2017年04月02日

「はじまりへの旅」森で暮らす風変わりな家族 父と子6人の破天荒ロードムービー

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 米北西部の森で暮らす風変わりな家族が主人公のロードムービー「はじまりへの旅」。監督のマット・ロス自身の子供時代の体験をもとにしているという。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した。

 厳格な父のベン(ビゴ・モーテンセン)は、独自の教育方針に基づき子供6人を育てていた。18歳の長男ボウドヴァン(ジョージ・マッケイ)は、ナイフ1本で野生の鹿を仕留める。家族は鹿を解体し、その夜のごちそうとして食べる。森でサバイバル生活を送る家族は、哲学者のノーム・チョムスキーを崇拝している。資本主義を否定し、自給自足の生活。本で文学や哲学を学んだ子供たちは6カ国語に通じ、強靭な体力を誇る。ボウドヴァンは名門大学に次々合格するほどだ。

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 文明社会に触れない毎日を送る家族のもとに、ある日突然訃報が入る。長期入院中の母レスリーが亡くなったのだ。葬儀に出るため、父子は改造バスに乗り、2400キロ離れたニューメキシコ州を目指す。仏教徒だった母の願いを尊重し、父子は奇想天外な行動を起こす。

 一行の行動は奇妙だ。腹をすかせて入った食堂で、食事をすべて「毒」とみなす。スーパーへ行けば「食材の救済」と称して大量の食べ物を万引きする。家族の理解者であるベンの妹夫妻の家に泊めてもらうが、あまりに常識はずれのため対立する。ボウドヴァンはキャンプ場で知り合った少女に恋をし、プロポーズまでするが振られてしまう。葬儀にはド派手な衣装で参列し、ベンと妻の父ジャック(フランク・ランジェラ)は激しく衝突する。

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 ネットなど最新技術と無縁の家族をコミカルに描写しつつ、現代人が持つ自然への憧れも浮かび上がらせる。母と子の生前の姿を回想するシーンがあってもよかったが、モーテンセン演じる型破りだが繊細な父親、個性豊かな子供たちの演技に魅せられる。便利すぎる社会に慣れた人々へ、皮肉を込めた独創的作品だ。

(文・藤枝正稔)

「はじまりへの旅」(2016年、米国)

監督:マット・ロス
出演:ビゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、ジョージ・マッケイ、サマンサ・アイラー、アナリース・バッソ

2017年4月1日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで、

http://hajimari-tabi.jp/

作品写真:(C)2016 CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
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2017年02月24日

「ラ・ラ・ランド」人生の夢と希望、甘さと苦さ 50年代ミュージカル形式で描く

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 女優の卵とジャズピアニストとの恋を、ミュージカル仕立てで描いた「ラ・ラ・ランド」。高速道路上で繰り広げられる冒頭の群舞シーンから、1950年代ミュージカルのテイストがあふれ、目を引き付ける。俳優たちの歌い踊る姿や表情も、古き良き時代の雰囲気たっぷりだ。「キャロル」(15)や「ブルックリン」(15)などと同じ、50年代を舞台にした“レトロムード”な作品かと一瞬思う。しかし、違った。

 時代は現代、場所はロサンゼルス。登場人物はケータイを所有し、ファッションもイマ風である。要するに、今日の男女の恋物語を、50年代ミュージカルのスタイルで撮った映画なのだ。

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 だが、50年代ミュージカルといえば、歌も踊りも超一流。圧倒的なテクニックを備えたスターたちが、最高のパフォーマンスで観客を魅了したもの。主演のライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが、どこまでその境地に迫り得ているのか。

 フレッド・アステアやジーン・ケリー、シド・チャリシーやレスリー・キャロン。もちろん彼らの美技・神技には及ばない。とはいえ、数分間もの長回しに耐えるダンスの完成度は十分称賛に値する。ジャズピアニスト役のゴズリングの演奏シーンも吹き替えなし。たった3カ月の特訓でものにしたというから大したものだ。

 場面転換ごとに一変する服装。画面を彩るカラフルな色彩。いかにもミュージカルらしい楽しさ、華やかさが横溢(おういつ)している。若い男女が互いに夢を追いながら、励まし合い、愛し合う、青春の喜びに満ちたラブストーリー。

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 ところが、終盤から様相が変わる。2人の人生を揺るがす大きな転機が訪れ、物語にサスペンスの色合いが加わっていく。2人は夢を実現できるのか。幸福を手にできるのか。答えを出さないまま、映画は5年後のエピローグに飛ぶ。

 ここから本作は、ハッピーなミュージカルから厳しいリアリズムの世界に移行。2人の運命がドラマティックに紹介される。ともにゴールデングローブ賞を受賞したゴズリングとストーン。その視線の演技に注目したい。人生の苦味、酸味を凝縮したようなラストの数分間は圧巻だ。

 監督は、「セッション」(14)で脚光を浴びたデイミアン・チャゼル。単なる50年代ミュージカルへのオマージュに終わらせず、ずしりと心に響く人間ドラマに仕立て上げた手腕はさすがである。

(文・沢宮亘理)

「ラ・ラ・ランド」(2016年、米国)

監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ソノヤ・ミズノ、J・K・シモンズ

2017年2月24日(金)、TOHOシネマズみゆき座、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/lalaland/

作品写真:(c)2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.
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2017年02月20日

「ラ・ラ・ランド」夢の街で出会った男女 歌と踊りで紡ぐ甘くほろ苦い人生 オスカー14部門候補の話題作

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 夢追い人が集まる米ロサンゼルス(L.A.)。女優を目指して映画スタジオのカフェで働くミア(エマ・ストーン)は、オーディションに落ちるばかり。ある夜、場末のバーでピアノを引くセブ(ライアン・ゴズリング)に出会う。前作「セッション」が注目を集めたデイミアン・チャゼル監督の最新作。米ゴールデングローブ賞7部門を制し、米アカデミー賞も14部門で候補となっている話題作だ。

 「ラ・ラ・ランド」はロスのハリウッド周辺地域の愛称で、「ハイになり陶酔する」、「夢の国」を意味するという。ハリウッドのミュージカル映画は1950〜70年代が最盛期。「シカゴ」(02)や「マンマ・ミーア!」(08)のように最近多い舞台の映画化ではなく、久しぶりに完全オリジナルなミュージカル作品だ。

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 チャゼル監督が目指したのは、仏ミュージカルの名作「シェルブールの雨傘」(64)、「ロシュフォールの恋人たち」(67)で知られるジャック・ドゥミ監督へ壮大なオマージュを捧げることだろう。せりふをすべて歌でつづった切ない恋愛劇「シェルブールの雨傘」に、男女の出会いと別れを歌い上げた「ロシュフォールの恋人たち」を重ね、ドゥミ監督の遺作「想い出のマルセイユ」(88)を隠し味に使っている。

 ドゥミ作品は原色の衣装や背景が視覚に訴え、ジャズベースのビッグバンドや甘いメロディーが耳を刺激する。そんなスタイルをチャゼル監督は現代の技術で再現した。ドゥミ作品を多く手がけたミシェル・ルグランの作曲法を徹底的に研究したようだ。ミアが演じる一人芝居の主人公“ジュヌヴィエーヴ”は「シェルブールの雨傘」の主人公と同じ。ドゥミ作品で特徴的に使われる画面転換法「アイリスイン&アウト」(黒字に丸枠が閉じて広がる表現)まで使われている。

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 プロローグ。高速道路で渋滞に巻き込まれた人々が、ワンカットで歌い踊る。高揚感あふれる幕開けだ。二人の出会いを描いた「冬」に始まり、四季でエピソードを区切りつつ、物語は進んでいく。男女が愛を育む過程が、シンプルな歌と踊りで語られ、監督は最後に「もう一歩」踏み込む。

 エピローグ。渋滞に巻き込まれたミアは、運命に導かれてたどり着いた場所で、「もしも」に裏打ちされたもう一つの人生を夢想する。「シェルブールの雨傘」のラストを観客に予感させ、さらに一歩踏み込んだことで、極上の深みが加わり、心地よい余韻が引き出された。ゴズリングは3カ月でピアノをマスターし、プロ級の腕前を披露している。歌と踊りを吹き替えなしで演じたゴズリング、ストーンが素晴らしい。

 同じ音楽を取り上げた「セッション」で、カリスマ教師のしごきで神経をすり減らす主人公の狂気を描いたチャゼル監督。今回は一転、ハリウッドが忘れていたミュージカルの夢を抜群のセンスで復活させた。美しい歌と踊りが高揚感を生み、ミュージカルの新たな可能性と醍醐味を存分に感じられる秀作だ。

(文・藤枝正稔)

「ラ・ラ・ランド」(2016年、米国)

監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、キャリー・ヘルナンデス、ジェシカ・ローゼンバーグ、ソノヤ・ミズノ

2017年2月24日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/lalaland/

作品写真:Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
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2017年02月16日

「セル」スティーブン・キング原作アクションホラー 携帯依存の恐怖 移動型サバイバル劇

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 小説家スティーブン・キングが自作を脚本化し、映画化されたアクションホラー「セル」。コミック作家のクレイ(ジョン・キューザック)は、ボストンの空港で妻子に電話するが、電池切れで通話が途切れる。すると携帯電話で話していた周りの人たちが突然暴徒化。空港はパニック状態に。地下鉄に逃げたクレイは、車掌トム(サミュエル・L・ジャクソン)と少女アリス(イザベル・ファーマン)の協力で、家族が待つニューハンプシャーを目指す──。

 キング作品は「キャリー」(76)、「シャイニング」(80)、「ミザリー」(90)、「ミスト」(07)など続々と映画化されてきた。今回はキューザックが製作総指揮を務め、同じキング原作の「1408号室」(07)でコンビを組んだジャクソンが共演。「パラノーマル・アクティビティ2」(10)のトッド・ウィリアムズがメガホンを取った。

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 米国で携帯電話は「セル」。原作が出版された06年は、携帯電話が急速に普及した時期だった。携帯を通して人間が凶暴になり、周りの人々を襲っていく。死者が蘇り襲う「ゾンビ」に設定は似ており、群れになって素早く襲う様子は最近のゾンビ映画と共通する。

 ボストンの空港で突如パニックに巻き込まれるクレイ。「奴ら」から逃げる視点で物語は展開する。地下鉄から街へ移動しながら、途中で偶然出会った人たちと徒歩、車でニューハンプシャーへ向かう。移動型のサバイバル劇だ。

 人々は携帯電話のノイズで暴れ始めるが、終末的な状況でクレイを突き動かす原動力は家族愛だ。息子に会うため「奴ら」と戦う姿は、同じキング原作「ペット・セメタリー」(89)を思い起こさせる。死んだ息子を蘇らせるため、禁断の方法に手を染める主人公だった。

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 今回は携帯電話に依存する現代人に、キングが放った皮肉を感じる。原作が発表された10年前、すでに携帯依存の恐ろしさを描いた先見性は見事だ。平和な日常が一変する瞬間が、たたみかける残酷描写で描かれる。テンポの良い監督の演出、個性派俳優のひとくせある演技。ホラー映画ファンも満足の仕上がりとなった。

(文・藤枝正稔)

「セル」(2016年、米国)

監督:トッド・ウィリアムズ
出演:ジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソン、イザベル・ファーマン、オーウェン・ティーグ、クラーク・サルーロ

2017年2月17日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://cell-movie.jp/

作品写真:(C)2014 CELL Film Holdings, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2017年01月02日

「NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム」ネットの闇ゲームと依存する若者たち 現代社会に警鐘

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 臆病な自分にうんざりの女子高校生ビー(エマ・ロバーツ)は、勢いでインターネットのオンラインゲーム「NERVE ナーヴ」に参加する。そこで知り合ったハンサムな青年イアン(デイブ・フランコ)とコンビを組み、あっという間に人気者になっていく──。

 ジュリア・ロバーツの兄エリックの娘エマ、ジェームズ・フランコの弟デイブが主演。ビーの母親役に「ギルバート・グレイブ」(93)のジュリエット・ルイス。「パラノーマル・アクティビティ」シリーズ3、4作を監督したヘンリー・ジュースト、アリエル・シュルマンがメガホンを取った。

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 インターネット、SNS(交流サイト)、動画サイトが生活の一部と化した現代社会に暮らす若者たち。賞金と名誉欲をえさに、過激な闇サイトが運営するゲームが題材だ。元をたどればタイ映画「レベル・サーティーン」(06)にたどり着く。次第に過激さを増し、狂気の世界に突入するゲーム。思えば時代を先読みしていた。

 「NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム」は、着想が「レベル・サーティーン」に似ている。描き方がスマートで現代的なため、テンポが心地よく音楽は個性的だ。パソコン画面の文字がスクリーンに浮かび、観客は主人公の視覚を同時体験できる。ポップな画面作りが楽しい。

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 ビーに課せられた最初の命令は「見知らぬ若者に5秒間キスすること」。引っ込み思案なビーには難しかったが、クリアしたことで賞金を手にする。さらに次のミッションが示され、ビーにとって「一度だけ」のはずの挑戦がエスカレートしていく。

 金と名誉のため過激なゲームにはまる若者たち。観客はゲームの傍観者になり、登場人物の動向を見守る。ネットの仮想現実にとらわれた彼らは、サイト運営側に反旗を翻し現状打破を図る。ネット社会の闇をうまく取り入れ、依存体質に警鐘を鳴らしている。ゲーム感覚でテンポのいい作品だ。

(文・藤枝正稔)

「NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム」(2016年、米国)

監督:ヘンリー・ジュースト、アリエル・シュルマン
出演:エマ・ロバーツ、デイブ・フランコ、ジュリエット・ルイス、エミリー・ミード、マイルズ・ハイザー

2017年1月6日(金)、TOHO シネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.start-nerve.jp/

作品写真:(C)2016 LIONSGATE ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
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