2016年06月13日

「二ツ星の料理人」食と人のアンサンブル ブラッドリー・クーパー、凄腕シェフの再起好演 

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 ブラッドリー・クーパーは不思議な俳優である。「世界にひとつのプレイブック」(12)、「アメリカン・ハッスル」(14)、「アメリカン・スナイパー」(15)と3年連続で米アカデミー賞主演男優賞候補に。ハリウッドのトップに上り詰めているはずなのに、どこか自信なさげで決定打に欠ける。「二ツ星の料理人」はそんなクーパーの個性──突き抜けられない鬱屈をうまく生かした作品だ。

 凄腕シェフのアダム(クーパー)は、酒と女のトラブルで仏パリの二ツ星レストランを追い出された。3年後。英ロンドンで旧友トニー(ダニエル・ブリュール)の助けを借り、新規開店に奔走する。エレーヌ(シエナ・ミラー)、ミシェル(オマール・シー)ら優秀なスタッフを集め、「世界一のレストラン」を作って再起するつもりだった。

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 目標は料理ガイド「ミシュラン」で三ツ星を取ること。ミシュランの覆面調査員来店に備え、スタッフを教育し、入念に料理のメニューを考えるアダム。星を取ることは、アダムにとって過去の清算と再出発を意味していた。

 しかし、完ぺき主義で短気なアダムに、周囲は翻弄される。かんしゃくを起こし、出来上がった料理をぶちまけるアダム。厨房にはピリピリした空気が流れ、スタッフの気持ちはなかなか一つにならない。ぎくしゃくした空気が流れるところへ、ミシュランの調査員らしき客が来店する──。

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 二ツ星を辞めさせられた料理人が、起死回生で三ツ星獲得に挑む。すねに傷を持った男をクーパーが好演。女で一つで娘を育てるエレーヌに、強気でさばさばしたミラーがぴったりだ。シー、ブリュールとも過不足ない演技で脇を固める。エマ・トンプソン、ユマ・サーマンの抑えた演技も楽しい。

 監督はメリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツらの群像劇「8月の家族たち」(14)のジョン・ウェルズ。食と人のアンサンブルをうまく料理している。

(文・遠海安)

「二ツ星の料理人」(2015年、米国)

監督ジョン・ウェルズ
出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、オマール・シー、ダニエル・ブリュール、リッカルド・スカマルチョ

2016年6月11日(土)、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://futatsuboshi-chef.jp/

作品写真:Artwork (C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
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2016年06月10日

「ノック・ノック」一夜の過ちで地獄へ転落 キアヌ・リーブス主演、理不尽限界サスペンス

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 父の日。建築家のエヴァン(キアヌ・リーブス)は、外出する妻カレンと子供を見送り、一人自宅で仕事していた。夜。豪雨の中、玄関をノックする音がする。開けるとずぶ濡れの美女2人が立っていた。暖を取らせるため家へ招き入れたエヴァンだったが、それは地獄への第一歩だった──。

 感染パニック・ホラー「キャビン・フィーバー」(02)でデビューしたイーライ・ロス監督の最新作「ノック・ノック」。近作の「グリーン・インフェルノ」(15)は食人族を取り上げた。今回は人気スターのキアヌ・リーブスを起用。一夜の過ちで人生が崩壊する男の悲劇を描いたサスペンスだ。

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 家族を愛する良き父エヴァンの元に、ジェネシス(ロレンツォ・イッツォ)とベル(アナ・デ・アルマル)が迷い込む。警戒するエヴァンだったが、美女2人はぐいぐい距離を詰めていく。いつの間にか家中に入り込み、バスルームでエヴァンを誘惑。理性を保とうとするエヴァンだったが、ついに誘いに屈してしまう。

 これまでのロス監督作品では、主人公が訪れた先で悪夢に巻き込まれていた。今回は反対に安全なはずの自宅が地獄に変わる。いの一番に思い出したのが、1970年に漫画家の藤子不二雄Aが描いた「魔太郎がくる!!」。招き入れた他人に自宅を乗っ取られるエピソードに似ている。テロに怯える現代心理を映しているのかもしれない。

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 怖いのは入り込んだ2人の目的が分からないことだ。ゲームのように男を誘惑し、落とした翌朝に牙をむき、容赦ない暴力を浴びせる。平和だった男の人生は簡単に壊される。女の闇ともみえる描写に、世の男たちは震え上がるだろう。

 それにしても、ここまで不甲斐ないダメ男を演じるリーブスは初めて。逆にまったく悪びれず悪事をエスカレートさせる2人の怪演がすさまじい。悪趣味な不条理を徹底的に描くロス監督ならではで、観客の嫌悪感を引き出す演出が巧妙だ。積み重ねられる理不尽なエピソードに、不快指数が100%に達することは間違いない。

(文・藤枝正稔)

「ノック・ノック」(2015年、米国)

監督:イーライ・ロス
出演:キアヌ・リーブス、ロレンツァ・イッツォ、アナ・デ・アルマス

2016年6月11日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://knockknock-movie.jp/

作品写真:(C)2014 Camp Grey Productions LLC

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2016年06月03日

「サウスポー」ジェイク・ギレンホールが肉体改造 転落ボクサーの再生熱演

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 ジェイク・ギレンホールが「ナイトクローラー」に続き、肉体改造のアクセルを踏み込んだ。アントワン・フークア監督新作「サウスポー」は、ボクシング世界チャンピオンの転落と再生を描く人間ドラマ。ギレンホールが半年の訓練で7キロ減量し、ボクサーの「体」を得て熱演する。

 米ニューヨーク。ボクシング世界ライトヘビー級チャンピオンのビリー(ギレンホール)は、怒りにまかせて戦う過激な選手だ。しかし、自分の起こした暴力沙汰に巻き込まれ、最愛の妻モーリーン(レイチェル・マクアダムス)が死んでしまう。ビリーは自暴自棄に陥り、地位も名誉も財産も喪失。幼い娘レイラ(オオーナ・ローレンス)とも引き離され、人生のどん底に突き落とされる。

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 暗闇でもがくビリーは、アマチュア・ボクシングのトレーナー・ティック(フォレスト・ウィテカー)に救いを求めた。「お前の短気は命取りだ」、「腕力ではなく頭を使え。ボクシングはチェスと一緒だ」。ティックの厳しい言葉に、ビリーは自らと向き合い、再生への道を探る。自分を信じた妻に報い、愛する娘と再び暮らすため──。

 ギレンホールの人物造形が光る。短気で粗野、力で相手をねじ伏せるチャンピオン。怒り=負のエネルギーでスターダムを駆け上がった男が、妻を失い初めて自らを律し、他人の言葉に耳を傾け、真の強さを知る。ギレンホールは肉体だけでなく、陰うつとした眼差しまで作り上げている。

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 デンゼル・ワシントンの悪役が記憶に残る「トレーニング・デイ」(01)と同様、フークア作品には共通して刹那的な空気が漂う。重く激しい男たちの中、妻を演じたマクアダムスが一服の清涼剤のように、甘く可憐な空気を放っている。

(文・遠海安) 

「サウスポー」(2015年、米国)

監督:アントワン・フークア
出演:ジェイク・ギレンホール、レイチェル・マクアダムス、フォレスト・ウィテカー、オオーナ・ローレンス、カーティス・“50セント”・ジャクソン

2016年6月3日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://southpaw-movie.jp/

作品写真:Artwork(C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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2016年05月30日

「デッドプール」マーベル発の異色ヒーロー 毒舌で自分中心、過激描写たっぷり

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 百花繚乱のマーベルコミック原作映画に、異色のヒーローが誕生した。人気シリーズ「X-MEN」のスピンオフ(派生作品)、「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」に登場した「デッドプール」。毒舌家で自己中心的な主人公のアクション娯楽作だ。

 元傭兵のウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)は、けちな悪党を懲らしめ日銭を稼いでいた。娼婦ヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)と出会って結婚。ささやかな幸せをかみしめる矢先、末期がんと告げられる。そこへある男が怪しい治療方法を勧めてきた。「誰もが夢見る力が手に入る」と誘われ、行った先は不気味な実験室だった。

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 そこは余命わずかな人々の肉体を改造し、殺人兵器として売り飛ばすための施設。責任者のエイジャックス(エド・スクライン)は自分の体にもメスを入れ、超人的な力を身につけていた。繰り返し実験され、驚異の治癒能力と不死の体を得たウェイドだったが、皮膚はただれて無残な外見に。脱走して自前のスーツに身を包み、エイジャックスの行方を追う──。

 「デッドプール」の面白い点は二つ。主人公が観客と自分の間にある「壁」を破ることだ。スクリーンの中からこちらに話しかけてくるため、演出に奥行きが出る。さらに、毒舌と過激描写でヒーロー作品には珍しく、全米で「R指定」された点。原作のキャラクター造形に近づいた。

 派手なアクションと止まらぬジョーク。映画好きが喜ぶ小ネタも多い作品だ。

(文・魚躬圭裕)

「デッドプール」(2016年、米国)

監督:ティム・ミラー
出演:ライアン・レイノルズ、モリーナ・バッカリン、エド・スクライン、T.J.ミラー、ジーナ・カラーノ、ブリアナ・ヒルデブランド

2016年6月1日(水)、TOHOシネマズ日劇ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/deadpool/

作品写真:(C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
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2016年05月13日

「追撃者」砂漠が舞台の“人間狩り” マイケル・ダグラス、凶気の富豪を悠々と

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 米南西部のモハーベ砂漠。町まで150キロ、気温50度を超える過酷な地で、トレッキング・ガイドを務めるベン(ジェレミー・アーバイン)のもとに、大富豪のマディック(マイケル・ダグラス)を案内する仕事が入る──。

 エドガー・アラン・ポー賞を受賞したロブ・ホワイトのスリラー小説を映画化。原作を気に入ったダグラスが製作、主演を務め、スティーブン・スピルバーグ監督作「戦火の馬」(11)のアーバインが共演。仏出身の監督ジャン=バティスト・レオネッティがメガホンを取った。

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 凶気の大富豪が砂漠で「人間狩り」に興じる。広大な砂漠を舞台にした閉鎖的な物語だ。マディックは6輪駆動の高級ベンツで砂漠に繰り出す。探鉱者を誤射して死なせてしまい、もみ消そうとするがベンにとがめられる。すると狂ったマディックはベンの服を脱がせ、灼熱の砂漠に放り出す。人間狩りのスタートだ。ベンは生き延びるため、あらゆる知恵をしぼる。

 話は非常にシンプルで、出演者も少ない。演技と映像あっての作品だ。広大な砂の上に絶妙な絵を作ったのは撮影監督のラッセル・カーペンター。「タイタニック」(97)、「チャリーズ・エンジェル」(00)などの大作を手がけたカーペンターが、視覚的な緊迫感を生み出した。

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 ダグラスがサディスティックな悪役を余裕たっぷりに演じている。獲物になったベンを追う時、手にするのはワイングラス。ベンを手のひらで、ワインを舌で転がしながら、残酷なゲームを楽しむ。アーバインも負けていない。若く俊敏な肉体と知恵を駆使し、執ような攻撃をかわしていく。演出は最後までぶれず、ひとひねり加えた幕引き。息をつく間もないスリラーだ。

(文・藤枝正稔)

「追撃者」(2014年、米国)

監督:ジャン=バティスト・レオネッティ
出演:マイケル・ダグラス、ジェレミー・アーバイン、ハンナ・マンガン・ローレンス、ロニー・コックス

2016年5月14日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.tsuigekisha.com/

作品写真:(C)2014 Furthur Films, Inc. All Rights Reserved

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