韓国インディペンデント映画界で存在感 「ゆうばり2年連続グランプリ俳優」イ・テギョンに聞く

インタビュー

 韓国の映画祭などで新鋭監督の映画を何本も見ていると、よく見かけるキャストがいることに気づく。イ・テギョンもその一人だ。ここ5年ほどは毎年複数の作品が韓国国内で公開されている。日本では「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のコンペティション部門で、主演作が2年連続でグランプリに輝き、コアな映画ファンの注目を集めた。7月末にゆうばり映画祭で審査員を務めるため来日。オンラインで話を聞いた。

ゆうばり映画祭オープニングセレモニーに登壇(右から2人目、ソ・ミノ撮影)

 ――ゆうばりのグランプリ受賞作は2020年のファンタスティック・ゆうばり・コンペティション部門「湖底の空」(佐藤智也監督)、2021年のインターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門「おそとはキケン」(チョ・チャングン監督)。2年連続の「グランプリ俳優」となり、その縁から今回、佐藤監督を通じて審査員を打診された。

 審査員の経験はなく、映画を主観的に見て評価することにプレッシャーを感じて最初は断った。でも佐藤監督が熱心に勧めてくれたことに勇気をもらって引き受けた。いざノミネート作を見てみると質の高さに驚いた。商業映画に近い作品も多く、刺激を受けた。

 ――日韓中の合作「湖底の空」は、一卵性双生児の不思議な絆と葛藤を描いている。主人公は姉の「空」だが、性別適合手術を受けて女性になった弟「海」も同時に演じた。空は日本人の父と韓国人の母を持ち、中国で働く設定。キャラクターが複雑なうえに日本語や中国語のセリフも多く、役作りに苦労したのでは。

 一人二役のシーンは日本ロケが始まって間もない頃に撮った。現場に慣れる前の撮影だったため、苦労しなかったといえばうそになるが、共演者やスタッフの皆さんに助けてもらった。合作映画に出るのは初めて。共演者もスタッフもみんな古い知り合いのように互いをリスペクトし、雰囲気はとても良かった。

「湖底の空」の佐藤智也監督(右)、共演のみょんふぁ(中央)と=ソ・ミノ撮影

 中国語は本当に難しく、セリフを丸暗記して撮影に臨んだ。日本語は、子どもの頃から日本のアニメやドラマをよく見ていて多少なじみがあった。ただ発音や抑揚に注意しながらセリフに感情をこめるのは難しかった。日本人スタッフが修正してくれたりして、何とかこなした。
 
 ――シリアスな「湖底の空」から一転、「おそとはキケン」は一風変わったラブコメディー。家から一歩も出ないで過ごすウェブ小説の作家が、自作のフィギュアにそっくりな顔をした出前持ちの男性と出会い、日常が変化していくストーリーだ。仕事も食事も買物も趣味もオンラインで解決し、ひとりの生活に満足している主人公の姿は、コロナ禍で他人との対面コミュニケーションがままならなかった私たちの姿と重なる。

 「おそとはキケン」の主人公は、家の中で自分だけの小宇宙を作って暮らしている人。それがとても興味深くて出演を引き受けた。コロナ時代を反映したシナリオを読んだのはその時が初めてで、このような時代を記録した映画に出ることには意味があると思った。マスクをしたままキスするラストシーンも印象深い。

「おそとはキケン」(c) Wise&Magnificent film company

 ――日本のアニメやドラマをよく見ていたとのことだが、特に好きだった作品は。

 ドラマ「花より男子」が大好きで、「リターンズ」や映画版も全部見た。(「花より男子」キャストの)阿部力さんが「湖底の空」の相手役で、会った時は「わあ、芸能人だ」という感じになって……(笑)。アニメは「もののけ姫」や高橋留美子の作品。あだち充の漫画も好きだった。

 ――そもそも、俳優になったきっかけは。インディペンデント映画を中心に多くの作品に出演しているが、作品選びのポイントは。

 漫画家になるのが夢だったが、中学3年生の時に突然「演技をしたい」と思った。高校2年生の時に青少年劇団に所属し、20歳から短編映画などに出演してきた。今はインディペンデント映画だけでなく、商業映画やドラマにも活動の場を広げている。

 作品選びのポイントは、第一にシナリオ。シナリオが面白く、「この役を演じてみたい」と感じるかどうかが重要だ。第二に監督と話してみて考えや感性が合うことを重視している。

「湖底の空」(c)マレヒト・プロ

 ――韓国のインディペンデント映画は活性化しているように見える。公的な助成金も多く、日本に比べて製作環境は良いようだ。よく知られた俳優が出演していることもあるが、キャスティングはどのように行われているのか。

 韓国の場合、俳優は本人の意志さえあればインディペンデント映画にも比較的自由に出演できると思う。アクセスする門が広く開かれている。以前はインディペンデント映画の領域がはっきりしていて(注)、ドラマや映画に出演している俳優にはあまり縁のないものだった。ジャンルが多様化して人気も高まり、商業作品との境界がだんだん消えていって、現在は有名俳優の出演もある。

(注)韓国のインディペンデント映画の源流は1980年代、民主化前後の時代の映像運動にある。当時の主流は社会問題を扱うドキュメンタリーで、都市開発から取り残された住民や低賃金労働者の現実をあぶり出す作品が多く作られた。民主化後は低予算映画のジャンルが多様化。「息もできない」(2008)、「牛の鈴音」(2009)、「はちどり」(2018)などは口コミでヒットし、海外での劇場公開も増えている。韓国映画振興委員会(KOFIC)は2007年、ドキュメンタリー映画、芸術映画、学生映画など商業映画以外の作品を総称する呼称として「多様性映画」の用語を初めて使用した。

(文・芳賀恵)

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