伝統芸能を受け継ぐ難しさを描く映画「邯鄲(かんたん)の夢 三重芝居と四人の役者」が2023年7月28日公開され、東京・日本橋で同29日、監督・主演の三天屋多嘉雄、大衆演劇のベテラン俳優・沢竜二、須賀貴匡、松林慎司、兼崎健太郎、岡本茉利が舞台あいさつした。三天屋監督は、タイトルに込めた「世のはかなさ」と伝統芸能継承の難しさに触れ、「残したいものを残すことは難しい。でも、夢が壊れたらもう一度夢を見ればいい。きっと良くなる時が来ると期待を込めた」と話した。
大正時代から続く新国劇の演目「真正女澤正劇」がベース。「真正女澤正劇」は、新国劇の創始者・沢田正二郎に「真正女澤正」と名乗ることを認められた沢の母・酒井マサ子一座の演目で、物語が三重に交差する「三重芝居」を用い、過去と現在、夢と現実が交差する物語となっている。
沢の最後の弟子で、主演・監督・脚本を担当した三天屋多嘉雄監督は、「スタッフもそれほど多くなく、編集も自分で行った。撮影も本当にタイトで、仲間やスタッフ、出演していただいた方々のご協力があってできた作品」と感慨深げに語った。三天屋監督の師匠で「大衆演劇界のドン」と呼ばれる沢。撮影中の三天屋監督を「監督としてものすごくいい顔をしていた」と絶賛した。
撮影の主な舞台となったのは、国の重要文化財でもある熊本県の芝居小屋「八千代座」。大正、昭和と九州の芸能を支えた劇場で、沢も復興公演にかかわった。沢は「終戦後、最初に八千代座に出たのが私。本当に立派な劇場になった。熊本に行ったら寄ってやってください」と呼びかけた。
映画のタイトルである「邯鄲の夢」とは、中国の故事が由来。栄枯盛衰、人の世のはかなさを意味する。三天屋監督は「いいことも悪いことも続かない。残したいものを残すことは難しい。でもきっと良くなる時も来ると期待を込めた」と明かした。
さらに岡本が「邯鄲の夢というと、やはり中国を思い出す。長い歴史の中で、芸能は盛り上がっては廃れていく。伝統芸を次世代に伝えるのは難しいという中国映画があったが、どこの国でもそういうことはあるんだな、と監督と話した」としみじみ語った。
最後に三天屋監督が「夢が壊れたら、もう一度、夢を見ればいい。命はひとつでおしまいだが、夢が消えても死にません。必ずどこかに夢は落ちている。私はその夢を、明日もあさっても、ずっと拾い続けていきたい」と力強く話していた。
(文・阿部陽子 撮影・龐棟元)
「邯鄲の夢 三重芝居と四人の役者」(2023年、日本)
監督・脚本:三天屋多嘉雄
出演:三天屋多嘉雄、須賀貴匡、松林慎司、沢竜二、兼崎健太郎、岡本茉利、木内竜喜、實川加賀美、實川輝那
2023年7月28日(金)、TOHOシネマズ 日本橋、大阪ステーションシティシネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
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