黒沢清監督の新作「Chime」新サービスで限定販売 「映画をより豊かに」

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 黒沢清監督の最新映画「Chime(チャイム)」が4月12日、映像流通の新サービス「Roadstead(ロードステッド)」で限定発売された。ロードステッドは従来の動画配信サービスと異なり、映像作品をDVD同様に視聴、販売、上映などができる新たな取り組み。東京都内で2024年4月9日、記者会見した黒沢監督は「新しい試みに参加し、映画がより豊かになると信じている」と語った。

 「Chime」は料理教室の講師・松岡(吉岡睦雄)をめぐり、不可解な出来事が続けて起きる中編(45分)スリラー。第74回ベルリン国際映画祭でベルリナーレ・スペシャル部門に出品され、同日国内初上映された。

記者会見する(左から)川村岬代表、黒沢清監督、岡本英之プロデューサー=東京都内で2024年4月9日

 黒沢監督は新サービス「ロードステッド」での新作発表について「通常とは違う形態で(作品を)届けられる。新しい何かに参加できることは光栄。長さが自由で、45分の作品も世の中に提供してもらえるのが最大の魅力」と説明。「Chime」の舞台を料理教室に設定した理由を「ステンレスの包丁などが並んでいる場所は、撮りようによっては怖いかな、と。実際に教室に見学に行くと面白いものが見えてきた」と話した。

 また、映画作りについて「僕は映画の信奉者であり、古い人間なので『映画が一番』と考えている。こういう新しい試み、(従来の)映画と違う作り方、見せ方は、絶対に回り回って映画にとってプラスになる」と持論を展開。映画の将来について「不安がる人もいるが、その程度で映画はめげない。むしろ(新しい)そういうものを取り込んで、映画はより豊かになると信じている」と強調した。

(c)Roadstead

 新サービス「ロードステッド」は、映像作品をDVDやブルーレイディスクと同様の取り扱いが可能。サービスで用いられる新たな流通の枠組み「DVT(Digital Video Trading)」を通じ、視聴、第三者へのリセール(二次販売)、レンタル、交換、プレゼント、上映、展示などができる。映像すべてにシリアル番号が付けられ、購入者だけが見られるように暗号化して取り引きする。映像の出品者には、取り引きで発生した収益から権利料が還元される。利用者は単なる消費者ではなく、出品者を経済的に直接支援できる仕組みだ。

 会見に同席した「ロードステッド」の運営会社「ねこじゃらし」の川村岬代表は、マーチン・スコセッシ監督の言葉「映画は死なない。技術を味方に一人ひとりの声を届ける」を紹介。作品を販売するクリエイターがリスクなし、低コストで出品できると説明。「最終的に映像作品の流通コストを改善し、利益をクリエイターに還元することで、作品制作の好循環を作ることを目指す」と語った。

 ロードステッドのオリジナル作品第一弾「Chime(チャイム)」は、メイキング映像やデジタルポスターなどを含めてDVTパッケージ(99米ドル)で限定999本を販売。販売期間は5月11日までの1カ月間で、追加販売は実施しない。購入者がリセールする場合、最低価格以上で自由に設定できる。出品は無料で、売買成立時にシステム手数料(販売価格の20%)を除いた分をクリエイターと分配する。

 さらに、DVTパッケージの販売終了後、劇場公開も予定。川村代表は「映画文化を破壊して全部配信にしようというのではない。逆にミニシアターとうまく共存できると思う」と話した。

(文・阿部陽子 写真・蘇瑞傑)

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