「ナイトメア・アリー」野心と欲望に満ちた男の闇 デル・トロ、クーパー主演で新境地

レビュー

 ショービジネスで成功を夢見る青年・スタン(ブラッドリー・クーパー)は、人間か獣か正体不明の生き物を出し物にする怪しげな一座にたどり着く。読心術を習得し、カリスマ性を武器にトップ興行師となるが、行く先には想像もつかぬ闇が待っていた──。

 ウィリアム・リンゼイ・グレシャム著「ナイトメア・アリー 悪夢小路」が原作の「悪魔の往く町」(47)に続く2度目の映画化。監督・脚本は「シェイプ・オブ・ウォーター」(17)で、米アカデミー作品賞・監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロ。ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、ルーニー・マーラ、ロン・パールマンら豪華キャストが競演する。

 デル・トロ監督は「ヘルボーイ」(04)、「パンズ・ラビリンス」(06)、「パシフィック・リム」(13)など、クリーチャー(異生物)が登場するダーク・ファンタジー作品を得意としてきた。前作「シェイプ・オブ・ウォーター」は、半魚人と女性の幻想的な恋愛。今回はショービジネスの世界を舞台に、野心あふれる主人公の心に潜む闇をサスペンス・スリラーとして描いた。監督の新境地といえる。

 随所にデル・トロ監督らしさが見える。前半の舞台は各地を巡業する怪しげで猥雑な見世物小屋。小人や獣人など監督好みのキャラクターが配された小屋に、どこか訳ありなスタンがまぎれ込み、読心術を覚えてのし上がっていく。読心術といっても、暗号を使ったいかさまだ。さらに、小屋で体に電流を流す芸を見せていた美しい娘モリ―(ルーニー・マーラ)と恋に落ちる。スタンはモリ―を連れ、見世物小屋を後にする。

 2年後。スタンとモリ―は高級ホテルでセレブを相手に読心術で稼ぐスターになっていた。しかし、心理学博士のリリス(ケイト・ブランシェット)が二人のいかさまを見破る。リリスはカウンセリングで膨大な顧客情報を得ていた。スタンは荒稼ぎを狙い、リリスに契約を持ちかける。

 地位、名誉、金、女。すべてが欲しいスタンは野心の塊だ。見世物小屋からスタートし、上流階級に食い込むまでになるが、目論見は徐々にほころび始める。転落が始まると計画は悪夢のごとく狂い始める。クーパーがカリスマ性あるペテン師を好演している。

 音楽がうまい。ピアノの単音で始まり、スタンが上昇気流に乗るに合わせて音が厚みを増し、紆余曲折を経て単音に戻る。音楽担当のネイサン・ジョンソンの計算された技だ。SF、ホラー、ファンタジーなどさまざまなジャンルで観客を惑わせてきたデル・トロ監督。満を持して仕掛けてきたのは、欲に満ちた男の悪夢のような物語だ。

(文・藤枝正稔)

「ナイトメア・アリー」(2021年、米)

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラ、ロン・パールマン、メアリー・スティーンバージェン、デビッド・ストラザーン

2022年3月25日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://searchlightpictures.jp/movie/nightmare_alley.html

作品写真:(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

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