第35回東京国際映画祭を振り返って 「ザ・ビースト」が3冠

映画祭

 10月24日から11月2日まで東京・日比谷、有楽町、丸の内、銀座などで開催されたアジア最大級の映画祭「第35回東京国際映画祭」。コロナ禍で一昨年と昨年はリモート対応などで苦しい開催となったが、今年は海外からのゲスト104人を招き、開幕日には日比谷会場で初めてのレッドカーペット・イベントも開催された。

 11月2日には東京国際フォーラムでクロージング・セレモニーが行われ、最高賞の東京グランプリ・東京都知事賞にはスペイン・フランスの合作映画「ザ・ビースト」が選ばれた。同作は最優秀監督賞(ロドリゴ・ソロゴイェン監督)、最優秀男優賞(ドゥニ・メノーシェ)も獲得。3冠となった。

 今年はコンペティション部門に15作品が出品された。筆者が鑑賞した受賞作品を紹介する。

・東京グランプリ・東京都知事賞、最優秀監督賞、最優秀男優賞

「ザ・ビースト」(スペイン・フランス)

 スペイン・ガリシア地方が舞台。人里離れた山あいの村に移住したフランス人中年夫婦が、村を牛耳る兄弟の執拗な嫌がらせに心理的に追い込まれていく様子を描いた心理スリラーだ。閉鎖的なコミュニティーで起こる対立はエスカレートし、取り返しのつかない事件へ発展する。村人と対立して孤軍奮闘する主人公が描かれる一方、後半は予想外の展開が待ち受ける。実話を元にしたドラマで、小さな波紋が大きく広がる過程をスリリングに描いた。異分子を排除する地方の怖さを描いた「わらの犬」(71)にも通じ、作り手の強い憤りを感じる作品だ。

・最優秀女優賞

「1976」(チリ・アルゼンチン・カタール)

 ピノチェト政権下のチリが舞台。司祭に頼まれて若い男をかくまった主婦が体験する静かな恐怖。1976年、独裁政権下の時代設定や社会情勢など、日本人には分かりづらいが、何とも言えない空気の中で、自分を見失わず生き抜く女性を力強く描いた。時代に合わせた無機質なアナログ・シンセサイザーによる音楽が心理的な恐怖を醸し出す。

・最優秀芸術貢献賞

「孔雀の嘆き」(スリランカ・イタリア)

 妹の心臓手術のため、外国人相手の養子縁組あっせんに手を染めてしまう青年。舞台はスリランカ。両親を亡くし、極貧状態で難病の妹と共に、小さな弟妹を養う心優しい青年。養子縁組をあっせんするのは「マダム」と呼ばれる女。闇ビジネスがテーマだが後味が良い。主人公を悪人ではなく、やむ得ない事情で動く好青年として描いたからだろう。感情移入しやすく、希望を残した幕引きがうまかった。

 コンペティション部門の今年の傾向を見ると、LGBTや多様性が世界で注目されていることを受け、同性愛を描いた「エゴイスト」(日本)、トランスジェンダーを描いた「ファビュラスな人たち」(イタリア)なども上映された。

 ほか受賞作品と受賞者は以下の通り。

東京グランプリ・東京都知事賞:「ザ・ビースト」(ロドリゴ・ソロゴイェン監督)
審査員特別賞:「第三次世界大戦」(ホウマン・セイエディ監督)
最優秀監督賞:ロドリゴ・ソロゴイェン監督「ザ・ビースト」
最優秀女優賞:アリン・クーペンヘイム「1976」
最優秀男優賞:ドゥニ・メノーシェ「ザ・ビースト」
最優秀芸術貢献賞:「孔雀の嘆き」(サンジーワ・プシュパクマーラ監督)
観客賞:「窓辺にて」(今泉力哉監督)

アジアの未来部門作品賞:「蝶の命は一日限り」(モハッマドレザ・ワタンデュースト監督)

特別功労賞:野上照代

(文・藤枝正稔、写真・龐棟元)

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