2014年03月20日

「ワンチャンス」 奇跡の歌声、一夜でスターに ポール・ポッツの挫折と成功

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 子供の頃からいじめられっ子で、大人になっても冴えない携帯電話販売員のポール・ポッツ(ジェームズ・コーデン)。シャイで謙虚、自信のかけらも持てない彼の夢は「オペラ歌手」になること。憧れのパバロッティの前で歌う機会を得るが「君はオペラ歌手にはなれない」と一蹴され、自信を失くしてしまう。しかし愛する妻や友達に励まされ、勇気を奮い立たせてオーディション番組に応募する──。

 英オーディション番組に出場し、オペラ「トゥーランドット」の挿入歌「誰も寝てはならぬ」を熱唱。一夜にしてスターとなったポッツのサクセスストーリー「ワンチャンス」。監督は「プラダを着た悪魔」(06)のデビッド・フランケル、ポッツ役を「三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(11)のジェームズ・コーデンが演じている。劇中コーデンが歌う曲はポッツ本人の吹き替えた。

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 「冴えない携帯電話販売員が、オーデション番組で優勝してスターになった」。そんなポッツの物語は世界的に有名だが、人生そのものは意外と知られていないのではないか。

 英ウェールズの教会で聖歌隊に在籍したポッツ。子供時代は太った容姿をからかわれ、いじめられていた。しかし青年になって初めてのガールフレンドができる。1年以上メールを交換してきたジュルズ(アレクサンドラ・ローチ)だ。初デートで意気投合したポッツは「お金を貯めてベニスのオペラ学校に留学する」と打ち明ける。

 実話のため、多くの人々は「ポッツがオペラ歌手として成功した」ことを知っている。いわば結末を知ってから観る作品だ。そこで監督はあまり有名ではないボッツの生い立ち、アマチュア時代に焦点を当てる。少年時代、恋愛、留学、パバロッティの酷評と挫折など、過去がダイジェストで描かれる。運の悪いボッツは、大事な時に病気や事故でチャンスを逃す。そして最後のチャンスになったのが、あのオーディション番組だったのだ。

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 小さな運から人生を切り開いたポール・ポッツ。ぽっと出の素人スターと思われがちだが、並々ならぬ苦労と努力を重ね、実力がありながらも外見で損をしていた男。コーデンのキャラクターと、英国映画らしいウィットとユーモアで、暗くなりそうな物語が前向きになる。夢と勇気を与えてくれる心地良い作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ワンチャンス」(2013年、英国)

監督:デビッド・フランケル
出演:ジェームズ・コーデン、アレクサンドラ・ローチ、ジュリー・ウォルターズ、コルム・ミーニー、ジェミマ・ルーパー

2014年3月21日(金・祝)、TOHOシネマズ有楽座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://onechance.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2013 ONE CHANCE, LLC. All Rights Reserved.
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2014年03月16日

「あなたを抱きしめる日まで」 半世紀前に生き別れた息子 探し求める母 再会への旅路

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 アイルランドの主婦、フィロミナ・リーによるノンフィクションを映画化した「あなたを抱きしめる日まで」。50年前に別れた息子を探し求める母親の物語だ。出演は「恋に落ちたシェイクスピア」(98)のジュディ・デンチ。彼女をを助ける元記者役のスティーブ・クーガンが製作、脚本を兼任している。監督は「クィーン」(06)のスティーブン・フリアーズ。

 教会で祈りを捧げるフィロミナ(デンチ)の心は乱れていた。半世紀前に生き別れた息子を思っていたからだ。娘のジェーンは、白黒写真の子供を見て涙ぐむ母に「誰なの?」と問い質す。母は隠し通した息子の存在を語り始める。

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息子を探すフィロミナの旅。元記者のマーティン(クーガン)とともに足跡をたどるが、ミステリーのように謎を多く含んだ幕開けだ。時代は1952年。若きフィロミナが犯した過ち、勘当されて入れられたカトリック系修道院。息子アンソニーと離れ離れなった真相が明らかにされる。

 婚外子を妊娠した少女を受け入れる修道院では、慈善活動の裏で、出産後には母親たちを朝から晩まで働かせていた。母と子は隔離され、会えるのは1日1時間だけ。フィロミナの息子は3歳になった時、母親の意に反し、養子として米国人夫婦に引き取られた。

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 修道院へ向かったフィロミナとマーティンだったが、院側は事実を認めない。八方ふさがりに見えた帰り道、立ち寄ったバーで「修道院は子供の人身売買をしていた」という情報をつかむ。二人はアンソニーを追い、米国へ旅立つ──。

 修道院と人身売買。信仰深い主婦と元敏腕記者。対照的な要素が示される。境遇の違う二人がぎくしゃくしながらも足並みをそろえる様子は、擬似親子のようにもみえる。旅の過程で次々と事実が明かされ、物語は意外な方向へ動き出す。

 息子探しの現在と並行し、フィロミナの過去を回想で描く。アンソニーの生い立ちは8ミリビデオやホームビデオの映像を使用。98分の枠の中で全体像を分かりやすく説明している。主演二人も柔軟で手堅い演技だ。

(文・藤枝正稔)

「あなたを抱きしめる日まで」(2013年、英・米・仏)

監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ジュディ・デンチ、スティーブ・クーガン、ソフィ・ケネディ・クラーク、アンナ・マックスウェル・マーティン、ミシェル・フェアリー

2014年3月15日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.mother-son.jp/

作品写真:(C)2012 PHILOMENA LIMED, PATHE PRODUTIONS, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RESERVED.

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2013年12月19日

「ウォーキング with ダイナソー」 英BBCのアドベンチャー 実写の大自然+CG恐竜 最新技術で迫力満点

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 自然ドキュメンタリーに定評がある英BBCが、科学的検証を経て実写とCG(コンピューター・グラフィックス)を組み合わせたアドベンチャー映画「ウォーキング with ダイナソー」。同社が製作した「アース」(07)、「ライフ いのちをつなぐ物語」(11)に続く作品だ。

 ザックおじさん(カール・アーバン)に連れられ、米アラスカの恐竜化石発掘現場を訪れた甥と姪の兄妹。兄は森で言葉を話す鳥と出会い、導かれるまま7000万年前の恐竜世界を垣間見る。そこから一気に時代は白亜紀後期へ。

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 主人公は草食恐竜パキリノサウルスのパッチだ。ひときわ体の小さいパッチは、子供のころに肉食恐竜にかまれ、右側の角に大きな穴が開いている。冬が来ると食料を求め、温暖な南へ移動するパキリノサウルスの群れ。しかし、旅路は楽ではなかった。肉食恐竜ゴルゴサウルスの襲撃を受け、群れを率いるパッチの父は子供たちの目の前で死んでしまう。兄と一緒に群れからはぐれたパッチは、さまざまな試練を乗り越え、仲間に会うため旅を続ける。

 英BBCは生物を模したロボット「アニマトロニクス」を用い、テレビや舞台用作品を製作してきた。今回は科学的な検証を重ねた上、最新のCGや3D技術も加え、圧倒的なスケールの映像が実現している。動物やおもちゃを擬人化するディズニーのアニメ同様、恐竜たちは人間のように会話する。子供のパッチを主人公に、恐竜の生態を分かりやすく描く。ファミリー層にぴったりの作品だ。

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 とはいえ、映し出される映像は、大人が見ても驚くクオリティー。スティーブン・スピルバーグ監督の「ジュラシック・パーク」(93)から20年。CGの完成度は頂点に達した感がある。アラスカやニュージーランドの実写映像を背景に、CGで作られた恐竜たちを合成。まるで実際に大自然に暮らしているかのよう。錯覚を与えるほど見事な映像である。

 オープニングとエンディングには、「スター・トレック」(09)のドクター・マッコイ役、カール・アルバーンがナビゲーター的に出演。ファンは必見だ。

(文・藤枝正稔)

「ウォーキング with ダイナソー」(2013年、英・米)

監督:ニール・ナイチンゲール、バリー・クック

2013年12月20日、TOHOシネマズ 日劇ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.wwd-movie.jp

作品写真:(C)2013 Twentieth Century Fox

タグ:レビュー
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2013年11月16日

「フィルス」 ジェームズ・マカボイ、イメージ一転 壊れて異常な最低男に

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卑怯で最低な英スコットランド人刑事ブルース・ロバートソン(ジェームズ・マガボイ)。クリスマスの頃、日本人留学生殺人事件が発生。捜査指揮を任されたブルースは、解決して出世しようと目論む。やがて目撃者とみられる謎の女が急浮上。衝撃の真実が明らかになる。

 題名の「フィルス」は英国のスラングで、汚物、道徳的な堕落を意味し、暗に警察を指す。原作はダニー・ボイル監督の出世作「トレインスポッティング」(96)と同じアービン・ウェルシュ。出演は「つぐない」(07)、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(11)のジェームズ・マガボイ、「リトルダンサー」(00)のジェイミー・ベル。スコットランド出身ジョン・S・ベアードの初長編監督作品だ。

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 設定は日本人留学生殺人事件とシンプルだが、描き方は尋常ではない。ブルースの壊れた行動、異常な性格が物語全体を支配する。出世のために同僚や友人を陥れ、裏工作や不正申告は日常茶飯事。欲望のままポルノ、売春、不倫、アルコール、薬物にのめりこむ。刑事としてあるまじき最低男だ。

 ブルースの奇行の原因は、私生活に垣間見える。居間でポルノを見て欲望を処理した後、突然違うビデオを見始める。別れた妻と息子の映像だ。涙を流すブルース。彼は出世し、妻とよりを戻そうとしていた。表向きはろくでなしだが、心は悲しみに満ちている。精神のバランスを崩し、現実と妄想の狭間をさまよう状態だった。さらに人に言えない秘密も抱えていた──。

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 英国のスラングや下ネタがふんだんに盛り込まれ、ブラックな要素が強い作品だ。マカボイもこれまでのイメージを一転。転落した男を強烈に演じるため、引いてしまう人もいるかもしれない。

 破天荒の向こうに見える結末。単純なブラックコメディーではなく、心に闇を抱えた男の悲喜劇だったと分かる。原作者は同じだが、万人受けした「トレインスポッティング」と違い観客を選ぶかもしれない。個性的でひとくせある作品だ。

(文・藤枝正稔)

「フィルス」(2013年、英国)

監督:ジョン・S・ベアード
出演:ジェームズ・マカボイ、ジェイミー・ベル、イモージェン・プーツ、ジョアンヌ・フロガット、ジム・ブロードベント

2013年11月16日、シネマライズほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/filth/

作品写真:(C)2013 Lithium Picture Limited

タグ:レビュー
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2013年11月09日

「いとしきエブリデイ」 服役中の父と帰り待つ母子 積み重ねる家族の愛 ウィンターボトム監督、5年かけて

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 ある日本人監督が言った。「(イランのアッバス・)キアロスタミの映画を初めて観た時、『なんだ、子供を撮るのって簡単だな』と。自分が監督になって分かった。一生彼のようには撮れないと」

 英国東部・ノーフォークの小さな村。まだ薄暗い早朝、幼い4兄弟が起きてくる。ステファニー、ロバート、ショーン、カトリーナ。子供たちは母のカレン(シャーリー・ヘンダーソン)に手を引かれ、寒空の下に電車を乗り継ぎ、服役中の父・イアン(ジョン・シム)に会いに行く。

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 刑務所の面会室で、イアンは子供たちを抱きしめる。ロバートは「家長はお前だ」と言われ緊張する。末っ子のカトリーナは「パパ、どこにも行かないで」と泣き出してしまう。面会時間はあっという間に過ぎ、子供たちは母に手を引かれて家路につく。

 子供4人を育てるため、カレンは昼はスーパーで、夜はパブで働いている。いるべき夫が不在の重荷。イアンの刑期は5年。子供たちが成長するにつれ、喜びとともに不安も広がっていく──。

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 マイケル・ウィンターボトム監督の「いとしきエブリデイ」。実の兄妹4人を主演に迎え、5年かけて撮った家族の物語だ。イアンの刑期は5年。父がいない間も、子供たちはすくすく育つ。男の子には反抗心が、女の子には恋心がめばえる。

 対照的に父と母は、心身ともに危うい橋を渡っている。父は塀の中で日々をやり過ごし、母は仕事と子育てに忙殺される。繰り返される毎日。観客は知らず知らずに彼らの隣人となり、時にはらはらと、時にほほえんで、この「どこにでもいそうな」家族を見守るだろう。

 原題は「Everyday」。その積み重ねこそ愛おしく尊いことを、ウィンターボトム監督は静かに証明する。「父の不在を埋める孤独に愛が勝つことを、5年かけて証明したかった」と監督。マイケル・ナイマンの穏やかな音楽が、彼らをゆっくり包んでいく。

 あの家族は、自分のすぐそばにいるかもしれない。冒頭の言葉通り、監督は鮮やかな手腕で夢を見せる。そして観客はわが毎日を振り返り、自分の場所に戻っていくのだ。

(文・遠海安)

「いとしきエブリデイ」(2012年、英国)

監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:シャーリー・ヘンダーソン、ジョン・シム、ショーン・カーク、ロバート・カーク、ステファニー・カーク、カトリーナ・カーク

2013年11月9日、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://everyday-cinema.com/

作品写真:(C)7 DAYS FILMS LIMITED 2012. ALL RIGHTS RESERVED.

タグ:レビュー
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