2017年01月27日

「僕と世界の方程式」天才数学少年、人と出会い新たな人生へ

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 テレビドキュメンタリー作家のモーガン・マシューズによる初劇場作品。07年に製作した「国際数学オリンピック」に出場する学生を追った3本の記録番組が元となっている。

 国際数学オリンピックを目指す天才少年ネイサン(エイサ・バターフィールド)は、他人とコミュニケーションがうまく取れず、医師から「自閉症スペクトラム」と診断される。数学や図形に興味を示し、幼いころから才能を発揮していた。しかし、唯一の理解者だった父を交通事故で亡くし、さらに自分の殻にこもってしまう。母ジュリー(サリー・ホーキンス)は、息子の才能を伸ばそうと数学教師のマーティン(レイフ・スポール)に個人授業を依頼する。

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 少年になったネイサンの現在を主軸に、幼い過去を交差させて物語は展開する。人との出会いが人生を切り開いていく。師となりオリンピック参加を勧めるマーティンは、父親的な存在だ。数学の強化合宿があった台北で出会った中国チームの女子生徒チャン・メイ(ジョー・ヤン)は、ネイサンの心に入り込み、癒やし、新たな世界の扉を開かせるミューズとなる。

 心境の変化は、環境の変化にも影響されていた。ネイサンが生まれ育った英シェフィールドは整然とした町。合宿先の台北に身を置いたことで、新たな価値観に向き合い、自らを解放させる。数式で答えを出す世界に育ったネイサンは、それまでの方法では回答できない愛にたどり着く。人生にカラフルな色がつき、新たに生まれた無限の感情とともに成長していく。

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 難しい役を繊細に演じたバターフィールドの好演と、ネイサンの人生に静かに寄り添う演出。ドキュメンタリー出身のマシューズ監督の洞察力、柔軟な視点が合わさり、心温まる作品となった。

(文・藤枝正稔)

「僕と世界の方程式」(2014年、英国)

監督:モーガン・マシューズ
出演:エイサ・バターフィールド、レイフ・スポール、サリー・ホーキンス、エディ・マーサン、ジョー・ヤン

2017年1月28日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://bokutosekai.com/

作品写真:(c)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014
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2017年01月26日

「僕と世界の方程式」数学五輪で知った初恋 天才少年が手にした“金メダル”

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 数学の才能に秀でたネイサン少年は、人づき合いが大の苦手。唯一心を開いていた父親が事故死してからは、完全に心を閉ざし、数学の世界に没入していた。そんなネイサンの将来を気遣った母親は、かつて数学オリンピック選手だったこともある学校教師のマーティンに、息子の個人教授を依頼する。特訓の甲斐あって、才能を伸ばしたネイサンは、数学オリンピックの英国代表メンバーに選ばれた。

 最終選抜の行われる台湾合宿では、強豪の中国チームと合同で特訓の日々。そこでも他人と打ち解けることはなかったネイサンだが、ペアを組んだ中国人少女チャン・メイだけは別だった。数学が人生のすべてだったネイサンが、チャン・メイと出会い、初めて数学以外の喜びに目覚める。ネイサンにとって大きな転機が訪れる――。

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 モーガン・マシューズ監督が、2007年に自身の撮ったドキュメンタリー「Beautiful Young Minds」(07)をドラマ化した。ドキュメンタリーでは描き切れなかった主人公の内面を掘り下げ、感動的な作品に仕上げている。

 数学の世界に閉じこもり、数学だけを生きがいにしていた少年が、初恋を通して、数学以外の人生に目が開かれる。その契機となったのが数学オリンピックであるというのが、皮肉でもあり、爽快でもある。

 勉強を手伝おうと歩み寄る母親を拒絶し、「なぜ?」と問う母親に「あんたは頭が悪いから」と言い放つ。主人公の冷血なキャラクターが、恋を知ることで、変化していく。息子と母の関係が変わっていく。どんよりと曇っていた2人の人生が輝きを放ち始める。

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 金メダルをかけた天才少年の物語が、後半は思春期の少年のラブストーリーへと一転する。少年と少女の心のふれあい、求め合い。しかし、それがトラブルを引き起こす。主人公は追い詰められ、人生の選択を迫られる。そこで彼が導き出した“解”は何だったのか?

 自分の殻に閉じこもっていた少年が、恋する少女によって殻を破られ、すさまじいエネルギーで外界に飛び出していく。思わず快哉を叫びたくなる、青春映画の傑作である。

(文・沢宮亘理)

「僕と世界の方程式」(2014年、英国)

監督:モーガン・マシューズ
出演:エイサ・バターフィールド、レイフ・スポール、サリー・ホーキンス、エディ・マーサン、ジョー・ヤン

2017年1月28日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://bokutosekai.com/

作品写真:(c)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014
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2016年11月30日

「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」ストリープ×グラント、歌と愛のコメディー・ドラマ

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 1940年代、米ニューヨーク。社交界に君臨するマダム・フローレンス(メリル・ストリープ)の愛と財産は、夫シンクレア(ヒュー・グラント)と音楽に捧げられていた。ソプラノ歌手が夢のフローレンスだったが、自分の歌の致命的な欠陥に気付いていなかった──。

 音楽の殿堂「カーネギーホール」で、音痴なのにリサイタルを開いた実在の富豪フローレンス・フォスター・ジェンキンス(1868〜1944)と、夫シンクレア・ベイフィールドを描いたコメディー・ドラマ。監督は「クィーン」(06)、「あなたを抱きしめる日まで」(13)のスティーヴン・フリアーズだ。

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 映画界では今ちょっとした「マダム・フローレンス」ブームのようだ。昨年は彼女がモデルのフランス映画「偉大なるマルグリット」(15)が公開。今回は本人をストレートに描く「本命版」といえる。

 フローレンスはずばり「下手の横好き」。本人はひどい歌声に気付かず、真面目に練習に取り組み、歌に情熱を捧げる。はたから見れば滑稽としかいえない。夫のシンクレアといえば、ひたすら妻の夢のため奔走する。金をばらまいて人を買収し、音楽知らずのイエスマンを集めて裏工作に励む。ブラックな夫である。

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 いわば舞台劇的な演出のため、俳優の演技がものをいう。大女優ストリープはジャンルを問わず柔軟に演じ分けられる。彼女のキャリアでも珍しいコメディーで音痴役だ。実際には「マンマ・ミーア!」(08)でも証明された美声で、今回はわざわざ訓練して演じたそうだ。

 年下夫役のグラントが、実は裏の主役かもしれない。端正な外見を武器に満面の笑みをたたえ、献身的に妻を支える表の顔。夜は妻が寝たことを確認し、愛人が待つ別宅で過ごす。二面性を持つ腹黒いプレイボーイを楽しげに演じている。

 1940年代、第二次世界大戦中の米国。フローレンスの音痴な歌声は、ささくれだった米兵の心を癒やしたという。 ノスタルジックな時代背景に、ストリープとグラントの息の合った名演。ストレス多き現代人の心を癒やす、楽しいコメディー映画に仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」(2016年、英)

監督:スティーブン・フリアーズ
出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーク、レベッカ・ファーガソン、ニナ・アリアンダ

2016年12月1日(木)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/florence/

作品写真:(C)2016 Pathe Productions Limited. All Rights Reserved
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2016年05月24日

「エンド・オブ・キングダム」ロンドンをテロリストが狙う ジェラルド・バトラー主演アクション大作

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 米大統領のシークレット・サービス(警護官)とテロリストの激突を、ジェラルド・バトラー主演で描いた「エンド・オブ・ホワイトハウス」(13)の続編「エンド・オブ・キングダム」。舞台を米ワシントンから英ロンドンに移し、新たな戦いが描かれる。監督にはイラン出身のスウェーデン人、ババク・ナジャフィ。

 ホワイトハウス陥落から2年。シークレット・サービスに復帰したマイク・バニング(ジェラルド・バトラー)は、米大統領(アーロン・エッカート)に付き添いロンドンへ向かっていた。不可解な死を遂げた英首相の葬儀に参列するためだ。ところが世界40カ国の代表が集まる中、突然同時多発テロが起きる──。

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 前作では北朝鮮のテロリストが敵だったが、今回はパキスタンの武器商人だ。米国のミサイル攻撃で結婚式の最中に家族を殺され、恨みをもって米大統領を攻撃する。犯人を絶対的な悪として描かないところに、現実の複雑な世界情勢が反映されている。

 ロンドンで起きたテロで各国首脳、警官、市民に多くの死傷者が出る。観光名所も次々破壊される中、大統領はかろうじてその場を脱出するが、テロリストの攻撃は執ようだった。最終目的は大統領をとらえ、ネットで全世界に処刑映像を流すこと。バニングは大統領を守り通せるのか。

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 たたみかけるアクション、爆破、破壊の連続だ。一瞬たりとも気を抜くひまがない。誰もが知るロンドンの名所が、特殊効果で派手に破壊される。監督の演出は強引で、やや稚拙な特殊効果シーンも力でねじ伏せる。前作をはるかに上回るスケールだ。大統領と警護官の友情もうまく生かされ、テロに脅かされる現実世界をほうふつとさせる大作となった。

(文・藤枝正稔)

「エンド・オブ・キングダム」(2016年、英・米・ブルガリア)

監督:ババク・ナジャフィ
出演:ジェラルド・バトラー、アーロン・エッカート、モーガン・フリーマン、アロン・アブトゥブール、アンジェラ・バセット

2016年5月28日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://end-of-kingdom.com/

作品写真:(C)LHF Productions,Inc.All Rights Reserved.
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2016年04月08日

「さざなみ」崩壊していく結婚生活 シャーロット・ランプリング絶品演技

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 結婚45年の記念パーティーを週末に控えた老年カップル。当日までの6日間を妻の視点で追った作品だ。45年間、おそらく波風ひとつ立てず、仲睦まじく過ごしてきたのであろう、ジェフとケイト。そんな2人の前に突如として過去の“亡霊”が現われ、穏やかだった結婚生活にほころびが生じていく――。

 きっかけは、スイスから届いたジェフ宛ての手紙だった。ジェフは結婚前にカチャという恋人と付き合っていたが、彼女は1962年に雪山で遭難死していた。その遺体が見つかったので、確認に来てほしいというのだ。

 ジェフは「ぼくのカチャ」とつぶやき、うっとりした表情を見せる。まるで恋人との再会が楽しみでならないかのように。ケイトとしては、自分と出会う前の夫の恋愛など、気にとめないつもりだったろう。しかし、もうこの世に存在しないにもかかわらず、ジェフの心の中でカチャはまだ生きている。おまけにジェフはそれを隠そうともしないのだ。ケイトの心に激しい怒りと嫉妬が芽生える。

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 もしかしたら、ジェフはただの無邪気な男なのかもしれない。過去の恋愛である。しかも、相手は死者。浮気とは違う。過去の恋愛を懐かしむくらい、罪にならないはずだ。そんな思いでいたのではないか。だから、妻の過敏な反応に驚いているかもしれない。

 そこにケイトとの意識のズレがあったか。ケイトにとっては、死者だからこそ問題なのだ。夫の心の中に潜む女を、夫から引き離すことなどできない。死者には勝てない。カチャのことをずっと隠してきたことも許せないだろう。

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 そんな妻の機嫌をとろうとしたか、久々にケイトをベッドに誘うが、あっという間に果ててしまう。そして、その後のジェフの行動が、ケイトに決定的な一撃を与えることになる──。

 予定どおり開催される記念パーティー。ロングショットでとらえられた2人、とくにケイトの表情の変化を見逃さないでほしい。結婚とは、夫婦とは、恋愛とは。男と女の普遍的な問題を鋭く突きつける。シャーロット・ランプリングの演技が絶品である。

(文・沢宮亘理)

「さざなみ」(2015年、英国)

監督:アンドリュー・ヘイ
出演:シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ

2016年4月9日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://sazanami.ayapro.ne.jp/

作品写真:(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014
タグ:レビュー
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