大阪アジアン映画祭グランプリ「おひとりさま族」ホン・ソンウン監督に独占インタビュー 「人は一人で生きても、誰かと必ずつながっている」

インタビュー

 3月に開催された第17回大阪アジアン映画祭2022でグランプリを獲得した韓国映画「おひとりさま族」。公私にわたり孤高の生き方を貫く女性が、職場の新人やマンションの隣人との摩擦を経て、他人とのかかわり方を変化させていく。「映画の森」の独占書面インタビューに、ホン・ソンウン監督は「誰もが自分の人生を生きているが、どんな形であれ誰かとつながっている。つながっている感覚を忘れずに生きていくことが重要」と語った。

 監督にとって初長編。昨年の全州映画祭でも高い評価を受け、大阪アジアン映画祭でも「映像によって観客に伝えていく力がすぐれている」と評された。クレジットカードのコールセンターで働く主人公・ジナは、人付き合いは一切しない。食事は一人、帰宅後も好きなドラマを見ながら過ごす。オペレーターとしては優秀なジナだったが、新人スジンの教育がうまくできず、親しくなろうとするスジンを拒絶してしまう。一方、自宅マンションでは隣人が孤独死し、新たな住人が引っ越してくる。

 ジナを演じるのは、テレビドラマで明朗な役で知られるコン・スンヨン。強さの中にもろさが見え隠れする女性を巧みに演じ、新境地を開いた。

「おひとりさま族」(c)2020 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

「一人で生きられるか」 生涯考えが変わり続けるテーマ

 ――「人間は一人で生きていけるのか」がテーマ。一人で生きることについて、監督の考えは。

 年齢を重ねて状況が変わると、人生に対する考えも変わります。一人で生きるのは楽で自由ですが、さまざまな脆弱さにさらされることでもありますよね。若さと健康がだんだん失われていく不安も感じます。生涯にわたって考えが変わり続けるテーマではないでしょうか。たとえば、私は一度も結婚について考えたことがありませんでしたが、最近は少し悩んだりしています。

 ――ジナのキャラクターと監督との共通点、違いは。

 ジナは私の過去から積み重ねられたものによってできたキャラクターです。私はジナほど閉鎖的ではありませんでしたが、ジナのように生きることを追求したことがあります。しかしジナのような態度を完璧に実行に移す前に、私の人生にある問題が生じました。私によって傷ついた人たちの表情が、当時は未熟さと軟弱さの証だと思っていたのですが、妙に長い間心に残っていました。ある時、それがまさに自分自身の表情だということに気づいたのです。ジナの悩みや葛藤は私の過去でもあり、また私の現在でもあります。

 ――映画の中のエピソードで、実際に体験したことは。また、好きなエピソードは。

 この映画を私の個人的な体験談だと感じる人が多いのですが、実際に体験したエピソードはほとんどありません。会社勤めで経験したことに対する思いが、ジナのコールセンター勤務のシーンに少しずつ溶け込んでいます。私は仕事の電話に出るのがちょっと苦手だったんです。

 愛着があるのは“タイムマシーン男”のエピソードです。(注:コールセンターにしばしば電話してきて『タイムマシーンに乗って過去へ行くが、カードは使えるか』と尋ねる男性のエピソード)

 “タイムマシーン男”から2002年サッカーワールドカップ(W杯)の話を聞くスジンの夢見るような表情、そんな二人を見守るジナのノスタルジックな視線は、演出の際に私が最も力を入れたところです。ありがたいことに俳優たちが私の意図を理解してくれて、シーンを完璧に生かしてくれました。

2002年サッカーW杯の熱狂 熱しやすく冷めやすい国民性

 ――“タイムマシーン男”が行きたい時代に「W杯の2002年」を設定した理由は。

 当時、私は中学生でしたが、学校で試験の日程が延期されたことを覚えています。韓国戦の応援に行きなさいというのです。それほど大きな熱気でした。後にも先にも、あんなに多くの人がたった一つのことで一斉に熱狂するのを見たことがありません。特別な経験でした。

 でも、騒ぎが終わると懐疑的な声が聞こえ始めました。集団的狂気、韓国人の全体主義的な国民性、熱しやすく冷めやすい「鍋根性」、といったことです。もちろんどんな現象であれ一歩引いて眺めることができるのは大事なので、これらの声は必要だったと思います。

 ところで、私は父の仕事の都合で1998年のフランスW杯の時はパリにいましたが、フランス人もまったく同じだったのです。フランスが優勝した決勝戦の日の夜、両親とシャンゼリゼ通りを見物に出かけたところ、人々の下敷きになって死ぬかと思いました。2002年の韓国の姿は韓国人だけの風景ではないと思います。

 誰もが別の人間で、それぞれが自分の人生を生きていることは確かですが、一方では誰かとどんな形であれつながっている。それを最もよく示すのがスポーツのような祭りの風景でしょう。つながっている感覚を何とか忘れずに生きていくことが重要だと考えます。

「平凡そうな特別の男」ソ・ヒョヌ 松葉杖姿が好アイデアに

 ――ジナの隣に引っ越してくるソンフン役のソ・ヒョヌは、ドラマや映画の脇役として引っ張りだこ。起用の経緯は。

 脚本段階のソンフンのキャラクター説明は「理想の人」でした。こんな人に会いたいし、私自身がこんな人になりたいという意味です。最初は漠然と二枚目俳優を思い描いていましたが、誰を当てはめてもソンフンに合わない。その頃「ソンフンはユニコーンのような存在ではなく、日常的によく出会う普通の人として描くべきでは」とアドバイスを受けました。まったくその通りでした。

 ソ・ヒョヌさんは韓国の独立映画界では「平凡そうな特別の男」役のスペシャリストにほかなりません。ドラマや商業映画で強いキャラクターをよく任されますが、多様な顔を持つ卓越した俳優です。他の俳優は考えられないと思って本人に連絡すると、ドラマ撮影中に片足をけがして松葉杖をついているといいます。そこで、松葉杖をついて出演してほしいとお願いし、結果的に良い効果を生みました。見知らぬ男を警戒しがちなジナの心を和らげることができたからです。幸いにもヒョヌさんもこのアイデアを面白がってくれて、ソンフンが誕生しました。

 ――次回作の予定は。

 SF短編映画の脚本を執筆中です。短いシリーズ物の企画にも参加しています。近いうちに観客の皆さんにお会いできればうれしいです。

(聞き手・芳賀恵)

おひとりさま族|OAFF2022|コンペティション部門
★OAFF2022《グランプリ(最優秀作品賞)》受賞★|Aloners |監督:ホン・ソンウン(홍성은)|2021年|韓国|日本初上映

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