2018年11月16日

「アウト&アウト」元ヤクザの探偵と少女、巻き込まれる難事件 遠藤憲一主演の犯罪エンタメ作品

 1.jpg

 小学2年生の少女、栞(白鳥玉季)と探偵事務所を営む元ヤクザの矢能(遠藤憲一)のもとに依頼の電話が入る。指定された場所に向かうと、依頼人は銃で撃たれて死体となっていた。矢能は容疑者にされかねない状況に、素早く対応を始めるが、事態は思いもよらぬ方向へ転がっていく──。

 漫画「ビー・バップ・ハイスクール」の原作者で、映画監督として「カルロス」(91)、「JOKER」(96)、「鉄と鉛」(97、)「共犯者」(99)を監督したきうちかずひろが、自作の同名小説を映画化した。三池崇史監督の「藁の楯」の原作者でもあるマルチな才能の持ち主だ。

2.jpg

 危ない事件に巻き込まれた矢能は、ヤクザ時代の人脈をフルに使い、真相を突き止めようと動く。事件の背後には与党議員の鶴丸(要潤)と、鶴丸のトラブルを裏で解決してきた武道家の堂島(成瀬正孝)、弟子の数馬(岩井拳士朗)が絡んでいた。

 ドラマ、CM、映画と引っ張りだこの遠藤憲一主演で、Vシネマの遺伝子を感じる犯罪エンターテインメント映画だ。強面の探偵と少女のコンビは、手塚治虫の漫画「ブラック・ジャック」とピノコを思わせる。2人は不思議な疑似親子のよう。怖いものなしの矢能にとって、幼い栞はアキレス腱のような弱点となる。栞は裏社会どっぷりの男臭いドラマで、清涼剤の様な役割を果たす。栞を演じた白鳥は、西川美和監督の「永い言い訳」(16)に出演した注目の子役だ。

3.jpg

 きうち監督作品常連の竹中直人を筆頭に、渋川清彦、要潤、高畑淳子ら人気俳優が出演。監督の「鉄と鉛」に出演した成瀬正孝が、事件のカギを握る堂島を演じている。成瀬は1970年代東映ヤクザ映画の常連で、悪役が集まった「ピラニア軍団」に所属。同じ軍団の室田日出男、川谷拓三、志賀勝、片桐竜次らと画面の中を暴れまわっていた。往年の名脇がいぶし銀のごとく鈍く輝き、画面を引き締め、貫禄の演技で他を圧倒する。
 
 演出はやや稚拙ところもあるが、漫画でつちかった無駄のない場面運び、リズム感が観客の意表を突く。事件の謎解き、血のつながらない矢能と栞の絆を描いたサイドストーリーが物語に膨らみを持たせた。犯罪エンタメ作品として申し分のないクオリティーだ。

(文・藤枝正稔)

「アウト&アウト」(2018年、日本)

監督:きうちかずひろ
出演:遠藤憲一、岩井拳士朗、白鳥玉季、小宮有紗、中西学

2018年11月16日(金)、TOHOシネマズ 新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://out-and-out.jp/

作品写真:(C)2017「アウト&アウト」製作委員会
posted by 映画の森 at 23:51 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月14日

「ボヘミアン・ラプソディ」伝説のフレディ・マーキュリー、27年を経て再び

1.jpg

 ボーカルのフレディ・マーキュリーの死から27年。今なお曲が愛され続ける英国のバンド、クイーン。テレビのコマーシャル、ドラマ、スポーツ番組など曲が流れぬ日はないほどだ。

 中でも圧倒的な存在感を放っていたフレディは、美しく力強い歌声、独特なパフォーマンスで人々を魅了し続けた。映画「ボヘミアン・ラプソディ」は1991年11月24日、45歳の若さで世を去ったフレディの半生、バンドの歩んだ軌跡を描く。

 クイーンの代名詞ともいえる名曲「ボヘミアン・ラプソティ」。幻想的なコーラスから始まり、美しいピアノのメロディー、オペラ、ハードロックへと曲調が変化していく。一度聴いたら忘れられないインパクトを持ち、大ヒットを記録した。複数のパート、複数の音を重ね合わせ、当時のシングルレコード曲の常識を超える6分の長さ。どう作られ、世に出たのか。曲の誕生秘話、レコーディングの様子も再現されている。

2.jpg

 次々にヒット曲を生み、バンドとして成功を収めたクイーン。栄光を手にしたかに思えたが、フレディはメンバーと衝突するようになる。厳格な両親と疎遠になり、セクシャリティーの問題も抱え、婚約者と破局し、次第に孤立していく。

 バンドも解散をささやかれるようになるが、友人の助けもあり、フレディは失いかけた大切なものに気づき、メンバーのもとへ戻る。危機を乗り越え、四人での再出発を決意したクイーンは、20世紀最大のチャリティー音楽イベント、ライブ・エイドに出演。フレディは一方、メンバーに重大な秘密を打ち明ける。

3.jpg

 全編を通じてクイーンの楽曲に彩られ、パフォーマンスも見応え十分。圧巻はクライマックス、ウェンブリー・スタジアムでのライブ・エイドだ。巨大セットで当時のステージを再現、本物のフレディの歌声に合わせ、フレディを演じたラミ・マレックが魂のこもったステージを披露する。ラスト21分はライブ会場にいる錯覚に陥るほど。ライブに込められたメンバーの思い、秘められた真実の物語。心を揺さぶられずにいられない。

(文・岩渕弘美)

「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年、米)

監督:ブライアン・シンガー
出演:ラミ・マレック、ルーシー・ボーイントンメアリー・オースティン
グウィリム・リーブライアン・メイ
ベン・ハーディロジャー・テイラー
ジョセフ・マッゼロ

2018年11月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

作品写真:(C)2018 Twentieth Century Fox

posted by 映画の森 at 15:20 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月12日

「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」“Mr.ビーン”ことローワン・アトキンソン、「007」パロディーを熱演

1.jpg


 イギリスの諜報機関「MI7」のスパイ情報が、サイバー攻撃で漏洩した。隠居状態の元スパイ、ジョニー・イングリッシュ(ローワン・アトキンソン)が呼び出され、任務を開始する。しかし、ローテクのアナログ人間ジョニーにとって、敵はむしろ最新技術だった──。

 大ヒットコメディー「Mr.ビーン」のアトキンソン主演シリーズ3作目。監督は英BBCで多くのテレビドラマを監督してきたデビッド・カー。初の劇場映画だ。

 スパイが活躍する映画の人気は今も高い。ジェームズ・ボンドの「007」、イーサン・ハントの「ミッション・インポッシブル」。俳優のマット・デイモン主演の「ボーン」シリーズ、コリン・ファース主演「キングスマン」シリーズと、作品を重ねて世界の観客を魅了している。

2.jpg

 そんな王道スパイ映画と別の道を、「ジョニー・イングリッシュ」は独走する。06年に第1弾、11年に続編の「ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬」が公開。今回の「アナログの逆襲」は7年ぶりのシリーズ最新作。

 物語はいたって真面目だ。アトキンソン主演で「007」をパロディー化するもので、主人公のイングリッシュは「MI6」ならぬ「MI7」諜報員。愛車はボンドと同じ旧型のアストンマーチン。武器担当者のコードネームは「Q」ではなく「P」。最新のスパイ・アイテムも、イングリッシュの手にかかれば無用の長物と化す。

 パロディーといっても手抜きはない。アシスタント監督は米スタント界の重鎮ヴィク・アームストロング。本家の「女王陛下の007」(69)、「007 死ぬのは奴らだ」(73)のスタント、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(97)のセカンド監督のほか、「レイダース 失われたアーク」(81)など、多くの作品でハリソン・フォードのスタントを務めた。英国の首相役には英の大女優エマ・トンプソン。謎の美女に「007 慰めの報酬」(08)のボンドガール、オルガ・キュリレンコ。

3.jpg

 しかし、なんといっても見どころは、アトキンソンの顔芸と体を張った「迷」演技。イングリッシュはいたって真面目に任務をこなしているが、思い込みと勘違いが激しく、事態が思わぬ方に動いてしまう。むちゃくちゃな中も最終的には結果オーライになり、アトキンソンがポーカーフェイスできめまくる。

 アナログ男のイングリッシュが、初体験のVR(バーチャル・リアリティー)に没入。街の人々を巻き込み大暴れするシーンが最高だ。「Mr.ビーン」が復活したようなアトキンソンの健在ぶり。作りこまれたスパイ・コメディーの快作である。
 
(文・藤枝正稔)

「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」(2018年、英)

監督:デビッド・カー
出演:ローワン・アトキンソン、ベン・ミラー、オルガ・キュリレンコ、ジェイク・レイシー、エマ・トンプソン

2018年11月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://johnnyenglish.jp/

作品写真:(C)2018 Universal Studios and Studiocanal SAS
posted by 映画の森 at 10:03 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月10日

「生きてるだけで、愛。」痛々しくネガティブな若者たち ヒリヒリするまで掘り下げて

1.jpg


 うつによる過眠症で引きこもりの寧子(趣里)と、出版社でゴシップ記事を書き続ける津奈木(菅田将暉)。二人が同棲する部屋に、津奈木の元彼女・安堂(仲里依紗)が現れ、関係が変化していく──。

 劇作家・小説家の本谷有希子の同名小説の映画化。CMやMV演出、短編オムニバス映画「BUNGO ささやかな欲望」(12)の関根光才が監督・脚本も手掛けた長編デビュー作だ。

2.jpg

 コンパで知り合い、寧子が津奈木のマンションに転がり込んで3年。津奈木は朝早く家を出て、夜遅く帰る日々。寧子はバイトも続かず、家事もせず、姉とメールをするぐらいで引きこもっている。

 寧子と津奈木をつなぐのは、帰宅途中に買ったコンビニ弁当を食べること。優柔不断の津奈木は別々の弁当を買い、寧子に食べる弁当を決めてもらう。恋人らしくなく、同居人のような関係だ。

3.jpg

 そこへ安堂が割って入る。津奈木に未練たっぷりの安堂は、寧子になじみのカフェでバイトさせて引き離そうとする。寧子はなかば強制的に社会復帰させられ、津奈木のストレスも編集長からの圧力でピークに達する。

 甘くコーティングされた最近の日本映画と違い、痛々しい二人のネガティブな日常がつづられる。うつで精神状態が不安定な難役に趣里が挑む一方、押しの演技が得意な菅田将暉が、趣里に振り回される引きの演技。ストーカーばりの粘着気質ながらユーモラスな仲里依紗がいい。今が旬の若い役者たちが絶妙なさじ加減の好演だ。

 原作は寧子一人の視点で書かれているが、寧子と津奈木の視点に変更され、津奈木のパートを膨らませて深みが出た。現代の若者の不器用な生き方を、ヒリヒリするほど徹底的に掘り下げて、観客の心をえぐっていく。

(文・藤枝正稔)

「生きてるだけで、愛。」(2018年、日本)

監督:関根光才
出演:趣里、菅田将暉、田中哲司、西田尚美、松重豊

2018年11月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://ikiai.jp/

作品写真:(C)2018「生きてるだけで、愛。」製作委員会

posted by 映画の森 at 20:55 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月28日

「あいあい傘」25年行方不明の父、探す娘との再会物語 宅間孝行、劇場映画監督3作目

1 (2).jpg


 恋園神社がある小さな田舎町。年に1度の祭が近づいた日、さつき(倉科カナ)は25年前に姿を消した父の六郎(立川談春)を探しにやって来た。宿に向かう途中、偶然六郎を知るテキ屋の清太郎(市原隼人)と出会ったさつきは、「祭を取材したい」と嘘をつき、町を案内してもらう。父の暮らしぶりを知ったさつきは、父の新しい家族、妻の玉枝(原田知世)、娘(入山杏奈)に会いに行こうとする──。

 宅間孝行が主宰する劇団「東京テレソンデラックス」が07年に上演し、再演がなく「幻の作品」だった同名舞台劇の映画化。宅間自身が監督、脚本を担当している。

2.jpg

 25年前。六郎は仕事で責任を押し付けられ、電車に乗り、小さな田舎町をさまよい歩き、恋園神社にたどり着いた。思い詰めた表情の六郎を見たお茶屋「恋園庵」の女将・玉枝は後を追い、そっと傘を差し出す。美しいモノクロ無声映画のワンシーンのようだ。六郎の過去が回想として描かれた後、舞台は今に移る。

 車にテキ屋道具を詰め込んだ清太郎は、カメラマンを名乗るさつきと知り合い有頂天。町で皆から慕われ、新しい家族と幸せに暮らす父の様子を知り、さつきに怒りと憎しみ、嫉妬が混じった複雑な感情がわきあがる。

3.jpg

 テキ屋の男が美しいヒロインに一方的に思いを寄せ、物語が動き出す。山田洋次監督「男はつらいよ」シリーズを思わせる設定だ。寅さんの笑いの底には落語が流れているが、「あいあい傘」は舞台劇のハイテンションなリズム感が生きている。清太郎と仲間夫婦の台詞のキャッチボールが典型だ。さつきの本当の目的を知った清太郎は、六郎とうまく引き合わせようとする。

 宅間監督の劇場映画3作目。ワンカット、ワンシーンで人物の心の動きを丁寧に掘り下げていく。冒頭の白黒映像と対照的に感情の起伏の激しい舞台劇的なドラマが展開し、最後はしっとりした家族の話に着地させる。変幻自在な演出だ。

 さつきと六郎はなかなか会えないが、再会シーンは6分間の長回し撮影。父を前にあふれる感情を抑えた倉科。朴訥とした立川談春。2人の演技は化学反応を起こし、親子の思いがつながる名シーンに仕上がった。脇に徹した原田知世のしおらしさをはじめ、キャストの一体感が心地良い感動を生み出している。

(文・藤枝正稔)

「あいあい傘」(2018年、日本)

監督:宅間孝行
出演:倉科カナ、市原隼人、立川談春、原田知世、入山杏奈

2018年10月26日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://aiai-gasa.com/

作品写真:(C)2018映画「あいあい傘」製作委員会

posted by 映画の森 at 14:25 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする