2017年10月24日

「星空」思春期の少女の心象風景 ファンタジックな映像で 台湾トム・リン監督名作

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 裕福な環境で育った13歳の少女。はた目には恵まれているように見えるが、両親の仲は冷え切っていて、家庭にぬくもりはない。寂しさを紛らわすように、少女は幸せだった幼い頃の思い出にふける。祖父とともに過ごした山の中で見た満天の星。もう一度、あの星空を見たい。祖父に会いたい。しかし、夢はかなわぬまま、祖父は亡くなってしまう。

 そんな少女の前に、1人の少年が現れる。少女の家の真向かいに越してきた転校生だった。少年はいつもスケッチブックを持ち歩き、卓越した画才の持ち主だ。しかし、描いているのは裸婦像ばかり。たちまち少年はクラスで浮いた存在となる。

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 同級生にいじめられる少年。加勢した少女はけがを負い、二人は意識し合う仲となる。ところが、少年は突然母親から転居を告げられる。DV(ドメスティック・バイオレンス)が原因で別れたはずの父が、居場所を突き止め、追ってきたのだ。一方、少女も両親から離婚を宣言される。少女は「星を見に行かない?」と少年を誘う。森、湖、山小屋、そして星空。古い思い出が蘇り、新しい思い出がつむがれる――。

 親しくなった少年と少女が、親の都合で引き離される。成瀬巳喜男監督の名作「秋立ちぬ」(60)を思い出す。少年の視点から、大人の身勝手さに翻弄される子どもの切なさ、やるせなさを、リアリズムの手法で描いた成瀬作品に対し、トム・リン監督は、少女の視点からファンタジー色強く描いている。

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 駅の待合室に降り積もる雪。巨大化して少女に付き従う木彫りの動物たち。星の瞬く夜空を疾走する列車。残酷な現実に抗するように表れる少女の心象風景が美しくも悲しい。

 エピローグには、成長した少女の役でグイ・ルンメイが登場。直前に投げかけられる謎と、ラストのサプライズをお見逃しなきよう。

(文・沢宮亘理)

「星空」(2011年、台湾・中国)

監督:トム・リン
出演:シュー・チャオ、リン・フイミン、レネ・リウ、ハーレム・ユー、ケネス・ツァン、ジャネル・ツァイ、シー・チンハン、グイ・ルンメイ

2017年10月28日(土)、K's cinemaほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://hoshizora-movie.com/

作品写真:(c)HUAYI BROTHERS MEDIA CORPORATION TOMSON INTERNATIONAL ENTERTAINMENT DISTRIBUTION LIMITED FRANKLIN CULTURAL CREATIVITY CAPITAL CO., LTD ATOM CINEMA CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

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2017年08月15日

「海の彼方」沖縄・石垣島への台湾人移民、苦難を乗り越えて ドキュメンタリー・シリーズ第1弾

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 戦前、台湾から沖縄県石垣島に移り住んだ人々を追ったドキュメンタリー映画「海の彼方」。日本に統治されていた1930年代、台湾から八重山諸島に農家約60世帯が移り住んだ。「海の彼方」に登場する玉木家の人々も含まれていた。

 2015年、88歳になった玉木玉代おばあは、娘や孫に連れられ、台湾の埔里へ最後の里帰りをする。長年の思いを胸にたどり着くが、70年の歳月がもたらした変化は大きかった。

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 玉代おばあの孫である玉木慎吾がナレーションを務める。慎吾はヘビメタバンドのメンバーとして活動している。東京から石垣島へ慎吾が帰るところから、カメラは追っていく。慎吾を迎える家族の中に、玉代おばあの姿も。再会を喜ぶ家族の幸せの向こうには、おばあが歩んだ苦難の歴史があるのだ。

 日本の敗戦後、石垣島に残った台湾の人々は無国籍状態に置かれた。おばあも沖縄が本土に復帰する1972年、日本国籍となった。沖縄の台湾人は、台湾の戦後教育を受けていないため、台湾語と日本語しか話せない。孫の代になると台湾語ができなくなる。台湾と日本の間にいる移民のアイデンティティーに迫りながら、おばあの里帰りを追っていく。

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 台湾人移民の苦難の歴史、玉木家の家族史がうまく合わさっている。日本と台湾の歴史も分かりやすく入ってくる。黄インイク監督のドキュメンタリー・シリーズ「狂山之海(くるいやまのうみ)」第1弾作品。

(文・藤枝正稔)

「海の彼方」(2016年、台湾・日本)

監督:黄インイク
出演:玉木玉代、玉木慎吾、玉木茂治、玉木美枝子、登野城美奈子

2017年8月12日(土)、ポレポレ東中野ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://uminokanata.com/

作品写真:(C)2016 Moolin Films, Ltd.

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2017年07月28日

「台湾萬歳」酒井充子監督に聞く アイデンティティーは「自分の人生が決めるもの」

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 台湾南部の漁村を舞台に、海や山とともに暮らす人々を追ったドキュメンタリー映画「台湾萬歳」。台湾の「日本語世代」を追った「台湾人生」(09)、「台湾アイデンティティー」(13)に続き、酒井充子監督が3部作の最終章として送り出した作品だ。

 前2作では歴史の波に翻弄され、激動の人生を歩んできた日本語世代の過去と現在を描いた酒井監督。今回は舞台を南部の台東県成功鎮に移し、台湾の自然と文化を愛し、汗を流し根を張って生きる人々に焦点をあてた。監督は一人、南部最大の都市・高雄から車を走らせた。

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 「台湾の南の方で撮りたくて、台東になったのは偶然です。今回はゼロからやろうと思い、取材の予約もしませんでした。(米どころで知られる南部の)池上へ行けば、米を作っているおばあちゃん、おじいちゃんがいるだろうと思い、池上の農協で聴き込みました。ところが、(日本語世代の高齢化が進み)存命の人が少なかった。どうしようかな……海へ行けば漁師さんがいるかもしれない、と海岸線を北上。途中で『成功漁港』の看板を見たんです」

 行き当たりばったりの取材をスタートさせたのは、前2作とはまったく違うものにしたかったからからだ。日本統治時代を含め、より長いスパンで台湾の時の流れをとらえたかったという。「特別なもの」ではなく、「そもそもの」台湾を知りたくなった。

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 「これまでずっと、台湾の人たちが持っている明るさ、強さはどこから来るんだろうと思ってきました。風土や社会環境、台湾人を育んだものを見たかった。激動の歴史の一方で、コツコツと額に汗して生きてきた人たちを撮りたかったんです」

 台東県はアミ族、ブヌン族、タオ族など原住民の人々が人口の3割強を占める。成功鎮も漢民族と原住民が半々だ。今回登場するのは、日本統治時代に持ち込まれたカジキの「突きん棒漁」をする夫婦、ブヌン族の伝統的な狩猟を受け継ぐ若い世代も登場する。台湾の多様性、歴史が浮かび上がる。

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 15年を超える取材を通し「台湾とは何か、日本とは何か」を探ってきた酒井監督。日本で台湾は「親日」の国とくくられがちだが、はっきりと異議を提示する。

 「東日本大震災後、台湾から多額の義援金が来て初めて、多くの日本人が台湾を意識するようになった。ただ、興味の示し方が露骨で、日本にとって都合のいいイメージでしか台湾を見ない。親日の2文字では語れない歴史があり、今もその時代を生きた人がいる」

 では、前作のタイトルにもなった「アイデンティティー」とは何か。何がそれを決めるのか。

 「自分の人生が決めるものだと思います。国や民族、言語や文化では規定できないもの。その人が歩んできた人生こそ、アイデンティティーではないでしょうか」

 “最終章”と銘打たれてはいるが、酒井監督の台湾への旅は続いている。次回作は「場所」を撮るそうだ。「まだどこかは言えませんが」と笑顔を見せた。

「台湾萬歳」(2017年、日本)

監督:酒井充子

2017年7月22日、ポレポレ東中野ほか全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://taiwan-banzai.com/

作品写真:(C)「台湾萬歳」マクザム/太秦
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2017年02月21日

「百日告別」最愛の人を突然失った痛み 台湾トム・リン監督、実体験を映画化

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 最愛の妻を突然亡くした実体験を、台湾青春映画「九月に降る風」(08)のトム・リン監督が映画化した。

 台湾の路上で多重事故が起きた。平和な日常が一瞬で非日常に変わる。シンミン(カリーナ・ラム)は婚約者レンヨウを亡くした。ユーウェイ(シー・チンハン)は妊娠中の妻シャオエンを失った。最愛の相手の死を受け入れられない二人は、喪失感に押しつぶされそうになりながら、初七日を迎える──。

 初七日、三十五日、四十九日と行われる合同の法事。縁のなかった他人同士が、事故に巻き込まれた共通点で山の上の寺に集まる。何度か顔を合わせるうち、奇妙な連帯感が生まれていく。しかし、法事が終われば再び、それぞれ孤独な喪失感と向き合わなければならない。

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 シンミンは調理師のレンヨウと、レストランを開く夢があった。メニューの開発を兼ねて新婚旅行する予定だった沖縄に、シンミンは一人旅立ち、孤独を改めてかみ締める。一方、ユーウェイはピアノ教師だった妻の教え子の家を訪ね歩き、レッスン料を返していく。そして二人は、法事の節目である「百日」を迎える。

 「百日告別」は悲惨な事故シーンで幕を開ける。それぞれ事故車に乗り合わせ、一命をとりとめた二人。もうろうとする意識の中、病院で初めて現実を知る。怒りと悲しみが入り乱れ、我を失うユーウェイに、親族たちは理解を示さない。その姿は監督自身の体験から生まれたのではないだろうか。

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 心に穴の開いた二人をよそに、時は無情に、刻々と過ぎていく。合同の法事を節目にしながら、二人は喪失感を埋めるため動き出す。一人向かった沖縄。島の人々の優しさや風景が、言葉の通じないシンミンの心を癒やしていく。

 残された人が亡き人を思う気持ちは、日を追うごとに募るものだろうか。監督自身が亡き妻への思いを整理し、映画にすることが、癒やしの儀式だったのかもしれない。監督の痛みがダイレクトに伝わり、観客も言い知れぬ痛みと悲しみを共有する。

(文・藤枝正稔)

「百日告別」(2015年、台湾)

監督:トム・リン
出演:カリーナ・ラム、シー・チンハン、チャン・シューハオ、リー・チエンナ、ツァイ・ガンユエン

2017年2月25日(土)、渋谷ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.kokubetsu.com/

作品写真:(C)2015 Atom Cinema Taipei Postproduction Corp. B'in Music International Ltd. All Rights Reserved
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2016年12月10日

映画祭を振り返る(4)第17回東京フィルメックス エドワード・ヤン監督「タイペイ・ストーリー」ホウ・シャオシェン主演 台湾ニューシネマの盟友集結

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 第17回東京フィルメックス(2016年11月19〜27日)。特別招待作品「フィルメックス・クラシック」で、台湾エドワード・ヤン(楊徳昌)監督の「タイペイ・ストーリー」(1985)が上映された。

 ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督とともに台湾ニューシネマを牽引したヤン監督。日本では「クーリンチェ少年殺人事件」(91)以降の全作品と「恐怖分子」(86)が劇場公開されているが、長編2作目にあたる「タイペイ・ストーリー」はなかなか見るチャンスが少なく、ファンにとって貴重な上映となった。

 主たる登場人物は、30代とおぼしき幼なじみのカップル。マンションで同棲生活を送っているが、蜜月期はとうに過ぎているようで、甘いムードはかけらもない。実は2人とも、ほかの異性とひそかに関係を持っている。

 男は兄のビジネスを手伝うため、たびたび米国に出張しているが、今ひとつ何をやりたいかがはっきりしない。かつて少年野球の花形選手だったようで、今もたまに子どもたちをコーチしている。野球選手になりたかった過去から解放されていないのだろう。

 一方、女は建築設計会社で働いていたが、大企業との合併を機にリストラされてしまう。失業したことで生活基盤が揺るぎ、2人の関係はますます先が見えなくなっている。

 ある日、男が出張から持ち帰ったビデオから、男が隠していた密会の事実が発覚。女が男を問い詰めると、男は逆ギレして家を出ていく。女は男との関係を修復しようと、男の行きつけのカラオケ店に電話するが――。

 急速に発展する台北を舞台に、男女の不安定な関係をスタイリッシュな映像で描いた作品。男を演じたのはホウ・シャオシェン、女を演じたのは当時ヤン監督夫人だったツァイ・チン(蔡琴)。ほかにも「多桑 父さん」(94)のウー・ニェンチェン(呉念真)、「光陰的故事」(82)のクー・イーチェン(柯一正)など、ヤン監督の盟友だった映画作家たちが俳優として参加。ホウ監督は脚本、製作も手がけている。

 仏ヌーヴェルヴァーグに比肩する大きなうねりを引き起こした台湾ニューシネマ。斬新な映像スタイルもさることながら、盟友同士がスクラムを組んで製作した点でも、まさにヌーヴェルヴァーグ的な1本といえる。

 プロ野球や石原裕次郎のテレビCM、日本語カラオケ、日本企業のネオンサイン、さらには少女が口にする渋谷や原宿という名前まで、全編に散りばめられた“日本”も印象的である。

(文・沢宮亘理)

「タイペイ・ストーリー」(1985年、台湾)

監督:エドワード・ヤン
出演:ツァイ・チン、ホウ・シャオシェン、クー・イーチェン
posted by 映画の森 at 19:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする