「夜、鳥たちが啼く」佐藤泰志原作 売れない作家の鬱屈と再生

レビュー

 若くして小説家デビューするも、その後は鳴かず飛ばず。恋人にも去られ、鬱屈とした日々を送る慎一(山田裕貴)。そんな彼のもとに、友人の元妻・裕子(松本まりか)が、幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。慎一は一軒家を2人に提供し、離れのプレハブで寝起きを始める。自分へのいら立ちから他者を傷つけてきた慎一は、無様な自分を物語につづっていく。

 監督は「アルプススタンドのはしの方」(20)、「愛なのに」(22)の城定秀夫。「そこのみにて光輝く」、「オーバーフェンス」の作家・佐藤泰志の短編小説を、同2作に続いて高田亮が脚本化した。

 佐藤の小説は「海炭市叙景」(10)を皮切りに、「そこのみにて光輝く」(14)、「オーバーフェンス」(16)、「きみの鳥はうたえる」(18)、「草の輝き」(21)と立て続けに映画化されてきた。共通点は主人公が挫折した男であることだ。今回の慎一も同様で、昼はコピー機のメンテナンス仕事をする売れない小説家。恋人にも去られ、プレハブに引きこもっている。

 現在を軸に話は進み、次第に過去が見えてくる。最初は慎一と裕子母子の関係は分からない。が、やがて慎一の恋人奪った男の妻子であると分かる。母屋と離れで奇妙な「半同棲」生活が始まり、慎一の鬱屈した日々に変化が表れてくる。

 山田の主演作としては、かなり異色といえるだろう。これまでのシャープなイメージと異なり、無精ひげにメガネ。負け犬のようにネガティブな役は新境地。難役にチャレンジしたようにみえる。裕子を演じた松本も、難しい挑戦だった。夫をほかの女性に奪われ、行き場を失ったシングルマザーは、女優として一段階上がるのに必要な役か。城定監督は今年、長編映画4本を監督する多作ぶりだ。別れと出会いを乗り越え、転機を迎えた主人公を、濃密に描いた良作だ。

(文・藤枝正稔)

「夜、鳥たちが啼く」(2022年、日本)

監督:城定秀夫
出演:山田裕貴、松本まりか、森優理斗、中村ゆりか、カトウシンスケ

2022年12月9日(金)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

映画『夜、鳥たちが啼く』オフィシャルサイト
絶賛公開中|主演:山田裕貴、共演:松本まりか、原作:佐藤泰志×脚本:高田亮(『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』)、『女子高生に殺されたい』『ビリーバーズ』城定秀夫監督最新作

作品写真:(C)2022 クロックワークス

コメント

タイトルとURLをコピーしました