博物館に勝手に入り込み、アナベルの封印を解いてしまう──。

 「アナベル 死霊博物館」は、「死霊館」(13)に登場した人形アナベルを主人公としたシリーズ第3弾だ。パトリック・ウィルソンとベラ・ファーミガが、ウォーレン夫妻として再登場する。原案、製作は「死霊館」シリーズを生んだジェームズ・ワン、監督、脚本は「アナベル」シリーズ、「IT イット “それ”が見えたら、終わり」(17)のゲイリー・ドーベルマン。今回が長編デビューとなる。

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 「死霊館」シリーズから派生した「アナベル」シリーズ第3弾だが、前2作が「死霊館」の前日譚だったのに対し、今回は後日談を描いている。つまり「死霊館」の後なので、物語をある程度自由に創作できる。人形の恐怖に焦点を絞り、ジュディら少女たち、さらに男友達の話を中心とした。夫妻の家で一夜を過ごし、彼らはさまざまな恐怖を味わう。観客を怖がらせることに特化し、ホラーの原点に立ち返った構成と演出が潔い。

 ドーベルマン監督の演出は、緩急をつけつつ、非常にシンプルだ。アナベルを預かったことで発生する墓地での超常現象。ジュディが学校で見てしまう神父の亡霊。ダニエラが過去に犯した父を巡る過ち。アナベル以外のエピソードをうまくふくらませ、伏線を張りめぐらせる。クライマックスでは恐怖をたたみかけながら、伏線をうまく回収していく。

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 シリーズ前2作は「死霊館」につながるよう整合性が求められたが、今回は人形と博物館の品々が巻き起こす恐怖に特化した。「お化け屋敷」的な恐ろしさを押し出し成功している。対象年齢を引き下げたようにシンプルで、計算されたショック演出。シリーズを知らない観客も十分楽しめるだろう。

(文・藤枝正稔)

「アナベル 死霊博物館」(2019年、米)

監督:ゲイリー・ドーベルマン
出演:マッケンナ・グレイス、マディソン・アイスマン、ケイティ・サリフ、パトリック・ウィルソン、ベラ・ファーミガ

2019年9月20日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://wwws.warnerbros.co.jp/annabelle-museumjp/

作品写真:(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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2019年09月17日

「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎の連作小説を映画化 人が枠を越えつながる構成の妙

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 仙台駅前。大型ビジョンにボクシングの世界戦が映され、人々が湧いている。街頭アンケートに立つ会社員・佐藤(三浦春馬)の耳に、ギターの弾き語りが聞こえてきた。歌に聞き入る紗季(多部未華子)と目が合い、思わず声をかけると、快くアンケートに応えてくれた。二人の小さな出会いはその後、10年かけて奇跡を呼ぶ──。

 シンガーソングライターの斉藤和義が、作家の伊坂幸太郎に作詞を依頼して生まれた6篇からなる恋愛小説集「アイネクライネナハトムジーク」の映画化。斉藤は伊坂の同名小説が原作の映画「フィッシュストーリー」(09)、「ゴールデンスランバー」(09)に続いて主題歌と音楽を担当。脚本は「アヒルと鴨とコインロッカー」(06)など3本の伊坂作品を脚本化してきた鈴木謙一。監督は「愛がなんだ」(19)の今泉力哉。題名はドイツ語で「小さな夜の音楽」を意味する。

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 ごく普通の人々による10年の恋愛群像劇だ。過去からスタートした物語は、いつのまにか10年後になる。佐藤と紗季の話に並行して、佐藤の親友・織田(矢本悠馬)の子供たちが登場。成長して高校生となり、同級生たちとのエピソードが展開する。ひねりの効いた構成で、人と人のつながりが描かれる。背景にいたボクサーが登場人物に連なり、冒頭の弾き語りの主は、時を超えて同じ場所で歌い続ける。歌い手は傍観者でありながら、人をつなげる役割を担っている。

 6本の連作恋愛小説を、1本の映画の中で合わせ、結びつけた脚本がうまい。それぞれのエピソードに出てくる人物が、別のエピソードの人物とつながり、大きな一つの人脈となり、全体像が見えてくる。一つの話でまいた種が、別の話で実を結ぶ。細かい仕掛けが効果的だ。たとえばいじめられた少年とボクサーが公演で出会う。少年は成長して試合会場に現れ、苦戦するボクサーに、二人だけに分かるサインでエールを送る。感動を呼ぶシーンである。

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 ひとひねりした構成で、つながりから生まれる軌跡を、絶妙なバランスで描いた。今泉監督は男女のさりげない日常描写に長けている。カップル役は3度目となる三浦、多部の息も合い、取り巻く俳優たちのアンサンブルも心地よい。「伊坂映画」の中でも温かく、最もリラックスして楽しめる作品となった。

(文・藤枝正稔)

「アイネクライネナハトムジーク」(2019年、日本)

監督:今泉力哉
出演:三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳

2019年9月20日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/EinekleineNachtmusik/

作品写真:(c)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会


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2019年09月08日

「荒野の誓い」開拓時代の終わりと変わる西部 騎兵隊大尉の心情に重ね クリスチャン・ベール好演

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 1892年、米西部。騎兵隊大尉ジョー(クリスチャン・ベール)はかつての宿敵でシャイアン族の長、イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)とその家族を、居留地へ送り返すよう命じられる。ニューメキシコからコロラド、モンタナへ。途中、コマンチ族に家族を殺されたロザリー(ロザムンド・パイク)も加わり、一行は北を目指す。ジョーとロザリーは危険に満ちた旅を通じ、互いに協力せずには生きてはいけないとを知る──。

 監督、脚本、製作は「クレイジー・ハート」(09)で長編デビューしたスコット・クーパー。ベールとは「ファーナス 訣別の朝」(13)に続くタッグで、4本目の長編だ。

 西部開拓時代が終わり、産業革命で新時代が始まった米国が舞台の西部劇。荒野で平和に暮らしていたクウェイド家を、コマンチ族が襲う。夫と子ども3人は殺され、ロザリーだけがかろうじて生き延びた。一方、騎兵隊はインディアンの家族を捕らえ、刑務所に強制連行していた。白人から見たインディアン、インディアンから見た騎兵隊の蛮行が、対比するように描かれる。

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 騎兵隊のジョーはかつて、インディアンとの戦争で英雄になった。たび重なる戦いで仲間を失い、インディアンを嫌っている。しかし、上官から命じられたのは、皮肉にもがんに冒されたインディアンの長、イエロー・ホーク一家の護送だった。

 インディアンとの融和をアピールし、出世を目論む上官は、インディアンの言葉が話せるジョーに白羽の矢を立てたのだ。ジョーは任務を拒むが、上官は軍法会議をたてに受け入れない。ジョーは仕方なく引き受け、小隊を組織して馬に乗り、モンタナへ向かう。道中、焼け跡で放心状態だったメアリーを見かけ、安全な場所に連れて行くため同行させる。

 かつての敵を護送するジョーの心境の変化が物語の鍵になる。職業軍人として任務に取り組むが、コマンチ族や野盗に襲われ、騎兵隊5人だけでは手に負えない。護送するインディアンの手を借りずにいられなくなり、かつての敵であるイエロー・ホークの意志を尊重し、理解しようとする。さらに、家族を失い自暴自棄のロザリーと心を通わせるうち、ジョーの中に自尊心が芽生え始める。

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 開拓時代が終わり、時代も移る転換期に、騎兵隊の心情も変わっていく。ジョーを演じるベールがいい。職業軍人として感情を殺し、ストイックに任務をこなす男が、行動をともにすることで、嫌っていたインディアンを認め、考えを変えていく。非常に複雑な感情のせめぎあいを、ベールが繊細かつ力強く演じている。ロザリーを演じるパイクも、傷心で破壊行動を見せる女性が、次第に人間らしく変わる難役を好演した。

 敵対する民族同士の理解は、現代に通じる普遍的なテーマだ。米国の負の歴史を、監督は骨太のメッセージとして観客に投げかけている。

(文・藤枝正稔)

「荒野の誓い」(2017年、米)

監督:スコット・クーパー
出演:クリスチャン・ベール、ロザムンド・パイク、ウェス・ステューディ、アダム・ビーチ、ベン・フォスター、クオリアンカ・キルヒャー

2019年9月6日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kouyanochikai.com/

作品写真:(C)2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved.
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2019年09月03日

「引っ越し大名!」星野源、6年ぶりの主演映画「ものすごく、ものすごくうれしい!」

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 星野源6年ぶりの主演映画「引っ越し大名!」がこのほど公開され、東京・丸の内で高橋一生、高畑充希、及川光博、浜田岳、犬童一心監督と舞台あいさつした。

 土橋章宏の時代小説「引っ越し大名三千里」を「のぼうの城」の犬童監督が映画化。江戸時代、書庫にこもってばかりの引きこもり侍・片桐春之介(星野)が、国替え(引っ越し)の総責任者「引っ越し奉行」に任命され、国の存亡をかけて難題に挑む姿を描く。

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 観客の歓声を受けて客席から登場した星野、高橋、高畑、及川、浜田。まず主演の星野が「ものすごく、ものすごくうれしい。久しぶりの主演作で、いろいろ(宣伝に)稼働させてもらって、初日を迎えられた。撮影が終わってから公開まで1年半くらいあいたので、すごく長く待って、待って、待って来た初日。皆さん本当にありがとうございます」と何度も喜びと感謝を口にした。

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 春之介の幼なじみで武芸の達人・鷹村源右衛門を演じた高橋は、激しいアクションにも挑戦した。「過酷でしたが、とても楽しい映画になっているので、作品を見ると救われる。キャストの仲が良くて、炎天下でも楽しく過ごせた」と振り返った。

 乗馬に挑戦した於蘭役・高畑は「馬のテンションがあがるとスピードも速くなる。怖くて顔が固まってしまったのが、いい具合に意志強く走る感じになり、安心しました」と話した。

 藩主・松平直矩を演じた及川は「王子から殿に転職しました」と会場の笑いを誘う。「台本を見た時に面白い役だと思った。気を付けたのは、殿の風格と男色家としての素顔のギャップ」と語った。

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 キャスティングについて犬童監督は「撮影中に印象に残っているのが(星野、高橋、浜田の)3人がいつも楽しそうに話していたこと。男同士何を話しているんだろうと思うくらい。とにかくいつも楽しそうに、3人でずーっとしゃべっている」と説明。配役は「適材適所。僕が子供の頃に見た時代劇の楽しさを再現できた」と自信をのぞかせた。監督が気になるほど仲の良い星野、高橋、浜田の3人は終始息の合ったトークを繰り広げ、会場は笑いの渦に包まれた。

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 最後に星野が「脚本を読んでぜひ出たいと思った日から、すごく長い時間がたって、やっとこの日を迎えられた。現場で楽しく話した思い出、苦労を共にした思い出が、映像の中で素晴らしい作品として昇華している。沢山の人に何度でも観てもらいたい。子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで、どんな人でも楽しめる。現代の日本で観て楽しい活劇となっているので、ぜひ何度でも観に来てください」と締めくくった。

 さらに今日の会場の様子を自ら持ち込んだカメラで撮影するなど、何度も感謝と喜びを口にした星野。作品にかける思いが伝わる初日となった。

(文・写真 岩渕弘美)

「引っ越し大名!」(2019年、日本)

監督:犬童一心
出演:星野源、高橋一生、高畑充希、及川光博、浜田岳

2019年8月30日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hikkoshi-movie.jp/

作品写真:(c)2019「引っ越し大名!」製作委員会

posted by 映画の森 at 14:58 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする