2014年09月19日

「ウィークエンドはパリで」 結婚30年、再び新婚旅行先へ 夫婦愛の真髄に迫る

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 些細なことで衝突し、口論の絶えない熟年夫婦。だが破局目前とか離婚秒読みとかいった、深刻な状況にあるわけではない。どうやらこの夫婦なりのコミュニケーションの形なのだろう。妻がつむじを曲げても、夫がハグしてキスすればたちまち仲直り。

 とりわけ夫の妻への熱愛ぶりは、見ていて気恥ずかしくなるほど。路上で妻にキスを求めて、ひじ鉄をくらい転倒。したたかひざを打つくだりは、滑稽というより、微笑ましい。結婚30周年を迎えた今もなお、妻は夫の恋女房なのである。

 そんなに愛されているのだから、妻に不満などないだろうと思う。ところが、長い結婚生活の間には“事件”もあったようで、抑えていた不満が少しずつ吹き出してくる。夫のほうも負けずに不平をぶつけ始める。きっかけとなったのは、「勤務先の大学を解雇された」という夫の告白だった――。

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 30年目の結婚記念日を祝うため、新婚旅行先のパリを再訪した英国人夫婦の姿を追った「ウィークエンドはパリで」。当たらず触らずの何となく平穏な人生を歩んできた夫婦が、初めて本音で向き合い、改めて夫婦の絆を確かめ合う、ハートウォーミングな人間ドラマだ。

 夫のニックは名門大学出身で、将来を嘱望される優秀な学生だったが、卒業後は順風満帆とはいかなかったらしく、無名大学の教授に甘んじていた。しかも、その大学さえもクビになる始末。そんなニックが、パリの街で偶然大学時代の友人モーガンに出会う。モーガンは優秀なニックに憧れていたが、現在は作家として成功し、華やかな生活を送っている。

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 モーガンに招かれて妻のメグとともに赴いた出版記念パーティーには、売れっ子アーティストや有名大学教授、一流紙の記者など、人生の勝ち組が集まっており、ニックの劣等感を刺激した。モーガンはニックを賞賛するが、ニックは内心じくじたるものを感じ、思いがけない行動に出る。そんなニックに対してメグは――。夫婦愛の真髄に迫る終盤の展開が圧巻だ。

 夫のニックに扮するのは「アイリス」(01)、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(11)の名優ジム・ブロードベント。妻のメグには「トスカーナの休日」(03)のリンゼイ・ダンカン。まるで実際の夫婦のような息の合ったコンビネーションで、熟年夫婦をリアルに演じている。

 ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」やゴダールの「はなればなれに」など、夫婦の青春時代を彩った音楽や映画の引用の仕方も、取って付けたような感じがなく、自然でいい。「ノッティングヒルの恋人」(99)のロジャー・ミッシェル監督が生み出した、新たな愛の傑作だ。

(文・沢宮亘理)

「ウィークエンドはパリで」(2013年、英国)

監督:ロジャー・ミッシェル
出演:ジム・ブロードベント、リンゼイ・ダンカン、ジェフ・ゴールドブラム

2014年9月20日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://paris-weekend.com/

作品写真:(c) 2013 Free Range Films Limited/ The British Film Institute / Curzon Film Rights 2 and Channel Four Television Corporation.
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2014年08月26日

「わたしは生きていける」 第三次世界大戦ぼっ発 悪夢と絶望を経て 少女は愛で立ち上がる

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 近未来を舞台に、第三次世界大戦に巻き込まれた若者たちを描いた「わたしは生きていける」。メグ・ローゾフによる同名小説の映画化だ。黒いアイラインに鼻ピアス、パンク・ファッションのデイジー(シアーシャ・ローナン)が、厳戒態勢の英国の空港に降り立つ。生まれた時に母を亡くし、折り合いの悪い父と暮らすデイジー。心を閉ざした16歳の米国人だ。

 デイジーは初めて会ういとこ3人と、大自然に囲まれて夏を過ごす。田舎暮らしは苦痛のはずだったが、天真爛漫ないとこたちと緑がデイジーの心を溶かす。一つ年上のエディー(ジョージ・マッケイ)との初恋も経験。居場所を見つけたデイジーだが、つかの間の平穏もある日を境に一変する。ロンドンで核爆発が起き、市民数万人が死亡したのだ。第三次世界大戦の勃発で英国に戒厳令が敷かれ、ライフラインもストップ。デイジーといとこたちは別々の施設に入れられる──。

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 前半は都会から来た少女が田舎暮らしで解放される姿を描いた「わたしは生きていける」。戦争ぼっ発を機に空気は一変。上空を横切る戦闘機。ピクニックの途中に聞こえる衝撃音。村に白い綿のような物体が降り注ぐ。デイジーたちが戸惑いながら家に帰ると、テレビはロンドンで起きた核爆弾テロを伝えていた。このシーンで観客は初めて事態を把握する。

 突如英軍の強制連行が始まった。エディーと弟アイザック(トム・ホランド)は軍事施設へ、デイジーと兄弟の幼い妹パイパー(ハーリー・バード)は軍が管理する住宅へ連行される。デイジーの心の支えは、強制連行される際にエディーが叫んだ「何があっても、ここに戻れ」という約束だった。その言葉を信じ、デイジーはパイパーを連れて施設を脱走する。

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 「ラストキング・オブ・スコットランド」(06)でフォレスト・ウィテカーに米アカデミー賞主演男優賞をもたらしたケビン・マクドナルド監督。今回はローナンから繊細な演技を引き出した。自意識過剰なデイジーは他人との接触を極度に嫌い、自分の殻に閉じこもる。しかし、田舎暮らしと初恋を経て、極限状態に置かれ、絶望から生き抜く強い心と精神を持った少女に成長する。

 マクドナルド監督は「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」(99)など、ドキュメンタリー作品でも高い評価を得ている。物語から一歩引いた手法、緊張感あふれるリアルな演出。フィクションを超えた映像を見た錯覚に陥る。悪夢のような恐ろしいドラマだが、根底に流れる愛の力がそれを打ち消し、再生を予感させる。余韻を残した幕引きに救われる青春ドラマの佳作である。

(文・藤枝正稔)

「わたしは生きていける」(2013年、英国)

監督:ケビン・マクドナルド
出演:シアーシャ・ローナン、トム・ホランド、ジョージ・マッケイ、ハーリー・バード、ダニー・マケボイ

2014年8月30日(土)、有楽町スバル座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.howilivenow.jp/

作品写真:(C)The British Film Institute/Channel Four Television Corporation/ HILN Ltd 2013

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2014年07月29日

「サンシャイン 歌声が響く街」 スコットランドへの愛、音楽あふれるミュージカル

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 英スコットランド・エジンバラ郊外の田舎町、リースを舞台にした「サンシャイン 歌声が響く街」。2007年の初演から大ヒットしたミュージカルの映画化だ。監督は俳優として「ダウンタウン物語」(76)、「エレファントマン」(80)、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(98)などに出演したデクスター・フレッチャー。長編監督2作目となる。

 結婚25周年を迎えたロブ(ピーター・ミュラン)とジーン(ジェーン・ホロックス)。アフガニスタンで兵役に就いた息子のデイビー(ジョージ・マッケイ)が無事戻り、娘のリズ(フレイア・メーバー)と肩をなでおろす。家族4人は再び顔をそろえた。

 デイビーとともに退役した親友アリー(ケビン・ガスリー)はリズと交際中。看護師のリズは同僚のイボンヌ(アントニア・トーマス)を兄に紹介。兄と妹、それぞれが恋の行方に胸をふくらませる。

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 一方、父親のロブのもとに一通の手紙が届く。24年前、妻に隠れて関係を持った女性の葬儀の知らせだった。差出人は初めて存在を知った自分の娘。女性はロブと別れた後、一人で出産していたのだ。葬儀に出席したロブだが、突然現れた娘に言葉もない。

 そんな中、ロブとジーン夫妻が結婚25周年を迎える。大勢の親せきや友人に囲まれ、盛大なパーティーで祝福される二人。ところがジーンは偶然ロブの上着のポケットにあった「娘」からの手紙を読んでしまう。夫の裏切りにショックを受けるジーン。

 かたやアニーはリズに突然のプロポーズ。戸惑うリズはその場で断り、祝いの席は台なしに。それぞれに迷い、傷つき、ばらばらになってしまった家族。思うようにならない人生に、希望の光は見えるのか──。

 曇りがちなスコットランドの空、独特のアクセント、パブに集う男たち。英国映画の魅力あふれる作品だ。全編通して流れるのは、スコットランドを代表する人気デュオ「プロクレイマーズ」の名曲の数々。最後に歌い上げられる「I'm Gonna Be(500Miles)」は、ジョニー・デップ主演「妹の恋人」(93)の主題歌としても知られる。ミュージカル映画だが派手な仕掛けや演出はない。ごく普通の人々が、ごく普通に音楽とともに暮らす。生活に寄り添うメロディーが心地よく耳に残る。

 原作になった舞台は地元スコットランドで大ヒットし、映画化権をめぐり激しい競争が展開されたという。メガホンを取ったフレッチャー監督の俳優デビュー作は、アラン・パーカー監督のミュージカル「ダウンタウン物語」。「子供の頃からずっと、ミュージカルに深い愛情と知識を持ち続けていた」という。スコットランドへの愛、音楽あふれる作品となった。

(文・遠海安)

「サンシャイン 歌声が響く街」(2013年、英国)

監督:デクスター・フレッチャー
出演:ピーター・ミュラン、ジェーン・ホロックス、ジョージ・マッケイ、アントニア・トーマス、フレイア・メーバー

2014年8月1日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://sunshine.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)DNA Films
 
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2014年06月20日

「サード・パーソン」 三つの都市、3組の男女 交差する人生、明かされる秘密

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 パリ、ローマ、ニューヨーク。三つの都市の3組の男女。異なるエピソードはやがて交差し、隠された真実が浮かび上がる。デビュー作「クラッシュ」(04)で米アカデミー作品賞、脚本賞を獲得したポール・ハギス監督最新作だ。

 パリ。米ピュリッツァー賞作家のマイケル(リーアム・ニーソン)は、ホテルにこもり新作を書いている。部屋を訪れた若い愛人アンナ(オリビア・ワイルド)は作家志望。文章を書くことでつながる二人だが、互いに秘密も持っている。

 ローマ。米国人ビジネスマンのスコット(エイドリアン・ブロディ)は、バーでロマの女性モニカ(モラン・アティアス)に出会う。モニカの娘は犯罪組織に拉致されていた。スコットは母子を助けようとするが、モニカは何かを隠しているようだ。

 ニューヨーク。三流女優のジュリア(ミラ・クニス)は、元夫のリック(ジェームズ・フランコ)と息子の親権を争っている。経済的にも困窮し、息子にも会わせてもらえず、ジュリアの生活は乱れる。精神も崩壊寸前だった──。

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 三つのエピソード、6人の登場人物は、せっぱ詰まっていながら、どこかうさん臭い。たとえば作家の愛人アンナには別の男がいる。娘を探すアンナの話は、茶番めいている。絶妙なうその気配が、謎解きのエッセンスになっている。

 クリント・イーストウッド監督作「ミリオンダラー・ベイビー」(04)、「父親たちの星条旗」(06)、「硫黄島からの手紙」(06)など、脚本家としても高く評価されているハギス監督。今回も巧みな構成、練り上げられた脚本が光る。入り組んだ人間関係の秘密が、糸をほどくように明かされる。

 ニーソン、ブロディ、フランコと芸達者がそろい、演技も申し分ない。しかし、三つのエピソードをつなげる意図が優先され、エピソードも作り込み過ぎた感がある。すべての人間関係に閉塞感があり、憂鬱な気分がぬぐえない。とはいえ、語り口は巧み。上等の群像劇として見ごたえ十分だ。

(文・遠海安)

「サード・パーソン」(2013年、英国)

監督:ポール・ハギス
出演:リーアム・ニーソン、ミラ・クニス、エイドリアン・ブロディ、オリビア・ワイルド、ジェームズ・フランコ、モラン・アティアス

2014年6月20日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。TOHOシネマズ 日本橋ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://third-person.jp/

作品写真:(C)Corsan 2013 all rights reserved
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2014年06月07日

「ハミングバード」 元特殊部隊員の傷と再起 ステイサム、アクション炸裂 

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 冬のロンドン裏通り。ジョゼフ(ジェイソン・ステイサム)はホームレスの集団に混じり、段ボールで寒さをしのいでいた。唯一心通わせる相手は少女イザベルだ。ところがある夜、犯罪組織がホームレスを襲撃。イザベルの行方が分からなくなる。

 襲撃から逃れたジョゼフは、高級マンションの一室に逃げ込んだ。部屋の主は朝になっても戻らない。留守電には「10月まで出張」のメッセージが残っていた。ジョゼフは部屋の主になりすまし、イザベルを探すと決める。

 ジョゼフは英軍の元特殊部隊員だった。アフガニスタンで罪を犯し拘束されるが、軍法会議前に逃亡。ロンドンに身を潜めていた。イザベルの身を案じたジョゼフは、酒と薬にまみれた生活をやめると決意。ボランティアのシスター・クリスティナ(アガタ・ブゼク)の助けを借り動き始めるが、「イザベルが遺体で見つかった」と連絡が入る──。

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 ステイサム主演の犯罪アクション「ハミングバード」。タイトルは軍の無人偵察機を意味する。戦場で兵士を絶え間なく追いかける無人機。ジョゼフは軍による監視への恐怖、過酷な戦いの記憶に悩み、心を病んでいた。いわば「傷ついた帰還兵の再生」を描く犯罪アクションだ。

 軍からも世間からも“脱走中”のジョゼフが、高級アパートの住人になりすまし、イザベルの行方を探す。援護するのは敬虔なキリスト教徒のシスター・クリスティナだ。イザベルともシスターとも、恋愛関係にはない。微妙な距離と心理が、観客の想像力を刺激する。

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 ステイサム得意の本格アクションも健在だ。特殊効果に頼らず、一対一の“肉弾戦”は見ごたえ十分。シスター演じるブゼクも、静かなたたずまいが印象に残る。監督はデビッド・クローネンバーグ監督作「イースタン・プロミス」(07)の脚本を書いたスティーブン・ナイト。ロンドンの闇夜、帰還兵の心の闇をうまく重ねている。

(文・遠海安)

「ハミングバード」(2012年、英国)

監督・脚本:スティーブン・ナイト
出演:ジェイソン・ステイサム、アガタ・ブゼク、ヴィッキー・マクルア、ベネディクト・ウォン、ジャー・ライアン、ダイ・ブラッドレイ

2014年6月7日(土)新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hummingbird-movie.jp

作品写真:(C)2012 Hummingbird Film Investments LLC
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