2016年11月23日

「ブルーに生まれついて」人気ジャズ奏者チェット・ベイカーの光と影 イーサン・ホークが熱演

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 1950年代に一世を風靡(ふうび)した白人ジャズ・トランペッター、チェット・ベイカー。甘いルックス、美しい音色で多くのファンを魅了し、ジャズ史に残る名バラード「マイ・ファニー・バレンタイン」は今も代表曲として語り継がれる。

 「ブルーに生まれついて」は、ベイカーが60年代後半から70年代、麻薬におぼれてさまよった「暗黒期」を中心に描く。昨年の東京国際映画祭コンペティション部門出品作。監督、脚本はロバート・バドロー、主演はイーサン・ホーク。

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 冒頭は66年、イタリア。麻薬使用で投獄されたチェットは幻覚を見ている。場面は一転し、時はさかのぼって59年。画面はモノクロに変わり、米ジャズシーンで華々しく活躍するチェット。甘い声とルックスに女性ファンが熱狂する。そんな姿を冷ややかに見つめるのは、米ジャズ・トランペットの「帝王」マイルス・デイビス。アイドル気分のチェットに辛辣な評価を下す。

 また時は戻って66年。米国に帰ったチェットは、自伝映画で俳優デビューする計画だった。しかし撮影の途中、麻薬の密売人に暴行を受け、あごを砕かれ、前歯を全部失ってしまう。献身的に支えたのは、女優で恋人のジェーン(カルメン・イジョゴ)だった。

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 再起をかけて練習に励むも、昔のような演奏はできず、待っていたのは日陰者の人生。ピザ屋のライブ、その他大勢扱いのスタジオ・ミュージシャン、ガソリンスタンドの店員。どん底の日が続く中、旧知のプロデューサーの助けで、再び表舞台に立つ機会が与えられる。

 見どころはチェット演じるイーサン・ホークの演技に尽きる。立ち居振る舞いに違和感はない。演奏の音は吹き替えだが、歌はホークの声だ。チェットと異なる低い声質だが、雰囲気はうまくまねている。マイルス・デイビス、トランペット奏者ディジー・ガレスピーの存在感も際立つ。マイルスがフュージョンに傾倒した70年代をうまく表現し、黒サングラスに詰めえりスーツ姿。ジャズ・ファンはニヤリとするだろう。

 過去の栄光はモノクロ、苦難の現在はカラー。映像をうまく使い分け、人生の光と影を浮かび上がらせる。ジャズ、音楽ファン必見の作品に仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「ブルーに生まれついて」(2015年、米・加・英)

監督:ロバート・バドロー
出演:イーサン・ホーク、カルメン・イジョゴ、カラム・キース・レニー

2016年11月26日(土)、Bunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://borntobeblue.jp/

作品写真:(C)2015 BTB Blue Productions Ltd / BTBB Productions SPV Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

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2016年10月21日

「ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄」ニコラス・ケイジ全開 ハロウィンめぐるホラー・ミステリー

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 米ニューヨークの大学で教べんをとるマイク(ニコラス・ケイジ)はハロウィンの夜、7歳の息子チャーリーにねだられて祭り見物に出る。ところがチャーリーは「霊(ゴースト)に償ってくれる?」と謎めいた一言を残し、突然姿を消してしまう。手掛かりを必死に探し続けるマイクは、やがて恐るべき事実にたどり着く──。

 ティム・レボンの原作小説を、ニコラス・ケイジ主演で映画化したホラー・ミステリー映画「ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄」。監督は「ブルックリン最終出口」(89)、マドンナ主演「BODY ボディ」(93)を演出したドイツ出身のウリ・エデル。

 ハロウィンでにぎわう祭り会場で、ちょっとしたすきに息子がさらわれる。子供がこつ然と姿を消す事件は世界中で報告されており、事件性がなくても日本では「神隠し」という言葉があるほどだ。今回の場合は魔女狩りがキーワード。1679年、ニューヨークで起きた魔女狩りで、子供3人と一緒に火あぶりされた女性が魔女になり、毎年ハロウィンの夜、子供3人を生贄に連れ去る設定となっている。

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 悪霊と子供の失踪を描いた作品では「ポルターガイスト」(82)が有名だ。家の中の異空間に子供が連れ去られるが、今回の場合は息子の行方がまったく分からない。息子がいなくなって夫婦仲はこじれて別居。マイクは自責の念にかられ、警察に怒鳴り込んだり、息子の幻を見たり、周りが見えなくなってしまう。八方ふさがりの中、唯一の手がかりは、息子がいなくなる前につぶやいた「霊に償ってくれる?」の一言。マイクはそこから真実を探る。

 ホラー・ミステリー初挑戦のエデル監督。過去にテレビドラマ「ツイン・ピークス」(91)の演出が買われたように、ミステリアスな雰囲気作り、オカルト風味のショック演出を披露する。やはりかなめはなんといってもニコラス・ケイジだ。息子がいなくなって苦悩の表情を押し通し、焦ってパラノイア的行動にも出る。物語がシンプルな分、ケイジの演技力が物を言い、作品に説得力を持たせる。

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 精霊をまつるハロウィン本来の意味に立ち返り、真面目に物語に取り入れてふくらませた印象だ。魔女の怨念でケイジが1年苦しみ続け、作品が成り立ってしまうすごさ。視点を変えれば、息子を失い極限状態に置かれた父の愛情を、ホラー・ミステリータッチで描くひとひねりある作品ともいえる。

(文・藤枝正稔)

「ペイ・ザ・ゴースト ハロウィンの生贄」

監督:ウリ・エデル
出演:ニコラス・ケイジ、サラ・ウェイン・キャリーズ、ベロニカ・フェレ、ジャック・フルトン

2016年10月22日(土)、渋谷シネパレスほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/ghost/

作品写真:(C)2015 PTG NEVADA, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2016年10月20日

「スター・トレック BEYOND」新シリーズ第3弾 救済と裏切りテーマに ニモイ、イェルチンに捧ぐ

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 2009年に始まったリブート(再起動)シリーズ第3弾「スター・トレック BEYOND」。監督は前2作のJ・J・エイブラムスから、「ワイルド・スピード」シリーズのジャスティン・リンにバトンタッチ。エイブラムスは製作に回った。同シリーズで俳優がスタッフに参加する伝統が受け継がれ、スコッティ役のサイモン・ペッグが共同脚本を担当している。

 宇宙探査3年目に入ったU.S.S.エンタープライズ号。未知の惑星に不時着した宇宙船救出に向かうが、到着直前に無数の飛行物体に襲われる。船は壊れ、クルーは散り散りに救命艇で脱出。宇宙空間に放り出される──。

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 まず作品の鍵となる「パワーストーン」をめぐり、エイリアンとカーク(クリス・パイン)が軽妙にやり取りして物語は幕を開ける。航海3年。船がわが家になったクルーの恋愛、生活をテンポよく描きながら、カーク、スポック、マッコイ、スコッティらおなじみの面々にスポットをあてる。船が大破した後は、ばらばらになったクルーが単独で動き、個々のエピソードが並行して進む。意表を突く展開だ。

 今回のテーマは「救済」と「裏切り」だろう。不時着船を助けに行ったエンタープライズ号は、敵のエイリアン、クラール(イドリス・エルバ)のわなにはまって撃破されてしまう。ショッキングでファンも驚きの描写に違いない。船を失ったクルーたちは、不時着した星からどう脱出するか。新登場のエイリアン、ジェイラ(ソフィア・ブテラ)が運命の鍵を握る。

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 新シリーズ3作目で監督が代わり、作品のテイストがやや変わった。「スター・トレック」といえば宇宙船同士の戦いだが、今回は無数の飛行物体に攻撃され、異星人に船内に侵入されたクルーが、フェイザー銃で応戦する描写も登場。エンタープライズ号の円盤状の外見を意識した斬新なアクションも展開する。不時着した星に残された100年前のオートバイにカークが乗り、おとりとなって敵に立ち向かう。「ワイルド・スピード」で超絶カーアクションを見せたリン監督が、持ち味をいかんなく発揮している。

 作品の質は申し分ないが、リブート版の難点は決定的なテーマ曲を欠くことだ。旧シリーズはテレビ版のA・カレッジによる軽快なメロディー。旧映画版はJ・ゴールドスミスの重厚な調べを思い出すが、リブート版にはそれがない。音楽担当のマイケル・ジアッチーノが劇伴に徹したことが惜しい。

 「スター・トレック」はリブート版と旧シリーズが別次元、いわゆるパラレル・ワールド(並行世界)で描かれる。今回はその境界線を交差させる演出も取られて心憎い。旧シリーズで長くスポックを演じ、昨年亡くなったレナード・ニモイ、今年事故死したチェコフ役のアントン・イェルチンに捧ぐ、シリーズ屈指の感慨深い作品となった。

(文・藤枝正稔)

「スター・トレック BEYOND」(2016年、米国)

監督:ジャスティン・リン
出演:クリス・パイン、ザッカリー・クイント、ゾーイ・サルダナ、サイモン・ペッグ、カール・アーバン

2016年10月21日(金)、IMAX3D、デジタル3D、2Dで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.startrek-movie.jp/

作品写真:(C)2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
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2016年08月27日

「ライト/オフ」闇に何かがうごめく 日常に潜む恐怖、シンプルに

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 一人暮らしのレベッカ(テリーサ・パーマー)は、実家の幼い弟から「電気を消すと何かが来る」と打ち明けられる。実はレベッカが家を出たのも「それ」が原因だった。おびえる弟のため、今度は逃げずに正体を突き止めようと決意する──。

 動画配信サイトで約1億5000万回再生された短編恐怖映像「Light Out」の長編映画化。監督はデビッド・F・サンドバーグ、製作は「ソウ」(04)や「死霊館」(13)のジェームズ・ワン。

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 暗闇の気配におびえる女性を、約2分40秒に収めた「Light Out」。シンプルな短編映像を長編化するため「それ」=怪物ダイアナとレベッカの背景を掘り下げている。アイデアは共通するが、完全に別物のバージョンアップ版といえよう。

 誰もが一度は感じる闇への恐怖。日常に潜む感情をシンプルなアイデアで描く。電気を消した闇にダイアナが現れるだけではただの脅かしだが、ダイアナが生まれた背景、子供時代のレベッカの母ソフィー(マリア・ベロ)との関係に踏み込んだ。

 ダイアナは闇の中を縦横無尽に動き、レベッカ家族の前に現れる。床のきしみ、何気ない音で観客に恐怖を感じさせる。米国でリメークされた日本製ホラー「リング」や「呪怨」の影響が色濃い。光と闇の間を移動するダイアナは、「呪怨」の伽椰子に通じるものがある。

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 正統ホラーの手法は製作のジェームズ・ワンならでは。デビュー作とは思えぬサンドバーグ監督の緩急自在な演出も冴える。監督は続いてワン製作の「アナベル 死霊館の人形」続編でメガホンを取る。狭く深く小さな世界を舞台に、話を大きく広げなかったのが成功のポイントだ。怪物に魅入られた家族の恐怖を、濃厚に描いたホラーの佳作といえよう。

(文・藤枝正稔)

「ライト/オフ」(2016年、米国)

監督:デビッド・F・サンドバーグ
出演:テリーサ・パーマー、ガブリエル・ベイトマン、ビリー・バーク、アレクサンダー・ディペルシア、マリア・ベロ

2016年8月27日(土)公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://warnerbros.co.jp/c/movies/lights-off/

作品写真:(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

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2016年08月10日

「栄光のランナー 1936ベルリン」激動の時代、差別と戦った伝説の男

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 1936年、ナチス政権下のドイツで行われたベルリン五輪。「栄光のランナー 1936ベルリン」は、陸上競技で史上初の4冠を達成した名選手、ジェシー・オーエンスの半生を描く。黒人選手として人種差別、政治的思惑と戦った伝説のランナーを、「グローリー 明日への行進」のステファン・ジェイムスが演じている。

 貧しい家に生まれたオーエンス(ジェイムス)は、中学、高校と数々の記録を樹立。オハイオ州立大学へ進み、コーチのラリー・スナイダー(ジェイソン・サダイキス)と出会って鍛えられる。35年、大学陸上競技大会「ビッグテン選手権」で、けがを負いつつ世界新記録を樹立。ベルリン五輪の有力候補になった。

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 一方、米国五輪委員会は当時、ナチスの人種差別政策に揺れていた。五輪参加を訴えるアベリー・ブランデージ(ジェレミー・アイアンズ)と、ボイコット派のエレミア・マホニー(ウィリアム・ハート)が激しく議論する。ナチスの宣伝大臣ゲッペルス(バーナビー・メッチェラート)が裏で手を回し、委員会投票では参加派が僅差で勝利。米国の五輪参加が決まった。現実味が増したオーエンスの五輪出場だったが、さらなる壁が待ち受けていた──。

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 ベルリン五輪はナチスにとって「アーリア人の優位性」を証明し、「ユダヤ人迫害」を正当化する機会に過ぎなかった。一方で米国内では五輪ボイコットを求める声が拡大。差別を許さず、友情と連帯、フェアプレー精神に基づくオリンピック精神が叫ばれる。黒人奴隷の子孫であるオーエンスにとって、激動の時代でもあった。

 五輪を取り巻く情勢の急激な変化が、説得力ある時代考証で描かれる。緊迫感が途切れない。サダイキス、アイアンズらの演技も、主役のジェームスを脇から支える。

 ナチスのスローガン一色のスタジアムで、オーエンスは4つの金メダルを獲得。人種に優劣がないことを証明し、ナチスの鼻をあかした。しかし、米国での差別はなくならなかった。歴史の皮肉でもある。

(文・魚躬圭裕)

「栄光のランナー 1936ベルリン」(2016年、米・独・カナダ)

監督:スティーブン・ホプキンス
出演:ステファン・ジェイムス、ジェイソン・サダイキス、ジェレミー・アイアンズ、ウィリアム・ハート、カリス・ファン・ハウテン

2016年8月11日(木・祝)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://eiko-runner-movie.jp/

作品写真:(C)2016 Trinity Race GmbH / Jesse Race Productions Quebec Inc. All Rights Reserved.

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