「アネット」レオス・カラックス監督、歌でつづるダークな寓話

フランス

 仏映画「ポンヌフの恋人」、「汚れた血」のレオス・カラックス監督によるダークな寓話「アネット」。ロン&ラッセル・メイル兄弟のロックバンド「スパークス」がアルバムとして作り上げた物語を、全編通して歌で語るロック・オペラだ。

 米ロサンゼルス。攻撃的なユーモアセンスを持つスタンダップ・コメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)と、国際的なソプラノ歌手のアン(マリオン・コティヤール)。“美女と野獣”の二人は恋に落ち、注目を集める。だが、ミステリアスで非凡な娘・アネットが生まれ、夫婦の人生は狂い始める──。 

 独創的な作品だ。幕開けはカラックス監督のアナウンス。場所は音楽スタジオ。監督と娘のナスチャが見える。録音中のスパークスが女性コーラスを連れ、歌いながらスタジオを抜け出す。ドライバーとコティヤールが階段から降りてきて、スパークスと合流して街へ。指揮者役のサイモン・ヘルバーグ、監督親子も加わって歌を締めくくる。インパクト絶大な導入で、ヘンリーとアンの数奇な物語が始まる。

 フランス人のカラックス監督と、米ロックバンドのスパークスによるコラボレーション作品。メイル兄弟にとって念願の作品だろう。1971年デビューの兄弟は、イングマール・ベルイマンや仏ヌーベルバーグの影響を受け、映画作家を志してUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で学んだ。ジャック・タチ監督、ティム・バートン監督との合作話もあったが立ち消えに。月日は流れ、ついに「アネット」で夢が実現した。スパークスは「シェルブールの雨傘」(64)のジャック・ドゥミ監督にオマージュを捧げ、物語を歌でつづっている。一部を除いて俳優がすべてライブで歌ったという。

 美しくメルヘンチックではなく、一筋縄ではいかないダークな物語だ。高名なオペラ歌手アンとコメディアンのヘンリーは、いわば格差婚カップル。ヘンリーはゆがんだ愛と欲望を暴走させ、次々と過ちを起こす。母譲りの天使の声を持つ娘を使い、ひともうけをたくらむ。皮肉と暗喩が散りばめられた実験的な作品は、カラックス監督、スパークスのファンを魅了するだろう。

(文・藤枝正稔)

「アネット」(2020年、仏・独・ベルギー・日本・メキシコ)

監督:レオス・カラックス
出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーク

2021年4月1日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

4月1日(金)公開! 映画「アネット」公式サイト – 2021年カンヌ国際映画祭・オープニング作品・監督賞受賞

作品写真:(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

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