2017年05月23日

「光をくれた人」絶海の孤島に流れ着いた赤ん坊 わが子として育てる夫婦の葛藤と愛

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 離れ小島に流れ着いた赤ん坊を、わが子として育てる夫婦の愛と葛藤を描く「光をくれた人」。オーストラリアの作家M・L・ステッドマンの原作小説を、「ブルーバレンタイン」(10)のデレク・シアンフランス監督が映画化した。
 
 第一次世界大戦終結後の1918年。戦争で英雄になったものの、心に深い傷を負ったトム(マイケル・ファスベンダー)は孤独を求め、オーストラリア本土から160キロ離れたヤヌス島で灯台守になった。契約を交わすため一時戻った本土で、美しい娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)に会う。ひかれ合った2人は結婚し、島で暮らし始める。島へ来る船の定期便は3カ月に1度、本土に戻れるのは3年に1度だけだ。

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 ところが、夫婦に思わぬ試練が訪れる。イザベルが2度流産したのだ。失意に打ちひしがれるイザベルを、見守ることしかできないトム。そんな時、島にボートが流れ着く。中を見ると男性の遺体のそばに、泣き叫ぶ女の赤ん坊がいった。イザベルは「自分たちの子どもとして育てたい」と懇願。トムは本土にうそのモールス信号を打ち、男性の遺体を土に埋めてしまった。

 2年後。「ルーシー」と名付けられた赤ん坊は、トムとイザベルの愛情を一身に受けて育っていた。初めての洗礼式のため本土を訪れたトムは、教会の墓でむせび泣く女性ハナ(レイチェル・ワイズ)を見る。女性は「ボートで行方不明になった夫と娘の墓だ」と話した。ハナの身の上話を聞き、トムの心は揺れる。そしてハナに向けて匿名の手紙を出す──。

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 子どもに恵まれなかったトムとイザベル。思いがけず赤ん坊に出会い、育てながら葛藤する。背景には戦争で傷ついた心の痛みが見える。トムは灯台守として船に光を送り、海上の航路を照らす。しかし、灯台の真下で暮らす自分と妻に、神は幸せの光を与えてくれない。やがて「2人の母」は苦しみ、幼い娘は間にはさまれ困惑する。

 ファスベンター、ヴィキャンデル、ワイズの繊細な演技と、ミステリーのように作り込まれた物語。丁寧な演出が見る者の心を揺さぶる作品となった。

(文・藤枝正稔)

「光をくれた人」(2016年、米・豪・ニュージランド)

監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ、ブライアン・ブラウン、ジャック・トンプソン

2017年5月26日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hikariwokuretahito.com/

作品写真:(C)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC
タグ:レビュー
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2017年04月07日

「LION ライオン 25年目のただいま」迷子になった少年 故郷インドへの長い道

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 サルー・ブライアリーが体験した実話を映画化した「LION ライオン 25年目のただいま」。インドで迷子になった少年が、25年後に電子地図サービス「グーグル・アース」を使い、故郷を探し出す物語だ。監督はオーストラリア出身のガース・デイビス。長編デビュー作となる。

 1986年、インド。5歳のサルー(サニー・パワール)は、母と兄弟4人で暮らしていた。兄の仕事へついて行ったある日、回送列車の中で眠ってしまう。着いた先は大都市コルカタ。言葉も通じぬ見知らぬ町へ放り出され、サルーのサバイバル生活が始まった。

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 町で優しい女性に拾われ、食事と風呂を世話してもらったサルー。翌朝、自分に目をつける男の存在を察知し、再び逃げ出して放浪する。やがて警察に保護され、孤児院に入れられた。子どものいない裕福なオーストラリア人夫妻と養子縁組が成立。「サルー・ブライアリー」としての新しい人生が始まった。

 08年、サルー(デブ・パテル)はオーストラリア南部のタスマニアで暮らす養父母のもとを離れ、メルボルンの学校でホテル経営を学んでいた。友人のルーシー(ルーニー・マーラ)と訪れたホームパーティーで、インドの揚げ菓子を見た瞬間、故郷の記憶が蘇った。生い立ちを話すサルーに、友人の1人が「グーグル・アースなら地球のどこでも行ける」と話す。

 母の名も、住んでいた町の場所も忘れてしまったサルー。「列車に乗った駅の近くに給水塔があった」記憶だけを頼りに、グーグル・アースを使った故郷探しの旅が始まった──。

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 サルーの数奇な半生は、インドとオーストラリアの2部構成で語られる。貧しい家族とはぐれ、過酷な放浪生活を送ったインドの日々。町をさまよう中、人身売買や児童買春を匂わせる描写もあり、かなり危険な状況をかいくぐったことが伺える。長じてオーストラリアに暮らすサルーは、故郷の家族を思う気持ちが高まり、とりつかれたようにルーツを探し求める。

 子ども時代を演じたパワールの生命力あふれる演技、大人になったサルー役のパテルが見せる揺れる心。実話だけに終着点は想像できるが、細かなエピソードが積み重ねられ、演出は丁寧だ。脇に徹したニコール・キッドマンが重要な役で支え、見ごたえのある作品になった。

(文・藤枝正稔)

「LION ライオン 25年目のただいま」(2016年、オーストラリア)

監督:ガース・デイビス
出演:デブ・パテル、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマン、デビッド・ウェンハム、サニー・パワール

2017年4月7日(金)、TOHO シネマズみゆき座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/lion/

作品写真:(C)2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia

タグ:レビュー
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2015年07月17日

「奇跡の2000マイル」女性一人、砂漠を行く ワシコウスカ熱演

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 1975年、オーストラリア中部の田舎町、アリス・スプリングス。都会での生活に空しさを感じたロビン・デヴィッドソンは、ある目的を持ってこの町にやってくる。「砂漠2000マイル(約3000キロ)を、たった一人で踏破する」無謀な冒険への挑戦だった――。

 デヴィッドソン自身の手になる回顧録「TRACKS」の映画化である。主人公のロビンが、旅に必要なラクダや資金を得るために、牧場や農家で働く序盤。彼女の撮影係を務めるカメラマンと定期的に合流し、案内役のアボリジニ(先住民)が同行する中盤。インド洋に面した西海岸を目指し、いよいよ一人きりで旅をする終盤。準備から決行、そして結末まで時系列に沿ってストーリーが進む。

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 嵐で荷物が吹き飛ばされる。ラクダが逃走してしまう。磁石を落としてしまう。物語が進行する中で、さまざまなトラブルや事件が起こる。ロビンはそれらを克服しながら、人間として成長していく。そのプロセスが、いくつもの印象的なエピソードとともに描かれる。

 もちろん、悪いことばかりではない。たとえば、最初はうっとうしく思ったカメラマンのリックとの関係。ロビンとリックとの距離が徐々に縮まっていく経緯は興味深く、本作の見どころの一つとなっている。

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 ロビンに扮するのは、「イノセント・ガーデン」(13)などで注目された若手の実力派ミア・ワシコウスカ。7カ月の旅でロビンが経験する孤独、不安、恐れ、悲しみ、喜び、絶望、希望……ありとあらゆる感情を、繊細かつリアルに表現してのけるワシコウスカの演技は、観客の目を釘付けにするだろう。

 朝、昼、夜と多彩に表情を変える砂漠の光景。フィルムで撮影された映像の美しさに、思わず息をのむ。砂漠を背景に愛犬とラクダ4頭を引き連れさすらうロビンの姿も、まるで絵画のようである。ワシコウスカの熱演とともに、卓越した映像美も堪能してほしい。

(文・沢宮亘理)

「奇跡の2000マイル」(2013年、オーストラリア)

監督:ジョン・カラン
出演:ミア・ワシコウスカ、アダム・ドライバー
2015年7月18日(土)、有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.kisekino2000mile.com

作品写真:(c)2013 SEE-SAW (TRACKS) HOLDINGS PTY LIMITED, A.P. FACILITIES PTY LIMITED, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, SCREEN NSW AND ADELAIDE FILM FESTIVAL
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2014年06月02日

「美しい絵の崩壊」 楽園に育まれる 親子二組の禁断の愛

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 オーストラリア東海岸、美しい入江の町。40代のロズ(ロビン・ライト)とリル(ナオミ・ワッツ)は幼なじみ。それぞれ息子のトム(ジェームズ・フレッシュビル)、イアン(ゼイビア・サミュエル)と暮らしていた。母親同士は姉妹、息子同士は兄弟のように、友人を超えた絆があった。

 幼いころに父を亡くしたイアンは、ロズを家族のように慕っているが、思慕は次第に恋心へ変わっていく。一方、ロズの夫はシドニーに大学講師の職を得て、家族に転居を提案する。海辺の町を愛し、地元で仕事も続けるロズは迷い、同意できずにいた。

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 ある夜、酒に酔ったトムに付き添ったイアンは、ロズへの気持ちを抑えきれず、二人は一夜を共にする。目が覚めたトムは、母とイアンの間に起きたことを知り、ショックを受けた勢いでリルに迫る。リルもトムを受け入れ、母二人は互いの息子と関係を持つことになる。

 世間的に許されぬと知りながら、4人は関係を解消することができない。ロズは夫の提案を拒み、一人海辺の町に残る決意をする。2年後。夫妻は離婚し、トムは父についてシドニーで働き始めた。リルへの思いも薄れ、仕事仲間の女性と結婚を決意する。

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 一方、ロズもイアンに関係の解消を申し出る。イアンは抵抗するが、受け入れざるを得なかった。息子たちはそれぞれ伴侶を得て、新たな人生の一歩を踏み出したはずだったが──。

 姉妹のように育った母親同士が、互いの息子を愛する「美しい絵の崩壊」。ノーベル賞作家ドリス・レッシングの原作を、女性監督アンヌ・フォンテーヌが映画化した。青い海に囲まれた入り江、白い砂浜、輝く太陽。どこまでも透明な楽園を舞台に、純粋で一途な愛が育まれる。

 一つ間違えれば生々しく、陳腐に陥りかねない話を、母親役のライト、ワッツが抑えた演技でコントロールしている。理性を保ちつつ、禁断の愛にのめり込む過程が、絶妙なさじ加減で表現される。それぞれの関係は最後まで先行きが読めず、切り口を変えたサスペンスの味わいもある。

(文・遠海安)

「美しい絵の崩壊」(2013年、豪・仏)

監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ナオミ・ワッツ、ロビン・ライト、ゼイビア・サミュエル、ジェームズ・フレッシュビル、ベン・メンデルソーン

2014年5月31日(土)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://utsukushiienohokai.com/

作品写真:(c)2012 HOPSCOTCH FEATURES PTY LTD, THE GRANDMOTHERS PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SCREEN NSW, CINE-@, MON VOISIN PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 2 CINEMA.
タグ:レビュー
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2013年08月23日

「パニック・マーケット3D」 人食いザメが人間を襲う! 動物パニック王道作品

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 オーストラリアのリゾート地。ライフセーバーのジョシュ、婚約者のティナと兄のローリーは、海辺で楽しく過ごしていた。しかし、穏やかだった海に巨大人食いザメが出現。ローリーがジョシュの目の前で餌食となる。落ち込むジョシュとティナの関係には亀裂が入り、やがて別れることになる。

 1年後。ジョシュはスーパー店員となり、無気力に日々を過ごしていた。ある朝、ジョシュは買い物に来たティナと再会。直後に2人組強盗が押し入り、ティナを人質に取る。パニック状態の店内で、強盗とジョシュ、居合わせた警官トッドがにらみ合う中、突然大地震が発生。海岸沿いの町は津波に飲み込まれ、店では多くの客が命を落とし、生き残ったのはたった13人だった。そこへ海水と一緒に人食いザメが流れ込む──。

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 1970年代、人食いザメの恐怖を描いた「ジョーズ」(75)の世界的なヒットで、動物パニック映画ブームが到来した。続いて人食い熊の「グリズリー」(76)、シャチの「オルカ」(77)など、多くの亜流作品をが生まれた。やがてアナログ技術による動物パニック映画ブームは一旦終息するが、90年代にデジタル技術で復活。大蛇との戦いを描いた「アナコンダ」(97)、遺伝子操作で凶暴化したサメに襲われる「ディープブルー」(99)などが作られた。

 「パニック・マーケット3D」は、そんな動物パニック映画の王道作品。密室での人々の葛藤を描いた「ミスト」(07)にも通じる群像劇に、サメの恐怖と3Dによるアトラクション的要素を加味した。監督は豪映画界の気鋭のキンブル・レンドール、製作総指揮・脚本は「バイオハザード3」(07)のラッセル・マルケイだ。

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 スーパーの店内を舞台に、地下駐車場に閉じ込められたカップル、男性従業員の脱出劇が描かれる。海水で密閉された店には危険がいっぱい。人食いザメ、強盗犯、殺人鬼、天井からむき出しの高圧ケーブル、天井裏のカニの大群。かなり欲張りな設定で緊張感を高める。

 そこに元恋人同士のジョシュとティナ、万引きした娘と父の関係修復ドラマまで盛り込む。犬のユーモラスなガス抜き的な演出もはさみながら、緊張の糸を途切れさせない。他人を救うための自己犠牲、主人公の大活躍で迎える大団円。パニック映画のつぼを得た演出に、多くの観客が満足するだろう。

「パニック・マーケット3D」(オーストラリア・シンガポール、2012年)

(文・藤枝正稔)

監督:キンブル・レンドール
出演:ゼイビア・サミュエル、シャーニ・ビンソン、ジュリアン・マクマホン、フィービー・トンキン、マーティン・サックス

2013年8月24日、シネマート新宿ほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.panicmarket.com/

作品写真:(C)2011 Bait Holdings Pty Limited, Screen Australia, Screen Queensland Pty Limited, Media Development Authority of Singapore, Blackmagic Design Films Pte Ltd.
タグ:レビュー
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