2017年03月22日

「サラエヴォの銃声」暗殺事件から100年 過去と現在が交錯する群像劇

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 1914年、サラエボを訪れたオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻が、ボスニア系セルビア人青年に射殺された。第一次世界大戦の引き金となった事件。「サラエヴォの銃声」は、事件から100年の記念式典が開催される名門ホテルを舞台に、従業員、招待客、ジャーナリスト、警備員など、さまざまな人々の人生に焦点をあてながら、町の過去と現在を照らし出した作品だ。

 構成が凝っている。まず屋上では女性ジャーナリストが、事件をテーマにインタビュー番組を収録している。客室の一つでは、フランス人VIPが、式典演説のリハーサルに余念がない。エントランス付近では、女性従業員が式典に向けフル稼働中。地下では一部従業員がストライキを企て、支配人が阻止すべく動いている。個別のストーリーが同時進行していく。

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 屋上インタビューのテーマは、「暗殺者は英雄かテロリストか。皇太子は占領者か犠牲者か」。学識者らに続いてインタビューを受けるのは、暗殺者と同姓同名の男、ガヴリロ・プリンツィプだ。男はジャーナリストのヴェドラナに「(暗殺者は)セルビア人の英雄だ!」と叫び、口論となる。収録後も激論は続くが、やがて2人の間に男女の感情が芽生えていく。

 一方、屋上のはるか下では、ストをめぐる従業員と支配人側との攻防が展開している。女性従業員のラミヤは、支配人のオメルから信頼されていたが、リネン室で働く母親がストに参加することを知られ、解雇通告を受けてしまう。

 事態を好転させるため、ロビーから地下のリネン室、支配人室へと、ホテル内をせわしなく歩き回るラミヤ。暗い廊下の角を右に左に曲がりくねりながら移動する姿を真後ろから追うカメラが、ラミヤの緊張感と焦燥感を表現している。

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 ガヴリロとヴェドラナ、ラミヤと母親、支配人のオメル。それぞれの運命が、クライマックスに向かって収れんしていく。そして訪れる衝撃的な幕切れ。大戦後も内戦で傷つき苦しんできたボスニア・ヘルツェゴビナ。悲劇の歴史が浮かび上がると同時に、今日の世界に広がる不穏な空気が立ち昇る。「ノー・マンズ・ランド」(01)のダニス・タノヴィッチ監督が、卓越した作劇術を披露した傑作だ。

(文・沢宮亘理)

「サラエヴォの銃声」(2016年、仏=ボスニア・ヘルツェゴビナ)

監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:ジャック・ウェバー、スネジャナ・ヴィドヴィッチ、イズディン・バイロヴィッチ、ヴェドラナ・セクサン、ムハメド・ハジョヴィッチ、ファケタ・サリフベゴヴィッチ−アヴダギッチ

2017年3月25日(土)、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.bitters.co.jp/tanovic/sarajevo.html

作品写真:(c)Margo Cinema, SCCA/pro.ba 2016
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2017年03月14日

「わたしは、ダニエル・ブレイク」労働と貧困、福祉の矛盾 ケン・ローチ監督、79歳の反骨精神

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 労働者階級や移民など、社会的弱者を描き続けてきた英国の名匠ケン・ローチ監督。前作「ジミー、野を駆ける伝説」(14)を最後に引退表明したが、79歳になって「どうしても伝えたい物語がある」と復帰。「わたしは、ダニエル・ブレイク」を撮り上げ、カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した。「麦の穂をゆらす風」(06)に続く2度目の快挙である。

 59歳の大工ダニエル(デイブ・ジョーンズ)は最愛の妻に先立たれ、心臓発作で医師に働くことを止められた。国の手当て支給のためマニュアル通りの問診をする医療スタッフ。四角四面なやり取りにいら立つダニエル。矛盾だらけの福祉制度と問題点が浮かび上がる。

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 審査で「就労は可能、手当て支給は中止」と判断されたダニエル。手当てを受けるには数々の試練を乗り越えなければならなかった。受付窓口に電話をかければ保留で長く待たされ、出たと思えば「鑑定人の連絡を待て」と一方的な回答。職業安定所へ行けば「パソコンで申請しろ」と言われるが、使い方が分からない。何度も通ったある日、職安でシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)、彼女の子ども2人に出会う。同じ立場同士、友情と家族のような絆が芽生えていく──。

 初老で失業したダニエルと、貧しい母親のケイティ。世の中の仕組みは社会的弱者からすれば矛盾だらけだ。職安は仕事や手続きを紹介はするが、余計な手助けは一切しない。本人任せだ。ダニエルは求職者手当てを得るため、一定回数の面接を受けなければならない。ダニエルを見ながら行政への不信感が生まれ、福祉の仕組みにあきれてしまう。

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 貧しさに苦しむケイティは、食べ物は自分は口にせず子どもたちに与え続ける。無償で食品が配給されるフードバンクで、空腹に耐えられず、その場で食べてしまい泣き崩れる。その後、スーパーで万引きしたことを機に知り合った警備員に紹介され、いかがわしい仕事に手を出してしまう。

 働けなくなった労働者、貧しい人たちがぶつかる福祉の矛盾。監督は皮肉を込めて観客に疑問を投げかける。監督の反骨精神、力強いメッセージを感じる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016年、英・仏・ベルギー)

監督:ケン・ローチ
出演:デイブ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター

2017年3月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://danielblake.jp/

作品写真:(C)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016
タグ:レビュー
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2017年03月13日

世界が注目する國村準、韓国映画「哭声 コクソン」で圧倒的存在感「現場はどこも変わらない」

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 一方では山に住み着いた得体の知れない“よそ者”、一方では自殺志願の人に寄り添う元警察官――。韓国映画「哭声 コクソン」とベルギー・フランス・カナダ合作映画「KOKORO」で正反対のキャラクターを演じた國村隼が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017」を訪れた。2作品の上映のほかにトークショーも開催され、観客のアンケートで選ぶファンタランド大賞では「人物賞」を受賞。さながら「國村準祭り」の様相だ。國村と「哭声」のナ・ホンジン監督に話を聞いた。

不気味な“よそ者”

 「チェイサー」「哀しき獣」で韓国の社会問題を下敷きに犯罪と暴力を描いたナ・ホンジン監督が、「哭声 コクソン」では被害者に焦点を当て、小さな村の混乱を描き出す。

 ある山村に一人の“よそ者”が現れてから奇妙な殺人事件が続き、人々は恐怖に陥る。ナ監督は物語のモチーフを新約聖書から得た。「エルサレムに向かうイエスをユダヤ人がどう見たのか」という視点から“よそ者”のキャラクターが誕生。外見上は村人たちと似ていながら異質である点を強調するため設定を日本人としたが、キャスティング時に監督の頭に真っ先に浮かんだのが國村だった。最後まで観客を惑わせる“よそ者”役にふさわしいと思ったという。オファーを受けた國村も「彼が撮るなら面白くないわけがない。この役をほかの人に取られたくない」と即決した。

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 ミステリー、スリラー、ファンタジーと多くのジャンルを取り入れ、宗教的要素も盛り込んだ作品。ナ監督は「構想から完成まで6年かかった。一生かけてもできないかもしれないと思った」と、生みの苦しみの日々を振り返った。

 ロケは半年に及んだ。妥協を許さないナ監督の撮影現場は國村にとって「経験したことがないほどタフな現場」。ふんどし一丁で岩山を走り回るのは序の口(シナリオでは全裸という設定だったとか)で、過酷な撮影に耐えた。「滝に打たれるシーンは2テイクで終えてほしいと監督に頼んだ」ものの、結局はその倍ほどのテイクを要したという。そのかいあってか“よそ者”は圧倒的な迫力でスクリーンを支配し、映画に緊張感を与えている。

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 國村は韓国の「青龍賞」で日本人初の男優助演賞と人気スター賞をW受賞。人気スター賞の5人の中には女優ペ・ドゥナもいて、「ファンなので一緒に受賞できたのはうれしかった」。知名度も急上昇したそうで「韓国の街を歩いていて『悪魔だ!』と声をかけられ、一緒に写真を撮ってほしいと頼まれるのには驚いた」と笑う。

 ナ監督は「日本にはこのようなジャンルの映画が多いので、受け入れられるかどうか心配もある。面白く見てくれればうれしい。なぜ主人公が被害にあわなければならなかったのかを考えてもらえれば」と日本の観客にメッセージを送った。

ジョン・ウー、タランティーノ作品も

 「KOKORO」はベルギーの女性監督の作品で、島根県隠岐島の雄大な自然を背景に生きる希望を見出す人々の物語だ。フランス人女性アリス(イザベル・カレ)が、亡き弟がしばらく滞在していた日本の海沿いの村を訪ねる。この村では絶壁から海に身を投げる人が後を絶たない。女性はこの村でさまざまな過去を持つ人々と出会い、ゆっくりと癒やされていく。國村の役どころは、自殺を思いとどまらせる活動をする元警察官。自らも心に傷を負いながら絶望した人々に寄り添う、懐の深いキャラクターだ。

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 「KOKORO」の上映後には國村のトークイベントが開かれ、熱心なファンが詰めかけた。國村は車好きがこうじて進んだ高等専門学校を辞め、バイト生活中に劇団の研究生に応募したことをきっかけに演技の道に足を踏み入れる。リドリー・スコット監督が大阪で撮影した「ブラック・レイン」のオーディションに参加したことが転機となった。その後、ジョン・ウー監督やクエンティン・タランティーノ監督の映画にも出演。「KOKORO」では、ほとんどのせりふを英語でこなしている。

 外国映画の仕事にも抵抗はまったくない。「映画の現場でやるべきことは同じ。同じ道具建ての中で、いかに映画の世界観を立ち上げるかが俳優の仕事」。文化や言葉は違っても同じ映画人だという言葉に、外国人の監督や共演者に愛される理由が見えた。

(文・写真 芳賀恵)

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「哭声 コクソン」(2016年、韓国)

監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ

2017年3月11日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kokuson.com/

作品写真:(C)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

写真:
1:(右から)「哭声 コクソン」のナ・ホンジン監督、國村隼
2と3:國村準トークイベント
4:(右から)「KOKORO」のヴァンニャ・ダルカンタラ監督、國村準=いずれも北海道夕張市で3月4日〜5日
5:「哭声 コクソン」

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6:「KOKORO」

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2017年03月10日

「心に吹く風」 「冬ソナ」のユン・ソクホ監督、北海道舞台に初の劇場映画「日本で撮れてうれしい」

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 韓流ブームのきっかけを作ったドラマ「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督が、初の劇場映画「心に吹く風」で「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017」を訪れた。北海道の富良野・美瑛の自然を背景に大人の男女の揺れる心を繊細に描き、「冬ソナ」の世界観にもつながる。ユン監督と主演の真田麻垂美に話を聞いた。

 映像アーティストのリョウスケ(眞島秀和)は仕事で訪れた北海道で、初恋の相手である春香(真田)に偶然再会する。すでに結婚していた春香だが、リョウスケの撮影に同行し一緒に時間を過ごすうち、二人は昔の思いをよみがえらせていく――。

 「心に吹く風」は「作家主義×俳優発掘」を掲げる松竹BCオリジナル映画プロジェクトの一環で作られた。ユン監督はオファーを受けた時、かつて旅行で訪れた富良野・美瑛の風景を思い浮かべたという。チャン・グンソク主演のドラマ「ラブレイン」も同地区で冬に撮影したもの。今回は春の風景の中、初恋の甘さと痛みを表現した。

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 春香役に抜てきされた真田は、16歳で小栗康平監督の「眠る男」でデビューし、山崎まさよし主演の「月とキャベツ」などに出演。22歳まで活動を続けたあと渡米し結婚。今回16年ぶりのスクリーン復帰となった。久しぶりの撮影は「苦労と発見」があったと話す。撮影に入る前から春香のキャラクターを意識して生活していたが、現場での勘を取り戻すのには時間がかかったようだ。「春香の感情が進んでいくのに表現が追い付かないところがあった。監督が察して休憩を取らせてくれたり、歩み寄ってくれたりしたことで、次第に現場になじんでいった」(真田)。改めて映画愛を実感し、今後もさまざまな作品にチャレンジしていきたいという。

 「冬のソナタ」から15年。韓国では刺激的な展開のドラマが主流となり、ユン監督のように静かなトーンで心のひだを描くスタイルは敬遠される傾向にある。ユン監督は「不特定多数が見るテレビでは作家主義には限界がある。資本主義社会ではやむを得ない現象だが、残念だ。その点で、映画は自由にできたのが良かった」と振り返り「『冬ソナ』があったから日本で映画を撮ることができた。ファンの皆さんに報いることができればうれしい」と締めくくった。

 「冬のソナタ」の音楽監督も務めたイ・ジスの甘美な音楽にも注目だ。

(文・写真 芳賀恵)
 
「心に吹く風」(2017年、日本)

監督:ユン・ソクホ
出演:眞島秀和 真田麻垂美

2017年6月、新宿武蔵野館ほか全国順次順次公開。

写真:
1:「心に吹く風」
2:(右から)ユン・ソクホ監督、真田麻垂美   
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2017年03月09日

「残されし大地」原発事故に傷ついた町 あえてとどまり暮らす人々

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 福島県双葉郡富岡町。福島第一原発の事故で大量の放射性物質が降り注ぎ、避難指示区域に指定された町である。ほとんどの住民は指示に従い、安全な場所に避難した。そんな中、あえて町にとどまり続けた人がいる。

 松村直登さん。一旦妹の住む実家に逃れたが、放射能汚染を気味悪がられた。避難所も満杯だった。仕方なく戻ってくると、見捨てられた犬や猫、ダチョウがいた。世話をしなければと思い、そのままとどまる決意をした。

 原発は絶対安全と言われ信じていた。だが、手ひどく裏切られ、怒りが燃え上がった。海外メディアの取材を受けるうちに、自らも積極的に反原発のメッセージを発信するようになった。スイスなど海外のイベントに招かれ、講演も行っている。

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 「残されし大地」は松村さんの日常生活に焦点を当てたドキュメンタリーだ。松村さんと同様にこの地にとどまった老夫婦、避難指示解除後に帰還すべく自宅のリフォームや除染を行う熟年夫婦も紹介している。

 松村さんは復興について悲観的だ。「将来戻ってくるのは2割か3割、それも年寄りばかりだろう。復興なんてあり得ない。1回は死の町になって、そこからの復興だ」。それでも町を離れる気はさらさらない。避難先ではストレスで何百人もの人が死んでいる。たとえ汚染されていても生まれ育った故郷で、好き勝手に生きたほうがいいと思っている。

 外国からの来客が、松村さんの自宅の周囲で線量計の値を読み上げる。0.9ミリシーベルト、場所によっては1.8ミリシーベルト。「松村さんの被曝量は世界一だ」。死んだら献体するつもり。電力会社の社員にそう言ったら「貴重な資料になるでしょう」と答えたそうだ。まるで他人事である。

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 チェルノブイリと並ぶ、史上最悪の原発事故。いまだ収束の道筋が見えない状況にあって、はたして復興の日などくるのか。

 ラスト、ゆっくりと移動するカメラが、人気のない町を映し出していく。ガソリンスタンド、書店、ドラッグストア、駐車場──。ナレーションも音楽もなく、ただ風景を見せただけの映像が、原発の恐ろしさと罪深さを鮮烈に訴えかける。

 ベルギーの地下鉄テロで非業の死を遂げたジル・ローランの初監督作にして遺作となった作品。ローラン監督の付けた原題は「見捨てられた大地」だったが、福島の人々への配慮から「残されし大地」としたそうだ。

(文・沢宮亘理)

「残されし大地」(2016年、ベルギー)

監督:ジル・ローラン
出演:松村直登

2017年3月11日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.daichimovie.com/

作品写真: (c)CVB / WIP /TAKE FIVE - 2016 - Tous droits reserves
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