2017年07月30日

「ビニー 信じる男」事故から奇跡の復活 ボクサーの狂気、不屈の精神

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 交通事故から奇跡のカムバックを遂げた実在のボクサー、ビニー・パジェンサの半生を描いた「ビニー 信じる男」。ジャズ映画「セッション」(14)のマイルズ・ミラーが主演、トレーナー役に「ハドソン川の奇跡」(16)のアーロン・エッカート。監督、原案、脚本は「マネー・ゲーム」(00)のベン・ヤンガー、製作総指揮は巨匠マーティン・スコセッシが務める。

 ボクシングを題材にした映画には傑作が多い。シルベスター・スタローンをスターにした「ロッキー」シリーズ、スコセッシ監督の「レイジング・ブル」(80)、クリント・イーストウッド監督「ミリオンダラー・ベイビー」(04)など数々の名作がある。

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 米ロードアイランド州ブロビデンス。スター選手を金づるに、嘘と欲望が渦巻くボクシングの世界。うぬぼれ屋ビニー(マイルズ・ミラー)は、スーパーライト級チャンピオンに負けて引退を勧告される。これを機にビニーは奮起し、飲んだくれトレーナーのケビン(アーロン・エッカーと)から徹底した指導を受け、2階級上に挑戦。見事ジュニアミドル級チャンピオンの座を手に入れる。

 しかし、ビニーは友人が運転するスポーツカーの助手席に同乗中、正面衝突事故に遭い、首を折る大けがを負う。医師は「2度と歩けないかもしれない」と脊髄を固定する手術を勧め、ボクサーとして再起不能になると宣告する。ビニーは手術を決断するが、待っていたのは過酷な試練の日々だった──。

 主役のミラーは、音楽映画「セッション」でドラマー志望の学生役。鬼教師にしごかれ、狂気の世界に落ちる男を演じた。今回与えられた試練は、脊髄を器具で固定され、半年間積むトレーニングだ。家族に隠れ、痛々しい姿でトレーナーのケビンと体づくりに励む。

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 ボクシング映画として華麗に幕開けした作品は、中盤で主人公が奈落の底に突き落とされる。手術後の寝たきり状態、リハビリ生活、再び挑むチャンピオンへの道。ビニーは不自由な体で過酷な訓練に励む一方、女や賭け事にも興じる。不屈の精神、逆境の克服を演じると、ミラーは本領を発揮する。迫力ある試合シーンを含め、新たなボクシング映画の傑作が誕生した。

(文・藤枝正稔)

「ビニー 信じる男」(2016年、米国)

監督:ベン・ヤンガー
出演:マイルズ・テラー、アーロン・エッカート、ケイティ・セーガル、キアラン・ハインズ、テッド・レビン

2017年7月21日(土)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://vinny-movie.com/

作品写真:(C)BLEED FOR THIS, LLC 2016
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「海辺の生と死」島尾ミホと敏雄の恋 満島ひかりの熱演光る

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 太平洋戦争末期。奄美群島のカゲロウ島。国民学校で代用教員をしているトエは、駐屯してきた海軍特攻隊の隊長である朔(さく)中尉と出会う。知的で軍人らしからぬ朔に好意をいだくトエ。ある日、朔がトエの家を訪ねたのをきっかけに、ふたりは急速に接近し、愛し合うようになるが――。

 島尾ミホと島尾敏雄の恋愛実話を映画化した「海辺の生と死」。トエと朔は島尾夫妻、舞台となるカゲロウ島は、奄美大島の南に位置する加計呂麻島(かけろまじま)がモデルとなっている。

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 物語の中心人物はトエだ。朔に対するトエの思いの激しさ、一途さが全編を貫いている。子どもたちに慕われるやさしい先生。そんなトエが、朔と知り合い、恋に落ちるや、見る見る“女”となっていく。朔からの手紙を読んで陶然とし、浜辺での密会に恍惚となるトエ。狂おしいまでの恋心に、トエは身も心も委ねていく。

 朔は、いずれ爆弾を積んだ舟艇で敵艦に体当たりして果てる運命。そのときは、後を追って自分も死ぬ。残された短い時間の中で、トエは朔との恋に燃え尽きる覚悟なのだ。死と隣り合わせであるからこそ、トエの恋心は極限まで高まるのである。

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 実話がベースとなっている以上、トエにはどうしても島尾ミホが重なって見える。つまり、夫の敏雄が書いた小説「死の棘」で、嫉妬のため精神を病むミホの若き日の姿として、つい見てしまう。夫を強く愛するがゆえに、浮気を許せないという、ある意味、情の深い女性。そういう女性の若き日の姿がトエということになる。

 この映画は、そういう見方をしても十分に納得できる作品となっている。その最大の立役者は、もちろん満島ひかりである。育ちは沖縄だが奄美大島にルーツを持つ満島は、奄美の言葉を完璧にマスターした上で、トエ=島尾ミホのイメージを鮮やかに造形することに成功している。満島によって具現化されたミホは、この後、敏雄と結婚し、浮気した敏雄を執拗に責め立てる。そんな女性になるであろうことを予感させるのである。

(文・沢宮亘理)

「海辺の生と死」(2017年、日本)

監督:越川道夫
主演:満島ひかり、永山絢斗、井之脇海、川瀬陽太、津嘉山正種

2017年7月29日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.umibenoseitoshi.net/

作品写真:(C)2017 島尾ミホ / 島尾敏雄 / 株式会社ユマニテ
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2017年07月28日

「台湾萬歳」酒井充子監督に聞く アイデンティティーは「自分の人生が決めるもの」

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 台湾南部の漁村を舞台に、海や山とともに暮らす人々を追ったドキュメンタリー映画「台湾萬歳」。台湾の「日本語世代」を追った「台湾人生」(09)、「台湾アイデンティティー」(13)に続き、酒井充子監督が3部作の最終章として送り出した作品だ。

 前2作では歴史の波に翻弄され、激動の人生を歩んできた日本語世代の過去と現在を描いた酒井監督。今回は舞台を南部の台東県成功鎮に移し、台湾の自然と文化を愛し、汗を流し根を張って生きる人々に焦点をあてた。監督は一人、南部最大の都市・高雄から車を走らせた。

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 「台湾の南の方で撮りたくて、台東になったのは偶然です。今回はゼロからやろうと思い、取材の予約もしませんでした。(米どころで知られる南部の)池上へ行けば、米を作っているおばあちゃん、おじいちゃんがいるだろうと思い、池上の農協で聴き込みました。ところが、(日本語世代の高齢化が進み)存命の人が少なかった。どうしようかな……海へ行けば漁師さんがいるかもしれない、と海岸線を北上。途中で『成功漁港』の看板を見たんです」

 行き当たりばったりの取材をスタートさせたのは、前2作とはまったく違うものにしたかったからからだ。日本統治時代を含め、より長いスパンで台湾の時の流れをとらえたかったという。「特別なもの」ではなく、「そもそもの」台湾を知りたくなった。

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 「これまでずっと、台湾の人たちが持っている明るさ、強さはどこから来るんだろうと思ってきました。風土や社会環境、台湾人を育んだものを見たかった。激動の歴史の一方で、コツコツと額に汗して生きてきた人たちを撮りたかったんです」

 台東県はアミ族、ブヌン族、タオ族など原住民の人々が人口の3割強を占める。成功鎮も漢民族と原住民が半々だ。今回登場するのは、日本統治時代に持ち込まれたカジキの「突きん棒漁」をする夫婦、ブヌン族の伝統的な狩猟を受け継ぐ若い世代も登場する。台湾の多様性、歴史が浮かび上がる。

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 15年を超える取材を通し「台湾とは何か、日本とは何か」を探ってきた酒井監督。日本で台湾は「親日」の国とくくられがちだが、はっきりと異議を提示する。

 「東日本大震災後、台湾から多額の義援金が来て初めて、多くの日本人が台湾を意識するようになった。ただ、興味の示し方が露骨で、日本にとって都合のいいイメージでしか台湾を見ない。親日の2文字では語れない歴史があり、今もその時代を生きた人がいる」

 では、前作のタイトルにもなった「アイデンティティー」とは何か。何がそれを決めるのか。

 「自分の人生が決めるものだと思います。国や民族、言語や文化では規定できないもの。その人が歩んできた人生こそ、アイデンティティーではないでしょうか」

 “最終章”と銘打たれてはいるが、酒井監督の台湾への旅は続いている。次回作は「場所」を撮るそうだ。「まだどこかは言えませんが」と笑顔を見せた。

「台湾萬歳」(2017年、日本)

監督:酒井充子

2017年7月22日、ポレポレ東中野ほか全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://taiwan-banzai.com/

作品写真:(C)「台湾萬歳」マクザム/太秦
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2017年07月23日

クァク・ジェヨン監督の新作「風の色」、韓国の富川映画祭で初上映

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 「猟奇的な彼女」(01)、「僕の彼女はサイボーグ」(08)のクァク・ジェヨン監督(韓国)がメガホンを取った日本映画「風の色」が7月14日、韓国の「第21回富川国際ファンタスティック映画祭2017」でワールドプレミア上映された。上映には監督と主演の古川雄輝、藤井武美が駆けつけた。日本では来年1月末に劇場公開される。

 恋人ゆり(藤井)の死を知らされた涼(古川)は、ゆりが「自分にそっくりな女性がいる」と話していた北海道を訪れ、彼女とうり二つの彩(藤井・二役)に出会う。彩も恋人のマジシャン隆(古川・二役)を海中イリュージョンの事故で失っていたが、隆は涼とそっくりだった。マジシャンを目指し腕を上げた涼は「隆のドッペルゲンガー」と呼ばれるようになる。涼は隆が失敗したイリュージョンを再現するため、真冬の知床に向かう。涼とゆり、隆と彩の関係が交錯する─−−。

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 「風の色」は、08年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭に参加するため北海道を訪れたクァク監督が一面の雪景色にインスピレーションを受け、構想を温めてきた作品。10年の冬には札幌市に1カ月間滞在しシナリオを執筆。15年に北海道と東京などでロケを行った。

 映画の重要なモチーフはマジックだ。Mr.マリックが指導と監修を担当し、古川が鮮やかな手さばきでマジックを披露している。過酷だったのはクライマックスとなる海中イリュージョンのシーン。水中での撮影は長時間に及び、古川はロケ後に体調を崩して安静を強いられたという。

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 同じ顔をした登場人物の正体をめぐるミステリーが加味されたロマンス。ゆりと彩、涼と隆は、顔こそ同じだが何かが違う。そのイメージには監督が感じた都市の類似性と相違性が投影されている。「札幌は日本の他の都市とは違い、風景や人々が東京と妙に似ている。それが雪に覆われると別の姿に変わるところに神秘的なものを感じた」(クァク監督)。

 クァク監督特有のユーモアや小ネタもいたるところに散りばめられ、旧作のファンには必見の作品となっている。「風の色」は18年正月第二弾、TOHOシネマズ日本橋ほかで全国公開予定。

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1:ワールドプレミア上映後に登壇した(左から)古川雄輝、藤井武美、クァク・ジェヨン監督=2017年7月14日、韓国富川市で(映画『風の色』製作委員会提供)
2:クァク・ジェヨン監督=17年7月、韓国富川市で芳賀撮影
3:「風の色」場面写真=富川国際ファンタスティック映画祭事務局提供
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2017年07月21日

「ローラ」「天使の入江」ジャック・ドゥミ初期の傑作 みずみずしい青春のきらめき

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 「シェルブールの雨傘」(64)で知られるジャック・ドゥミが、1961年に発表した長編デビュー作「ローラ」。「海の沈黙」(47)や「いぬ」(63)の名匠ジャン=ピエール・メルヴィル監督に「真珠の輝きをもつ作品」と激賞されながら、日本では92年に一度公開されたきり。劇場ではなかなか見る機会のなかった貴重な作品だ。

 描かれるのは徹頭徹尾、男女の恋。踊り子のローラをローランが恋し、ローランを未亡人のデノワイエ夫人が恋し、水兵のフランキーをデノワイエ夫人の娘のセシルが恋し、そしてローラは水兵だったミシェルを恋し――。複数の恋が、それぞれ独立して、しかも互いに反響し合いながら進行する。とりわけアヌーク・エーメが二役を演じるローラとセシルの初恋が、それぞれ強い輝きを放って美しい。

 遊園地でフランキーと楽しい時間を過ごしたセシルが、乗り物から降り、ほどけた髪が風になびくスローモーションの場面。ミシェルが帰還し、ローラと再会、仲間の踊り子たちがすすり泣く場面……。印象的なシーンは枚挙にいとまがない。   

 主演は「男と女」(66)のアヌーク・エーメ。撮影はゴダール作品で有名なラウル・クタール。音楽はミシェル・ルグラン。名女優や巨匠たちがみな若く、全編にみずみずしい感覚があふれる作品だ。

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 「ローラ」に続く長編第2作が「天使の入江」。若い銀行員がカジノで出会ったブロンドの美女と意気投合し、一攫千金のギャンブルにのめり込んでいく。勤勉で消極的な生活を送っていた青年ジャンが、友人に誘われカジノを初体験。いきなり大金を稼ぎ出し、ギャンブルの魔力にとりつかれる。

 休暇を取って出かけたニーズのカジノでは、金髪の美女ジャッキーと意気投合。彼女の性的魅力も相まって、みるみるギャンブルに深入りしていく。世間知らずのジャンをそそのかし、持ち金を引き出す魔性の女を演じるのは、すでに大女優の風格が漂うジャンヌ・モロー。熟女の色香をふりまき、青二才のジャンを翻弄する。

 賭けが人生そのものと化しているジャッキーにとって、ジャンは単なる賭博のパートナーなのだろうか。一方、ジャンは、ばくちに夢中なのか、ジャッキーに夢中なのかが、自分でも分からないように見える。すれ違った二人の心が、重なり合うことはあるのか――。

 ギャンブルと年上の女性。それまでの人生にはなかった刺激と魅力に撹(かく)乱されながら、決断たる行動をとる青年ジャンの姿が爽快だ。

 両作品とも特集上映「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」で上映。

(文・沢宮亘理)

「ローラ」(1961年、フランス)

監督:ジャック・ドゥミ
出演;アヌーク・エーメ、マルク・ミシェル、ジャック・アルダン、アラン・スコット

「天使の入江」(1963年、フランス)

監督:ジャック・ドゥミ
出演:ジャンヌ・モロー、クロード・マン、ポール・ゲール、アンリ・ナシエ

2017年7月22日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.zaziefilms.com/demy-varda/

作品写真:
「ローラ」(c) mathieu demy 2000
「天使の入江」(c) ciné tamaris 1994

タグ:レビュー
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