「ボイリング・ポイント 沸騰」正真正銘のワンショット撮影 高級店舞台の群像劇

レビュー

 1年で最もにぎわうクリスマス前の金曜日、英ロンドンの人気高級レストラン。オーナーシェフのアンディ(スティーブン・グレアム)は妻子と別居して疲れ切っていた。運悪く衛生管理検査で評価を下げられるなど、次々トラブルに見舞われる。気を取り直して開店するが、予約過多でスタッフは一触即発。そこへライバルシェフのアリステア(ジェイソン・フレミング)が有名グルメ評論家を連れて来店。脅迫まがいの取引を持ち掛けられる──。

 全編90分間、ワンショットで撮影したスリリングな群像劇。監督は俳優から転身したフィリップ・バランティーニ。同じグレアム主演で監督がワンショット撮影した短編映画「BOILING POINT」(19)を長編化した。

 アルフレッド・ヒッチコック監督「ロープ」(48)、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14)、「1917 命をかけた伝令」(19)など、ワンショット撮影をうたわれた映画は多いが、いずれも巧みな編集による“疑似”撮影だ。しかし、今回は実際の高級レストランを借り切り、編集もCGもなく撮影された正真正銘のワンショットだ。

 妻子と別居し、崖っぷちに立たされたアンディにとって、最悪の90分間がリアルタイムで描かれる。予約でびっしりの金曜日、抜き打ち検査で評価は2ランク低下。発注忘れでいらいらするアンディのもとに、ライバルが評論家を連れてくる。さらに、人種差別的なクレーマー客、SNS投稿目的の面倒な客らの対応に、スタッフともども振り回される。

 レストランを舞台に、スタッフと客が交差する群像劇。中心にいるアンディは情緒不安定気味で、手にはボトルを持っていつも何かを飲んでいる。そこへライバルから脅迫じみた提案を突きつけられ、ストレスが増大。精神的に追い詰められて沸点に達する。

 ワンショット撮影の面白さに、店に集まるさまざまな面々のドラマが絡み合う。長回しで撮っているため、スタッフや俳優たちは相当リハーサルを繰り返したはずだ。監督はシェフとして12年のキャリアがあるという。経営の裏側や関係者のチームワーク、トラブルにまつわるエピソードまで細かく描かれる。レストランの舞台裏を垣間見る作品としても興味深い。

(文・藤枝正稔)

「ボイリング・ポイント 沸騰」(2021年、英)

監督:フィリップ・バランティーニ
出演:スティーブン・グレアム、ジェイソン・フレミング、レイ・パンサキ、ハンナ・ウォルターズ

2021年7月15日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

映画『ボイリング・ポイント/沸騰』公式サイト
2022年7月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ROADSHOW

作品写真:(C)MMXX Ascendant Films Limited

コメント

タイトルとURLをコピーしました