2019年10月29日

釜山国際映画祭2019、日本映画が存在感 女性監督も躍進

1.jpeg

 「第24回釜山国際映画祭2019」が10月3〜12日、韓国釜山市で開かれた。日韓関係に逆風が吹く中での開催となったが、映画祭は例年通り日本の映画と映画人を歓迎。開幕作・閉幕作のどちらも日本がかかわる作品だったのは、過去にないことだった。

 今年は85カ国・地域の長短編約300本を上映。多様性を追求する映画祭らしく国際合作や女性監督の作品が目立ち、テーマも多岐にわたった。3日のオープニングセレモニー後に上映された開幕作はカザフスタンと日本の合作「オルジャスの白い馬」。竹葉リサ監督は、2014年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター・コンペティション部門でグランプリを受賞した実力派。主演の森山未來や共同監督のエルラン・ヌルムハンベトフ監督とともにステージに登場した。

2.jpeg

 12日の閉幕作は韓国映画だが、北海道小樽市が舞台の「ユニへ」。釜山映画祭で受賞歴のあるイム・デヒョン監督が、母娘関係や初恋の痛みといった繊細なテーマを描いた。韓国からキム・ヒエ、日本からは中村優子が出演。雪景色を背景に、大人の女性の心情をしっとりと演じた。

 釜山を訪れた中村は、監督や韓国人キャストとともに記者会見。「自分は何者で誰を愛するのかという問いに向き合うことができた時、他者に対する優しさに結びついていくということを教えてくれる脚本」と絶賛した。劇中、韓国語のせりふも自然にこなしている。

3.jpeg

日本の若手も

 新人監督のコンペ部門「ニューカレンツ」には、鈴木冴監督の東京芸術大学大学院の卒業作品「神様のいるところ」が出品。受賞は逃したものの、独創的なテーマと作風で注目された。

 台湾人の母親と暮らし、マイノリティーとして生き辛さを感じている中学生の少女と、職場になじめない20代のOLが出会い、ある事件をきっかけに二人で逃亡生活を送るストーリー。台湾人の母をもつ鈴木監督自身の経験を織り込みつつ、肉親ではない他人との間にも無償の愛は存在するのかという問いを投げかける。外国にルーツのある人やLGBTなど、マイノリティーを描くことに関心があるという鈴木監督。次回作が楽しみな新鋭だ。

4.jpg

賞の多くが女性の手に
 韓国ではここ数年、女性監督が存在感を増している。韓国のインディペンデント映画を集めたプログラム「韓国映画の今日・ビジョン」は10本のうち6本が女性監督の作品だった。新人監督を対象にした賞も、多くが女性の手に渡った。ユン・ダンビ監督の「姉弟の夏の夜」はアジア映画振興機構(NETPAC)賞、市民評論家賞など4冠を獲得。キム・チョヒ監督の「ラッキー・チャンシル」は韓国映画監督組合賞など3冠に輝いた。

5.jpeg

 「ラッキー・チャンシル」のキム監督は1975年生まれ。ホン・サンス監督のプロデューサーを長く務めたが、一時スランプに陥り、映画界を離れることも考えるほど悩んだという。「ラッキー・チャンシル」はその体験を下敷きに、アラフォー女性の再生の過程をコミカルに描く。主人公チャンシルの前に若い頃に憧れた香港スターの幽霊が現れるくだりは笑いを誘う。荒唐無稽なコメディーに見えても、主人公に映画への情熱を思い出させる重要なシーンだ。(恐らく本人にとっては)深刻な悩みや苦しみをユーモアに包んで表現する手腕に、監督の力量が見えた。

6.jpg

(文・写真 芳賀恵)

写真
1:「ユニへ」の(左から)イム・デヒョン監督、キム・ヒエ、中村優子
2:「ユニへ」=映画祭事務局提供
3:「神様のいるところ」の鈴木冴監督(右から2人目)らスタッフ
4:「神様のいるところ」=同
5:授賞式の(左から)キム・チョヒ監督、ユン・ダンビ監督
6:「ラッキー・チャンシル」=同

posted by 映画の森 at 13:26 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月23日

「ロボット2.0」スマホが鳥となって人々を襲う 現代社会に警鐘鳴らすインド娯楽大作

1.jpg

 インド南部の大都市・チェンナイ。ある日突然、街からすべてのスマホが消えた。人々の手から、まるで鳥のように空へ飛んで行ったのだ。原因が分からず、携帯電話会社と警察署の前に群集が集まり、大パニックになる。同じ頃、携帯業者や通信大臣が「スマホに殺される」事件が続発。ロボット工学の専門家バジー博士(ラジニカーント)は、知的で美しいロボットの助手ニラー(エイミー・ジャクソン)と事件の謎を追う──。

 「ロボット」(10)の大ヒットで製作された「ロボット2.0」は、主演ラジニカーント、シャンカール監督、音楽のA.R.ラフマーンが再集結。インド映画史上最高の90億円が投じられ製作された。

2.jpg

 時代設定は前作から8年後。人々の手から飛んで行ったスマホは、意志を持ったかのごとく、要人を殺し始める。捜査に乗り出したバジー博士も、飛んできたスマホの大群に襲われる。集団化したスマホは巨大な怪鳥に変身。軍隊も手に負えなくなり、バジー博士は封印したロボット「チッティ」を復活させ、人類を守ると議会で宣言する。

 奇想天外な物語に、視覚効果抜群のVFXが融合。黒いサングラスとシルバーのスーツ姿のラジニが“おじさんロボット”という開き直ったキャラクターだ。監督は逆にコミカルな設定を利用し、実写とVFXをミックスさせた変幻自在な映像で、スーパーパワーを持った超人ロボット「チッティ」を大活躍させる。

3.jpg

 「スマホが人を襲う」というと、むちゃくちゃな話に感じるが、裏には非常に重いメッセージが込められている。冒頭で鳥類学者のパクシ・ラジャン博士が、鉄塔で首吊り自殺する。インドでは増え続ける電波塔の影響で、鳥が次々と死んでいた。嘆いた博士はスマホ使用制限を訴えてきたが、誰にも受け入れられず、絶望して自殺したのだ。

 1年後。鳥の怨念とパクシ博士の負のエネルギーは人々からスマホを奪い、巨大なモンスターとなって復讐を始めた。表向きエンターテインメント映画の形を取りながら、環境問題を訴え、スマホ依存の現代社会に警鐘を鳴らす奥深さだ。

 敵役のパクシ博士には当初、アーノルド・シュワルツェネッガーを構想したという。あいにく実現せず「パッドマン 5億人の女性を救った男」(18)のアクシャイ・クマールが演じた。「ロボット対ターミネーター」の夢の対決は実現しなかったが、クマールも社会に見放された鳥類学者を悲哀たっぷりに演じている。

 インド映画の娯楽性に英米のVFXチームが配置され、一歩も二歩も予想の先を行く最強映画が生まれた。クライマックスはやり過ぎな気もするが、インド映画お約束の豪華絢爛なミュージカルも盛り込んだ。ハリウッドを超えてサービス精神満点なインド映画。続編「3.0」の製作に期待したい。

(文・藤枝正稔)

「ロボット2.0」(2018年、インド)

監督:シャンカール
出演:ラジニカーント、アクシャイ・クマール、エイミー・ジャクソン

2019年10月25日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://robot2-0.com/

作品写真:(C)2018 Lyca Productions. All rights reserved.
posted by 映画の森 at 23:09 | Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月22日

「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」ロシア映画のイメージ一変 対ナチス戦を描く戦争アクション

1.jpg

 第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの捕虜となったソ連の新米士官イヴシュキン(アレクサンドル・ペトロフ)。ナチスの鬼将校イェーガー(ビンツェンツ・キーファー)に、演習でソ連の最強戦車「T-34」を操縦するよう命じられる。同じく捕虜になった仲間と組み、「T-34」の整備と準備期間が与えられた。命令に背いても、演習に出ても死が待っている。イヴシュキンは仲間のため、収容所で出会った愛するアーニャ(イリーナ・ストラシェンバウム)のため、無謀な脱出計画を実行に移す──。

 本物の「T-34」と最先端のVFXを使い、捕虜となったロシア兵4人がナチス相手に奮闘する。ロシア発の戦車アクション作品だ。製作は「太陽に灼かれて」(94)で米アカデミー賞外国語映画賞を受賞したニキータ・ミハルコフ。監督、脚本はアレクセイ・シドロフ。

2.jpg

 ナチスを題材にした映画は最近、世界各国で作られている。強制収容所の悲劇を描いた「サウルの息子」(15)、ナチス幹部の暗殺計画「エンスラポイド作戦」を描いた「ハイドリヒを撃て!『ナチの野獣』暗殺作戦」(16)と「ナチス第三の男」(17)。ナチスに成りすまして権力を握った男の実話を描いた「ちいさな独裁者」(17)、ナチスの人体実験を拡大解釈したホラー「オーヴァーロード」(18)。史実をさまざまな角度から切り取り、ナチスとの戦いが映画化されてきた。

 「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」は、そんなナチスとの戦いをソ連側から痛快に描いている。時代設定は1941年の第二次世界大戦中。装備を持たずにトラックで、ナチス戦車の攻撃をかわし逃げ切ったイヴシュキンは、腕を将校に買われて「T-34」の車長に任命される。劣勢に立たされたソ連軍は「T-34」を使い、奇襲攻撃を仕掛ける。しかし、イエーガー大佐率いるナチス戦車隊との戦闘に負けたイヴシュキンと小隊は、捕虜として収容所に送られる。

3.jpg

 1944年、テューリンゲン州の強制収用所。ナチスは戦車兵の訓練のため、戦場から回収した「T-34」に捕虜となったソ連兵を乗せて訓練を行う。武器も何もない「T-34」を的にするため、イェーガーはかつて自分と対等に戦ったイヴシュキンに白羽の矢を立てる。しかし、戦場から回収された「T-34」の中には、死体と6発の砲弾が残されていた。

 捕虜4人は「T-34」と砲弾6発だけの装備で、ナチス収容所からの脱出に踏み切る。いたってシンプルな物語と本物の「T-34」、ナチス戦車「パンター」の圧倒的存在感と迫力の戦闘シーン。「バーフバリ 王の凱旋」(17)のVFXチームが作り出した、本物の戦車とけれん味あふれるVFXの融合。新次元の戦闘シーンが素晴らしい。

 砲弾が発射される瞬間、着弾して爆発する過程を、スローモーションと立体的なカメラアングルで描くVFX。こういう立体的なVFX描写は「マトリックス」(99)から始まり、影響を受けたロシア映画「ナイト・ウォッチ」(04)に受け継がれ、本作につながった。

 迫力の戦車バトル、ハラハラドキドキの収容所脱出劇、イヴシュキンと宿敵イェーガーの因縁の対決、女性捕虜アーニャとのロマンス。ロシア映画に対する堅苦しい固定観念を打ち砕くエンターテインメント性。バランス感覚に優れた痛快な作品だ。

(文・藤枝正稔)

「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」(2018年、ロシア)

監督:アレクセイ・シドロフ
出演:アレクサンドル・ペトロフ、イリーナ・ストラシェンバウム、ビツェンツ・キーファー、ビクトル・ドブロヌラボフ

2019年10月25日(金)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://t-34.jp/

作品写真:(C)Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

posted by 映画の森 at 15:56 | Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月16日

「ガリーボーイ」ラップで世界を変えたい インド発青春サクセス・ストーリー

1.jpg

 インド最大の商業都市、ムンバイ。大学生のムラド(ランビール・シン)は、雇われ運転手を父にスラムで暮らしている。両親はムラドを大学に行かせ、成功できるよう懸命に働いていた。しかしムラドは、生まれで人を判断する社会に憤り、地元の悪友とつるみ、内緒で裕福な恋人と交際していた。

 ある日、大学でラップをする学生MCシェール(シッダーント・チャトゥルヴェーディー)と出会い、言葉とリズムで気持ちを自由に表現する世界にのめりこんでいく。ムラドは“ガリーボーイ”(路地裏の少年)と名乗り、現実を変えるためラップ・バトルで優勝を目指す決意する──。

2.jpg

 実在するインドの若きラッパー、Naezy(ネイジー)とDivine(ディバイン)の半生を映画化した。主演は「パドマーワト 女神の誕生」(18)のランビール・シン。監督は「チャンスをつかめ!」(09)、「人生は一度だけ」(11)のゾーヤ・アクタル。字幕監修は日本語ラップに造詣の深い、いとうせいこう。

 映画大国インドの作品は、最近すさまじい勢いで日本に押し寄せている。口コミでロングランヒットしたアクション史劇「バーフバリ」二部作など劇場公開も増えた。豪華絢爛なダンスと歌の「ムトゥ 踊るマハラジャ」(95)、青春コメディー「きっと、うまくいく」(09)、VFX満載のSFアクション「ロボット」(10)などジャンルは多岐にわたる。英国ではダニー・ボイル監督がムンバイを舞台に「スラムドッグ$ミリオネア」(08)を撮って大ヒットさせた。

3.jpg

 「ガリーボーイ」の舞台もムンバイで、スラム街のダラビ地区だ。貧困と格差の閉塞感に苦しむムラドは、両親と祖母、弟とプライパシー皆無の狭い家に暮らしている。仲間が車を盗んだり、子どもを使って麻薬を取引する様子を目の当たりにし、悩み苦しむ一方で、裕福な医学生の恋人サフィナ(アーリア・パット)との交際は13歳から続いている。しかし、サフィナはムラドとの交際を両親に隠している。

 繊細で恥ずかしがりのムラドは、内に秘めた熱い思いを隠して学生生活を送っていたが、大学で行われたコンサートでラップと出会い、熱い思いを言葉に込める世界へ足を踏み入れる。ラップはアーティストの魂の叫びをリズムに乗せ、韻を踏んで発する歌唱法だ。遊びで始めたラップが、魂の叫びへ変わる邦画「サイタマノラッパー」シリーズと同じである。主人公が困難を乗り越えて魂の叫びを吐き出す姿は熱い。

 貧困と格差の激しいインドで、ラップを武器に未来を切り開く青年のサクセス・ストーリーだ。ランビール・シンは「パドマーワト 女神の誕生」で披露した筋骨隆々な自慢の肉体美を封印。繊細な青年を好演している。

(文・藤枝正稔)

「ガリーボーイ」(2018年、インド)

監督:ゾーヤー・アクタル
出演:ランビール・シン、アーリアー・バット、シッダーント・チャトゥルベーディー、カルキ・ケクラン、ビジャイ・ラーズ、ビジャイ・バルマー

2019年10月18日(金)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gullyboy.jp/


posted by 映画の森 at 11:39 | Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月11日

「細い目」シャリファ・アマニに聞く ヤスミン・アフマド監督は「母のような存在。今も教わっている」

シャリファ・アマニ2.jpg

 2009年に51歳で急逝したマレーシアのヤスミン・アフマド監督の長編第2作「細い目」(04)が公開中だ。多民族・多宗教・多言語のマレーシア社会を舞台に、マレー系の少女と中華系の少年の恋を通し、普遍的な愛や人間性を描いた作品。東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞するなど、監督の名を世界に知らしめた。

 当時17歳で主人公の「オーキッド」を演じたシャリファ・アマニは現在33歳。「グブラ」(05)や「ムアラフ」(08)など一連のヤスミン作品の中心的存在として、監督が描く世界を支えた。没後10年がたち、最近では監督業にも挑戦を始めたシャリファは「ヤスミンは母のような存在。今も教わっている感覚があります」と語った。

1.jpg

 主なやり取りは次の通り。

自分が「伝えたい」ではなく必要性

 ──「細い目」は、あなたにとってどんな作品ですか。

 本当に多くのものを与えてくれました。当時私は、子どもながら「表現者になりたい」と思っていました。人を楽しませたかった。「細い目」で夢がかないました。ヤスミンが生きる目的を示してくれたのです。「細い目」には私の人生の最高の時、最高の思い出が焼き付けられています。私にとって永遠の恋なのです。

 ──監督にも最近挑戦されていますね。ヤスミン監督から学んだ一番大きなことは何でしょうか。

 目的を明確化すること。なぜこの物語を伝えなければならないのか。自分が「伝えたい」ではなく必要性です。ヤスミンは両親を喜ばせたかった。邪心のなく、勤勉に働き、親孝行をする。これが彼女の教えで、守るようにしています。

 ──どんな物語を撮りたいですか。

 これまで作った短編4本で、脚本も書き、演出しました。人間関係や愛を描いていきたい。作品を見た人に言われて気づきましたが、私は割合に政治的な人間のようです。1作目は児童婚を取り上げ、若いカップルの関係性を描きました。2作目は故郷のない子が罪深いと感じる話。階級社会がテーマです。3本目は女性二人を主人公に、レズビアンの関係性を描きました。4本目は十代の妊娠をめぐる父親と娘の関係。。マレーシアでは深刻な問題なのです。

 ヤスミンの「娘」なので、社会問題に目が向くのだと思います。大きな社会問題はアーティストとして難しくても、向き合う立場にあります。私がやろうとしているのは、鏡を掲げて、そこに映る自分の姿をお客さんに見てもらうことです。

 将来長編を撮ることになれば、かなり個人的な話になるでしょう。「知っていることを書きなさい」と、ヤスミンに教えられたので。怖いですよね、逃げ場がないですから。

 大きなプレッシャーを感じます。「ヤスミンのようにならなくては」という期待も感じます。最初の短編はヤスミンの作品と比べられました。「彼女の陰からいつ出て行くことができるのか」と聞かれ、とても傷つきました。似た作品を作っているわけではないのに。

 私にとってヤスミンは、母のような存在でした。彼女の現場ですべてを学びました。彼女のようになることはないですが、敬い感謝しています。「陰」から出ていきたいとも思いません。素晴らしい人だったので。語り手としてだけでなく、人間としてプレッシャーを感じるのです。でも、ヤスミンに「勇敢であれ」と教わったので努力します。

2.jpg

去ることで「自分でやりなさい」と教えてくれた

 ──ヤスミン監督に聞きたいことがたくさんあるのでは。

 もちろん! 生前日本でロケハン中に「私も監督になりたい」と言ったら、真剣に受け取ってもらえませんでした。「子どもが何か言ってるわ」という感じ。ちょっと怒ったら「分かった。教えてあげるから」と言ってくれたのに、まもなく亡くなってしまいました。

 でも、今も教わっている感覚があります。彼女がいたら頼ってしまうし、道標として指示を待ってしまう。いつも「どこかへ連れて行ってもらう」姿勢になってしまう。彼女は去ってしまうことで「自分でやりなさい」と教えてくれるんだな、と思うようになりました。「あなたには十分、強さはあると思うよ」と。

 ──行定勲監督の映画「鳩 Pigeon」(2016)に出たり、日本で舞台に主演するなど、日本との縁もありますね。

 何かご縁がありますね。最初は(ヤスミン監督が生前構想していた)「わすれなぐさ」のロケハンで来日し、長く滞在したので記憶に残っています。マレー語で「Rezeki(幸運、神様のおぼしめし)」といいますが、幸運にも継続して、重要な関係を築けています。理由は分からないけれど、答えを探すのが楽しみです。

政権が交代し、マレーシアはオープンになった

 ──世界的に分断、差別、排他主義が広がっていますね。こういう時代にこそ、ヤスミン監督の映画を見てほしいと思います。マレーシアは政権が交代しましたが、社会はどう変わりましたか。

 とてもオープンになりました。(1957年の独立以来)61年ぶりに政権が替わったんですよ。人々が国を支配していると感じます。政治家は私たちににつかえる立場。新しい政権が私たちの価値を理解せず仕事を怠ったら、人々に変える力がある。誰が力を持っているのか知りました。今は何か起きればインターネットですぐ広がるので、翌日に政権が替わる可能性もあります。

3.jpg

 ──映画界も変わりましたか。

 昨年の(マレーシア映画界最大級の映画賞)マレーシア・フィルム・フェスティバルで、警察の腐敗を描いた「One Two Jaga」(ナムロン監督、2018年)が最優秀作品賞を獲りました。(社会問題について)より果敢な報道が許される状況になっています。

 社会的なテーマを取り上げる作品が増え、権力者を問い質しやすくなりました。マレーシアに住んでいて、わくわくする時代です。

 ──次はどんなテーマを考えていますか。

 個人的なテーマになるでしょう。今話すのは怖いかも。口に出したら実現しない気がします。幼い頃、女優になりたかったけれど、口にしませんでした。周りのみんなは知っていたようですが。黙っていたほうが、実現するんですよ(笑)。

(聞き手・写真 遠海安)

「細い目」(2004年、マレーシア)

監督:ヤスミン・アフマド
出演:ン・チューセン、シャリファ・アマニ、ライナス・チュン、タン・メイ・リン

2019年10月11日(金)、アップリンク吉祥寺、アップリンク渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/hosoime/

posted by 映画の森 at 11:37 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする