2019年10月11日

「細い目」シャリファ・アマニに聞く ヤスミン・アフマド監督は「母のような存在。今も教わっている」

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 2009年に51歳で急逝したマレーシアのヤスミン・アフマド監督の長編第2作「細い目」(04)が公開中だ。多民族・多宗教・多言語のマレーシア社会を舞台に、マレー系の少女と中華系の少年の恋を通し、普遍的な愛や人間性を描いた作品。東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞するなど、監督の名を世界に知らしめた。

 当時17歳で主人公の「オーキッド」を演じたシャリファ・アマニは現在33歳。「グブラ」(05)や「ムアラフ」(08)など一連のヤスミン作品の中心的存在として、監督が描く世界を支えた。没後10年がたち、最近では監督業にも挑戦を始めたシャリファは「ヤスミンは母のような存在。今も教わっている感覚があります」と語った。

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 主なやり取りは次の通り。

自分が「伝えたい」ではなく必要性

 ──「細い目」は、あなたにとってどんな作品ですか。

 本当に多くのものを与えてくれました。当時私は、子どもながら「表現者になりたい」と思っていました。人を楽しませたかった。「細い目」で夢がかないました。ヤスミンが生きる目的を示してくれたのです。「細い目」には私の人生の最高の時、最高の思い出が焼き付けられています。私にとって永遠の恋なのです。

 ──監督にも最近挑戦されていますね。ヤスミン監督から学んだ一番大きなことは何でしょうか。

 目的を明確化すること。なぜこの物語を伝えなければならないのか。自分が「伝えたい」ではなく必要性です。ヤスミンは両親を喜ばせたかった。邪心のなく、勤勉に働き、親孝行をする。これが彼女の教えで、守るようにしています。

 ──どんな物語を撮りたいですか。

 これまで作った短編4本で、脚本も書き、演出しました。人間関係や愛を描いていきたい。作品を見た人に言われて気づきましたが、私は割合に政治的な人間のようです。1作目は児童婚を取り上げ、若いカップルの関係性を描きました。2作目は故郷のない子が罪深いと感じる話。階級社会がテーマです。3本目は女性二人を主人公に、レズビアンの関係性を描きました。4本目は十代の妊娠をめぐる父親と娘の関係。。マレーシアでは深刻な問題なのです。

 ヤスミンの「娘」なので、社会問題に目が向くのだと思います。大きな社会問題はアーティストとして難しくても、向き合う立場にあります。私がやろうとしているのは、鏡を掲げて、そこに映る自分の姿をお客さんに見てもらうことです。

 将来長編を撮ることになれば、かなり個人的な話になるでしょう。「知っていることを書きなさい」と、ヤスミンに教えられたので。怖いですよね、逃げ場がないですから。

 大きなプレッシャーを感じます。「ヤスミンのようにならなくては」という期待も感じます。最初の短編はヤスミンの作品と比べられました。「彼女の陰からいつ出て行くことができるのか」と聞かれ、とても傷つきました。似た作品を作っているわけではないのに。

 私にとってヤスミンは、母のような存在でした。彼女の現場ですべてを学びました。彼女のようになることはないですが、敬い感謝しています。「陰」から出ていきたいとも思いません。素晴らしい人だったので。語り手としてだけでなく、人間としてプレッシャーを感じるのです。でも、ヤスミンに「勇敢であれ」と教わったので努力します。

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去ることで「自分でやりなさい」と教えてくれた

 ──ヤスミン監督に聞きたいことがたくさんあるのでは。

 もちろん! 生前日本でロケハン中に「私も監督になりたい」と言ったら、真剣に受け取ってもらえませんでした。「子どもが何か言ってるわ」という感じ。ちょっと怒ったら「分かった。教えてあげるから」と言ってくれたのに、まもなく亡くなってしまいました。

 でも、今も教わっている感覚があります。彼女がいたら頼ってしまうし、道標として指示を待ってしまう。いつも「どこかへ連れて行ってもらう」姿勢になってしまう。彼女は去ってしまうことで「自分でやりなさい」と教えてくれるんだな、と思うようになりました。「あなたには十分、強さはあると思うよ」と。

 ──行定勲監督の映画「鳩 Pigeon」(2016)に出たり、日本で舞台に主演するなど、日本との縁もありますね。

 何かご縁がありますね。最初は(ヤスミン監督が生前構想していた)「わすれなぐさ」のロケハンで来日し、長く滞在したので記憶に残っています。マレー語で「Rezeki(幸運、神様のおぼしめし)」といいますが、幸運にも継続して、重要な関係を築けています。理由は分からないけれど、答えを探すのが楽しみです。

政権が交代し、マレーシアはオープンになった

 ──世界的に分断、差別、排他主義が広がっていますね。こういう時代にこそ、ヤスミン監督の映画を見てほしいと思います。マレーシアは政権が交代しましたが、社会はどう変わりましたか。

 とてもオープンになりました。(1957年の独立以来)61年ぶりに政権が替わったんですよ。人々が国を支配していると感じます。政治家は私たちににつかえる立場。新しい政権が私たちの価値を理解せず仕事を怠ったら、人々に変える力がある。誰が力を持っているのか知りました。今は何か起きればインターネットですぐ広がるので、翌日に政権が替わる可能性もあります。

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 ──映画界も変わりましたか。

 昨年の(マレーシア映画界最大級の映画賞)マレーシア・フィルム・フェスティバルで、警察の腐敗を描いた「One Two Jaga」(ナムロン監督、2018年)が最優秀作品賞を獲りました。(社会問題について)より果敢な報道が許される状況になっています。

 社会的なテーマを取り上げる作品が増え、権力者を問い質しやすくなりました。マレーシアに住んでいて、わくわくする時代です。

 ──次はどんなテーマを考えていますか。

 個人的なテーマになるでしょう。今話すのは怖いかも。口に出したら実現しない気がします。幼い頃、女優になりたかったけれど、口にしませんでした。周りのみんなは知っていたようですが。黙っていたほうが、実現するんですよ(笑)。

(聞き手・写真 遠海安)

「細い目」(2004年、マレーシア)

監督:ヤスミン・アフマド
出演:ン・チューセン、シャリファ・アマニ、ライナス・チュン、タン・メイ・リン

2019年10月11日(金)、アップリンク吉祥寺、アップリンク渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/hosoime/

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2019年10月09日

「細い目」多民族国家マレーシア ヤスミン・アフマド監督、壁を越える恋へ優しい眼差し

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 マレーシアのマレー系少女、オーキッド(シャリファ・アマニ)は香港のスター、金城武が大好き。ある日、屋台で香港映画の海賊版ソフトを売る中華系少年、ジェイソン(ン・チョーセン)と出会い、一瞬で恋に落ちる。民族や宗教が異なる二人の恋は、互いの家族や友人たちの間にさざなみを呼ぶ──。

 マレーシア映画「細い目」は、2009年に急逝したヤスミン・アフマド監督の長編第2作。マレーシア・アカデミー賞でグランプリ、監督賞、脚本賞、新人男優・女優賞、助演女優賞の6部門を独占し、2005年の第18回東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞した。監督は51年の生涯に長編6作品を残した。

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 シンプルで普遍的なラブストーリーの形をとりながら、民族や宗教の違いから生まれる差別や偏見を盛り込んでいる。対立する家族が争うシェークスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」に通じる部分がある。

 中華系のジェイソンは、車いす生活の父親がいる。貧しい生活で、裏社会を牛耳るやくざの手下のような立場。屋台で海賊版ソフト売り、すねに傷を持つ少年だ。一方、オーキッドは、お手伝いさんもいる家庭で大切に育てられている。家庭環境も違いすぎる二人の恋。いくつかの障害はあるものの、双方の家族は若い二人を優しく見守っている。監督は大きな視点で物語を見つめている。

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 母方の祖母が日本人のヤスミン監督は、山田洋次監督の「男はつらいよ」が好きだったという。オーキッドの両親、お手伝さんら大人の存在が、物語に膨らみを持たせる。助演の家族が物語を盛り上げる「男はつらいよ」と通じるようだ。冒頭、オーキッドとジェイソンをつなぐスターが、金城武なのも心憎く、日本人にはうれしい設定だ。

 民族や宗教の違いを現実的に描く一方、幕引きは観客の想像力に委ねた。やや戸惑いを感じたが、抽象的な幕引きが逆に余韻を残す結果となった。監督の優しい眼差しに包まれ、懐かしい味わいがする青春恋愛映画だ。

(文・藤枝正稔)

「細い目」(2004年、マレーシア)

監督:ヤスミン・アフマド
出演:ン・チューセン、シャリファ・アマニ、ライナス・チュン、タン・メイ・リン

2019年10月11日(金)、アップリンク吉祥寺、アップリンク渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/hosoime/

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2019年09月28日

「アイネクライネナハトムジーク」大ヒット御礼舞台挨拶 三浦春馬×多部未華子「また一緒にいいものを作れたら」

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 公開中の映画「アイネクライネナハトムジーク」の大ヒット御礼舞台挨拶が24日、東京・日比谷で行われ、主演の三浦春馬、多部未華子が参加した。

 原作は人気作家・伊坂幸太郎の同名小説。三浦と多部が演じる10年越しの恋を中心に、さまざまな出会いの連鎖を描く。

 まず三浦が晴れ晴れとした笑顔で会場を見渡し「全国公開から5日経って、1年半以上かけて温めた作品が世の中に出て、皆さんの心に届いて、うれしいと思える。心が温かくなる作品に参加できて、うれしく思う」と、指折り数えるしぐさを交えて語った。

 演じた役について三浦は「台本も原作も“佐藤”という名前しかなかった。伊坂さんは普遍性を感じるよう考えたと思う。演じる上では、どことなくにじみ出る個性を見つけていければ、と。スパイスを自分なりに見つけ、足す作業が楽しかった」と話した。

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 多部も「佐藤と付き合う紗季も普通の女の子。10年なんとなく過ごして、きっかけのないままプロポーズされた」と説明。プロポーズシーンは「紗季が“佐藤の決めきれないところ”を10年感じていることが出たいいシーン。結構好き」と話すと、三浦も同意。「がっかりしつつ決めきれない。気持ちのせめぎあいがコミカルに表れている。(箱が)開かない結婚指輪とかリアリティーがある。たぶん僕もそのタイプ」と話した。

 今回で足かけ10年、3度目の共演となった二人。互いへの感謝の言葉を促されると、三浦は「最初の映画から大切。(当時は)岐路に立つような時期で、一緒に戦い、いい仕事になった。(4年後との共演は)折りに触れて素敵なものをもらっているような気持ち。また一緒にいいものを作れたら」と照れながら話した。

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 多部は「こういう場に立つと、いつもまじめでしっかりしている春馬君が話してくれる。安心して頼りにしている。20代の感情が定まらない時期から一緒にいるのは春馬君だけで、特別です。4年後までたぶん会えないので、4年後までさようなら」と話すと、三浦がすかさず「振られたような気分」と返して笑いを誘った。舞台を降りる時は、三浦が多部に手を差し伸べエスコート。会場を沸かせた。

(文・写真 岩渕弘美)

「アイネクライネナハトムジーク」(2019年、日本)

監督:今泉力哉
出演:三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳

2019年9月20日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/EinekleineNachtmusik/

作品写真:(c)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
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2019年09月27日

「ヘルボーイ」異色のアメコミ・ダークヒーロー 血しぶき多めで刺激的に

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 紀元517年、暗黒時代のイングランド。“ブラッドクイーン”こと、魔女ニムエ(ミラ・ジョボビッチ)は疫病を拡散させ、世界を手に入れようとしたが、アーサー王の聖剣エクスカリバーに野望を断たれる。バラバラにされたニムエの死体は、人里離れた地に封印された──。

 マイク・ミニョーラ原作のコミック「ヘルボーイ」は、ギレルモ・デル・トロ監督の手により「ヘルボーイ」(04)と「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」(08)の2作品として映画化された。監督はニール・マーシャル。「ドッグ・ソルジャー」(02)の鬼才が「ヘルボーイ」を現代に復活させた。原作者ミニョーラが製作総指揮、脚本にも参加したという。

 ハリウッドのアメコミ・ヒーロー映画は、一つのジャンルとして確立している。「スーパーマン」や「バットマン」で知られる“D.C.コミックス”と、「アベンジャーズ」で知られる“マーベル・コミック”が、しのぎを削りあうように大ヒット作を立て続けに製作してきた。

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 そんな2強ブランドと一線を画す異色の存在が“ダークホースコミックス”の「ヘルボーイ」だ。地獄の悪魔の子として生まれ、人間に育てられたダークヒーローは、善にかえったものの、体に流れる悪の血に苦しみ、何かの拍子に悪魔に戻る。極秘の超常現象調査防衛局(B.P.R.D.)のエージェントとして、悪魔の力を駆使して人間界を守っている。

 ヘルボーイの敵が魔女ニムエだ。人間への復讐心に突き動かされて、1500年の時を超えて復活し、疫病をまき散らし、世界征服を目論む。イノシシのような獣人グルアガッハを従え、地球の女王として君臨しようとする。「女王には王が必要」と、白羽の矢を立てられたヘルボーイは、魔女ニムエと戦い始める。

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 騎士道物語「アーサー王と円卓の騎士」を巧みに取り入れながら、地球を守る悪魔の子と、地球征服を狙う魔女の戦いを、VFX満載で描いたダークファンタジーだ。一方、見たこともない様な巨大モンスターやクリーチャーが登場。モンスター映画の一面も持っている。

 デル・トロ版でヘルボーイを演じたロン・パールマンも凄い存在感だったが、今回のハーバーもいい。善と悪の間で揺れる新生ヘルボーイとして、申し分のない役作り。魔女ニムエには「バイオハザード」シリーズのミラ・ジョボビッチ。適役である。悪魔と対等に戦える最強の女優で、最高のキャスティングだ。

 監督のニール・マーシャルはホラー映画「ディセント」(05)、「マッドマックス」に通じる荒廃した近未来アクション映画「ドゥームズデイ」(08)というジャンル映画で頭角を現した。ダークヒーローとクリーチャーとの戦いをえげつなく描いた。D.C.コミックスやマーベルコミックとはまた一味違う、血しぶき多めで刺激的なアメコミ・ヒーローの快作だ。

(文・藤枝正稔)

「ヘルボーイ」(2019年、米)

監督:ニール・マーシャル
出演:デビッド・ハーパー、ミラ・ジョボビッチ、イアン・マクシェーン、サッシャ・レイン

2019年9月27日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hellboy-movie.jp/

作品写真:(C)2019 HB PRODUCTIONS, INC.

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2019年09月26日

「バオバオ フツウの家族」蔭山征彦に聞く 台湾で演じて15年「自分の能力を信じて」

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 台湾との縁は、足かけ20年になった。大学時代に地震被災地の支援に赴いたのをきっかけに、演技の道に進み、映画やドラマに出始めて15年。2019年9月28日(土)公開予定の映画「バオバオ フツウの家族」の公開を前に、台湾で活動する日本人俳優、蔭山征彦に話を聞いた。

 台湾で大ヒットした映画「海角七号 君想う国境の南」(08)ではナレーション、「あなたなしでは生きていけない」(09)では音楽、「父の子守唄」(12)では初主演、「KANO 1931 海の向こうの甲子園」(14)では出演、演出補佐。11月2日に公開される「あなたを、想う。」(15)は、中華圏を代表する女性監督、シルビア・チャンに脚本を採用され、香港電影評論学会の脚本賞を受賞した。

 「バオバオ フツウの家族」(18)は、子どもがほしい同性カップル2組が「妊活」に取り組む人間ドラマ。アジアで初めて同性婚が認められた台湾の今を反映する物語で、蔭山は初めてLGBTの男性を演じている。


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俳優、脚本家として「セリフを大事にしたい」
 主な一問一答は次の通り。

 ──「バオバオ フツウの家族」出演に至った経緯を教えて下さい。

 「父の子守唄」のメインカメラマンが、今回の作品のプロデューサーです。クランクインの半年前、2016年年の末に台本もらい、久しぶりに会いました。「ファインダー越しに見た芝居がとても好きなので、ぜひ主演してほしい」と連絡をもらいました。

 ──LGBTの役を演じるのは初めてですね。役作りにどんな工夫をしましたか。

 ゲイの知り合いに話を聞き、アドバイスをいくつかもらいました。男性らしい面、女性らしい面を、場面に応じて切り替えながら演じていきました。ちょっとしたしぐさや姿勢、歩き方。彼らには「(男性と女性の)どちらにもなるよう使い分け、役を立体的にしたい」と話しました。

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 ──台湾での公開後、観客の反応で印象的だったことはありますか。

 僕を直接知っている人は、たいてい(演技を)評価してくれます。そうではなく、ネットに書き込んでいる人や、僕を知らない人が「好き」と言ってくれるかどうか。台湾のある著名な映画評論家が、映画への評価はまずまずとしていたけれど、僕の演技は高く評価してくれました。

 (劇中登場する)山で起きた喧嘩のシーンは、セリフの変更をお願いしました。考えたセリフを紙に印刷し、監督に見せて「この方がいい」と推したんです。「10年後の自分たちが幸せでいたい」というセリフで、ネットでの評価が高かった。自分のセンスは間違ってなかったんだな、と思いました。

 一人の俳優、脚本家として、構成よりセリフを大事にしたいです。たとえば10年前の映画なら、時間軸や構成は観客に忘れられても、強烈なセリフは残る。何十年たっても印象に残るようなセリフを書きたいと思っています。

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一度きりの人生「後悔したくなかった」
 ──音楽、脚本、演出と、さまざまな立場で映画作りにかかわってきました。今後、何を主軸に置きたいですか。

 演出です。監督になることを目標に、脚本を書き始めました。温めている題材はあります。できれば脚本と演出をセットで手がけたい。難しいけれど、いつか実現すればと考えています。(脚本を書いたシルビア・チャン監督の)「あなたを、想う。」もそうでしたが、思いつく話は恋愛ものより、家族をめぐるものが多い。理由は分かりませんが。

 ──「あなたを、想う。」の撮影に立ち会ったそうですね。監督の演出を見て何を得ましたか。

 カット割りが一番勉強になりました。監督には「脚本をこういう思いで書いた」と話した記憶があり、思いを汲み取ってくれました。監督は香港に住んでいるので、台湾で次に撮るのはいつか分からない。チャンスを逃したくなかったので、お願いして現場に立ち会いました。

 一流の監督はどう演出するか、カット割りもノートに書いて理解しました。モニターを監督の後ろで見て、カメラワークも学びました。とても貴重な現場で、俳優として見るのとは全く違う立場を経験できました。

 ──台湾で仕事をして15年ですね。ここまで続けられた理由はなんでしょう。

 一番大きいのは、後悔したくないから。この業界で能力があっても運に恵まれず、やめていく人たちをごまんと見てきました。でも、半分以上の人が心のどこかで「なぜやめてしまったのか」と思っている。人生は一度きりじゃないですか。たかだか80年です。真剣に自分の人生と向き合い、逃げたくありませんでした。どんな結果になろうと、やれるだけやりたいと思っていたら、いつの間にか15年たっていたんです。

 もちろん、この世界は評価されてなんぼです。理論を持っていても、現場で評価されなければダメ。シルビア・チャン監督が認めてくれて、香港で賞ももらって、すごくうれしかった。今後もきちんと評価してもらえるようなクオリティーを求めていきたいです。

 台湾でも中国語を武器に、台湾人の俳優と張り合いたいと思ってきました。日本人という特権を抜きにして、自分を起用してほしいと思ってきました。

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監督を夢に「仕事の挫折は仕事で補う」
 ──後悔したくないということですが、具体的な目標を定めていますか。

 はい。台湾に移住する前に、2つ目標を定めました。まずは「劇場公開される映画で主演すること」。さらに「監督をすること」。「父の子守唄」で1つ目は果たしました。もう1つはこれからです。ここまでしがみついてきたので、あきらめたくない。感覚的にはあと一歩のところまで来ている気がします。今まで話も聞いてくれなかった人が、「あなたを、想う。」の受賞で話を聞いてくれるようになりましたから。

 ──個人的に好きな作品、監督は。

 リアルな映画。ケン・ローチや陸川(ルー・チュアン)。物語の起伏が少なく、物足りないかもしれないけれど憧れます。人生を隠し撮りしているような感覚がいいですね。

 ──日本人として中国語を習得し、台湾人と同じ土俵で戦っています。困難にあたった時、自分をどう励ましていますか。

 まずは自分の能力を信じて、仕事の挫折は仕事で補うことにしています。仕事の借りは絶対に同じ土俵で返したい。うまくできないことはもちろんありますが、どんなに落ち込んでも向き合う時間を作ります。

 不幸せであることがモチベーションなのかもしれません。認められたら、もっと上に行こうと思えなくなるかもしれない。自分が望まない現状があって、もっといいもの書こうと思えるんです。

 ──強い精神力ですね。

 台湾に長く住んでいるからこそ、日本が美しく見えることもあります。台湾には仕事のチャンスを与えてもらい、日本ではなんでもない人間が居場所を見つけられました。脚本でも、演技でも、音楽でも、いいところがあればチャンスをもらえます。それが日本ではなかなか難しい。踏んでいくステップが台湾はショートカットで、上がいいといえば下が動きます。結果が出せなければだめだけれど、あきらめもつきます。台湾に救われたなあ、と思いますね。

(文・写真 遠海安)

「バオバオ フツウの家族(原題・親愛的卵男日記)」(2018年、台湾)

監督:シエ・グアンチェン(謝光誠)
出演:エミー・レイズ(雷艾美)、クー・ファンルー(柯奐如)、蔭山征彦、ツァイ・リーユン(蔡力允)

2019年9月28日(土)、新宿K's cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://baobao.onlyhearts.co.jp/

作品写真:(C)Darren Culture & Creativity Co.,Ltd.
posted by 映画の森 at 11:00 | Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする