2017年10月22日

「セブン・シスターズ」7つ子VS一人っ子政策 ノオミ・ラパス1人7役

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 爆発的な人口増と深刻な食糧難に直面する近未来社会。当局は、一家族につき出産は1人のみとする“一人っ子政策”を強行する。違反すると、2人目以降の子供は冷凍保存。地球環境の回復を待ち、解凍・蘇生させる約束だが、保証はない。そんな中、ある病院で7つ子の姉妹が生まれる。発覚すれば6人が冷凍されてしまう。

 死亡した母親に代わって孫娘たちを引き取った祖父は、7人全員を守るため、秘策を思いつく。それは、7つ子を1人の子に見せかけること。マンデー(月曜)からサンデー(日曜)まで、曜日の名を付けられた7つ子は、それぞれの曜日に交代で外出し、カレン・セットマンという共通人格を演じるのだ。

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 幸運にもトリックは見破られることなく、成人した姉妹は銀行員としてエリート街道を歩んでいる。ところが、ある日、マンデーが出勤したきり行方不明に。2人同時に目撃されるリスクはあったが、姿を見せなければ怪しまれる。翌日、チューズデー(火曜)は勇を鼓して出勤。残りの姉妹たちと連絡を取り合いながらマンデーの行方を追うのだが――。

 中盤から始まるバトルが見ものだ。“児童分配局”から差し向けられた武装軍団と姉妹たちとの熾烈な闘い。中でも、身体能力に秀でたウェンズデー(水曜)が男たち相手に繰り広げる激闘は迫力満点だ。1人また1人と姉妹たちを失いながらも、終盤のクライマックスに至り、サーズデー(木曜)はついにマンデー失踪の真相を探り当てる。そこで彼女が目にした恐るべき秘密とは?

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 一卵性ゆえ見た目はそっくりだが、性格や能力は七人七色。微妙に異なる7人を、「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」(09)、「プロメテウス」(12)のノオミ・ラパスが精妙に演じ分けている。7人のラパスが一堂に会する映像は圧巻だ。

 献身的な祖父役はウィレム・デフォー、児童分配局の悪玉役はグレン・クローズ。どっしりと脇を固め、ノオミ・ラパスの独壇場を盛り上げる両名優の見事な役作りにも注目したい。

 地球規模の人口爆発、そして産児制限。実際に起きている現象だ。解凍技術は未開発ながら、人体の冷凍保存も現実に行われている。近未来SFだが、設定はリアル。人類の明日を予言したような怖さが漂う映画だ。

(文・沢宮亘理)

「セブン・シスターズ」(2016年、英・米・仏・ベルギー)

監督:トミー・ウィルコラ
出演:ノオミ・ラパス、グレン・クローズ、ウィレム・デフォー

2017年10月21日(土)、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.7-sisters.com/

作品写真:(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016
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2017年10月18日

「セブン・シスターズ」ノオミ・ラパス、一人「7役」 変幻自在の役作り

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 人口過多と食糧不足から、厳格な一人っ子政策が敷かれた近未来。2人目以降の子供は政府の児童分配局が親から引き離し、地球資源が回復する日まで冷凍保存する。セットマン家の7つ子姉妹は、唯一の身寄りである祖父に各曜日の名前が付けられた。それぞれ週1日ずつ外出し、共通の人格を演じて30歳まで生き延びた。しかし、ある日“月曜”が帰らず、姉妹の日常は狂い始める──。

 一度は「映像化は不可能」と判断されたものの、脚本が書き直され、ノルウェー出身のトミー・ウィルコラ監督が映像化した「セブン・シスターズ」。当初は男兄弟の話だったが、監督が「ラパスに演じさせたい」と希望。姉妹に設定を変えて実現したアクション・スリラーだ。

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 近未来を描いたSF映画は、大きく二つに分けられる。当局による管理社会を描いたものと、核戦争などで荒廃した世界を描く「ディストピアもの」だ。今回は管理社会ものに分けられるだろう。

 遺伝子組み換え作物の影響で多胎児が増えたため、政府は一人っ子政策を徹底する。1人以外の子どもはすべて冷凍保存され、資源が回復した時に「解凍」される約束だ。人々の行動は厳しく管理され、いたるところに検問所がある。そんな中で生まれたのが、主人公の七つ子姉妹だった。

 母親が死んだため、七つ子は祖父テレンス・セットマン(ウィレム・デフォー)に引き取られ、アパートの隠し部屋で育てられる。曜日の名前を持つ7人は、共通の人格「カレン・セットマン」を演じ続ける。

 エリート銀行員となったカレンだったが、“月曜”が出勤したまま行方不明にに。足跡をたどった“火曜”もケイマン博士(グレン・クローズ)率いる児童分配局に連行され、残った5人にも当局の魔の手が迫っていた。

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 「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(09)でブレイクしたスウェーデン出身のラパス。ハリウッド進出して活躍中だが、「プロメテウス」(12)、「ラプチャー 破裂」(16)と災難に見舞われる役が続く。性格の違う七姉妹を一人で演じた分けた変幻自在な役作りが際立ち、裏に人口増加に警鐘を鳴らす深刻なテーマが見え隠れする。不可能を可能にした斬新な映像技術と、ひねりが効いた切り口の近未来映画の佳作である。

(文・藤枝正稔)

「セブン・シスターズ」(2017年、英・米・仏・ベルギー)

監督:トミー・ウィルコラ
出演:ノオミ・ラパス、グレン・クローズ、ウィレム・デフォー、マーワン・ケンザリ、クリスティアン・ルーベク

2017年10月21日(土)、新宿シネマカリテほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.7-sisters.com/

作品写真:(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016

タグ:レビュー
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2017年04月08日

「マイ ビューティフル ガーデン」“植物恐怖症”のヒロイン、庭作りで得た出会い

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 ガーデニングの伝統ある英国を舞台に、“植物恐怖症”の変わり者ヒロインが、庭作りを通して成長するドラマ「マイ ビューティフル ガーデン」。
 
 ベラ(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は生活スタイルにこだわりを持っている。家に付いている庭は荒れ放題。植物恐怖症の彼女にとって、庭はありがた迷惑な存在だった。美しい庭を愛する偏屈な隣人アルフィー(トム・ウィルキンソン)は、ベラが目障りで仕方がない。庭の手入れをしないベラに、ある日突然退去命令が届く。

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 生後間もなく公園に捨てられたベラ。冒頭で不幸な生い立ちが冗舌に語られる。フランスのヒット作「アメリ」(01)のジャン・ピエール・ジュネを思わせる演出だ。ベラのトラウマになった公園の植物。食事、服装、時間と秩序にこだわる子ども時代。変わり者のベラができる過程がテンポよく描かれる。

 大人になったベラはアパートに暮らし、絵本作家を夢見ながら図書館勤め。極端に秩序にこだわるが、庭の手入れはしない。そんなベラにかかわる男性3人。まずは頑固老人のアルフィー。庭を放ったらかしのベラに口うるさく絡む。

 さらにアルフィーのお抱え料理人バーノン(アンドリュー・スコット)。料理の腕は抜群で、法律に詳しい双子の女子を育てるシングル・ファーザー。ベラに朝食を作ってアルフィーの逆鱗に触れ、首になったところをベラに雇われる。最後は図書館に来る風変わりな発明家のビリー(ジェレミー・アーバイン)。自分と正反対に自由で型破りなビリーに、ベラは恋心を抱く。

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 変わり者のベラは3人の男たちにかかわり、偏屈な心を徐々に解き放っていく。荒れ放題の庭も手入れされ、色とりどりの花が咲き誇るようになり、頑なな老人の心も癒やされていく。個性豊かな登場人物が織りなす物語は、心を通わせハーモニーを奏で、美しい庭へと結びつく。

 ややできすぎな印象はあるが、魅力的な俳優たちのアンサンブルは心地よい。ユーモラスな語り口で、ちょっと風変わりな英国流シンデレラ・ストーリーに仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「マイ ビューティフル ガーデン」(2016年、英)

監督:サイモン・アバウド
出演:ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、トム・ウィルキンソンアルフィー・スティーヴンソン、
ジェレミー・アーバイン、アンナ・チャンセラー

2017年4月8日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.my-beautiful-garden.com/

作品写真:(C)This Beautiful Fantastic UK Ltd 2016

タグ:レビュー
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2017年03月14日

「わたしは、ダニエル・ブレイク」労働と貧困、福祉の矛盾 ケン・ローチ監督、79歳の反骨精神

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 労働者階級や移民など、社会的弱者を描き続けてきた英国の名匠ケン・ローチ監督。前作「ジミー、野を駆ける伝説」(14)を最後に引退表明したが、79歳になって「どうしても伝えたい物語がある」と復帰。「わたしは、ダニエル・ブレイク」を撮り上げ、カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した。「麦の穂をゆらす風」(06)に続く2度目の快挙である。

 59歳の大工ダニエル(デイブ・ジョーンズ)は最愛の妻に先立たれ、心臓発作で医師に働くことを止められた。国の手当て支給のためマニュアル通りの問診をする医療スタッフ。四角四面なやり取りにいら立つダニエル。矛盾だらけの福祉制度と問題点が浮かび上がる。

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 審査で「就労は可能、手当て支給は中止」と判断されたダニエル。手当てを受けるには数々の試練を乗り越えなければならなかった。受付窓口に電話をかければ保留で長く待たされ、出たと思えば「鑑定人の連絡を待て」と一方的な回答。職業安定所へ行けば「パソコンで申請しろ」と言われるが、使い方が分からない。何度も通ったある日、職安でシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)、彼女の子ども2人に出会う。同じ立場同士、友情と家族のような絆が芽生えていく──。

 初老で失業したダニエルと、貧しい母親のケイティ。世の中の仕組みは社会的弱者からすれば矛盾だらけだ。職安は仕事や手続きを紹介はするが、余計な手助けは一切しない。本人任せだ。ダニエルは求職者手当てを得るため、一定回数の面接を受けなければならない。ダニエルを見ながら行政への不信感が生まれ、福祉の仕組みにあきれてしまう。

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 貧しさに苦しむケイティは、食べ物は自分は口にせず子どもたちに与え続ける。無償で食品が配給されるフードバンクで、空腹に耐えられず、その場で食べてしまい泣き崩れる。その後、スーパーで万引きしたことを機に知り合った警備員に紹介され、いかがわしい仕事に手を出してしまう。

 働けなくなった労働者、貧しい人たちがぶつかる福祉の矛盾。監督は皮肉を込めて観客に疑問を投げかける。監督の反骨精神、力強いメッセージを感じる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016年、英・仏・ベルギー)

監督:ケン・ローチ
出演:デイブ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター

2017年3月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://danielblake.jp/

作品写真:(C)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016
タグ:レビュー
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2017年01月27日

「僕と世界の方程式」天才数学少年、人と出会い新たな人生へ

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 テレビドキュメンタリー作家のモーガン・マシューズによる初劇場作品。07年に製作した「国際数学オリンピック」に出場する学生を追った3本の記録番組が元となっている。

 国際数学オリンピックを目指す天才少年ネイサン(エイサ・バターフィールド)は、他人とコミュニケーションがうまく取れず、医師から「自閉症スペクトラム」と診断される。数学や図形に興味を示し、幼いころから才能を発揮していた。しかし、唯一の理解者だった父を交通事故で亡くし、さらに自分の殻にこもってしまう。母ジュリー(サリー・ホーキンス)は、息子の才能を伸ばそうと数学教師のマーティン(レイフ・スポール)に個人授業を依頼する。

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 少年になったネイサンの現在を主軸に、幼い過去を交差させて物語は展開する。人との出会いが人生を切り開いていく。師となりオリンピック参加を勧めるマーティンは、父親的な存在だ。数学の強化合宿があった台北で出会った中国チームの女子生徒チャン・メイ(ジョー・ヤン)は、ネイサンの心に入り込み、癒やし、新たな世界の扉を開かせるミューズとなる。

 心境の変化は、環境の変化にも影響されていた。ネイサンが生まれ育った英シェフィールドは整然とした町。合宿先の台北に身を置いたことで、新たな価値観に向き合い、自らを解放させる。数式で答えを出す世界に育ったネイサンは、それまでの方法では回答できない愛にたどり着く。人生にカラフルな色がつき、新たに生まれた無限の感情とともに成長していく。

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 難しい役を繊細に演じたバターフィールドの好演と、ネイサンの人生に静かに寄り添う演出。ドキュメンタリー出身のマシューズ監督の洞察力、柔軟な視点が合わさり、心温まる作品となった。

(文・藤枝正稔)

「僕と世界の方程式」(2014年、英国)

監督:モーガン・マシューズ
出演:エイサ・バターフィールド、レイフ・スポール、サリー・ホーキンス、エディ・マーサン、ジョー・ヤン

2017年1月28日(土)、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://bokutosekai.com/

作品写真:(c)ORIGIN PICTURES (X&Y PROD) LIMITED/THE BRITISH FILM INSTITUTE / BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2014
タグ:レビュー
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