2017年11月17日

「KUBO クボ 二本の弦の秘密」ハリウッドが描いた「日本」アニメ 豪華声優陣

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 三味線の音色で折り紙に命を与え、意のままに操る……不思議な力を持つ少年・クボ。サムライだった父親を闇の力に奪われ、追っ手を振り切り母と暮していたが、ついに居所を突き止められ、母を亡くしてしまう。闇の力に打ち勝つ道は、三種の神器を探すこと。毒舌だが面倒見の良いサルと、ノリは軽いが弓の名手・クワガタを仲間に旅を続けるクボ。やがて自分が執拗に追われる理由が、最愛の母が犯した悲しい罪にあると知る──。

 「コララインとボタンの魔女」(09)を製作したスタジオ「ライカ」が古き日本を舞台に作ったストップモーション・アニメ映画だ。声の出演が豪華。シャーリーズ・セロン、レイフ・ファインズ、マシュー・マコノヒーら主役級俳優が命を吹き込んだ。「ライカ」を経営するトラヴィス・ナイトの監督デビュー作。

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 黒澤明、宮崎駿監督作品のファンで、日本マニアの監督が選んだ「古き日本」が舞台。キャラクター達は着物姿で盆踊り。灯篭流し、刀など日本文化を徹底的にリサーチして取り入れている。クボは三味線を演奏し、音色は魔法のように折り紙を操り、さまざまな物を作り出す。米国人スタッフのフィルターを通し、日本文化が描かれると不思議な感触だ。

 米国製CGアニメではよく、動物やおもちゃが擬人化される。今回クボが三種の神器を探す旅にも、侍姿の折り紙、擬人化されたサルとクワガタがお供する。子どものクボにとって家族のように頼もしい存在だ。一方、人間のキャラクターデザインは、どうしても米国人の目を通した日本のせいか、一部中国風になっていて惜しい。

 ストップモーション・アニメの歴史は古い。1933年製作「キングコング」を筆頭に、レイ・ハリーハウゼンが特撮を手掛けた「アルゴ探検隊の大冒険」(63)は、その後の映画作家たちに多大な影響を与えた。最近ではティム・バートンが製作した「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」(93)が有名だ。

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 「クボ 二本の弦の秘密」はCGアニメ全盛のハリウッドの流れに逆行する様に、一コマずつ人形を動かして撮影。手間ひまかかるストップモーションの長編映画。製作期間94週間を経て完成映像は見事のひとこと。日本文化が米国に渡り、精神を受け継いだクリエイターたちが、画面の隅々まで丹精込めて作り上げた。大人にも楽しんでもらいたいファンタジー映画だ。

(文・藤枝正稔)

「KUBO クボ 二本の弦の秘密」(2016年、米国)

監督:トラビス・ナイト
声の出演:アート・パーキンソン、シャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、ルーニー・マーラ、レイフ・ファインズ

2017年11月18日(土)新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/kubo/

作品写真:(c)(C)2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.

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2017年11月09日

「ザ・サークル」SNSの光と影 監視社会を予言するサスペンス エマ・ワトソン×トム・ハンクス

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 世界で30億人が利用する巨大SNS(交流サイト)「サークル」。運営主体の最先端企業に採用された新人社員メイ(エマ・ワトソン)は、ある事件をきっかけにカリスマ経営者・ベイリー(トム・ハンクス)の目に止まり、新サービスの実験モデルに抜擢される。

 ベイリーは「隠しごとは罪だ。すべてさらけ出せば、世界はもっと良くなる」という理想を掲げていた。メイはベイリーの指示で、自分の生活を24時間ネットに公開。瞬く間に1000万人を超えるフォロワーを獲得し、アイドル的存在になる──。

 デイブ・エガーズの同名原作小説を、エガーズ本人と「人生はローリングストーン」(15、未公開)のジェームズ・ポンソルト監督が共同で脚本化し、映像化したサスペンスだ。

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 ある個人をカメラで24時間監視し、公開する映画といえば、ジム・キャリー主演「トゥルーマン・ショー」(98)が有名だ。19年前の作品だけにテレビ放送など大掛かりな仕掛けだった。今回は球体の超小型カメラで撮影し、SNSでライブ配信する。現代らしいリアルな設定だ。

 社会を「透明化」する名目で、個人の生活を24時間ライブ配信する新サービス「シーチェンジ」。実験者になったメイは、トイレに行く時間を除く一挙一動を公開するが、やがて心は徐々にむしばまれていく。

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 「シーチェンジ」はその後、全人類を透明化する新サービス「ソウルサーチ」に発展。あらゆる場所に設置した監視カメラで、犯罪者の居所まで突き止めようとする。運営企業の「サークル」は暴走を始め、思わぬ悲劇を招いてしまう。「迷惑ユーチューバー」や過剰な「インスタ映え」が話題になる現実に合致した描写だろう。

 「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニー、「美女と野獣」(17)のベルなど、ファンタジックなヒロインを演じてきたエマ・ワトソン。今回は24歳の女性会社員を等身大で好演する。すっかり貫禄のついたトム・ハンクスは、謎めいた経営者を器用に演じた。ジェームズ・キャメロン監督作品の常連俳優、ビル・パクストンの遺作にもなった。

(文・藤枝正稔)

「ザ・サークル」(2017年、米国)

監督:ジェームズ・ポンソルト
出演:エマ・ワトソン、トム・ハンクス、ジョン・ボヤーガ、カレン・ギラン、エラー・コルトレーン

2017年11月10日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/circle/

作品写真:(C)2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.
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2017年10月19日

「アトミック・ブロンド」シャーリーズ・セロン、圧巻の体当たりアクション 冷戦末期のベルリン、絡み合う諜報合戦

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 1989年秋、ベルリン。冷戦末期、ベルリンの壁崩壊前夜、英諜報員が殺され、極秘のスパイリストが強奪された。英諜報機関「MI6」にリストの奪還を命じられたロレーン(シャーリーズ・セロン)は単身現地に潜入するが、敵国ソ連が放った刺客に襲われる。協力者のはずのMI6ベルリン支部の敏腕諜報員パーシバル(ジェームズ・マカボイ)も不穏な行動だ。東西ベルリンを行き来しながら危険なミッションを遂行するロレーンだったが、監視と盗聴、非常な罠で絶体絶命の窮地に陥る。

 2012年に発表されたグラフィック・ノベルを実写化。監督は「ジョン・ウィック」(14)の製作、共同監督を務めたデビッド・リーチ。スタイリッシュなスパイアクションだ。

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 冷戦末期のドイツでは、極秘スパイリストを巡り、英、東独、仏、ソ連のスパイたちが血眼になって任務を遂行していた。スパイリスト奪還のため、MI6がベルリンに送り込んだのがロレーンだ。

 ベルリンの任務を終えたロレーンが、MI6の取り調べ室で主任のグレイ(トビー・ジョーンズ)、協力関係にある米米中央情報局(CIA)主任カーツフェルド(ジョン・グッドマン)に尋問を受けている。物語はそんな任務終了後と、任務を回想する現在の二層構造で展開する。

 アクション満載の作品を牽引するのは製作、主演を務めたセロンだ。MI6の取り調べ室でふてぶてしく取り調べに応じるセロンは、尋常ではない傷だらけの姿。観客は「何があったのか」と疑問を持ったところで、理由がロレーンの口から語られる。ドイツに到着したロレーンは直後から刺客に狙われ、普通なら死んでもおかしくない危機を、敏腕スパイならではの勘と戦闘能力で乗り越えた。

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 中でも凄いのは、ビルの階段と部屋を舞台にセロンに襲いかかる複数の刺客との7分半の死闘を、ワンカットでとらえたシーンだ。「接近戦のプロ」のセロンは銃やナイフで襲いくる刺客に丸腰で戦う。圧倒されるアクションだ。よく見るとところどころ流血し、どんどん傷だらけになっていく。驚異のワンカット撮影に加え、最新の映像処理の進歩。スタントマン出身の監督ならではのたたみかける演出だ。

 スパイたちのだまし合いも秀逸。壁崩壊間近の混沌としたベルリンに、潜伏しながら活動する怪しいパーシバル。フランスの女スパイ、ラサール(ソフィア・ブラガ)。敵か味方か分からぬスパイたちにロレーンは惑わされる。

 最近は「007」、「ミッション・インポッシブル」など老舗スパイ映画の好調ぶりが印象的だが、「アトミック・ブロンド」は大胆不敵な生身アクションを全編に投入しながら、セロンの新たな魅力を引き出した。テンション高めな女スパイ映画である。

(文・藤枝正稔)

「アトミック・ブロンド」(2017年、米)

監督:デビッド・リーチ
出演:シャーリーズ・セロン、ジェームズ・マカボイ、エディ・マーサン、ジョン・グッドマン、トビー・ジョーンズ

2017年10月20日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://atomic-blonde.jp/

作品写真:(C)2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

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2017年08月26日

「戦争のはらわた」鬼才サム・ペキンパー、戦場の狂気と反戦への思い

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 1943年春、第二次世界大戦下のロシア戦線。一時はスターリングラードまで侵攻したドイツ軍だったが、ソ連軍の反撃を前に劣勢を強いられていた。スターリングラードの戦いで負け、クリミアへ苦しい撤退を迫られる中、プラント大佐(ジェームズ・メイソン)率いるドイツ陸軍連隊を次々と困難が襲う。部隊はただ生き延びるために戦い続けていた──。

 西部劇「ワイルドバンチ」(69)、犯罪劇「ゲッタウェイ」(72)など、バイオレンス演出が得意で“血まみれサム”の異名を持つサム・ペキンパー監督。ジェームズ・コバーン主演で撮った唯一の戦争映画が「戦争のはらわた」だ。ペキンパーといえばスローモーション、独特の映像美が語り継がれる。「戦争のはらわた」も撃たれて血しぶきをあげて倒れ、爆撃に吹き飛ばされる兵士、爆撃で吹き飛ぶ建物を、スローモーションで映し出す。けれん味あふれる映像。物語にカタルシスはない。

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 戦争映画の形を取りつつ、裏に反戦への思いが見え隠れする。冒頭ではヒトラーとナチスの記録映像に、日本の動揺「ちょうちょう」の原型であるドイツ民謡「幼いハンス」を流す。好奇心旺盛なハンスは旅に出て、数年後に容姿が変わって帰ってくる。母だけが息子だと気付く。親子愛を歌った曲だ。旅を戦争にたとえているのだろう。

 大事なポイントは、ハンスのエピソードが示すように「人は見た目」ということだ。作品ではドイツ兵の多くを米国の俳優が演じ、セリフは英語。違和感はぬぐえない。しかし、話が進むとその理由も見えてくる。ドイツ軍の小隊長シュタイナー(ジェームズ・コバーン)は、戦争の狂気を目のあたりにし、精神を病んでいく──。

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 作品は製作途中に資金が尽き、唐突なラストでしめくくられる。しかし、後半の展開に監督の強い意志を感じる。「敵軍の軍服」がキーワードだ。人は人を何で判断するか。国や軍服で相手を扱い、攻撃を繰り返すことに、監督は異論を唱えている。米国人俳優をドイツ兵にした初期段階から、戦争への皮肉を込めた気がしてならない。

(文・藤枝正稔)

「戦争のはらわた」(1977年、英・西独)

監督:サム・ペキンパー
出演:ジェームズ・コバーン、マクシミリアン・シェル、ジェームズ・メイソン、センタ・バーガー、デビッド・ワーナー

2017年8月26日(土)、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://cross-of-iron.com/

作品写真:(C)1977 Rapid Film GMBH - Terra Filmkunst Gmbh - STUDIOCANAL FILMS Ltd

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2017年08月19日

「ベイビー・ドライバー」犯罪+カーアクション、新たな切り口で新風

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 「ショーン・オブ・ザ・デッド」(04)、「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメ!」(07)のエドガー・ライト監督が、カーアクション満載の犯罪映画「ベイビー・ドライバー」で英国からハリウッドに本格進出した。

 逃げる銀行強盗団を乗せ、雇われドライバーのベイビー(アンセル・エルゴート)が、ご機嫌な音楽に乗り、天才的な運転テクニックを披露する。ベイビーがハンドルを握る真っ赤な日本車「スバルWRX」が、パトカーと凄まじいカーチェイス。まんまと警察を巻いてアジトに向かう。

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 続いてミュージカルパートに突入。ベイビーの仕事は終わらない。強盗団にコーヒーをふるまうため、アジトから少し離れたコーヒー店へ徒歩で使い走り。ベイビーは音楽に合わせて軽快なステップで動き、カメラもその姿をワンショットで追い続ける。観客は幕開けからアクティブな描写に心をわしづかみされる。

 幼い時に交通事故で両親を失ったベイビーは、後遺症で耳鳴りが止まらなず、iPodの音楽で耳鳴りを封じ込める。彼に一目置くのが、大物犯罪者ドク(ケビン・スペイシー)だ。ベイビーはドクに大損させた借りを返すため、強盗団の逃走専門ドライバーをしている。借りもあと少し。ベイビーは最後の仕事をこなした後、真っ当な人生を歩もうと計画していた──。

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 米犯罪映画とカーアクションは相性がいい。「ブリット」(68)や「ワイルド・スピード」シリーズなど多くのヒット作が生まれ、一ジャンルとして定着している。新たな切り口を見せたのが「ベイビー・ドライバー」だ。犯罪とカーアクションに音楽をシンクロさせた。監督はシーンに使う楽曲を先に決め、曲に合わせて脚本を書いたという。

 音楽は主人公の内心も代弁する。他人の前で心を開かないベイビーは大好きな曲に気持ちを重ね、口パクで歌うマネをしながら踊る。表向きは犯罪映画だが、繊細な主人公が運命を切り開く青春映画の一面も持ち、恋愛パートが隠し味となっている。

 ベイビーは行きつけのダイナーで働くデボラ(リリー・ジェイムズ)へ淡い恋心を抱く。しかし、ドクにバレて利用されてしまい、新たな犯罪に手を染めるきっかけとなる。繊細なベイビーと、それを悪用する大人たち。

 ドクを演じたスペイシーが貫禄の演技。オスカー受賞俳優のジェイミー・フォックスら、アクの強い個性派が若い俳優を脇からサポートしたエキサイティングな犯罪映画だ。

(文・藤枝正稔)

「ベイビー・ドライバー」(2017年、米国)

監督:エドガー・ライト
出演:アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケビン・スペイシー、ジェイミー・フォックス、ジョン・ハム

2017年8月19日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.babydriver.jp/
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posted by 映画の森 at 11:31 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする