韓国最大の映画祭、第29回釜山国際映画祭2024が10月2~11日、韓国釜山市で開かれた。開幕作はネットフリックス製作の韓国映画「戦と乱」(11日に配信開始)。動画配信サービスの作品が同映画祭のオープニングを飾るのは初めてだ。開幕セレモニーでは国内外のゲストが次々にレッドカーペットに登場。「戦と乱」のキム・サンマン監督とカン・ドンウォンらキャストが華やかに会場を彩り、イ・ジョンジェ、チョ・ジヌンらが会場を沸かせた。
ホ・ジノ監督は5年ぶりの新作「普通の家族」キャストのチャン・ドンゴン、キム・ヒエ、スヒョンとともに観客の前に立った。「普通の家族」はヘルマン・コッホの「冷たい晩餐」が原作の心理劇。韓国では10月16日に公開。日本からは「今年のアジア映画人賞」を受賞した黒沢清監督、「劇映画 孤独のグルメ」監督・主演の松重豊、ネットフリックスドラマ「さよならのつづき」の坂口健太郎・有村架純らが現地のファンの熱い歓声を浴びた。
■政府予算削減で規模縮小
期間中は約14万5000人が映画館やイベント会場を訪れた。観客数は約16万人を超えた昨年から減少したのは、映画祭の規模が縮小したためだ。今年はメーン会場以外で行われる住民向け上映も含めて269本が上映されたが、昨年の354本から85本減少した。
背景には政府が文化予算を大幅に削減したことがある。釜山映画祭向け予算も半減し、招待作品やイベントを見直さざるを得なかった。
■脱政府支援も模索 BTSドキュメンタリーも
釜山映画祭は1996年の第1回以来、「アジア映画の発掘」を掲げ、開幕作にもアジアの映画を独自に選定してきた。しかし予算の削減もあり、今年は大衆性にかじを切った。開幕作の「戦と乱」はパク・チャヌク監督が脚本を担当。映画祭を象徴する開幕作が配信作品となったことに、韓国の映画人からは疑問の声も上がった。これについて釜山映画祭のパク・グァンス理事長は国内メディアの取材に対し「開幕作は一般市民も見るため、分かりやすいものであるべきだ」と話した。スポンサーを増やし、政府支援に頼らない形を作るとも語った。
上映作品を見渡しても、防弾少年団(BTS)のRMのドキュメンタリー「RM:Right People, Wrong Place」がワールドプレミア上映されるなど、大衆化は顕著だった。招待作品のうち配信作品は昨年の3倍の9本。ドラマなどの映像コンテンツを表彰する共催イベント「アジアコンテンツアワード&グローバルOTTアワード」は国内外のスターが集まり、メーンの映画祭に負けず劣らず盛り上がりを見せた。
■良作発掘の意義 時代とともに薄れ
映画祭がスタートした1996年と現在とでは、韓国社会の状況も大きく変わっている。たとえば90年代の釜山映画祭は日本大衆文化の禁止に対抗する役割も果たしていた。しかし現在はコンテンツの国際流通が非常に活発で、「知られざる映画」や「非商業的な映画」を発掘する意義は薄れてきている。
特別上映部門では、釜山映画祭の立ち上げから発展に深くかかわった前執行委員長のキム・ドンホ氏の足跡をたどるドキュメンタリー「映画青年、ドンホ」が上映された。映画祭の歴史に一つの区切りをつけるとの見方は、うがち過ぎだろうか。来年は30回目を迎える釜山映画祭。大衆化の流れはいっそう加速しそうだ。
(文・芳賀恵)
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