2018年05月24日

「ガチ星」転落した四十男の再起、競輪テーマに熱く 江口カン監督初の劇場作品

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 テレビ西日本で2016年に放送された競輪ドラマ「ガチ★星」(全4話)を、映画用に追加・再編集した作品。江口カン監督にとって初めての劇場映画で、主演に安部賢一、共演に「デメキン」(17)の福山翔大、「キッズ・リターン」(96)のモロ師岡、芸人の博多華丸ら。

 福岡、小倉を舞台に戦力外通告、不倫、ギャンブル、借金と崖っぷちの四十男・濱島浩司の再起を描く。元プロ野球選手の濱島は戦力外通告を受けて辞め、転落の人生をたどっていた。町を歩けばいやみを言われ、カッとなって手を出して警察のお世話に。妻にも愛想をつかされ、実家に逃げ帰り、友人の妻に手を出し、友人と絶縁。パチンコに酒とどん底の濱島だったが、「40歳でも入学できる」と聞いて競輪学校に入る。

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 しかし、学校で濱島は浮いていた。息子ほど年の離れた生徒にオッサンとからかわれ、年下の教官にしごかれ、心身ともにぼろぼろになり、地べたに這いつくばって嘔吐する。痛々しく無様な姿は、ドキュメンタリーを見ているようだ。濱島は一度競輪の道を挫折するが、黙々と鍛える同郷の同級生・久松(福山翔大)を見て、再び戻ることを決意する。

 中盤までは転落男のかっこ悪い生き様。後半はスポーツ映画の片鱗が見えてくる。JKA(日本競輪選手会福岡支部)が協力したシーンはリアルで、濱島のデビュー後のレース場面は、現役選手も参加して撮影したという。闘争心むき出しの選手たちが自転車の上で頭突き、流血する様子は鬼気迫る。

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 重々しい展開から一転、クライマックスはシルベスター・スタローン主演の「ロッキー」(76)ばりに、スポーツ映画の高揚感に包まれる。濱島の挑戦のほか、久松と母の介護、同僚選手たちの人生も盛り込み、ドラマに深みを与えている。

 濱島にはオーディションで役をつかんだ映画初主演の安部賢一。体重を10キロ増やし、自堕落な姿から再起する様子を体当たりで見せた。天才肌の久松を演じた福山は、ストイックで一途な演技。濱島と対照的なキャラクターで影の功労者となった。ドラマ4本の再編集とは微塵も感じさせず、四十男の再起を一気に見せる演出だ。

(文・藤枝正稔) 

「ガチ星」(2018年、日本)

監督:江口カン
出演:安部賢一、福山翔、林田麻里、船崎良、森崎健吾

2018年5月26日(土)、新宿K's cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gachiboshi.jp/

作品写真:(C)2017 空気/PYLON

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2018年05月23日

「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」山田洋次監督、得意の人情喜劇 シリーズ最新作

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 「男はつらいよ」の山田洋次監督新作は、喜劇シリーズ「家族はつらいよ」の第3弾。1作目は「熟年離婚」、2作目は「無縁社会」、今回は「主婦賛歌」がテーマだ。ひとり家事を担う専業主婦の苦労と偉大さを描く。

 「東京家族」(13)から始まった山田監督の家族もの。シリーズ通じてキャストが共通の喜劇だ。当初感じた平田家のぎくしゃくした感じは消え、前2作の中心だった父・周造(橋爪功)は脇に回り、長男の妻・史枝(夏川結衣)に光を当てる。

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 3世代家族で長男の嫁として家事をこなしてきた史枝は、夫・幸之助(西村まさ彦)の給料から少しずつへそくりを貯めていた。ところがある日、居眠りのすきに泥棒に40万円盗まれる。高額ぶりに幸之助は怒り、史枝は嫌味に耐え兼ね家を飛び出した。平田家の日常生活は機能不全に陥り、家族はそれぞれ試練を味わう。

 松竹映画で家族の物語を描き続けて半世紀。山田監督の「家族」を演じるのは、家長夫婦(橋爪功、吉行和子)、長男一家、結婚して別に暮らす長女夫婦(中嶋朋子、林家正蔵)と次男夫婦(妻夫木聡、蒼井優)だ。家族という面倒な関係を、恒例の家族会議を交えて面白おかしく描き、昭和の香りがする作品に仕上げている。

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 平成の時代になって「泥棒」が家に入り込む作品は減り、アニメの「サザエさん」ぐらいになってしまった。あえて「振り込め詐欺」など現代の犯罪を使わないところも監督らしい。しかし、泥棒がつかまって一件落着にしないところに脚本の技を感じる。

 「東京家族」以降同じキャストで4作目。息の合ったアンサンブルも楽しく、作品ごとに違う役で登場する小林稔侍、笹野高史、笑福亭鶴瓶も期待を裏切らずうまい。ジブリ作品とは一味異なり、しゃれた劇伴に徹した久石譲の音楽。タイトルデザインとポスターを手掛けた横尾忠則。豪華な隠し味にも注目の松竹伝統の人情喜劇だ。

(文・藤枝正稔)

「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」(2018年、日本)

監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣、中嶋朋子

2018年5月25日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kazoku-tsuraiyo.jp/

作品写真:(C)2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」製作委員会

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2018年05月08日

「ミッドナイト・サン タイヨウのうた」シュワルツェネッガーの息子パトリック主演 日本ヒット作のリメイク

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 17歳のケイティ(ベラ・ソーン)は、日光にあたることができない“XP(色素性乾皮症)”。幼い頃から昼は家から出られず、父親と時間が経つのを待つだけだった。唯一の楽しみは、毎夜ギターを片手に駅前まで行き、通行人相手に歌うこと。ある夜、ケイティは同世代の青年チャーリー(パトリック・シュワルツェネッガー)と出会う──。

 サブタイトルが示す通り、日本映画「タイヨウのうた」(06)のハリウッド・リメイク版だ。06年に沢尻エリカ主演のテレビドラマ版や、10年に韓国で上演されたミュージカル版が親しまれ、15年にベトナムでテレビドラマ化もされた。今回のハリウッド版はドラマ「シェキラ!」(10〜13)で人気を得た歌手で女優のベラ・ソーン主演。恋人役はアーノルド・シュワルツェネッガーの息子、パトリック・シュワルツェネッガー。監督、製作総指揮はスコット・スピアー。

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 子どもの頃、引きこもり状態のケイティは、近所の子供たちにとって気味の悪い存在だった。だが、モルガン(クイン・シェパード)だけは普通に接してくれ、外とつないでくれる貴重な親友になった。ケイティの楽しみは、ギターを弾いて曲を作ったり、詩を書いたり、父親と話すこと。中でも一番は、家の前を通る隣人の少年チャーリーを窓から眺めることだった。

 やがてケイティは成長し、夜になると駅で歌うストリートミュージシャンになった。ある夜、ケイティが恋こがれていた隣人チャーリーに声をかけられる。突然の出来事に動揺したケイティは、歌詞を書き留めたノートを置いたまま逃げ出してしまう。このノートが恋のキューピットとなり、二人は初デートにこぎつける。

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 日本でも大ヒットした「タイヨウのうた」のリメイクのため親しみやすく、オリジナル版と比較しながら見ることができる。もちろん未見でも十分に楽しめる普遍的な愛の物語だ。舞台のカナダ・バンクーバーの雰囲気も手伝い、カラッとした解放的な空気が心地良く、すんなり心に入ってくる。主演を務めたソーンと親友役クイン・シェパードの明るくアメリカンな友情、背景に描かれる群像劇。米国青春ドラマの王道的な展開も心地良い。

 一番の目玉はパトリック・シュワルツェネッガーだ。また演技はうまくないが、「ターミネーター」(84)出演時の父にそっくりなたたずまい、話し方や声まで似ていて、父のファンは2度楽しめる。若い2人を優しく見守るケイティの父ジャック(ロブ・リグル)が話をうまく盛り上げる。リメイクだけに新鮮味は薄いが、観客を選ばぬ王道のラブストーリーは、多くの映画ファンに受け入れられるだろう。

(文・藤枝正稔)

「ミッドナイト・サン タイヨウのうた」(2018年、米国)

監督:スコット・スピアー
出演:ベラ・ソーン、パトリック・シュワルツェネッガー、ロブ・リグル、クイン・シェパード、ケン・トレンブレット

2018年5月11日(金)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://midnightsun-movie.jp/

作品写真:(C)2017 MIDNIGHT SUN LLC. ALL RIGHTS RESERVED. (C)2017 OPEN ROAD FILMS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2018年05月06日

全州国際映画祭2018 韓国インディペンデント作品を発信 現代人の閉塞感や不安、内面掘り下げる傾向

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 韓国の全州市で5月3日から「全州国際映画祭2018」が開かれている。長短編246本を上映し、日本映画は19本がラインアップ入り。開幕作にも日本映画「焼肉ドラゴン」(鄭義信監督)が選ばれ、6月22日の日本封切りを前にワールドプレミア上映された。「焼肉ドラゴン」は高度経済成長期の関西で生きる在日コリアン一家の喜怒哀楽を描いた作品。セレモニーには鄭監督のほか、父親役の韓国俳優キム・サンホらが登場した。

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開幕作品「焼肉ドラゴン」 「在日コリアンの歴史を知ってほしい」

 映画「焼肉ドラゴン」は、「月はどっちに出ている」の脚本などで知られる鄭監督が脚本・演出を手掛けた同名の演劇(2008年初演)を原作にしている。演劇は日本で各種の演劇賞を受賞したほか、ソウルでも2度にわたり日韓合同公演が行われて好評を博した。

 関西の集落にある小さな焼肉店が舞台。戦後、さまざまな事情で祖国に戻ることができず日本に定住することになった夫婦と三人の娘、一人息子の一家が織りなす物語だ。

 上映に先立つ記者会見で、鄭監督は「(初演から)10年たったいま、映画が韓国の映画祭の開幕作に選ばれたのは光栄。多くの韓国の人に見てもらいたい」と話した。日本では忘れられかけ、韓国ではほとんど知られていない在日コリアンの物語を記録しなければ、という使命感が強かったという。

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 焼肉店を経営する夫婦役は、韓国のテレビドラマや映画でおなじみのキム・サンホとイ・ジョンウンが務めた。二人とも日本語は話せないが、関西弁のせりふ回しを見事にこなしている。鄭監督は在日コリアンの心理について説明しただけで、日本語指導は専門家に任せたという。

 三女が結婚したいといって連れてきた男は日本人。猛反対する母に、父は結婚を許してやろうと言う。このあと父が三女と日本人男性に向かって、苦労の連続だった半生を静かに語る。ワンテイクで撮られたこの長いせりふが圧巻だ。監督は「サンホは日本語のせりふを完璧に覚え、さらにそこに感情をのせてきて、スタッフみんなが大感激した」と振り返った。技術的な問題もあってテイクを重ね、このシーンの撮影は8時間に及んだという。

 会見では、撮影現場で日韓のキャストやスタッフがスマートフォンの翻訳機を片手に交流し、家族のように過ごしたエピソードも紹介された。

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韓国の若手映画人、問題意識に変化

 全州映画祭は例年、社会風潮や権力を批判する先鋭的なドキュメンタリーが多く上映されるが、今年は劇映画中心のラインアップとなった。

 韓国インディペンデント映画のトレンドを垣間見られるのが、韓国コンペティション部門だ。今年は深刻な就職難と熾烈(しれつ)な競争にさらされる若者の閉塞感を描く作品や、事情をかかえた人間の内面を掘り下げた作品が目立った。直接的な社会批判ではなく、現代人の不安を多様な方法で描こうとする視点に、若手映画人の問題意識の変化を感じる。

 映画祭は12日まで、全州中心部で開催される。

(文・写真 芳賀恵)

写真:
1.レッドカーペットに登場した「焼肉ドラゴン」の鄭義信監督(右から2人目)
2.「焼肉ドラゴン」の(右から)イ・ジョンウン、イム・ヒチョル、キム・サンホ
3.開幕式で舞台あいさつする「焼肉ドラゴン」の(右から)イ・ジョンウン、キム・サンホ、鄭義信監督=全州国際映画祭事務局提供 
4.「焼肉ドラゴン」=同
5.メーン会場「映画の通り」

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2018年05月05日

「名もなき野良犬の輪舞(ロンド)」ビョン・ソンヒョン監督に聞く ソル・ギョング主演犯罪映画「新しい感覚で撮りたかった」

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 韓国の演技派俳優、ソル・ギョング主演の犯罪映画「名もなき野良犬の輪舞(ロンド)」が公開中だ。固い絆で結ばれた犯罪者2人が、組織を登り詰める中で互いの意図を知り、関係性が変化していく様子を描く。共演は「弁護人」(13)の若手俳優、イム・シワン。公開に先立ち来日したビョン・ソンヒョン監督に話を聞いた。

 主なやり取りは次の通り。

 ──男同士の犯罪映画を、今までにないスタイルで映像化した。

 韓国には似たようなジャンル・題材で、男性2人を共演させた作品が多い。今回も企画段階では反対する人が多かった。過去には「新しき世界」(13)などもあったが、自分は「違う感性でもっと若々しく撮れる」と主張した。何を撮るより、どう撮るかが重要だった。スタイリッシュに、愛情表現を盛り込んで作ろうと思った。

 まずは絵コンテ作りに時間を割いた。撮影監督、美術監督たちと「ありふれた作品にするのはやめる」ことを基本に会議を重ねた。今までとは違う、新しい感覚のものが撮れたと思う。

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 ──遊び心が散りばめられた作品だ。刑務所の食事シーンはレオナルド・ダ・ヴィンチの名画「最後の晩餐」を思わせたり、トッポッキ店で打ち合わせしていたり。狙いは。

 「最後の晩餐」に見えるシーンは、組織にいる2人の関係性を表してみた。トッポッキ店での密談シーンは、高級店などより、幼なじみの関係性を感じさせ、昔から通うような場所もいいかな、と。店内ががやがやしている中での密談も面白いと考えた。

 ──ソル・ギョングの役作りについて。犯罪組織内で重要な位置にありながら、生き生き楽しそうに演じていた。監督の指示か、本人の判断か。

 私の演出と、彼のキャラクター分析の両方。シナリオにもそう描かれていた。よく笑う設定の役だ。ソルさんが最初の撮影で、高い声で笑ったのを聞いて「いいな。それでいきましょう」とお願いした。内面には重い部分を持っていて、仮面で隠している。ソルさんと話し合いながら作っていった。

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 ──男同士の友情ものでも、善悪を問う作品でもないように感じた。それでいて後味は心地よい。

 「何かを伝えよう」という大きな意図はなかった。最初は犯罪映画を撮ろうと思い、次に「ロミオとジュリエット」を頭に浮かべた。男同士ではあるが、相手に対する愛情、ドラマ的な要素がベースになっている。「タイミングがずれる」ことが悲劇を呼び、重要になると思った。

 ──時間軸をずらすことを、感情表現に生かしている。

 シナリオ段階から考えていた。オープニングからラストまで、セリフ・道具・感情の細部まで構成は作っていた。

 ──ドラマ「ミセン 未生」(14)を見てイム・シワンの起用を決めたと聞いた。ソル・ギョングとの相性は素晴らしかった。

 普段はテレビを見ないので、彼がアイドルと知らなかった。最初彼は、自分の演じる役を非常に男性的で重いと考えていた。しかし、台本を読む段階で「あなたの持っている少年らしさがあっていい。だんだんと男らしく変わる姿を見せよう」と話した。感情のない美しい顔が必要で、彼はぴったりだった。撮影が進むにつれ、互いを信じて撮っていけた。

(文・写真 岩渕弘美)

「名もなき野良犬の輪舞(ロンド)」(韓国、2017年)

監督:ビョン・ソンヒョン
出演:ソル・ギョング、イム・シワン、チョン・ヘジン、キム・ヒウォン、イ・ギョンヨン

2018年5月5日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開中。作品の詳細は公式サイトまで。

http://norainu-movie.com/

作品写真:(C)2017 CJ E&M CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED



posted by 映画の森 at 14:56 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする