2016年05月06日

「ヴィクトリア」全編140分ワンカット撮影 悪夢の一夜、息つかせず一気に

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 まぶしい光が交錯する独ベルリンのクラブで、激しく踊る女性ヴィクトリア(ライア・コスタ)。3カ月前にスペインから来たばかり。帰り道に路上で地元の若者4人組に声をかけられる。ドイツ語を話せず、友人もいないヴィクトリアは、しばし楽しい時間を過ごすが、4人組は危ない事情を抱えていた──。

 全編ワンカット撮影の140分、すべてベルリンでロケ撮影。ヴィクトリアが巻き込まれる悪夢の一夜を、ノンストップで映し出す。セバスチャン・シッパー監督がわずか12ページのメモを渡し、俳優は即興演技に挑んでいる。ベルリン国際映画祭で銀熊賞など3賞受賞。注目を集めた作品だ。

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 ナンパのような出会いから、犯罪に巻き込まれるヴィクトリア。簡単に心を許す展開に甘さも感じあるが、ワンカット長回しの勢いでグイグイ観客を引っ張っていく。4人組は「刑務所で世話になった人物に借りを返す」と言い、ヴィクトリアも手伝うことに。運命の歯車は徐々に狂い始める。

 中盤までは起伏がなく、まったりとした展開。その後「仕事」という名の犯罪が実行に移され、一気に悪夢の犯罪サスペンスに変わっていく。ワンカットのため片時も俳優から離れないカメラ。刻々変わる状況に合わせる柔軟な演出。若く躍動感あふれるキャスト。化学反応はプラスの方向へ転がり、観客の予想の一歩先を行くドラマが生まれた。ドイツ映画の勢いを感じさせる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ヴィクトリア」(2015年、ドイツ)

監督:セバスチャン・シッパー
出演:ライア・コスタ、フレデリック・ラウ、フランツ・ロゴフスキ、ブラック・イーイット、マックス・マウフ

2016年5月7日(土)、渋谷シアター・イメージ・フォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.victoria-movie.jp/

作品写真:(C)MONKEYBOY GMBH 2015

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2015年11月14日

「ヴィクトリア」第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門 若者たちの一夜、怒涛の140分をワンカットで

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 第28回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門で上映された1本だ。

 冒頭に映し出されるのは、ベルリンのクラブで、エネルギッシュに踊る若い女性。主人公のヴィクトリアだ。つい最近マドリードからやってきたばかりで、ドイツ語は喋れない。そんなヴィクトリアに、地元のやんちゃな若者たちが、ブロークンな英語で話しかけてくる。不良っぽくはあるが、根っからのワルでもなさそうな4人組。ヴィクトリアは、その中の一人、ゾンネと意気投合し、彼らと行動をともにすることになるが――。

 深夜のベルリンで気ままに愉快な時間を過ごすはずだったヒロインたち。だが、突然事態は急変、予想もしなかった試練が5人を襲う。全編140分、切れ目なしのワンカット。窮地に追い込まれた若者の運命を、ヴィヴィッドに映し撮った、青春映画の傑作だ。

 まずなんといっても、カメラワークの敏捷さに目を見張る。踊る、歩く、昇る、走る。若く躍動的な若者たちは、ひっきりなしに動き回る。クラブ、街頭、ビルの屋上、カフェ、車、ホテル。場所もどんどん移動する。しかし、カメラは常に彼らの間近で、一定の距離を保ち、構図もほとんど崩さず、付き従っていくのである。これを140分途切れずに続けるのだから驚きだ。

 俳優たちも大したものだ。1度でもNGを出せば撮り直し。そのプレッシャーを感じさせない、伸び伸びとした自然な演技。ほとんど即興なのではないか。彼らの反応があまりにリアルなので、見ている方としては、目の前で起きている現実の出来事に立ち会っている感覚に襲われる。

 監督のゼバスティアン・シッパーは、日本でも公開された「ギガンティック」(99)でデビュー。ハンブルクを舞台に、少女を一人交えた若者たちの一夜の行動をスタイリッシュに表現した同作は、本作とモチーフが似ており、人物構成も共通するところがあるが、スタイルはまったく違う。

 この2本の間をいったいどんな作品が埋めてきたのか。シッパー監督の15年間の歩みが知りたくてたまらない。2015年ベルリン国際映画祭で最優秀芸術貢献賞(撮影)、ドイツ映画賞で6部門を受賞。

(文・沢宮亘理)

タグ:レビュー
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2014年07月10日

「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」 天才異端児の生きざま デビッド・ギャレットが熱演

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 前代未聞の超絶技法から“悪魔のバイオリニスト”と呼ばれたニコロ・パガニーニ(1782〜1840)。女、酒、ギャンブルに明け暮れた破天荒な生きざまと、生涯でただ一人純愛を捧げたシャーロットとの関係を描く。パガニーニ役には、クラシックとロックの両分野に挑む人気バイオリニスト、デビッド・ギャレット。今回が俳優デビュー作で、製作総指揮と音楽も担当した。監督は「不滅の恋 ベートーヴェン」(94)のバーナード・ローズだ。

 1830年、イタリア。オペラの幕間にバイオリンを演奏して生計を立てていたパガニーニ。観客は演奏に見向きもせず、おしゃべりに夢中である。才能は認められず、手持ちの金も尽きていた。そこへウルバーニ(ジャレッド・ハリス)と名乗る男が現れ、「君を世紀のバイオリニストにする」と宣言する。

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 ウルバーニの計画は、斬新すぎるパガニーニの演奏に「自分の手で観客をついていかせる」ものだった。ウルバーニは「あの世で恩を返してくれ」と言い、二人は音楽史を変える奇妙な同盟関係を結ぶ。パガニーニに「悪魔に魂を売り渡した」伝説をまとわせ、英国デビューを画策したのだ──。

 伝説の偉人を崇高に描いた作品ではない。監督はパガニーニを“音楽史上初のロックスター”ととらえている。そのアプローチはエンドロールの最後に記された「ケン・ラッセルに捧ぐ」に凝縮されている。ラッセル(1927〜2011)は伝記映画を多く監督した。チャイコフスキーの「恋人たちの曲 悲愴」(70)、グスタフ・マーラーの「マーラー」(74)、フランツ・リストの「リストマニア」(75)など、演奏家を一人の人間として赤裸々に描き、カルト的な人気を持つ監督だ。

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 そんなラッセルの遺志を引き継ぎ、ローズ監督はパガニーニを非常にくせのある、天才異端児として描く。酒と女におぼれ、コンサート前日に商売道具の楽器を賭博で失う。有名になった後は女性記者が色仕掛けで近づき、行く先々に熱狂的な女性ファンが集まる。一方で「女を惑わす男」として女性権利団体の抗議デモが待ち構える。現代のロックスターと重なる姿だろう。後半は英国にパガニーニを招いた指揮者ワトソン(クリスチャン・マッケイ)の娘シャーロット(アンドレア・デック)との純愛が描かれる。

 「24のカプリース」などパガニーニの代表曲をギャレットが吹き替えなしで演奏し、作品に説得力を与えている。俳優デビュー作とは思えない堂々たる演技とカリスマ性、圧倒的な存在感だ。コアなクラシック・ファンだけでなく、映画好きに向けても情熱を注いで作られた音楽映画である。

(文・藤枝正稔)

「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」(2013年、ドイツ)

監督:バーナード・ローズ
出演:デビッド・ギャレット、ジャレッド・ハリス、アンドレア・デック、クリスチャン・マッケイ、ジョエリー・リチャードソン

2014年7月11日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://paganini-movie.com/

作品写真:(C)2013 Summerstorm Entertainment / Dor Film / Construction Film / Bayerischer Rundfunk / Arte. All rights reserved

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2014年03月27日

「バチカンで逢いましょう」 主演マリアンネ・ゼーゲブレヒト、PRで来日 ドイツ伝統菓子に舌つづみ

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 4月26日公開のドイツ映画「バチカンで逢いましょう」の主演女優マリアンネ・ゼーゲブレヒトが、新作のPRで来日し、東京・赤坂で3月25日開かれた試食イベントに登場した。映画出演時のオリジナル衣装で現れたゼーゲブレヒト。「初めて訪れた東京は、大きくて素晴らしい街。人々も礼儀正しく親切。今回で終わりというのではなく、必ずまたいつか来日したい」と語った。

 同イベントは、「バチカンで逢いましょう」の劇中で重要な役割を果たすデザート“カイザーシュマーレン”を、都内のドイツ&オーストリア料理レストランでメニュー展開するキャンペーンの一環として開催。会場となったレストランNEUES(ノイエス)の野澤孝彦シェフが腕をふるった伝統菓子にゼーゲブレヒトもご満悦。日本語で「おいしい」を連発し、会場を沸かせた。

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 「バチカンで逢いましょう」は、ローマ法王に会うため単身バチカンを訪れたヒロインが、つぶれかけたドイツ料理店をシェフとして再生させる物語。老詐欺師とのロマンスや、娘や孫娘との家族愛を通して、人生の素晴らしさをうたい上げた人間ドラマだ。

 映画「バグダッド・カフェ」(87)で日本でも知られるゼーゲブレヒト。「老人ホームに入ることをを拒否し、自由に世界に羽ばたいていく元気な女性を演じた」と語った。前向きな生き方で周囲の人々を幸せにしていくキャラクターは、「バグダッド・カフェ」さながら。イタリアの名優ジャンカルロ・ジャンニーニとの息の合った共演ぶりも見ものだ。

(文・写真 沢宮亘理)

「バチカンで逢いましょう」(2012年、ドイツ)

監督:トミー・ヴィガント
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、ジャンカルロ・ジャンニーニ

2014年4月26日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.cinematravellers.com/
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2013年10月25日

「ハンナ・アーレント」 ナチス逃亡犯は、平凡な男だった 逆風に貫かれた「思考」の記録

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 ひとり夜道を歩く男。背後で停車する1台の車。数人の男が飛び出し、男を拉致して車は走り去る。サスペンス映画さながらの冒頭シーンである。 場所はアルゼンチン。男の名はアドルフ・アイヒマン。第二次世界大戦中、ユダヤ人数百万人を強制収容所に送った人物だ。終戦後にアルゼンチンへ逃亡、潜伏していたが、1960年にイスラエル諜報部(モサド)に逮捕された。

 冒頭シーンは、その歴史的瞬間を再現したものだ。アイヒマンはイスラエルで裁判にかけられ、死刑を宣告される。ドイツ系ユダヤ人の政治哲学者ハンナ・アーレントは裁判を傍聴し、雑誌「ニューヨーカー」にレポートを発表する。しかし、その内容は同胞ユダヤ人の神経を逆なでし、アーレントは猛烈なバッシングを浴びる――。

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 厳しい逆風の中で決して屈することなく、信念を貫き通した「ハンナ・アーレント」の姿を追った作品だ。

 全世界のユダヤ人を敵に回してまで、アーレントが伝えたかったもの。それは20世紀最大の犯罪が、平凡極まりない人間によって遂行された事実だった。アーレントが傍聴席から目撃したのは、想像していたような凶悪な怪物ではなく、命令を忠実に実行する官僚的人物にすぎず、特にユダヤ人を憎んでいるわけでもなかった。

 映画は傍聴席に座るアーレントと、法廷に立つアイヒマンとを対照的に描き出す。思考する哲学者と、思考を放棄した官僚的人物。アイヒマンの証言場面は、実写フィルムが使われて、その凡庸ぶりが生々しく映し出される。貴重な映像かつ重要なシーンの一つだ。

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 だが見逃せないのは、アーレントの報告にヒステリックに反発する大衆の存在だ。彼らもアイヒマン同様、思考を放棄している。アーレントの師で愛人の哲学者マルティン・ハイデガーが「思考とは孤独な行為だ」と語る。思考がいかに困難かを表現したのだろう。

 アーレントは孤独と困難に耐え、徹底的に思考し続けた。そうすることで、かつてユダヤ人を虐殺し、今は自分を攻撃する“無思考”に対抗した。ラストの演説シーンは、無思考に対する思考の勝利宣言といえる。アーレントが整然と論理を積み重ね、聴衆を説得しながら、会場の熱気をかき立てる8分間は圧巻である。

(文・沢宮亘理)

「ハンナ・アーレント」(2012年、独・ルクセンブルク・仏)

監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:バルバラ・スコヴァ、アクセル・ミルベルク、ジャネット・マクティア、ユリア・イェンチ、ウルリッヒ・ノエテン

2013年10月26日、岩波ホールほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.cetera.co.jp/h_arendt/

作品写真:(c)2012 Heimatfilm GmbH+Co KG, Amour Fou Luxembourg sarl,MACT Productions SA ,Metro Communicationsltd.

タグ:レビュー
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