2014年06月04日

「グランド・ブダペスト・ホテル」 豪華キャストで夢世界 アンダーソン監督、心躍る群像劇

グランド.jpg

 ウェス・アンダーソン監督最新作「グランド・ブダペスト・ホテル」。レイフ・ファインズ、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーベイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン──。キャストを眺めるだけで心躍る群像劇だ。

 欧州の東端、旧ズブロフカ共和国。国民的著名作家の(ウィルキンソン)が語り始める。「私が本当に聞いた話だ。まさに思いもよらない展開だった」。それは奇想天外な物語だった。

 時はさかのぼって1968年。若き日の作家(ロウ)は、保養でグランド・ブダペスト・ホテルに宿泊した。ホテルのオーナー、ゼロは謎めいていた。貧しい移民からどうやってホテルを買うまでになったのか。ゼロは作家に不思議な半生を打ち明ける。

グランド2.jpg

 さらにさかのぼって32年。若きゼロ(トニー・レボロリ)は、ホテルのベルボーイとして働き始めた。師で父親代わりとなったのは、“伝説のコンシェルジュ”グスタヴ・H(ファインズ)。宿泊客の目当ては彼の「最高のおもてなし」だった。

 ある日、グスタヴの最高の上客マダムD(スウィントン)が何者かに殺される。遺言状には「貴重な絵画をグスタヴに譲る」と書かれていた。怒った息子(ブロディ)に殴られたため、グスタヴとゼロはこっそり絵画を持ち出すが──。

 「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」(01)、「ムーンライズ・キングダム」(12)のアンダーソン監督が、持ち味を存分に発揮した作品だ。時代は30年代、60年代、現代の三つ。ホテルで起きた殺人事件をめぐり、コンシェルジュとベルボーイ、それを取り巻く人々が謎解きに巻き込まれていく。

グランド3.jpg

 キャストは豪華のひとこと。個性派俳優がずらり顔をそろえ、壮大な群像劇を盛り立てる。いずれ劣らぬ実力者が、ある時はふざけ、ある時は大まじめに、ある時はすました顔で観客を煙に巻く。演技に揺さぶられる醍醐味を味わえる。

 美術や衣装も素晴らしい。淡いピンクの外観のホテルに、チョコレートのようにかわいらしく、凝ったものたちが詰め込まれている。洗練された衣装、カラフルなケーキ、豪奢な調度品。柔らかい照明が舞台を包み、観客を不思議の世界にいざなう。

 犯罪劇でもあり、ラブストーリーでもあり、歴史物でもある。コンシェルジュの「おもてなし」を受けながら、ひとときの夢を見られる作品だ。

(文・遠海安)

「グランド・ブダペスト・ホテル」(2013年、英・独)

監督:ウェス・アンダーソン
出演:レイフ・ファインズ、トニー・レボロリ、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーベイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン

2014年6月6日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies.jp/gbh/

作品写真:(c)2013 Twentieth Century Fox
posted by 映画の森 at 10:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月20日

「ワンチャンス」 奇跡の歌声、一夜でスターに ポール・ポッツの挫折と成功

ワンチャンス.jpg

 子供の頃からいじめられっ子で、大人になっても冴えない携帯電話販売員のポール・ポッツ(ジェームズ・コーデン)。シャイで謙虚、自信のかけらも持てない彼の夢は「オペラ歌手」になること。憧れのパバロッティの前で歌う機会を得るが「君はオペラ歌手にはなれない」と一蹴され、自信を失くしてしまう。しかし愛する妻や友達に励まされ、勇気を奮い立たせてオーディション番組に応募する──。

 英オーディション番組に出場し、オペラ「トゥーランドット」の挿入歌「誰も寝てはならぬ」を熱唱。一夜にしてスターとなったポッツのサクセスストーリー「ワンチャンス」。監督は「プラダを着た悪魔」(06)のデビッド・フランケル、ポッツ役を「三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(11)のジェームズ・コーデンが演じている。劇中コーデンが歌う曲はポッツ本人の吹き替えた。

ワンチャンス2.jpg

 「冴えない携帯電話販売員が、オーデション番組で優勝してスターになった」。そんなポッツの物語は世界的に有名だが、人生そのものは意外と知られていないのではないか。

 英ウェールズの教会で聖歌隊に在籍したポッツ。子供時代は太った容姿をからかわれ、いじめられていた。しかし青年になって初めてのガールフレンドができる。1年以上メールを交換してきたジュルズ(アレクサンドラ・ローチ)だ。初デートで意気投合したポッツは「お金を貯めてベニスのオペラ学校に留学する」と打ち明ける。

 実話のため、多くの人々は「ポッツがオペラ歌手として成功した」ことを知っている。いわば結末を知ってから観る作品だ。そこで監督はあまり有名ではないボッツの生い立ち、アマチュア時代に焦点を当てる。少年時代、恋愛、留学、パバロッティの酷評と挫折など、過去がダイジェストで描かれる。運の悪いボッツは、大事な時に病気や事故でチャンスを逃す。そして最後のチャンスになったのが、あのオーディション番組だったのだ。

ワンチャンス3.jpg

 小さな運から人生を切り開いたポール・ポッツ。ぽっと出の素人スターと思われがちだが、並々ならぬ苦労と努力を重ね、実力がありながらも外見で損をしていた男。コーデンのキャラクターと、英国映画らしいウィットとユーモアで、暗くなりそうな物語が前向きになる。夢と勇気を与えてくれる心地良い作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ワンチャンス」(2013年、英国)

監督:デビッド・フランケル
出演:ジェームズ・コーデン、アレクサンドラ・ローチ、ジュリー・ウォルターズ、コルム・ミーニー、ジェミマ・ルーパー

2014年3月21日(金・祝)、TOHOシネマズ有楽座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://onechance.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2013 ONE CHANCE, LLC. All Rights Reserved.
posted by 映画の森 at 08:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月16日

「あなたを抱きしめる日まで」 半世紀前に生き別れた息子 探し求める母 再会への旅路

あなたを抱きしめる日まで.jpg
 
 アイルランドの主婦、フィロミナ・リーによるノンフィクションを映画化した「あなたを抱きしめる日まで」。50年前に別れた息子を探し求める母親の物語だ。出演は「恋に落ちたシェイクスピア」(98)のジュディ・デンチ。彼女をを助ける元記者役のスティーブ・クーガンが製作、脚本を兼任している。監督は「クィーン」(06)のスティーブン・フリアーズ。

 教会で祈りを捧げるフィロミナ(デンチ)の心は乱れていた。半世紀前に生き別れた息子を思っていたからだ。娘のジェーンは、白黒写真の子供を見て涙ぐむ母に「誰なの?」と問い質す。母は隠し通した息子の存在を語り始める。

あなたを抱きしめる日まで2.jpg

息子を探すフィロミナの旅。元記者のマーティン(クーガン)とともに足跡をたどるが、ミステリーのように謎を多く含んだ幕開けだ。時代は1952年。若きフィロミナが犯した過ち、勘当されて入れられたカトリック系修道院。息子アンソニーと離れ離れなった真相が明らかにされる。

 婚外子を妊娠した少女を受け入れる修道院では、慈善活動の裏で、出産後には母親たちを朝から晩まで働かせていた。母と子は隔離され、会えるのは1日1時間だけ。フィロミナの息子は3歳になった時、母親の意に反し、養子として米国人夫婦に引き取られた。

あなたを抱きしめる日まで3.jpg

 修道院へ向かったフィロミナとマーティンだったが、院側は事実を認めない。八方ふさがりに見えた帰り道、立ち寄ったバーで「修道院は子供の人身売買をしていた」という情報をつかむ。二人はアンソニーを追い、米国へ旅立つ──。

 修道院と人身売買。信仰深い主婦と元敏腕記者。対照的な要素が示される。境遇の違う二人がぎくしゃくしながらも足並みをそろえる様子は、擬似親子のようにもみえる。旅の過程で次々と事実が明かされ、物語は意外な方向へ動き出す。

 息子探しの現在と並行し、フィロミナの過去を回想で描く。アンソニーの生い立ちは8ミリビデオやホームビデオの映像を使用。98分の枠の中で全体像を分かりやすく説明している。主演二人も柔軟で手堅い演技だ。

(文・藤枝正稔)

「あなたを抱きしめる日まで」(2013年、英・米・仏)

監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ジュディ・デンチ、スティーブ・クーガン、ソフィ・ケネディ・クラーク、アンナ・マックスウェル・マーティン、ミシェル・フェアリー

2014年3月15日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.mother-son.jp/

作品写真:(C)2012 PHILOMENA LIMED, PATHE PRODUTIONS, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RESERVED.

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 09:01 | Comment(0) | TrackBack(1) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月19日

「ウォーキング with ダイナソー」 英BBCのアドベンチャー 実写の大自然+CG恐竜 最新技術で迫力満点

ウォーキング with ダイナソー.jpg

 自然ドキュメンタリーに定評がある英BBCが、科学的検証を経て実写とCG(コンピューター・グラフィックス)を組み合わせたアドベンチャー映画「ウォーキング with ダイナソー」。同社が製作した「アース」(07)、「ライフ いのちをつなぐ物語」(11)に続く作品だ。

 ザックおじさん(カール・アーバン)に連れられ、米アラスカの恐竜化石発掘現場を訪れた甥と姪の兄妹。兄は森で言葉を話す鳥と出会い、導かれるまま7000万年前の恐竜世界を垣間見る。そこから一気に時代は白亜紀後期へ。

ウォーキング with ダイナソー2.jpg

 主人公は草食恐竜パキリノサウルスのパッチだ。ひときわ体の小さいパッチは、子供のころに肉食恐竜にかまれ、右側の角に大きな穴が開いている。冬が来ると食料を求め、温暖な南へ移動するパキリノサウルスの群れ。しかし、旅路は楽ではなかった。肉食恐竜ゴルゴサウルスの襲撃を受け、群れを率いるパッチの父は子供たちの目の前で死んでしまう。兄と一緒に群れからはぐれたパッチは、さまざまな試練を乗り越え、仲間に会うため旅を続ける。

 英BBCは生物を模したロボット「アニマトロニクス」を用い、テレビや舞台用作品を製作してきた。今回は科学的な検証を重ねた上、最新のCGや3D技術も加え、圧倒的なスケールの映像が実現している。動物やおもちゃを擬人化するディズニーのアニメ同様、恐竜たちは人間のように会話する。子供のパッチを主人公に、恐竜の生態を分かりやすく描く。ファミリー層にぴったりの作品だ。

ウォーキング with ダイナソー3.jpg

 とはいえ、映し出される映像は、大人が見ても驚くクオリティー。スティーブン・スピルバーグ監督の「ジュラシック・パーク」(93)から20年。CGの完成度は頂点に達した感がある。アラスカやニュージーランドの実写映像を背景に、CGで作られた恐竜たちを合成。まるで実際に大自然に暮らしているかのよう。錯覚を与えるほど見事な映像である。

 オープニングとエンディングには、「スター・トレック」(09)のドクター・マッコイ役、カール・アルバーンがナビゲーター的に出演。ファンは必見だ。

(文・藤枝正稔)

「ウォーキング with ダイナソー」(2013年、英・米)

監督:ニール・ナイチンゲール、バリー・クック

2013年12月20日、TOHOシネマズ 日劇ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.wwd-movie.jp

作品写真:(C)2013 Twentieth Century Fox

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 09:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月16日

「フィルス」 ジェームズ・マカボイ、イメージ一転 壊れて異常な最低男に

フィルス.jpg

卑怯で最低な英スコットランド人刑事ブルース・ロバートソン(ジェームズ・マガボイ)。クリスマスの頃、日本人留学生殺人事件が発生。捜査指揮を任されたブルースは、解決して出世しようと目論む。やがて目撃者とみられる謎の女が急浮上。衝撃の真実が明らかになる。

 題名の「フィルス」は英国のスラングで、汚物、道徳的な堕落を意味し、暗に警察を指す。原作はダニー・ボイル監督の出世作「トレインスポッティング」(96)と同じアービン・ウェルシュ。出演は「つぐない」(07)、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(11)のジェームズ・マガボイ、「リトルダンサー」(00)のジェイミー・ベル。スコットランド出身ジョン・S・ベアードの初長編監督作品だ。

フィルス2.jpg

 設定は日本人留学生殺人事件とシンプルだが、描き方は尋常ではない。ブルースの壊れた行動、異常な性格が物語全体を支配する。出世のために同僚や友人を陥れ、裏工作や不正申告は日常茶飯事。欲望のままポルノ、売春、不倫、アルコール、薬物にのめりこむ。刑事としてあるまじき最低男だ。

 ブルースの奇行の原因は、私生活に垣間見える。居間でポルノを見て欲望を処理した後、突然違うビデオを見始める。別れた妻と息子の映像だ。涙を流すブルース。彼は出世し、妻とよりを戻そうとしていた。表向きはろくでなしだが、心は悲しみに満ちている。精神のバランスを崩し、現実と妄想の狭間をさまよう状態だった。さらに人に言えない秘密も抱えていた──。

フィルス3.jpg

 英国のスラングや下ネタがふんだんに盛り込まれ、ブラックな要素が強い作品だ。マカボイもこれまでのイメージを一転。転落した男を強烈に演じるため、引いてしまう人もいるかもしれない。

 破天荒の向こうに見える結末。単純なブラックコメディーではなく、心に闇を抱えた男の悲喜劇だったと分かる。原作者は同じだが、万人受けした「トレインスポッティング」と違い観客を選ぶかもしれない。個性的でひとくせある作品だ。

(文・藤枝正稔)

「フィルス」(2013年、英国)

監督:ジョン・S・ベアード
出演:ジェームズ・マカボイ、ジェイミー・ベル、イモージェン・プーツ、ジョアンヌ・フロガット、ジム・ブロードベント

2013年11月16日、シネマライズほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/filth/

作品写真:(C)2013 Lithium Picture Limited

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 09:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする