2019年03月05日

「ウトヤ島、7月22日」史上最悪のノルウェー無差別テロ、ワンカット撮影でリアルに

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 2011年7月22日午後5時過ぎ、ノルウェーのウトヤ島。首都オスロから北西40キロに位置する島で、毎年恒例の労働党青年部のサマーキャンプが催されていた。大勢の若者たちが心から楽しんでいたが、「オスロの政府庁舎で爆破事件が発生した」との知らせが届き、かすかな動揺が広がる。少女カヤ(アンドレア・バーンツェン)は、電話口で不安げな母親に「ここはウトヤ島よ。世界一安全だから心配ないわ」と言い聞かせた──。

 2011年、ウトヤ島で実際に発生した無差別銃乱射事件が題材。事件発生から終息まで費やした時間と同じ、72分間をワンカットで描く。監督は歴史ドラマ「ヒトラーに屈しなかった国王」(16)のエリック・ポッペ。

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 事件発生の2時間ほど前、オスロ政府庁舎前の爆破テロが起きた。テロの映像が流れた後、カメラはウトヤ島へ移り物語が始まる。妹エミリアとキャンプに参加したカヤは、オスロの事件に不安を感じながら、島は安全と思い、仲間と夕食前のひと時を過ごしていた。しかし、平和な時間は一発の銃声で崩れ、島の若者たちはパニックに陥り、生き延びるためのサバイバルが始まる。

 カメラはカヤに張り付き、一緒に走り、隠れるため地面に這いつくばる。カヤの周辺をとらえた映像と、現場に逃げ込んできた人の証言だけが情報源。犯人の姿も遠くに映っているだけで、いったい何が起きているのか分からない。

 遠くにひたすら銃声が鳴り響く中、カヤは妹を探すために仲間と離れ、危険を顧みず一人で島を探し回る。道中は悪夢としか言いようがない。犯人に撃たれて瀕死の少女を助けようと声をかけるが、目の前で絶命してしまう。ショックを受けるカヤの背後に、容赦ない銃声が聞こえてくる。

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 オスロの政府庁舎爆破では8人、島の銃乱射では69人、計77人が犠牲になった。単独犯による史上最悪のテロだが、日本人にはよく知られていない。説明的な描写が一切ないため、事件を知らない観客には理解が難しいかもしれない。

 しかし、事件とまったく同じ72分間を、編集しないワンカットで撮影し、音楽も使わず、いわゆる映画的な手法を排除することで、被害者と同じ言い知れぬ恐怖、不安、絶望感を味わわせる。カヤは命を救えず罪悪感にさいなまれるが、運命の不条理による残酷な結末が待っている。テロの悪夢、恐怖をリアルに描いた衝撃作だ。

(文・藤枝正稔)

「ウトヤ島、7月22日」(2018年、ノルウェー)

監督:エリック・ポッペ
出演:アンドレア・バーンツェン、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン、ジェニ・スベネビク、アレクサンデル・ホルメン、インゲボルグ・エネス

2019年3月8日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://utoya-0722.com/

作品写真: (C) 2018 Paradox

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2016年09月29日

「イエスタデイ」ビートルズに憧れて ノルウェーの少年たち、ひと夏の経験と成長

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 ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ペースメイカーズ、キンクス、クリーム……。ロック好きの高校生4人が、それぞれ知っているバンドの名を口にしながら、次々とプールに飛び込んでいく。1967年夏、ノルウェーのオスロ。若々しいエネルギーがほとばしり、ロックへの愛がはじける。印象的なオープニング・シーンである。 

 4人はビートルズに心酔し、ビートルズと同じ楽器編成のバンドを組んでいる。ベースのキム、リードギターのセブ、ドラムスのオラ、リズムギターのグンナー。全員がビートルズのメンバーを意識し、「いつか彼らのように有名になりたい」と夢見ている。

 「イエスタデイ」は、そんな4人の高校生たちが、バンド活動に励みつつ、各々が刺激的なひと夏を過ごし、大人への一歩を踏み出す姿を描いた青春映画だ。

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 船乗りの父親からビートルズの最新LPを買ってもらえる特権的立場を享受する一方、両親の離婚問題に心を悩ますセブ。子供っぽくドラムも下手くそだが、知らないうちにちゃっかりガールフレンドを作っているオラ。グループでは一番大人びており、アルバイトを通して親しくなった人妻と危険な関係に陥ってしまうグンナー。

 最もエキサイティングな夏を経験したのはキムだ。映画館で隣り合わせた見知らぬ少女に手を握られ、さらには唇まで奪われるという、夢のような出来事に遭遇したのだ。しかも、少女は呆然と立ち尽くすキムを置き去りにしたまま、何も言わずに姿を消してしまう。その日から、キムは少女のことが頭から離れなくなる。

 さらにもう一人、別の少女が現れる。セシリアという名の転校生。ツンとすましたブルジョアの子だが、校外学習で彼女のピンチを救ったことで、キムに急接近してくる。“幻の少女”を忘れられぬまま、セシリアとデートするようになるキム。しかし、やがてセシリアに秘密がバレてしまい――。

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 大人から見れば微笑ましい恋のエピソードかも。だが、思春期真っ盛りの高校生にとっては、人生の一大事。少女の気まぐれやジェラシーに翻弄され、悩み、苦しみながら、必死に愛をつかみ取ろうともがく姿が、初々しく、愛おしい。そして、そんなキムを精神的に支え、励ますのが、ビートルズの音楽であり、バンドの仲間たち。オーソドックスな筋立ても潔く、清々しい。

 ベトナム反戦運動など60年代の雰囲気もしっかり描き込まれ、ビートルズを知らない世代でも、あの時代特有の熱気と興奮を味わえる作品だ。

(文・沢宮亘理)

「イエスタデイ」(2014年、ノルウェー)

監督:ペーテル・フリント
出演:ルイス・ウィリアムズ、ホーヴァール・ジャクウィッツ、オレ・ニコライ・ヨルゲンセン、ハルヴォー・シュルツ、スサン・ブーシェ、エッマ・ウェーゲ

2016年10月1日(土)、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://yesterday-movie.com/

作品写真:(c)2014 Storm Rosenberg. All rights reserved. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan Distributed by MAXAM INC. 
タグ:レビュー
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2016年04月13日

「ハロルドが笑う その日まで」憎きイケア打倒へ 不器用な家具店主の復讐劇

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 青と黄色の「IKEA(イケア)」の文字。スウェーデン大手家具チェーンの巨大なロゴを、老いた男が見つめている。「イケアにすべてを奪われた」。追い詰められた男の不器用な復讐が始まった──。

 ノルウェー南西部の町、オサネ。小さな家具店を営むハロルド・ルンデ(ビョルン・スンクェスト)は、昔気質の家具職人だ。妻マルニィ(グレテ・セリウス)と静かに暮らしていたが、ある日を境に生活は急変した。

 イケアが町にやって来たのだ。なんと「北欧最大店舗」をハロルドの店のすぐ隣にオープン。ハロルドは店を閉めざるを得なくなり、ショックからか記憶が不安定になった妻は、やがて息を引き取ってしまう。

 愛する人も生き甲斐も失ったハロルドは、人気のない夜の店舗で灯油をまき、火をつけた。燃えさかる炎越しに見えるイケアの黄色いロゴ。次の瞬間、ハロルドはすべてを奪った男を思い出す。イケアの創業者、イングヴァル・カンプラード(ビヨルン・グラナート)を。

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 「カンプラードを誘拐する」。唐突に思いついたハロルドは、疎遠だった一人息子のヤン(ヴィダル・マグヌッセン)の家を訪れる。地下室からピストルを持ち出し、一路隣国のスウェーデンへ。

 スウェーデンに入り、孤独な少女エバ(ファンニ・ケッテル)に出会ったハロルド。エバは突飛な誘拐計画にそそられ参加を申し出る。ところが、エバと母親の間にごたごたが発生。ハロルドも巻き込まれ、計画は一向に進まない。

 なんとも心もとない「誘拐犯の卵」二人は、雪の降りしきる晩、通りで老人に助けを求められる。車の故障らしい。手を貸した後に顔を見ると、老人は二人が追うカンプラードその人だった──。 

 遠く地球の反対側から、日本にも進出しているイケア。シンプルなデザインや安さにひかれて買った人も多いだろう。世界展開する経営手法は、大量生産、薄利多売の典型だ。一方、ハロルドが作る家具は正反対。値段は高いが一つ一つ丁寧に作られている。

 そもそも人はどう家具を選ぶのか。機能性、デザイン、価格。理由はさまざまだ。「ハロルドが笑う その日まで」は、ハロルドとカンプラードを対比させて描くが、どちらが善でどちらが悪か、決めるつけるのは難しい。

 その証拠に、ハロルドはカンプラードと話すうち、自分との共通点すら感じるのだ。正反対の生き方、製品のはずなのに──そんな人生の皮肉が、絶妙なユーモアやジョークとともに語られる。ハロルドがノルウェーから“敵地”スウェーデンへ向かう時、乗っているのはスウェーデン車のサーブである。思わずにやりとしてしまう。

 職人としては器用だが、人生を不器用に過ごしてきたハロルド。復讐の旅が終わるころ、その不器用さに癒され、観た人はきっと明日が楽しみになっているに違いない。

(文・魚躬圭裕)

「ハロルドが笑う その日まで」(2014年、ノルウェー)

監督:グンナル・ヴィケネ
出演:ビョルン・スンクェスト、ファンニ・ケッテル、ビヨルン・グラナート、グレテ・セリウス、ヴィダル・マグヌッセン、ヴェスレモイ・モークリッド

2016年4月16日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://harold.jp/

作品写真:(C) 2014 MER FILM AS ALL rights reserved

タグ:レビュー
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2013年12月05日

「リヴ&イングマール ある愛の風景」 北欧の名監督と名女優 愛、友情の40年を追憶 

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 スウェーデンを代表する映画監督、イングマール・ベルイマン。ノルウェー生まれの名女優、リヴ・ウルマン。二人は「仮面/ペルソナ」(66)の撮影で出会い、たちまち恋に落ちる。ベルイマン46歳、ウルマン25歳。ともに既婚者。不倫の恋だった。ウルマンは家庭を捨て、ベルイマンと暮らし始める。

 しかし、蜜月は長く続かなかった。ウルマンはベルイマンの束縛と嫉妬に悩まされ、ベルイマンはウルマンのいら立ちと怒りに苦しめられた。結局、同居は5年で終わる。しかしその後、二人は親友として関係を復活させる。親密な関係は、2007年にベルイマンが亡くなるまで続いた。

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 「リヴ&イングマール ある愛の風景」は、二人の40年以上に及ぶ愛と友情の軌跡を追ったドキュメンタリーである。ウルマンの回想を中心に、ベルイマンの手紙、二人が生んだ作品、撮影風景などが、その時々の関係やウルマンの心境を実証していく。

 インタビューでのウルマンの語りと、合間に挿入される作品映像が、見事に呼応していることに驚く。スウェーデンのフォール島で同居していた時期、二人は「狼の時刻」(68)や「恥」(同)を撮っている。当時のウルマンの精神状態そのものが、作品に投影されている。

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 インタビューに応えるウルマンが美しい。間もなく75歳。少女のように愛らしい笑顔は、幸福な人生をうかがわせる。ベルイマンとの恋愛には苦しみもあったが、思い出に昇華されているのかもしれない。

 ベルイマンは「君は僕のストラディバリウスだ」と言ったという。「心から誇りに思う」と語るウルマン。女性として愛されると同時に、女優として必要とされたことがうれしかったのだろう。

 インタビューは二人がかつて暮らしたフォール島、ベルイマン宅で行われた。そこでウルマンは思いがけないものを発見する。遺品のぬいぐるみ。中に入っていたのは――。固い絆を物語るラストシーンに胸が熱くなる。

(文・沢宮亘理)

「リヴ&イングマール ある愛の風景」(2011年、ノルウェー・スウェーデン・イギリス・チェコ・インド)

監督:ディーラージ・アコルカール
出演:リヴ・ウルマン、イングマール・ベルイマン 

2013年12月7日、ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://livingmar.com/

作品写真:(c)NORDIC STORIES 2012
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2008年11月12日

「ホルテンさんのはじめての冒険」 困り顔に 心ほっこり

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 かわいらしい邦題がついているが、注意されたい。初めての冒険をする主人公・ホルテンさんは、子供ではなく、67歳。定年退職を明日に控えたノルウェー鉄道の運転士だ。「キッチン・ストーリー」(03)のベント・ハーメル監督が、彼らしい北欧ユーモアを交えて語る、心温まる物語。

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