2017年08月10日

「きっと、いい日が待っている」デンマーク発 施設の児童虐待、未来ひらく兄弟の絆

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 1967年、コペンハーゲン。労働者階級の家に生まれた兄弟、13歳のエリック(アルバト・ルズベク・リンハート)と10歳のエルマー(ハーラル・カイサー・ヘアマン)は、病気の母親と引き離され、男児向け養護施設に預けられる。施設ではしつけ名目の体罰が横行していた。エリックたちは環境になじめず、上級生のいじめの標的されてしまう──。

 「きっと、いい日が待っている」は、コペンハーゲンの養護施設で起きた実話をもとにしている。子どもに対する暴力、薬物投与が明るみに出て、2000年代半ばに報告書がまとめられた。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(00)のラース・フォン・トリアー監督が率いる製作会社の俊英、イェスパ・W・ネルスンがメガホンを取った。

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 エリックとエルマーの兄弟が車に乗せられ、人里離れた施設へ送られる。物悲しい幕開けだ。かつて兄弟は元気いっぱいだった。天体望遠鏡を万引きした兄弟は店員に追われ、母親は呼び出されて責められる。宇宙飛行士になりたい天真爛漫なエルマーは、貧しさで手に入らない望遠鏡がほしかったのだ。しかし、シングルマザーの母が入院。兄弟は養護施設に入れられる。

 施設の生活は地獄だった。しつけ名目の教師の体罰、上級生のいじめ、過酷な労働。小児性愛嗜好の教師の毒牙。施設を支配していたのは、独裁的な校長(ラース・ミケルセン)だった。施設の仲間は兄弟に、気配を消して「幽霊になれ」と助言する。外界との接触を絶たれ、独自のきまりで運営される施設。

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 そこへ、新しく女性教師ハマーショイ(ソフィー・グローベル)が赴任してきた。傷の絶えない兄弟を親身になって手当てし「言いつけを守れば、最後は報われる」と諭す。文章が読めるエルマーに郵便係の仕事を与え、重労働から解放する。兄弟は「クリスマスは一緒に過ごせる」という母の言葉を信じ、つらい生活に耐える──。

 1960年代、閉ざされた施設に横行する児童虐待を、真正面から告発する。校長役ラース・ミケルセンの迫真の演技に凍り付く。兄弟の母的な立場となるハマーショイ先生の母性、エルマーが抱く宇宙への憧れが癒やしとなる。子役2人の演技が素晴らしく、幕引きにも救われる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「きっと、いい日が待っている」(2016年、デンマーク)

監督:イェスパ・W・ネルスン
出演:ラース・ミケルセン、ソフィー・グロベル、アルバト・ルズベク・リンハート、ハーラル・カイサー・ヘアマン

2017年8月5日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.kittoiihigamatteiru.ayapro.ne.jp/

作品写真:(C)2016 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa International Sweden AB.

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2015年06月25日

「悪党に粛清を」デンマーク発本格西部劇 ガンマンの怒りと悲しみ ミケルセン、哀愁満たせ

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 1870年代、米国西部。デンマークから移住し、生活の基盤を築いたジョンは、故国に残してきた妻子を呼び寄せる。ところが家に向かう馬車の中で、暴漢に遭遇。ジョンは馬車から突き落とされる。必死で後を追うが、時すでに遅し。妻は乱暴されて惨殺され、息子も命を奪われていた。激怒したジョンは、その場で容赦なく暴漢を射殺する。

 7年ぶりに家族と再会し、これから新生活を始めようという矢先に起きた惨劇。かたきは討ったが、悲しみは癒えない。そんなジョンにさらなる試練が降りかかる。実はジョンが殺した暴漢は、町を牛耳る用心棒デラルー大佐の弟だった。復讐心に駆られたデラルー大佐は、手下を率いてジョンに襲いかかる。ジョンは一人で立ち向かう──。

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 母国では軍人だったジョン。冒頭に披露されるように、銃の腕前は一級だ。戦術にも長けている。多勢に無勢の圧倒的に不利な状況から、彼がどのように戦いを挑んでいくかが見ものである。

 ジョンに扮するのは、デンマークを代表する俳優で、ハリウッドでも活躍するマッツ・ミケルセン。怒りと悲しみをぐっと胸に押し込め、無法の輩と対決する孤独なガンマンを、男の哀愁たっぷりに演じている。

 ジョンが殺した暴漢の妻で、先住民に舌を抜かれ話せなくなった女性マデリンを演じているのは、「007 カジノ・ロワイヤル」(06)でもミケルセンと共演したエヴァ・グリーン。クライマックスで決定的な役割を果たすキーパーソンとして、大きな存在感を放っている。

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 善良な主人公と悪辣な用心棒。正反対の二人が、ともに身内を殺された怒りに燃えて、死闘を繰り広げる――。西部劇ではおなじみの筋立てかもしれない。だが、無駄な説明を省き、感情描写とアクション演出に徹したスタイルは新鮮だ。西部劇というジャンルを斬新なセンスで蘇らせた。デンマーク発にも驚かされる。

(文・沢宮亘理)

「悪党に粛清を」(2014年、デンマーク・英国・南アフリカ)

監督:クリスチャン・レヴリング
出演:マッツ・ミケルセン、エヴァ・グリーン、ジェフリー・ディーン・モーガン

2015年6月27日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://akutou-shukusei.com/

作品写真:(c)2014 Zentropa Entertainments33 ApS, Denmark, Black Creek Films Limited, United Kingdom & Spier Productions (PTY), Limited, South Africa
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2014年01月24日

「オンリー・ゴッド」 ゴズリング×レフン監督 バンコクの闇 暴力の連鎖 衝撃の復讐劇

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 カンヌ国際映画祭で監督賞を獲得した「ドライヴ」(11)のニコラス・ウィンディング・レフン監督とライアン・ゴズリングが、再びタッグ組んだ復讐劇「オンリー・ゴッド」。舞台はタイの首都バンコク。デンマーク、フランス合作にもかかわらず、タイトル、キャスト、スタッフはすべてタイ文字で表示され、異色の雰囲気漂う作品だ。

 バンコクでボクシング・クラブを経営するジュリアン(ライアン・ゴズリング)。兄のビリーが売春婦を殺したことで、負の連鎖が始まった。売春婦の父親がビリーを惨殺する。そこへ元警官のチャン(ヴィタヤ・パンスリンガム)が現れ、「神の代わりの裁きだ」と父親の右手首を切り落とす。父親は娘に売春させ、復讐で人殺しまでしたからだ。

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 一方、ジュリアンは兄を殺した相手に報復するため、売春婦の父親の居場所を突き止める。さらに溺愛するビリーの死を知り、兄弟の母クリスタル(クリスティン・スコット・トーマス)が米国からタイへ来る。ビリー殺害現場にチャンがいたことを突き止め、自ら刺客を雇って報復を狙う。

 「ドライヴ」の成功で注目されたデンマーク出身のレフン監督。台詞は少なく、スローモーションを多用したクールな語り口。限界を越えた凄惨な暴力描写。最初は個々の対立だったが、クリスタルの登場でチャンや警察を巻き込む壮絶な弔い合戦に発展する。

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 犯罪映画の一つの完成形だった「ドライヴ」から、さらなる進化が確認できる。赤と青が基調の照明、完璧なカメラアングル。イメージショットのようなスロー映像と効果音。観客の脳に映像を焼き付ける。静と動を巧みに使い分けた演出は「2001年宇宙の旅」(68)のスタンリー・キューブリック監督、「ブルーベルベット」(86)のデビッド・リンチ監督に通じる斬新な手法。ホラー映画的でもある。

 特に異彩を放つのがチャンだ。自らを「神の使い」と信じ、罪を犯した者に容赦なく制裁を与える。暴力で人を支配する男だが、突然クラブのステージに立ち、部下の前で歌を披露する。シュールなシーンと対比される暴力描写。そんなチャンと敵対するクリスタル。文芸作品が得意なクリスティン・スコット・トーマスが、復讐にとりつかれた下品な女を好演する。

 ギリシャ神話を思わせる報復劇。自分を神の使いと信じて暴力で支配するチャンの世界に、ジュリアンが放り込まれ、さまよい続ける物語だ。極限まで台詞を削り、独創的な映像美で想像力を刺激。作品世界を俯瞰で見るような、一歩引いた演出に圧倒される。レフン監督とゴズリング、新たなる衝撃作である。

(文・藤枝正稔)

「オンリー・ゴッド」(2013年、デンマーク・フランス)

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:ライアン・ゴズリング、クリスティン・スコット・トーマス、ビタヤ・パンスリンガム、ラター・ポーガーム、ゴードン・ブラウン

2014年1月25日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://onlygod-movie.com/

作品写真:(C)2012 : Space Rocket Nation, Gaumont & Wild Bunch

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2013年03月14日

「偽りなき者」 “子供はうそをつかない” 盲信が招く冤罪の恐怖

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 幼い恋心からだろう。少女クララ(アニカ・ヴィタコプ)が、中年男性ルーカス(マッツ・ミケルセン)の口にキスをし、ハート型のプレゼントを手渡した。ルーカスは幼稚園の教諭、クララは園児である。良識ある大人として、ルーカスはクララの行為をたしなめた。拒絶され、傷ついたクララは仕返しをする。園長のグレテに「ルーカスからわいせつ行為を受けた」と告げ口したのだ。でまかせだった。しかし、根も葉もない噂は、瞬く間に小さな町を駆け巡る。ルーカスは職を失い、友を失い、人間としての尊厳も奪われていく――。

 昨日まで親しく交わっていた隣人たちが、一斉に遠ざかり、ルーカスを白眼視するようになる。誰もルーカスの弁明に耳を傾けない。ルーカスの親友でクララの父親でもあるテオも例外ではない。スーパーで買い物しようとしても、店員は商品を売ってくれない。まさに村八分である。「純真な子供がうそをつくわけがない」。人々の盲信が、無実のルーカスを犯罪者に仕立ててしまう。

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 この映画を見ていて、1本の米国映画を思い出した。ウイリアム・ワイラー監督の「噂の二人」(61)である。同じように、子供のふりまいた噂が大人を追い詰める話だった。女学校を経営する女性2人が、女子生徒に“レズビアン”だとささやかれ、1人は自殺に追い込まれてしまう。うわさをふりまく少女がいかにもふてぶてしく憎らしかった。

 その点クララはまったく違う。笑顔のかわいい、いたいけな少女だ。それが大好きな相手にそっけなくされた悔しさと怒りで、復讐心をたぎらせ、思わずうそをついてしまうのである。クララにしてみれば、ちょっとした嫌がらせのつもりが、思いがけなく大ごとになり、ルーカスを窮地に追い込んでいく。当惑し、動揺するクララ。しかし、今さらうそとも言いにくい。子供だが感情の動きは大人の女性と変わらない。そのあたりの心理描写がリアルで生々しい。

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 迫害に耐えながら、冤罪を晴らすため必死に戦うルーカスの姿が本作のメーンではある。しかし一方で、クララの動向も重要な見どころだ。本作でカンヌ国際映画祭主演男優賞を獲得したミケルセンに引けを取らず、クララを演じたヴィタコプの名演が素晴らしい。

 終盤、ルーカスは以前の平穏な生活を取り戻すかに見える。だがラストに思いがけない“一撃”が待っている。トマス・ヴィンターベア監督の冷徹な観察眼が光る、人間ドラマの傑作だ。

(文・沢宮亘理)

「偽りなき者」(2012年、デンマーク)

監督:トマス・ヴィンターベア
出演:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、アニカ・ヴィタコプ、ラセ・フォーゲルストラム

3月16日、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://itsuwarinaki-movie.com/

作品写真:(c)2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.
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2013年01月20日

「アルマジロ」 人はいかに「戦争中毒」になるか アフガン最前線、若き兵士たちの変貌

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 人はいかにして「戦争中毒」になるか。

 デンマークのドキュメンタリー映画「アルマジロ」は、アフガニスタン最前線基地を舞台に、ごく普通の若き志願兵が暴力と殺りくに麻痺していく過程を追う。

 2009年。デンマークの空港で、アフガンへ派遣される新兵が家族や恋人と抱き合い、別れを惜しんでいる。まだあどけなさの残る一人が志願の理由を話す。「多くのことを学べる。大きな挑戦で、冒険でもあるよ」

 派兵先はアフガン南部の最前線基地「アルマジロ」。デンマーク部隊は英軍とともに、国際治安支援国(ISAF)として治安維持のため駐留していた。すぐ先までタリバンが迫り、いつ戦闘が起きてもおかしくない危険地域。しかし、周辺は一見のどかな農村地帯だ。着いてしばらくは退屈だった。日がな一日パトロール。兵士の一人はこぼす。「つまらない。撃ち合いがあれば違うのかな。早くジェットコースターに乗りたいよ」

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 撃ち合いは突然起きた。目に見えないタリバンの攻撃に、デンマーク兵はパニックになる。運び込まれる負傷兵。流れる血と飛び交う怒声。撃たれた兵士の目は見開かれ、瞳に恐怖が満ちている。戦闘が長引き、激化するにつれ、若い兵士の間に恐怖が充満する。

 しかし最も恐ろしいのは、兵士が死におびえるのと裏腹に、言葉はより過激になることだ。彼らは言う。「アフガンはすさんでいる。まともじゃない。部外者は俺たちをただの人殺しというだろうが、俺は正しいことをやった」「あいつら(タリバン)をガンガン殺しても、もう罪の意識とか感じないかもしれない。野良犬を殺したほうが罪悪感を覚えそうだ」

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 自らカメラをかついで前線を走り、遺書も書き置き撮影に臨んだヤヌス・メッツ監督。「実戦を経た兵士が戦場へ戻りたがる。まるで中毒だ。彼らはなぜ戦争へ行きたがるのか」。監督が戦場で見た姿はまるで“オオカミの群れ”だったという。

 「兵士たちは残虐行為の隠ぺいでも、背中合わせになって互いを守り合う。質問や疑念は押さえつけられ、軍を脅かす者は変り者とみられ、沈黙を強いられる。戦争とは、若者の内面に恐怖と興奮、黒い悪魔を呼び込むグレーゾーンだ」

 「アルマジロ」は戦争の現実を描くと同時に、人間のもろさを突き付ける。彼らは自分で人生を選択したと強調するが、大きな力で戦争中毒に「させられている」。挑戦や冒険と引き替えに、彼らが手放したものは何か。「戦争」の二文字がきなくさく飛び交う今、私たちの目をふさぐものは、いったい何だろうか。

(文・遠海安)

「アルマジロ」(2010年、デンマーク)

監督:ヤヌス・メッツ

1月19日、渋谷アップリンク、新宿K's cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/armadillo/
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