「母の聖戦」メキシコ誘拐ビジネスの闇 娘奪還へ戦うシングルマザー

メキシコ

 メキシコ北部の町。シングルマザー、シエロ(アルセリア・ラミレス)の一人娘ラウラが犯罪組織に誘拐された。脅迫に従い身代金20万ペソを支払ったが、ラウラは帰ってこない。警察にも相手にされず、シエロは自力で娘を取り戻すことを誓う。軍パトロール部隊を率いるラマルケ中尉(ホルヘ・A・ヒメネス)と協力する中、シエロは誘拐ビジネスの闇を目の当たりにする──。

 誘拐事件が年6万件発生するメキシコの闇ビジネスに迫る「母の聖戦」。ルーマニアに生まれ、ベルギーを拠点とするテオドラ・アナ・ミハイ監督の初劇場作品。共同製作者はダルデンヌ兄弟、「4ヶ月、3週と2日」(07)のクリスティアン・ムンジウ、「或る終焉」(15)、「ニュー・オーダー」(20)のミシェシェル・フランコ。複数の監督がサポートした。世界初上映のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門の勇気賞、東京国際映画祭で審査員特別賞を獲得した。

 シエロとラウラ母娘の仲睦まじい朝から物語は幕を開ける。ラウラは「ボーイフレンドにと外出する」の言葉を最後に誘拐。シエロに組織の若者2人が「身代金15万ペソを払え」と接触してくる。元夫のグスタボ(アルバロ・ゲレロ)と金を集めて支払うが、娘は帰らず、組織はさらに「5万ペソを払え」と要求してくる。シエロは借金をして払ったが娘は帰らない。警察に相談しても相手にされず、無言電話がかかるようになり、自宅は銃撃される。

 日本ではあまり知られていないメキシコの誘拐ビジネス。ドキュメンタリー出身のミハイ監督は、鋭い視点で犯罪の実態に斬り込む。シエロは単独で犯罪組織について調べ始めるが、一人で戦える相手ではない。そこで助けを求めたのが街をパトロールする部隊のラマルケ中尉。シエロは集めた組織情報と引き換えに、ラウラの捜索への協力を取り付ける。

 実話ベースの作品。娘の帰りを願う普通の母親が、軍を味方にすると復讐者のように変貌する。カメラは淡々とシエロの姿を追う。ラストカットは見た人の解釈に委ねられるだろう。私はモデルとなった母親への監督の敬意と受け取った。誘拐ビジネスを被害者の母の視点で描く社会派ドラマの力作だ。

(文・藤枝正稔)

「母の聖戦」(2021年、ベルギー・ルーマニア・メキシコ)

監督:テオドラ・アナ・ミハイ
出演:アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、ホルヘ・A・ヒメネス、アジェレン・ムソ

2023年1月20日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

『母の聖戦』オフィシャルサイト
カルテルに娘を誘拐された母は、命を懸けて娘を取り戻すため自ら戦うことを誓う。メキシコで実際に起きた事件を元に世界を代表する映画人たちが集結し製作した衝撃作。

作品写真:(C) 2021 Menuetto/ One For The Road/ Les Films du Fleuve/ Mobra Films

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