2019年02月14日

「女王陛下のお気に入り」18世紀イングランド王室、女3人の愛憎劇 古典的な物語、斬新な撮影技術で

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 18世紀初頭、イングランド。ルイ14世のフランスと戦争中の女王のアン(オリビア・コールマン)を、女王の幼なじみのレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)が操っていた。そこにサラの従妹の没落貴族、アビゲイル(エマ・ストーン)が、召使いとしてやってくる。サラに気に入られ、侍女に昇格したアビゲイルに野望が芽生える──。

 気まぐれで病弱、頑固に国を守るアン女王。女王の寵愛を受けるサラ。サラの立場を奪おうとするアビゲイル。女3人の争いを、きらびやかな衣装と豪華な宮廷セットで描く。監督は「ロブスター」(15)、「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(17)のヨルゴス・ランティモス。ギリシャ生まれの奇才だ。

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 史実をベースにしつつ、女王の威厳ある話は描かない。取り巻く侍女たちの腹黒い思惑をシニカルに表現する。女王の気まぐれに振り回されながら、サラは裏で彼女を操り、愛人にもなっている。二人の絶対的な関係に割って入るのがアビゲイルだ。若さと美貌でサラに取って代わろうと、裏工作をしながらタイミングをうかがい、ついにチャンスが訪れる。

 古典的なストーリーに対し、撮影方法は斬新だ。自然光やろうそくの明かりを使い、観客が宮廷内部をのぞき見るしかけになっている。画角が180度を超える魚眼レンズや広角レンズ。360度の撮影技法「ヴィプ・パン」により、素早い平行移動でカメラをパン。カット割りはせず、複数の人物が向き合う様子を、ワンカットでとらえている。

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 さらに、カメラの振動を抑える特殊な装置「ステディカム」で、宮廷や屋外を左右対称な構図でとらえる。「シャイニング」(80)の移動シーンで、スタンリー・キューブリック監督が用いたことで知られる技法だ。動きのある移動が、幻想的で浮遊感を持つようになる。古典的な物語から古臭さを払拭したのは、そんな技術にあるだろう。

 主役の女性3人のうまさも際立つ。わがままで気難しく、病弱な女王役のコールマン。クールな美貌と気品で女王に愛されるワイズ。若さ、野心、行動力、計算高さを併せ持ったストーン。アンサンブルが絶妙である。

 年明けから米ゴールデングローブ賞、英アカデミー賞と、賞レースで快進撃を見せてきた。2月下旬の米アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演&助演女優賞など10部門で候補になっている。豪華絢爛な愛憎劇に注目だ。

(文・藤枝正稔)

「女王陛下のお気に入り」(アイルランド・英・米)

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン

2019年2月15日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/

作品写真:(C)2018 Twentieth Century Fox

posted by 映画の森 at 15:21 | Comment(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月12日

「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」“Mr.ビーン”ことローワン・アトキンソン、「007」パロディーを熱演

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 イギリスの諜報機関「MI7」のスパイ情報が、サイバー攻撃で漏洩した。隠居状態の元スパイ、ジョニー・イングリッシュ(ローワン・アトキンソン)が呼び出され、任務を開始する。しかし、ローテクのアナログ人間ジョニーにとって、敵はむしろ最新技術だった──。

 大ヒットコメディー「Mr.ビーン」のアトキンソン主演シリーズ3作目。監督は英BBCで多くのテレビドラマを監督してきたデビッド・カー。初の劇場映画だ。

 スパイが活躍する映画の人気は今も高い。ジェームズ・ボンドの「007」、イーサン・ハントの「ミッション・インポッシブル」。俳優のマット・デイモン主演の「ボーン」シリーズ、コリン・ファース主演「キングスマン」シリーズと、作品を重ねて世界の観客を魅了している。

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 そんな王道スパイ映画と別の道を、「ジョニー・イングリッシュ」は独走する。06年に第1弾、11年に続編の「ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬」が公開。今回の「アナログの逆襲」は7年ぶりのシリーズ最新作。

 物語はいたって真面目だ。アトキンソン主演で「007」をパロディー化するもので、主人公のイングリッシュは「MI6」ならぬ「MI7」諜報員。愛車はボンドと同じ旧型のアストンマーチン。武器担当者のコードネームは「Q」ではなく「P」。最新のスパイ・アイテムも、イングリッシュの手にかかれば無用の長物と化す。

 パロディーといっても手抜きはない。アシスタント監督は米スタント界の重鎮ヴィク・アームストロング。本家の「女王陛下の007」(69)、「007 死ぬのは奴らだ」(73)のスタント、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(97)のセカンド監督のほか、「レイダース 失われたアーク」(81)など、多くの作品でハリソン・フォードのスタントを務めた。英国の首相役には英の大女優エマ・トンプソン。謎の美女に「007 慰めの報酬」(08)のボンドガール、オルガ・キュリレンコ。

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 しかし、なんといっても見どころは、アトキンソンの顔芸と体を張った「迷」演技。イングリッシュはいたって真面目に任務をこなしているが、思い込みと勘違いが激しく、事態が思わぬ方に動いてしまう。むちゃくちゃな中も最終的には結果オーライになり、アトキンソンがポーカーフェイスできめまくる。

 アナログ男のイングリッシュが、初体験のVR(バーチャル・リアリティー)に没入。街の人々を巻き込み大暴れするシーンが最高だ。「Mr.ビーン」が復活したようなアトキンソンの健在ぶり。作りこまれたスパイ・コメディーの快作である。
 
(文・藤枝正稔)

「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲」(2018年、英)

監督:デビッド・カー
出演:ローワン・アトキンソン、ベン・ミラー、オルガ・キュリレンコ、ジェイク・レイシー、エマ・トンプソン

2018年11月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://johnnyenglish.jp/

作品写真:(C)2018 Universal Studios and Studiocanal SAS
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2018年05月30日

「ビューティフル・デイ」闇から少女を救う仕事人 ホアキン・フェニックス、驚異の役作り

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 元軍人のジョー(ホアキン・フェニックス)は行方不明者探しのスペシャリストだ。ある時、議員の娘・ニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)を売春組織から救い出すが、彼女はあらゆる感情が欠落したかのように無反応だった。そして2人はニュースで依頼したニーナの父が飛び降り自殺したと知る──。

 ジョナサン・エイムスの犯罪小説を、「少年は残酷な弓を射る」(11)のリン・ラムジーが監督、脚本、製作を担当して映画化した。カンヌ国際映画祭で主演男優賞(フェニックス)、脚本賞を受賞した。

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 ジョーの仕事道具はハンマーだけ。「闇の仕事人」の雰囲気だが、過去は一切説明されない。しかし、今も苦しめられるトラウマ、フラッシュバックから、つらい記憶が読み取れる。幼い頃に父に受けた虐待。海兵隊時代の砂漠の風景。FBI(米連邦捜査局)捜査官として見た少女の死体の山。ジョーの心はむしばまれ、常に自殺願望にとわわれていた。

 フェニックスの役作りは尋常ではない。体重をかなり増やして巨漢になり、白髪交じりのぼさぼさした髪を後ろでたばね、ひげづらで最初は本人と分からない変貌ぶりだ。上半身裸のシーンでは、無数の傷と刺青がさらされる。過酷な闇仕事をしてきた証だろう。仕事の時は感情を殺すが、同居する母の前では少年のようにふざける。母は息子の仕事を知らないのかもしれない。

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 売春組織からニーナを救い出したが、ジョーは逆に殺し屋に狙われる。ニーナは再びさらわれてしまい、ジョーの母も狙われるが、ジョーの心にはニーナがおり、再び救い出すために動き出す。監督の演出は計算されており、幕引きは観客にゆだねられている。暴力と死が支配する物語の中で、ジョーとニーナのつながりが救いになる。

 売春組織から少女を救う設定に、ポール・シュレイダーが脚本を書いた「タクシードライバー」(76)、ポルノ業界に娘をとられた父を描くシュレイダー監督作品「ハードコアの夜」(79)を思い出した。少女を食い物にする米国社会の闇の深さを、改めて感じさせる衝撃作だ。

(文・藤枝正稔)

「ビューティフル・デイ」(2017年、英国)

監督:リン・ラムジー
出演:ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ、ジョン・ドーマン、アレックス・マネット

2018年6月1日(金)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://beautifulday-movie.com/

作品写真:Copyright (C) Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved. (C) Alison Cohen Rosa / Why Not Productions

タグ:レビュー
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2018年02月01日

「スリー・ビルボード」娘が殺された 孤軍奮闘する母、田舎町を揺るがす

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 最愛の娘が殺されて数カ月。犯人逮捕の気配がなく憤る母親のミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、捜査の遅れに抗議するため、町はずれに巨大な広告看板を設置し、警察と激しく対立する──。

 昨年のベネチア国際映画祭で脚本賞、トロント国際映画祭観客賞、先日の第75回ゴールデン・グローブ賞でも作品賞など主要4部門を獲得。3月の第90回米アカデミー賞も作品賞ほか7部門で候補となっている話題作「スリー・ビルボード」。監督・脚本・製作は「セブン・サイコパス」(12)のマーティン・マクドナー。

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 米ミズーリ州の田舎町エビング。さびれた道路脇に立つ朽ちかけた広告看板を、車の運転席から中年女性が見つめている。女性はミルドレッド。7カ月前、娘がレイプされて殺されたのだ。その足で看板を管理するエビング広告社に出向き、前金で1年間の広告契約を結ぶ。

 ミルドレッドは警察に不満をぶつけるように、赤地に黒文字で掲げる。「レイプされて死亡」、「なぜ? ウィロビー署長」、「犯人逮捕はまだ?」。すべて警察署長のウィロビー(ウディ・ハレルソン)に向けていた。パトロール中のディクソン巡査(サム・ロックウェル)が看板に気づき、ウィロビー署長に報告する。

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 看板をめぐる出来事をシリアスに描きつつ、黒い笑いを塗したクライム・サスペンスだ。静かだった田舎町に波紋が広がり、町全体を揺るがす一大事へ発展する。信念だけ警察と戦う母親を演じたマクドーマンド。筋が通ったぶれない姿勢がポイントだ。

 対照的にぶれまくるのが、暴力巡査を演じたロックウェル。母親と2人暮らしの単細胞で、ことごとくミルドレッドの挑発に乗り、事を大きくする。ハレルソン演じる署長は、ミルドレッドとディクソン巡査、事件の板挟みとなる。穏健派で町の人々の信頼も厚く、父性を持った存在で、揺れる町の均衡をかろうじて保つ。

 後を絶たないレイプ事件を、当事者ではなく、遺族と警察の視点で描く。きっかけとなる事件そのものは描かない。被害者が死亡したため、犯人は闇へと消えた。

 ミルドレッドと警察の対立から始まる物語は、犯人探しの推理劇に発展する。孤軍奮闘するミルドレッドは、西部劇の主人公のごとく、自力で決着を付けようとする。先の見えない運命を暗示する極上の幕引きが、力強く、深い余韻をもたらした。

(文・藤枝正稔)

「スリー・ビルボード」(2017年、英)
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス

2018年2月1日(木)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/

作品写真:(C)2017 Twentieth Century Fox

タグ:レビュー
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2017年10月22日

「セブン・シスターズ」7つ子VS一人っ子政策 ノオミ・ラパス1人7役

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 爆発的な人口増と深刻な食糧難に直面する近未来社会。当局は、一家族につき出産は1人のみとする“一人っ子政策”を強行する。違反すると、2人目以降の子供は冷凍保存。地球環境の回復を待ち、解凍・蘇生させる約束だが、保証はない。そんな中、ある病院で7つ子の姉妹が生まれる。発覚すれば6人が冷凍されてしまう。

 死亡した母親に代わって孫娘たちを引き取った祖父は、7人全員を守るため、秘策を思いつく。それは、7つ子を1人の子に見せかけること。マンデー(月曜)からサンデー(日曜)まで、曜日の名を付けられた7つ子は、それぞれの曜日に交代で外出し、カレン・セットマンという共通人格を演じるのだ。

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 幸運にもトリックは見破られることなく、成人した姉妹は銀行員としてエリート街道を歩んでいる。ところが、ある日、マンデーが出勤したきり行方不明に。2人同時に目撃されるリスクはあったが、姿を見せなければ怪しまれる。翌日、チューズデー(火曜)は勇を鼓して出勤。残りの姉妹たちと連絡を取り合いながらマンデーの行方を追うのだが――。

 中盤から始まるバトルが見ものだ。“児童分配局”から差し向けられた武装軍団と姉妹たちとの熾烈な闘い。中でも、身体能力に秀でたウェンズデー(水曜)が男たち相手に繰り広げる激闘は迫力満点だ。1人また1人と姉妹たちを失いながらも、終盤のクライマックスに至り、サーズデー(木曜)はついにマンデー失踪の真相を探り当てる。そこで彼女が目にした恐るべき秘密とは?

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 一卵性ゆえ見た目はそっくりだが、性格や能力は七人七色。微妙に異なる7人を、「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」(09)、「プロメテウス」(12)のノオミ・ラパスが精妙に演じ分けている。7人のラパスが一堂に会する映像は圧巻だ。

 献身的な祖父役はウィレム・デフォー、児童分配局の悪玉役はグレン・クローズ。どっしりと脇を固め、ノオミ・ラパスの独壇場を盛り上げる両名優の見事な役作りにも注目したい。

 地球規模の人口爆発、そして産児制限。実際に起きている現象だ。解凍技術は未開発ながら、人体の冷凍保存も現実に行われている。近未来SFだが、設定はリアル。人類の明日を予言したような怖さが漂う映画だ。

(文・沢宮亘理)

「セブン・シスターズ」(2016年、英・米・仏・ベルギー)

監督:トミー・ウィルコラ
出演:ノオミ・ラパス、グレン・クローズ、ウィレム・デフォー

2017年10月21日(土)、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.7-sisters.com/

作品写真:(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016
posted by 映画の森 at 17:30 | Comment(0) | 英国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする