2017年01月10日

「ホワイト・バレット」ジョニー・トー節全開 容疑者と刑事と女医 三つどもえサスペンス&壮絶アクション

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 頭に負傷し病院に搬送された強盗事件の容疑者、シュン(ウォレス・チョン)。手術を拒み仲間の助けを待つシュンを監視し、事件解決のチャンスをうかがう敏腕警部、チャン(ルイス・クー)。シュンが手術を受け入れるよう説得を試みる女医のトン(ヴィッキー・チャオ)。三者三様の思惑は、一触即発の緊張感をはらみ、やがて壮絶なクライマックスを招き寄せる――。

 手術を拒否するのは患者の人権だ。そう主張し、仲間が現れるまでの時間を稼ぐシュンは、会話中に哲学者のバートランド・ラッセルやギリシャ神話を引用するなど、なかなかのインテリで、一筋縄では行かない男である。対するチャン警部は、事件解決のためには違法行為も辞さない執念の男だ。この2人の間に割って入るトンは、過労で手術ミスを重ねながらも、シュンの命を救いたいと使命感に燃える若きエリート医師。

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 この3人が交える丁々発止の心理戦が、前半の見どころだ。また3人のほかにも、精神病院から転院してきた老人、手術ミスで手足の麻痺した男、意識不明の男など、多彩な人物が登場。これらの個性的な人物たちが演じる人間ドラマも見ごたえがある。

 後半は、待ちに待ったアクションが炸裂する。トー監督の専売特許とも言える360度全開のパノラマ銃撃戦。巻き込まれた患者や看護師がスローモーションでもんどり打つ。白衣が赤く染まる。水平方向にぐるりと回転しながら繰り広げられるバトルの凄まじさ、美しさには、いつもながらゾクゾクさせられる。

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 クライマックスに至ると、アクションは水平方向だけでなく、垂直方向にも展開。シュン、チャン、トンの3人が生死の運命をかけて一つにつながるシーンは圧巻の一語だ。トー作品では常連のラム・シューが、ファット刑事役で出演。尻に刺さったナイフを抜かずに銃撃戦を続ける姿が笑いを誘う。こういうコミカルなテイストをさりげなく加えるところも、トー監督らしさである。

 トー監督自身が立ち上げた製作会社“ミルキーウェイ・イメージ”の設立20周年記念作品。還暦を超えてますます盛んな巨匠の創造性が、遺憾なく発揮された傑作だ。

(文・沢宮亘理)

「ホワイト・バレット」(2016年、香港・中国)

監督:ジョニー・トー
出演:ルイス・クー、ヴィッキー・チャオ、ウォレス・チョン、ラム・シュー

2017年1月7日(土) 、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://twitter.com/whiteb_movie

作品写真:(c)2016 Media Asia Film International Limited All Rights Reserved
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2016年11月03日

「小さな園の大きな奇跡」香港エイドリアン・クワン監督に聞く 幼稚園救った女性の実話 共感呼び大ヒット

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 閉鎖寸前まで追い込まれた小さな幼稚園。その園長を引き受け、さまざまな困難を克服しながら、見事に再建を成し遂げた女性の姿を感動的に描く「小さな園の大きな奇跡」。香港映画の定番であるアクションものを押しのけ、興行収入ナンバーワンに輝いた話題作だ。2016年11月5日の日本公開を前に、共同脚本家のハンナ・チャンとともにエイドリアン・クワン監督が来日した。クワン監督は「夢は困難を乗り越える力を与えてくれる」と語った。

エリート幼稚園から閉鎖寸前の幼稚園へ

 資金不足で経営難に陥り、園長も教員も辞めてしまった幼稚園で、新たに園長を募集している――。新聞にそんな記事が載ったのは09年。その数カ月後、エリート幼稚園の園長を務めていたルイ・ウェホンという女性が応募し、新園長に就任したと報じられた。クワン監督はこのニュースにひどく驚いた。

「月給はわずか4千5百香港ドル(約6万円)。エリート幼稚園の園長だった人が、こんな薄給で、たった5人しかいない園児のために働こうなんて。その理由が最初は理解できなかった」

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 しかし、その後、心理カウンセラーのハンナ・チャンとともに慈善団体で1年間、恵まれない子供たちを手助けする仕事をしてみて、ルイ先生の気持ちがようやく分かったという。

 2013年、クワン監督はルイ先生のもとを訪れる。「数々の障害を乗り越えながら、子供たちのために幼稚園を立て直すという夢をかなえた先生の話に、私はとても感動し、その場で大泣きしてしまった。ぜひこの話を映画化したいと思った」。

テクニックではなく共感力を求めた

 ルイ先生の役には“香港映画のラブコメ女王”と呼ばれる人気女優、ミリアム・ヨンをキャスティング。また、ルイ先生の夫役はアクション・スターのルイス・クーにオファーした。

 「ミリアムにはルイ先生に会いに行ってもらい、園長のあり方について学んでもらった。夫役のルイスには自然主義的な演技を求めた。オフィスを訪ねて30分役柄について説明したのだが、後で聞いたら、彼は最初の5分しか私の話が分からなかったそうだ。『だって残りの時間、君はずっと泣いていたからね』って(笑)」

 このインタビューの最中もしばしば涙声になったクワン監督。ハンナ・チャンによると、感動するとすぐに泣いてしまうらしい。

 そんなクワン監督は、俳優にも感動することを求めた。

 「重要なのはテクニックではなく、共感する能力だ。劇中で流される涙は演技ではなく、どれも本当の涙。実話を分かち合うことで、恵まれない境遇にいる子供たちの実情を感じ取り、彼らの気持ちを理解してもらうようにした」

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自然さを損なわないよう一発撮りにこだわった

 亡くなった両親を思い出してチュチュが泣くシーンでは、監督が母親を亡くしたときのことを園児に話して聞かせた。

 「私は話しながら泣いてしまった。すると、その子は『あ、監督泣いている』って言ったんだ。私が『そうだよ、家族を亡くすっていうのは、そういうことなんだよ』と答えると、その子は『分かったよ、監督』と言って、ようやくあの本物の涙を流すことができたんだ」。

 最も神経を使ったのは、クライマックスの卒園式シーン。すべてを完璧に準備して撮影に臨んだ。何度も撮り直しすると、自然な感じが損なわれるので、一発撮りにこだわった。

 「本番前、ハンナは卒園生を演じるカカを2時間も抱きしめていた。その間、スタッフもキャストも全員が沈黙したまま、2人を見守っていた。ハンナはまるで爆弾を抱えているようだった」

 そして撮影スタート。息を殺してモニターを見つめる。カット。成功だ。

 「終了後は全員で泣きました」

夢は困難を乗り越える力を与えてくれる

 この映画の興行的成功は、クワン監督に大きな自信をもたらした。本作は香港映画のレイティングでカテゴリーTに分類されている。つまり、あらゆる年齢層で誰もが見られる映画だ。だが、それは逆にいうと、特定の市場が存在しないということでもある。カテゴリーTはヒットしないというのが常識だった。

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 「ところが、この映画はそんな定説を覆した。愛と希望をもってチャレンジすることの大切さを訴える映画をつくること。それは意味のあることだと確信できた。“夢を持ち続けよう”“夢は困難を乗り越える力を与えてくれる”。今後も、そんなポジティブなメッセージを込めた映画を撮り続けていきたいと思います」

(文・写真 沢宮亘理)

「小さな園の大きな奇跡」(2015年、香港・中国)

監督:エイドリアン・クワン
出演:ミリアム・ヨン、ルイス・クー、リチャード・ン、アンナ・ン、スタンリー・フォン、サミー・リョン

2016年11月5日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://little-big-movie.com/

作品写真:(c)2015 Universe Entertainment Limited All Rights Reserved
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2016年01月12日

「ヘリオス 赤い諜報戦」アジアのスター香港に集結、リアルな大型推理アクション

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 韓国が開発した超小型核兵器をめぐり、香港、中国、韓国、謎の犯罪組織「ヘリオス(赤道)」が争奪戦を繰り広げる「ヘリオス 赤い諜報戦」。香港を舞台にアジアのスターが集結した大型推理アクションだ。

 犯罪組織「ヘリオス」が操る“使者”(チャン・チェン)が、超小型核兵器「DC-8」を保管庫から奪った。香港で「DC-8」が取引されると聞きつけた香港警察は、核専門家シウ教授(ジャッキー・チュン)の指示を仰ぎ、リー隊長(ニック・チョン)を中心に対策を練る。

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 韓国情報当局のチェ(チ・ジニ)とパク(チェ・シウォン)も香港に到着。“使者”らとの激しい銃撃戦の末、香港と韓国の合同チームは「DC-8」の奪還に成功する。ところがそこへ中国政府から派遣されたソン(ワン・シュエチー)が登場。「DC-8」は韓国へ戻されず、香港で保管されることになるが──。

 香港、韓国、中国、犯罪組織「ヘリオス」。それぞれの思惑が交錯し、ぶつかり合う。一国二制度を維持する香港は、いわば中立的な立場。そこへ韓国と中国が乗り込み、核兵器をめぐって対立する。実際の外交取引さながらの情報戦は、緊迫感とリアリティー十分だ。

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 俳優も実力派が集まった。事態の鍵を握るシウ教授を演じたジャッキー・チョンは、中華圏を代表する大物歌手。リー隊長には香港の実力派ニック・チョン、“使者”には台湾からチャン・チェン。韓国ドラマでおなじみのチ・ジニ、K-POPで人気の若手チェ・シウォン。中国からはベテラン俳優ワン・シュエチーと、主演級の俳優がそろった。

 監督は「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義」のリョン・ロクマンとサニー・ルク。北東アジアの危ういバランスを緻密な脚本で描いている。映画界で進む中華圏と韓国の接近が反映されるところへ、日本が意外な形で絡んでくるもの興味深い。

(文・遠海安)

「ヘリオス 赤い諜報戦」(2015年、中国)

監督:リョン・ロクマン、サニー・ルク
出演:ジャッキー・チュン(張學友)、ニック・チョン(張家輝)、ショーン・ユー(余文樂)、チ・ジニ、チェ・シウォン

2016年1月9日(土)、有楽町スバル座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.helios.ayapro.ne.jp/

作品写真:(C)2015 Media Asia Film International Limited, Wanda Media Co., Limited, Sun Entertainment Culture Limited, Sil-Metropole Organisation Limited All Rights Reserved.
タグ:レビュー
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2015年10月14日

「カンフー・ジャングル」必殺ドニー・イェン、最強の敵と一騎打ち アクション先達への敬意と愛

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 香港。武術家の男がトンネルで殺された。遺体に刺し傷はなく、警察は「拳で撲殺された」と断定する。捜査を担当する女性警部のロク(チャーリー・ヤン)に、服役中の元警官ハーハウ(ドニー・イェン)が面会を求め、協力を申し出る──。

 香港が生んだカンフースター、ドニー・イェンの最新作「カンフー・ジャングル」。原題「一個人的武林」が示す通り、カンフーの強者であふれる武林=ジャングルを、ドニーが戦いながら生き抜く物語だ。監督は「孫文の義士団」(09)のテディ・チャン。

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 捜査協力のため一時釈放されたハーハウは、犯行の目的を「怨恨ではない」と断言。「今後も殺人は続く」と予言する。その言葉通り、時をおかず武術界の猛者たちが次々殺害される。さらに現場には、容疑者自ら手がかりを示す武器のレプリカが残されていた。

 まず主役の背景設定が特異だ。ハーハウは警察の武術教官でありながら、「天下一の武道家」を決める私的試合を決行。誤って相手を殺してしまい、服役している。スタートからこの映画が、カンフースターによる、カンフー好きのための、純粋なカンフー映画と気づくだろう。ドニーが戦う舞台は現代の香港だが、実は治外法権的なジャングルなのだ。

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 ドニーを迎え撃つ無敵の容疑者には、中国の個性派俳優ワン・バオチャン。コメディー演技に定評があるが、実は6歳から武術を学び、少林寺での修行経験もある実力者。ワンが多彩な技を繰り出し、猛者たちを次々倒していく。ついに顔を合わせたドニーとの決戦は、13分を超える死闘となる。

 また、劇中次々とカメオ出演する香港アクション映画の監督、俳優、製作者たちも見どころの一つ。チャン監督が「映画人生の8割をアクションに捧げてきた。多くの武術監督と仕事をしてきた。特別に思い入れがあり、アクションを振り付けるのも好き」と話すように、全編にカンフー映画への敬意と愛があふれた作品だ。

(文・遠海安)

「カンフー・ジャングル」(2014年、中国・香港)

監督:テディ・チャン
出演:ドニー・イェン、ワン・バオチャン、チャーリー・ヤン、ミシェル・バイ、アレックス・フォン、ルイス・ファン

2015年10月10日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kung-fu-jungle.gaga.ne.jp/

作品写真:(C)2014 Emperor Film Production Company Limited Sun Entertainment Culture Limited All Rights Reserved
タグ:レビュー
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2014年08月02日

「ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪」 興奮の波状攻撃 ツイ・ハーク絶好調!

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 2012年に日本で公開された武侠アクション「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件」(10)。前日譚にあたるシリーズ第2弾だ。前作に続いてメガホンを取ったのは、ツイ・ハーク監督。奇想天外なアイデアと神業的アクションに磨きがかかり、前作以上にエキサイティングな作品に仕上がった。

 時は紀元665年の唐朝末期。皇帝・高宗と皇后・則天武后(カリーナ・ラウ)が敵国に差し向けた水軍艦隊が、龍王(シードラゴン)と見られる怪物に襲撃され、全滅してしまう。若い女性を生贄(いけにえ)にすれば龍王の怒りは鎮まる――。ちまたに噂が広まり、美女のほまれ高い花魁のイン(アンジェラベイビー)が、龍王を祀った廟に監禁される。

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 ところが、そこにインを誘拐しようとする男たちが現れる。間一髪のところでインを救出したのは、大理寺(最高裁)に赴任したばかりの若き判事、ディー・レンチェ(マーク・チャオ)だった。ディーは誘拐騒動で司法長官・ユーチ(ウィリアム・フォン)に不審を抱かれて投獄されるが、獄中で知り合った医官のシャトー(ケニー・リン)とともに脱獄に成功。イン救出時に姿を現したモンスター“鉄の爪”を手がかりに、国家転覆の陰謀をかぎつける。
 ディーは自分を追い回すユーチに事の次第を話し、則天武后に上奏。シャトーと3人手を組み、逆賊たちに戦いを挑む――。

 冒頭の海戦シーンから、興奮のるつぼに放り込まれる。その興奮冷めやらぬまま、新手の趣向が飛び出し、またまた興奮。休む間もなく、次々と奇想天外なアイデアが繰り出される。ツイ・ハークならではの、興奮の波状攻撃とでも言おうか。娯楽映画はこうでなくちゃいけない。

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 登場キャラクターがまた多彩である。龍王をはじめ、鉄の爪、毒蜂、呪いの虫・蠱(こ)といった生物キャラが、どれもこれもたまらなく不気味。そんな中で海中を駆け、天を翔る白馬の勇ましさ、爽やかさ。正邪のコントラストが実に鮮やかである。

 クライマックスは、前作でも見られた“垂直のアクション”。今回の舞台は断崖絶壁だ。7人が地面に垂直にぶら下がり死闘を繰り広げるアクション・シーンは空前絶後。天才ツイ・ハークなればこそなし得た荒技といってよいだろう。

 前作に続き則天武后を演じたカリーナ・ラウは、“ドSキャラ”を前面に打ち出して存在感を増した。エンディングでの度を越したおふざけは、オールラウンダーの面目躍如か。

(文・沢宮亘理)

「ライズ・オブ・シードラゴン」(2013年、中国・香港)

監督:ツイ・ハーク
出演:マーク・チャオ、キム・ボム、ウィリアム・フォン、ケニー・リン、アンジェラベイビー、チェン・クン、カリーナ・ラウ

2014年8月2日(土)、シネマート新宿、シネマート六本木ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.u-picc.com/SEADRAGON/

作品写真:(c)2013 HUAYI BROTHERS MEDIA CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED.
タグ:レビュー
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