2014年10月24日

「やさしい人」 中年男の一途な恋 サスペンス風味で ギヨーム・ブラック監督新作

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 「女っ気なし」(2011)のギヨーム・ブラック監督が、再びヴァンサン・マケーニュ主演で撮った初の長編作品。ミュージシャンとして盛りを過ぎた中年男マクシムが、若い女性記者メロディと恋仲になるが、やがてメロディはマクシムの前から姿を消してしまう――のが中盤までの展開だ。

 「女っ気なし」の気弱な主人公であれば、女が去った時点であきらめてしまうだろう。だが、マクシムはなかなかしぶとい。せっかく手に入れた恋人を手離してなるものかと、驚きの“恋人奪還劇”を繰り広げる。

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 今でこそ風采の上がらないマクシムも、かつてはロック・ミュージシャンとして、そこそこ売れていた。モテた時期もあったろう。地元の田舎町では一応名士でもある。田舎の小娘にあっさりフラれるなんてあり得ない。そう思ったとしても不思議ではない。

 実際、強気に攻めてあっさりメロディをモノにしてしまうのだし、燃え上がる情熱の赴くまま、ロマンチックな冬のバカンスを過ごしたりもするのだ。なのに彼女は突如失踪してしまう。いったい、なぜ? 割り切れない気持ちから、マクシムは狂気の行動に出る。中年男の一途な恋心は娘に通じるのか。中盤以降の展開は極上のラブサスペンス。意外な結末には、女心の不可解さを思い知らされる。

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 物語の核は二人の恋愛だが、もう一つ重要なのがマクシムと父親との関係である。やや人生に疲れた感のあるマクシムに対し、アウトドア・スポーツを好み、いまだ女性関係の絶えない父親は好対照。父親の生きるエネルギーがマクシムの消えかけた情熱に火を付けたか。エンディングに漂うほのかな希望も、父親の存在あってこそだろう。

 父親役は、ヌーヴェル・ヴァーグの伝説的な監督であるジャック・ロジエの「オルエットの方へ」(71)や「メーヌ・オセアン」(86)に出演したベルナール・メネズ。前作「女っ気なし」はロジエの影響を感じさせる作品だったが、今回メゼズを起用したのも、ロジエへのオマージュなのかもしれない。

(文・沢宮亘理)

「やさしい人」(2013年、フランス)

監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ

2014年10月25日(土)、ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://tonnerre-movie.com/


作品写真:(c)2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA

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2014年10月18日

「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」 ヒッチコックが愛した クール・ビューティーの素顔

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 モナコ大公のレーニエ3世(ティム・ロス)との結婚から6年。1962年、グレース・ケリー(ニコール・キッドマン)は、いまだ宮殿のしきたりになじめなかった。公の場で政治に意見するのは「米国流」と皮肉られ、夫も「控えめに」と言う。ヒッチコック監督からハリウッド復帰を誘われ揺れていた時、国が最大の危機に直面する。フランスのドゴール大統領が重い課税を提案。のまなければ「モナコをフランス領にする」と声明を出したのだ──。

 「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」は、グレース・ケリーの生涯のうち、モナコ公妃となった60年代に焦点を絞っている。ハリウッド女優から公妃となった苦悩と孤独。国存亡の危機を通じ、改めてグレース・ケリーの人となりを描く。監督は「エディット・ピアフ 愛の賛歌」(07)のオリビエ・ダアン。

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 車から道路を写した映像で映画は幕を開ける。女優引退作「上流階級」(56)のワンシーンだ。女優としてのラストカットは運転シーンで終わり、彼女自身の人生も82年、仏コート・ダジュールで起きた交通事故で幕を閉じた。因縁めいたものをほのめかす描写だ。

 61年12月。公妃としてがんじがらめの生活に、グレースは深い孤独を感じていた。そこへ「ダイヤルMを廻せ!」(54)、「裏窓」(54)、「泥棒成金」(55)とたて続けにグレースを起用したヒッチコックから出演依頼が入る。次回作「マーニー」へのオファーだった。旧知の監督からの連絡に喜ぶグレースだったが、立場上出演交渉は難航する。ヒッチコックが彼女の大ファンだったことは、映画ファンにはよく知られている。

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 ド・ゴールの課税要求で、モナコは窮地に陥る。グレースは国を救うため、自ら書き上げた脚本で大芝居に打って出る。米国と欧州を巻き込み、国際政治の舞台で彼女が見せた演技とは──。監督が「伝記映画ではなく、史実に基づいた人間ドラマ」というだけに、当時の時代背景、グレースの生い立ちを知らないと理解が難しいかもしれない。

 キッドマンは熱演だが、どうしてもグレース・ケリーには見えず苦しいところ。しかし、ハリウッド女優から公妃に上り詰めたシンデレラ・ストーリーは、女優としての彼女の作品、人柄を知るにはうってつけだろう。

(文・藤枝正稔)

「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」(2013年、仏)

監督:オリビエ・ダアン
出演:ニコール・キッドマン、ティム・ロス、フランク・ランジェラ、パス・ベガ、パーカー・ポージー

2014年10月18日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://grace-of-monaco.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2014 - STONE ANGELS

タグ:レビュー
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2014年09月25日

「ジェラシー」 フィリップ・ガレル最新作 愛は嫉妬を育み、嫉妬は愛をむしばむ

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 うだつの上がらない舞台俳優のルイと、同じく売れない俳優のクローディア。二人は古いアパルトマンで同棲生活を送っている。ルイは結婚して幼い娘もいたが、クローディアと恋仲となり、家庭を捨てたのだ。

 「出て行かないで」と泣きながら懇願する妻を顧みず、恋人のもとへと走ったルイ。だが、そこに待っていたのは、温もりや安らぎなどは無縁な、猜疑心と嫉妬の日々だった――。

 二人の住処(すみか)は、明かり採りの窓が2つ付いているだけの、みすぼらしい屋根裏部屋。クローディアはこの部屋で暮らすことへの不満を、ルイにぶちまける。しかも、ルイに仕事が入ると、疑心暗鬼となり、猛烈な嫉妬心を燃やす。

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 クローディアは自分も仕事を得ようと、積極的に有力者に働きかけ、パトロンを見つける。すると今度はルイの心に嫉妬心が芽生える。ともに相手への執着心を抱きながらも、すきをうかがっては相手を出し抜こうとする。ばれなければ浮気さえする。エゴイズムのかたまりである。

 こんな二人が恋を成就できるわけもなく、しだいに破局の予感が漂い始める。男女の恋愛を描いた作品ではあるが、恋愛の喜びは少なく、苦しみばかりが目立つ。果たしてどんなラストが用意されているのか――。

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 ヌーベル・バーグ後の仏映画界を代表する監督の一人、フィリップ・ガレルの新作「ジェラシー」。過去の作品の多くは自伝的性格が強かったが、今回ルイのモデルはガレルの実父である。演じるのはガレルの息子、ルイ・ガレル。また、娘のエステル・ガレルが、ルイの妹役で出演している。

 ガレルが焦点を絞ったのは、恋愛に潜む破滅的衝動としての嫉妬心。愛が嫉妬を育み、嫉妬が愛をむしばんでいくプロセスが、息苦しいほどのリアリズムで描かれる。ゴダールの「男性・女性」(65)、スコリモフスキの「出発」(67)で知られるカメラマン、ウィリー・クランのモノクロ映像が美しい。

(文・沢宮亘理)

「ジェラシー」(2013年、フランス)

監督:フィリップ・ガレル
出演:ルイ・ガレル、アナ・ムグラリス、レベッカ・コンヴェナン、オルガ・ミシュタン、エステル・ガレル

2014年9月27日(土)、渋谷シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.jalousie2014.com/introduction.html


作品写真:(c)2013 Guy Ferrandis / SBS Productions
タグ:レビュー
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2014年08月31日

「グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子」 鉄人レースと家族の絆 仏山間部舞台に

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 車いすの少年が父とトライアスロンに挑むフランス映画「グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子」。緑豊かな山間の町・アヌシー地方を舞台に、家族の絆と成長を描く物語だ。

 ジュリアン(ファビアン・エロー)は17歳。足に障がいを抱え、幼い頃から車いすで生活していた。美容師の母クレール(アレクサンドラ・ラミー)は、仕事と家事にフル回転。息子の世話も完ぺきにこなし、母子は固い絆で結ばれている。しかし、自分を今も子供扱いする母に、ファビアンはちょっぴり不満だった。

 一方、父ポール(ジャック・ガンブラン)は、息子と正面から向き合おうとしない。家から逃げるように遠方で働き、失業と同時に町に戻ってくる。ジュリアンは父の帰宅を喜ぶが、ポールは職探しを理由に家に寄りつかない。

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 父の態度に業を煮やしたジュリアン。意を決して「父さんとレースに出たい」と打ち明ける。手にしていたのは、障がいを抱えた息子と父がトライアスロン大会に出場したことを伝える記事だった。驚いたポールは「馬鹿なことを言うな」と取り合わない。しかし、父が昔選手だったことを知るジュリアンはあきらめない。

 曲折の末に父をなんとか説得したものの、今度は母クロールが猛反対する。さらに大会の組織委員会にも参加を拒否される。レースへの思いを募らせるジュリアン。果たして大好きな父と、「鉄人レース」に参加できるのか──。

 今年のフランス映画祭でオープニング作品として上映された「グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子」。風光明媚な山々を背景に、親子の成長を爽やかに描く人間ドラマだ。ニルス・タベルニエ監督は当初、ドキュメンタリー映画の製作を考えていたという。調査で病院を訪れた監督は、重度の障がいを抱えながら、生きる力にあふれる子供たちに出会い、劇映画化を決断した。

 監督はフランス中の施設約170カ所を歩き、主演のジュリアンにふさわしい若者を探した。車いすに乗り、ばかげたことを言い、微笑みを浮かべるエローを見て「彼は確かな輝くを放っている」と起用を決めた。監督の言葉通り、エローが生き生きと動き、レースに挑戦する姿は、観る者に元気を与えてくれる。

(文・遠海安)

「グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子」(2013年、フランス)

監督:ニルス・タベルニエ
出演:ジャック・ガンブラン、アレクサンドラ・ラミー、ファビアン・エロー、パブロ・ポーリー、グザビエ・マシュー

2014年8月29日(金)、TOHOシネマズ 日本橋、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://greatdays.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2014 NORD-OUEST FILMS PATHE RHONE-ALPES CINEMA

タグ:レビュー
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2014年08月27日

「ケープタウン」オーランド・ブルーム来日会見 南アフリカ舞台に刑事熱演 「現地の過酷さ感じた」

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 南アフリカが舞台の犯罪サスペンス映画「ケープタウン」(2014年8月30日公開)主演のオーランド・ブルームが8月27日、東京・六本木で記者会見した。来日は7年ぶり。これまでにない汚れ役に挑んだブルームは「南ア社会の厳しさを感じた。演じがいのある役だった」と語った。

 南ア南部の都市「ケープタウン」を舞台に、刑事二人が女性殺害、麻薬密売、児童失踪など、社会の闇と対峙する物語。ブルームは「仕事はできるが女にだらしなく、酒を手放せない」刑事ブライアンを熱演している。「キャラクターが出演の決め手になった。自堕落だが倫理観、価値観がしっかりしていて、演じがいがあると思った」と話した。

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 タフな刑事役のため、撮影の6カ月前から体づくりを開始。1カ月半前には南アに入り、現地社会の厳しさを肌で感じたという。「南アの文化を知り、あの場所で男性として、警官として生きる厳しさに触れた。人々の人生がいかに過酷で、人の命がどれほど安いか。ブライアンはつらい現実と向き合いたくないから、たばこや酒に依存しているんだ」と説明した。

 代表作の「ロード・オブ・ザ・リング」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」などと異なり、小粒だが重厚で渋いサスペンス。ジェローム・サル監督は「(大規模な)スタジオ(製作会社)作品ではないので『振り切ってやろう』と言ってくれた。大いに楽しみながら撮影できた」と振り返った。

 また、コンビを組む刑事役としてカンヌ国際映画祭、米アカデミー賞などで最優秀主演男優賞を獲得したフォレスト・ウィテカーが出演。ブルームは「彼は真の芸術家だ。役への向かい方にぐっときた。人柄がよく、思慮深く、心が広い。また機会があるなら、どんな作品でもいいから共演したい」と絶賛した。

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 ブルームの育ての父は、かつて南アのアパルトヘイトに反対した社会活動家であり、ジャーナリストだったという。実際に現地で生活して「目からうろこが落ちた。南アには希望や可能性を感じたが、人々は常に何かに挑みつつ、前進しなければならない。貧しい人々が100万、200万人集まって暮らす地域では心を動かされた。そういう場所にいることがどういうことか。映画を観て経験してもらえると思う」と話していた。

 また、会見には女優の佐々木希がゲストで登場。花束を渡して激励した。

(文・遠海安 写真・岩渕弘美)

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「ケープタウン」(2013年、フランス)

監督:ジェローム・サル
出演:オーランド・ブルーム、フォレスト・ウィテカー、コンラッド・ケンプ、ジョエル・カエンベ

2014年8月30日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://capetown-movie.com/

作品写真:(C)2013 ESKWAD-PATHÉ PRODUCTION-LOBSTER TREE-M6FILMS
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