パク・チャヌク監督「別れる決心」で来日 「コロナ禍での製作、ベストを尽くした」

舞台あいさつ

 カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した韓国映画「別れる決心」のパク・チャヌク監督がこのほど来日し、東京都内で舞台挨拶と観客とのティーチイン(質疑応答)イベントに参加した。前作「お嬢さん」(16)以来5年10カ月ぶりの来日。パク監督は「コロナ禍を経て初めて作った映画。ベストを尽くして作った」と語った。

 「別れる決心」は、パク監督作品初出演のパク・ヘイル、中国の女優タン・ウェイ(湯唯)が初共演したサスペンス。転落死した男の妻・ソレ(タン・ウェイ)と事件を捜査する刑事・ヘジュン(パク・ヘイル)が対峙しつつ、ひかれ合う物語。犯罪、推理、愛情が絡み合う筋立て、パク監督ならではの映像美が光る作品だ。米アカデミー賞の韓国代表で、米ゴールデン・グローブ賞でも候補作となっている。

俳優の磯村勇斗(左)から花束を贈られ、笑顔を見せるパク・チャヌク監督=東京・日比谷で12月26日、龐棟元撮影

5年10カ月ぶり来日「現場は対話重視。話し合いで成長できる」

 パク監督は東京・日比谷で26日あったジャパンプレミア上映で舞台挨拶。会場を埋めた観客に「コロナ禍を経て初めて作った映画。とても意味深い作品で、ベストを尽くして作った」と挨拶した。ゲストの韓流司会者・古家正亨氏が「これまでの監督作に比べ、暴力や性描写が抑えられているが官能的。かなり興奮した」とコメント。パク監督は「古典的スタイルで製作した。過去の刺激的な作品より好評で非常に興味深い。人を愛する感情や別れのつらさは、国や世代を超えて共通だと再認識した」と話した。

 さらに、ゲストの俳優・磯村勇斗がてパク監督に花束を贈呈。「撮影現場で心がけていること」を尋ねると、監督は「対話。作品を見た人は、私が一人で色々なことにこだわり、周りの意見を聞かない人間と思うかもしれないが、私は誰よりも俳優やスタッフと話し、彼らの話を聞く。話し合いから良いものを選択でき、自分の考えが成長する。それはとても重要」と述べた。

「愛こそミステリー。誰かにひかれる理由は大きな謎」

 翌27日には東京・汐留でティーチイン・イベントに参加したパク監督。観客からの質問に答えた。最初に司会者が「ミステリーとロマンスを融合させる方法を取る理由」を問うと、パク監督は「愛はとても大きなミステリー。二つはとても調和する要素だと思う。自分が誰かにひかれる理由は、口で言い表せないほど大きな謎。二つの融合は理にかなっている」と説明した。

 また、観客から韓国語と中国語が交差するシーンについて「やりとりがもどかしく、かつセクシーだった。言葉が通じないけれど何かで通じ合っている。どう考えて作ったのか」と質問が出た。監督は「言葉が通じない同士の愛は、物語の効果的な装置になる。愛を成就するため、厳しい条件があるほどドラマチックになる。言葉の壁を活用せずにいられなかった」と話した。

観客からの質問を聞き、答えを探すパク・チャヌク監督=東京・汐留で12月27日、龐棟元撮影

中国語と韓国語 通訳が必要なシーン「逆手に取って利用した」

 さらに、劇中で通訳が必要になるシーンについて解説。「描写に時間がかかるので通常は避けがちだが、私は逆手に取って利用した。主人公と観客をもどかしくさせ、『何を話しているのか』と思わせたかった。今も私は韓国語で話しているが、何を言っているのか気になるでしょう。だから短く話して通訳に任せたい」と話し、会場の笑いを誘った。

 続いて、観客が「これまでと異なり、ロマンチックなラブストーリーにした理由は」と質問。監督は「過去の作品もロマン主義的なラブストーリーだと考えている。暴力的でエロチックなシーンの印象が強く、愛の話が見えづらかったかもしれない。今回はより直接的に愛の物語だと見せたくて作った」と話した。

デジタル化も前向きに解釈「スマホを通じ、相手の手を握っている」

 さらに、劇中で効果的に使われたスマートフォン、スマートウォッチなどのデバイス(道具)について、脚本との関係を交えながら説明。「最初の脚本を読み返し、スマホからメッセージを送るシーンを避けようとしたが、すぐにあきらめた。現代に暮らす人々の生活を描くからには避けられない。個人的にはフィルムカメラや旧式のテープレコーダー、紙の資料などを使いたいと思うこともあるが、観客はむしろ不自然さを感じるだろう。現代の人々が共感できる映画を作りたいので、事実をそのまま使おうと考えた」と話した。

 日常生活のデジタル化について「デジタルは冷たいと感じるかもしれないが、必ずしもそうではない」と指摘。「私たちはスマホを手の一部のようにいつも握っている。自分が送ったメッセージを相手が今読んでいることまで分かる。機械的な冷たさではなく、相手も手の一部になっているような、相手の手を握っているような感覚にもなり得る。物理的に二人が離れていても、メッセージを通じて、まるですぐそばにいるような効果が得られると考えた。これらのデバイスを使うことが避けられないのなら、効果的にたくさん使おうと思った」と説明した。

 最後に監督は「多くの人が『2回以上観るとより面白い』と言ってくれている。1回目は主人公のヘジュン(刑事)の視点、2回目はヒロインのソレの視点。皆さんもそう感じてもらえるか分からないが、そんな口コミが広がっていることを伝えたい」とユーモアを交え、日本の観客に呼びかけた。

(文・阿部陽子 写真・龐棟元)

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「別れる決心」(2022年、韓国)

監督:パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ

2023年2月17日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

映画『別れる決心』公式サイト|絶賛上映中
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