2015年02月12日

「愛して飲んで歌って」 仏の巨匠アラン・レネ遺作 実験的精神、最後まで

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 「二十四時間の情事」(59)や「去年マリエンバートで」(61)など、前衛的作品で映画界に衝撃を与え、実験的精神あふれる作品を撮り続けたフランス映画界の重鎮、アラン・レネ。昨年91年の生涯を閉じた巨匠の遺作「愛して飲んで歌って」もまた、実験性に満ちた作品に仕上がっている。

 伝説的プレイボーイのジョルジュに、人妻3人──カトリーヌ、モニカ、タマラが心をざわめかす。きっかけは「ジョルジュが末期がんに冒されている」との知らせだった。そもそも、カトリーヌはジョルジュの元恋人。モニカは元妻。過去に愛し合った男が余命いくばくもないとなれば、平静でいられるわけがない。一方、タマラは夫の浮気を見て見ぬふりの屈辱の日々を送っている。そんな彼女の心の隙間に、ジョルジュはするりと入り込んできた。

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 女性3人ともパートナーがいる。その関係を壊すつもりはない。何しろジョルジュはもうすぐ死んでしまうのだから。要は最後の日々を充実させるために力を合わせることだ。ところが、ジョルジュのある提案が、3人の女たちに動揺を与える――。

 サイレント映画ふうの黒地に白の字幕。ペラペラの書き割り。いかにも芝居然とした演技。舞台となる英国ヨークシャーの美しい風景。それらを組み合わせた融通無碍(ゆうずうむげ)なスタイルで、中年男女の恋の駆け引きをコミカルに描く。ただし単純な恋愛コメディーではない。意表を突くラストでは、一筋縄では行かない男女関係の怖さを突きつけられ、しばし呆然としてしまった。

 面白いのは主役のジョルジュが画面には一度も登場しないことだ。不在の人物に周囲の人々が振り回される構造で、ベルリン国際映画祭で通常なら革新的な若手に与えられるアルフレッド・バウアー賞に輝いた。最後まで斬新な表現を追い求めたレネにふさわしい受賞だった。

(文・沢宮亘理)

「愛して飲んで歌って」(2014年、フランス)

監督:アラン・レネ
出演:サビーヌ・アゼマ、イポリット・ジラルド、カロリーヌ・シオル、ミシェル・ヴュイエルモーズ、サンドリーヌ・キベルラン、アンドレ・デュソリエ

2015年2月14日(土)、岩波ホールほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://crest-inter.co.jp/aishite/

作品写真:(c)2013 F COMME FILM – FRANCE 2 CINÉMA – SOLIVAGUS
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2014年12月18日

「毛皮のヴィーナス」謎の女が男を翻弄 官能と倒錯のポランスキー新作

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 舞台劇「毛皮のヴィーナス」のオーディションに、女が遅刻してやってくる。帰り支度をしていた演出家のトマに、女は“ワンダ”と名乗る。役名と同じ名である。だが、女の外見はまるで商売女。しゃべり方も下品極まりなく、トマが求めるワンダのイメージとは正反対だった。

 トマは体よく追い払おうとするが、女はやる気満々。自分がいかにワンダ役にふさわしいかをまくし立て、さっさと持参した衣装に着替えてしまう。トマは仕方なく彼女の相手役となって、オーディションを始める。

 すると驚くべきことが起こった。セリフを発した瞬間に、女の印象は一変。まるで役柄が憑依(ひょうい)したように、完ぺきな“ワンダ”が立ち現れたのだ。さっきまでの下卑た女はどこに行ったのか。貴族的な言葉づかい。エレガントな立ち居振る舞い。香り立つエロス。圧倒されたトマは、オーディションにのめり込み、しだいに虚構と現実の境がつかなくなっていく――。

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 マゾヒズムという言葉を生むきっかけとなった、ザッヘル=マゾッホの小説に想を得た戯曲の映画化だ。演出する側のトマと、演出される側の女優。いつのまにか力関係が崩れ、立場が逆転していくプロセスが、刺激的なSMシーンも交えながら、緊迫感たっぷりに描かれる。

 まず驚嘆させられるのが、序盤で女が見せる鮮やかな変身ぶりだ。無知で無教養なアバズレと思っていたら、実はとんでもなく知的で頭の回転も速い。油断させておいて意表を突くやり方。この時点ですでにトマは女の術中にはまっている。トマは女に翻弄され、彼女の下僕(しもべ)へと調教されていく。

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 “ワンダ”役に扮するのは、エマニュエル・セニエ。メガホンを取るロマン・ポランスキーの妻である。相手役トマには、ポランスキーそっくりの風貌を持つマチュー・アマルリック。妻であるセニエと、自分と似たアマルリックとを共演させ、SMをテーマとした映画を撮る。何とも粋な趣向ではないか。

 自作の「吸血鬼」(67)や「チャイナタウン」(74)では、俳優としての才能も見せたポランスキー。もう少し若かったら、トマ役は自分で演じていたかもしれない。だとすれば、アマルリックはポランスキーの分身。つまり、ワンダ=セニエに翻弄され、服従する男はポランスキー自身ということになる。エンディングはセニエに捧げる愛の讃歌だろうか。

(文・沢宮亘理)

「毛皮のヴィーナス」(2013年、フランス・ポーランド)

監督:ロマン・ポランスキー
出演:エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック

2014年12月20日(土)、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kegawa-venus.com/


作品写真:(c)2013 R.P. PRODUCTIONS - MONOLITH FILMS
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2014年10月31日

「美女と野獣」 流麗でじょう舌な映像 神話取り入れ 古典に新たな息吹

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 バラを盗んだ父の身代わりとなり、野獣(ヴァンサン・カッセル)の城に閉じ込められた娘ベル(レア・セドゥ)。ベルは死を覚悟したが、野獣はディナーを一緒にとること以外、何も要求しない。ベルはやがて、野獣のもう一つの姿に気づく──。

 フランスの古典「美女と野獣」。単行本に絵本、ジャン・コクトー監督の実写映画版(46)、ディズニーのアニメーション版(91)、ミュージカルなどさまざまな形で表現されてきた。今回メガホンをとったクリストフ・ガンズ監督は、ギリシャ、ローマ神話の要素を取り入れ、人間と自然のつながりを描いている。

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 監督はフランスの獣(けもの)伝説をアクション・ミステリーにした「ジェヴォーダンの獣」(01)、日本のホラーゲームがベースの「サイレントヒル」(06)など、圧倒的な映像表現で知られてきた。「美女と野獣」では絵本、映画、舞台、アニメなどで語り尽くされた題材に、独創的なビジュアルで新たな命を吹き込んだ。

 もとは王子だった野獣はなぜ変身したのか。王子の秘密にスポットをあてながら、ベルと家族の横顔を掘り下げた導入部分。物語を大胆に拡大解釈したクライマックス。古典に独自のアレンジを加え、かつてない「美女と野獣」を作り出した。

 一つ一つのカットは息をのむほど幻想的。映像は流麗で語り口はじょう舌だ。豪華なセットと衣装、最新のCG(コンピューター・グラフィックス)技術で、圧倒的な映像美で観客の視覚に訴える。スタッフの努力が画面から伝わってくる。

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 「インディペンデンス・デイ」(96)、「GODZILLA」(98)など、ハリウッドのクリーチャー・デザインの第一人者、パトリック・タトポロスが参加。米国とは一味違うフレンチ・ラブ・ファンタジー映画となった。

(文・藤枝正稔)

「美女と野獣」(2014年、仏・独)

監督:クリストフ・ガンズ
出演:ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥ、アンドレ・デュソリエ、イボンヌ・カッターフェルト

2014年11月1日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://beauty-beast.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2014 ESKWAD - PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION ACHTE / NEUNTE / ZWOLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH - 120 FILMS

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2014年10月24日

「やさしい人」 中年男の一途な恋 サスペンス風味で ギヨーム・ブラック監督新作

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 「女っ気なし」(2011)のギヨーム・ブラック監督が、再びヴァンサン・マケーニュ主演で撮った初の長編作品。ミュージシャンとして盛りを過ぎた中年男マクシムが、若い女性記者メロディと恋仲になるが、やがてメロディはマクシムの前から姿を消してしまう――のが中盤までの展開だ。

 「女っ気なし」の気弱な主人公であれば、女が去った時点であきらめてしまうだろう。だが、マクシムはなかなかしぶとい。せっかく手に入れた恋人を手離してなるものかと、驚きの“恋人奪還劇”を繰り広げる。

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 今でこそ風采の上がらないマクシムも、かつてはロック・ミュージシャンとして、そこそこ売れていた。モテた時期もあったろう。地元の田舎町では一応名士でもある。田舎の小娘にあっさりフラれるなんてあり得ない。そう思ったとしても不思議ではない。

 実際、強気に攻めてあっさりメロディをモノにしてしまうのだし、燃え上がる情熱の赴くまま、ロマンチックな冬のバカンスを過ごしたりもするのだ。なのに彼女は突如失踪してしまう。いったい、なぜ? 割り切れない気持ちから、マクシムは狂気の行動に出る。中年男の一途な恋心は娘に通じるのか。中盤以降の展開は極上のラブサスペンス。意外な結末には、女心の不可解さを思い知らされる。

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 物語の核は二人の恋愛だが、もう一つ重要なのがマクシムと父親との関係である。やや人生に疲れた感のあるマクシムに対し、アウトドア・スポーツを好み、いまだ女性関係の絶えない父親は好対照。父親の生きるエネルギーがマクシムの消えかけた情熱に火を付けたか。エンディングに漂うほのかな希望も、父親の存在あってこそだろう。

 父親役は、ヌーヴェル・ヴァーグの伝説的な監督であるジャック・ロジエの「オルエットの方へ」(71)や「メーヌ・オセアン」(86)に出演したベルナール・メネズ。前作「女っ気なし」はロジエの影響を感じさせる作品だったが、今回メゼズを起用したのも、ロジエへのオマージュなのかもしれない。

(文・沢宮亘理)

「やさしい人」(2013年、フランス)

監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ

2014年10月25日(土)、ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://tonnerre-movie.com/


作品写真:(c)2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA

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2014年10月18日

「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」 ヒッチコックが愛した クール・ビューティーの素顔

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 モナコ大公のレーニエ3世(ティム・ロス)との結婚から6年。1962年、グレース・ケリー(ニコール・キッドマン)は、いまだ宮殿のしきたりになじめなかった。公の場で政治に意見するのは「米国流」と皮肉られ、夫も「控えめに」と言う。ヒッチコック監督からハリウッド復帰を誘われ揺れていた時、国が最大の危機に直面する。フランスのドゴール大統領が重い課税を提案。のまなければ「モナコをフランス領にする」と声明を出したのだ──。

 「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」は、グレース・ケリーの生涯のうち、モナコ公妃となった60年代に焦点を絞っている。ハリウッド女優から公妃となった苦悩と孤独。国存亡の危機を通じ、改めてグレース・ケリーの人となりを描く。監督は「エディット・ピアフ 愛の賛歌」(07)のオリビエ・ダアン。

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 車から道路を写した映像で映画は幕を開ける。女優引退作「上流階級」(56)のワンシーンだ。女優としてのラストカットは運転シーンで終わり、彼女自身の人生も82年、仏コート・ダジュールで起きた交通事故で幕を閉じた。因縁めいたものをほのめかす描写だ。

 61年12月。公妃としてがんじがらめの生活に、グレースは深い孤独を感じていた。そこへ「ダイヤルMを廻せ!」(54)、「裏窓」(54)、「泥棒成金」(55)とたて続けにグレースを起用したヒッチコックから出演依頼が入る。次回作「マーニー」へのオファーだった。旧知の監督からの連絡に喜ぶグレースだったが、立場上出演交渉は難航する。ヒッチコックが彼女の大ファンだったことは、映画ファンにはよく知られている。

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 ド・ゴールの課税要求で、モナコは窮地に陥る。グレースは国を救うため、自ら書き上げた脚本で大芝居に打って出る。米国と欧州を巻き込み、国際政治の舞台で彼女が見せた演技とは──。監督が「伝記映画ではなく、史実に基づいた人間ドラマ」というだけに、当時の時代背景、グレースの生い立ちを知らないと理解が難しいかもしれない。

 キッドマンは熱演だが、どうしてもグレース・ケリーには見えず苦しいところ。しかし、ハリウッド女優から公妃に上り詰めたシンデレラ・ストーリーは、女優としての彼女の作品、人柄を知るにはうってつけだろう。

(文・藤枝正稔)

「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」(2013年、仏)

監督:オリビエ・ダアン
出演:ニコール・キッドマン、ティム・ロス、フランク・ランジェラ、パス・ベガ、パーカー・ポージー

2014年10月18日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://grace-of-monaco.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2014 - STONE ANGELS

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