2016年07月05日

「死霊館 エンフィールド事件」説得力あるドラマ、ショック演出、美しい幕引き ワン監督のホラー到達点

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 英ロンドン北部のエンフィールド。シングルマザーのペギー・ホジソンと子供4人は、室内の奇妙な物音に悩まされていた。あろうことかある日、家具が勝手に動き出し、家族を攻撃するようになる。テレビが取材に訪れたところ、11歳の次女ジャネットが怒り出し「出て行け」と老人のような声を出した──。

 「ソウ」シリーズのジェームズ・ワン監督作「死霊館」(13)の続編。1977年に英国で起きた「エンフィールド事件」をベースにした実録ホラーだ。前作に続いてパトリック・ウィルソンとベラ・ファーミガが、超常現象の解明を依頼された米研究家ウォーレン夫妻を演じる。

 冒頭でやはり1965年に米で起きた「デフェオ一家殺害事件」が取り上げられる。家に取り憑いた霊をみるショッキングな描写で、過去には映画「悪魔の棲む家」(79)の題材にもなった。続いて舞台はエンフィールドへ。ホジソン家の次女ジャネットの霊憑依を時系列で描いていく。

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 ワン監督の演出は正攻法で丁寧だ。ホジソン家で発生する超常現象を一つ一つ積み重ね、事件の全体像を観客が納得できるように提示する。ウィリアム・フリードキン監督「エクソシスト」(73)同様、あくまでリアリティーを追求している。こけおどしのショック演出とは正反対に、ドラマと恐怖を融合させ、作品に緊張感を与える。

 「エクソシスト」との共通点も多い。時代設定に加えて、少女に霊が憑くことで表れる奇妙な行動。場所は住宅密集地の室内で、外は平和な町並みが広がる。静と動の対比により、ホジソン家で起きている異常事態を際立たせる仕組みだ。

 巧みな演出は恐怖シーンにとどまらない。全体にピンと緊張の糸を張る一方で、さりげなくなにげない日常風景をはさみ込む。クリスマスの日。パーティーの席でエルビス・プレスリーの「好きにならずにいられない」が弾き語りされる。優しい歌声に心がなごむ。うまい緩急の付け方だ。

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 ワン監督は実録物の制約の中、事件全体を忠実になぞりつつ、真正面から破綻させずにドラマを積み上げだ。一見古風な作風だが、最新技術も十分に投入。屋外から室内への継ぎ目ない撮影、大胆なCG(コンピューター・グラフィックス)。映画ならではの想像の翼を羽ばたかせている。一時は「ホラー引退」も口にしたワン監督だが、饒舌な語り口は健在だ。説得力あるドラマ、ショック演出、美しい幕引き。監督としてピークに到達した印象すら受ける。

(文・藤枝正稔)

「死霊館 エンフィールド事件」(2016年、米国)

監督:ジェームズ・ワン
出演:ベラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、フランシス・オコナー、マディソン・ウルフ、フランカ・ポテンテ

作品写真:(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

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2016年06月13日

「二ツ星の料理人」食と人のアンサンブル ブラッドリー・クーパー、凄腕シェフの再起好演 

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 ブラッドリー・クーパーは不思議な俳優である。「世界にひとつのプレイブック」(12)、「アメリカン・ハッスル」(14)、「アメリカン・スナイパー」(15)と3年連続で米アカデミー賞主演男優賞候補に。ハリウッドのトップに上り詰めているはずなのに、どこか自信なさげで決定打に欠ける。「二ツ星の料理人」はそんなクーパーの個性──突き抜けられない鬱屈をうまく生かした作品だ。

 凄腕シェフのアダム(クーパー)は、酒と女のトラブルで仏パリの二ツ星レストランを追い出された。3年後。英ロンドンで旧友トニー(ダニエル・ブリュール)の助けを借り、新規開店に奔走する。エレーヌ(シエナ・ミラー)、ミシェル(オマール・シー)ら優秀なスタッフを集め、「世界一のレストラン」を作って再起するつもりだった。

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 目標は料理ガイド「ミシュラン」で三ツ星を取ること。ミシュランの覆面調査員来店に備え、スタッフを教育し、入念に料理のメニューを考えるアダム。星を取ることは、アダムにとって過去の清算と再出発を意味していた。

 しかし、完ぺき主義で短気なアダムに、周囲は翻弄される。かんしゃくを起こし、出来上がった料理をぶちまけるアダム。厨房にはピリピリした空気が流れ、スタッフの気持ちはなかなか一つにならない。ぎくしゃくした空気が流れるところへ、ミシュランの調査員らしき客が来店する──。

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 二ツ星を辞めさせられた料理人が、起死回生で三ツ星獲得に挑む。すねに傷を持った男をクーパーが好演。女で一つで娘を育てるエレーヌに、強気でさばさばしたミラーがぴったりだ。シー、ブリュールとも過不足ない演技で脇を固める。エマ・トンプソン、ユマ・サーマンの抑えた演技も楽しい。

 監督はメリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツらの群像劇「8月の家族たち」(14)のジョン・ウェルズ。食と人のアンサンブルをうまく料理している。

(文・遠海安)

「二ツ星の料理人」(2015年、米国)

監督ジョン・ウェルズ
出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、オマール・シー、ダニエル・ブリュール、リッカルド・スカマルチョ

2016年6月11日(土)、角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://futatsuboshi-chef.jp/

作品写真:Artwork (C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
タグ:レビュー
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2016年06月10日

「ノック・ノック」一夜の過ちで地獄へ転落 キアヌ・リーブス主演、理不尽限界サスペンス

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 父の日。建築家のエヴァン(キアヌ・リーブス)は、外出する妻カレンと子供を見送り、一人自宅で仕事していた。夜。豪雨の中、玄関をノックする音がする。開けるとずぶ濡れの美女2人が立っていた。暖を取らせるため家へ招き入れたエヴァンだったが、それは地獄への第一歩だった──。

 感染パニック・ホラー「キャビン・フィーバー」(02)でデビューしたイーライ・ロス監督の最新作「ノック・ノック」。近作の「グリーン・インフェルノ」(15)は食人族を取り上げた。今回は人気スターのキアヌ・リーブスを起用。一夜の過ちで人生が崩壊する男の悲劇を描いたサスペンスだ。

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 家族を愛する良き父エヴァンの元に、ジェネシス(ロレンツォ・イッツォ)とベル(アナ・デ・アルマル)が迷い込む。警戒するエヴァンだったが、美女2人はぐいぐい距離を詰めていく。いつの間にか家中に入り込み、バスルームでエヴァンを誘惑。理性を保とうとするエヴァンだったが、ついに誘いに屈してしまう。

 これまでのロス監督作品では、主人公が訪れた先で悪夢に巻き込まれていた。今回は反対に安全なはずの自宅が地獄に変わる。いの一番に思い出したのが、1970年に漫画家の藤子不二雄Aが描いた「魔太郎がくる!!」。招き入れた他人に自宅を乗っ取られるエピソードに似ている。テロに怯える現代心理を映しているのかもしれない。

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 怖いのは入り込んだ2人の目的が分からないことだ。ゲームのように男を誘惑し、落とした翌朝に牙をむき、容赦ない暴力を浴びせる。平和だった男の人生は簡単に壊される。女の闇ともみえる描写に、世の男たちは震え上がるだろう。

 それにしても、ここまで不甲斐ないダメ男を演じるリーブスは初めて。逆にまったく悪びれず悪事をエスカレートさせる2人の怪演がすさまじい。悪趣味な不条理を徹底的に描くロス監督ならではで、観客の嫌悪感を引き出す演出が巧妙だ。積み重ねられる理不尽なエピソードに、不快指数が100%に達することは間違いない。

(文・藤枝正稔)

「ノック・ノック」(2015年、米国)

監督:イーライ・ロス
出演:キアヌ・リーブス、ロレンツァ・イッツォ、アナ・デ・アルマス

2016年6月11日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://knockknock-movie.jp/

作品写真:(C)2014 Camp Grey Productions LLC

タグ:レビュー
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2016年06月03日

「サウスポー」ジェイク・ギレンホールが肉体改造 転落ボクサーの再生熱演

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 ジェイク・ギレンホールが「ナイトクローラー」に続き、肉体改造のアクセルを踏み込んだ。アントワン・フークア監督新作「サウスポー」は、ボクシング世界チャンピオンの転落と再生を描く人間ドラマ。ギレンホールが半年の訓練で7キロ減量し、ボクサーの「体」を得て熱演する。

 米ニューヨーク。ボクシング世界ライトヘビー級チャンピオンのビリー(ギレンホール)は、怒りにまかせて戦う過激な選手だ。しかし、自分の起こした暴力沙汰に巻き込まれ、最愛の妻モーリーン(レイチェル・マクアダムス)が死んでしまう。ビリーは自暴自棄に陥り、地位も名誉も財産も喪失。幼い娘レイラ(オオーナ・ローレンス)とも引き離され、人生のどん底に突き落とされる。

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 暗闇でもがくビリーは、アマチュア・ボクシングのトレーナー・ティック(フォレスト・ウィテカー)に救いを求めた。「お前の短気は命取りだ」、「腕力ではなく頭を使え。ボクシングはチェスと一緒だ」。ティックの厳しい言葉に、ビリーは自らと向き合い、再生への道を探る。自分を信じた妻に報い、愛する娘と再び暮らすため──。

 ギレンホールの人物造形が光る。短気で粗野、力で相手をねじ伏せるチャンピオン。怒り=負のエネルギーでスターダムを駆け上がった男が、妻を失い初めて自らを律し、他人の言葉に耳を傾け、真の強さを知る。ギレンホールは肉体だけでなく、陰うつとした眼差しまで作り上げている。

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 デンゼル・ワシントンの悪役が記憶に残る「トレーニング・デイ」(01)と同様、フークア作品には共通して刹那的な空気が漂う。重く激しい男たちの中、妻を演じたマクアダムスが一服の清涼剤のように、甘く可憐な空気を放っている。

(文・遠海安) 

「サウスポー」(2015年、米国)

監督:アントワン・フークア
出演:ジェイク・ギレンホール、レイチェル・マクアダムス、フォレスト・ウィテカー、オオーナ・ローレンス、カーティス・“50セント”・ジャクソン

2016年6月3日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://southpaw-movie.jp/

作品写真:Artwork(C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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2016年05月30日

「デッドプール」マーベル発の異色ヒーロー 毒舌で自分中心、過激描写たっぷり

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 百花繚乱のマーベルコミック原作映画に、異色のヒーローが誕生した。人気シリーズ「X-MEN」のスピンオフ(派生作品)、「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」に登場した「デッドプール」。毒舌家で自己中心的な主人公のアクション娯楽作だ。

 元傭兵のウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)は、けちな悪党を懲らしめ日銭を稼いでいた。娼婦ヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)と出会って結婚。ささやかな幸せをかみしめる矢先、末期がんと告げられる。そこへある男が怪しい治療方法を勧めてきた。「誰もが夢見る力が手に入る」と誘われ、行った先は不気味な実験室だった。

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 そこは余命わずかな人々の肉体を改造し、殺人兵器として売り飛ばすための施設。責任者のエイジャックス(エド・スクライン)は自分の体にもメスを入れ、超人的な力を身につけていた。繰り返し実験され、驚異の治癒能力と不死の体を得たウェイドだったが、皮膚はただれて無残な外見に。脱走して自前のスーツに身を包み、エイジャックスの行方を追う──。

 「デッドプール」の面白い点は二つ。主人公が観客と自分の間にある「壁」を破ることだ。スクリーンの中からこちらに話しかけてくるため、演出に奥行きが出る。さらに、毒舌と過激描写でヒーロー作品には珍しく、全米で「R指定」された点。原作のキャラクター造形に近づいた。

 派手なアクションと止まらぬジョーク。映画好きが喜ぶ小ネタも多い作品だ。

(文・魚躬圭裕)

「デッドプール」(2016年、米国)

監督:ティム・ミラー
出演:ライアン・レイノルズ、モリーナ・バッカリン、エド・スクライン、T.J.ミラー、ジーナ・カラーノ、ブリアナ・ヒルデブランド

2016年6月1日(水)、TOHOシネマズ日劇ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/deadpool/

作品写真:(C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
タグ:レビュー
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