「女神の継承」タイと韓国がタッグ フェイク・ドキュメンタリー・ホラーの快作

レビュー

 タイの小さな村。若く美しいミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、人格が変わったように凶暴な言動を繰り返す。途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。ミンは一族の後継者に選ばれて憑依され、苦しんでいるのではないか。ニムは祈祷するが、ミンにとりついているものの正体は、想像を超える強大な存在だった──。

 一族の血を受け継いだニムに撮影隊が密着。「取材中に異変が起きたミンを写したドキュメンタリー」という設定だ。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(99)や「パラノーマル・アクティビティ」(07)と同じ手法で、“フェイク・ドキュメンタリー”、“モキュメンタリー”にあたるオカルト・ホラー映画だ。

 フェイク・ドキュメンタリーは低予算で作れるため、ホラーと相性がいい。日本では白石晃士監督が得意とし、「ノロイ」(05)や「オカルト」(09)を発表してきた。ブームは下火となったものの、今なおオリジナル・ビデオ作品で根強い人気ジャンルとなっている。

 一方、韓国映画「チェイサー」(08)のナ・ホンジン監督は、自作「哭声 コクソン」(16)に登場する祈祷師の生い立ちを描きたいと構想。動き出した企画は変化し、舞台はタイへ。ナ監督は原案、プロデュースにまわり、監督・脚本はタイ映画「心霊写真」(04)のバンジョン・ピサンタナクーンにバトンタッチした。

 タイの祈祷師文化を、ニムへの密着で観客に分かりやすく説明。外堀を埋めたところで、憑依されたミンが異常な行動を起こし、撮影隊や監視カメラの映像が積み重ねられる。クライマックスでは、異常行動が止まらないミンに、祈祷師が立ち向かう。

 タイの祈祷師文化を通じ、現実と虚構の間を行く“フェイク・ドキュメンタリー”で語るオカルト・ホラーの快作だ。憑依された女性を祈祷師が救う構図は、同ジャンルの傑作「エクソシスト」(73)と共通する。終盤の大規模な除霊儀式は、邦画「来る」(18)に通じる。悪霊に取り憑かれるミンの演技は、韓国映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」(16)のスタッフが指導したという。

 ブームも下火と思われた“フェイク・ドキュメンタリー・ホラー”映画だが、タイと韓国の精鋭クリエイターがタッグ。大胆かつ緻密に計算し、ショッキングな作品を生み出した。

(文・藤枝正稔)

「女神の継承」(2021年、タイ・韓国)

監督:バンジョン・ピサンタナクーン
出演:ナリルヤ・グルモンコルペチ、サワニー・ウトーンマサワニー・ウトーンマ、シラニ・ヤンキッティカンシラニ・ヤンキッティカン

2022年7月29日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

映画『女神の継承』 公式サイト - シンカ
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作品写真:(C)2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS ALL RIGHTS RESERVED.

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