2012年05月19日

「虹色ほたる 永遠の夏休み」 あの夏を過ごした大人たちへ 記憶は時を越えて

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 小学6年生のユウタは1年前、交通事故で父を亡くした。夏休みにひとり、父とよく来た山奥のダムへ虫を採りに行き、不思議な老人と出会う。しかし突然の雨で足を滑らせ意識を失い、目覚めると目の前には小さな女の子・さえ子がいた。ダムに沈んだはずの村があるところをみると、30年以上前にタイムスリップしたらしい。さえ子はユウタに“いとこ”として接し、同じ年のケンゾーも現れる。さえ子に連れられ訪れた家では、おばあちゃんが優しくユウタを出迎える──。

 川口雅幸が2004年、ホームページに連載を始めた物語が人気を呼び、出版に至った“シンデレラ小説”が原作だ。監督は「ワンピース」シリーズディレクターの宇田鋼之介。「白蛇伝」(58)から始まる東映アニメーションが総力を挙げたオリジナル作品だ。美しい自然、繊細な人物描写、太いラインで余白を残したシンプルな作画。作家のセンスを感じ取れる。

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 ユウタがタイムスリップするのは1977年(昭和52年)。キャンディーズやピンクレディー、スーパーカーがはやった時代に、現代の少年が迷い込む。ユウタの親が子供だった時代で、観客の親たちには懐しく、子供たちにはアナログな世界が新鮮だろう。

 昆虫採集、花火、夜店、夏祭り、子供の友情、淡い初恋、友との別れ。ユウタは迷い込んだ村で1カ月、不思議な体験をする。物語の入り口と出口はファンタジーの形をとるが、大部分は村で過ごす夏休みに費やされる。ユウタを過去に導いた不思議な老人、さえ子の隠された秘密、現代と過去。そしてユウタとさえ子の絆が結ばれる涙のクライマックス。70年代に子供時代を過ごした大人に向けて作られたように思う。

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 ロボットアニメやSF全盛の日本製アニメーション。世界から“ジャパニメーション”とリスペクトされ、勢いは衰えない中、あえて主人公を70年代にタイムスリップさせた不思議な作品である。音楽は大林宣彦監督「ねらわれた学園」、篠原哲雄監督「天国の本屋 恋火」などのファンタジーを得意とする松任谷正隆。主題歌は松任谷由実が担当。クライマックスには松任谷由実のアルバム「時のないホテル」(80)収録の名曲「水の影」が使われる。

 さえ子の未来を暗示する絶妙な選曲。音楽は観客の底に眠る感情を揺さぶる力を持つと、改めて感じさせられた。ホタルによる時を超えたエピソードは、松任谷正隆が音楽を担当した大林監督版「時をかける少女」を思わせ、美しい幕引きとなっている。

(文・藤枝正稔)

「虹色ほたる 永遠の夏休み」(2012年、日本)

監督:宇田鋼之介
出演:武井証、木村彩由実、新田海統、櫻井孝宏、能登麻美子、中井和哉、大塚周夫、石田太郎

5月19日、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.nijiirohotaru.com/

作品写真:(C)川口雅幸/アルファポリス・東映アニメーション
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2012年05月18日

「サニー 永遠の仲間たち」 郷愁と現実 女性7人 いまを生きる

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 もう一度見たくなる映画だ。昨年春にソウルで見て以来、何度も劇場に足を運んだ。同じ思いの観客が多かったのか、評判は口コミで広がりリピーターが続出。ロングランになり最終的に韓国で740万人を動員する大ヒットに。有名スターが出ていない作品としては破格の興行成績だろう。

 「サニー 永遠の仲間たち」は、何不自由ない暮らしの中にほんの少しの物足りなさを感じる42歳の主婦ナミが、偶然女子高時代の友人チュナに再会するところから始まる。重い病気を患うチュナはナミに「サニーのメンバーに会いたい」と懇願する。サニーとは高校時代の仲良し7人組で、ある事件でバラバラになっていた。ナミはメンバーを一人ずつ探し出していくが、彼女たちはさまざまな人生を歩んでいた。

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 「サニー」は誰もが経験する青春の輝きと危うさ、そして“いま”を生きる意味を描く。1970〜80年代に青春時代を過ごした人なら、シンディ・ローパーのナンバーやボニーMの「サニー」にたまらない郷愁をおぼえるだろう。あのころの輝きは取り戻せないかもしれないけれど、自分の人生では自分が主人公だということを、我々はもう一度思い出すべきなのだ。

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 高校時代の7人が魅力的だ。ナミ役のシム・ウンギョンは演技に定評のある人気子役だが、本作でも笑いと涙を誘う多彩な演技を見せる。実らない初恋に胸を痛める姿に共感しない観客はいないだろう。ほかの6人もそれぞれのキャラクターを忠実に表現した。

 「過速スキャンダル」(08)で鮮烈なデビューを飾ったカン・ヒョンチョル監督は、本作でも丁寧なタッチでストーリーを積み上げる。よく練られた構成と画作りが、過去と現在の交錯を違和感なく見せている。

 高校時代の背景になっているのは86年、軍事政権末期。民主化を要望する大衆の熱気が満ちていた時代である。ナミの兄が民主化闘争で警察に引っ張られるエピソードなど、当時の韓国社会の一面を知る上でも必見の作品だ。

(文・芳賀恵)

「サニー 永遠の仲間たち」(2011年、韓国)

監督・脚本:カン・ヒョンチョル
出演:シム・ウンギョン、ユ・ホジュン、カン・ソラ、ミン・ヒョリン、ジン・ヒギョン、コ・ソヒ、ホン・ジニ

5月19日、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.sunny-movie.com

写真:2011年の釜山国際映画祭に登場した「サニー 永遠の仲間たち」の出演者たち=韓国釜山市で2011年10月、岩渕弘美撮影
作品写真:(c)2011 CJ E&M Corporation. All Rights Reserved
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2012年05月17日

「ザ・マペッツ」 “マペット”が歌い踊る 豪華・圧巻のミュージカル 

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 田舎町のスモールタウンで、人間のゲイリーと仲良く育ったマペット(人形)のウォルターは、マペット・ショーの熱狂的なファン。結婚間近のゲイリー&メアリーのLA旅行に誘われて、大興奮でマペット・スタジオを訪れる。だが、かつてのショーの殿堂は今や廃墟のよう。しかも恐るべき石油王の邪悪な陰謀が。ウォルターたちは引退して静かに暮らす“ザ・マペッツ”のカリスマ、カエルのカーミットを探し出す。ウォルターの熱い思いが、カーミットの心を動かした。彼は陰謀を阻止すべく、“ザ・マペッツ”の再結成を決意する。

 出演は「魔法にかけられて」のエイミー・アダムスのほか、「ガリバー旅行記」のジェイソン・シーゲルが主人公のゲイリー、脚本、製作総指揮を担当する。テレビ界出身のジェームズ・ホビンの劇場作品監督デビューとなる。“マペット”とは、「セサミストリート」の生みの親、ジム・ヘンソンが考案したマリオネット(操り人形)とパペット(指人形)の合成語。オリジナルのテレビシリーズ「ザ・マペット・ショー」は、1976〜81年に放送された。

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 物語はいたってシンプル。マペット・スタジオを壊して原油採掘を企む石油王のリッチマン(クリス・クーパー)。その陰謀を阻止するため、人間のカップルとマペットたちが“ザ・マペッツ”を再結成。公演を開いて資金を捻出し、スタジオを買い戻そうと奮闘する。物語の基礎は、生まれ育った孤児院の資金難を克服するため、昔のバンド仲間を集めてコンサートを開く「ブルース・ブラザース」(80)によく似ている。

 設定は実に不思議で、人間とマペットが普通に共存している。人間のゲイリーとマペットのウォルターが兄弟。摩訶不思議な状況である。ザ・マペッツを解散したメンバーは各地でバラバラに活動している。人間を使って会社を経営するゴンゾ、人間相手に歌やバンド活動などのさまざまな仕事をするメンバーたち。そんな彼らの元へ、石油王の陰謀を知ったゲイリーとウォルター兄弟、ゲイリーの婚約者メアリーが訪問。“ザ・マペッツ”の再結成を呼びかけ、集まったメンバーと再びショーを開く。

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 ミュージカルを意識した踊りや歌が、ふんだんに取り入れられている。主題歌「Man or Muppet」は本年度米アカデミー賞主題歌賞を受賞。ダンサー60人とマペットがストリートで歌い踊るオープニング・ナンバー。後半には「マペットの夢みるハリウッド」(79)で歌われた人気曲「レインボウ・コネクション」を、マペットの看板役者で恋人同士だったカーミットとミス・ビギーがデュエットする粋な演出だ。ラストはエキストラ300人、ダンサー100人、マペット50人が圧巻のミュージカルを展開する。

 そんな中、憎まれ役を一手に引き受けたクリス・クーパーが歌と踊りとラップを披露。カメオ出演のジャック・ブラックがマペットに拉致され、いじめられるおいしい役を演じ、名優ウーピー・ゴールドバーグが無駄に豪華な募金電話の受付役で出演している。アラン・アーキンやミッキー・ルーニーなど、多く人気俳優がカメオ出演。マペットの世界を盛り上げている。

(文・藤枝正稔)

「ザ・マペッツ」(2011年、米国)

監督: ジェームズ・ボビン
出演:ジェイソン・シーゲル、エイミー・アダムス、クリス・クーパー、ラシダ・ジョーンズ

5月19日、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.disney.co.jp/movies/muppets/

作品写真:(C)2011 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
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2012年05月16日

日韓人気アーチスト集結 「One Asia Tour2012 MCOUNTDOWN HELLO JAPAN」

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 韓国の人気音楽番組MCountdownの日本公演「One Asia Tour2012 MCOUNTDOWN HELLO JAPAN」が 4月25日、埼玉県さいたま市のさいたまスーパーアリーナで開催された。

 東京で2006年、2007年に開催された同公演。5年ぶりの開催となる今回は、日本人アーチストや今人気のガールズグループも参加。豪華な顔ぶれとなり、会場を埋めたファンを魅了した。

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 MBLAQ、超新星、U−KISSなどのパワフルなダンスパフォーマンス、SISTAR、Secret、4Minute など女性グループも多数出演。華やかなステージを披露した。実力派ヒップホップデュオのDynamic Duo、タイガーJK、Tユン・ミレら人気アーチストも集結。舞台を盛り上げた。

 5年前は現役高校生として出演、初々しい姿をみせた人気バンドFTISLAND。今回公演前のインタビューで、アジアで人気の理由について「韓国でバンド活動しているグループは少ない。バンド音楽が好かれるのでは」と分析。「曲は少ないけれど、記憶に残るステージになるよう頑張る」と語った。

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 日本人アーチストとして初出演となった三代目J Soul Brothersも「日韓をつなぐイベントに参加できてうれしい。初めて見るアジアの人たちに(自分たちを)知ってもらえるよう頑張りたい」と語り、熱いステージを披露した。

 クライマックスには「韓流HISTORY」と題して、BoA、東方神起、SHINHWAらK-POPブームの礎を築いたアーチストから、今人気のガールズグループKARAまで、広く親しまれている曲を出演アーティストがカバーするコーナーでは、サプライズゲストとしてSHINHWAのイ・ミヌも参加。貫録のパフォーマンスで健在ぶりをみせた。

MCountdownはMnetで毎週(木)18:00〜日韓同時生放送中。本イベントの模様は、イベント翌日Mnetで放送、5月にスペースシャワーTV、6月にはBSフジでの放送も決定している。

(文・写真 岩渕弘美)
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2012年05月15日

「ファミリー・ツリー」 ハワイの自然舞台に 家族の再生描く

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 米ハワイに生まれ育った弁護士のマット・キング(ジョージ・クルーニー)は、美しい妻と娘2人と何不自由なく暮らしていた。ところがある日、ボート事故で妻がこん睡状態に。妻には愛人がいて、離婚を考えていたことが発覚する。長女アレックス(シャイリーン・ウッドリー)もその事実を知っていた。一方でマットは、先祖から継いだ広大な土地の処理をめぐり決断を迫られていた。売却すれば巨額の富が入るが、大自然は失われる。家族とルーツ。2つの問題に向き合ったマットが選んだ道は──。

 カウイ・ハート・ヘミングスのデビュー小説「The Descendants」を、「サイドウェイ」、「アバウト・シュミット」のアレクサンダー・ペインが監督、脚本、製作。今年の米アカデミー脚色賞を受賞した。舞台は地上の楽園と呼ばれるリゾートであるが、島に暮らすマットは、妻の不倫と土地問題で頭を悩ませる。

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 マットを演じるのはジョージ・クルーニーだ。実生活では離婚後に独身を貫き、プレイボーイで知られている。本作では生意気な娘たちに振り回され、妻の不倫に遅まきながら気付く真面目人間。「オーシャンズ」シリーズなど、ダンディーな役が多いクルーニーには珍しいキャラクターだろう。

 マットは妻の不倫相手のスピアーに会うため、娘2人、長女のボーイフレンドのシドとカウアイ島に向かう。島に着いた彼らは先祖の土地を見に行き、家族の思い出話にふける。

 妻の事故から始まる物語は、家族の絆を取り戻す過程でもある。長女も知人も知っていた妻の不倫を知らず、仕事一筋で生きてきたマット。事故が起きて初めて家族と向き合い、自分の人生を見つめ直す。ペイン監督は、一歩引いたシニカルな視線で登場人物を淡々と描く。

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 妻の不倫を知ってうろたえた夫は、サンダル履きで血相を変え友達の家へ走る。冷静を装う長女は母の状態を知り、プールに潜って号泣する。次女はこん睡状態の母を写真に撮り、コラージュしたノートを友達に見せて教師に怒られる。長女のボーイフレンドは、目上の人になれなれしく話して怒りを買い、空気が読めずマットの義父に殴られる。どこか欠点を抱えるキャラクターが、困難と向き合い絆を取り戻す。

 ペイン監督は、あえて行間を省いた演出をとっている。起承転結の“起”にあたる妻の事故。母と娘の別れ。、感情を揺さぶる場面をあえて省いて観客の想像に委ね、素直に心に染み入る作品に仕上げた。家族の再生をワンカットで表し、余韻を残す表現も秀逸である。

(文・藤枝正稔)

「ファミリー・ツリー」(2011年、米国)

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー、アマラ・ミラー、ニック・クラウス、ボー・ブリッジス、ジュディ・グリア

5月18日、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies.jp/familytree/

作品写真:(C)2011 Twentieth Century Fox
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2012年05月11日

「キラー・エリート」 殺し屋集団VS特殊部隊、肉弾戦で火花

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 殺し屋稼業から足を洗ったダニー(ジェイソン・ステイサム)のもとに、かつての相棒・ハンター(ロバート・デ・ニーロ)の写真が届く。「SAS(英国特殊部隊)の精鋭を、事故に見せかけて殺す」という危険な仕事に失敗し、ハンターは捕らわれていた。ダニーはやむを得ず、ミッションを引き継ぐため仲間を招集する。しかし、元SAS隊員のスパイク(クライヴ・オーウェン)が彼らの動きを察知。背後には謎の組織“フェザー・メン”が存在していた。確実に狭まる包囲網の中、ダニーは決死の行動に出る──。監督はCM監督を経て、短編で米アカデミー賞候補経験があるゲイリー・マッケンドリー。今回が長編映画デビュー作となる。

 元SASでオマーン軍に参加したサー・ラヌルフ・ファインズの小説「キラー・エリート」(原題:The Feather Men)の映画化だ。小説ではSAS兵士が行ったオマーン戦争時の殺人を、元SASによる極秘組織“フェザー・メン”が隠匿した事実を告発。小説の内容を作者は「事実」と断言するが、英国政府は認めていない。

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 1980年、メキシコ。極秘ミッションに駆り出されたダニーとハンターが描かれる。厳重な警備をかいくぐり、ターゲットを暗殺。しかし、目撃者の少年を殺せなかったダニーは、自らの限界を感じ引退を決意する。1年後。オーストラリアで恋人と静かに暮らすダニーの元に、人質に取られたハンターのポラロイド写真が届く。脅迫の意図を感じ取ったダニーは、オマーンへ旅立つ──。

 オマーン戦争を背景に、プロの殺し屋と英特殊部隊が対決する。時代設定の80年代に合わせ、じっくり物語を描きながら、現代の撮影技術とアクションを融合させた。殺し屋の任務は、息子3人をSASに殺された首長の報復で、いささか共感しにくい。世界を舞台に17年に及ぶ過去の出来事、多くの登場人物が絡み、物語はかなり複雑である。

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 ダニー率いる殺し屋集団による暗殺と、阻止する元SAS隊員・スパイクの激突が最大の見せ場だろう。ジェイソン・ステイサムとクライヴ・オーウェン。最近のアクション映画界を担う英国人俳優が、肉弾勝負を繰り広げる。

 椅子に縛りつけられたダニーと、手錠をかけられたスパイクが、拘束された状態で戦う描写。ファイト・アクションのハードルを上げる名勝負だ。名優デ・ニーロも「RONIN」を彷彿させる切れの良いガン・アクションを見せる。次々課せられるミッションを遂行するプロフェッショナル。実にリアルでスリリングである。

(文・藤枝正稔)

「キラー・エリート」(2011年、米国)

監督:ゲイリー・マッケンドリー
出演:ジェイソン・ステイサム、クライブ・オーウェン、ロバート・デ・ニーロ、ドミニク・パーセル、エイデン・ヤング、イボンヌ・ストラホフスキー、ベン・メンデルソーン

5月12日、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://killer-elite.jp/

作品写真:(C)2011 Omnilab Media Pty.Ltd.
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2012年05月10日

「ムサン日記 白い犬」 脱北者の孤独映す 圧倒的な描写力

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 タイトルの「ムサン(茂山)」とは、中国と国境を接する北朝鮮の街だ。“脱北者”の多くは、この街から中国を経由して韓国に入国してくる。主人公のスンチョルも、ムサンからの脱北者だった。貧しくつらい暮らしに見切りをつけ、自由と豊かさを夢見てやってきた。しかし、大都市ソウルの風は冷たかった。

 おかっぱ頭に、野暮ったいジャンパー姿。しかも、内気で不器用。簡単なポスター貼りの仕事さえうまくこなせないスンチョルは、他人に心を閉ざし、鬱々とした日々を送っている。拾ってきた白い犬だけが、心を通わせられる相手だった。そんなスンチョルとは対照的なのが、同じアパートに同居する脱北仲間のギョンチョルだ。すっかり韓国社会に順応したギョンチョルは、闇ブローカーの仕事であぶく銭を稼いでいる。

 社交的で世渡り上手なギョンチョルの存在は、スンチョルの孤独と鬱屈を一層際立たせる。波風立てずに同居しているように見える2人。しかし、いくつかのいさかいやトラブルを経ることで、スンチョルの心には次第に怒りがたまっていく。終盤のドラマティックな展開は、2人の人物設定があればこそ。うまい脚本である。

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 また、作品にピリリとした緊張感を与えているのが、“説明を省き、描写に徹した”表現スタイルだ。スンチョルが脱北してきた背景への言及はない。また、なぜこれほど寡黙で自閉的なのか、その理由と思われる事実は後半まで明かされない。画面には、ただ現在のスンチョルの行動が映し出されるばかり。その代わり、普通なら省いてしまうようなディテールが丁寧に描き込まれているのだ。

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 たとえば、ギョンチョルがスンチョルにブランド物のダウンジャケットを買ってやるシーン。その時ギョンチョルはズボンを万引きする。スンチョルは返品するよう求め、もみあいになり、袋に入ったズボンはトイレの床に落ちてしまう。スンチョルは袋を拾い、洗面台で洗う。時間をかけて水道の水で丁寧に洗う姿を、カメラはノーカットで収めている。スンチョルの人間性も性格も過不足なく切り取っている。まさに描写の力である。

 描写力が最大限に発揮されるのが、ラストシーンだ。華麗に変身を遂げ、幸福な人生へかじを切ったスンチョルを、衝撃的な事件が襲う。カメラはその後ろ姿を長回しで映し続ける。圧倒的な描写の力に打ちのめされる瞬間である。

(文・沢宮亘理)

「ムサン日記 白い犬」(2010年、韓国)

監督:パク・ジョンボム
出演:パク・ジョンボム、チン・ヨンウク、カン・ウンジン、ペック

5月12日、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://musan-nikki.com/

作品写真:(c)2010 SECONDWIND FILM. All rights reserved.
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2012年05月09日

「幸せの教室」 トム・ハンクス&ジュリア・ロバーツ、再び輝く人生

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 リストラされたラリー・クラウン(トム・ハンクス)は、再就職のため技術を身に付けようと短大に入る。そこでスピーチを教えるメルセデス・テイノー(ジュリア・ロバーツ)は、結婚が破たんしてアルコールに走り、教師の情熱を失っていた。ラリーにとって初めてのキャンパス。年齢も境遇も違う人々と出会い、充実した毎日を送り始める。そんなラリーとの交流を通し、自分と向き合うメルセデス。二人はこの教室で、幸せな未来を見つけられるのか。

 トム・ハンクスが「すべてをあなたに」(96)以来15年ぶりに監督、主演、製作を務めている。相手役に「チャーリーズ・ウィルソンズ・ウォー」で共演したジュリア・ロバーツ、共同脚本にハンクス製作の「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング」(02)主演・脚本のニア・ヴァルダロスを迎えた。

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 仕事を失い短大に入った中年男のラリー。結婚生活が壊れ情熱を失った女教師メルセデス。冴えない年上生徒のラリーは、キャンパス・ライフを満喫し輝き始める。私生活がうまくいかないメルセデスにとって、彼は目障りだが気になる存在。ラリーは経済学の授業で隣り合わせたタリアと友達になり、スクーター仲間に入れてもらう。冴えない容姿のラリーを見かねたタリアは、仲間と“ラリー改造プロジェクト”を開始。ヘアスタイル、ファッション、インテリアまで次々手を入れ、ラリーを洗練された男へ変身させる。一方、対照的にメルセデスは、夫との関係が悪化し輝きを失っていく。

 ハンクス自身の短大生活から生まれた物語だそうだ。高校卒業後に短大に通ったハンクスは、さまざまな人生を積んだ人々と出会い友人になった。その経験をラリーの人物像に投影し、脚本のヴァルダロスとキャラクターを作り上げた。大型スーパーの名物販売員だったラリーは、学歴が会社の規定に触れてリストラされる。しかし持ち前の明るさとポジティブ精神、海軍でのコック経験を生かし、崖っぷちギリギリの人生を打開する。

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 共演者も実に魅力的だ。ラリーと出会い再び輝くメルセデス役のロバーツをはじめ、タリア役のググ・バサ=ロー、ラリーの隣人夫妻を演じたセドリック・ジ・エンターテイナーとタラジ・P・ヘンソン。「スター・トレック」シリーズで東洋人クルーを演じたジョージ・タケイが、経済学の堅物教師を好演する。「ジャッキー・ブラウン」のパム・グリア、メリル・ストリープの娘グレース・ガマー、ハンクスの妻リタ・ウィルソン、息子のチェット・ハンクス。家族共演のアンサンブルも楽しい。

 授業中に隠れて行う携帯メールのやり取りを、小さなポップアップ画面で表示する遊び心。大勢の仲間とつるみ、ヴィンテージ・スクーターで町を突っ走る動きある描写。学生生活をエンジョイするラリーの姿は実に楽しい。自身の人生経験を反映させた温かいスピーチに、ハンクスの人柄がにじむ。的確な演出が光る作品だ。

(文・藤枝正稔)

「幸せの教室」(2011年、米国)

監督:トム・ハンクス
出演:トム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ、ブライアン・クランストン、セドリック・ジ・エンターテイナー、タラジ・P・ヘンソン、ググ・バサ=ロー、ウィルマー・バルデラマ、パム・グリア

5月11日、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://disney-studio.jp/movies/shiawase/

作品写真:(C)2011 Vendome International, LLC. All Rights Reserved.
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2012年05月08日

第13回全州映画祭(3) 政治風刺、欲望表現 異彩放つ新たな個性

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 「われわれの国の映画には多様性がない」と、ことあるごとに欧米や日本と比較し、自国の映画製作の状況を嘆いていた韓国映画界。だがこの10年間の韓国映画を見渡すと、ジャンルが多様化していることが分かる。

 社会が大きく変化しているうえ、製作側も目新しい映画を作るチャレンジをしているからだろう。ただ、あらゆる作品が一般公開されるわけではない。韓国映画の多様性を楽しめる場はやはり映画祭。特に“インディペンデント”をテーマに掲げる全州国際映画祭は、ほかではなかなか見られない作品に出会える場だ。

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若者が支持、政治ドキュメンタリー
 世が世なら不敬罪に問われてもおかしくない。「MBの追憶」は現職大統領の言動を風刺する政治ドキュメンタリーだ(タイトルは「精算コメディー」と銘打っている)。「MB」とは李明博(イ・ミョンバク)大統領の名前の頭文字。韓国では新聞の見出しなどで大統領経験者の名を「DJ」(金大中)や「YS」(金泳三)のように表現する。

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 街頭演説やテレビニュースの映像を巧みに組み合わせ、テンポのよい編集で政治家の欺瞞(ぎまん)や滑稽さを暴き出す。“主演 MB”のクレジットに会場から笑いが起こる。

 テレビディレクター出身のキム・ジェファン監督が試みたのは、今冬の大統領選に向けた現大統領の歩みの精算だ。「公約を守って学費を下げろ」と叫ぶ学生デモ隊を、警察が排除する光景は、ふた昔前の民主化闘争を想起させる。MBが軍部隊を激励する場面に合わせて流れるのは、政府高官の子弟の多くが兵役免除になっているニュースだ。監督は対立候補にも容赦しない。各陣営は下町の市場を訪ね、屋台の食べ物をつまみ庶民派をアピールするが、カメラはそれがテレビ向けのパフォーマンスであることをさらけ出す。

 運営者が政権寄りの映画祭だったなら、おそらく上映できなかったはずだ。会場は立ち見も出る超満員。20代から30代の男女が目立つ。既存メディアに懐疑的な新世代は「MBの追憶」のような映画を待っていたかのようだった。

個性派俳優 ウォン・テヒの挑戦
 韓国コンペティション部門のノミネート作品はドキュメンタリーからドラマまで、さまざまなジャンルがそろった。鮮烈なテーマの作品を次々に発表しているイ・サンウ監督は、「地獄火」で人間の根源的な欲望を衝撃的な手法で表現した。韓国でタブー視される同性愛を「後悔なんてしない」(06)で堂々と扱ったイソン・ヒイル監督は、新作「白夜」でも二人の男の恋物語を美しい映像で描いた。

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 どちらも異彩を放つ作品だが、実は両作品の主演俳優は同じ人物。インディペンデント映画を中心に活動するウォン・テヒだ。「地獄火」では荒々しい欲望に身をまかせる僧、「白夜」では繊細な心を持つ外国航空会社の乗務員と、まったく違う二つの顔を見せる。

「地獄火」.png 「白夜」.png

 上映後の舞台あいさつでは役作りの難しさに質問が相次いだが、回答は「2本ともそれほど大変だとは思わなかった。監督に言われたとおりに演じただけ」とあくまでもクールだ。彼のような変化自在の俳優の存在が、マイナー映画を見る楽しみの一つでもある。

(文・芳賀恵)

写真1:「MBの追憶」のキム・ジェファン監督=韓国全州市で4月29日、芳賀撮影
写真2:「MBの追憶」上映後トーク=同
写真3:「MBの追憶」=映画祭事務局提供
写真4:「地獄火」で舞台あいさつする(左から)イ・サンウ監督、主演のウォン・テヒ=同28日、芳賀撮影
写真5:「地獄火」=映画祭事務局提供
写真6:「白夜」=同
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2012年05月07日

第13回全州映画祭(2) ドキュメンタリー「ミス ママ」 ペク・ヨナ監督に聞く 未婚の母通し 女性の生き方問う

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 第13回全州国際映画祭・韓国映画ショーケース部門で紹介された「ミス ママ」は、女性監督が未婚の母たちを追ったドキュメンタリー作品だ。

 今も家父長思想が根強く残る韓国では、未婚の母は長く社会から“無視”されてきた。父系を重視する戸籍制度(戸主制)が2008年に廃止され、法律上は家単位から個人単位の戸籍制度が実現したが、長く人々の心を支配してきた家父長思想はすぐには消えない。その中で母親が婚外子を育てる選択は、当然のことながら簡単ではない。韓国から海外への養子が年間1000人以上に達することも背景は同じだ。

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 「ミス ママ」は、数人の母親と子どもの姿を通じ、未婚の母を取り巻く韓国社会の現実を告発する。家族の無理解、社会の偏見、メディアの無関心。ある母親は、子どもが通う幼稚園で、別の母親が先生に「あの子とうちの子を遊ばせないで」と頼んだエピソードを淡々と話す。子どもの父親と電話で言い争うシーンも登場する。

 上映後のトークイベントには、登場人物の一人、チェ・ヒョンスクさんも参加した。チェさんは未婚の母の会を通じ、政府などに支援を訴えている。メディアに出て発言するうち、絶縁状態にあった両親がようやく理解してくれ、7年ぶりに再会できたという。今回の映画では5カ月にわたり息子のジュンソ君とともに密着取材を受けた。ペク監督はチェさんら母親たちと心を通わせることで、自然な姿をカメラの前にさらけ出させることに成功した。ナレーションを入れず母親たちの言葉だけで構成し、彼女たちが未婚の母である以前にひとりの女性であり、人間であることを強く訴えた。

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 全州で上映を終えたペク・ヨナ監督に、映画に込めた思いを聞いた。

 ――上映会では、観客に好評だった。

 やはり女性の方が共感してくれるようだ。ある放送作家の集まりで見せたところ、若手の男性から「一方的な視点だ」と批判された。(メディアにかかわる人だから)もっと理解があると思っていたので意外だった。ただ、子どもができたのに責任を取らなかった夫たちの話は、男性には少し居心地が悪いのかもしれない。

 ――なぜ「未婚の母」をテーマに据えたのか。

 最初から未婚の母を扱おうと思ったわけではない。前作を作っている時に妊娠・出産を経験し、次は働く母親たちを描く作品にしたいと考えた。その一環として未婚の母の集まりに行って話を聞くうち、彼女たちを取り巻く問題をよく知らないことに気付かされた。状況も考え方もさまざまなのに“未婚の母”とひとくくりにされ、女にも母親にも見てもらえない。その現実を伝えたかった。結果的にこの映画は、未婚の母というより、女性そのものの生き方を描くものになったと思う。

 ――母親と子どもたちが顔と実名を出しているため、リアリティーがあった。

 未婚の母につきまとう暗いイメージを変えたかったから、モザイクをかける編集はしたくなかった。しかし、顔と実名を露出して出演してくれる人を探すのは苦労した。本人が了解しても家族が反対したり、初めはOKだったのに取材の途中でやめると言われたり……。逆に撮影が始まってから、出てもいいと言ってくれた人もいた。

 ――韓国社会の変化のスピードは早いが、家族に関する意識は変わらないのか。

 政府は2年ほど前から未婚の母の子どもの学費などを助成し始めたが、申請は予想外に少ないらしい。婚外子であることを隠している人も多いためだ。ただ、この映画を構想した2年前と比べ、社会の見方もかなり変化した。“自分には関係ない”という無関心な反応から“自分にも起こりえる”という反応に変わってきたようだ。

ペク・ヨナ監督 1976年生まれ。国立ソウル大学で美術(西洋画)を専攻。ロンドンのゴールドスミス・カレッジでドキュメンタリー制作を学ぶ。2008年、韓国の伝統芸能パンソリを歌う2人の少年を扱った初のドキュメンタリー作品「ソリアイ(声の子ども)」で注目される。「ミス ママ」は2作目。

(聞き手・芳賀恵)

写真1:ペク・ヨナ監督=本人提供
写真2:「ミス ママ」=映画祭事務局提供
写真3:上映後のトークイベントに参加した(左から)ペク・ヨナ監督、出演のチェ・ヒョンスクさん=韓国全州市で4月28日、芳賀撮影
posted by 映画の森 at 17:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする