2015年05月24日

「追憶と、踊りながら」ホン・カウ監督に聞く 「他人の私生活をのぞくように、自然な映像を撮りたかった」

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 ロンドンの介護ホームで暮らす中国人女性ジュン。英語を話せない彼女にとって唯一の楽しみは、面会に訪れる息子のカイと過ごす時間だけだった。ところが、ある日、カイは交通事故で死んでしまう。悲しみにくれるジュンの前に、カイの同居人だったリチャードが現れる。ジュンはリチャードをカイの友人だと信じているが、実はカイの恋人。カイは同性愛者だったのだ。リチャードは真実を隠したまま、ジュンの世話をしようとするが――。

 愛する者を失った中国人女性と英国人青年との心の触れ合いを繊細に描いた「追憶と、踊りながら」。今回長編デビューしたカンボジア出身のホン・カウ監督は「他人の私生活をのぞき見るような、自然な映像を撮りたかった」と語った。

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英語が話せない母親、真実を言えない息子

カンボジアで生まれ、29年前にロンドンに移住してきたジュン。いまだ英語が話せず、英国社会にもとけ込めない。一方、息子のカイはすっかり英国社会に馴染んでいるが、自分がゲイだと母親に告白できずにいる――。基本的な物語設定には、ホン・カウ監督自身の母子関係が投影されている。

 「確かに個人的な経験を散りばめた作品だ。ジュン同様、母は英語ができないし、僕も自分がゲイであることをなかなか言い出せずにいた。でも、僕はカイと違ってカミングアウトしている。告白前はとても怖くてどきどきしたけれど、いざ真実を告げてみると、母は意外なほどすんなり受け入れてくれた。『あなたは犯罪者でもレイピスト(婦女暴行者)でもないのだから』と言われた時は『そんな連中と比べないでよ』と思ったけどね(笑)」

 英語の話せない母親が頼りにしていた一人息子を突然失ってしまう。息子の恋人リチャード、介護ホームでジュンと親しくなった英国人男性アラン、リチャードがジュンとアランの会話のために雇った中国人女性ヴァンらのエピソードが絡まり合って、ストーリーが展開していく。

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現実と追憶の間のずれ

 特に力を入れたのが、リチャードとカイのエピソード。わずか3シーンしかないが、いずれもリアルで自然な演技に引き込まれる。

 「たった3シーンで二人の親密さや愛情が伝えられるかどうか心配だった。しかし、あまりシーンを増やすと『(カイが死んでしまって)不在だからこそ、懐かしく思える』という重要なテーマがぼやけてしまう。限られたシーンでカイに焦がれるリチャードの気持ちを表現しなければならなかった」

 わざとらしい演出はしたくない。他人の私生活をのぞき見るような、自然な映像を撮りたい。そのためにはディテールを入念に描く必要があった。

 「リチャード役のベン・ウィショーは、僕の要求をとてもよく理解してくれた。感心したのは、カイとのベッドシーンでささやくような話し方をしていたことだ。ごく近くに相手がいる時、人は小さな声で話すもの。ベンは自らのセンスで演技に取り入れていた」

 ウィショーの好演もあって、撮影は順調に進んだが、編集段階で一つミスが出た。

 「映像と音がずれていた。しかし、そのずれがかえって面白いと思った。リチャードの思い出の中で二人は一緒にいるが、現実にカイはいない。そのずれがうまく表現できていると思い、そのまま使った」

 リチャードがカイの乳首の毛を抜くシーンは脚本どおり。

 「カイ役のアンドリュー・レオンの体毛が薄いので、2テイクしか撮れなかったよ(笑)」

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ノスタルジックな雰囲気

 李香蘭(山口淑子)のヒット曲「夜来香」や、中国人歌手イー・ミンの歌う「Sway」などの懐メロ。介護ホームの50〜60年代風インテリア。音楽面、美術面の演出も周到だ。それらが醸し出すノスタルジックな雰囲気は、ジュンの歩んできた人生への想像力をかきたてる。

 「介護ホームのインテリアは、テレビのドキュメンタリーを見ていて思いついた。番組の中で、米国の心理学者が『高齢者は、昔の幸福だった時代の記憶に囲まれて生活すると、精神的によい影響を受ける』と言っていて、使えると思った。亡き息子の思い出に生きている母親が、ノスタルジーに浸って暮らしている風景は、映画のテーマにもぴったり合う」

ベテランから新人まで

 60年代から70年代にかけて“武侠映画の女王”として名をはせた女優チェン・ペイペイ。テレビ、映画、舞台など幅広いジャンルで活躍する英国の名優ピーター・ボウルズ。映画初出演となるカイ役のアンドリュー・レオン、演技経験すらなかったナオミ・クリスティ。「パフューム ある人殺しの物語」(06)で頭角を現し、活躍が期待されるベン・ウィショー。素人同然の若手から超ベテランまで、世代もキャリアも異なる俳優たちが共演している。
 
 「高名な俳優から演技の経験がない俳優まで、でこぼこのアンサンブル。リハーサル期間は2週間。一つにたばねるのは大変だった」

 ベテラン俳優にあれこれ注文を付けるのは、やはり今回が長編デビューの監督にとって、かなりのプレッシャーだったに違いない。

 「一つよかったと思うのは、自分は中国語も話せるので、相手が(チェン・)ペイペイさんの時は、中国語を使えばよかったこと。また、ベン(・ウィショー)の場合は、メモを渡してメッセージを伝えたりと工夫した」

 苦労の末に完成した作品は見事なアンサンブルとなっている。

 「最終的にまとめることができたのは、俳優やスタッフの力が大きい。ベン・ウィショーもチェン・ペイペイも、僕の脚本をとても気に入ってくれて、何とかいい作品に仕上げようと頑張ってくれた。彼らの熱意はスタッフにも伝わった。いいい映画を作る目標に向かって、みんなの気持ちが一つになり、アンサンブルができた」

(文・写真 沢宮亘理)

「追憶と、踊りながら」(2014年、英国)

監督:ホン・カウ
出演:ベン・ウィショー、チェン・ペイペイ、アンドリュー・レオン、モーヴェン・クリスティ、ナオミ・クリスティ、ピーター・ボウルズ

2015年5月23日(土)、新宿武蔵野館、シネマ・ジャック&ベティほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.moviola.jp/tsuioku/

作品写真:(c) LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014
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2015年04月29日

「イタリアは呼んでいる」親友の英国俳優コンビ、半島縦断へ 旅を楽しみ、人生を見つめる

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 イタリアの北から南まで、高級ホテルや一流レストランを巡る旅。英国ショービジネス界の人気者二人のもとに、文字通り“おいしい”仕事が舞い込む。以前英国の湖水地方を旅して書いたグルメ記事が好評だったので、その第2弾をというわけだ。陽光あふれるイタリアの景勝地、豪華なホテルと美味い料理、そしてアバンチュールも……。断る理由は何もない。一も二もなく引き受けた二人は、黒のミニクーパーを走らせ、イタリア半島縦断の旅へ出る――。

 主演はスティーブ・クーガンとロブ・ブライドン。ともに英国を代表する俳優でコメディアンである。彼らが本人役で出演する。ジョーク、毒舌、モノマネ。ドライブの間も食事中も、ひっきりなしにしゃべり続ける。ものまね合戦では、マイケル・ケイン、アル・パチーノ、マーロン・ブランドなど、名優たちの声音を競い合い、爆笑を誘う。プライベートでもこんな感じなのだろうか。ぴったり息の合った即興的な掛け合いが楽しい。

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 お楽しみ満載のイタリア旅行に浮き立つ男たち。中盤まではしゃいだ感じが画面にあふれる。料理が運ばれてくれば「グラッツィエ!」、美味に舌鼓を打っては「ラブリー!」。若い女性とのロマンスもあり、見ているこっちまでウキウキさせられる。

 だが、ただ能天気にイタリア観光を楽しむ男たちを描いただけの映画ではない。もともと仕事や私生活に悩みを抱えていた二人。気のおけない親友と愉快な時間を過ごす一方で、自分自身を見つめ直し、本来の自分を取り戻していく。人生を折り返した男たちの哀愁がそこはかとなく漂う。

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 その姿が見る者の心にしみるのは、彼らの演技が限りなく真実味をたたえているからだ。“フィクション”なのか“リアル”なのか。虚構と現実の境目があいまいなところは、マイケル・ウィンターボトム監督の真骨頂。実生活でも親友同士の俳優を起用したことで、その特徴がより強く出ているのかもしれない。

(文・沢宮亘理)

「イタリアは呼んでいる」(2014年、英国)

監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:スティーヴ・クーガン、ロブ・ブライドン、ロージー・フェルナー、クレア・キーラン

2015年5月1日(金)、Bunkamuraル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.crest-inter.co.jp/Italy/

作品写真:(c)Trip Films Ltd 2014
タグ:レビュー
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2015年01月27日

「ジミー、野を駆ける伝説」主演バリー・ウォードに聞く 名もなき英雄、ケン・ローチ作品で熱演

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 英国映画界を代表する名匠、ケン・ローチ監督最新作「ジミー、野を駆ける伝説」が公開中だ。1930年代のアイルランドを舞台に、自由を求めた実在の活動家、ジミー・グラルトンの半生を描いた作品。主演のバリー・ウォードは「監督は想像よりはるかに素晴らしい人だった」と語った。

 アイルランド独立戦争と内戦を描いてカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した「麦の穂をゆらす風」(06)など、社会派作品で知られるローチ監督。最新作で取り上げたのは、歴史に埋もれた名もなき活動家だった。村に「ホール(集会所)」を開いて人々に自由の尊さを説き、教会に糾弾されて国を追われた男。ウォードによると「ジミーはアイルランドでもほとんど無名だった」という。

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 「知られているのは唯一『米国へ追放された』こと。地元のアイルランド西部(リートリム州)で親せき、子孫によって横顔が語り継がれてきた。だから(演じたジミー像は)ある意味想像の産物でもある。監督が描きたいのはどんな人物か。あの時代に活動家として生きるのはどんなことか。自分で考えながら作り上げていった」

 ジミー同様、ウォードもほぼ無名の俳優だった。初めてのローチ作品が初主演映画になったが、不安はなかったという。「私自身ローチ監督の作品を見て育ち、人生を通してファンだった。だから絶大な信頼があった」。監督は「手には野良仕事でできた『たこ』があってほしい」と求めた。ダブリン郊外の町育ちのウォードは、ジミーが生きた現場に出向き、農民の畑仕事を手伝った。撮影中の監督は決して高圧的ではなく、俳優を望む方向に「押しやり、雰囲気や役に乗せていく」ように感じたそうだ。

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 「ジミーは左翼の活動家だが、優しさと人間味を描くことも大事だった。ダンスと音楽で人生を祝い、楽しむ。人々が喜ぶのを見るのも好きだった。地元で直接彼を知る人たちから思い出を聞いた。追放された米国から手紙とお金を送り、みんなに『パーティーを開け』と伝えてきたそうだ。子供好きで温かい人だった」

 監督への揺るぎない信頼、丁寧なキャラクター作りが、誠実で温かいジミー像に結実した。ただ、印象的なダンスのシーンに触れると、突然手で顔を覆い、恥ずかしそうに机に突っ伏した。「本当にダンスが苦手。何カ月も、何度も練習しなければだめだった。たいして難しくないのに(笑)」

 自分にとって「英雄」だったローチ監督に導かれ、監督が求める「英雄」を演じた。完成した作品を見て、改めて感じたことをは──。

 「よく『自分のヒーローに会ってみたらがっかりした』という話を聞きますね。私は逆に監督を過小評価していた。想像をはるかに上回る素晴らしい人だった。出演して最も驚き、印象に残ったことです」

(文・写真 遠海安)

「ジミー、野を駆ける伝説」(2014年、英国)

監督:ケン・ローチ
出演:バリー・ウォード、シモーヌ・カービー、ジム・ノートン、フランシス・マギー、アシュリン・フランシオーシ

2015年1月17日(土)、新宿ピカデリー&ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.jimmy-densetsu.jp/

作品写真:(C)Sixteen Jimmy Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Element Pictures, France 2 Cinema,Channel Four Television Corporation, the British Film Institute and Bord Scannan na hEireann/the Irish Film Board 2014

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2014年09月19日

「ウィークエンドはパリで」 結婚30年、再び新婚旅行先へ 夫婦愛の真髄に迫る

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 些細なことで衝突し、口論の絶えない熟年夫婦。だが破局目前とか離婚秒読みとかいった、深刻な状況にあるわけではない。どうやらこの夫婦なりのコミュニケーションの形なのだろう。妻がつむじを曲げても、夫がハグしてキスすればたちまち仲直り。

 とりわけ夫の妻への熱愛ぶりは、見ていて気恥ずかしくなるほど。路上で妻にキスを求めて、ひじ鉄をくらい転倒。したたかひざを打つくだりは、滑稽というより、微笑ましい。結婚30周年を迎えた今もなお、妻は夫の恋女房なのである。

 そんなに愛されているのだから、妻に不満などないだろうと思う。ところが、長い結婚生活の間には“事件”もあったようで、抑えていた不満が少しずつ吹き出してくる。夫のほうも負けずに不平をぶつけ始める。きっかけとなったのは、「勤務先の大学を解雇された」という夫の告白だった――。

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 30年目の結婚記念日を祝うため、新婚旅行先のパリを再訪した英国人夫婦の姿を追った「ウィークエンドはパリで」。当たらず触らずの何となく平穏な人生を歩んできた夫婦が、初めて本音で向き合い、改めて夫婦の絆を確かめ合う、ハートウォーミングな人間ドラマだ。

 夫のニックは名門大学出身で、将来を嘱望される優秀な学生だったが、卒業後は順風満帆とはいかなかったらしく、無名大学の教授に甘んじていた。しかも、その大学さえもクビになる始末。そんなニックが、パリの街で偶然大学時代の友人モーガンに出会う。モーガンは優秀なニックに憧れていたが、現在は作家として成功し、華やかな生活を送っている。

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 モーガンに招かれて妻のメグとともに赴いた出版記念パーティーには、売れっ子アーティストや有名大学教授、一流紙の記者など、人生の勝ち組が集まっており、ニックの劣等感を刺激した。モーガンはニックを賞賛するが、ニックは内心じくじたるものを感じ、思いがけない行動に出る。そんなニックに対してメグは――。夫婦愛の真髄に迫る終盤の展開が圧巻だ。

 夫のニックに扮するのは「アイリス」(01)、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(11)の名優ジム・ブロードベント。妻のメグには「トスカーナの休日」(03)のリンゼイ・ダンカン。まるで実際の夫婦のような息の合ったコンビネーションで、熟年夫婦をリアルに演じている。

 ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」やゴダールの「はなればなれに」など、夫婦の青春時代を彩った音楽や映画の引用の仕方も、取って付けたような感じがなく、自然でいい。「ノッティングヒルの恋人」(99)のロジャー・ミッシェル監督が生み出した、新たな愛の傑作だ。

(文・沢宮亘理)

「ウィークエンドはパリで」(2013年、英国)

監督:ロジャー・ミッシェル
出演:ジム・ブロードベント、リンゼイ・ダンカン、ジェフ・ゴールドブラム

2014年9月20日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://paris-weekend.com/

作品写真:(c) 2013 Free Range Films Limited/ The British Film Institute / Curzon Film Rights 2 and Channel Four Television Corporation.
タグ:レビュー
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2014年08月26日

「わたしは生きていける」 第三次世界大戦ぼっ発 悪夢と絶望を経て 少女は愛で立ち上がる

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 近未来を舞台に、第三次世界大戦に巻き込まれた若者たちを描いた「わたしは生きていける」。メグ・ローゾフによる同名小説の映画化だ。黒いアイラインに鼻ピアス、パンク・ファッションのデイジー(シアーシャ・ローナン)が、厳戒態勢の英国の空港に降り立つ。生まれた時に母を亡くし、折り合いの悪い父と暮らすデイジー。心を閉ざした16歳の米国人だ。

 デイジーは初めて会ういとこ3人と、大自然に囲まれて夏を過ごす。田舎暮らしは苦痛のはずだったが、天真爛漫ないとこたちと緑がデイジーの心を溶かす。一つ年上のエディー(ジョージ・マッケイ)との初恋も経験。居場所を見つけたデイジーだが、つかの間の平穏もある日を境に一変する。ロンドンで核爆発が起き、市民数万人が死亡したのだ。第三次世界大戦の勃発で英国に戒厳令が敷かれ、ライフラインもストップ。デイジーといとこたちは別々の施設に入れられる──。

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 前半は都会から来た少女が田舎暮らしで解放される姿を描いた「わたしは生きていける」。戦争ぼっ発を機に空気は一変。上空を横切る戦闘機。ピクニックの途中に聞こえる衝撃音。村に白い綿のような物体が降り注ぐ。デイジーたちが戸惑いながら家に帰ると、テレビはロンドンで起きた核爆弾テロを伝えていた。このシーンで観客は初めて事態を把握する。

 突如英軍の強制連行が始まった。エディーと弟アイザック(トム・ホランド)は軍事施設へ、デイジーと兄弟の幼い妹パイパー(ハーリー・バード)は軍が管理する住宅へ連行される。デイジーの心の支えは、強制連行される際にエディーが叫んだ「何があっても、ここに戻れ」という約束だった。その言葉を信じ、デイジーはパイパーを連れて施設を脱走する。

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 「ラストキング・オブ・スコットランド」(06)でフォレスト・ウィテカーに米アカデミー賞主演男優賞をもたらしたケビン・マクドナルド監督。今回はローナンから繊細な演技を引き出した。自意識過剰なデイジーは他人との接触を極度に嫌い、自分の殻に閉じこもる。しかし、田舎暮らしと初恋を経て、極限状態に置かれ、絶望から生き抜く強い心と精神を持った少女に成長する。

 マクドナルド監督は「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」(99)など、ドキュメンタリー作品でも高い評価を得ている。物語から一歩引いた手法、緊張感あふれるリアルな演出。フィクションを超えた映像を見た錯覚に陥る。悪夢のような恐ろしいドラマだが、根底に流れる愛の力がそれを打ち消し、再生を予感させる。余韻を残した幕引きに救われる青春ドラマの佳作である。

(文・藤枝正稔)

「わたしは生きていける」(2013年、英国)

監督:ケビン・マクドナルド
出演:シアーシャ・ローナン、トム・ホランド、ジョージ・マッケイ、ハーリー・バード、ダニー・マケボイ

2014年8月30日(土)、有楽町スバル座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.howilivenow.jp/

作品写真:(C)The British Film Institute/Channel Four Television Corporation/ HILN Ltd 2013

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