チャン・リュル監督に聞く 「柳川」ほか“福岡三部作”今月公開「忘れられない場所だった」

インタビュー

 中国朝鮮族のチャン・リュル(張律)監督が福岡県柳川市で撮影した「柳川」が2022年12月30日(金)から公開される。韓国を中心に活動してきた監督にとって、「豆満江」(10)以来11年ぶりの中国語映画。今回は“福岡三部作”の「福岡」(18)、「群山」(19)も同時期に上映され、チャン・リュル監督の世界観をスクリーンで堪能できそうだ。

 中国・北京に住むドン(チャン・ルーイー、張魯一)は余命宣告を受けた後、兄のチュン(シン・バイチン、辛柏青)を柳川への旅に誘う。柳川には、かつてチュンの恋人でありドンがひそかに恋していた「リウ・チュアン(漢字表記では柳川)」(ニー・ニー、倪妮)が暮らしている。理由も告げずに突然姿を消したチュアンに、兄弟は20年ぶりに再会する――。

 掘割の川下り、神社、古民家、オノ・ヨーコゆかりの地、ボートレーサー養成所。柳川市内を巡りながら3人はさまざまな話をし、酒を飲み、現地の人々と交流する。チャン監督はこれまで「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」(14)、「群山」、「福岡」と地方都市を舞台にした映画を発表してきた。「柳川」も、風景と登場人物がしだいに溶け合いながら幻想的な空間を作り出している。

 公開を前に、チャン監督がオンラインでインタビューに応じた。

 ――新作の舞台に柳川市を選んだ理由は。東アジアの歴史にかかわる問題意識を描いてきた監督が、ラブストーリーを作ったことは意外でした。

 2007年から「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」に何度か参加していますが、ある時柳川市を訪れ、その空間に非常に興味を持ちました。帰国しても忘れられない場所があると、そこで映画を撮りたくなります。柳川は美しく静かな水の町。そういう場所からこまやかで豊かな物語が生まれるのではないか、そしてそれはラブストーリーではないかと考えました。ラブストーリーにした理由は……、映画監督なら誰でも撮りたいと思っているのではないでしょうか(笑)。いつ撮るかは人それぞれで、私のタイミングは今だったということです。

中国スターのニー・ニー起用「20分話して決まった」

 ――ニー・ニーら中国のスターが名を連ねています。キャスティングはどのように行いましたか。

 私は主に韓国で活動しているため中国の俳優とはほとんど親交がありません。ですからプロデューサーが俳優に脚本を送るという通常の手続きで進めました。ヒロインのリウ・チュアン役は、数人の写真を並べて誰が一番イメージに近いかを考えたところ、ニー・ニーが一番良かったのです。デビュー作の「金陵十三釵」(チャン・イーモウ監督、日本未公開)の好印象もありました。プロデューサーは「大スターだから難しいだろう」と言いましたが、脚本を送ると1週間ほどで返事が来て、会うことになりました。会って20分ほど話して「じゃあ撮りましょうか」「そうしましょう」という感じで……。ドン役のチャン・ルーイーは友人の紹介、チュン役のシン・バイチンはチャン・ルーイーの紹介です。

 ――日本人キャストについてもお聞きします。旅館の主人役の池松壮亮、居酒屋の女将役の中野良子の起用は。

 脚本の段階では、旅館の主人はチュンと同年代の中年の設定でした。しかし池松さんに東京でお会いする機会があって、とても好感を持ち、彼に演じてもらうために脚本を書き直したのです。結果的に正解でした。中野さんは私にとって永遠のアイドルです。映画「君よ憤怒の河を渉れ」が中国でも1970年代に公開されて大ヒットしたため、当時中国で青春時代を過ごした人なら誰でも彼女を知っています。中野さんと一緒に仕事をしている間はずっと夢見心地でした。

年を取るにつれ「夢と現実の区分が曖昧に」

 ――赤い服の日本人形は「群山」、「福岡」とも効果的に登場していましたね。

 「群山」では、父とともに福岡から韓国に移った少女が母との思い出の品として持っていました。この人形は高価で、プロデューサーに「予算が出せない」と言われたので自腹で買いました。それが少しシャクだったので、「群山」で少女役を演じたパク・ソダムに「福岡」でも使わせましたし、「柳川」でも使ったのです。

 ――監督の故郷である延辺州が舞台の「キムチを売る女」、「豆満江」は、社会から疎外される朝鮮族の生活や苦悩がリアルに描かれています。一方「福岡」や「柳川」など近年の作品ではファンタジーの要素が強くなっているようです。

 その要因は、一つは登場人物の状況、もう一つは私の年齢です。まず「キムチを売る女」、「豆満江」は朝鮮族の置かれている社会的な地位や状況など現実を反映したリアルな描写となっていますが、「福岡」「柳川」の登場人物は他の場所から来た人々で、教養も社会的地位もあります。どちらも暗さを持っていますが、暗さの原因は異なります。その違いが映画の表現の違いにも表れているのでしょう。次に、私自身が年を取るにつれて夢と現実の区分が曖昧になり、一体か、あるいはコインの表裏のように思えるようになったからです。

(聞き手・芳賀恵)

「柳川」 Yanagawa(2021年、中国)

監督・脚本:チャン・リュル
出演:ニー・ニー、チャン・ルーイー、シン・バイチン、池松壮亮、中野良子、新音

2022年12月30日(金)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。12月16日(金)から福岡KBCシネマで先行公開。作品の詳細は公式サイトまで。

映画『柳川』公式サイト
映画『柳川』公式サイト

「福岡」(2019年、韓国)

出演:クォン・ヘヒョ、ユン・ジェムン、パク・ソダム、山本由貴

2022年12月23日(金)から新宿武蔵野館で1週間限定公開。12月23日(金)からKBCシネマ(福岡)、12月30日(金)から横浜シネマリン(神奈川)ほかで順次公開。

映画『福岡』公式サイト
映画『福岡』公式サイト

「群山」(2018年、韓国)

出演・パク・ヘイル、ムン・ソリ、チョン・ジニョン、パク・ソダム

2022年12月23日(金)から順次公開。

映画『群山』公式サイト
映画『群山』公式サイト

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