大阪アジアン映画祭、民族や境界を超え連携

映画祭

グランプリは韓国の女性監督作「おひとりさま族」

 「第17回大阪アジアン映画祭2022」(大阪市)は3月20日、コンペティション部門のグランプリにホン・ソンウン監督(韓国)の「おひとりさま族」を選んで幕を閉じた。今年は11日間にわたり、同映画祭が積極的に紹介してきた“民族や境界を超えた合作”をはじめ、31カ国・地域の77本を上映。ゲストの登壇はなかったが、監督・出演者のメッセージやインタビューを公式YouTubeチャンネルで公開するなど、観客とのコミュニケーションを図る工夫が見られた。

ビデオメッセージを寄せるチャン・リュル監督=3月10日

 オープニングとクロージングはいずれも海外の監督が日本で撮影した合作映画。オープニングはチャン・リュル(張律)監督が福岡県柳川市で撮影した中国映画「柳川」だ。シン・バイチン(辛柏青)とチャン・ルーイー(張魯一)が演じる兄弟が、かつて愛した「柳川」という名の女性(ニー・ニー=倪妮)を探しに柳川を訪れる物語だ。彼らと触れ合う地元住民として池松壮亮と中野良子が出演している。

 チャン監督はビデオメッセージを寄せ、「中国の昔の言葉に『当事者より第三者の方が物事を正しく判断できる』というものがあるが、恋愛では通用しない。誰もが大きな迷路に入り込んでしまう。皆さんがこの映画をご覧になった時、少しでも恋愛の美しさや温かさ、そして幸せを感じていただけたらうれしい」と映画に込めた思いを語った。

「柳川」=映画祭事務局提供

 クロージングの「MISS OSAKA」(原題=ダニエル・デンシック監督)は大阪を舞台にしたデンマーク・ノルウェー・日本の合作。暉峻創三プログラミング・ディレクターは「もはや映画の製作国や内容の境界線はなくなっている。意識しなくても国際的な合作が集まってくる」と話す。

暉峻創三プログラミング・ディレクター

短編も倍増、今年は22本 時代と社会を見つめて
 昨年まで10本前後だった短編映画の上映は、今年は22本に増えた。暉峻ディレクターが「例年より応募も多く、できばえもすばらしい」と絶賛するように、時代と社会を真摯(しんし)に見つめた作品がそろった印象だ。

 インドのアルン・フラーラー監督が LGBTQ(性的少数者)をテーマに製作した「母のガールフレンド」、コロナ禍の就職活動を風刺した「アウトソーシング」(坂下雄一郎監督)、台湾の二・二八事件後の白色テロ時代に材を取った「三月的南国之南」(リー・シャンチャオ=李尚喬監督)など、ラインアップは多岐にわたった。

グランプリは「孤独」がテーマ
 コンペ部門のグランプリに選出された「おひとりさま族」は「孤独」をテーマに据えた作品だ。コールセンターで働くジナ(コン・スンヨン)はクレーム対応のプロだが、人間関係を作ろうとせず、常に一人でいることを好む。そんなジナはある日、マンションの隣人が孤独死していたことを知る。ジナは職場で新人教育を任されるが、うまく接することができない。そうするうちに彼女の世界は少しずつ変わり始め、たった一人の肉親である父親との関係も変化していく──。

 数年前に「ホンパプ」(ひとり飯)、「ホンスル」(ひとり酒)という言葉が流行するまでの韓国は、一人で食事や映画鑑賞がしにくい雰囲気だった。しかし現代韓国では、一人で生活することを選ぶ人も増えている。果たして人は他人と関わらずに生きて行けるのか。

 ホン・ソンウン監督は映画祭によるインタビュー動画で「配達もあり遠隔でコミュニケーションもできる現代社会では、一人で生きることは便利ともいえる。しかし他人と関係を結ばずに生きることは不可能。そういうテーマを集めたらシナリオができた」と、制作の動機を語っている。

 監督にとって初長編。韓国の独立映画界では女性の活躍が目覚ましいが、「おひとりさま族」も昨年の全州国際映画祭などで高い評価を受けた。

(文・写真 芳賀恵)

<受賞一覧>
・グランプリ(最優秀作品賞)
「おひとりさま族」(韓国)ホン・ソンウン監督
・来るべき才能賞
飯塚花笑(日本 「世界は僕らに気づかない」監督)
・コンペティション部門スペシャル・メンション
「アニタ」(香港)リョン・ロクマン(梁樂民)監督
・ABCテレビ賞
「はじめて好きになった人」(香港)キャンディ・ン、ヨン・チウホイ監督
・薬師真珠賞
バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル(モンゴル)「セールス・ガール」主演俳優
・JAPAN CUTS Award
「山歌(サンカ)」(日本)笹谷遼平監督
・芳泉短編賞
「二度と一緒にさまよわない」(トルコ・ロシア・ウクライナ)ユージーン・コシン監督
・芳泉短編賞スペシャル・メンション
阿部純子(日本・ネパール 「バグマティ リバー」出演)
・観客賞
「アニタ」(香港)リョン・ロクマン(梁樂民)監督

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