「オフィサー・アンド・スパイ」黒沢清監督トーク 冤罪めぐる権力との攻防「現代に通じる」

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 ロマン・ポランスキー監督最新作「オフィサー・アンド・スパイ」の公開を6月3日に控え、東京・渋谷でこのほど、黒沢清監督のトークイベントが開かれた。黒沢監督は「簡単な真実を公表することが、どれだけ難しいか。一度決められた事実を覆すのがいかに難しいか。現代に通じる話だ」と語った。

 19世紀末のフランスで起きた冤罪事件「ドレフュス事件」がテーマ。ドイツへの機密漏洩罪で終身刑となったユダヤ人のドレフュス大尉が無実だと気づいたピカール中佐と、証拠隠滅や文書の改ざんなどで隠蔽を目論む国との攻防を描く。

「オフィサー・アンド・スパイ」について語る黒沢清監督(左)と映画評論家の松崎健夫氏=東京都内で5月19日、龐棟元撮影

 この日は一般試写会後に黒沢監督が登場。満場の客席から拍手で迎えられた。ポランスキー監督作品では「フランティック」が一番好きという黒沢監督は「長いキャリアの中で、サスペンスから歴史物まで自由自在に撮っている。そういう監督はなかなかいない」と話した。

 「オフィサー・アンド・スパイ」について、黒沢監督は「権力システムの恐ろしさ、執拗な『面倒くささ』が描かれている」と指摘。冤罪を証明しようとするピカール中佐について「すでに自身が権力システムの中に取り込まれている。真犯人と対峙しても、自分の目的ではないので無関心。任務=目的に忠実で、権力に絡め取られている。真実はとても単純なのに、証明するために面倒なことを繰り返し、権力に埋もれて何も解決しない」と述べた。

 また、物語がドレフュスの視点ではなく、ピカールの視点で描かれていることについて分析。「ピカールのドレフュスに対する同情は描写されない。そこが面白い。ドレフュス事件を客観的に、特異性と巻き込まれる人々を描く。かわいそうな犠牲者の話として描きたくないんだな、と思った」と話した。

 さらに、ポランスキー監督の演出について、ドアを開けるシーンの積み重ねを取り上げて解説。「なにげないシーンを利用する演出がうまい。(繰り返し開けられるドアの)向こうに何があるのか。気づいたら観客が引き付けられるように描く。ポランスキーはそこが本当にうまい」と感服していた。

 最後に、作品のテーマが現代に通じると指摘。「簡単な真実を公表することが、どれだけ難しいか。一度決められた事実を覆すのがいかに難しいか。現代に通じる話だ」と語った。

(文・阿部陽子 写真・龐棟元)

(c)2019-LEGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINEMA-FRANCE3CINEMA-ELISEO CINEMA-RAICINEMA

「オフィサー・アンド・スパイ」(2019年、仏・伊)

監督:ロマン・ポランスキー
出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック

2022年6月3日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

映画『オフィサー・アンド・スパイ』公式サイト
歴史を変えた逆転劇。ロマン・ポランスキー監督最新作、世界が震撼した世紀の国家スキャンダル〈ドレフュス事件〉映画化。6月3日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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