2017年09月14日

「50年後のボクたちは」少年たちは疾走した 忘れ得ぬひと夏の冒険

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 クラスに気になる子がいる。その子は自分のことなんか眼中にない。あたりまえだ。彼女は美人で派手で、女王様的存在。それに対して、こっちは空気が読めずオタクっぽく、浮いた存在。そもそも住む世界が違うのだ。

 14歳の“イケてない”男の子、マイク。父親は不動産ビジネスで財を築き、プール付きの豪邸を建てたが、母親がアル中の治療で家を空けるや途端に愛人と旅行に出てしまう。

 夏休み。一人残されたマイクのもとに、ロシアから転校してきたばかりのチックが、どこかで盗んだオンボロ車を駆ってやってくる。子供が車を運転している時点でアウトなのに、盗難車。でもそんなの気にもかけない。少年だから刑罰の対象にあらずと涼しい顔なのだ。内気なマイクとは対照的にブッ飛んだ奴。

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 その日は、マイクが恋する女王様の誕生日。何とクラスで招待されなかったのは、マイクとチックだけだった。それならば、こっちから押しかけるまで。チックはためらうマイクを助手席に乗せ、誕生パーティに乱入する。マイクは心を込めて描いた彼女の似顔絵をプレゼントすることに成功。ささやかな達成感を胸に、二人はあてどないドライブに出るのだった――。

 性格も素性も異なる2人の少年。シャイなマイクは大胆不敵なチックにリードされながら、これまでに味わったことのいない、めくるめく出来事に身を委ねていく。

 ドライブが始まるや、GPS(全地球測位システム)で居場所がばれるからと、チックがマイクのスマホを窓から放り捨てる。「イージー・ライダー」(69)の冒頭、ピーター・フォンダが腕時計を外して投げ捨てる場面を思い出す人もいるだろう。体制からの決別宣言。

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 便利なスマホと引き換えに、少年たちが手に入れたとびきりの自由。とうもろこし畑に描く即興アート、風力発電所での野宿、廃墟の少女との出会い、貯水池での水浴び……。14歳の少年たちが、濃密な体験を重ねながら、人間的に成長していく。

 何か何まで管理され、もはや自由など存在しないかに見える現代っ子の世界。ところがスマホを取り上げるだけで、これだけ伸び伸びと生きることができるのだ。もしスマホを捨てさせなければ、こんなにワクワクするロードムービーなんか撮れなかったに違いない。加えて盗難車を運転させる設定。広大なドイツの国土を駆け抜ける姿が、少年たちの生命力、躍動感とよくマッチしている。

 監督はドイツの名匠ファティ・アキン。初期作「太陽に恋して」(00)を貫いていたダイナミズムとロマンチズムが、今回も力強く脈打っており、見る者の胸を熱くさせるとともに、爽やかな後味を残す。

(文・沢宮亘理)

「50年後のボクたちは」(2016年、ドイツ)

監督:ファティ・アキン

出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ・チョローンバータル、メルセデス・ミュラー

2017年9月16日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.bitters.co.jp/50nengo/

作品写真:(c)2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

タグ:レビュー
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2017年09月09日

「三里塚のイカロス」代島治彦監督に聞く「あの時代の悪霊を、もう蘇らせたくない」

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 成田空港建設反対闘争に参加した三里塚農民の現在の姿を撮った「三里塚に生きる」(14)。その共同監督を務めた代島治彦監督が、今度は「三里塚のイカロス」で、農民と共に闘った若者たちの人生に迫った。代島監督は「あの時代の悪霊を、もう蘇らせたくない」と語った。

農家に嫁いだ“支援妻”の悲劇

 前作「三里塚に生きる」の姉妹編ともいえる「三里塚のイカロス」。製作のきっかけとなったのは、2013年5月に起きた痛ましい出来事だったという。

 「三里塚の農家に嫁いだ、いわゆる支援妻の一人が自殺した。空港反対同盟の夫とともに反対闘争を続け、ずっと土地を売らずに頑張っていたのですが、2006年4月、ついに移転を受け入れた。その7年後のことでした。移転したことを“同志たち”への裏切りと受け止め、自分を許せなかったのか。『三里塚に生きる』を撮っていて農民たちの心の傷の深さを感じましたが、支援妻もまた深い心の傷を負っていた。それで、次の映画のテーマとして“支援妻”はどうだろうと考えたのです」

 20人以上いた三里塚の支援妻。4、5人が離婚してこの地を去ったが、残りの十数人が今も三里塚で暮らしている。

 「『夫が移転を決めたときには自分も悩んだ』、『気持ちはよく分かる』。会って話を聞くと、みんな自殺した女性に同情的でした。作品には秋葉恵美子さんという女性が出ていますが、ご主人の義光さんが軽トラの運転席からインタビューに応じるシーンで、よく見ると、ローレックスの高級腕時計をしているのが分かる(笑)。石を投げたり、鎌を振り上げたりして、農地死守を叫んでいた夫が、何億という大金を手にした瞬間に豹変する。その姿を見ているのは、さぞ辛いだろうと思いますね」

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三里塚と連合赤軍との因縁

 支援妻をテーマにとの目論見だったが、出演依頼に応じてくれたのは、作品に登場する3人のみ。残りの女性には、『夫もいる、子供もいる、カメラの前では話せない』と断られたため、取り上げる人物の範囲を『外から入ってきた若者』に広げることに。人選にあたってリサーチを進めると、三里塚と連合赤軍との関係も浮かび上がってきた。

 「反対闘争の初期、ほとんどの新左翼のセクトは三里塚に団結小屋を持っていて、いろいろな人が入っていた。中には連合赤軍事件の森恒夫や永田洋子もいた。69年に赤軍派を結成、山梨県の大菩薩峠で軍事訓練をして、50何人かが一斉検挙されますが、このとき三里塚の農家の息子たちもかなり誘われている。また、連合赤軍の母体となった京浜安保共闘が雲取山に設けた山岳ベースには、三里塚から米や野菜が運ばれたりしている。作品では言及できませんでしたが、こういった事実が詳しく描ければ、三里塚の見え方もまた変わっていたかもしれませんね」

管制塔占拠事件は今も誇り

 作品で肯定的に語られる唯一のエピソードが、78年に起きた管制塔占拠事件。人質を取らず、誰も傷つけなかったこの闘いに、『義勇兵として参加し、勝利を収めた』ことを、元国鉄下請労働者の中川憲一さんは誇りに思い、当時着用していたヘルメットや足袋を今も大切に保管している。

 「あの闘いがあったからこそ今の自分がある。中川さんはそう思っている。しかし、当日は、奥さんにどう説明しようかという葛藤の中で管制塔に登っている。そういう人間的な面に迫れたのはよかった。一方、同じく管制塔占拠に加わった立命館大学の平田誠剛さんは、そこまで肯定的ではない。ともに逮捕され8年間収監されたが、82年に平田さんの属するセクトはレイプ事件で告発され、三里塚から追い出される。83年には反対同盟の分裂も起こる。刑務所にいる間に、状況はどんどん悪化していった。何のために自分は犠牲を払ったのか。彼らは情けない気持ちになったでしょう」

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 平田さんの先輩の吉田義朗さんは、強制大執行を阻止するための塹壕を掘っていて落盤事故に遭い、下半身不随となった。だが、車椅子生活の不自由さを感じさせない明るいキャラ。トークも達者だ。

「吉田さんは現在、日本障害者カヌー協会の会長をしている。カヌーは引っ繰り返ると足を抜いて泳ぐしかない。だから下半身不随の人は乗ってはいけないことになっていた。彼はこの常識に逆らい、日本で初めてカヌーに乗った。もともと、吉田さんは高校時代に若者が警官にボコボコにされているのを見て、反権力に目覚めた人。義憤に駆られて、三里塚に来て、農民を助けるために、やれるだけのことはやった、という思いがある。中川さんもそうだが、三里塚闘争を肯定的にとらえて、今もポジティブに生きている。傷ついて自殺してしまう人がいる一方で、そんな人たちがいるということも知ってほしかった」

表情に滲み出る心の傷

 岸宏一さんは、元中核派で1981年から2006年まで25年間、三里塚の現地責任者を務めた人物だ。反対同盟を分裂させたり、テロを仕掛けたりして、反対闘争を過激化させた張本人。本作の完成を楽しみにしていたそうだが、2017年3月、谷川岳西側の東谷山で遭難した。

 「岸さんは、責任者という立場上、言えることと言えないことがある。最初からそう明言していた。だから、本作でも建前的な発言が多い。『記者会見じゃないんだから』ってツッコミを入れたくなるほど(笑)。しかし、映画とは面白いもので、表情や声音に、岸さんの苦渋というか、心に抱えているものが透けて見える。自分の人生を否定するようなことは言葉に出せない。彼のそういう思いは伝わってくるんですよ」

 ほかに、農民運動家の加瀬勉さんと、空港公団の前田伸夫さんという、当時すでに若者ではなかった人たちも登場する。

 「加瀬さんは外からくる新左翼の若者を指導し、反対同盟とくっつけた人。終戦まで軍国少年だったが、戦後は社会党の農民運動家になり、三里塚に入った。途中から社会党が去ると、離党し三里塚に居残った。農家の長男なのに結婚せず、今は一人で母親を介護している。前田さんは、用地買収の黒幕的な人物。自分が用地買収を進めたおかげで空港が完成したという自負を持っている。同時に自宅を焼かれ、かわいがっていた犬まで殺された恨みも抱いている。公団側の人間は、今まで三里塚を描いた映画には出てこなかったが、農民や支援者と同様に、反対闘争では心に大きな傷を負っているのが分かります」

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天使に悪霊が憑いた

 登場する人々はいずれも三里塚という舞台で、それぞれが正しいと信じることのために、人生をかけて闘った。そして、多くの大切なものを失った。悲しみに耐えて生きている人、耐え切れずに命を絶った人、逆境をはね返してポジティブに人生を切り開いている人。それらの人々に共通するのは、結局は目的を成し遂げられなかったという敗北感だろうか。

 「新左翼の若者たちが支援に駆けつけたとき、三里塚の農民たちは、都会からゲバ棒持ってヘルメットかぶった天使がやってきたと思ったかもしれない。ところが、闘争のプロセスで、機動隊員3人が死亡する事件が起きたり、自殺者が出たりした。そのあたりから闘争に悪霊が憑いてくる。天使が悪霊に変じてくる。『三里塚のイカロス』というタイトルも、そこに結びついてくる。つまり、60年代から70年代にかけて政治の時代というのがあった。時代には翼が生えていた。その翼がもげて、墜落した。このとき、一度完全に死んでしまえばよかったのだが、ほそぼそと生き残り、80年代、90年代になっても内ゲバや爆弾テロは絶えなかった。あのとき、あの時代が完全に終焉していれば、若者も政治アレルギーになることなく、新たな時代にふさわしい形で政治活動を展開する動きも出ていたのではないか。あの時代を完全に葬り去りたい。悪霊よ、もう二度と蘇らないでくれ。そんな願いを込めて、僕はこの映画を撮りました」

(文・写真 沢宮亘理)

「三里塚のイカロス」(2017年、日本)

監督:代島治彦

2017年9月9日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.moviola.jp/sanrizuka_icarus/


作品写真:2017 三里塚のイカロス製作委員会

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2017年08月26日

「戦争のはらわた」鬼才サム・ペキンパー、戦場の狂気と反戦への思い

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 1943年春、第二次世界大戦下のロシア戦線。一時はスターリングラードまで侵攻したドイツ軍だったが、ソ連軍の反撃を前に劣勢を強いられていた。スターリングラードの戦いで負け、クリミアへ苦しい撤退を迫られる中、プラント大佐(ジェームズ・メイソン)率いるドイツ陸軍連隊を次々と困難が襲う。部隊はただ生き延びるために戦い続けていた──。

 西部劇「ワイルドバンチ」(69)、犯罪劇「ゲッタウェイ」(72)など、バイオレンス演出が得意で“血まみれサム”の異名を持つサム・ペキンパー監督。ジェームズ・コバーン主演で撮った唯一の戦争映画が「戦争のはらわた」だ。ペキンパーといえばスローモーション、独特の映像美が語り継がれる。「戦争のはらわた」も撃たれて血しぶきをあげて倒れ、爆撃に吹き飛ばされる兵士、爆撃で吹き飛ぶ建物を、スローモーションで映し出す。けれん味あふれる映像。物語にカタルシスはない。

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 戦争映画の形を取りつつ、裏に反戦への思いが見え隠れする。冒頭ではヒトラーとナチスの記録映像に、日本の動揺「ちょうちょう」の原型であるドイツ民謡「幼いハンス」を流す。好奇心旺盛なハンスは旅に出て、数年後に容姿が変わって帰ってくる。母だけが息子だと気付く。親子愛を歌った曲だ。旅を戦争にたとえているのだろう。

 大事なポイントは、ハンスのエピソードが示すように「人は見た目」ということだ。作品ではドイツ兵の多くを米国の俳優が演じ、セリフは英語。違和感はぬぐえない。しかし、話が進むとその理由も見えてくる。ドイツ軍の小隊長シュタイナー(ジェームズ・コバーン)は、戦争の狂気を目のあたりにし、精神を病んでいく──。

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 作品は製作途中に資金が尽き、唐突なラストでしめくくられる。しかし、後半の展開に監督の強い意志を感じる。「敵軍の軍服」がキーワードだ。人は人を何で判断するか。国や軍服で相手を扱い、攻撃を繰り返すことに、監督は異論を唱えている。米国人俳優をドイツ兵にした初期段階から、戦争への皮肉を込めた気がしてならない。

(文・藤枝正稔)

「戦争のはらわた」(1977年、英・西独)

監督:サム・ペキンパー
出演:ジェームズ・コバーン、マクシミリアン・シェル、ジェームズ・メイソン、センタ・バーガー、デビッド・ワーナー

2017年8月26日(土)、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://cross-of-iron.com/

作品写真:(C)1977 Rapid Film GMBH - Terra Filmkunst Gmbh - STUDIOCANAL FILMS Ltd

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2017年08月25日

「エル ELLE」 襲われた女、犯人を追う ユペール✕バーホーベン サスペンスに新風

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 始まりはレイプだった。主人公のミシェルが、自宅に侵入してきた覆面の男に襲われる。驚愕のオープニングだが、もっと驚くのは、その後のミシェルの行動だ。床に散乱したガラスや陶器のカケラを片付けると、バスタブに浸かり、体を清める。翌日には、ドアの鍵を交換し、病院で性感染症のチェックを受ける。

 完璧な対応。心の動揺がないわけではあるまい。しかし、外見は冷静そのものだ。女性にとって屈辱的な体験。なのに少しも落ち込むことなく、しっかり自身をケアし、一人で淡々と犯人探しを進めていくのだ。

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 ミシェルはゲーム開発会社の社長。スタッフたちの新作プレゼンテーションに、容赦のない意見をぶつける。相手の気持ちなどお構いなし。強い。怖い。横暴。恨んでいる社員は少なくないはず。その中の誰かが犯人である可能性は高い。ほかにも元夫や、母親の若い恋人、親友の夫、向かいの家のハンサムな主人など、疑い始めたらきりがない。何しろ、彼女は男の劣情をそそる色気にあふれているのだ。

 手がかりがつかめないまま、その後も繰り返されるレイプ。そして、ミシェルはついに犯人の化けの皮をはがすことに成功するのだが――。

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 前半はレイプ犯が顔を見せるまでのスリリングな展開が焦点。後半は犯人とミシェルとの常軌を逸した絡みが見どころだ。前半にも垣間見えていたミシェルの異常性が、いよいよ際立ってくる。大量殺人を犯し入獄中の父親。年下の男に入れあげる母親。出来の悪い息子。彼女の家族も普通とはほど遠い。

 犯人も含め、尋常ではない人々との関係の中で、ミシェルはいっそうエキセントリックになっていく。しかし、それは偽らず、正直に生きているからこそ、そう見えるともいえる。ノーマルに見える人々は、彼女がさらけ出している本性を押し隠しているだけかもしれないのだ。

 か弱く、傷つきやすく、受け身。いまだ世界的に共有されている保守的な女性像とはかけ離れた、タフで攻撃的な女性の姿を強烈に描き出した。「氷の微笑」(92)のポール・バーホーベン監督が、イザベル・ユペールという当代きっての演技者を得て、サスペンス映画に新風を吹き込んだ。

(文・沢宮亘理)

「エル ELLE」(2016年、フランス)

監督:ポール・バーホーベン

出演:イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、シャルル・ベルリング、ヴィルジニー・エフィラ、ジョナ・ブロケ

2017年8月25日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/elle/

作品写真:(c)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

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2017年08月19日

「ベイビー・ドライバー」犯罪+カーアクション、新たな切り口で新風

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 「ショーン・オブ・ザ・デッド」(04)、「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメ!」(07)のエドガー・ライト監督が、カーアクション満載の犯罪映画「ベイビー・ドライバー」で英国からハリウッドに本格進出した。

 逃げる銀行強盗団を乗せ、雇われドライバーのベイビー(アンセル・エルゴート)が、ご機嫌な音楽に乗り、天才的な運転テクニックを披露する。ベイビーがハンドルを握る真っ赤な日本車「スバルWRX」が、パトカーと凄まじいカーチェイス。まんまと警察を巻いてアジトに向かう。

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 続いてミュージカルパートに突入。ベイビーの仕事は終わらない。強盗団にコーヒーをふるまうため、アジトから少し離れたコーヒー店へ徒歩で使い走り。ベイビーは音楽に合わせて軽快なステップで動き、カメラもその姿をワンショットで追い続ける。観客は幕開けからアクティブな描写に心をわしづかみされる。

 幼い時に交通事故で両親を失ったベイビーは、後遺症で耳鳴りが止まらなず、iPodの音楽で耳鳴りを封じ込める。彼に一目置くのが、大物犯罪者ドク(ケビン・スペイシー)だ。ベイビーはドクに大損させた借りを返すため、強盗団の逃走専門ドライバーをしている。借りもあと少し。ベイビーは最後の仕事をこなした後、真っ当な人生を歩もうと計画していた──。

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 米犯罪映画とカーアクションは相性がいい。「ブリット」(68)や「ワイルド・スピード」シリーズなど多くのヒット作が生まれ、一ジャンルとして定着している。新たな切り口を見せたのが「ベイビー・ドライバー」だ。犯罪とカーアクションに音楽をシンクロさせた。監督はシーンに使う楽曲を先に決め、曲に合わせて脚本を書いたという。

 音楽は主人公の内心も代弁する。他人の前で心を開かないベイビーは大好きな曲に気持ちを重ね、口パクで歌うマネをしながら踊る。表向きは犯罪映画だが、繊細な主人公が運命を切り開く青春映画の一面も持ち、恋愛パートが隠し味となっている。

 ベイビーは行きつけのダイナーで働くデボラ(リリー・ジェイムズ)へ淡い恋心を抱く。しかし、ドクにバレて利用されてしまい、新たな犯罪に手を染めるきっかけとなる。繊細なベイビーと、それを悪用する大人たち。

 ドクを演じたスペイシーが貫禄の演技。オスカー受賞俳優のジェイミー・フォックスら、アクの強い個性派が若い俳優を脇からサポートしたエキサイティングな犯罪映画だ。

(文・藤枝正稔)

「ベイビー・ドライバー」(2017年、米国)

監督:エドガー・ライト
出演:アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケビン・スペイシー、ジェイミー・フォックス、ジョン・ハム

2017年8月19日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.babydriver.jp/
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 11:31 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする