2017年07月20日

「ベースメント」JKビジネスに特殊詐欺 軽快な語りで社会の闇へ導く

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 JK(女子高生)ビジネス、特殊詐欺、危険ドラッグ……。健全な市民であれば決して近づいてはならないブラックな世界。闇に包まれた領域に踏み込んで、おぞましい実態を暴き出し、実話系の雑誌などに記事を発表しているのが、「ベースメント」の主人公である猪俣陽一だ。アシスタントはビデオカメラマン志望の麻生綾香。猪俣からは“麻生ちゃん”と呼ばれている若い女性だ。2人が次々と怪しい現場に飛び込み、社会の裏側に隠された真実を明かしていく。

 平穏な市民社会の裏側にうごめく、闇社会の真相。テーマ自体は重い。しかし、作品のテイストはすこぶる軽快だ。本編のかなりの部分は、麻生の撮影するビデオカメラを通した映像を使用。いわゆるPOV(主観ショット)で映し出されているため、画面はライブ感にあふれ、観客は麻生や猪俣とともに、取材現場に立ち会っている感覚が味わえるのだ。

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 違法行為や犯罪者を上目線で論じるのではなく、「何でも見てやろう」とばかりに、フットワーク軽く対象に迫る。これが、アングラ系のルポライターである猪俣のスタイル。自らがルポライターでもある井川楊枝監督の身上でもあろう。

 観客は井川監督の生き生きとした語り口に乗せられ、社会の闇に分け入っていくというわけだ。描かれている現場は、井川監督自身がライターとして取材を重ね、知り尽くしている世界。それだけに各シーンはリアルに再現され、映像にも説得力がある。

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 登場人物もそれぞれ魅力的だ。海千山千のライターで元ヤクザとも親交がある猪俣。怖いもの知らずと思いきや、案外と気が弱いところがあり、憎めない人物だ。演じるのは井川監督の著作に触発され、映画化を持ちかけたという増田俊樹。麻生役のサイトウミサや元ヤクザ役の成田賢壱をはじめ、他の俳優たちの求心力となって、全体の演技レベルを絶妙にコントロールしている。

 特筆すべきは、猪俣のオフィスに居候する女子中学生の七瀬星来(せら)だろう。不遇な生い立ちを淡々と語るが、果たしてどこまで本当なのか分からない。無邪気さとふてぶてしさを併せ持つ、不思議少女だ。麻生のカメラに向けるちょっと上目づかいの表情が印象的。「最強の地下アイドル」として知られる仮面女子の窪田美沙が出色の演技を見せている。

 「ミス東スポ2015」に輝いたグラビアアイドルの璃乃や、評論家の鈴木邦男など、個性豊かな出演者たちが全編を彩る。エンドロールの後まで目が離せない、スリルと興奮の83分。早くも続編の製作が決まったという。今度はどんな現場に立ち会えるのか。どんな人物と出会えるのか。今から待ち遠しい。

(文・沢宮亘理)

「ベースメント」(2016年、日本)

監督:井川楊枝
出演:窪田美沙、璃乃、増田俊樹、成田賢壱、落合萌、サイトウミサ、鎌田秀勝、鈴木邦男(特別出演)

2017年7月21日(金)、渋谷アップリンクほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://www.basement.tokyo/

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2017年07月18日

「アリーキャット」窪塚洋介&降谷建志、アウトローを魅力的に

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 窪塚洋介と「Dragon Ash」の降谷建志が共演したバディー映画「アリーキャット」。俳優、監督として活動する榊英雄がメガホンを取り、妻の榊いずみが音楽を担当した。

 頭に後遺症を抱えた元ボクサーの朝秀晃(窪塚洋介、マル)と、自動車整備工場で働く梅津郁巳(降谷建志、リリィ)。秀晃が世話する野良猫「マル」が行方不明になり、保健所で知り合った。郁巳は猫を勝手に「リリィ」と呼んで自分のものと主張。怒る秀晃を置いて立ち去る。

 警備会社で働く秀晃のもとに、「ストーカーに悩むシングルマザーのボディーガード」の仕事が来る。気乗りしない秀晃だったが、会社は冴子(市川由衣)の警護を押し付ける。冴子をつけ回していたのは、元恋人の玉木(品川祐)だった。冴子と玉木の話し合いを監視する秀晃のところに、偶然郁巳が登場。話し合いがもつれ、秀晃と郁巳が割って入ったことで警察沙汰になってしまう。

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 水と油の秀晃と郁巳だったが、同じ猫をかわいがることで距離が縮まり意気投合する。互いに猫に名付けた「マル」、「リリィ」と呼び合うようになり、いつの間にか冴子のボディーガードも二人でするように。しかし、玉木と別の謎の男たちが冴子を狙うようになっていた──。

 社会の底辺でもがきながら自由に生きるマルとリリィ。冴子の警護を通して巨大な力にぶつかりながら、相手に一泡吹かせてやろうと奮闘する。1970年代のテレビドラマ「傷だらけの天使」、「探偵物語」を思わせるアウトローな生き様。松田優作主演作を作り続けた「東映セントラルフィルム」の匂いも感じる。

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 社会に迎合せず自分のルールで生きるマル。猫のように気ままなリリィ。キャラクター造形が秀逸だ。マルを演じた窪塚は久々のはまり役。映画初主演の降谷の未知数が合わさり、化学反応が起きている。負け犬二人が仕掛ける痛快な大勝負。粘着系の品川の演技もぴったり。火野正平の貫禄と凄みあるアドリブ、三浦誠己の小悪党演技。監督はそれぞれの個性を生かしている。アンダーグラウンドをしたたかに生きる男たちが魅力的な作品だ。

(文・藤枝正稔)

「アリーキャット」(2017年、日本)

監督:榊英雄
出演:窪塚洋介、降谷建志、市川由衣、土屋冴子、品川祐、柳英里紗

2017年7月15日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://alleycat-movie.com/

作品写真:(C)2017「アリーキャット」製作委員会

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2017年07月16日

ゆうばり映画祭、2018年は3月15日から開催

 SFやホラー、ファンタジー、サスペンスなどのジャンル映画の祭典「ゆうばり国際ファンタスティック2018」が、来年は3月15日(木)〜19日(月)の5日間、北海道夕張市で開かれる。通算28回目、民間主催に転換してから11回目となる。

 深津修一プロデューサーは「財政破たんした夕張市も、10年間の雌伏の時を待って、ようやく今年から積極財政に打って出ました。映画祭も2017年、民間だけで10回目の開催を実現し、いよいよ夕張市とともに、守りから外に打って出る時期が来たものと強く感じています」とコメント。次回から海外の映画祭との連携をさらに強化し、ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門の受賞作品を提携映画祭で上映する流れを作りたいと意欲をみせている。

 オフシアター・コンペティション部門はメジャーへの登竜門として若手クリエーターの注目が集まる部門。これまでに「天然コケッコー」、「味園ユニバース」の山下敦弘監督、「22年目の告白―私が犯人です」の入江悠監督らを輩出している。
コンペを含む主要プログラムの作品募集は7月14日から10月24日まで。詳細は映画祭公式サイト内の作品応募ページ(http://yubarifanta.com/entry/)で参照できる。

映画祭公式サイト
http://yubarifanta.com/

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2017年07月08日

「クロス」交差する二つの殺人 過去に向き合う二人の女

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 集団リンチ殺人の加害者の現在が暴かれ、もう一つの殺人が明るみに出る「クロス」。人間が過去と向き合い、思わぬ運命に対峙する様子を描く。映画プロデューサーで監督の奥山和由、撮影監督の釘宮慎治が共同でメガホンを取った。

 集団リンチ殺人を追っていたジャーナリストの柳田(斎藤工)は、加害者の知佳(Sharo)の居場所を突き止める。知佳の夫の孝史(山中聡)は柳田に事実を知らされ動揺。夫婦関係に亀裂が入る。知佳の過去は記事になり、孝史が経営する会社は倒産。愛犬の里親を募集したところ、真理子(紺野千春)が名乗り出る。

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 孝史の娘・聖羅(前野えま)は愛犬と離されてふさぎ込む。娘思いの孝史は真理子に頼み、犬を通じた交流が始まった。しかし、知佳は夫と真理子の仲を疑う。集団リンチ殺人が起きた同じ時期に発生した不倫殺人事件に、真理子が絡んでいるのではないか──疑った知佳は柳田を呼び出し、告げ口をする。

 過去に起きた二つの殺人が交差する。着眼点とアイデアは優れている。しかし、全体に掘り下げが浅い。不倫殺人は理解できるところまで描かれるが、集団リンチ殺人は背景説明にとどまった感がある。土台となるべき「過去」が安定しないため、描かれる「現在」が説得力を欠く。

 重点が置かれているのが、真理子の心情だ。もう人を会いしてはいけないのに、内に眠る女の部分と葛藤する。そんな姿に知佳は嫉妬するが、演じるSharoが表面的な演技に終始している。一方、柳田役の斎藤は短い出演ながら、ふてぶてしくしたたかな記者役で存在感を見せている。

(文・藤枝正稔)

「クロス」(2017年、日本)

監督:奥山和由、釘宮慎治
出演:紺野千春、山中聡、Sharo、前野えま、那波隆史

2017年7月1日(土)、ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.cross2017.com/

作品写真:(C)2017「クロス」製作委員会

タグ:レビュー
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2017年06月22日

「ありがとう、トニ・エルドマン」リアルとシュールの絶妙なバランス 父と娘の破格な愛

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 トニ・エルドマンとは、主人公であるヴィンフリートが創造したもう一つの人格である。学校の音楽教師をリタイアし、時間をもてあましているらしいヴィンフリートは、気が向くと入れ歯やカツラで変装し、トニ・エルドマンと名乗っては、悦に入っている。

 そんなヴィンフリートにとって、気がかりなのは娘のイネスのことだ。コンサルティング会社に勤めるイネスは、ルーマニアのブカレストに赴任し、朝から夜まで働きづめ。たまにドイツの実家に帰ってきても、ケータイで仕事の打ち合わせばかりしている。結局、ろくに会話もしないまま、ブカレストに戻ってしまう。

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 イネスが心配でたまらないヴィンフリートは、はるばるブカレストまで彼女に会いに行く。驚くイネスだったが、仕事に忙殺され、父にかまっている暇などない。だが、あまり冷たくするのも気の毒に思ったか、イネスは財界人が集まる大使館でのレセプションに父を招く。ヴィンフリートは、取引先の役員を怒らせて落ち込む娘の姿に、彼女の仕事の過酷さを垣間見る。

 企画、プレゼンテーション、接待と、休む間もなくスケジュールをこなしていくイネス。そんなイネスの前に、ヴィンフリートはトニ・エルドマンの姿で現れるようになる。同僚との食事会、上司と口論している屋上、ボーイフレンドと楽しんでいるパーティー。

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 まさに神出鬼没。ごく日常的な風景の中に、突如として姿を現す異形の中年男。リアルな世界をかき乱すシュールな人物。ビジネスでキャリアを積み上げるために、毎日必死で頑張っているイネスにとっては、迷惑このうえない存在のはずだ。

 しかし、イネスは父=トニ・エルドマンを決して遠ざけようとはしない。彼の行動が、意地悪や悪ふざけなどではなく、自分を気遣ってのことだと分かっているからだ。

 イネスは、いつのまにかトニ・エルドマンに癒され、影響されていく。手堅く、そつなく、常識的に。それまでの生き方を彼女はかなぐり捨てる。ヴィンフリートの娘ではなく、トニ・エルドマンの娘へ。その気になれば、自分も変身できる。イネスは覚醒するのだ。

 リアルとシュールが絶妙なバランスで、全編に監督の非凡なセンスが光る秀作。カイエ・デュ・シネマ誌、スクリーン・インターナショナル誌など、世界の名だたる映画誌が年間ベストワンに選んでいるのもうなずける。

(文・沢宮亘理)

「ありがとう、トニ・エルドマン」(2016年、ドイツ・オーストリア)

監督:マーレン・アデ
主演:ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー

2017年6月24日(土)、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.bitters.co.jp/tonierdmann/

作品写真:(c)Komplizen Film
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