2017年04月08日

「マイ ビューティフル ガーデン」“植物恐怖症”のヒロイン、庭作りで得た出会い

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 ガーデニングの伝統ある英国を舞台に、“植物恐怖症”の変わり者ヒロインが、庭作りを通して成長するドラマ「マイ ビューティフル ガーデン」。
 
 ベラ(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は生活スタイルにこだわりを持っている。家に付いている庭は荒れ放題。植物恐怖症の彼女にとって、庭はありがた迷惑な存在だった。美しい庭を愛する偏屈な隣人アルフィー(トム・ウィルキンソン)は、ベラが目障りで仕方がない。庭の手入れをしないベラに、ある日突然退去命令が届く。

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 生後間もなく公園に捨てられたベラ。冒頭で不幸な生い立ちが冗舌に語られる。フランスのヒット作「アメリ」(01)のジャン・ピエール・ジュネを思わせる演出だ。ベラのトラウマになった公園の植物。食事、服装、時間と秩序にこだわる子ども時代。変わり者のベラができる過程がテンポよく描かれる。

 大人になったベラはアパートに暮らし、絵本作家を夢見ながら図書館勤め。極端に秩序にこだわるが、庭の手入れはしない。そんなベラにかかわる男性3人。まずは頑固老人のアルフィー。庭を放ったらかしのベラに口うるさく絡む。

 さらにアルフィーのお抱え料理人バーノン(アンドリュー・スコット)。料理の腕は抜群で、法律に詳しい双子の女子を育てるシングル・ファーザー。ベラに朝食を作ってアルフィーの逆鱗に触れ、首になったところをベラに雇われる。最後は図書館に来る風変わりな発明家のビリー(ジェレミー・アーバイン)。自分と正反対に自由で型破りなビリーに、ベラは恋心を抱く。

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 変わり者のベラは3人の男たちにかかわり、偏屈な心を徐々に解き放っていく。荒れ放題の庭も手入れされ、色とりどりの花が咲き誇るようになり、頑なな老人の心も癒やされていく。個性豊かな登場人物が織りなす物語は、心を通わせハーモニーを奏で、美しい庭へと結びつく。

 ややできすぎな印象はあるが、魅力的な俳優たちのアンサンブルは心地よい。ユーモラスな語り口で、ちょっと風変わりな英国流シンデレラ・ストーリーに仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「マイ ビューティフル ガーデン」(2016年、英)

監督:サイモン・アバウド
出演:ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、トム・ウィルキンソンアルフィー・スティーヴンソン、
ジェレミー・アーバイン、アンナ・チャンセラー

2017年4月8日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.my-beautiful-garden.com/

作品写真:(C)This Beautiful Fantastic UK Ltd 2016

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2017年04月07日

「LION ライオン 25年目のただいま」迷子になった少年 故郷インドへの長い道

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 サルー・ブライアリーが体験した実話を映画化した「LION ライオン 25年目のただいま」。インドで迷子になった少年が、25年後に電子地図サービス「グーグル・アース」を使い、故郷を探し出す物語だ。監督はオーストラリア出身のガース・デイビス。長編デビュー作となる。

 1986年、インド。5歳のサルー(サニー・パワール)は、母と兄弟4人で暮らしていた。兄の仕事へついて行ったある日、回送列車の中で眠ってしまう。着いた先は大都市コルカタ。言葉も通じぬ見知らぬ町へ放り出され、サルーのサバイバル生活が始まった。

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 町で優しい女性に拾われ、食事と風呂を世話してもらったサルー。翌朝、自分に目をつける男の存在を察知し、再び逃げ出して放浪する。やがて警察に保護され、孤児院に入れられた。子どものいない裕福なオーストラリア人夫妻と養子縁組が成立。「サルー・ブライアリー」としての新しい人生が始まった。

 08年、サルー(デブ・パテル)はオーストラリア南部のタスマニアで暮らす養父母のもとを離れ、メルボルンの学校でホテル経営を学んでいた。友人のルーシー(ルーニー・マーラ)と訪れたホームパーティーで、インドの揚げ菓子を見た瞬間、故郷の記憶が蘇った。生い立ちを話すサルーに、友人の1人が「グーグル・アースなら地球のどこでも行ける」と話す。

 母の名も、住んでいた町の場所も忘れてしまったサルー。「列車に乗った駅の近くに給水塔があった」記憶だけを頼りに、グーグル・アースを使った故郷探しの旅が始まった──。

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 サルーの数奇な半生は、インドとオーストラリアの2部構成で語られる。貧しい家族とはぐれ、過酷な放浪生活を送ったインドの日々。町をさまよう中、人身売買や児童買春を匂わせる描写もあり、かなり危険な状況をかいくぐったことが伺える。長じてオーストラリアに暮らすサルーは、故郷の家族を思う気持ちが高まり、とりつかれたようにルーツを探し求める。

 子ども時代を演じたパワールの生命力あふれる演技、大人になったサルー役のパテルが見せる揺れる心。実話だけに終着点は想像できるが、細かなエピソードが積み重ねられ、演出は丁寧だ。脇に徹したニコール・キッドマンが重要な役で支え、見ごたえのある作品になった。

(文・藤枝正稔)

「LION ライオン 25年目のただいま」(2016年、オーストラリア)

監督:ガース・デイビス
出演:デブ・パテル、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマン、デビッド・ウェンハム、サニー・パワール

2017年4月7日(金)、TOHO シネマズみゆき座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/lion/

作品写真:(C)2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia

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2017年04月02日

「はじまりへの旅」森で暮らす風変わりな家族 父と子6人の破天荒ロードムービー

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 米北西部の森で暮らす風変わりな家族が主人公のロードムービー「はじまりへの旅」。監督のマット・ロス自身の子供時代の体験をもとにしているという。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した。

 厳格な父のベン(ビゴ・モーテンセン)は、独自の教育方針に基づき子供6人を育てていた。18歳の長男ボウドヴァン(ジョージ・マッケイ)は、ナイフ1本で野生の鹿を仕留める。家族は鹿を解体し、その夜のごちそうとして食べる。森でサバイバル生活を送る家族は、哲学者のノーム・チョムスキーを崇拝している。資本主義を否定し、自給自足の生活。本で文学や哲学を学んだ子供たちは6カ国語に通じ、強靭な体力を誇る。ボウドヴァンは名門大学に次々合格するほどだ。

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 文明社会に触れない毎日を送る家族のもとに、ある日突然訃報が入る。長期入院中の母レスリーが亡くなったのだ。葬儀に出るため、父子は改造バスに乗り、2400キロ離れたニューメキシコ州を目指す。仏教徒だった母の願いを尊重し、父子は奇想天外な行動を起こす。

 一行の行動は奇妙だ。腹をすかせて入った食堂で、食事をすべて「毒」とみなす。スーパーへ行けば「食材の救済」と称して大量の食べ物を万引きする。家族の理解者であるベンの妹夫妻の家に泊めてもらうが、あまりに常識はずれのため対立する。ボウドヴァンはキャンプ場で知り合った少女に恋をし、プロポーズまでするが振られてしまう。葬儀にはド派手な衣装で参列し、ベンと妻の父ジャック(フランク・ランジェラ)は激しく衝突する。

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 ネットなど最新技術と無縁の家族をコミカルに描写しつつ、現代人が持つ自然への憧れも浮かび上がらせる。母と子の生前の姿を回想するシーンがあってもよかったが、モーテンセン演じる型破りだが繊細な父親、個性豊かな子供たちの演技に魅せられる。便利すぎる社会に慣れた人々へ、皮肉を込めた独創的作品だ。

(文・藤枝正稔)

「はじまりへの旅」(2016年、米国)

監督:マット・ロス
出演:ビゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、ジョージ・マッケイ、サマンサ・アイラー、アナリース・バッソ

2017年4月1日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで、

http://hajimari-tabi.jp/

作品写真:(C)2016 CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
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2017年03月30日

「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」ケネディ夫人の素顔 ナタリー・ポートマンが熱演

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 ジャッキーことジャクリーン・ケネディ。世界で最も有名なファーストレディーである。洗練されたファッションは世界中で流行し、華やかな生活は女性たちの憧れの的となった。だが、それはあくまで彼女の表面的なイメージに過ぎず、素顔はベールに包まれたままだった。

 「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」は、ケネディ暗殺後から葬儀までの4日間に焦点を絞り、知られざるジャッキーの実像に光をあてた作品である。ジャッキーを取材するジャーナリスト、ケネディの弟ロバート、秘書のナンシー、悩みを打ち明ける神父。さまざまな人々との対話や交流を通して、試練に立ち向かう姿を描き出していく。

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 劇中、ジャッキーがホワイトハウス内を案内するテレビ番組の映像が挿入される。そこには紛れもない本物のジャッキーが映し出されているのだが、前後にジャッキー役のナタリー・ポートマンが登場しても、何ら違和感を抱かせないのは見事。

 「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(11)では、メリル・ストリープが英国初の女性宰相になりきっていた。ポートマンもアクセント、話し方、物腰、メイクに至るまで、ジャッキーを完璧にコピーしており、ストリープに負けていない。誰もが知っている人物は、いかにそっくりに演じるかが観客を引き込む上で重要だ。ポートマンの“なりきり演技”は大成功である。

 誰もが知っているといえば、ケネディ暗殺の瞬間をとらえた、あの8ミリ映像。作品では映像をさらに近距離で再現し、惨劇を生々しく伝えている。3発の銃撃のうち、2発目と3発目が命中。3発目が頭部を破壊し致命傷となった。飛び散った血はジャッキーの体に付着。シャワーを浴びるジャッキーの毛髪から血が流れ落ちるシーンが衝撃的だ。

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 「最初の銃声が響いた時、夫をかばえば次の銃撃を避けることができたかもしれない」。ジャッキーは後悔の念を語る。マリリン・モンローをはじめ女性関係が派手だったケネディ。浮気をめぐってジャッキーとはけんかが絶えなかったとも聞く。決して円満な関係ではなかった。夫を守れなかったのではなく、守らなかったのではないか。ついそんな想像をしてしまうのは、5年後にケネディとはまったくタイプの異なる大富豪と再婚してしまったことを知っているからだ。

 夫婦としてはうまくいかなかった。しかし、大統領とファーストレディとしてみれば、完璧なカップルだった。「リンカーンの葬儀に劣らぬ美しい葬礼を」。最後のミッションを完遂すべく、ジャッキーは毅然たる一歩を踏み出すのである。

(文・沢宮亘理)

「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」(2016、米国・チリ・フランス)

監督:パブロ・ラライン
出演:ナタリー・ポートマン、ピーター・サースガード、グレタ・ガーウィグ、ビリー・クラダップ、ジョン・ハート

2017年3月31日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://jackie-movie.jp/

作品写真:(c)2016 Jackie Productions Limited
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2017年03月23日

「未来よ こんにちは」夫の裏切りと母の死 ユペール、非凡な演技力

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 フランス、パリ。ナタリーは高校の哲学教師、夫のハインツもやはり哲学教師。2人の子供は独立し、夫婦水入らずの穏やかな毎日を送っている。認知症の母は頭痛の種だが、それ以外は何の問題もない、理想的なカップルのように見える。ナタリーは真面目で誠実な夫と「死ぬまで一緒に暮らす」と思い込んでいた。

 ところがある日、娘がハインツの浮気現場を目撃してしまう。母親か愛人か、どちらかを選ぶよう娘に迫られたハインツは、あっさり愛人を選ぶ。「好きな女性ができたから一緒に暮らすよ」。その瞬間、25年続いた結婚生活にピリオドが打たれる。

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 信じていた夫に裏切られ、怒りがこみ上げるナタリー。だがすぐに気を取り直し、現実を受け入れる。離婚前と変わらず、ナタリーは高校での授業を続け、認知症を患った母親の世話をする。

 そんなナタリーの前に現れたのが、かつての教え子で、今は過激な政治活動にコミットしているファビアンだ。施設に移った母が逝去し、ひとりぼっちとなったナタリーは、ファビアンが仲間たちと暮らすアルプスの山荘へ。ナタリーがファビアンに恋心を抱いていたのか、ロマンチックな一夜を過ごしたのかは微妙。明確な描写のないまま、ナタリーは山荘を去る。

 50代後半のナタリーが経験する、子離れ、離婚、母との死別。そして教え子との微妙な関係。どの局面にあろうと、ナタリーは動揺することも、当惑することもなく、淡々と日々をやり過ごしていくように見える。しかし、それは見かけだけで、内心は大きく波立っているのかもしれない。

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 パリの街角、ブルターニュの海岸、アルプスの山々。映画は、ナタリーをさまざまな風景の中におき、彼女の心象を観客の想像に委ねる。

 泣いたり、叫んだりの熱演はない。それでもスクリーンから目をそらせないのは、ヒロインに扮したイザベル・ユペールの非凡な演技力と、ミア・ハンセン=ラブ監督の演出力によるものだろう。

(文・沢宮亘理)

「未来よ こんにちは」(2016年、フランス・ドイツ)

監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:イザベル・ユペール、アンドレ・マルコン、ロマン・コリンカ、エディット・スコブ 

2017年3月25日(土)、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。26日(日)は上野千鶴子氏と湯山玲子氏によるトークイベントを開催。詳細は公式サイトまで。

http://crest-inter.co.jp/mirai/

作品写真:(c)2016 CG Cinéma ・ Arte France Cinéma ・ DetailFilm ・ Rhône-Alpes Cinéma

posted by 映画の森 at 10:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする