殺人請負企業に勤めるベテラン女性暗殺者のタシャ(アンドレア・ライズボロー)は、特殊なデバイスで標的に近い“ホスト”の意識に入り込む。続いて徐々に人格を乗っ取ってターゲットを仕留め、ホストを自殺に追い込み“離脱”する。この「遠隔殺人システム」は順調に動いていたが、あるミッションを機にタシャの中の何かが狂い始める──。
「スキャナーズ」(81)、「ヴィデオドローム」(83)、「裸のランチ」(91)の鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督の息子ブランドン・クローネンバーグ。長編監督デビュー作「アンチヴァイラル」(12)に続いて監督、脚本を担当したSFノワールだ。「ザ・グラッジ 死霊の住む屋敷」(20)のアンドレア・ライズボロー、「ファースト・マン」(18)のクリストファー・アボットが出演。ジェニファー・ジェイソン・リー、ショーン・ビーンらベテラン俳優が脇を固める。
「クローネンバーグ監督の息子の映画」と聞き、まゆつば的な先入観を持って見始めたが、冒頭から想像を上回る独創的な世界に目が釘付けとなった。劇中登場する「遠隔殺人システム」は、分かったような分からないような設定だが、力技で物語が展開していく。
遠隔殺人するタシャは任務を遂行するうち、罪の意識が芽生え始め、自分の家族との関係修復へ気持ちが向かう。暗殺任務と家族の関係に悩み、タシャは次第に病んでいく。
遠隔殺人システムがすごい。ヴァーチャル・リアリティー(VR)に象徴される仮想現実へ突き進む先端技術に逆行するかのごとく、極めてアナログなのだ。暗殺者は事前にホストの人間関係や癖、嗜好を入念にリサーチ。ターゲットの側近やパートナーを拉致し、頭に特殊な装置を埋め込む。さらにベッドのような場所に寝かせ、頭部を覆う特殊な装置を装着。ホストの体を遠隔で乗っ取り、ターゲットに近づいて暗殺する。
独特で秀逸なアイデアに圧倒される。観客の潜在意識に入り込むスタイリッシュなインサート映像。どこか冷めた物語。突然湧き上がる凄まじい暴力性。体を乗っ取られたホストはターゲットを徹底的に刃物で刺し、物で殴り、銃で撃つ。最終的に体を乗っ取られたホストは、拳銃で自殺するか、警官に撃ち殺される。
ちょっとしたスプラッター映画も真っ青の残酷描写の数々で、鑑賞年齢制限「R-18」指定されるほどだ。また、父デビッドの初期作品「スキャナーズ」や「ヴィデオドローム」に共通するものも感じた。父の遺伝子を受け継ぎながら、狂暴性と凄まじい破壊力を兼ね備えた衝撃作だ。
(文・藤枝正稔)
「ポゼッサー」(2020年、カナダ・英)
監督:ブランドン・クローネンバーグ
出演:アンドレア・ライズボロー、クリストファー・アボット、ロッシフ・サザーランド、タペンス・ミドルトン、ショーン・ビーン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ガブリエル・グラハム
2022年3月4日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
作品写真:(C)2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All
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