2017年05月25日

「光をくれた人」偽りの親子、真実の愛 感涙必至の極上メロドラマ

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 第一次大戦から帰還したトムは、灯台守の仕事に就く。苛烈な戦闘体験に心傷つき、他人を遠ざけたい気持ちから、あえて孤島での勤務を望んだのだ。楽しみも喜びもなく、黙々と単調な日課をこなす日々。そんなトムが、一人の女性との出会いによって、生きる情熱を取り戻す。

 町の名士の娘で、二人の兄を大戦で亡くしていたイザベル。トムはイザベルと愛し合い、結婚し、幸福な生活が始まる。だが、2度の妊娠がともに流産に終わり、イザベルは深く落ち込む。傷心のイザベルを救ったのは、ある日、海岸に打ち寄せられた一隻のボートだった。そこには男性の遺体とともに幼い女児が乗っていた。

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 「生まれなかった子の代わりに、この子を育てたい」。許されない行為だと知りつつ、トムはイザベルの懇願を受け入れる。女児が持たされていたガラガラをそっとポケットにしまうと、トムは2番目の子の墓標を捨てた。

 トムとイザベルの夫婦以外に住む者もいない孤島。だからこそ可能な“犯行”だった。ルーシーと名付けられた女児は、“両親”の愛情を一身に受け、すくすくと育つ。しかし、娘の洗礼のため町に戻った日、トムはルーシーの実の母であるハナと遭遇してしまう。

 トムの葛藤が始まる。事実を告げるべきか。隠し通すべきか。イザベルには何も知らせていない。ルーシーを思う気持ちは、イザベルも自分も同じである。だからといって、ハナの人生はどうでもいいのか――。

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 そもそも、ボートはなぜ漂着したのか。遺体の男性は何者か。後半、いくつもの謎が解けるにつれ、もっぱらトムとイザベルの夫婦に感情移入していた観客は、実の母であるハナの人生にも共感と同情を寄せることになる。ルーシーの居場所はどちらであるべきか。見る者の心は千々(ちぢ)に乱れることだろう。

 ラスト、1950年へと大きく時間を飛ばしたエピローグで、感動はクライマックスに達する。それまで感情の噴出を堪えていた観客も涙腺決壊は必至。「ブルー・バレンタイン」のデレク・シアンフランス監督がベストセラー小説を見事に映像化した、極上のメロドラマである。

(文・沢宮亘理)

「光をくれた人」(2016年、米・豪・ニュージーランド)

監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ

2017年5月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hikariwokuretahito.com/

作品写真:(c)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC
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2017年05月23日

「光をくれた人」絶海の孤島に流れ着いた赤ん坊 わが子として育てる夫婦の葛藤と愛

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 離れ小島に流れ着いた赤ん坊を、わが子として育てる夫婦の愛と葛藤を描く「光をくれた人」。オーストラリアの作家M・L・ステッドマンの原作小説を、「ブルーバレンタイン」(10)のデレク・シアンフランス監督が映画化した。
 
 第一次世界大戦終結後の1918年。戦争で英雄になったものの、心に深い傷を負ったトム(マイケル・ファスベンダー)は孤独を求め、オーストラリア本土から160キロ離れたヤヌス島で灯台守になった。契約を交わすため一時戻った本土で、美しい娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)に会う。ひかれ合った2人は結婚し、島で暮らし始める。島へ来る船の定期便は3カ月に1度、本土に戻れるのは3年に1度だけだ。

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 ところが、夫婦に思わぬ試練が訪れる。イザベルが2度流産したのだ。失意に打ちひしがれるイザベルを、見守ることしかできないトム。そんな時、島にボートが流れ着く。中を見ると男性の遺体のそばに、泣き叫ぶ女の赤ん坊がいった。イザベルは「自分たちの子どもとして育てたい」と懇願。トムは本土にうそのモールス信号を打ち、男性の遺体を土に埋めてしまった。

 2年後。「ルーシー」と名付けられた赤ん坊は、トムとイザベルの愛情を一身に受けて育っていた。初めての洗礼式のため本土を訪れたトムは、教会の墓でむせび泣く女性ハナ(レイチェル・ワイズ)を見る。女性は「ボートで行方不明になった夫と娘の墓だ」と話した。ハナの身の上話を聞き、トムの心は揺れる。そしてハナに向けて匿名の手紙を出す──。

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 子どもに恵まれなかったトムとイザベル。思いがけず赤ん坊に出会い、育てながら葛藤する。背景には戦争で傷ついた心の痛みが見える。トムは灯台守として船に光を送り、海上の航路を照らす。しかし、灯台の真下で暮らす自分と妻に、神は幸せの光を与えてくれない。やがて「2人の母」は苦しみ、幼い娘は間にはさまれ困惑する。

 ファスベンター、ヴィキャンデル、ワイズの繊細な演技と、ミステリーのように作り込まれた物語。丁寧な演出が見る者の心を揺さぶる作品となった。

(文・藤枝正稔)

「光をくれた人」(2016年、米・豪・ニュージランド)

監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ、ブライアン・ブラウン、ジャック・トンプソン

2017年5月26日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hikariwokuretahito.com/

作品写真:(C)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC
タグ:レビュー
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2017年05月21日

全州国際映画祭(2)権力への挑戦を強くアピール、表現の自由守る姿勢鮮明に

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 4月27日から10日間にわたり開かれた韓国の「全州国際映画祭2017」(JIFF)は今年、「映画表現の解放区」をスローガンに掲げた。言うまでもなく、表現の自由を脅かす権力への挑戦を強くアピールする姿勢の表れだ。

 映画祭組織委員会によると上映作品は58カ国・地域の229本、観客動員数は7万9107人で、いずれも過去最大だった。韓国の大型連休と重なって動員が増えた側面はあるだろうが、強いメッセージを打ち出す映画祭に映画人や市民が賛同した結果とみることもできそうだ。

 昨年のJIFFが開かれたのは、釜山国際映画祭が上映作品の選定に介入しようとする釜山市との対立を深めていた時期だった。JIFFは釜山の騒動を尻目に、表現の自由を重視することを宣言し、政治・社会問題を告発する映画の数々をここぞとばかりに上映した。

 その後、韓国では朴槿恵前大統領の友人による国政介入問題が社会を揺るがす。さらに政府機関が政権に批判的な芸術家や文化人の「ブラックリスト」を作成していたことが明るみに出て、国民の怒りは頂点に達した。そして迎えた今年のJIFF。ラインアップをみると、一般市民が楽しめる商業映画や新人監督による劇映画と並んで、政治問題を扱ったドキュメンタリーが前回にも増して存在感を放っていた。

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 JIFFが製作を支援した「盧武鉉(ノ・ムヒョン)です」(イ・チャンジェ監督)は、無名の弁護士から国のトップに上り詰めた盧武鉉元大統領の人物像を、多くの人々の証言から描き出す。「国定教科書」(ペク・スンウ監督)は朴槿恵前大統領が推進した国定歴史教科書がテーマだ。国定教科書をめぐっては、就任したばかりの文在寅大統領が廃止の方針を示し、再び関心が高まっている。米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に反対する母親たちの運動を取材した「ブルーバタフライ効果」(パク・ムンチル監督)も注目された。

大統領親子のドキュメンタリー

 キム・ジェファン監督の「ミスプレジデント」は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾反対デモの中心となった「朴槿恵を愛する会」(「朴サモ」)の構成員の心情に迫るドキュメンタリー。彼らは、朴槿恵氏の両親である朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領(在任1963〜79年)と陸英修夫人に深い感謝と信頼を寄せ、娘である朴槿恵氏の強固な支持層となっている。こうした守旧派の人々をメディアが正面から取り上げるのは異例のことだ。

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 韓国での朴正煕の評価は真っ二つに分かれる。産業化の立役者という肯定的な面と、民主化を阻んだ独裁者という否定的な面だ。急速な経済発展を体験した世代が朴正煕政権を肯定的にとらえる一方、現在の40代以下の民主化世代では否定派が圧倒的だ。その世代間の断絶は深刻である。

 映画は「朴サモ」のメンバーへのインタビューを通して、なぜ朴正煕がこれほどまでに尊敬を集めるのかを解き明かしていく。キム監督は「朴正煕という“亡霊”が現在も韓国社会を支配していることを伝えたかった。信じているものが、本当に信じる価値があるものなのかを問う映画」と話す。

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 テレビプロデューサー出身のキム監督は、これまでも映画を通して社会を批判・風刺してきた。2012年には李明博政権を総決算するブラックコメディー「MBの追憶」をJIFFで上映。当時から、大統領が変わるたびに政権を検証する映画を作る構想を持っていたという。その鋭い視線は「反・朴槿恵」の象徴である文在寅(ムン・ジェイン)大統領にも注がれている。

(文・写真 芳賀恵)

写真1−2:全州映画祭の会場
写真3:「ミスプレジデント」キム・ジェファン監督
写真4:「ミスプレジデント」上映後の質疑応答


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2017年05月20日

「家族はつらいよ2」舞台あいさつ 山田洋次監督ファミリー喜劇続編「本当の家族のように」

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 山田洋次監督のファミリー喜劇「家族はつらいよ2」の完成披露試写会がこのほど東京都内であり、出演した橋爪功、吉行和子、西村雅彦、妻夫木聡、蒼井優ら出席した。

 熟年離婚をテーマにした前作「家族はつらいよ」(16)の続編。離婚の危機を乗り越えた平田家の人々が、ある人の「死」を通じて起こす騒動と絆を描くコメディーだ。舞台挨拶でもキャストは本当の家族のよう。和気あいあいとした雰囲気で盛り上がった。

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 山田監督は「とうとうこの日が来たな、という思い。全国のたくさんの人たちに見てほしい」とあいさつ。橋爪は「監督からパート2を作ると聞いた時、うれしかった。本当に幸せ。1作目どころではなく面白い。楽しんで」と自信をのぞかせた。

 林家正蔵が「監督の厳しい演技指導にやりがいを感じた。でも監督より怖いのが蒼井優さん。悪魔に近いような(笑)。とにかく楽しい。家族っていいな、と思う映画」と話すと、すかさず蒼井の夫を演じた妻夫木が「うちの嫁がご迷惑をおかけしてすみません」とフォロー。「(キャスト)それぞれの役割が広がり、面白味が増している。大いに笑って楽しんで」と呼びかけた。

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 前作では妻夫木の恋人役で登場した蒼井は、今回「私も家族になりました」。「リラックスして話せるのも、続編をやらせてもらったから」と感謝。「(山田監督の)『東京家族』(13)でこのメンバーが一つの家族を作り、『またやりたいね』と話してできたのが前作。俳優さんを回を重ねるごとに楽しく、中身も良くなっていくように思えた。親戚がまた集まったようで嬉しかった」と話した。「平田家」の雰囲気そのままに、笑いの絶えない舞台あいさつとなった。

(文・写真 岩渕弘美)

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「家族はつらいよ2」(2017年、日本)

監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優、林家正蔵

2017年5月27日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kazoku-tsuraiyo.jp/

作品写真:(C)2017「家族はつらいよ2」製作委員会

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2017年05月18日

「オリーブの樹は呼んでいる」祖父のために孫娘奮起 たった一人の無謀な挑戦

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 スペイン、バレンシア地方の小さな町カネット。20歳のアルマ(アンナ・カスティーリョ)は、気が強く扱いにくい女の子だ。オリーブ農園を営む祖父とは深い絆で結ばれていたが、祖父は何年も前に話すことをやめた。大切にしていた樹齢2000年のオリーブの樹を父が売ってしまったからだ。ついに食事もしなくなった祖父を見て、アルマは樹を取り戻す決意をする──。

 「オリーブの樹は呼んでいる」は「麦の穂をゆらす風」(08)、「わたしは、ダニエル・ブレイク」(16)でケン・ローチ監督とコンビを組むポール・ラヴァーティの脚本を、妻で女優のイシアル・ポジャインが監督したスペイン映画だ。

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 オリーブをめぐる祖父と孫娘の物語を知る前に、スペインの経済状況を理解する必要がある。不景気が続き、失業率は過去最高。建設業界の景気は低迷し、農家は自然を破壊して利益を得ているという。農園で育てられた樹齢1000年を超えるオリーブも、高値で売買されるありさまだ。

 作品に登場する農園も、景気悪化のあおりを受け、祖父のオリーブを手放さざるを得なくなる。家計は一時的に潤うものの、家族の絆は崩壊し、祖父はふさぎ込む。不仲な家族の現在をメーンにしながら、オリーブがあった平和なアルマの子供時代が回想される。

 アルマは樹木の仲介業者に樹を売った相手を聞き出す。樹はドイツの環境保護企業のシンボルとして使われ、会社のロビーに展示されていた。お金もコネもないアルマは、叔父のアーティチョーク(ハビエル・グティエレス)と同僚のラファ(ペップ・アンブロス)を丸め込み、大型トラックを会社から勝手に拝借。ドイツに向け無謀な旅に出る。

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 アルマの計画は周りの人々を巻き込み、SNSを通じて世の中に拡散され、大きな騒動に発展する。たった一人で挑戦する反骨精神は、ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」にも通じる。しかし、作家の目はシビアだ。困難を越えた末の安易な結末を示さず、厳しい現実を突きつける。

 スペインの現状を知らぬ身には、やや分かりづらい物語かもしれない。アルマの祖父へのまっすぐな思いが、壊れた家族の絆を修復する。現実を厳しくとらえた作品だ。

(文・藤枝正稔)

「オリーブの樹は呼んでいる」(2016年、スペイン)

監督:イシアル・ボジャイン
出演:アンナ・カスティーリョ、ハビエル・グティエレス、ペップ・アンブロス、マヌエル・クカラ

作品写真:(C)Morena Films SL-Match Factory Productions-El Olivo La Pelicula A.I.E
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 21:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | スペイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする