「君だけが知らない」複雑に絡む記憶喪失と幻覚 韓国佳作ミステリー

レビュー

 事故で記憶を失ったスジン(ソ・イェジ)は、幻覚で未来が見えるようになり、身辺で不可解な事件が次々と起こる。壊れた記憶、身元不明の遺体、怪しい隣人と謎の少女、優しすぎる夫、過去、現実、未来。真実は一体どこにあるのか──。 

 主演は韓国ドラマ「サイコだけど大丈夫」のソ・イェジ、「シルミド」(03)のキム・ガンウ。ソ・ユミン監督の長編デビュー作。監督は「八月のクリスマス」(98)や「四月の雪」(05)で知られるホ・ジノ監督の元で助監督や脚本担当を務めてきた。

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 顔以外を包帯で覆われ、病院のベッドに横たわるスジン。事故で記憶を失った彼女を献身的にサポートする夫のジフン(キム・ガンウ)。スジンは両親を亡くし、兄弟姉妹もいないと夫から聞かされる。やがて退院したスジンは、夫と暮らすマンションへと帰宅。夫からカナダ移住の計画を伝えられる。

 謎だらけで幕開けする「君だけが知らない」。起承転結の“起”をバッサリ割愛したことで、観客も記憶をなくしたスジンと同じように謎と事件に直面する。優しすぎる夫、怪しい隣人、同じマンションに暮らす謎の少女と女学生。周囲の状況にスジンは混乱していく。さらにスジンは幻覚に導かれ、事故前の自分の素性と夫の勤務先の名刺を発見する。一方、マンション建築現場で起きた窃盗事件を調べる刑事2人が物語に絡み、予期せぬ事実が判明する。

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 主人公が記憶喪失という設定を最大限に生かした物語だ。次々判明する謎や事件が絡み合いながら、話は二転三転する。結末はやや盛り過ぎの感があるが、不遇な主人公の生い立ちや過去が現在とつながり、失われた記憶の断片が埋まっていく。ミステリー・サスペンスとしてよくできている。記憶喪失の設定で一歩間違えれば話が破綻しかねないが、監督の堅実な演出に加え、主演2人の好演で乗り切った。韓国は日本の一歩先を行く秀作映画を次々送り出しているが、今回もそんな勢いを感じる佳作といえよう。

(文・藤枝正稔)

「君だけが知らない」(2021年、韓国)

監督:ソ・ユミン
出演:ソ・イェジ、キム・ガンウ、パク・サンウク、ソンヒョク

2022年10月28日(金)、シネマート新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

映画『君だけが知らない』公式サイト - シンカ
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