2017年04月26日

「イップ・マン 継承」ドニー・イェンのアクション炸裂、人気シリーズ最新作 タイソンと真っ向勝負

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 香港のアクションスター、ドニー・イェン主演の人気シリーズ最新作「イップ・マン 継承」。伝説のカンフースター、ブルース・リーが唯一師と仰いだ「詠春拳(えいしゅんけん)」の達人、イップ・マンの生涯を描く。敵役でボクシングの元ヘビー級世界チャンピオン、マイク・タイソンが出演している。

 監督は前2作「イップ・マン 序章」(08)、「イップ・マン 葉問」(10)に続いてウィルソン・イップ。アクション監督はサモ・ハンに代わり、ハリウッド映画「マトリックス」シリーズなどのユエン・ウーピンだ。音楽は押井守監督作品で知られる川井憲次。シリーズを通して素晴らしいスコアを披露している。

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 1959年、香港。街は好景気に沸く一方、治安は悪化し、無法地帯になりつつあった。裏社会を牛耳る不動産王フランク(タイソン)の前にイップ・マン(イェン)は立ち上がる。だがそれは、自分の家族も命の危険にさらす危ない賭けだった。

 イップ・マンを語るうえで欠かせない、弟子ブルース・リーとの師弟関係。幕開けに若き日の2人のユーモラスで切れのよい妙技が披露される。リー役はチャウ・シンチー監督、主演の「少林サッカー」(01)でそっくりさん役を演じたチャック・クォックワンだ。

 ドニー・イェンと二人三脚でシリーズを作ってきた監督によると、テーマは第1作が「生存」、第2作が「生活」、今回が「生命」。イップ・マンの人生を支える妻ウィンシン(リン・ホン)の存在がクローズアップされる。夫妻の息子が通う小学校がフランクに狙われる一方、詠春拳の正当性をめぐって息子の同級生の父チョン(マックス・チャン)と対立する。

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 普段は物静かで優しい男が、いざ格闘となると瞬殺で敵をなぎ倒す。静と動の対比で人物像を際立たせる。シリーズ恒例になった大勢の敵との格闘シーン。ボクシングと詠春拳の異種格闘技対決。変化球的な迫力が合わさった名場面となった。

 そしてチョンとの詠春拳での真っ向勝負。技と技のぶつかり合いは、ドニー・イェンのスタント担当だったマックス・チャンが、師匠に挑む様子を見るようだ。作品のところどころで使われるワイヤーに、アクション監督ウーピンの職人技を感じる。

 一方、病に伏せる妻との夫婦愛描写に多くの時間を費やし、ドラマに深みを与えた。狭いエレベーターで襲われ、身を挺して妻を守る姿や、ダンス教室で仲睦まじく踊る夫妻に、夫としての優しさを見た。昨年公開されて大ヒットした「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」(16)でドニー・イェンを知ったビギナーから、古くから作品を追う熱心なファンまで、武術とドラマで満足させる作品となっている。

(文・藤枝正稔)

「イップ・マン 継承」(2015年、中国・香港)

監督:ウィルソン・イップ
出演:ドニー・イェン、リン・ホン、マックス・チャン、
マイク・タイソン、パトリック・タム

2017年4月22日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/ipman3/

作品写真:(C)2015 Pegasus Motion Pictures (Hong Kong) Ltd. All Rights Reserved.

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2017年04月13日

「わすれな草」 認知症が人間関係を再構築 他人と化した妻を愛し直す

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 ドキュメンタリー映画作家のダービット・ジーベキングが、認知症を患った母と過ごす最後の日々を記録した作品だ。映し出されるのは、記憶を失い、夫も息子も区別できなくなった母。そして、彼女の世話に四苦八苦する父や監督自身の姿である。

 介護の過酷さを見せつける映像はほとんどない。失禁で濡れた床を父が掃除する場面ぐらいだろうか。焦点があてられいるのは、介護の厳しい現実ではなく、認知症を通して結ばれる新たな家族の絆である。

「母さんはこの家に30年住んでいるんだよ」
「まさか。初耳だわ」
「父さんとはずっと前から結婚している」
「あなたが父さんでしょ?」

 監督と母との会話である。まったく話が噛み合わない。自分の居場所も家族の顔も名前も認識できなくなった母親。監督は1週間で疲弊しきってしまう。「父はこれを何年も続けてきたんだな」とため息をつく。

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 このまま放置すれば、症状はどんどん悪化し、家族関係は崩壊してしまう。無理やりにでも外に連れ出す。介護人にサポートしてもらう。さまざまな方法を試すが芳(かんば)しい結果が出ない。スイスに旅行中の父に会いに行かせても自分の夫だということが分からない。

 昔のことを思い出せば何かが変わるかもしれない。そんな期待を抱きながら、秘密警察が保管する母と父の記録を閲覧し、母のかつての恋人を訪ねて話を聞く。

 父と母はともに過激な政治活動に身を投じたカップルだった。互いの自由恋愛を条件に結婚。父は浮気が本気になり、離婚を切り出すが、母が「私たちはつながっているの。簡単には別れないわ」と反対した。家事や育児に一切タッチしなかった父。不満を日記に書き記していた母。さまざまな事実が浮かび上がってくる。そして、ある日、思いがけない変化が起こる――。

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 1960年代後半という政治の季節に青春を過ごした知的カップル。自由恋愛という名の不干渉が生み出したであろう心の隔たり。妻の認知症が契機となって、逆にその距離が縮まり、新しい夫婦関係が構築されていく様子が、実に興味深く示唆に富む。「認知症は人間関係を破壊する」という常識に一石を投じる作品だ。

(文・沢宮亘理)

「わすれな草」(2013年、独)

監督:ダービット・ジーベキング

2016年4月15日(土)、渋谷ユーロスぺースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.gnome15.com/wasurenagusa/

作品写真:(C)Lichtblick Media GmbH

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2017年04月11日

「タレンタイム 優しい歌」女優アディバ・ノールに聞く 多民族・多宗教国家マレーシアからのメッセージ「違うことは悪いことではない。心を開いて互いを探り合い、発見し合うことが大切」

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 マレーシアのヤスミン・アフマド監督の遺作「タレンタイム 優しい歌」(08)が、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムほかで公開されている。マレーシアの高校を舞台に、人種や宗教の異なる生徒たちが、それぞれの悩みを抱えながら音楽コンテストに挑む物語。多民族、多言語、多宗教の国で、ヤスミン監督は共存する素晴らしさと知恵を発信し続けた。突然の死から8年、テロと分断の危機が世界を覆う今こそ、見る者の心に染み入る作品だ。

 ヤスミン監督の全6作品のうち、「細い目」(04)、「グブラ」(05)、「ムクシン」(06)、「タレンタイム 優しい歌」と4作品に出演した女優で歌手のアディバ・ノールが日本公開に合わせて来日した。世界にテロが蔓延し、宗教間の溝が深まる今、一人のイスラム教徒、マレーシア人としての思いを聞いた。

 主なやり取りは次の通り。

 ──ヤスミン監督は「分断」を嫌った人でした。イスラム教徒を名乗る人々によるテロが増え、世界は分断の危機にさらされています。穏健なイスラム教国と呼ばれるマレーシアの市民、一人のイスラム教徒として、世界はどう見えますか。

 いま世界で起きていることは、イスラム教の真理のために行われたことではなく、個人の利益が追求された結果だと思います。「イスラム教徒が起こした」こととは思いません。しかし、そういうもの(テロや過激思想)がさらされて、人々の目につくようになると、世界の人々の物の見方に影響します。テロはあくまでジハード(聖戦)の実現を考える人たちがやっていること。マレーシアでは宗教を問わず、誰もがテロはいけないことだと思っています。

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 ──監督がこの世を去って8年になります。「タレンタイム 優しい歌」が製作された当時と今のマレーシア社会を比べて、どんな点が変わりましたか。

 人々の団結力は強くなっています。ネットでSNS(交流サイト)を見てもそう感じます。政治への不満が募るほどに、市民が互いを認め合い、助け合おうとしています。もちろん少数派ですが、分断を起こそうとする人はいます。しかし、私たちマレーシア人には、植民地主義に対抗してきた時代から、魂の中に団結して戦う心が根付いているのです。分断を利用しようとする魂胆が見えるほど、人々の団結力は強くなる。テロは一部の問題ある指導者が原因です。人々に問題はありません。

 ──世界中に国を追われる難民があふれ、日本も移民や外国人をより多く受け入れる時代になりました。受け入れる側として、日本人が心に留めておくべきことは何でしょうか。

 移民や労働者がほかの国を訪れる時、「入れてほしいな」と思ったら、その「家」の暮らし方、習慣や文化に自分を合わせようとします。たとえばマレーシアも日本も、家に入る時は靴を脱ぎます。土足で入るのは、私の考え方では誤りです。しかし、家の住民はゲストのニーズも考えなければなりません。宗教であれ、生活するうえで必要なことであれ、互いを尊重し、開かれた発想でいることが大切です。違いがあることは、優劣があることではありません。相手を「もっと知りたい」と思い、互いに探り合い、発見し合うことが重要です。

 日本にもさまざまな国のイスラム教徒が住んでいますよね。イスラム教徒を受け入れるため、お祈りの場所や(イスラム教の戒律を守った)ハラルの食事を用意する動きがあると聞きました。日本にも受け入れる用意がある、ということだと思います。

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 ──「タレンタイム 優しい歌」に登場する高校は、マレー系、中華系、インド系の生徒が入り混じっています。マレーシアでは一般的なことなのでしょうか。

 作中に登場する高校は公立高校で、よくある学校の風景です。人種が混ざり合っていますね。ヤスミン監督らしいな、と思ったシーンがありました。中華系の少年が中華系の先生に、マレー系の同級生への不満を相談します。でも、先生はきちんと同級生には否がないことを説明し、「人種で人を判断するのはいけない」と伝えます。監督からのメッセージだと思います。

 私自身はちょっと保守的な育ち方をしました。母は「特定の人種は避けた方がいい」と言うような人でした。ただ、学校へ行けばいろいろな人種の同級生がいるので、そういう環境にはなじんでいました。ヤスミン監督と仕事をするようになり、彼女の「違いを悪いものととらえるのではなく、みんなで分かち合おう」とする考えを当然と思うようになりました。ヤスミン監督には大きな影響を受けました。

(文・写真 遠海安)

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「タレンタイム 優しい歌」(2008年、マレーシア)

監督・脚本:ヤスミン・アフマド
出演:パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショール

シアター・イメージフォーラム(東京・渋谷)ほかで公開中。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/talentime

作品写真:(C)Primeworks Studios Sdn Bhd

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2017年04月08日

「マイ ビューティフル ガーデン」“植物恐怖症”のヒロイン、庭作りで得た出会い

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 ガーデニングの伝統ある英国を舞台に、“植物恐怖症”の変わり者ヒロインが、庭作りを通して成長するドラマ「マイ ビューティフル ガーデン」。
 
 ベラ(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は生活スタイルにこだわりを持っている。家に付いている庭は荒れ放題。植物恐怖症の彼女にとって、庭はありがた迷惑な存在だった。美しい庭を愛する偏屈な隣人アルフィー(トム・ウィルキンソン)は、ベラが目障りで仕方がない。庭の手入れをしないベラに、ある日突然退去命令が届く。

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 生後間もなく公園に捨てられたベラ。冒頭で不幸な生い立ちが冗舌に語られる。フランスのヒット作「アメリ」(01)のジャン・ピエール・ジュネを思わせる演出だ。ベラのトラウマになった公園の植物。食事、服装、時間と秩序にこだわる子ども時代。変わり者のベラができる過程がテンポよく描かれる。

 大人になったベラはアパートに暮らし、絵本作家を夢見ながら図書館勤め。極端に秩序にこだわるが、庭の手入れはしない。そんなベラにかかわる男性3人。まずは頑固老人のアルフィー。庭を放ったらかしのベラに口うるさく絡む。

 さらにアルフィーのお抱え料理人バーノン(アンドリュー・スコット)。料理の腕は抜群で、法律に詳しい双子の女子を育てるシングル・ファーザー。ベラに朝食を作ってアルフィーの逆鱗に触れ、首になったところをベラに雇われる。最後は図書館に来る風変わりな発明家のビリー(ジェレミー・アーバイン)。自分と正反対に自由で型破りなビリーに、ベラは恋心を抱く。

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 変わり者のベラは3人の男たちにかかわり、偏屈な心を徐々に解き放っていく。荒れ放題の庭も手入れされ、色とりどりの花が咲き誇るようになり、頑なな老人の心も癒やされていく。個性豊かな登場人物が織りなす物語は、心を通わせハーモニーを奏で、美しい庭へと結びつく。

 ややできすぎな印象はあるが、魅力的な俳優たちのアンサンブルは心地よい。ユーモラスな語り口で、ちょっと風変わりな英国流シンデレラ・ストーリーに仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「マイ ビューティフル ガーデン」(2016年、英)

監督:サイモン・アバウド
出演:ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、トム・ウィルキンソンアルフィー・スティーヴンソン、
ジェレミー・アーバイン、アンナ・チャンセラー

2017年4月8日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.my-beautiful-garden.com/

作品写真:(C)This Beautiful Fantastic UK Ltd 2016

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2017年04月07日

「LION ライオン 25年目のただいま」迷子になった少年 故郷インドへの長い道

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 サルー・ブライアリーが体験した実話を映画化した「LION ライオン 25年目のただいま」。インドで迷子になった少年が、25年後に電子地図サービス「グーグル・アース」を使い、故郷を探し出す物語だ。監督はオーストラリア出身のガース・デイビス。長編デビュー作となる。

 1986年、インド。5歳のサルー(サニー・パワール)は、母と兄弟4人で暮らしていた。兄の仕事へついて行ったある日、回送列車の中で眠ってしまう。着いた先は大都市コルカタ。言葉も通じぬ見知らぬ町へ放り出され、サルーのサバイバル生活が始まった。

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 町で優しい女性に拾われ、食事と風呂を世話してもらったサルー。翌朝、自分に目をつける男の存在を察知し、再び逃げ出して放浪する。やがて警察に保護され、孤児院に入れられた。子どものいない裕福なオーストラリア人夫妻と養子縁組が成立。「サルー・ブライアリー」としての新しい人生が始まった。

 08年、サルー(デブ・パテル)はオーストラリア南部のタスマニアで暮らす養父母のもとを離れ、メルボルンの学校でホテル経営を学んでいた。友人のルーシー(ルーニー・マーラ)と訪れたホームパーティーで、インドの揚げ菓子を見た瞬間、故郷の記憶が蘇った。生い立ちを話すサルーに、友人の1人が「グーグル・アースなら地球のどこでも行ける」と話す。

 母の名も、住んでいた町の場所も忘れてしまったサルー。「列車に乗った駅の近くに給水塔があった」記憶だけを頼りに、グーグル・アースを使った故郷探しの旅が始まった──。

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 サルーの数奇な半生は、インドとオーストラリアの2部構成で語られる。貧しい家族とはぐれ、過酷な放浪生活を送ったインドの日々。町をさまよう中、人身売買や児童買春を匂わせる描写もあり、かなり危険な状況をかいくぐったことが伺える。長じてオーストラリアに暮らすサルーは、故郷の家族を思う気持ちが高まり、とりつかれたようにルーツを探し求める。

 子ども時代を演じたパワールの生命力あふれる演技、大人になったサルー役のパテルが見せる揺れる心。実話だけに終着点は想像できるが、細かなエピソードが積み重ねられ、演出は丁寧だ。脇に徹したニコール・キッドマンが重要な役で支え、見ごたえのある作品になった。

(文・藤枝正稔)

「LION ライオン 25年目のただいま」(2016年、オーストラリア)

監督:ガース・デイビス
出演:デブ・パテル、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマン、デビッド・ウェンハム、サニー・パワール

2017年4月7日(金)、TOHO シネマズみゆき座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/lion/

作品写真:(C)2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia

タグ:レビュー
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