2018年11月21日

第31回東京国際映画祭 コンペ受賞作を中心に振り返る

P1000207 「テルアビブ・オン・ファイア」ヤニム・ビトン、サメフ・ゾアビ.jpg 「三人の夫」フルーツ・チャン、クロエ・マーヤン.jpg

 11月3日まで東京・六本木を中心に開催された「第31回東京国際映画祭」コンペティション部門の受賞作品を中心に、映画祭を振り返りたい。

【東京グランプリ/東京都知事賞】&【最優秀脚本賞】

「アマンダ」(フランス) 監督:ミカエル・アース

 パリで起こったテロ事件で姉を失った24歳の青年ダヴィッドと、残された姉の娘、7歳のアマンダの、心の崩壊と再生の物語。なにげない日常の幸せな描写と対比させるように、事件後の苦しみと喪失感にさいなまれる主人公を描く。テロを被害者家族の視点で見ており、不穏な世界情勢が生み出した作品だ。

【最優秀監督賞】&【最優秀女優賞】

「堕ちた希望」(イタリア)監督、脚本:エドアルド・デ・アンジェリス

 ナポリ北西の海沿いの街が舞台。妊娠した娼婦を人身売買組織に渡す仕事をするマリアは、希望がない荒れた街で年老いた母の世話をしている。マリア役のピーナ・トゥルコが図太い生命力を感じる演技。根底には「聖母マリア」や「処女受胎」といったキリスト教の教えを深読みできる。

【最優秀芸術貢献賞】

「ホワイト・クロウ」(イギリス)監督:レイフ・ファインズ

 ソ連のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの生涯を、英の名優レイフ・ファインズが3本目の監督作として描いた。1950年代のソ連。貧しかった少年時代、レニングラードでの修業時代、西側への亡命劇。ヌレエフを演じた現役ダンサーのオレグ・イヴェンコのダイナミックな踊り、手に汗握るスリリングな逃亡劇。隅々まできめ細かく行き届いた演出だ。

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【観客賞】

「半世界」(日本)監督:阪本順治

 地方の炭火焼職人・鉱(稲垣吾郎)と、突然町に帰ってきた元自衛官の瑛介(長谷川博己)、二人の中学の同級生・光彦(渋川清彦)。40歳を目前にした男3人の物語。芸術家肌やインテリ系の役を得意とする稲垣が、中学生の息子を持つ炭火焼職人。人間くさいおじさん役で新境地を開拓した。長谷川が心に闇を抱えた男を好演。渋川がガス抜き的でうまい。阪本監督の「大鹿村騒動記」(11)と通じる土着的なドラマだ。ラストにデビュー作「どついたるねん」(89)を思わせるカットを持ってきた。監督自身の折り返し点的作品かもしれない。

 このほかおすすめは、せりふを使わず映像と音楽と効果音だけでつづった独創的な「ブラ物語」(独・アゼルバイジャン)、人気ドラマ制作現場を通じて、中東情勢をコミカルに描いた「テルアビブ・オン・ファイア」(ルクセンブルク・仏・イスラエル・ベルギー)。香港のフルーツ・チャン監督が描いた「三人の夫」は、セックスを大らかに描きつつ、共有すべき物を独占しようとする某国を風刺したような刺激的作品。1本でも多く日本で一般公開されることを願うばかりだ。

(文・写真 藤枝正稔)

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2018年11月20日

「半世界」稲垣吾郎主演・阪本順治監督 「見たことのない自分がスクリーンに現れた」

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 山間の田舎町を舞台に、四十路男の日常と葛藤を描いた映画「半世界」主演の稲垣吾郎、阪本順治監督がこのほど記者会見した。第31回東京国際映画祭で上映され、炭焼き職人を演じた稲垣は「本当に夢のよう」と笑顔。阪本監督は「稲垣君は難しい役だっただったと思う。みんなにとって新鮮な撮影だったことが一番うれしい」と振り返った。

 主なやり取りは次の通り。

 ――「半世界」という言葉をどうとらえるか。

 稲垣:シンプルだけれど奥が深い。自分にとっての半世界ってなんだろうと、いろいろ想像してみた。それぞれの人が小さいけれど自分の世界の主人公で、人生がある。いろいろな気持ちで見てもらえれば。

 阪本監督:日中戦争の従軍カメラマンとして中国へ渡った写真家・小石清の写真展のタイトルが「半世界」だった。勇ましい軍人より、現地の人、動物を撮っていた。名もなき人の営みも世界なんだと解釈し、少しでも近づこうとして企画した。

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 ――情けないダメおやじの役がはまっていた。演じてどうだったか。

 稲垣:はまっているといわれると複雑。そもそも自分がどういう人間か分からない。自分にぴったりな役が分からなくていい。今回大きかったのは、ここ数年の自分の環境の変化。仕事の仕方も変わって、これが1作目。見たことのない自分がスクリーンに現れた。この作品に巡り合え、届けられるのは幸せだ。

 ――「見たことのない」とはどんな自分か。

 すべて。チェーンソーをを持って、頭にタオルを巻いて、。日本の原風景の中で生活している。自分をよく俯瞰で見るが、こういう稲垣吾郎は見たことがない。自分ひとりの力ではなく、監督や共演者のおかげ。撮影地の伊勢志摩の土地にも誘われた。

 ――(阪本監督に)稲垣にぴったりの役だと思ったのか。

 阪本監督:稲垣君の印象はごまかさない、自分を前に出さない。淡々と寡黙に、山の中で土にまみれるイメージが浮かんだ。変えようとか、無理にやらせようというのはなかった。主人公と稲垣君の性格はもちろん違い、紘は家庭を顧みず、どこか欠けている。映画はそういう人物を真ん中に据えた方がいろいろな話が作れる。

 ――監督はもう少しかっこよくなど指示はあったか。

 稲垣:僕はクールな役、一見かっこいい役、超人的な役が多い。実際はかっこよくない。身のこなしは細かく指導があった。序盤の(長谷川博己演じる)瑛介との再会シーンが一番初めに撮った長回しのワンカット。そこがきっかけを作ってくれた。そこで生まれた物を指さすしぐさ……ぶっきらぼうに男らしくやってみろと。監督はみかんの皮のむき方まで、細かく指導してくれた。

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 ――炭焼き職人、中古車のディーラー、元自衛官の登場人物。親から継いだ仕事にした理由、地方都市を舞台にした理由は。

 阪本監督:私自身が代々続いた店を最近たたんだ。商店街なので入ってくる後継の話をヒントにした。海外での撮影が多かったので、地元に帰るような気持ちで撮りたかった。小さな都市の小さな町、間口が狭いけど奥が深い町から世界を見たかった。

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 ――男三人の友情と絆が主人公を動かす。稲垣さん自身に経験は。

 稲垣:男のグループでずっとやってきて、香取君、草g君と「新しい地図」を広げていくことに無我夢中。友情と仕事での仲間は違うと思うが、僕らにも絆はある。二人にも早くみてほしい。

(文・写真 岩渕弘美)

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「半世界」(2018年、日本)

監督:阪本順治
出演:稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦、竹内都子

2019年2月、TOHOシネマズ 日比谷他で全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hansekai.jp/

作品写真:(C)2018「半世界」FILM PARTNERS
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2018年11月16日

「アウト&アウト」元ヤクザの探偵と少女、巻き込まれる難事件 遠藤憲一主演の犯罪エンタメ作品

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 小学2年生の少女、栞(白鳥玉季)と探偵事務所を営む元ヤクザの矢能(遠藤憲一)のもとに依頼の電話が入る。指定された場所に向かうと、依頼人は銃で撃たれて死体となっていた。矢能は容疑者にされかねない状況に、素早く対応を始めるが、事態は思いもよらぬ方向へ転がっていく──。

 漫画「ビー・バップ・ハイスクール」の原作者で、映画監督として「カルロス」(91)、「JOKER」(96)、「鉄と鉛」(97、)「共犯者」(99)を監督したきうちかずひろが、自作の同名小説を映画化した。三池崇史監督の「藁の楯」の原作者でもあるマルチな才能の持ち主だ。

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 危ない事件に巻き込まれた矢能は、ヤクザ時代の人脈をフルに使い、真相を突き止めようと動く。事件の背後には与党議員の鶴丸(要潤)と、鶴丸のトラブルを裏で解決してきた武道家の堂島(成瀬正孝)、弟子の数馬(岩井拳士朗)が絡んでいた。

 ドラマ、CM、映画と引っ張りだこの遠藤憲一主演で、Vシネマの遺伝子を感じる犯罪エンターテインメント映画だ。強面の探偵と少女のコンビは、手塚治虫の漫画「ブラック・ジャック」とピノコを思わせる。2人は不思議な疑似親子のよう。怖いものなしの矢能にとって、幼い栞はアキレス腱のような弱点となる。栞は裏社会どっぷりの男臭いドラマで、清涼剤の様な役割を果たす。栞を演じた白鳥は、西川美和監督の「永い言い訳」(16)に出演した注目の子役だ。

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 きうち監督作品常連の竹中直人を筆頭に、渋川清彦、要潤、高畑淳子ら人気俳優が出演。監督の「鉄と鉛」に出演した成瀬正孝が、事件のカギを握る堂島を演じている。成瀬は1970年代東映ヤクザ映画の常連で、悪役が集まった「ピラニア軍団」に所属。同じ軍団の室田日出男、川谷拓三、志賀勝、片桐竜次らと画面の中を暴れまわっていた。往年の名脇がいぶし銀のごとく鈍く輝き、画面を引き締め、貫禄の演技で他を圧倒する。
 
 演出はやや稚拙ところもあるが、漫画でつちかった無駄のない場面運び、リズム感が観客の意表を突く。事件の謎解き、血のつながらない矢能と栞の絆を描いたサイドストーリーが物語に膨らみを持たせた。犯罪エンタメ作品として申し分のないクオリティーだ。

(文・藤枝正稔)

「アウト&アウト」(2018年、日本)

監督:きうちかずひろ
出演:遠藤憲一、岩井拳士朗、白鳥玉季、小宮有紗、中西学

2018年11月16日(金)、TOHOシネマズ 新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://out-and-out.jp/

作品写真:(C)2017「アウト&アウト」製作委員会
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2018年11月14日

「ボヘミアン・ラプソディ」伝説のフレディ・マーキュリー、27年を経て再び

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 ボーカルのフレディ・マーキュリーの死から27年。今なお曲が愛され続ける英国のバンド、クイーン。テレビのコマーシャル、ドラマ、スポーツ番組など曲が流れぬ日はないほどだ。

 中でも圧倒的な存在感を放っていたフレディは、美しく力強い歌声、独特なパフォーマンスで人々を魅了し続けた。映画「ボヘミアン・ラプソディ」は1991年11月24日、45歳の若さで世を去ったフレディの半生、バンドの歩んだ軌跡を描く。

 クイーンの代名詞ともいえる名曲「ボヘミアン・ラプソティ」。幻想的なコーラスから始まり、美しいピアノのメロディー、オペラ、ハードロックへと曲調が変化していく。一度聴いたら忘れられないインパクトを持ち、大ヒットを記録した。複数のパート、複数の音を重ね合わせ、当時のシングルレコード曲の常識を超える6分の長さ。どう作られ、世に出たのか。曲の誕生秘話、レコーディングの様子も再現されている。

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 次々にヒット曲を生み、バンドとして成功を収めたクイーン。栄光を手にしたかに思えたが、フレディはメンバーと衝突するようになる。厳格な両親と疎遠になり、セクシャリティーの問題も抱え、婚約者と破局し、次第に孤立していく。

 バンドも解散をささやかれるようになるが、友人の助けもあり、フレディは失いかけた大切なものに気づき、メンバーのもとへ戻る。危機を乗り越え、四人での再出発を決意したクイーンは、20世紀最大のチャリティー音楽イベント、ライブ・エイドに出演。フレディは一方、メンバーに重大な秘密を打ち明ける。

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 全編を通じてクイーンの楽曲に彩られ、パフォーマンスも見応え十分。圧巻はクライマックス、ウェンブリー・スタジアムでのライブ・エイドだ。巨大セットで当時のステージを再現、本物のフレディの歌声に合わせ、フレディを演じたラミ・マレックが魂のこもったステージを披露する。ラスト21分はライブ会場にいる錯覚に陥るほど。ライブに込められたメンバーの思い、秘められた真実の物語。心を揺さぶられずにいられない。

(文・岩渕弘美)

「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年、米)

監督:ブライアン・シンガー
出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボーイントンメアリー・オースティン
グウィリム・リーブライアン・メイ
ベン・ハーディロジャー・テイラー
ジョセフ・マッゼロ

2018年11月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

作品写真:(C)2018 Twentieth Century Fox

posted by 映画の森 at 15:20 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月12日

「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」“Mr.ビーン”ことローワン・アトキンソン、「007」パロディーを熱演

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 イギリスの諜報機関「MI7」のスパイ情報が、サイバー攻撃で漏洩した。隠居状態の元スパイ、ジョニー・イングリッシュ(ローワン・アトキンソン)が呼び出され、任務を開始する。しかし、ローテクのアナログ人間ジョニーにとって、敵はむしろ最新技術だった──。

 大ヒットコメディー「Mr.ビーン」のアトキンソン主演シリーズ3作目。監督は英BBCで多くのテレビドラマを監督してきたデビッド・カー。初の劇場映画だ。

 スパイが活躍する映画の人気は今も高い。ジェームズ・ボンドの「007」、イーサン・ハントの「ミッション・インポッシブル」。俳優のマット・デイモン主演の「ボーン」シリーズ、コリン・ファース主演「キングスマン」シリーズと、作品を重ねて世界の観客を魅了している。

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 そんな王道スパイ映画と別の道を、「ジョニー・イングリッシュ」は独走する。06年に第1弾、11年に続編の「ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬」が公開。今回の「アナログの逆襲」は7年ぶりのシリーズ最新作。

 物語はいたって真面目だ。アトキンソン主演で「007」をパロディー化するもので、主人公のイングリッシュは「MI6」ならぬ「MI7」諜報員。愛車はボンドと同じ旧型のアストンマーチン。武器担当者のコードネームは「Q」ではなく「P」。最新のスパイ・アイテムも、イングリッシュの手にかかれば無用の長物と化す。

 パロディーといっても手抜きはない。アシスタント監督は米スタント界の重鎮ヴィク・アームストロング。本家の「女王陛下の007」(69)、「007 死ぬのは奴らだ」(73)のスタント、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(97)のセカンド監督のほか、「レイダース 失われたアーク」(81)など、多くの作品でハリソン・フォードのスタントを務めた。英国の首相役には英の大女優エマ・トンプソン。謎の美女に「007 慰めの報酬」(08)のボンドガール、オルガ・キュリレンコ。

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 しかし、なんといっても見どころは、アトキンソンの顔芸と体を張った「迷」演技。イングリッシュはいたって真面目に任務をこなしているが、思い込みと勘違いが激しく、事態が思わぬ方に動いてしまう。むちゃくちゃな中も最終的には結果オーライになり、アトキンソンがポーカーフェイスできめまくる。

 アナログ男のイングリッシュが、初体験のVR(バーチャル・リアリティー)に没入。街の人々を巻き込み大暴れするシーンが最高だ。「Mr.ビーン」が復活したようなアトキンソンの健在ぶり。作りこまれたスパイ・コメディーの快作である。
 
(文・藤枝正稔)

「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」(2018年、英)

監督:デビッド・カー
出演:ローワン・アトキンソン、ベン・ミラー、オルガ・キュリレンコ、ジェイク・レイシー、エマ・トンプソン

2018年11月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://johnnyenglish.jp/

作品写真:(C)2018 Universal Studios and Studiocanal SAS
posted by 映画の森 at 10:03 | Comment(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする