2017年03月23日

「未来よ こんにちは」夫の裏切りと母の死 ユペール、非凡な演技力

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 フランス、パリ。ナタリーは高校の哲学教師、夫のハインツもやはり哲学教師。2人の子供は独立し、夫婦水入らずの穏やかな毎日を送っている。認知症の母は頭痛の種だが、それ以外は何の問題もない、理想的なカップルのように見える。ナタリーは真面目で誠実な夫と「死ぬまで一緒に暮らす」と思い込んでいた。

 ところがある日、娘がハインツの浮気現場を目撃してしまう。母親か愛人か、どちらかを選ぶよう娘に迫られたハインツは、あっさり愛人を選ぶ。「好きな女性ができたから一緒に暮らすよ」。その瞬間、25年続いた結婚生活にピリオドが打たれる。

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 信じていた夫に裏切られ、怒りがこみ上げるナタリー。だがすぐに気を取り直し、現実を受け入れる。離婚前と変わらず、ナタリーは高校での授業を続け、認知症を患った母親の世話をする。

 そんなナタリーの前に現れたのが、かつての教え子で、今は過激な政治活動にコミットしているファビアンだ。施設に移った母が逝去し、ひとりぼっちとなったナタリーは、ファビアンが仲間たちと暮らすアルプスの山荘へ。ナタリーがファビアンに恋心を抱いていたのか、ロマンチックな一夜を過ごしたのかは微妙。明確な描写のないまま、ナタリーは山荘を去る。

 50代後半のナタリーが経験する、子離れ、離婚、母との死別。そして教え子との微妙な関係。どの局面にあろうと、ナタリーは動揺することも、当惑することもなく、淡々と日々をやり過ごしていくように見える。しかし、それは見かけだけで、内心は大きく波立っているのかもしれない。

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 パリの街角、ブルターニュの海岸、アルプスの山々。映画は、ナタリーをさまざまな風景の中におき、彼女の心象を観客の想像に委ねる。

 泣いたり、叫んだりの熱演はない。それでもスクリーンから目をそらせないのは、ヒロインに扮したイザベル・ユペールの非凡な演技力と、ミア・ハンセン=ラブ監督の演出力によるものだろう。

(文・沢宮亘理)

「未来よ こんにちは」(2016年、フランス・ドイツ)

監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:イザベル・ユペール、アンドレ・マルコン、ロマン・コリンカ、エディット・スコブ 

2017年3月25日(土)、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。26日(日)は上野千鶴子氏と湯山玲子氏によるトークイベントを開催。詳細は公式サイトまで。

http://crest-inter.co.jp/mirai/

作品写真:(c)2016 CG Cinéma ・ Arte France Cinéma ・ DetailFilm ・ Rhône-Alpes Cinéma

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2017年02月28日

「フレンチ・ラン」豪腕CIA捜査官と天才スリ、テロ犯を追い詰める

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 仏パリで起きた爆弾テロ事件を、一匹狼の米中央情報局(CIA)捜査官と若き天才スリがコンビを組んで解決する“バディ・ムービー”「フレンチ・ラン」。

 革命記念日前夜のパリ。天才スリのマイケル(リチャード・マッデン)は、広場の雑踏に全裸の美女を歩かせ、人々が気を取られたすきに財布をかすめ取っていた。同じころ、テロ組織が実行犯の女ゾーエ(シャルロット・ルボン)を使い、ビル爆破を企てる。しかし、女は未遂のまま現場を去る途中、マイケルに爆弾入りのバッグを盗まれる。マイケルは広場にバッグを置き捨て、その後爆発が発生。防犯カメラにはバッグを手にしたマイケルの姿が映っていた──。

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 ジェームズ・ワトキンス監督が目指したのは「1970年代アクション映画」という。クリント・イーストウッド主演「ダーティハリー」(71)、ジーン・ハックマン主演「フレンチ・コネクション」(71)など名作刑事アクションが多い時代だ。一匹狼的な刑事が単独で事件に挑み、生身のアクションで解決する。今回のCIA捜査官ブライヤー(イドリス・エルバ)も同じく、猪突猛進で犯人を追う。アパートの屋根を走り、廊下で犯人と接近戦。肉弾捜査スタイルが印象的だ。

 ポイントはそんなCIA捜査官とスリが即席でコンビを組み、犯罪組織を追い詰めていく点だろう。堅物のブライヤーに調子のいいマイケル。そこへ容疑者として確保した女ゾーエが加わる。テロ組織の「革命記念日にパリを制圧する」目論見を阻止するため、捜査のプロと素人2人が街を走る。

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 爆弾テロで始まった物語は、大勢のパリ市民を巻き込み、大掛かりなクライマックスを迎える。一人テロと戦うストイックなブライヤーは、仏映画「レオン」(94)のジャン・レノ演じる主人公を思い出す。テロ犯の正体、目的にはやや荒っぽさを感じるが、疾走感と謎解きのバランスがいい。ひとひねり加えたオチまで92分間、痛快なバディ・アクションが楽しめる。

(文・藤枝正稔)

「フレンチ・ラン」(2016年、英・仏・米)

監督:ジェームズ・ワトキンス
出演:イドリス・エルバ、リチャード・マッデン、シャルロット・ルボン、ケリー・ライリー、ジョゼ・ガルシア

2017年3月4日(土)、渋谷シネパレスほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

作品写真:(C)2016 Studiocanal S.A. TF1 Films Production S.A.S.All Rights Reserved
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2017年01月21日

「ショコラ 君がいて、僕がいる」パリに実在した芸人コンビ 光と影に満ちた半生

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 20世紀初めのフランスで、実在した白人と黒人の芸人コンビをモデルにした映画「ショコラ 君がいて、僕がいる」。黒人芸人ショコラに「最強のふたり」(11)のオマール・シー、白人芸人フティットにチャールズ・チャップリンの孫ジェームス・ティエレ。今年はショコラの没後100年にあたる。

 地方巡業中のサーカス一座に、ピン芸人のフティットがオーディションを受けに来た。一座には「人食い人種」を名乗り、雄たけびで観客を脅かす黒人芸人カナンガがいた。かつては人気者だったフティットは、再起を目指して声をかけ、二人は舞台で芸を見せるチャンスを与えられる。

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 白人と黒人。かつてない芸人コンビに観客は固まる。それを見てこわばるカナンガ。しかし、フティットの機転で客席から小さな笑いが起こり、やがて爆笑が巻き起こった。座長にも認められてデビューに成功。カナンガは「ショコラ」に名を変え、フランス史上初の白人と黒人の芸人コンビが誕生した──。

 人種差別が根強い当時のフランスで、二人の芸も偏見がベースになっていた。ショコラは基本的に「白人に虐げられる」役回り。不法移民で常に警察を恐れていた。見世物的な芸ではあったが、コンビは一流サーカスにスカウトされ、看板芸人に上り詰める。地位と名声を手に入れたのもつかの間、ショコラは酒とギャンブルにおぼれる。

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 「映画の父」リュミエール兄弟のフィルムに、実際の二人の芸が残っている。コンビの半生は光と影に満ちていた。前半は人気を博して表舞台で輝き、後半でショコラは差別に苦しんでいく。二人を知らない人にも分かりやすく、丁寧な演出とテンポがいい構成だ。体を張った「動」、内面を掘り下げる「静」の演技。シーとティエレのアンサンブルもよく、ノスタルジックで郷愁に満ちた良作となった。

(文・藤枝正稔)

「ショコラ 君がいて、僕がいる」(2015年、仏)

監督:ロシュディ・ゼム
出演:オマール・シー、ジェームス・ティエレ、クロチルド・エム、オリビエ・グルメ、フレデリック・ピエロ

2017年1月21日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://chocolat-movie.jp/

作品写真:(C) 2016 Gaumont / Mandarin Cinema / Korokoro / M6 Films
タグ:レビュー
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2017年01月12日

「ネオン・デーモン」ファッション業界の嫉妬と狂気 レフン監督、独自に幻想的に

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 誰もが目を奪われる美しさを持つ16歳のジェシー(エル・ファニング)は、トップモデルになる夢をかなえるため、田舎町からロサンゼルスへやってくる。すぐに一流デザイナー、カメラマンの心をとらえると、ライバルたちが嫉妬の炎を燃やす──。

 カンヌ国際映画祭監督賞の犯罪アクション「ドライヴ」(11)で、世界中の映画ファンを魅了したニコラス・ウィンディング・レフン監督。次作「オンリー・ゴッド」(13)はタイに舞台を移し、暴力を前面に押し出す復讐劇だった。今回は一転、ファッション業界の嫉妬と狂気をスタイリッシュな映像で描く。

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 表の華やかさと裏腹に、実情は女のドロドロした感情が渦巻くトップモデルの世界。マネキンのような冷静さを装いながら、燃え上がる野心をぶつけ合い、狂気の牙をむく女たち。映像はスタンリー・キューブリック、デビッド・リンチのように独創的で説明を排除した表現で、観客を突き放す。

 赤、青、紫、緑などの色を画面に配しながら、真っ白い空間や左右対称の構図を多用する。キューブリック的で人工的な映像美だ。迷宮世界に踏み込んだジェシーは、脳の中で時おり幾何学模様を見る。「2001年宇宙の旅」(68)で、宇宙飛行士が見た脳内世界のようだ。

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 一方、音楽はクラシカルなアナログシンセで作り出した1970年代風エレクトロ・ミュージックが前面に。「タクシー・ドライバー」(76)のバーナード・ハーマンの曲を彷彿とさせるなど、迷宮に踏み込んだジェシーの悪夢に寄り添っていく。

 「ドライヴ」、「オンリー・ゴッド」で暴力と狂気を直接表現したレフン監督。今回は内面に湧き上がる狂気を幻想的に描いた。難解で内省的な世界は観る者を選ぶが、独創的な映像は観客を惑わせるだろう。静かな狂気を切り取る衝撃作だ。

(文・藤枝正稔)

「ネオン・デーモン」(2016年、仏・米・デンマーク)

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:エル・ファニング、キアヌ・リーブス、カール・グルスマン、クリスティーナ・ヘンドリックス、ロバータ・ホフマン、ジェナ・マローン

2013年1月13日(金)、TOHO シネマズ 六本木ヒルズほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/neondemon/

作品写真:(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
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2016年09月02日

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)」クロード・ルルーシュ監督と音楽家フランシス・レイ、「男と女」の最終章

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 映画音楽家アントワーヌ(ジャン・デュジャルダン)は、自由に人生を謳歌して生きてきた。まるで自分が書いた音楽のように。ボリウッド版「ロミオとジュリエット」の製作のため訪れたインドで、フランス大使夫人のアントワーヌ(エルザ・シルベルスタイン)と出会う──。

 名作「男と女」(66)から半世紀。クロード・ルルーシュ監督と作曲家フランシス・レイが再び組んだ作品だ。原題は「UN+UNE」。日本語に訳すと「男プラス女」。「男と女」の流れを組む恋愛模様だ。アントワーヌは「男と女」の主人公の息子と同じ名前だが続編ではない。

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 舞台はインド。宝石店強盗の男が逃亡中に女を車ではねる。大けがを負った女を見捨てられず、病院へ担ぎ込んだところ、警察に逮捕されてしまう。加害者と被害者の二人だが恋に落ちて結ばれる。このエピソードがインド版「ロミオとジュリエット」だと評判になり、映画化されることになる。音楽担当として白羽の矢が立ったのが、アントワーヌだった。

 レコーディングのため訪れたインドの晩餐会で、アントワーヌはアンナと出会って意気投合。フランスに恋人のアリス(アリス・ボル)を残したアントワーヌと、フランス大使の夫サミュエル(クリストファー・ランバート)がいるアンナ。パートナーがいる身ながらひかれ合う。子供ができないアンナは聖者に合うためインド南部へ。頭痛に悩まされていたアントワーヌも、休暇を兼ねてアンナの旅に同行する。

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 さまざまな男女の愛を描いてきたルルーシュ監督。「男と女」はスタイリッシュでみずみずしい映像で、世界の観客を魅了した。20年後の続編「男と女U」(86)は行き詰まったか、製作のジレンマが作品に投影され、中途半端になってしまった。

 時はさらに流れ、盟友レイと再び組んだ今回。どこか吹っ切れたのか、監督の心情が表れたのか。異国インドを達観したように見つめながら、中年期の恋愛をアグレッシブに描き出した。聖者のくだりはやや宗教色を感じるが、人生の岐路に立つ二人にとって、背中を押す大事な役目を担っている。レイの甘美なメロディーに導かれ、たどり着く愛の形。運命のいたずらともいえる心地よい幕引きだ。ルルーシュとレイによる「男と女」、最終章にふさわしい作品といえよう。

(文・藤枝正稔)

「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)」(2015年、フランス)

監督:クロード・ルルーシュ
出演:ジャン・デュジャルダン、エルザ・ジルベルスタイン、クリストファー・ランバートサミュエル
アリス・ポル、マーター・アムリターナンダマイー

2016年9月3日(土)、Bunkamura ル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://anna-movie.jp/

作品写真:(C)2015 Les Films 13 - Davis Films - JD Prod - France 2 Cinema

posted by 映画の森 at 19:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする