カンヌ75周年記念大賞「トリとロキタ」 ダルデンヌ兄弟来日「移民の子が苦しむ現実、告発したかった」

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 2022年のカンヌ国際映画祭で75周年記念大賞を受賞した「トリとロキタ」(22)が3月31日公開される。過去にカンヌでパルムドール(最高賞)を2度獲得するなど世界的に高く評価されるベルギーの監督、ジャン=ピエールとリュック・ダルデンヌ兄弟がこのほど来日し、東京・渋谷で観客とのティーチイン(質疑応答)に参加した。監督は「たった一人で移民してくる子どもが増えている。不幸な結末を迎えることも多い。私たちは憤りを感じ、映画で告発したかった」と語った。

6年ぶり来日 キャリア35年での原点回帰

 ダルデンヌ兄弟の来日は6年ぶり。「トリとロキタ」はアフリカからベルギーへ流れ着いた少年トリ(パブロ・シルズ)と少女ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)が主人公。身寄りのない二人は姉弟を装い、麻薬の運び屋として糊口をしのぐが、次々と過酷な試練に直面する。支え合う二人の温かい絆と、冷たく非情な社会の現実が描かれる。演技経験のない主演、音楽を排した無駄のない演出、流れるようなカメラワーク。「ロゼッタ」(99)、「ある子供」(03)、「少年と自転車」(11)など傑作を生んできた兄弟が、キャリア35年での原点回帰を感じさせる。

 ティーチインでは冒頭、リュック監督が撮影のきっかけを説明した。「同伴者のいない移民の子どもが増えていると、新聞で読んだことだった。アフリカ、アフガニスタン、シリアやイラクからヨーロッパへ渡ってくる未成年の移民、亡命者。一部はビザが取れず、不幸な結末を迎えている。私たちは憤りを感じ、映画で告発したかった。また、彼らの友情について語りたかった」と話した。

「同伴者なし、一人で渡ってくる子が増えている」

 観客との主なやり取りは以下の通り。

 ──社会の底辺で虐げられる人々を撮ってきた理由は。

 今回はまず現状を告発したかった。子どもたちが同伴者なし、たった一人で渡ってくることが、最近は多くなった。彼らは強い孤独を感じており、病気にもなりやすい。劇中ロキタがパニック障害になっているが、よくあることだそうだ。また、トリとの固い友情を通して現実を描きたかった。友情は最後まで貫かれ、二人に光をあてる。友情があったからこそ、二人は劣悪な状況や困難を乗り越えられた。

 ──ここまで現実は厳しいのかと愕然とした。トリとロキタの平等な関係が印象的だった。意図があったのか。

 私たちはこういうケースの詳細や、統計上の事実を伝えたかったわけではない。トリとロキタという名前の個人、子どもについて語りたかった。二人のどちらが欠けても描けなかった。トリは小さくて痩せていて、すばしこい。何かあればすぐに動いて解決策を思いつく。ロキタは体が大きく静かで、外からの衝撃を受けている。女性なので性の欲望の対象になってしまう。身体性に差がある二人が、一つの力学を映画にもたらしたと思う。

ロキタは現代の奴隷 人間性を無視され虐げられる 

 ──大麻を育てる倉庫の天井の高さや、トリとロキタが滑り降りる山。「高さ」が鍵になっていると思う。美術の担当者には細かく指示をしたのか。

 俳優に指示をするのはまさにその部分。麻薬を栽培している倉庫で、犯罪組織のルーカスがロキタに冷徹に指示をする。そこで彼女が現代の奴隷になる。従わなければならない状況で、その後、殴られる。彼らにとっての物、オブジェになってしまう。ルーカスがドアをバンと開けて入ってきて、トタン板が震える。そういう予期せぬシーンが生まれることもある。

 ──犯罪組織の人間に知性を感じた。ロキタの人間性もよく把握している。虐げる側の描き方について教えてほしい。

 ロキタを虐待する大人たちは、彼女の人間性を無視している。ただそこにいる彼女を支配したい。どんな不満も言わせない。ルーカスはロキタの性格を利用している面もある。そういう悪人の知性はあるのではないかと思う。

緊迫シーンの連続 長回しを多用

 ──緊迫感のあるシーンの連続性、流れるようなつながりがすごい。どういうふうにショットを決めているのか。

 美容師がどう髪を切るのか教えてほしい……そんな質問だ。ロキタがビザを必要なのは、最初から最後まで一貫してあった。二人が姉弟を装っていることは「最後まで続かないだろう」とだんだん分かってくる。ロキタの周りにはわながたくさん仕掛けられていて、何度も切り抜けようとするが、そのたびに扉が閉まってしまう。映画の最初はロキタが閉じ込められているショット。私たちは長回しで撮ることが多いので、観客が見る時間と撮影時間が重なる。スリラーのような側面もある映画で、ギャングの周りにはいつも死の気配があったと思う。

 ──監督は撮影現場では非情と聞いている。今回は演技経験のない二人を起用したが、最大テイク数がどのシーンで何カットだったか教えてほしい。

 確かに私たちは要求が高いかもしれないが、今回はそうでもない。撮影時、トリ役のパブロ・シルズは12歳、ロキタ役のジョエリー・ムブンドゥは17歳だった。まだ若くリハーサルをやり過ぎると退屈してしまうので、効果的ではなかったからだ。ほかの映画では12回、13回ぐらい。最高は「サンドラの週末」で70カットだ。 

(文・阿部陽子 写真・龐棟元)

(C)LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINEMA – VOO et Be tv – PROXIMUS – RTBF(Television belge)

「トリとロキタ」(2022年、ベルギー・フランス)

監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アウバン・ウカイ、ティヒメン・フーファールツ、シャルロット・デ・ブライネ、ナデージュ・エドラオゴ、マルク・ジンガ

2023年3月31日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://bitters.co.jp/tori_lokita/

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