2014年08月26日

「わたしは生きていける」 第三次世界大戦ぼっ発 悪夢と絶望を経て 少女は愛で立ち上がる

わたしは生きていける.jpg

 近未来を舞台に、第三次世界大戦に巻き込まれた若者たちを描いた「わたしは生きていける」。メグ・ローゾフによる同名小説の映画化だ。黒いアイラインに鼻ピアス、パンク・ファッションのデイジー(シアーシャ・ローナン)が、厳戒態勢の英国の空港に降り立つ。生まれた時に母を亡くし、折り合いの悪い父と暮らすデイジー。心を閉ざした16歳の米国人だ。

 デイジーは初めて会ういとこ3人と、大自然に囲まれて夏を過ごす。田舎暮らしは苦痛のはずだったが、天真爛漫ないとこたちと緑がデイジーの心を溶かす。一つ年上のエディー(ジョージ・マッケイ)との初恋も経験。居場所を見つけたデイジーだが、つかの間の平穏もある日を境に一変する。ロンドンで核爆発が起き、市民数万人が死亡したのだ。第三次世界大戦の勃発で英国に戒厳令が敷かれ、ライフラインもストップ。デイジーといとこたちは別々の施設に入れられる──。

わたしは生きていける2.jpg

 前半は都会から来た少女が田舎暮らしで解放される姿を描いた「わたしは生きていける」。戦争ぼっ発を機に空気は一変。上空を横切る戦闘機。ピクニックの途中に聞こえる衝撃音。村に白い綿のような物体が降り注ぐ。デイジーたちが戸惑いながら家に帰ると、テレビはロンドンで起きた核爆弾テロを伝えていた。このシーンで観客は初めて事態を把握する。

 突如英軍の強制連行が始まった。エディーと弟アイザック(トム・ホランド)は軍事施設へ、デイジーと兄弟の幼い妹パイパー(ハーリー・バード)は軍が管理する住宅へ連行される。デイジーの心の支えは、強制連行される際にエディーが叫んだ「何があっても、ここに戻れ」という約束だった。その言葉を信じ、デイジーはパイパーを連れて施設を脱走する。

わたしは生きていける3.jpg

 「ラストキング・オブ・スコットランド」(06)でフォレスト・ウィテカーに米アカデミー賞主演男優賞をもたらしたケビン・マクドナルド監督。今回はローナンから繊細な演技を引き出した。自意識過剰なデイジーは他人との接触を極度に嫌い、自分の殻に閉じこもる。しかし、田舎暮らしと初恋を経て、極限状態に置かれ、絶望から生き抜く強い心と精神を持った少女に成長する。

 マクドナルド監督は「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」(99)など、ドキュメンタリー作品でも高い評価を得ている。物語から一歩引いた手法、緊張感あふれるリアルな演出。フィクションを超えた映像を見た錯覚に陥る。悪夢のような恐ろしいドラマだが、根底に流れる愛の力がそれを打ち消し、再生を予感させる。余韻を残した幕引きに救われる青春ドラマの佳作である。

(文・藤枝正稔)

「わたしは生きていける」(2013年、英国)

監督:ケビン・マクドナルド
出演:シアーシャ・ローナン、トム・ホランド、ジョージ・マッケイ、ハーリー・バード、ダニー・マケボイ

2014年8月30日(土)、有楽町スバル座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.howilivenow.jp/

作品写真:(C)The British Film Institute/Channel Four Television Corporation/ HILN Ltd 2013

posted by 映画の森 at 08:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月29日

「サンシャイン 歌声が響く街」 スコットランドへの愛、音楽あふれるミュージカル

サンシャイン 歌声が響く街.jpg

 英スコットランド・エジンバラ郊外の田舎町、リースを舞台にした「サンシャイン 歌声が響く街」。2007年の初演から大ヒットしたミュージカルの映画化だ。監督は俳優として「ダウンタウン物語」(76)、「エレファントマン」(80)、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(98)などに出演したデクスター・フレッチャー。長編監督2作目となる。

 結婚25周年を迎えたロブ(ピーター・ミュラン)とジーン(ジェーン・ホロックス)。アフガニスタンで兵役に就いた息子のデイビー(ジョージ・マッケイ)が無事戻り、娘のリズ(フレイア・メーバー)と肩をなでおろす。家族4人は再び顔をそろえた。

 デイビーとともに退役した親友アリー(ケビン・ガスリー)はリズと交際中。看護師のリズは同僚のイボンヌ(アントニア・トーマス)を兄に紹介。兄と妹、それぞれが恋の行方に胸をふくらませる。

サンシャイン 歌声が響く街2.jpg

 一方、父親のロブのもとに一通の手紙が届く。24年前、妻に隠れて関係を持った女性の葬儀の知らせだった。差出人は初めて存在を知った自分の娘。女性はロブと別れた後、一人で出産していたのだ。葬儀に出席したロブだが、突然現れた娘に言葉もない。

 そんな中、ロブとジーン夫妻が結婚25周年を迎える。大勢の親せきや友人に囲まれ、盛大なパーティーで祝福される二人。ところがジーンは偶然ロブの上着のポケットにあった「娘」からの手紙を読んでしまう。夫の裏切りにショックを受けるジーン。

 かたやアニーはリズに突然のプロポーズ。戸惑うリズはその場で断り、祝いの席は台なしに。それぞれに迷い、傷つき、ばらばらになってしまった家族。思うようにならない人生に、希望の光は見えるのか──。

 曇りがちなスコットランドの空、独特のアクセント、パブに集う男たち。英国映画の魅力あふれる作品だ。全編通して流れるのは、スコットランドを代表する人気デュオ「プロクレイマーズ」の名曲の数々。最後に歌い上げられる「I'm Gonna Be(500Miles)」は、ジョニー・デップ主演「妹の恋人」(93)の主題歌としても知られる。ミュージカル映画だが派手な仕掛けや演出はない。ごく普通の人々が、ごく普通に音楽とともに暮らす。生活に寄り添うメロディーが心地よく耳に残る。

 原作になった舞台は地元スコットランドで大ヒットし、映画化権をめぐり激しい競争が展開されたという。メガホンを取ったフレッチャー監督の俳優デビュー作は、アラン・パーカー監督のミュージカル「ダウンタウン物語」。「子供の頃からずっと、ミュージカルに深い愛情と知識を持ち続けていた」という。スコットランドへの愛、音楽あふれる作品となった。

(文・遠海安)

「サンシャイン 歌声が響く街」(2013年、英国)

監督:デクスター・フレッチャー
出演:ピーター・ミュラン、ジェーン・ホロックス、ジョージ・マッケイ、アントニア・トーマス、フレイア・メーバー

2014年8月1日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://sunshine.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)DNA Films
 
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 08:10 | Comment(0) | TrackBack(1) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月20日

「サード・パーソン」 三つの都市、3組の男女 交差する人生、明かされる秘密

サード・パーソン.jpg

 パリ、ローマ、ニューヨーク。三つの都市の3組の男女。異なるエピソードはやがて交差し、隠された真実が浮かび上がる。デビュー作「クラッシュ」(04)で米アカデミー作品賞、脚本賞を獲得したポール・ハギス監督最新作だ。

 パリ。米ピュリッツァー賞作家のマイケル(リーアム・ニーソン)は、ホテルにこもり新作を書いている。部屋を訪れた若い愛人アンナ(オリビア・ワイルド)は作家志望。文章を書くことでつながる二人だが、互いに秘密も持っている。

 ローマ。米国人ビジネスマンのスコット(エイドリアン・ブロディ)は、バーでロマの女性モニカ(モラン・アティアス)に出会う。モニカの娘は犯罪組織に拉致されていた。スコットは母子を助けようとするが、モニカは何かを隠しているようだ。

 ニューヨーク。三流女優のジュリア(ミラ・クニス)は、元夫のリック(ジェームズ・フランコ)と息子の親権を争っている。経済的にも困窮し、息子にも会わせてもらえず、ジュリアの生活は乱れる。精神も崩壊寸前だった──。

サード・パーソン2.jpg サード・パーソン3.jpg

 三つのエピソード、6人の登場人物は、せっぱ詰まっていながら、どこかうさん臭い。たとえば作家の愛人アンナには別の男がいる。娘を探すアンナの話は、茶番めいている。絶妙なうその気配が、謎解きのエッセンスになっている。

 クリント・イーストウッド監督作「ミリオンダラー・ベイビー」(04)、「父親たちの星条旗」(06)、「硫黄島からの手紙」(06)など、脚本家としても高く評価されているハギス監督。今回も巧みな構成、練り上げられた脚本が光る。入り組んだ人間関係の秘密が、糸をほどくように明かされる。

 ニーソン、ブロディ、フランコと芸達者がそろい、演技も申し分ない。しかし、三つのエピソードをつなげる意図が優先され、エピソードも作り込み過ぎた感がある。すべての人間関係に閉塞感があり、憂鬱な気分がぬぐえない。とはいえ、語り口は巧み。上等の群像劇として見ごたえ十分だ。

(文・遠海安)

「サード・パーソン」(2013年、英国)

監督:ポール・ハギス
出演:リーアム・ニーソン、ミラ・クニス、エイドリアン・ブロディ、オリビア・ワイルド、ジェームズ・フランコ、モラン・アティアス

2014年6月20日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。TOHOシネマズ 日本橋ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://third-person.jp/

作品写真:(C)Corsan 2013 all rights reserved
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 12:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月07日

「ハミングバード」 元特殊部隊員の傷と再起 ステイサム、アクション炸裂 

ハミングバード.jpg

 冬のロンドン裏通り。ジョゼフ(ジェイソン・ステイサム)はホームレスの集団に混じり、段ボールで寒さをしのいでいた。唯一心通わせる相手は少女イザベルだ。ところがある夜、犯罪組織がホームレスを襲撃。イザベルの行方が分からなくなる。

 襲撃から逃れたジョゼフは、高級マンションの一室に逃げ込んだ。部屋の主は朝になっても戻らない。留守電には「10月まで出張」のメッセージが残っていた。ジョゼフは部屋の主になりすまし、イザベルを探すと決める。

 ジョゼフは英軍の元特殊部隊員だった。アフガニスタンで罪を犯し拘束されるが、軍法会議前に逃亡。ロンドンに身を潜めていた。イザベルの身を案じたジョゼフは、酒と薬にまみれた生活をやめると決意。ボランティアのシスター・クリスティナ(アガタ・ブゼク)の助けを借り動き始めるが、「イザベルが遺体で見つかった」と連絡が入る──。

ハミングバード2.jpg

 ステイサム主演の犯罪アクション「ハミングバード」。タイトルは軍の無人偵察機を意味する。戦場で兵士を絶え間なく追いかける無人機。ジョゼフは軍による監視への恐怖、過酷な戦いの記憶に悩み、心を病んでいた。いわば「傷ついた帰還兵の再生」を描く犯罪アクションだ。

 軍からも世間からも“脱走中”のジョゼフが、高級アパートの住人になりすまし、イザベルの行方を探す。援護するのは敬虔なキリスト教徒のシスター・クリスティナだ。イザベルともシスターとも、恋愛関係にはない。微妙な距離と心理が、観客の想像力を刺激する。

ハミングバード3.jpg

 ステイサム得意の本格アクションも健在だ。特殊効果に頼らず、一対一の“肉弾戦”は見ごたえ十分。シスター演じるブゼクも、静かなたたずまいが印象に残る。監督はデビッド・クローネンバーグ監督作「イースタン・プロミス」(07)の脚本を書いたスティーブン・ナイト。ロンドンの闇夜、帰還兵の心の闇をうまく重ねている。

(文・遠海安)

「ハミングバード」(2012年、英国)

監督・脚本:スティーブン・ナイト
出演:ジェイソン・ステイサム、アガタ・ブゼク、ヴィッキー・マクルア、ベネディクト・ウォン、ジャー・ライアン、ダイ・ブラッドレイ

2014年6月7日(土)新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hummingbird-movie.jp

作品写真:(C)2012 Hummingbird Film Investments LLC
posted by 映画の森 at 08:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月04日

「グランド・ブダペスト・ホテル」 豪華キャストで夢世界 アンダーソン監督、心躍る群像劇

グランド.jpg

 ウェス・アンダーソン監督最新作「グランド・ブダペスト・ホテル」。レイフ・ファインズ、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーベイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン──。キャストを眺めるだけで心躍る群像劇だ。

 欧州の東端、旧ズブロフカ共和国。国民的著名作家の(ウィルキンソン)が語り始める。「私が本当に聞いた話だ。まさに思いもよらない展開だった」。それは奇想天外な物語だった。

 時はさかのぼって1968年。若き日の作家(ロウ)は、保養でグランド・ブダペスト・ホテルに宿泊した。ホテルのオーナー、ゼロは謎めいていた。貧しい移民からどうやってホテルを買うまでになったのか。ゼロは作家に不思議な半生を打ち明ける。

グランド2.jpg

 さらにさかのぼって32年。若きゼロ(トニー・レボロリ)は、ホテルのベルボーイとして働き始めた。師で父親代わりとなったのは、“伝説のコンシェルジュ”グスタヴ・H(ファインズ)。宿泊客の目当ては彼の「最高のおもてなし」だった。

 ある日、グスタヴの最高の上客マダムD(スウィントン)が何者かに殺される。遺言状には「貴重な絵画をグスタヴに譲る」と書かれていた。怒った息子(ブロディ)に殴られたため、グスタヴとゼロはこっそり絵画を持ち出すが──。

 「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」(01)、「ムーンライズ・キングダム」(12)のアンダーソン監督が、持ち味を存分に発揮した作品だ。時代は30年代、60年代、現代の三つ。ホテルで起きた殺人事件をめぐり、コンシェルジュとベルボーイ、それを取り巻く人々が謎解きに巻き込まれていく。

グランド3.jpg

 キャストは豪華のひとこと。個性派俳優がずらり顔をそろえ、壮大な群像劇を盛り立てる。いずれ劣らぬ実力者が、ある時はふざけ、ある時は大まじめに、ある時はすました顔で観客を煙に巻く。演技に揺さぶられる醍醐味を味わえる。

 美術や衣装も素晴らしい。淡いピンクの外観のホテルに、チョコレートのようにかわいらしく、凝ったものたちが詰め込まれている。洗練された衣装、カラフルなケーキ、豪奢な調度品。柔らかい照明が舞台を包み、観客を不思議の世界にいざなう。

 犯罪劇でもあり、ラブストーリーでもあり、歴史物でもある。コンシェルジュの「おもてなし」を受けながら、ひとときの夢を見られる作品だ。

(文・遠海安)

「グランド・ブダペスト・ホテル」(2013年、英・独)

監督:ウェス・アンダーソン
出演:レイフ・ファインズ、トニー・レボロリ、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーベイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン

2014年6月6日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies.jp/gbh/

作品写真:(c)2013 Twentieth Century Fox
posted by 映画の森 at 10:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする