2018年06月13日

「ワンダー 君は太陽」人と顔が違う少年オギー 友情と葛藤、成長の物語

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 オギー(ジェイコブ・トレンブレイ)は遺伝子の疾患で、人と異なる顔で生まれてきた。何度も手術を受け、自宅で勉強を続けてきたが、両親は息子を外の世界へ送り出すと決める。学校でオギーはいじめや裏切りに合うが、ありったけの勇気と知恵で立ち向かい、周囲の人々が変わり始める──。

 R・J・パラシオの原作小説を、「ウォールフラワー」(12)のスティーブン・チョボスキーが監督した作品。「ルーム」(15)の名子役ジェイコブ・トレンブレイ、「エリン・ブロコビッチ」(00)のジュリア・ロバーツ、「ミッドナイト・イン・パリ」(11)のオーウェン・ウィルソンが出演。

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 宇宙飛行士用のヘルメットをかぶった少年が、一人で遊ぶシュールな幕開け。少年オギーは顔が変形しており、外出時は常にヘルメット姿。両親と高校生の姉、ペットの犬とニューヨークで暮らし、自宅学習をしてきたが、5年生で初めて小学校に入る。

 入学を前に、オギーは母と校長に会い、クラスメート3人に学校を案内してもらう。3人のうちジャックは良き理解者となり、唯一の親友になる。期待と不安の登校初日は、挑戦と試練の日々の始まりでもあった──。

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 デリケートな題材で、一歩誤れば重苦しくなる恐れがある。監督は病を隠さず、ユーモアを交えながら正面から描いている。オギーは差別や偏見と戦いながら、学校に通い始める。クラスメートとの友情、いじめや裏切り。一つ一つきっちり描き、成長と葛藤の物語をつむぐ。

 オギーが現実逃避するような脳内世界は、ポップで幻想的。大好きな映画「スター・ウォーズ」の人気キャラクターが登場する凝りようだ。家族の物語と並行して、姉のヴィア(イザベラ・ヴィドヴィチ)の悩みと友情、恋愛を描き、物語に膨らみを持たせる。

 オギーを演じたトレンブレイは、感情が出し辛い特殊メイクで難役に挑み、観客の心をつかむ。両親を演じたロバーツとウィルソンは脇に徹して好演。両親の無償の愛、クラスメートとの温かい友情。オギーが勇気を与えられ、成長する姿に感動する。

(文・藤枝正稔)

「ワンダー 君は太陽」(2017年、米)

監督:スティーブン・チョボウスキー
出演:ジュリア・ロバーツ、ジェイコブ・トレンブレイ、オーウェン・ウィルソン、マンディ・パティンキン、ダビード・ディグス

2018年6月15日(金)、TOHO シネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://wonder-movie.jp/

作品写真:(C)2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. All Rights Reserved.
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2018年05月08日

「ミッドナイト・サン タイヨウのうた」シュワルツェネッガーの息子パトリック主演 日本ヒット作のリメイク

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 17歳のケイティ(ベラ・ソーン)は、日光にあたることができない“XP(色素性乾皮症)”。幼い頃から昼は家から出られず、父親と時間が経つのを待つだけだった。唯一の楽しみは、毎夜ギターを片手に駅前まで行き、通行人相手に歌うこと。ある夜、ケイティは同世代の青年チャーリー(パトリック・シュワルツェネッガー)と出会う──。

 サブタイトルが示す通り、日本映画「タイヨウのうた」(06)のハリウッド・リメイク版だ。06年に沢尻エリカ主演のテレビドラマ版や、10年に韓国で上演されたミュージカル版が親しまれ、15年にベトナムでテレビドラマ化もされた。今回のハリウッド版はドラマ「シェキラ!」(10〜13)で人気を得た歌手で女優のベラ・ソーン主演。恋人役はアーノルド・シュワルツェネッガーの息子、パトリック・シュワルツェネッガー。監督、製作総指揮はスコット・スピアー。

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 子どもの頃、引きこもり状態のケイティは、近所の子供たちにとって気味の悪い存在だった。だが、モルガン(クイン・シェパード)だけは普通に接してくれ、外とつないでくれる貴重な親友になった。ケイティの楽しみは、ギターを弾いて曲を作ったり、詩を書いたり、父親と話すこと。中でも一番は、家の前を通る隣人の少年チャーリーを窓から眺めることだった。

 やがてケイティは成長し、夜になると駅で歌うストリートミュージシャンになった。ある夜、ケイティが恋こがれていた隣人チャーリーに声をかけられる。突然の出来事に動揺したケイティは、歌詞を書き留めたノートを置いたまま逃げ出してしまう。このノートが恋のキューピットとなり、二人は初デートにこぎつける。

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 日本でも大ヒットした「タイヨウのうた」のリメイクのため親しみやすく、オリジナル版と比較しながら見ることができる。もちろん未見でも十分に楽しめる普遍的な愛の物語だ。舞台のカナダ・バンクーバーの雰囲気も手伝い、カラッとした解放的な空気が心地良く、すんなり心に入ってくる。主演を務めたソーンと親友役クイン・シェパードの明るくアメリカンな友情、背景に描かれる群像劇。米国青春ドラマの王道的な展開も心地良い。

 一番の目玉はパトリック・シュワルツェネッガーだ。また演技はうまくないが、「ターミネーター」(84)出演時の父にそっくりなたたずまい、話し方や声まで似ていて、父のファンは2度楽しめる。若い2人を優しく見守るケイティの父ジャック(ロブ・リグル)が話をうまく盛り上げる。リメイクだけに新鮮味は薄いが、観客を選ばぬ王道のラブストーリーは、多くの映画ファンに受け入れられるだろう。

(文・藤枝正稔)

「ミッドナイト・サン タイヨウのうた」(2018年、米国)

監督:スコット・スピアー
出演:ベラ・ソーン、パトリック・シュワルツェネッガー、ロブ・リグル、クイン・シェパード、ケン・トレンブレット

2018年5月11日(金)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://midnightsun-movie.jp/

作品写真:(C)2017 MIDNIGHT SUN LLC. ALL RIGHTS RESERVED. (C)2017 OPEN ROAD FILMS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2018年05月03日

「サバービコン 仮面を被った街」コーエン兄弟脚本×クルーニー監督 黒い笑いに満ちた犯罪推理劇

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 「明るい街、サバービコンへようこそ!」。1950年代の米国。アメリカン・ドリームの街に住むロッジ家の生活は、強盗の自宅侵入で一変する。足が不自由な妻ローズ(ジュリアン・ムーア)が亡くなり、幼い息子ニッキーが遺され、仕事一筋の主ガードナー(マット・デイモン)と妻の妹マーガレット(ジュリアン・ムーアが二役)は、前向きに日常を取り戻そうとする──。

 1950年代の実話と、コーエン兄弟が99年に書いた脚本を融合させた犯罪サスペンス。監督、脚本、製作をジョージ・クルーニーが務め、マット・デイモン、ジュリアン・ムーア、オスカー・アイザックら人気スターが競演する。

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 米国人の理想を反映したような郊外の住宅地「サバービコン」に、黒人一家が引っ越してきて激震が走る。人種差別が当たり前の時代。住民たちのあからさまな嫌がらせが始まる。一方、黒人一家の隣に住むロッジ家に2人組の強盗が押し入り、妻ローズが死亡してしまう。ローズの双子の妹マーガレットは、姉と入れ替わるように、妻の座に収まろうとしていた。

 トランプ大統領が「白人至上主義」を叫ぶ狂った現代に、コーエン兄弟ならではのブラックでシニカルな脚本がさく裂。劇場映画の監督6本目となるクルーニーは、毒気たっぷりに料理する。

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 クルーニーが影響を受けた作品の気配が見える。ムーア演じる双子の姉妹はヒッチコック監督の「めまい」(58)か。地下室での情事を目撃する姿は「サイコ」(60)のパロディーのようだ。劇中音楽は、部分的にヒッチコック作品の常連作曲家、バーナード・ハーマンを彷彿とさせる。絶妙な旋律が隠し味として効いてくる。

 大人たちの悪だくみに振り回される子供・ニッキーの冷めた視点が本質を突く。欲望のために平気で嘘をつき、人をだまして殺人まで犯し、暴徒化する身勝手な大人たち。そんな大人をしり目に、隣に住む黒人少年と友情を育むニッキー。根強い人種差別に対する強烈なアンチテーゼが込めつつ、シニカルでブラックな喜劇にした監督のセンスにしびれる。

(文・藤枝正稔)

「サバービコン 仮面を被った街」(2017年、米国)

監督:ジョージ・クルーニー
出演:マット・デイモン、ジュリアン・ムーア、オスカー・アイザック、ノア・ジュプ、グレン・フレシュラー

2018年5月4日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://suburbicon.jp/

作品写真:Hilary Browyn Gayle (C)2017 Paramount Pictures. All rights reserved.

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2018年02月28日

「シェイプ・オブ・ウォーター」冷戦時代に描く人間と異生物の愛 ギレルモ・デル・トロ監督、シンプルに独創的に

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 1962年、米政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、秘かに運び込まれた不思議な生き物を見てしまう。アマゾンの奥地で神のように崇められていた“彼”は、奇妙だがどこか魅力的。イライザは周囲の目を盗んで会いに行くようになる。子どもの頃のトラウマで声が出ないイライザだが“彼”との間には言葉はいらなかった──。

 ギレルモ・デル・トロが監督、脚本、製作、原案のラブファンタジー「シェイプ・オブ・ウォーター」。ベネチア国際映画祭で金獅子賞(最高賞)、ゴールデングローブ賞で監督賞を受賞、3月発表の米アカデミー賞では作品、監督、主演女優賞など13部門にノミネートされている話題作だ。

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 日本のマンガやアニメ、特撮作品をこよなく愛するデル・トロ監督。「ミミック」(97)、「ヘルボーイ」(04)、「パンズ・ラビリンス」(06)、「パシフィック・リム」(13)と、マニア心をくすぐるダーク・ファンタジーを送り出してきたが、今回は愛すべき小品といえよう。米国とソ連が科学技術開発でしのぎを削った冷戦時代、人間の女性と半魚人系クリーチャーの禁断の愛を描いた。

 話せないイライザは、自宅と職場を往復するだけ。寂しい日常を反復して描き、愛を知らない孤独を観客の脳裏に焼き付け本題に入る。巧みな演出だ。イライザが出合った生き物は、実験対象としてアマゾンで捕獲された。生き物に過酷な仕打ちをするエリート軍人のストリックランド(マイケル・シャノン)、研究チームの新任ホフストラー博士(マイケル・スタールバーグ)は、イライザや清掃員の同僚ゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)を厳しく見張っている。イライザはすきを狙って研究室に忍び込み、生き物と交流を始める。

 人間と異生物と友情といえばスピルバーグ監督の「E.T.」(82)を思い出す。今回は友情より難易度の高い愛情だ。監督はファンタジーの魔法を使い、生き物を知能ある神秘的な存在に位置付け、主人公の孤独な心を埋める様子を描いた。

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 イライザは話せないため、生き物と手話でやり取りする。ゆで卵や音楽で親密になる過程が、違和感なく描かれる。ホーキンスはほぼセリフがないが、内面からにじみ出る感情表現が秀逸だ。イライザの代弁者となる勝気な相棒のゼルダを演じたスペンサー。隣人でよき理解者のジャイルズを演じたリチャード・ジェンキンス。悪役を一手に引き受けたストリックランド役のシャノン。デル・トロ作品の常連で数々のクリーチャーを演じた生き物役のジョーンズが、スーツアクターとして素晴らしい演技を見せている。

 動きを止めない流麗な映像、琴線に触れるシンプルな音楽。ダーク路線から一皮むけた監督が、新たな一面を見せる愛の物語だ。

(文・藤枝正稔)

「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年、米国)

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ

2018年3月1日(木)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/

作品写真:(C)2017 Twentieth Century Fox
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2018年02月21日

「The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ」ソフィア・コッポラ監督、女性心理を深く繊細に

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 南北戦争3年目の1864年、米南部のバージニア州。世間から隔絶された女子寄宿学校に、美しい女性7人が暮らしていた。ある日、負傷した北軍の兵士に遭遇し、運んできて手当てをする。紳士的な兵士に、女性たちは心奪われていく──。

 1971年、クリント・イーストウッド主演、ドン・シーゲル監督で映画化された「白い肌の異常な夜」と同じトーマス・カリナンの原作を、ソフィア・コッポラ監督が女性の視点で描き直した。2017年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞している。

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 男子禁制の女の園を仕切るのは、園長のミス・マーサ(ニコール・キッドマン)だ。教師エドウィナ(キルスティン・ダンスト)は、好奇心旺盛なアリシア(エル・ファニング)ら女子生徒5人と暮らしている。ある日、生徒がキノコ採りに出かけ、負傷した敵軍のマクバニー伍長(コリン・ファレル)を連れ帰る。

 「白い肌の異常な夜」は、登場人物の内なる声を使い、夢や幻想を使ったスリラーだった。マクバニーは女性たちを女として見ており、男性の観客に向けて作られた印象があった。

 一方、「ビガイルド」では、女性たちがマクバニーに色めき立ち、おしゃれを始めるなど、女性心理を掘り下げている。濃密な雰囲気だった「白い肌」に比べ、シンブルでストレートな印象だ。自然光、ろうそくの光など照明を重視。手作りのドレスには「マリー・アントワネット」(06)にも共通する監督のこだわりが見える。

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 マクバニー役のファレルは、イーストウッドに比べて小粒の印象。逆に堂々たる風格のキッドマン、ダンスト、今が旬のファニング。女優は適材適所で愛憎劇を盛り上げる。シーゲル監督が「ダーティハリー」(71)と同年に作った「白い肌」と対照的に、寡黙で繊細な女性の心を見つめ、静かに観客の心に刺さるスリラーとなった。

(文・藤枝正稔)

「The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ」(2017年、米国)

監督:ソフィア・コッポラ
出演:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、キルステン・ダンスト、エル・ファニング、オオーナ・ローレンス

2018年2月23日(金)、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://beguiled.jp/

作品写真:(C)2017 Focus Features LLC All Rights Reserved

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