1969年、文化大革命真っただ中の中国。造反派に抵抗し、強制労働所送りになった男(チャン・イー)は妻と離婚。最愛の娘とも疎遠になってしまう。数年後、映画本編前に流れるニュース映画“22号”に娘の姿が1秒だけ映っているとの手紙を受け取った男は、居ても立っても居られず、強制労働所から脱走。逃亡者となりながらも、22号のフィルムを探し続ける──。
巨匠チャン・イーモウ監督が親子愛と映画への愛を絡めて描いたノスタルジックでシンプルなドラマ。文化大革命という厳しい時代を背景に、娘を思う父親と、映画の原点であるフィルム上映をノスタルジックに描く。イタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」(88)に通じるもので、サブタイトルの「永遠の24フレーム」は、1秒間の映像に必要なフィルムのフレーム数を表している。
監督の作風は多岐にわたる。武侠映画「HERO」(02)や「LOVERS」(04)などの娯楽アクション、「初恋のきた道」(99)や「あの子を探して」(99)といった牧歌的な作品。監督が大ファンの高倉健を招いて製作した「単騎、千里を走る」(05)もある。ノスタルジックな過去を描いた「ワン・セカンド」は、「初恋のきた道」に通じる。
サイレント映画のように、人物の動きと簡単なセリフで物語は始まる。砂漠を越えて村にたどり着いた男。村には男が探している映画のフィルム缶を積んだバイクが停まっている。しかし、路上生活者の少年がフィルム缶を盗み、一転追跡劇となる。少年と思っていたボサボサ頭の子どもは実は少女。孤児のリウ(リウ・ハウツン)で、電気スタンドの笠にするためフィルムがほしかった。娘の映像を一目見たい男と、フィルムがほしいリウ。目的は全く違うものの、移送されるフィルムとともに映画が上映される村へ一緒に移動する。
作品には監督の青春時代の思い出が反映されているという。数か月に一度の映画上映は、村にとって一大イベント。村人たちの高揚感と、村人を親分の様に取り仕切る映画館主(ファン・ウェイ)。現代のデジタル上映に対するアンチテーゼのように、フィルム上映という手間ひまかかる方法を、おごそかに描く。神聖な一大儀式として上映を大事にする人々に、監督のフィルム上映への愛をひしひしと感じる。
そもそも敵対関係だった男とリウは、様々な困難を一緒に乗り越えて意気投合。疑似親子のような姿となる。健気な娘の1秒の映像を、愛おしそうに何度も見返す男。再びセリフなしでサイレント映画のようなエピローグ。人生の悲喜こもごもに映画愛と親子愛を絡め、凝縮させて饒舌に見せる。監督の円熟を感じるノスタルジックな作品だ。
(文・藤枝正稔)
「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」(2020年、中国)
監督:チャン・イーモウ
出演:チャン・イー、リウ・ハオツン、ファン・ウェイ
2022年5月20日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
作品写真:(C)Huanxi Media Group Limited
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