2020年04月02日

「ポップスター」ナタリー・ポートマン主演 輝ける歌姫の栄光、転落、再起

1.jpg

 2000年、米国。同級生による銃乱射事件で、生死のふちをさまよったセレステ(ラフィー・キャシディ)。姉のエリー(ステイシー・マーティン)と作った犠牲者の追悼曲が異例の大ヒットとなり、敏腕マネージャー(ジュード・ロウ)の手で一気にスターダムを駆け上がる。

 18年後。人気の絶頂を極めたセレステ(ナタリー・ポートマン)だったが、アルコールとスキャンダルにつまずき、活動休止に追いやられる。悪魔に魂を売ってでも再びステージで輝きたい歌姫は、再起をかけたツアーを企画する──。監督、脚本は「シークレット・オブ・モンスター」(2015)で長編監督デビューした俳優のブラディ・コーベット。

2.jpg

 作品は2部構成だ。幕開けは1999年。銃乱射に巻き込まれた14歳のセレステは、ショービジネス界に入り、スターの階段を上っていく。しかし、マネージャーとエリーが男女の関係となり、姉妹の関係にひびが入る。少女時代をラフィー・キャシディが演じる。2017年からの後半では、ポップス歌手として大スターとなった31歳のセレステ役を「レオン」(94)、「ブラックスワン」(10)のナタリー・ポートマンが演じる。

 銃乱射の悲劇をばねに、スター街道を走る少女を描いており、前半が秀逸だ。まず乱射事件の描写がショッキングで凍りつく。重傷のセレステはベッドの上で歌を作り、人々の共感を得てショービジネスの世界へ。普通の少女が芸能界に入ったことで、自堕落な生活に陥る過程が生々しい。キャシディが素人っぽいセレステを魅力的に演じている。

3.jpg

 しかし、後半のセレステは貫禄の大スターになっており「17年の間に何があったのか」と思うほど変貌している。恐らく米ポップ界の大スター、マドンナを参考にしたのだろう。精神的に追い詰められる歌姫の舞台裏ドラマが、前半とかみ合わずバランス悪く感じた。

 前半は銃乱射事件に揺れる少女の心を丁寧に掘り下げたが、後半はショービジネスの裏側が楽屋落ち的に明かされる。セレステの家族のドラマに加え、ポートマンの夫のバンジャマン・ミルピエが振り付けたクライマックスのステージ。全体に欲張りすぎた印象だ。完ぺきだった前半の足を凡庸な後半が引っ張ってしまい、惜しい作品となった。

(文・藤枝正稔)

「ポップスター」(2018年、米)

監督:ブラディ・コーベット
出演:ナタリー・ポートマン、ジュード・ロウ、ラフィー・キャシディ、ステイシー・マーティン、ジェニファー・イーリー

2020年公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/popstar/

作品写真:(C)2018 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC
posted by 映画の森 at 23:40 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月26日

「地獄の黙示録 ファイナル・カット」ベトナム戦争の狂気 コッポラ不朽の名作、デジタル修復で再登場

1.jpg

 1960年代、ベトナム戦争が激化する中、米陸軍のウィラード大尉(マーティン・シーン)に特殊任務が命じられる。軍規にそむき、カンボジア奥地のジャングルで王国を築くカーツ大佐(マーロン・ブランド)の暗殺指令だった。ウィラードは4人の部下と哨戒艇でヌン川をさかのぼる──。

 フランシス・フォード・コッポラ監督のカンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)受賞作「地獄の黙示録」(79)が製作40周年を記念し、監督自身の手で再編集、デジタル修復された。

 「地獄の黙示録」は現在、大きく分けて2つのバージョンが存在する。オリジナルである79年の劇場公開版、上映時間は153分。オリジナルには2つのバージョンがあり、一部の劇場で先行上映された70ミリ版はエンドロールがない。通常上映された35ミリ版は、ラストに村の爆破シーンとエンドロールがある。

3.jpg

 さらに、2001年に公開された「地獄の黙示録 特別完全版」は、上映時間が最長の202分。劇場公開版より30分長く、ウィラードたちがヌン川をさかのぼる途中でフランス人入植者たちに出会うエピソードなどが追加された。35ミリ劇場公開版同様、村の爆破とエンドロールがある。今回IMAX上映される「地獄の黙示録 ファイナル・カット版」は、「特別完全版」より20分短く、デジタル修復されている。

 「地獄の黙示録」が描くのは戦争の狂気だ。カーツ大佐暗殺の任務を負ったウィランドたちが、川をさかのぼる途中で見たのは、戦争で狂った米兵たちだった。サーフィンをするため村ごと焼き払うギルゴア中佐(ロバート・デュバル)。慰問に訪れたプレイメイトに熱狂する兵士。ドラッグに溺れ正気を失っていく乗務員。それまで米映画が描いた英雄とは正反対の米軍兵士が登場する。

 ヘリコプターがベトナムの村を襲撃する戦闘シーンに始まり、中盤から後半にかけて登場人物の狂気は加速する。カーツ大佐のいる秘境は、さまざまな人種と死体の放つ死臭漂うカオスな場所だ。

2.jpg

 王国に君臨するマーロン・ブランドは、スキンヘッドの異様な出で立ち。登場シーンは影や逆光を多用した映像で、怪物と化したカーツ大佐を象徴する。CG(コンピューター・グラフィクス)のない時代、物量作戦でベトナム戦争を再現したコッポラの破壊力もさることながら、米アカデミー賞を受賞した撮影監督、ヴィットリオ・ストラーロの映像美を再確認できる。

 ドアーズの「ジ・エンド」、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」など、既存の音楽の使いた方が非常にうまく、作品と切っても切れない印象を残した。40年を超えて復活した「ファイナル・カット版」は、IMAXの迫力映像と音響により、改めて作品世界にどっぷりひたれるだろう。

(文・藤枝正稔)

「地獄の黙示録 ファイナル・カット」(2019年、米国)

監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランド、マーティン・シーン、ロバート・デュバル、ローレンス・フィッシュバーン、ハリソン・フォード、デニス・ホッパー

2020年2月28日(金)、IMAX全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://cinemakadokawa.jp/anfc/

作品写真:(C)2019 ZOETROPE CORP. ALL RIGHTS RESERVED.
posted by 映画の森 at 23:49 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月07日

「マザーレス・ブルックリン」NYの闇、フィルムノワールの香り エドワード・ノートン19年ぶり監督作

1.jpg

 1957年、米ニューヨーク。私立探偵のライオネル・エスログ(エドワード・ノートン)は、障害を抱えながら、驚異の記憶力を持っていた。恩人であり唯一の友人でもあるボスのフランク・ミナ(ブルース・ウィリス)が殺され、フランクは事件の真相を追い始める。ウイスキーの香り漂うハーレムのジャズ・クラブから、マイノリティーが集うブルックリンのスラム街へ。わずかな手がかりと勘、行動力で大都会の闇に迫っていく──。

 ジョナサン・レセムの原作を「真実の行方」(96)、「ファイト・クラブ」(99)のエドワード・ノートンが監督した。脚本、製作、主演も兼ねた犯罪劇だ。共演に「ダイ・ハード」(88)のブルース・ウィリス、「美女と野獣」(2017)のググ・バサ=ロー、「レッド・オクトーバーを追え!」(90)のアレック・ボールドウィン、「永遠の門 ゴッホの見た未来」(18)のウィレム・デフォー。豪華な顔ぶれだ。

 孤児のライオネルを拾い、父親のような存在だった探偵事務所の主・フランクが殺される。残された探偵たちは、フランクを陥れた犯人を探そうと動き出す。しかし、街の暗部に触れてしまったライオネルの前に、巨大な権力が立ちはだかる。

2.jpg

 原作の時代設定である1999年が1957年に変更され、フィルムノワールの香り漂う探偵ものに仕上がった。主演のノートンがいい。ライオネルはトゥレット症候群(字幕で「チック症」)を持ち、時おり感情が抑えきれず、大声でさまざまな単語を発してしまう。同僚には「フリークショー(見世物小屋)」と揶揄される始末だ。一方で、異常なまでに記憶力が良い。チック症でくせの強い話し方だが、脳内の独白は冷静で滑らか。頭脳明晰ぶりがうかがえる。

 フランクを亡くしたライオネルの良き理解者になるのが、捜査中に知り合った黒人女性ローラ(ググ・バサ=ロー)だ。父親がジャズクラブを経営しており、ライオネルの心はローラの存在と熱いジャズの響きに解放させる。音楽を担当したダニエル・ペンバートンがうまい。モダンジャズ、ビバップ、ビッグバンド、ジャズオーケストラなど、シーンによって使い分けて盛り上げる。

3.jpg

 1957年のジャズ界は、ビバップ全盛だった。トランぺッターのマイルス・デイビスがパリに招かれ、ルイ・マル監督「死刑台のエレベーター」(58)のサントラを手掛けた。「マザーレス・ブルックリン」に登場するトランぺッターは、マイルスがモデルだろう。吹き替え演奏したのは、米の大御所ウィントン・マルサリス。マイルスが「モード奏法」を生み出す前夜、57年当時の熱いジャズシーンを再現している。監督こだわりのシーンに注目してほしい。

 ノートンにとって「僕たちのアナ・バナナ」(00)以来の19年ぶり監督2作目。自身が演じた特異なキャラクター、ライオネルが物語をかみ砕き、バランスの取れた良作になった。

(文・藤枝正稔)

「マザーレス・ブルックリン」(2019年、米国)

監督:エドワード・ノートン
出演:エドワード・ノートン、アレック・ボールドウィン、ブルース・ウィリス、ググ・バサ=ロー、ウィレム・デフォー

2020年1月10日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://wwws.warnerbros.co.jp/motherlessbrooklyn/index.html

作品写真:(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

posted by 映画の森 at 23:59 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月29日

「ゾンビ」日本初公開復元版 ホラー映画の金字塔、40年経て蘇る幻のバージョン

1.jpg

 ジョージ・A・ロメロ監督の傑作ホラー「ゾンビ」日本公開から40年に合わせ、日本初公開復元版が11月29日に公開された。死人が蘇り生きた人間を襲うゾンビは、今や知らない人はいないホラーの金字塔だ。映画「バイオハザード」シリーズ、ドラマ「ウォーキング・デッド」など、影響を受けたさまざまな作品が製作されてきた。

 「ゾンビ」には大きく分けて3つのバージョンが存在し、音楽や上映時間が異なる。アジアと欧州で公開された「ダリオ・アルジェント監修版」(119分)は、ライブラリ音楽を使ったほかのバージョンと違い、イタリアのプログレバンド「ゴブリン」が新たに作曲した音楽で、サバイバルホラー的な面が濃厚だ。このほか、1985年に北米で公開された「米国劇場公開版」(127分)、94年に日本で世界初公開された「ディレクターズカット版」(139分)が存在する。

2.jpg

 今回の「ゾンビ」日本初公開復元版は、「ダリオ・アルジェント監修版」をベースに、ゾンビを知らない日本人のため、当時の配給会社が独自に編集に手を加えた幻のバージョンを復元したものだ。

 米国でゾンビが発生して3週間後、カオスと化したテレビ局のスタジオで物語は幕を開ける。ゾンビの発生になすすべなく、堂々巡りの対話をする解説者、放送を続けるいらだつスタッフ。舞台はゾンビの巣と化したプエリトリコ人のアパートへ。住民とSWAT(警察特殊部隊)との銃撃戦の途中、ゾンビが出現。SWAT隊員とゾンビの対決となる。

3.jpg

 しかし、当時の日本の配給会社は、独自の判断で設定を変えてしまった。冒頭に別の映画の映像を借用。タイプ打ちした「爆発した惑星から光線が降り注ぎ死者が蘇った」との英文を表示したのだ。さらに、残酷シーンを静止画で処理し、本来は満載だったスプラッター描写を減らしている。本編の一部もカッとし、エンドロールは黒地に音楽が流れるだけ。観客を突き放した形の幻のバージョンだった。

 40年前に作られたこの「日本初公開版」は、原盤が廃棄されてしまい、今は見られない。そこで今回は冒頭の惑星爆発映像とタイプ打ちの英文をCGで再現。当時のファンが書き留めていた日本語字幕を参考に、動画サイトにアップされたテレビ放送映像を頼りに、忠実に編集して蘇らせたという。

 消費社会の象徴である巨大ショッピングモールを舞台に、ゾンビと死闘を繰り広げる男女4人。さらに戦闘のプロであるSWAT隊員2人を配置した。モールに侵入してきた暴走族を、物欲と独占欲にかられた主人公が迎える。果てしなく消費する現代社会への警鐘だろう。ベトナム戦争に参戦したトム・サビーニが担当した特殊メークは、後のスプラッター・ホラーの指針となるクオリティーだ。

 40年前にリアルタイムで見たファン、まだ未見の最近のファン。「ゾンビ」好きなら必見のマニアックな作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ゾンビ」日本初公開復元版(1978年、米・伊)

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デビッド・エムゲ、ケン・フォリー、スコット・H・ライニガー、ゲイラン・ロス、トム・サビーニ

作品写真:(C)1978 THE MKR GROUP INC. All Rights Reserved.
posted by 映画の森 at 15:31 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月27日

「ヘルボーイ」異色のアメコミ・ダークヒーロー 血しぶき多めで刺激的に

1.jpg

 紀元517年、暗黒時代のイングランド。“ブラッドクイーン”こと、魔女ニムエ(ミラ・ジョボビッチ)は疫病を拡散させ、世界を手に入れようとしたが、アーサー王の聖剣エクスカリバーに野望を断たれる。バラバラにされたニムエの死体は、人里離れた地に封印された──。

 マイク・ミニョーラ原作のコミック「ヘルボーイ」は、ギレルモ・デル・トロ監督の手により「ヘルボーイ」(04)と「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」(08)の2作品として映画化された。監督はニール・マーシャル。「ドッグ・ソルジャー」(02)の鬼才が「ヘルボーイ」を現代に復活させた。原作者ミニョーラが製作総指揮、脚本にも参加したという。

 ハリウッドのアメコミ・ヒーロー映画は、一つのジャンルとして確立している。「スーパーマン」や「バットマン」で知られる“D.C.コミックス”と、「アベンジャーズ」で知られる“マーベル・コミック”が、しのぎを削りあうように大ヒット作を立て続けに製作してきた。

2.jpg

 そんな2強ブランドと一線を画す異色の存在が“ダークホースコミックス”の「ヘルボーイ」だ。地獄の悪魔の子として生まれ、人間に育てられたダークヒーローは、善にかえったものの、体に流れる悪の血に苦しみ、何かの拍子に悪魔に戻る。極秘の超常現象調査防衛局(B.P.R.D.)のエージェントとして、悪魔の力を駆使して人間界を守っている。

 ヘルボーイの敵が魔女ニムエだ。人間への復讐心に突き動かされて、1500年の時を超えて復活し、疫病をまき散らし、世界征服を目論む。イノシシのような獣人グルアガッハを従え、地球の女王として君臨しようとする。「女王には王が必要」と、白羽の矢を立てられたヘルボーイは、魔女ニムエと戦い始める。

3.jpg

 騎士道物語「アーサー王と円卓の騎士」を巧みに取り入れながら、地球を守る悪魔の子と、地球征服を狙う魔女の戦いを、VFX満載で描いたダークファンタジーだ。一方、見たこともない様な巨大モンスターやクリーチャーが登場。モンスター映画の一面も持っている。

 デル・トロ版でヘルボーイを演じたロン・パールマンも凄い存在感だったが、今回のハーバーもいい。善と悪の間で揺れる新生ヘルボーイとして、申し分のない役作り。魔女ニムエには「バイオハザード」シリーズのミラ・ジョボビッチ。適役である。悪魔と対等に戦える最強の女優で、最高のキャスティングだ。

 監督のニール・マーシャルはホラー映画「ディセント」(05)、「マッドマックス」に通じる荒廃した近未来アクション映画「ドゥームズデイ」(08)というジャンル映画で頭角を現した。ダークヒーローとクリーチャーとの戦いをえげつなく描いた。D.C.コミックスやマーベルコミックとはまた一味違う、血しぶき多めで刺激的なアメコミ・ヒーローの快作だ。

(文・藤枝正稔)

「ヘルボーイ」(2019年、米)

監督:ニール・マーシャル
出演:デビッド・ハーパー、ミラ・ジョボビッチ、イアン・マクシェーン、サッシャ・レイン

2019年9月27日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hellboy-movie.jp/

作品写真:(C)2019 HB PRODUCTIONS, INC.

posted by 映画の森 at 15:49 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする