2017年02月20日

「ラ・ラ・ランド」夢の街で出会った男女 歌と踊りで紡ぐ甘くほろ苦い人生 オスカー14部門候補の話題作

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 夢追い人が集まる米ロサンゼルス(L.A.)。女優を目指して映画スタジオのカフェで働くミア(エマ・ストーン)は、オーディションに落ちるばかり。ある夜、場末のバーでピアノを引くセブ(ライアン・ゴズリング)に出会う。前作「セッション」が注目を集めたデイミアン・チャゼル監督の最新作。米ゴールデングローブ賞7部門を制し、米アカデミー賞も14部門で候補となっている話題作だ。

 「ラ・ラ・ランド」はロスのハリウッド周辺地域の愛称で、「ハイになり陶酔する」、「夢の国」を意味するという。ハリウッドのミュージカル映画は1950〜70年代が最盛期。「シカゴ」(02)や「マンマ・ミーア!」(08)のように最近多い舞台の映画化ではなく、久しぶりに完全オリジナルなミュージカル作品だ。

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 チャゼル監督が目指したのは、仏ミュージカルの名作「シェルブールの雨傘」(64)、「ロシュフォールの恋人たち」(67)で知られるジャック・ドゥミ監督へ壮大なオマージュを捧げることだろう。せりふをすべて歌でつづった切ない恋愛劇「シェルブールの雨傘」に、男女の出会いと別れを歌い上げた「ロシュフォールの恋人たち」を重ね、ドゥミ監督の遺作「想い出のマルセイユ」(88)を隠し味に使っている。

 ドゥミ作品は原色の衣装や背景が視覚に訴え、ジャズベースのビッグバンドや甘いメロディーが耳を刺激する。そんなスタイルをチャゼル監督は現代の技術で再現した。ドゥミ作品を多く手がけたミシェル・ルグランの作曲法を徹底的に研究したようだ。ミアが演じる一人芝居の主人公“ジュヌヴィエーヴ”は「シェルブールの雨傘」の主人公と同じ。ドゥミ作品で特徴的に使われる画面転換法「アイリスイン&アウト」(黒字に丸枠が閉じて広がる表現)まで使われている。

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 プロローグ。高速道路で渋滞に巻き込まれた人々が、ワンカットで歌い踊る。高揚感あふれる幕開けだ。二人の出会いを描いた「冬」に始まり、四季でエピソードを区切りつつ、物語は進んでいく。男女が愛を育む過程が、シンプルな歌と踊りで語られ、監督は最後に「もう一歩」踏み込む。

 エピローグ。渋滞に巻き込まれたミアは、運命に導かれてたどり着いた場所で、「もしも」に裏打ちされたもう一つの人生を夢想する。「シェルブールの雨傘」のラストを観客に予感させ、さらに一歩踏み込んだことで、極上の深みが加わり、心地よい余韻が引き出された。ゴズリングは3カ月でピアノをマスターし、プロ級の腕前を披露している。歌と踊りを吹き替えなしで演じたゴズリング、ストーンが素晴らしい。

 同じ音楽を取り上げた「セッション」で、カリスマ教師のしごきで神経をすり減らす主人公の狂気を描いたチャゼル監督。今回は一転、ハリウッドが忘れていたミュージカルの夢を抜群のセンスで復活させた。美しい歌と踊りが高揚感を生み、ミュージカルの新たな可能性と醍醐味を存分に感じられる秀作だ。

(文・藤枝正稔)

「ラ・ラ・ランド」(2016年、米国)

監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、キャリー・ヘルナンデス、ジェシカ・ローゼンバーグ、ソノヤ・ミズノ

2017年2月24日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/lalaland/

作品写真:Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
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2017年02月16日

「セル」スティーブン・キング原作アクションホラー 携帯依存の恐怖 移動型サバイバル劇

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 小説家スティーブン・キングが自作を脚本化し、映画化されたアクションホラー「セル」。コミック作家のクレイ(ジョン・キューザック)は、ボストンの空港で妻子に電話するが、電池切れで通話が途切れる。すると携帯電話で話していた周りの人たちが突然暴徒化。空港はパニック状態に。地下鉄に逃げたクレイは、車掌トム(サミュエル・L・ジャクソン)と少女アリス(イザベル・ファーマン)の協力で、家族が待つニューハンプシャーを目指す──。

 キング作品は「キャリー」(76)、「シャイニング」(80)、「ミザリー」(90)、「ミスト」(07)など続々と映画化されてきた。今回はキューザックが製作総指揮を務め、同じキング原作の「1408号室」(07)でコンビを組んだジャクソンが共演。「パラノーマル・アクティビティ2」(10)のトッド・ウィリアムズがメガホンを取った。

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 米国で携帯電話は「セル」。原作が出版された06年は、携帯電話が急速に普及した時期だった。携帯を通して人間が凶暴になり、周りの人々を襲っていく。死者が蘇り襲う「ゾンビ」に設定は似ており、群れになって素早く襲う様子は最近のゾンビ映画と共通する。

 ボストンの空港で突如パニックに巻き込まれるクレイ。「奴ら」から逃げる視点で物語は展開する。地下鉄から街へ移動しながら、途中で偶然出会った人たちと徒歩、車でニューハンプシャーへ向かう。移動型のサバイバル劇だ。

 人々は携帯電話のノイズで暴れ始めるが、終末的な状況でクレイを突き動かす原動力は家族愛だ。息子に会うため「奴ら」と戦う姿は、同じキング原作「ペット・セメタリー」(89)を思い起こさせる。死んだ息子を蘇らせるため、禁断の方法に手を染める主人公だった。

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 今回は携帯電話に依存する現代人に、キングが放った皮肉を感じる。原作が発表された10年前、すでに携帯依存の恐ろしさを描いた先見性は見事だ。平和な日常が一変する瞬間が、たたみかける残酷描写で描かれる。テンポの良い監督の演出、個性派俳優のひとくせある演技。ホラー映画ファンも満足の仕上がりとなった。

(文・藤枝正稔)

「セル」(2016年、米国)

監督:トッド・ウィリアムズ
出演:ジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソン、イザベル・ファーマン、オーウェン・ティーグ、クラーク・サルーロ

2017年2月17日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://cell-movie.jp/

作品写真:(C)2014 CELL Film Holdings, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2017年01月02日

「NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム」ネットの闇ゲームと依存する若者たち 現代社会に警鐘

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 臆病な自分にうんざりの女子高校生ビー(エマ・ロバーツ)は、勢いでインターネットのオンラインゲーム「NERVE ナーヴ」に参加する。そこで知り合ったハンサムな青年イアン(デイブ・フランコ)とコンビを組み、あっという間に人気者になっていく──。

 ジュリア・ロバーツの兄エリックの娘エマ、ジェームズ・フランコの弟デイブが主演。ビーの母親役に「ギルバート・グレイブ」(93)のジュリエット・ルイス。「パラノーマル・アクティビティ」シリーズ3、4作を監督したヘンリー・ジュースト、アリエル・シュルマンがメガホンを取った。

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 インターネット、SNS(交流サイト)、動画サイトが生活の一部と化した現代社会に暮らす若者たち。賞金と名誉欲をえさに、過激な闇サイトが運営するゲームが題材だ。元をたどればタイ映画「レベル・サーティーン」(06)にたどり着く。次第に過激さを増し、狂気の世界に突入するゲーム。思えば時代を先読みしていた。

 「NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム」は、着想が「レベル・サーティーン」に似ている。描き方がスマートで現代的なため、テンポが心地よく音楽は個性的だ。パソコン画面の文字がスクリーンに浮かび、観客は主人公の視覚を同時体験できる。ポップな画面作りが楽しい。

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 ビーに課せられた最初の命令は「見知らぬ若者に5秒間キスすること」。引っ込み思案なビーには難しかったが、クリアしたことで賞金を手にする。さらに次のミッションが示され、ビーにとって「一度だけ」のはずの挑戦がエスカレートしていく。

 金と名誉のため過激なゲームにはまる若者たち。観客はゲームの傍観者になり、登場人物の動向を見守る。ネットの仮想現実にとらわれた彼らは、サイト運営側に反旗を翻し現状打破を図る。ネット社会の闇をうまく取り入れ、依存体質に警鐘を鳴らしている。ゲーム感覚でテンポのいい作品だ。

(文・藤枝正稔)

「NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム」(2016年、米国)

監督:ヘンリー・ジュースト、アリエル・シュルマン
出演:エマ・ロバーツ、デイブ・フランコ、ジュリエット・ルイス、エミリー・ミード、マイルズ・ハイザー

2017年1月6日(金)、TOHO シネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.start-nerve.jp/

作品写真:(C)2016 LIONSGATE ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
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2016年12月31日

「MERU メルー」ヒマラヤ最難関の絶壁へ 男たちの命をかけた挑戦

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 ヒマラヤ山脈メルー中央峰にそそり立つ“シャークスフィン”。並みいるトップクライマー(登山家)たちの挑戦をことごとく退けてきた難攻不落の絶壁に、3人の強者が挑んだ。伝説の名クライマー、コンラッド・アンカー。カメラマンでもある百戦錬磨のジミー・チン。気鋭の若手、レナン・オズターク。

 コンラッドとジミーはコンビ歴10年。気心の知れた間柄だが、レナンはまだ無名。命綱を付けずに険しい崖を登攀する姿にコンラッドが惚れ込み、仲間に加えた。信頼できる相手としか組まない慎重なジミーも、相棒が認めた男ならとレナンを受け入れた。

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 かくして最強のチームが誕生する。しかし、最初のアタックは失敗。さまざまなアクシデントに見舞われ、山頂まで100メートルの地点でやむなく引き返した。凍傷で腐りかけた足が、挑戦の凄まじさを物語る。

 下山後しばらくは車椅子生活。「もう2度と挑むまい」と一度は誓い合った3人だったが、3年後、呼び戻されるように再び絶壁に挑む。最初のアタック後、レナンは滑落事故で重傷を負い、再起不能の危機に追い込まれていたが、超人的な精神力で復活した。

 先行者が蹴り砕く氷のかけらが後続者の頭上に降り注ぐ。宙吊りのテントを吹雪が激しく揺らす。死と隣り合わせの試練が続き、ついに山頂が眼前に迫る――。

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 ジミーとレナンによって撮影された実際の映像が、過酷なクライミングの実態を生々しく伝える。CG(コンピューター・グラフィックス)も再現映像も使わない、正真正銘のドキュメンタリーならではの迫力だ。インタビューや私生活の映像は3人のバックグラウンドを語る。彼らを登山に駆り立てるものが何なのか。想像がかきたてられる。

 単なる山岳映画ではない。友情、愛情、勇気、忍耐。人間にとって大切な感情や精神を描いたヒューマンドラマでもある。

(文・沢宮亘理)

「MERU メルー」(2015年、米国)

監督:ジミー・チン、エリザベス・チャイ・バサヒリィ
出演:コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズターク、ジョン・クラカワー、ジェニー・ロウ・アンカー

2016年12月31日(土) 、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー、109 シネマズ二子玉川ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://meru-movie.jp/

作品写真:(c) 2015 Meru Films LLC All Rights Reserved.
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2016年12月28日

「ブラック・ファイル 野心の代償」ホプキンス×パチーノ、巻き込まれ型サスペンス

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 全米を牛耳る巨大製薬会社。世間ではその薬害も報じられていたが、被害者弁護団は証拠をつかめずにいた。野心家の若手弁護士ベン・ケイヒル(ジョシュ・デュアメル)は、金髪美女の元彼女から機密ファイルを受け取り、予想外の展開に巻き込まれていく──。

 「トランスフォーマー」シリーズのデュアメル主演のサスペンス映画だ。共演に「羊たちの沈黙」(91)のアンソニー・ホプキンス、「ゴッド・ファーザー」シリーズのアル・パチーノ、「G.I.ジョー」(09)のイ・ビョンホン。ホプキンスとパチーノは初共演。監督は「THE JUON 呪怨」(04)共同製作者のシンタロウ・シモサワ。テレビドラマの脚本を多く手がけ、今回が監督デビュー作となる。

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 いわゆる“巻き込まれ型サスペンス”。物語の入り口はオーソドックスだが、既婚のケイヒルが元彼女エミリーとSNSでつながり、再会して予想外の方向へ展開する。エミリーは疑惑の巨大製薬会社のCEO(最高経営責任者)、デニング(ホプキンス)の交際相手だった。美しいエミリーに「不正の証拠を収めたファイルを渡す」と言われ、ケイヒルは誘惑に負けてしまう。

 弁護士として名を挙げたい一心のケイヒル。ファイルを手に入れた後、弁護士事務所オーナーのエイブラムス(パチーノ)に「製薬会社を訴えたい」と求めて了承される。しかし、訴訟の準備に入ったものの、予想外の事件が起きて歯車が狂い始める。

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 主人公が妖艶な美女のわなに落ちる筋書き。ヒッチコックの「巻き込まれ型サスペンス」の流れをくんでいる。さらにエロチックな要素を絡めた点は、ブライアン・デ・パルマ作品にも通じる。どこか冷めたケイヒル夫妻の関係、全体に冷たい画面はデビッド・フィンチャーの香りか。

 ケイヒルを襲う謎のアジア人役にイ・ビョンホン。「ターミネーター 新起動 ジェニシス」(15)で未来から来た殺人マシンを演じて以降、ハリウッドでは殺し屋のイメージが定着してしまった。

 “巻き込まれ型”としてはよくできているが、着地点がなし崩し的で惜しい。しかし、大オチにひとひねり加えて体勢を整え、独特の余韻を残して幕を下ろした。名作をうまく噛み砕き、吸収したシモサワ監督。次回作にも期待したい。

(文・藤枝正稔)

「ブラック・ファイル 野心の代償」(2016年、米国)

監督:シンタロウ・シモサワ
出演:ジョシュ・デュアメル、アンソニー・ホプキンス、アル・パチーノ、イ・ビョンホン、アリス・イブ

2017年1月7日(土)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://blackfile.jp/

作品写真:(C)2015 MIKE AND MARTY PRODUCTIONS LLC.ALL Rights Reserved.
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