2017年06月21日

「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」ユン・ジェホ監督に聞く「どんな苦しい時も、家には笑いがあった」

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 北朝鮮から出稼ぎした女性の数奇な運命を追ったドキュメンタリー映画「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」が公開中だ。だまされて中国の寒村に嫁として売り飛ばされたB(ベー)が、生きるため中国の家族を受け入れ、脱北ブローカーに転身。北朝鮮に残した息子たちを呼び寄せ、韓国へ渡る過酷な半生を描く。公開に合わせてこのほど来日したユン・ジェホ監督にインタビューした。

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タイから東南アジアへの脱北に同行

  ――当初は脱北者を取材していたところ、マダム・ベーと出会ったそうですね。彼女自身をドキュメンタリー作品として撮影しようと考えた経緯を教えて下さい。

 もともとは脱北者そのものではなく、家族にかんする物語が作りたかった。調査の過程でマダム・ベーに会った。2年ぐらい撮り続けて、彼女を題材にしようと思った。

 その後、マダム・ベーがタイを経由し、東南アジアへ脱北する旅に同行することになった。タイで別れた後、1年後に韓国で再会した。撮り続けた結果、映画になった。ラストで彼女がカラオケで歌う曲は、歌詞が自分に感じるものがあり、エンディングにした。ちょうど彼女が北朝鮮、中国の家族と葛藤を抱えていた時期で、これ以上撮るのはやめよう、終わりにしようと思った。

 ――その後、彼女はどうなったのか。

 一人で生活し、稼いだお金を北朝鮮、中国の家族に渡して経済的に支えている。なぜそういう決断をしたのかは分からない。恐らく両方の家族を傷つけないようにしたのではないか。

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「自分の話を映画にしないか」と言われ

 ――マダム・ベーの家族たちも登場している。彼らの映像を映画に盛り込むことに対し、圧力などは受けなかったか。

 そういう心配はなかった。本人たちから了承を得て撮影し、当時はまだ映画にするとは決めていなかった。13年に取材で会った時、家に呼ばれた。「なぜ中国の家族と住んでいるのか」と聞いたところ、彼女から「自分の話を映画にしないか」と言われた。撮影では素直に質問に答えてくれた。

 ──脱北してきたマダム・ベーの次男が、部屋で顔にパックをしているシーンが印象的だった。「韓国へ来て幸せではない」と言っていた。仮面をつけて本心を隠しているようにも見えた。

 次男は映画俳優志望で、肌の管理に気を使っている。年相応のいい印象だった。家族が置かれた悲惨な状況と対照的で、皮肉で悲しい場面でもあった。しかし、厳しい日常にもある笑顔は逃したくなかった。どんな苦しい時も家の中には笑いがある。幸せな時もある。それを見逃したくなかった。

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絶対的な悪人、絶対的な善人はいない

 ──クライマックスでもある脱北そのものは淡々と描かれている。監督自身が体験した脱北とは。

 今だから言えるが、たまたま運が良かった。脱北は危険を伴い、緊迫することもあるが、必ずしもそうではないこともある。ブローカーが複数いて、手法も異なる。一つ言えるのは、絶対的な悪人、絶対的な善人はいないこと。世界中どこでも「人」がいるだけだ。

 ──人間が国家に翻弄され、北朝鮮でも中国でも韓国でも幸せになれない人がいる。それがずっしり伝わってきた。マダム・ベーが息子たちを脱北させようと思ったきっかけは。

 彼女は1年だけ出稼ぎして北朝鮮へ帰るつもりだった。意に反して中国で結婚することになったが、中国の夫は年も近く、ユーモアもあり、話も合って気楽に過ごせた。それで中国に残ると決め、息子たちを脱北させることにした。

次は女性、母と娘の話を劇映画で

 ――次回作の予定は。

 劇映画の準備に入る。女性、母と娘、家族の話。背景に北朝鮮もあるが、柱ではない。メッセージはシンプル。過去はどうあれ、未来は変えられると伝えたい。変えるには小さな実践が必要で、相手に近づく小さな一歩になる。それが未来を変える大きな力になる、と伝えたい。

(聞き手・写真 岩渕弘美)

「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」(2016年、韓・仏)

監督:ユン・ジェホ

2017年6月10日(土)からシアター・イメージフォーラムで公開中。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.mrsb-movie.com/

作品写真:(C)Zorba Production, Su:m
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2017年06月03日

「ラプチャー 破裂」嫌いなもの与え続ける責め苦 拉致監禁からSFへ展開 個性的ホラー

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 「ミレニアム」シリーズ、「プロメテウス」(12)のノオミ・ラパスが主演したSMホラー映画「ラプチャー 破裂」。「セクレタリー」(02)、「毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレート」(06)のスティーブン・シャインバーグが監督、原案、製作を担当した。

 シングルマザーのレネー(ノオミ・ラパス)は、12歳の息子と暮らしている。洗面所で大嫌いなクモに遭遇し、絶叫して慌てふためく。取り乱す母を横目に、息子は冷静にクモを外へ逃がす。どこにでもある日常風景だが、なぜか監視カメラが一部始終をとらえていた。

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 レネーはスカイダイビングをするため、友人との待ち合わせ場所へ車を走らせていた。レネーの車のタイヤがパンクしたところへ、見計らったようにバンが近づき、運転手の男が助け舟を出す。しかし、男は突然スタンガンでレネーを気絶させ、バンに押し込み走り出す。到着したのは紫色の照明に包まれた研究所のような建物だった──。

 女性を拉致監禁し、嫌いなものを与え続ける人体実験。悪趣味なSM監禁ホラーである。「コレクター」(65)、「羊たちの沈黙」(91)、「ソウ」(04)などの監禁映画で犯人は単独行動だったが、今回は複数の人間が犯罪にかかわっている。全米から人を拉致し、さまざまな責め苦を与え、何かを探っている。異様な集団の目的は何か。中盤から加わるSF的解釈が転機になる。

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 拉致監禁から始まった話は、地球侵略のストーリーへ変貌する。前半から中盤への緊張感から一転、意表をついた落としどころは賛否が分かれそうだ。レネーが連れて行かれる施設の壁紙がスタンリー・キューブリック監督「シャイニング」(80)のホテルのじゅうたんと同じ模様であるあたり、監督は自分の好きなものを詰め込んだ様子。さまざまな発見がある一方、突っ込みどころも満載だ。ホラー、SF好きは十分楽しめるだろう。

(文・藤枝正稔)

「ラプチャー 破裂」(2016年、米・カナダ)

監督:スティーブン・シャインバーグ
出演:ノオミ・ラパス、ピーター・ストーメア、レスリー・マンビル、ケリー・ビシェ、マイケル・チクリス

2016年6月3日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/rupture/

作品写真:(C)2016 Rupture CAL, Inc
タグ:レビュー
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2017年06月02日

「ザ・ダンサー」モダンダンスの先駆者、19世紀末のパリを彩る ロイ・フラーの半生

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 19世紀末のフランスを舞台に、モダンダンスの先駆者である女性ダンサー、ロイ・フラーの半生を描いた作品。「博士と私の危険な関係」(12)で主演したソーコがロイ、ジョニー・デップの娘リリー=ローズ・デップがライバルのイサドラ・ダンカンを演じる。写真家のステファニー・ディ・ジュースト監督の長編デビュー作だ。

 フランスの田舎に育ったマリー=ルイーズ・フラーは、父の死を機に母が暮らすニューヨークへ向かう。女優を夢見てオーディションを受けるが、地味な外見でなかなか役がつかない。セリフのない脇役のため、ぶかぶかの衣装で舞台に立ったマリー。ところが、演技中のアクシデントをくるくる回るアドリブダンスで切り抜けたところ、観客の拍手喝采を浴び、天才と称される。

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 ダンサーとして開花したマリーの頭には、衣装から照明、舞台装置まで次々アイデアが浮かんだ。芸名を「ロイ」に決めた後、最初の仕事は舞台の幕間5分を使ったダンスだった。長い棒にシルクの布をつけ、幽霊のような衣装でくるくる回る。前代未聞のパフォーマンスは観客を魅了した。そんな才能を見抜いたのはドルセー伯爵(ギャスパー・ウリエル)。ロイは伯爵のお金を拝借し、憧れのパリ、オペラ座を目指す──。

 ロイの生い立ち、創作ダンスの誕生、ライバルのイサドラとの友情。ダンスは汗と涙の結晶であり、命を削り踊る姿はスポ根ドラマに通じる。一方、イサドラはダンサーとして抜きん出た容姿、才能を持ち合わせていた。2人を対比させながらドラマは展開し、イサドラを演じるデップの小悪魔ぶりが物語に弾みをつける。

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 ロイが編み出した創作ダンス「サーペンタインダンス」も見どころだ。体力を使うため3日おきにしか踊れないダンスを、ソーコが躍動感とともに再現する。ロイが弟子たちを率い、森の中で舞い踊る群舞は幻想的。ダンス映画としてビジュアル表現が素晴らしい。ロイの半生を丁寧に描きながら、独創的な激しいダンスで観客の視覚と聴覚を刺激する。俳優の熱演と監督の手腕が光る作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ザ・ダンサー」(2016年、仏・ベルギー)

監督:ステファニー・ディ・ジュースト
出演:ソーコロ、ギャスパー・ウリエル、リリー=ローズ・デップ、メラニー・ティエリー、フランソワ・ダミアン

2017年6月3日(土)、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.thedancer.jp/

作品写真:(C)2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM

タグ:レビュー
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2017年05月30日

「家族はつらいよ2」悲劇と喜劇は紙一重 現代の“無縁社会”を斬る 山田洋次の職人技

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 渥美清主演の松竹映画「男はつらいよ」シリーズで一時代を築いた山田洋次監督の最新作「家族はつらいよ2」。監督は「男はつらいよ」シリーズ終了後、西田敏行主演の喜劇「虹をつかむ男」(96)と続編を製作。いったん喜劇を封印し、「学校」シリーズや、時代劇「たそがれ清兵衛」(02)、「母べえ」(08)などさまざまなジャンルの作品を生んできた。

 13年には「東京家族」を発表した。小津安二郎監督へのオマージュを捧げた家族の物語で手ごたえを感じ、「東京家族」で同じ俳優を起用。封印していた喜劇映画を再開したのが「家族はつらいよ」(16)だった。“熟年離婚”をテーマに観客動員数120万人、興行収入13億8000万円の大ヒットを記録。勢いに乗ってわずか1年で続編「家族はつらいよ2」を完成させた。

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 今回のテーマは“無縁社会”だ。監督ならでは、社会への嗅覚が敏感に感じられる。近年社会問題となっている“高齢者の危険運転”が導入部。平田家の家長・周造(橋爪功)のささやかな楽しみであるマイカーでの外出。しかし、愛車はへこみ傷が目立ち、家族は危機感を覚えていた。周造に免許証返上させようと画策するが、頑固者の周造に誰が言うかでもめてしまう。

 妻・富子(吉行和子)が旅行で不在をいいことに、つかの間の独身生活を満喫する周造。行きつけの小料理屋の女将かよ(風吹ジュン)とドライブ中、大型トラックと接触する事故を起こしてしまう。かよの気転で示談となるが、割れたヘッドライトの破片を家族が発見。事故がばれてしまう。激怒した長男・幸之助(西村雅彦)は、家族会議をするため、離れて暮らす兄妹夫婦たちを招集する。

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 一方、周造はかよとのドライブ中、工事現場で交通整理する同級生・丸田(小林稔侍)を見た。後日、周造は丸田の連絡先を聞き出し、もう一人の同級生・向井と、かよの店で40年ぶりの同窓会を開く。呉服屋の跡取り息子で長身の丸田は高校時代は憧れの的。妻との離婚、事業の失敗で落ちぶれてしまい、小さなアパートで一人暮らしをしながら工事現場で働いている。旧友との再会で上機嫌の丸田を自宅に連れて帰ってきた周造だったが、翌朝、丸田は息を引き取ってしまった──。

 “高齢者の危険運転”で幕を開けた物語は、周造の同級生・丸田の登場により本題の“無縁社会”へ突入する。一人で孤独な老後を送る丸田を通して、孤独死が多い冷めきった現代社会へ警鐘を鳴らす。無縁仏となった丸田を悲劇としてとらえながら、絶妙の笑いを交えた喜劇へ転換させる。職人技だ。悲劇と喜劇は紙一重。監督の演出は一連の松竹喜劇を継承した昭和テイストといえる。

 「東京家族」含めて3本目のキャストの息の合ったアンサンブルも楽しく、古くから山田監督作品に慣れ親しんだシニア層に絶大に支持される作品であろう。

(文・藤枝正稔)

「家族はつらいよ2」(2017年、日本)

監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優、林家正蔵

2017年5月27日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kazoku-tsuraiyo.jp/

作品写真:(C)2017「家族はつらいよ2」製作委員会
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2017年05月25日

「光をくれた人」偽りの親子、真実の愛 感涙必至の極上メロドラマ

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 第一次大戦から帰還したトムは、灯台守の仕事に就く。苛烈な戦闘体験に心傷つき、他人を遠ざけたい気持ちから、あえて孤島での勤務を望んだのだ。楽しみも喜びもなく、黙々と単調な日課をこなす日々。そんなトムが、一人の女性との出会いによって、生きる情熱を取り戻す。

 町の名士の娘で、二人の兄を大戦で亡くしていたイザベル。トムはイザベルと愛し合い、結婚し、幸福な生活が始まる。だが、2度の妊娠がともに流産に終わり、イザベルは深く落ち込む。傷心のイザベルを救ったのは、ある日、海岸に打ち寄せられた一隻のボートだった。そこには男性の遺体とともに幼い女児が乗っていた。

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 「生まれなかった子の代わりに、この子を育てたい」。許されない行為だと知りつつ、トムはイザベルの懇願を受け入れる。女児が持たされていたガラガラをそっとポケットにしまうと、トムは2番目の子の墓標を捨てた。

 トムとイザベルの夫婦以外に住む者もいない孤島。だからこそ可能な“犯行”だった。ルーシーと名付けられた女児は、“両親”の愛情を一身に受け、すくすくと育つ。しかし、娘の洗礼のため町に戻った日、トムはルーシーの実の母であるハナと遭遇してしまう。

 トムの葛藤が始まる。事実を告げるべきか。隠し通すべきか。イザベルには何も知らせていない。ルーシーを思う気持ちは、イザベルも自分も同じである。だからといって、ハナの人生はどうでもいいのか――。

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 そもそも、ボートはなぜ漂着したのか。遺体の男性は何者か。後半、いくつもの謎が解けるにつれ、もっぱらトムとイザベルの夫婦に感情移入していた観客は、実の母であるハナの人生にも共感と同情を寄せることになる。ルーシーの居場所はどちらであるべきか。見る者の心は千々(ちぢ)に乱れることだろう。

 ラスト、1950年へと大きく時間を飛ばしたエピローグで、感動はクライマックスに達する。それまで感情の噴出を堪えていた観客も涙腺決壊は必至。「ブルー・バレンタイン」のデレク・シアンフランス監督がベストセラー小説を見事に映像化した、極上のメロドラマである。

(文・沢宮亘理)

「光をくれた人」(2016年、米・豪・ニュージーランド)

監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ

2017年5月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hikariwokuretahito.com/

作品写真:(c)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC
posted by 映画の森 at 15:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする