2016年09月21日

「ある天文学者の恋文」オルガ・キュリレンコに聞く トルナトーレ監督最新作「真実の愛は永遠と信じている」

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 名作「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督最新作「ある天文学者の恋文」(2016年9月22日公開)。初老の天文学者と若き教え子の恋愛と死別、その後に起きる謎をミステリータッチで描く。前作「鑑定士と顔のない依頼人」に続き、いくつもの鍵を散りばめて観客を迷宮にいざない、時を超えた愛について問いかける人間ドラマだ。主演のオルガ・キュリレンコが書面インタビューに答え「真実の愛は永遠と信じている」と語った。

 著名な天文学者のエド(ジェレミー・アイアンズ)は、美しく聡明な教え子のエイミー(オルガ・キュリレンコ)との恋愛を満喫していた。ある時、授業中のエイミーの手元に、出張中のエドから「もうすぐ会える」とメールが届く。それと同時に、目の前の教壇に立つ教授が学生たちに「エドは数日前に亡くなった」と告げる。

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 突然の出来事に取り乱すエイミー。時を開けずエドからのメールや手紙、贈り物が次々と届く。エドが生前に手配していたのか。疑問を抱いたエイミーは、エドが暮らしていた英エジンバラへ向かう──。

 エイミー役のキュリレンコは、相手役のアイアンズが目の前にいない状態で演技を続ける。相手役不在の一人芝居に近い。さらに天体物理学の学生役だ。「難しかったけれど、面白かった」と振り返った。

 「恋愛が中心の作品ですが、同時に天体物理学にも焦点をあてなければならず、たくさん準備をしました。天体物理学の学生で、私のまったく知らないことを話す役。インターネットで論文、本の引用など多くの資料を読み、自分が話すことを理解しようとしました」

 トルナトーレ監督作品への出演は初めて。監督を「とても直感の強い人」とみる。

 「すべての監督には違いがあります。トルナトーレ監督についてとても興味深かったのは、脚本やセリフにとても忠実なことでした。脚本に描かれているすべての言葉がとても重要。その方向性に従うのが大事でした。監督はとても直感が強く、同時に人間の心理を完ぺきに理解していました」

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 愛する人からメッセージが届き続けるのに、本人は目の前にいない。失われたものへの愛情は成立するのか。薄れゆく記憶とどう向き合えばいいか。キュリレンコは「監督は二つとない物語を考え出した」と言う。

 「独特で、そして最も重要なことですがよく練られています。脚本を読んでとても驚きました。話の前提は気が利いていて観る人を引き付ける。主題は興味深い。死の数百万年後、私たちに見える星の一生が対応している点が、とても気に入りました。私は真実の愛は永遠だと強く信じています」

(文・遠海安)

「ある天文学者の恋文」(2016年、イタリア)

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェレミー・アイアンズ、オルガ・キュリレンコ、シャウナ・マクドナルド、パオロ・カラブレージ、アンナ・サバ

2016年9月22日(木・祝)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/tenmongakusha/

作品写真:(C)COPYRIGHT 2015 - PACO CINEMATOGRAFICA S.r.L.

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2016年09月19日

「歌声にのった少年」ガザの希望、姉への思い胸に 実在歌手の半生

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 パレスチナのガザ地区。1948年のイスラエル建国以来、数多の紛争を経験してきた町は、2007年に封鎖され、人々の自由はさらに制限された。そんなガザを歌声で勇気づけた青年歌手の半生を、米アカデミー賞外国語映画賞候補作「パラダイス・ナウ」(05)、「オマールの壁」(13)のハニ・アブ・アサド監督が映画化した。

 05年、ガザ。少年ムハンマド・アッサーフ(カイス・アタッラー)は姉のヌール(ヒバ・アタッラー)と友人の4人でバンドを組んでいる。楽しく歌えれば満足のムハンマド。一方、ヌールはカイロのオペラハウスで歌うことを夢見て、魚売りや結婚式での演奏で資金を集めていた。ところが、中古の楽器を手にして夢に一歩近づいた矢先、ヌールは腎不全で倒れてしまう。ムハンマドは手術費を工面しようと奔走するも、ヌールは力尽きた。残されたムハンマドの胸には、姉の言葉と夢が秘められていた。

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 12年、イスラエルの封鎖によってガザは激変していた。成長したムハンマド(タウフィーク・バルホーム)は亡き姉の夢をかなえるため、スカイプを通じてオーディションを受けるも失敗。友人の言葉に背中を押され、検問所を突破してカイロを目指す――。

 作品のモデルとなったのは、13年に人気オーディション番組「アラブ・アイドル」で優勝したムハンマド・アッサーフ。二人の俳優が二つの時代を映すように演じる。少年期の05年と青年期の12年で、ガザはまったく別の町のように変わっている。封鎖を受けてがれきの山が目立ち、ガザで夢を追うことの難しさを見せつけられる。

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 しかし、ガザの表情は一つではない。メディアで目にする町とは異なる映像に出合える。過酷な環境にも負けず、生活する人々の姿がある。白熱するストリート・サッカー。にぎやかな結婚式。テレビを囲む家族。

 オーディション番組に登場するムハンマドのプレッシャーははかり知れない。寄せられた「ガザの希望」という期待は重い。亡き姉との約束を抱き、重圧に耐えながら響かせる力強い歌声に胸を打たれる。

(文・魚躬圭裕)

「歌声にのった少年」(2015年、パレスチナ)

監督:ハニ・アブ・アサド
出演:タウフィーク・バルホーム、カイス・アタッラー、ヒバ・アタッラー、ディーマ・アワウダ、アハマド・ロッホ

2016年9月24日(土)、新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://utagoe-shonen.com/

作品写真:(C)2015 Idol Film Production Ltd/MBC FZ LLC /KeyFilm/September Film

タグ:レビュー
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2016年09月17日

「オーバー・フェンス」ひかれ合う不器用で孤独な男女 佐藤泰志原作“函館3部作”

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 熊切和嘉監督「海炭市叙景」(10)、呉美保監督「そこのみにて光輝く」(14)に続き、新進気鋭の監督が作家・佐藤泰志の小説を映画化する函館3部作。最終章の「オーバー・フェンス」は、「マイ・バックページ」(11)の山下敦弘がメガホンを取った。

 家庭を省みない白岩(オダギリジョー)は妻に離婚され、故郷の函館で職場訓練校に通っている。訓練校では年も性格も違う男たちが大工を目指している。皆と深くかかわらず、微妙な距離を保つ白岩。帰路に弁当とビールを買っていると、路上で男ともめている女(蒼井優)に気付く。女は男に向かい、鳥の求愛ダンスをまねて踊っていた。白岩は一瞬女と目が合うが、気まずさにその場を自転車で去る。

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 白岩はある日、訓練校の仲間・代島(松田翔太)に誘われ、キャバクラへ飲みに行く。店内にひときわ目立つホステスがいた。求愛ダンスをしていた女、聡(さとし)だった。代島は聡を「すぐやれる女」と言い、自分も関係を持ったことを匂わせる。白岩は聡に自分とどこか通じるものを感じていた──。

 不器用で孤独な男女を描いた「オーバー・フェンス」。社会の片隅でもがく若者を描いた「そこのみにて光輝く」に方向性は似ている。白岩は元妻から絶縁状を突き付けられ、子供にも会えない。聡は男に利用されて自己嫌悪しながら、喜怒哀楽をはっきり表に出す。対照的な二人はひかれ合うが、あることがきっかけで聡の感情が爆発する。

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 山下監督は社会からドロップアウトした若者を描くことに長けている。「苦役列車」(12)、「もらとりあむタマ子」(13)と、世の中に適応できない男女に時に厳しく、時に優しい視線を送ってきた。

 離婚して心を閉ざす白岩に、聡は正面からぶつかり、懐に飛び込もうとする。支離滅裂な聡の行動に、白岩の心は徐々に解けていく。どこか刑務所を思わせるように、閉鎖的で刹那的な訓練校。男たちがグラウンドでソフトボールをしている。白球は弧を描き、青空へ。壁を越えて次のステップを踏める予感。白岩と聡の「その後」を感じさせ、心地良い余韻を残す作品となった。

(文・藤枝正稔)

「オーバー・フェンス」(2016年、日本)

監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介

2016年9月17日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://overfence-movie.jp/

作品写真:(C)2016「オーバー・フェンス」製作委員会

タグ:レビュー
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2016年09月15日

「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」公開記念シンポ「女性の生き方、模範示した」

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 往年の名女優イングリッド・バーグマン生誕100年を祝し、2015年にカンヌ国際映画祭でプレミア上映された「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」。日本公開記念シンポジウム「女優イングリッド・バーグマンの生涯からみる男女役割の変化」がこのほど東京都内で開かれた。基調講演を行ったジャーナリストのウルリカ・クヌートソン氏は「バーグマンはフェミニストの象徴的存在だった」と語った。

 米アカデミー賞主演女優賞を3度も受賞した名女優であるとともに、“恋多き女”として奔放な人生を送ったバーグマン。「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」は波乱万丈の生涯を、バーグマン自身が撮影したホームムービーや日記、手紙、家族や関係者へのインタビューなどを通して浮き彫りにしたドキュメンタリー映画だ。

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 クヌートソン氏は、同作の内容を踏まえた上で、女優として、また女性としてバーグマンが歩んだ道を振り返り、彼女が映画界や社会に与えた影響について話した。

 母国スウェーデンで女優デビューしたバーグマン。「女の顔」(38)では顔にやけどを負った女性、ハリウッドに招かれて撮った「ジキル博士とハイド氏」(41)では酒場の女と、イメージにそぐわない役に敢えて挑戦し、役柄の幅を広げていった。「誰が為に鐘は鳴る」(43)では、自慢の長い髪を切り、戦うヒロインを熱演。「この作品を認めなかった原作者のヘミングウェイも、バーグマンの演技には絶賛を惜しみませんでした」

 その後、「白い恐怖」(45)や「汚名」(46)などのヒッチコック作品で全盛を極めるが、イタリア映画「ストロンボリ 神の土地」(49)への出演をきっかけに、監督のロベルト・ロッセリーニと恋に落ち、妊娠。歯科医の夫と離婚し、ロッセリーニと再婚したバーグマンは、非難轟々の末にハリウッドから追放される。

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 しかし、1956年にハリウッドに復帰するや、「追想」(56)で2度目のオスカーを獲得。たちまちトップスターに返り咲く。その後も順調にキャリアを重ね、晩年は母国の巨匠イングマル・ベルイマン監督の「秋のソナタ」(78)で大女優の貫禄と輝きを見せた。

 「教師、看護師、ピアニスト、アーティスト、宣教師……。50年以上にわたるキャリアを通して、バーグマンは多様なキャラクターを演じ、女性の生き方の模範を示しました。さまざまな意味でフェミニストの象徴的存在でした」

 男性の人生に付き従うのではなく、自らの意思で人生を切り開く――。スクリーンの中でも、実人生においても、バーグマンは女性の模範であり、憧れであり続けた。

 そんなバーグマンの魅力を余すところなくとらえたドキュメンタリー「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」。女性の自立と活躍が強く求められる今こそ見ておきたい、先駆的女性の貴重な記録だ。

(文・沢宮亘理)

「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」(2015年、スウェーデン)

監督:スティーグ・ビョークマン
出演:イザベラ・ロッセリーニ、イングリッド・ロッセリーニ、ロベルト・ロッセリーニ、ピア・リンドストローム、リヴ・ウルマン、シガニー・ウィーバー

渋谷Bunkamuraル・シネマほかで公開中。作品の詳細は公式サイトまで。

http://ingridbergman.jp/


作品写真:(c)Mantaray Film AB. All rights reserved. Photo: The Harry Ransom Center, Austin
タグ:イベント
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2016年09月08日

「だれかの木琴」ストーカーと化す平凡な主婦 常盤貴子、屈折心理を自然体で

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 平凡な主婦の小夜子(常盤貴子)は、警備機器会社勤務の夫・光太郎(勝村政信)と、中学3年生の娘・かんなの3人家族だ。念願の一軒家に引っ越しを済ませ、近所の美容院で若い美容師の山田海斗(池松壮亮)に髪を切ってもらう。その後届いたお礼のメールに返信した時、小夜子の中で何かがざわめく──。

 井上荒野の原作小説を「サード」(78)、「もう頬づえはつかない」(79)、「絵の中のぼくの村」(96)の東陽一が監督、脚本、編集した。

 海斗が送ったのは形式的な営業メールだったが、小夜子は丁寧に返信した。ささいなやり取りのはずが、海斗がさらに愛用のハサミの写真を送信。その瞬間、小夜子の心のすき間に海斗が入り込んだ。届いたばかりのベッドの写真を送る小夜子。困惑する海斗に、恋人の唯(佐津川愛美)は「誘っているんだよ」と眉をひそめる。

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 返信しないまま2週間が過ぎた。小夜子は再び美容院を訪れ、海斗を指名してカットを頼む。なにげない世間話の中から小夜子は海斗のアパートの場所を探り出し、留守中に訪ね、玄関にイチゴとメッセージを書いたメモを残す。自分の口の軽さを後悔する海斗。心にはモヤモヤが広がり始めた。

 1通のメールから始まる「だれかの木琴」。海斗に執着する小夜子を作ったのは、夫の光太郎だろう。自分のペースで妻を抱き、自社の保安システムで守られた家に妻を放置し、無関心を貫く。逆に会社では若い社員に色目を使い、町で知り合った女を抱き、妻の異変に気付かない。小夜子の行動がエスカレートし、唯が自宅に怒鳴り込んで初めて妻に目を向ける始末だ。家を外から守ることだけに熱心な夫は、中で崩壊する妻に気付かない。皮肉な話だ。

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 東監督は1982年、「ザ・レイプ」で性的暴行の被害者を正面から描いた。今回はストーカーと化す女性が主人公だ。時代の空気を敏感にすくい取る視点は健在だ。かつてトレンディー・ドラマで一世を風靡した常盤が、自覚のないままストーカーに変わる主婦を自然に演じている。池松も翻弄される若者を等身大で好演。孤独のあまり屈折する女性の心理を、監督は巧みに描いている。

(文・藤枝正稔)

「だれかの木琴」(2016年、日本)

監督:東陽一
出演:常盤貴子、池松壮亮、佐津川愛美、勝村政信、山田真歩

2016年9月10日(土)、有楽町スバル座、シネマート新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://darekanomokkin.com/

作品写真:(C)2016「だれかの木琴」製作委員会

タグ:レビュー
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