2019年02月10日

「洗骨」沖縄に残る弔いの風習、ゴリこと照屋年之監督が映画化

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沖縄の離島・粟国島に住む新城家。母・恵美子(筒井真理子)が亡くなり、島を離れていた息子と娘が帰ってきた。東京の大企業で働く長男の剛(筒井道隆)と、名古屋で美容師をしている長女・優子(水崎綾女)だ。恵美子の葬儀は終わったが、父・信綱(奥田瑛二)は酒を飲んで悲しみを忘れようとし、剛に愛想を尽かされている。島に残る習慣「洗骨」が近づき、家族はそれぞれの思いを抱いていた──。

 お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリこと照屋年之が監督・脚本を担当した「洗骨」。25分の短編「born、born、墓音。」(16)の長編化だ。「洗骨」は、土葬や風葬で遺体が骨となった後、海水や水、酒で洗い、再び埋葬する風習という。

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 照屋監督は06年、短編「刑事ボギー」でデビューした。短編8本と長編「南の島のフリムン」(09)を経て、満を持して演出したのが「洗骨」だ。沖縄県出身の照屋にとって必然に向かい合うべきテーマだったのだろう。ドラマは葬式で幕を開け、悲しみに暮れる家族とは対照的に、ほのぼのとしたご近所さんとのやり取りが笑いを呼ぶ。笑いの間合いが良く、楽しいシーンはコントのようだ。

 苦労人の長男・剛、妊婦の長女・優子、酒浸りで無職の父・信綱。葬儀の4年後、再び家族は島に集まった。剛は父を許せず、父と息子の軋轢は家族崩壊の危機さえ予感させる。

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 しかし、監督は険悪な空気を和らげるように、鈴木Q太郎演じる美容師・神山を投入する。優子を妊娠させた張本人で、信綱に結婚を認めてもらうため島に来たのだ。Q太郎はお笑いコンビ「ハイキングウォーク」の芸人。ロン毛に口ひげをたくわえ、島では浮きまくる。空気が全く読めない男だが、憎めないキャラでガス抜き的な存在になる。

 バラバラになりかけた家族をつなぎ、物語を引き締めるのが信綱の姉・信子役の大島蓉子だ。どこまでも情けない信綱に代わり、場を仕切り、おろおろする男たちを大声で叱咤する。たくましい叔母さん役の大島が、情けない奥田の演技を引き立てた。

 家族は感情をぶつけ合い、荘厳な「洗骨」を迎える。親族が集まり、風葬された美恵子がいる場所まで道具を運ぶ。しかし、厳かな儀式は、予想外のハプニングで、とんでもない展開になってしまう。

 離島に伝わる風習を通して、家族という名の命のバトンがつながれる。監督はユーモアを交え、笑いと涙をバランス良く配合。感動的なドラマに仕上げた。

(文・藤枝正稔)

「洗骨」(2018年、日本)

監督:照屋年之
出演:奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら

2019年2月9日(土)、丸の内TOEIほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://senkotsu-movie.com/

作品写真:(C)「洗骨」製作委員会


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2019年02月07日

「ちいさな独裁者」軍服だけで盲従する人々 ナチスの悪夢が蘇る狂気の物語

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 第二次世界大戦末期の1945年4月。敗色濃厚なドイツでは兵士の規律違反が相次いでいた。部隊を脱走したへロルト(マックス・フーバッヒャー)は、道ばたに捨てられた車の中に軍服を発見し、身に着けて大尉に成りすます。架空の任務である「ヒトラー総統からの命令」をでっちあげ、言葉巧みに嘘をつき、道中出会った兵士たちを次々と服従させていく──。

 「ちいさな独裁者」は、実在したドイツ人兵士ヴィリー・へロルトをモデルにしている。監督、脚本は西ドイツ出身のロベルト・シュベンケ。ドイツ映画「タトゥー」(02)で長編デビューした後、ジョディ・フォスター主演「フライトプラン」(05)でハリウッド進出。「RED レッド」(10)、「ダイバージェント NEO」(15)などヒット作を手掛けた。「ちいさな独裁者」は15年ぶりに故国ドイツで手掛けた作品だ。

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 終戦まで1カ月。混とんとしたドイツで、「軍服」の魔力にとりつかれた男の狂気が描かれる。ヘロルトはナチス将校の軍服を手にしたことで、大尉の権力も入手する。大き過ぎる軍服を着た小柄なヘロルトは、部隊からはぐれた一人の上等兵と出会う。上等兵はヘロルトの身なりで大尉と思い込み、同行を願い出る。ヘロルトは偽りの大尉になりすまし、道々で出会ったならず者の兵士たちを寄せ集め、「ヘロルト親衛隊」と称する。集団は権力を振りかざし、残酷な狂気へ突き進む。

 ドイツ映画「es エス」(02)を思い出す内容だ。「es エス」では、新聞広告で集められた被験者が疑似刑務所で看守と囚人に分けられ、2週間の実験が行われる。権力を手に入れた看守役は囚人役をいたぶり始め、死者を出す。1971年に米スタンフォード大学で行われた監獄実験をモチーフにしたもので、ヘロルトの行動もそれにつながる印象だ。

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 軍服姿のヘロルトは、兵士たちに「ヒトラー総統直々の任務だ」と宣言。高圧的な態度、巧みな言葉で兵士たちを支配する。疑われながらも数々の修羅場をくぐり抜け、最後は残忍に収容所の囚人たちを処刑し始める。

 戦時中の実話をもとに、人間の内部に潜む支配欲、残虐性をあぶり出した。軍服だけで盲従する兵士たちは、判断力を失った現代人への警鐘にみえる。ヘロルトの残虐行為は、ナチスが実際に行ったおぞましい犯罪の数々を思い起こさせるだろう。負の欲望にとらわれた凶器の物語は、毒気あふれるエンドロールへ続く。ナチスの悪夢に震え上がる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ちいさな独裁者」(2017年、独・仏・ポーランド合作)

監督:ロベルト・シュベンケ
出演:マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウ、ベルント・ヘルシャー、ワルデマー・コブス

2019年2月8日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。。

http://dokusaisha-movie.jp/

作品写真:(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

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ゆうばり映画祭ラインアップ発表、開幕作はキム・ギドク監督新作「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)

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 第29回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019のラインアップ発表記者会見が6日、札幌市内で行われた。開幕作は韓国のキム・ギドク監督の「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)。3月7日から10日の4日間、73作品を上映する。

 キム監督は韓国の「♯Me Too」運動により表舞台から姿を消しており、本作も欧州などの映画祭で上映されたものの、韓国では未上映となっている。退役軍艦が海から未知の空間に迷い込み、乗っていた多くの旅客が生存競争を繰り広げるストーリー。チャン・グンソク、韓国で活躍する藤井美菜、韓国映画の重鎮アン・ソンギ、オダギリジョーという豪華キャストも注目を集めそうだ。

 ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門は334本の応募の中から6本がノミネート。北海道出身の白石和彌監督ら5人の審査員により審査が行われる。ゆうばり常連の西村喜廣監督がプログラミングを担当する新設の「コアファンタ部門」は、ファンタ映画ファン必見のラインアップをそろえる。

 ゆうばり映画祭は、第30回を迎える来年、大幅な刷新を予定している。深津修一エグゼクティブプロデューサーによると、詳細は決定していないものの、冬季間の開催は今年で最後になるという。

 昨年のゆうばり映画祭で上映された後、全国的に人気が爆発した「カメラを止めるな!」にちなみ、今年のテーマは「ファンタを止めるな!」。開催日程が昨年より1日短縮となり上映本数やスクリーン数も縮小するなど、運営が厳しさを増すなか、身の丈に合った映画祭への模索が続きそうだ。

 雪景色がトレードマークの映画祭は大きな転機を迎える。

(文・芳賀恵)

・招待作品
【オープニング】 「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)キム・ギドク監督
【クロージング】「レゴ・ムービー2」マイク・ミッチェル監督
「アナと世界の終わり」ジョン・マクフェール監督

・作品写真
「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)
(c)2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

・映画祭HP
http://yubarifanta.com
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2019年01月31日

「バーニング 劇場版」村上春樹の原作、韓国イ・チャンドン監督が映画化 探究心くすぐる濃密推理劇

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 運送会社アルバイトのジョンス(ユ・アイン)はある日、幼なじみのへミ(チョン・ジョンソ)と再会した。二人は一度だけ肉体関係を持ち、へミはアフリカへ旅行に行き、ジョンスは猫の世話を頼まれる。帰国したヘミは青年ベン(スティーブン・ユァン)を連れていた。裕福で日々遊んでいるとうそぶくベンは、ジョンスに秘密の趣味を打ち明ける──。

 村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を脚色し、映画化した「バーニング 劇場版」。韓国の巨匠、イ・チャンドン監督が「ポエトリー アグネスの詩」(10)以来、8年ぶりにメガホンを取った。昨年末、NHKで95分版の「ドラマ バーニング」が放送され、今回の「劇場版」は148分に拡大されている。地方から小説家を夢見て都会に出たジョンス、幼なじみのヘミ、謎多きベンの奇妙な関係を、ジョンスの視点で描いた。

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 非常にミステリアスで難解な話だ。いくつかのセリフや小道具が伏線のように散りばめられている。ジョンスとヘミが再会した時に景品としてもらった「女物のチープなピンク腕時計」。ヘミがジョンスに見せる「見えないミカンを食べるパントマイム」。ヘミが飼っている「姿を見せない猫」。ほかにも多くのキーワードが配置されている。

 後半に最も重要なキーワード「ビニールハウス」が登場する。原作の「納屋」が「ビニールハウス」へ変えられ、話は核心に近づく。ジョンスの実家を訪れたベンとヘミは、ワインと大麻を楽しみ、開放的な夕暮れのベンチでまったり過ごす。ベンはジョンスに秘めた趣味を語り出す。それは「他人の古いビニールハウスを、2カ月に1度焼く」ことだった。ベンは「下見に来た」と言い、それを境にヘミが姿を消す。

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 ジョンスの心理と行動をもてあそぶように、ベンは謎かけをする。ヘミのアパートの部屋は主を失い、ジョンスの想像と創作の場所となる。ジョンスの妄想は膨らみ続け、衝撃のラストが導かれる。テレビ版ではヒントを投げただけで終わったが、劇場版は行く末をきっちりと描いた。

 思わせぶりな描写とセリフが積み重ねられ、観客の探究心と好奇心がくすられる。映画ファンをうならせる濃密なミステリーだ。

(文・藤枝正稔)

「バーニング 劇場版」(2018年、韓国)

監督:イ・チャンドン
出演:ユ・アイン、スティーブン・ユァン、チョン・ジョンソ

2019年2月1日(金)、TOHO シネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://burning-movie.jp/

作品写真:(C)2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved

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2019年01月10日

「この道」北原白秋と山田耕筰 珠玉の童謡を生んだ名コンビ あふれる人間味と固い友情

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 昭和27年(1952年)、神奈川県小田原市で「北原白秋 没後十周年記念コンサート」が開かれ、白秋が作詞した「この道」が、少女合唱隊とオーケストラによって披露された。指揮は作曲した山田耕筰。コンサート終了後、若い女性記者に「白秋はどんな人だったか」と尋ねられ、耕筰は出会いと交流を回想する──。

 詩人・歌人で童謡作家の北原白秋と、作曲家・指揮者の山田耕筰の友情を描いた「この道」。白秋役を「ハゲタカ」の大森南朋、山田耕筰役にEXILEのパフォーマーで、映画「沈黙 サイレンス」(17)などに出演したAKIRA。監督は「半落ち」(04)、「夕凪の街 桜の国」(07)の佐々部清。

 佐々部監督は白秋を偉人として描かない。観客が抱くイメージを壊す人物造形に驚かされる。過去に一緒に仕事をしたことがあるチェコ出身のミロス・フォアマン監督が、作曲家・モーツァルトを下品な人物として描いた「アマデウス」(85)を参考にしたという。

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 白秋と耕筰は全く性格が異なり、水と油のように交わらなかった。大正7年(1918年)に「赤い鳥」創刊者の鈴木三重吉(柳沢慎吾)の仲介で知り合ったものの、反発し合いけんか別れする。大正12年(1923年)に関東大震災後、耕筰が白秋を案じて会いに行く。耕筰が「僕の音楽と君の詩で、傷ついた人々の心を癒す歌ができるはず」と言い意気投合。二人はコンビを組み、数々の童謡を生み出すことになる。

 白秋は「女好き、酒好き、泣き上戸の遊び人」として描かれる。大森は「破天荒な白秋」を喜怒哀楽を全開に、愛すべき人物として演じる。耕筰は逆に真面目な勤勉家の堅物。AKIRAはりりしい若き日、特殊メイクの晩年の双方を演じる。硬さの残る演技が、遊び人に徹した大森の演技を引き立てた。

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 ドラマ演出に定評のあるベテラン佐々部監督らしく、白秋の人物像をじっくり掘り下げながら、日常生活を通して見た情景や聞こえる音から詩が生まれる瞬間を軽妙に描く。耕筰との最悪の出会いから、震災を境に友情が育まれていく。

 二人のあふれる人間味、友情を通じ、歴史に残る「からたちの花」、「この道」など数々の名曲が生み出された。笑いと涙のバランスもほどよく、親しみやすい作品だ。

(文・藤枝正稔)

「この道」(2019年、日本)

監督:佐々部清
出演:大森南朋、EXILE AKIRA、貫地谷しほり、松本若菜、小島藤子

2019年1月11日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://konomichi-movie.jp/

作品写真:(C)映画「この道」製作委員会

posted by 映画の森 at 15:43 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする