2017年06月02日

「ザ・ダンサー」モダンダンスの先駆者、19世紀末のパリを彩る ロイ・フラーの半生

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 19世紀末のフランスを舞台に、モダンダンスの先駆者である女性ダンサー、ロイ・フラーの半生を描いた作品。「博士と私の危険な関係」(12)で主演したソーコがロイ、ジョニー・デップの娘リリー=ローズ・デップがライバルのイサドラ・ダンカンを演じる。写真家のステファニー・ディ・ジュースト監督の長編デビュー作だ。

 フランスの田舎に育ったマリー=ルイーズ・フラーは、父の死を機に母が暮らすニューヨークへ向かう。女優を夢見てオーディションを受けるが、地味な外見でなかなか役がつかない。セリフのない脇役のため、ぶかぶかの衣装で舞台に立ったマリー。ところが、演技中のアクシデントをくるくる回るアドリブダンスで切り抜けたところ、観客の拍手喝采を浴び、天才と称される。

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 ダンサーとして開花したマリーの頭には、衣装から照明、舞台装置まで次々アイデアが浮かんだ。芸名を「ロイ」に決めた後、最初の仕事は舞台の幕間5分を使ったダンスだった。長い棒にシルクの布をつけ、幽霊のような衣装でくるくる回る。前代未聞のパフォーマンスは観客を魅了した。そんな才能を見抜いたのはドルセー伯爵(ギャスパー・ウリエル)。ロイは伯爵のお金を拝借し、憧れのパリ、オペラ座を目指す──。

 ロイの生い立ち、創作ダンスの誕生、ライバルのイサドラとの友情。ダンスは汗と涙の結晶であり、命を削り踊る姿はスポ根ドラマに通じる。一方、イサドラはダンサーとして抜きん出た容姿、才能を持ち合わせていた。2人を対比させながらドラマは展開し、イサドラを演じるデップの小悪魔ぶりが物語に弾みをつける。

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 ロイが編み出した創作ダンス「サーペンタインダンス」も見どころだ。体力を使うため3日おきにしか踊れないダンスを、ソーコが躍動感とともに再現する。ロイが弟子たちを率い、森の中で舞い踊る群舞は幻想的。ダンス映画としてビジュアル表現が素晴らしい。ロイの半生を丁寧に描きながら、独創的な激しいダンスで観客の視覚と聴覚を刺激する。俳優の熱演と監督の手腕が光る作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ザ・ダンサー」(2016年、仏・ベルギー)

監督:ステファニー・ディ・ジュースト
出演:ソーコロ、ギャスパー・ウリエル、リリー=ローズ・デップ、メラニー・ティエリー、フランソワ・ダミアン

2017年6月3日(土)、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.thedancer.jp/

作品写真:(C)2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM

タグ:レビュー
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2017年03月23日

「未来よ こんにちは」夫の裏切りと母の死 ユペール、非凡な演技力

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 フランス、パリ。ナタリーは高校の哲学教師、夫のハインツもやはり哲学教師。2人の子供は独立し、夫婦水入らずの穏やかな毎日を送っている。認知症の母は頭痛の種だが、それ以外は何の問題もない、理想的なカップルのように見える。ナタリーは真面目で誠実な夫と「死ぬまで一緒に暮らす」と思い込んでいた。

 ところがある日、娘がハインツの浮気現場を目撃してしまう。母親か愛人か、どちらかを選ぶよう娘に迫られたハインツは、あっさり愛人を選ぶ。「好きな女性ができたから一緒に暮らすよ」。その瞬間、25年続いた結婚生活にピリオドが打たれる。

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 信じていた夫に裏切られ、怒りがこみ上げるナタリー。だがすぐに気を取り直し、現実を受け入れる。離婚前と変わらず、ナタリーは高校での授業を続け、認知症を患った母親の世話をする。

 そんなナタリーの前に現れたのが、かつての教え子で、今は過激な政治活動にコミットしているファビアンだ。施設に移った母が逝去し、ひとりぼっちとなったナタリーは、ファビアンが仲間たちと暮らすアルプスの山荘へ。ナタリーがファビアンに恋心を抱いていたのか、ロマンチックな一夜を過ごしたのかは微妙。明確な描写のないまま、ナタリーは山荘を去る。

 50代後半のナタリーが経験する、子離れ、離婚、母との死別。そして教え子との微妙な関係。どの局面にあろうと、ナタリーは動揺することも、当惑することもなく、淡々と日々をやり過ごしていくように見える。しかし、それは見かけだけで、内心は大きく波立っているのかもしれない。

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 パリの街角、ブルターニュの海岸、アルプスの山々。映画は、ナタリーをさまざまな風景の中におき、彼女の心象を観客の想像に委ねる。

 泣いたり、叫んだりの熱演はない。それでもスクリーンから目をそらせないのは、ヒロインに扮したイザベル・ユペールの非凡な演技力と、ミア・ハンセン=ラブ監督の演出力によるものだろう。

(文・沢宮亘理)

「未来よ こんにちは」(2016年、フランス・ドイツ)

監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:イザベル・ユペール、アンドレ・マルコン、ロマン・コリンカ、エディット・スコブ 

2017年3月25日(土)、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。26日(日)は上野千鶴子氏と湯山玲子氏によるトークイベントを開催。詳細は公式サイトまで。

http://crest-inter.co.jp/mirai/

作品写真:(c)2016 CG Cinéma ・ Arte France Cinéma ・ DetailFilm ・ Rhône-Alpes Cinéma

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2017年02月28日

「フレンチ・ラン」豪腕CIA捜査官と天才スリ、テロ犯を追い詰める

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 仏パリで起きた爆弾テロ事件を、一匹狼の米中央情報局(CIA)捜査官と若き天才スリがコンビを組んで解決する“バディ・ムービー”「フレンチ・ラン」。

 革命記念日前夜のパリ。天才スリのマイケル(リチャード・マッデン)は、広場の雑踏に全裸の美女を歩かせ、人々が気を取られたすきに財布をかすめ取っていた。同じころ、テロ組織が実行犯の女ゾーエ(シャルロット・ルボン)を使い、ビル爆破を企てる。しかし、女は未遂のまま現場を去る途中、マイケルに爆弾入りのバッグを盗まれる。マイケルは広場にバッグを置き捨て、その後爆発が発生。防犯カメラにはバッグを手にしたマイケルの姿が映っていた──。

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 ジェームズ・ワトキンス監督が目指したのは「1970年代アクション映画」という。クリント・イーストウッド主演「ダーティハリー」(71)、ジーン・ハックマン主演「フレンチ・コネクション」(71)など名作刑事アクションが多い時代だ。一匹狼的な刑事が単独で事件に挑み、生身のアクションで解決する。今回のCIA捜査官ブライヤー(イドリス・エルバ)も同じく、猪突猛進で犯人を追う。アパートの屋根を走り、廊下で犯人と接近戦。肉弾捜査スタイルが印象的だ。

 ポイントはそんなCIA捜査官とスリが即席でコンビを組み、犯罪組織を追い詰めていく点だろう。堅物のブライヤーに調子のいいマイケル。そこへ容疑者として確保した女ゾーエが加わる。テロ組織の「革命記念日にパリを制圧する」目論見を阻止するため、捜査のプロと素人2人が街を走る。

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 爆弾テロで始まった物語は、大勢のパリ市民を巻き込み、大掛かりなクライマックスを迎える。一人テロと戦うストイックなブライヤーは、仏映画「レオン」(94)のジャン・レノ演じる主人公を思い出す。テロ犯の正体、目的にはやや荒っぽさを感じるが、疾走感と謎解きのバランスがいい。ひとひねり加えたオチまで92分間、痛快なバディ・アクションが楽しめる。

(文・藤枝正稔)

「フレンチ・ラン」(2016年、英・仏・米)

監督:ジェームズ・ワトキンス
出演:イドリス・エルバ、リチャード・マッデン、シャルロット・ルボン、ケリー・ライリー、ジョゼ・ガルシア

2017年3月4日(土)、渋谷シネパレスほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

作品写真:(C)2016 Studiocanal S.A. TF1 Films Production S.A.S.All Rights Reserved
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2017年01月21日

「ショコラ 君がいて、僕がいる」パリに実在した芸人コンビ 光と影に満ちた半生

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 20世紀初めのフランスで、実在した白人と黒人の芸人コンビをモデルにした映画「ショコラ 君がいて、僕がいる」。黒人芸人ショコラに「最強のふたり」(11)のオマール・シー、白人芸人フティットにチャールズ・チャップリンの孫ジェームス・ティエレ。今年はショコラの没後100年にあたる。

 地方巡業中のサーカス一座に、ピン芸人のフティットがオーディションを受けに来た。一座には「人食い人種」を名乗り、雄たけびで観客を脅かす黒人芸人カナンガがいた。かつては人気者だったフティットは、再起を目指して声をかけ、二人は舞台で芸を見せるチャンスを与えられる。

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 白人と黒人。かつてない芸人コンビに観客は固まる。それを見てこわばるカナンガ。しかし、フティットの機転で客席から小さな笑いが起こり、やがて爆笑が巻き起こった。座長にも認められてデビューに成功。カナンガは「ショコラ」に名を変え、フランス史上初の白人と黒人の芸人コンビが誕生した──。

 人種差別が根強い当時のフランスで、二人の芸も偏見がベースになっていた。ショコラは基本的に「白人に虐げられる」役回り。不法移民で常に警察を恐れていた。見世物的な芸ではあったが、コンビは一流サーカスにスカウトされ、看板芸人に上り詰める。地位と名声を手に入れたのもつかの間、ショコラは酒とギャンブルにおぼれる。

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 「映画の父」リュミエール兄弟のフィルムに、実際の二人の芸が残っている。コンビの半生は光と影に満ちていた。前半は人気を博して表舞台で輝き、後半でショコラは差別に苦しんでいく。二人を知らない人にも分かりやすく、丁寧な演出とテンポがいい構成だ。体を張った「動」、内面を掘り下げる「静」の演技。シーとティエレのアンサンブルもよく、ノスタルジックで郷愁に満ちた良作となった。

(文・藤枝正稔)

「ショコラ 君がいて、僕がいる」(2015年、仏)

監督:ロシュディ・ゼム
出演:オマール・シー、ジェームス・ティエレ、クロチルド・エム、オリビエ・グルメ、フレデリック・ピエロ

2017年1月21日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://chocolat-movie.jp/

作品写真:(C) 2016 Gaumont / Mandarin Cinema / Korokoro / M6 Films
タグ:レビュー
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2017年01月12日

「ネオン・デーモン」ファッション業界の嫉妬と狂気 レフン監督、独自に幻想的に

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 誰もが目を奪われる美しさを持つ16歳のジェシー(エル・ファニング)は、トップモデルになる夢をかなえるため、田舎町からロサンゼルスへやってくる。すぐに一流デザイナー、カメラマンの心をとらえると、ライバルたちが嫉妬の炎を燃やす──。

 カンヌ国際映画祭監督賞の犯罪アクション「ドライヴ」(11)で、世界中の映画ファンを魅了したニコラス・ウィンディング・レフン監督。次作「オンリー・ゴッド」(13)はタイに舞台を移し、暴力を前面に押し出す復讐劇だった。今回は一転、ファッション業界の嫉妬と狂気をスタイリッシュな映像で描く。

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 表の華やかさと裏腹に、実情は女のドロドロした感情が渦巻くトップモデルの世界。マネキンのような冷静さを装いながら、燃え上がる野心をぶつけ合い、狂気の牙をむく女たち。映像はスタンリー・キューブリック、デビッド・リンチのように独創的で説明を排除した表現で、観客を突き放す。

 赤、青、紫、緑などの色を画面に配しながら、真っ白い空間や左右対称の構図を多用する。キューブリック的で人工的な映像美だ。迷宮世界に踏み込んだジェシーは、脳の中で時おり幾何学模様を見る。「2001年宇宙の旅」(68)で、宇宙飛行士が見た脳内世界のようだ。

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 一方、音楽はクラシカルなアナログシンセで作り出した1970年代風エレクトロ・ミュージックが前面に。「タクシー・ドライバー」(76)のバーナード・ハーマンの曲を彷彿とさせるなど、迷宮に踏み込んだジェシーの悪夢に寄り添っていく。

 「ドライヴ」、「オンリー・ゴッド」で暴力と狂気を直接表現したレフン監督。今回は内面に湧き上がる狂気を幻想的に描いた。難解で内省的な世界は観る者を選ぶが、独創的な映像は観客を惑わせるだろう。静かな狂気を切り取る衝撃作だ。

(文・藤枝正稔)

「ネオン・デーモン」(2016年、仏・米・デンマーク)

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:エル・ファニング、キアヌ・リーブス、カール・グルスマン、クリスティーナ・ヘンドリックス、ロバータ・ホフマン、ジェナ・マローン

2013年1月13日(金)、TOHO シネマズ 六本木ヒルズほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/neondemon/

作品写真:(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch
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