2017年08月25日

「エル ELLE」 襲われた女、犯人を追う ユペール✕バーホーベン サスペンスに新風

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 始まりはレイプだった。主人公のミシェルが、自宅に侵入してきた覆面の男に襲われる。驚愕のオープニングだが、もっと驚くのは、その後のミシェルの行動だ。床に散乱したガラスや陶器のカケラを片付けると、バスタブに浸かり、体を清める。翌日には、ドアの鍵を交換し、病院で性感染症のチェックを受ける。

 完璧な対応。心の動揺がないわけではあるまい。しかし、外見は冷静そのものだ。女性にとって屈辱的な体験。なのに少しも落ち込むことなく、しっかり自身をケアし、一人で淡々と犯人探しを進めていくのだ。

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 ミシェルはゲーム開発会社の社長。スタッフたちの新作プレゼンテーションに、容赦のない意見をぶつける。相手の気持ちなどお構いなし。強い。怖い。横暴。恨んでいる社員は少なくないはず。その中の誰かが犯人である可能性は高い。ほかにも元夫や、母親の若い恋人、親友の夫、向かいの家のハンサムな主人など、疑い始めたらきりがない。何しろ、彼女は男の劣情をそそる色気にあふれているのだ。

 手がかりがつかめないまま、その後も繰り返されるレイプ。そして、ミシェルはついに犯人の化けの皮をはがすことに成功するのだが――。

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 前半はレイプ犯が顔を見せるまでのスリリングな展開が焦点。後半は犯人とミシェルとの常軌を逸した絡みが見どころだ。前半にも垣間見えていたミシェルの異常性が、いよいよ際立ってくる。大量殺人を犯し入獄中の父親。年下の男に入れあげる母親。出来の悪い息子。彼女の家族も普通とはほど遠い。

 犯人も含め、尋常ではない人々との関係の中で、ミシェルはいっそうエキセントリックになっていく。しかし、それは偽らず、正直に生きているからこそ、そう見えるともいえる。ノーマルに見える人々は、彼女がさらけ出している本性を押し隠しているだけかもしれないのだ。

 か弱く、傷つきやすく、受け身。いまだ世界的に共有されている保守的な女性像とはかけ離れた、タフで攻撃的な女性の姿を強烈に描き出した。「氷の微笑」(92)のポール・バーホーベン監督が、イザベル・ユペールという当代きっての演技者を得て、サスペンス映画に新風を吹き込んだ。

(文・沢宮亘理)

「エル ELLE」(2016年、フランス)

監督:ポール・バーホーベン

出演:イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、シャルル・ベルリング、ヴィルジニー・エフィラ、ジョナ・ブロケ

2017年8月25日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/elle/

作品写真:(c)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

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2017年08月02日

特集上映「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」ジャック・ドゥミ夫妻、再評価受け一挙に5作品

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 仏ミュージカル映画の傑作「シェルブールの雨傘」(64)、「ロシュフォールの恋人たち」(67)で知られるジャック・ドゥミと、同じく映画監督だった妻のアニエス・ヴァルダ。最近ドゥミの影響を受けた米ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」が注目され、再評価の動きが高まっている。

 特集上映「ドゥミとヴァルダ、幸福について5つの物語」ではドゥミが監督した「ローラ」(60)、「天使の入江」(62、日本初上映)、ヴァルダが監督した「ジャック・ドゥミの少年期」(91)、「5時から7時までクレオ」(61)、「幸福(しあわせ)」(65)の計5本がデジタルリマスター版で上映される。「幸福(しあわせ)」と同時に、ヴァルダが15年に監督した新作短編「3つのボタン」も上映される。

「ローラ」

 ドゥミの長編デビュー作。トレードマークとなった黒味から丸く画面が広がるアイリスインで幕を開ける。その後の作風を思わせる表現が随所に散りばめられている。港町ナントを舞台に、キャバレーの踊り子ローラ(アヌーク・エーメ)をめぐり、登場人物たちが繰り返しすれ違う。

 ドゥミの作品で面白い点は、人物が別の作品でも同じ役で登場することだ。「ローラ」は「シェルブールの雨傘」の前日譚ともいえる。主人公のローラン(マルク・ミシェル)は、この作品で夢破れて「アフリカに旅立つ」とナントの町を去っていく。その後「シェルブールの雨傘」で宝石商として成功。主人公のジュヌビエーヴ(カトリーヌ・ドヌーブ)と結婚する。

 「ローラ」に流れるミシェル・ルグランのテーマ曲「ウォッチ・ホワット・ハブンズ」は、「シェルブールの雨傘」の中で再び使われる。ローランが出会う母娘は、「シェルブールの雨傘」のジュヌビエーヴと母の原型だろう。ローラもドゥミ初の米映画「モデル・ショップ」(69)でその後が描かれる。「ローラ」はドゥミにとって原石。つたない部分もあるが、みずみずしい輝きを放つ愛すべき作品だ。

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「天使の入江」

 南仏のリゾート地ニースの「天使の入江」。パリから逃げてきた銀行員ジャン(クロード・マン)は、カジノでジャッキー(ジャンヌ・モロー)と出会い、2人でギャンブルにのめり込む。「天使の入江」はドゥミ作品では異質な意欲作といえる。ギャンブル依存症のジャッキー、ビギナーズ・ラックで博打にはまったジャン。ルーレットで勝ち負けを繰り返し、関係を深めていく。

 ジャッキーには夫と子供がいる。病んだ心をジャンは愛の力で断ち切れるか。夢見る作品が多いドゥミにしては現実的なテーマだ。ピアノの高音がきらめくルグランのテーマ曲は、ルーレットで転がり続ける玉の音を再現したよう。「ローラ」から始まるドゥミとルグランの合作は、ドゥミの遺作「思い出のマルセイユ」(98)まで続いた。

(文・藤枝正稔)

「ローラ」(1961年、フランス)

監督:ジャック・ドゥミ
出演;アヌーク・エーメ、マルク・ミシェル、ジャック・アルダン、アラン・スコット

「天使の入江」(1963年、フランス)

監督:ジャック・ドゥミ
出演:ジャンヌ・モロー、クロード・マン、ポール・ゲール、アンリ・ナシエ

2017年7月22日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.zaziefilms.com/demy-varda/

作品写真:
「ローラ」(c) mathieu demy 2000
「天使の入江」(c) ciné tamaris 1994
タグ:レビュー
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2017年07月31日

「ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走」フランス発、巻き込まれ型爆笑コメディー

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 仏コメディー映画「真夜中のパリでヒャッハー!」(15)のニコラ・ブナム監督が、夏休みのドライブ旅行で一家が繰り広げる騒動を描いた「ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走」。

 物語はシンプルだ。愛車でバカンスに旅立つ整形外科医の父トム(ジョゼ・ガルシア)と臨月の母ジュリア(カロリーヌ・ヴィニョ)、祖父ベン(アンドレ・デュソリエ)と子供2人の5人家族。車の電子制御システムが壊れ、ブレーキが利かないまま、速度160キロで高速道路を大暴走。次々と降りかかるハプニングを喜劇仕立てで描いていく。

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 大暴走といえば、日本のパニック映画「新幹線大爆破」(75)。速度80キロ以下になると爆発する爆弾が仕掛けられた新幹線。警察と国鉄、犯人グループの駆け引きがスリル満点に描かれた傑作だ。この映画に影響を受けて作られたのがキアヌ・リーブス主演「スピード」(94)。バスに仕掛けられた爆弾をめぐり、警察と犯人の攻防戦が描かれた。

 今回暴走を引き起こすのは、車に登載された最新型電子制御システム。ドライバーなら誰にもが起こり得るトラブルだけに感情移入しやすい。凄いのは実際の高速道路に俳優を乗せた車を走らせ、車内で俳優が演技し、アクションもこなす点だ。コンピューター・グラフィックス(CG)合成全盛の昨今、コメディーだからと手を抜かず、疾走感と説得力を持たせた。

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 家族が乗った車が暴走して物語が動き出し、警官や車のディーラーらを巻き込む「巻き込まれ型コメディー」。予想の一歩先を行く笑いとアイデアが、92分とコンパクトにまとめられている。クライマックスは奇想天外なアクション。笑いを超えて感動を呼ぶ。スケールの大きさ、センスの良さに脱帽だ。

(文・藤枝正稔)

「ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走」(2016年、フランス)

監督:ニコラ・ブナム
出演:ジョゼ・ガルシア、アンドレ・デュソリエ、カロリーヌ・ビニョ、ジョゼフィーヌ・キャリーズ、スティラノ・リカイエ

2017年7月22日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/bon-voyage/

作品写真:(C)(C)2016 Chic Films – La Petite Reine Production – M6 Films – Wild Bunch

タグ:レビュー
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2017年07月21日

「ローラ」「天使の入江」ジャック・ドゥミ初期の傑作 みずみずしい青春のきらめき

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 「シェルブールの雨傘」(64)で知られるジャック・ドゥミが、1961年に発表した長編デビュー作「ローラ」。「海の沈黙」(47)や「いぬ」(63)の名匠ジャン=ピエール・メルヴィル監督に「真珠の輝きをもつ作品」と激賞されながら、日本では92年に一度公開されたきり。劇場ではなかなか見る機会のなかった貴重な作品だ。

 描かれるのは徹頭徹尾、男女の恋。踊り子のローラをローランが恋し、ローランを未亡人のデノワイエ夫人が恋し、水兵のフランキーをデノワイエ夫人の娘のセシルが恋し、そしてローラは水兵だったミシェルを恋し――。複数の恋が、それぞれ独立して、しかも互いに反響し合いながら進行する。とりわけアヌーク・エーメが二役を演じるローラとセシルの初恋が、それぞれ強い輝きを放って美しい。

 遊園地でフランキーと楽しい時間を過ごしたセシルが、乗り物から降り、ほどけた髪が風になびくスローモーションの場面。ミシェルが帰還し、ローラと再会、仲間の踊り子たちがすすり泣く場面……。印象的なシーンは枚挙にいとまがない。   

 主演は「男と女」(66)のアヌーク・エーメ。撮影はゴダール作品で有名なラウル・クタール。音楽はミシェル・ルグラン。名女優や巨匠たちがみな若く、全編にみずみずしい感覚があふれる作品だ。

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 「ローラ」に続く長編第2作が「天使の入江」。若い銀行員がカジノで出会ったブロンドの美女と意気投合し、一攫千金のギャンブルにのめり込んでいく。勤勉で消極的な生活を送っていた青年ジャンが、友人に誘われカジノを初体験。いきなり大金を稼ぎ出し、ギャンブルの魔力にとりつかれる。

 休暇を取って出かけたニーズのカジノでは、金髪の美女ジャッキーと意気投合。彼女の性的魅力も相まって、みるみるギャンブルに深入りしていく。世間知らずのジャンをそそのかし、持ち金を引き出す魔性の女を演じるのは、すでに大女優の風格が漂うジャンヌ・モロー。熟女の色香をふりまき、青二才のジャンを翻弄する。

 賭けが人生そのものと化しているジャッキーにとって、ジャンは単なる賭博のパートナーなのだろうか。一方、ジャンは、ばくちに夢中なのか、ジャッキーに夢中なのかが、自分でも分からないように見える。すれ違った二人の心が、重なり合うことはあるのか――。

 ギャンブルと年上の女性。それまでの人生にはなかった刺激と魅力に撹(かく)乱されながら、決断たる行動をとる青年ジャンの姿が爽快だ。

 両作品とも特集上映「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」で上映。

(文・沢宮亘理)

「ローラ」(1961年、フランス)

監督:ジャック・ドゥミ
出演;アヌーク・エーメ、マルク・ミシェル、ジャック・アルダン、アラン・スコット

「天使の入江」(1963年、フランス)

監督:ジャック・ドゥミ
出演:ジャンヌ・モロー、クロード・マン、ポール・ゲール、アンリ・ナシエ

2017年7月22日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.zaziefilms.com/demy-varda/

作品写真:
「ローラ」(c) mathieu demy 2000
「天使の入江」(c) ciné tamaris 1994

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2017年06月02日

「ザ・ダンサー」モダンダンスの先駆者、19世紀末のパリを彩る ロイ・フラーの半生

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 19世紀末のフランスを舞台に、モダンダンスの先駆者である女性ダンサー、ロイ・フラーの半生を描いた作品。「博士と私の危険な関係」(12)で主演したソーコがロイ、ジョニー・デップの娘リリー=ローズ・デップがライバルのイサドラ・ダンカンを演じる。写真家のステファニー・ディ・ジュースト監督の長編デビュー作だ。

 フランスの田舎に育ったマリー=ルイーズ・フラーは、父の死を機に母が暮らすニューヨークへ向かう。女優を夢見てオーディションを受けるが、地味な外見でなかなか役がつかない。セリフのない脇役のため、ぶかぶかの衣装で舞台に立ったマリー。ところが、演技中のアクシデントをくるくる回るアドリブダンスで切り抜けたところ、観客の拍手喝采を浴び、天才と称される。

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 ダンサーとして開花したマリーの頭には、衣装から照明、舞台装置まで次々アイデアが浮かんだ。芸名を「ロイ」に決めた後、最初の仕事は舞台の幕間5分を使ったダンスだった。長い棒にシルクの布をつけ、幽霊のような衣装でくるくる回る。前代未聞のパフォーマンスは観客を魅了した。そんな才能を見抜いたのはドルセー伯爵(ギャスパー・ウリエル)。ロイは伯爵のお金を拝借し、憧れのパリ、オペラ座を目指す──。

 ロイの生い立ち、創作ダンスの誕生、ライバルのイサドラとの友情。ダンスは汗と涙の結晶であり、命を削り踊る姿はスポ根ドラマに通じる。一方、イサドラはダンサーとして抜きん出た容姿、才能を持ち合わせていた。2人を対比させながらドラマは展開し、イサドラを演じるデップの小悪魔ぶりが物語に弾みをつける。

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 ロイが編み出した創作ダンス「サーペンタインダンス」も見どころだ。体力を使うため3日おきにしか踊れないダンスを、ソーコが躍動感とともに再現する。ロイが弟子たちを率い、森の中で舞い踊る群舞は幻想的。ダンス映画としてビジュアル表現が素晴らしい。ロイの半生を丁寧に描きながら、独創的な激しいダンスで観客の視覚と聴覚を刺激する。俳優の熱演と監督の手腕が光る作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ザ・ダンサー」(2016年、仏・ベルギー)

監督:ステファニー・ディ・ジュースト
出演:ソーコロ、ギャスパー・ウリエル、リリー=ローズ・デップ、メラニー・ティエリー、フランソワ・ダミアン

2017年6月3日(土)、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.thedancer.jp/

作品写真:(C)2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM

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