2017年06月03日

「ラプチャー 破裂」嫌いなもの与え続ける責め苦 拉致監禁からSFへ展開 個性的ホラー

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 「ミレニアム」シリーズ、「プロメテウス」(12)のノオミ・ラパスが主演したSMホラー映画「ラプチャー 破裂」。「セクレタリー」(02)、「毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレート」(06)のスティーブン・シャインバーグが監督、原案、製作を担当した。

 シングルマザーのレネー(ノオミ・ラパス)は、12歳の息子と暮らしている。洗面所で大嫌いなクモに遭遇し、絶叫して慌てふためく。取り乱す母を横目に、息子は冷静にクモを外へ逃がす。どこにでもある日常風景だが、なぜか監視カメラが一部始終をとらえていた。

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 レネーはスカイダイビングをするため、友人との待ち合わせ場所へ車を走らせていた。レネーの車のタイヤがパンクしたところへ、見計らったようにバンが近づき、運転手の男が助け舟を出す。しかし、男は突然スタンガンでレネーを気絶させ、バンに押し込み走り出す。到着したのは紫色の照明に包まれた研究所のような建物だった──。

 女性を拉致監禁し、嫌いなものを与え続ける人体実験。悪趣味なSM監禁ホラーである。「コレクター」(65)、「羊たちの沈黙」(91)、「ソウ」(04)などの監禁映画で犯人は単独行動だったが、今回は複数の人間が犯罪にかかわっている。全米から人を拉致し、さまざまな責め苦を与え、何かを探っている。異様な集団の目的は何か。中盤から加わるSF的解釈が転機になる。

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 拉致監禁から始まった話は、地球侵略のストーリーへ変貌する。前半から中盤への緊張感から一転、意表をついた落としどころは賛否が分かれそうだ。レネーが連れて行かれる施設の壁紙がスタンリー・キューブリック監督「シャイニング」(80)のホテルのじゅうたんと同じ模様であるあたり、監督は自分の好きなものを詰め込んだ様子。さまざまな発見がある一方、突っ込みどころも満載だ。ホラー、SF好きは十分楽しめるだろう。

(文・藤枝正稔)

「ラプチャー 破裂」(2016年、米・カナダ)

監督:スティーブン・シャインバーグ
出演:ノオミ・ラパス、ピーター・ストーメア、レスリー・マンビル、ケリー・ビシェ、マイケル・チクリス

2016年6月3日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/rupture/

作品写真:(C)2016 Rupture CAL, Inc
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2017年05月10日

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」すべてを失った男、絶望と再生の物語 ケイシー・アフレック好演

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 主人公のリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)は、米国ボストン郊外で便利屋として働いている。水漏れ修理やペンキ塗りなど、何でも器用にこなし重宝がられているが、無愛想でけんかっ早く、トラブルもしょっちゅうだ。そんなリーが、かつて暮らしていた町、マンチェスター・バイ・ザ・シーに帰ってくる。兄のジョー(カイル・チャンドラー)が急死し、甥のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人に指名されたからだ。

 リーはこの町で生まれ育った。結婚して子供も3人いた。幸せな生活だった。ところが、ある事件をきっかけにすべてを失い、故郷の町を去って行く。それほど悲痛な事件とは何だったのか。答えを明かさないまま、物語は進んでいく。

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 リーが町を去った当時は幼い少年だったパトリックも、いまは高校生。アイスホッケーとバンド活動に夢中な普通の若者だ。リーの脳裏にかつてパトリック、ジョーの父子と3人で海釣りをした思い出がよみがえる。

 父親代わりとして、パトリックの面倒を見るリー。付き合っている彼女のことなど、親身になってパトリックにアドバイスする。事件以来、他人を寄せ付けなかったリーの固い心がしだいにほぐれていく。だが、心に巣食うトラウマはそう簡単に消えるものではない。

 映画は現在と過去を交差させながら、傷ついたリーの内面に迫っていく。圧巻はついに事件の真相が明かされるシーンだ。悲劇的予感をはらんだ音楽が流れ、観客は徐々に恐るべき瞬間へといざなわれる。そして映し出される、あまりに残酷で非情な光景。耐え難い現実を前に、リーは呆然と立ち尽くし、人格は崩壊する。

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 ここからいかにしてリーは再生を果たしていくのか。故郷を離れても癒えることのなかった傷が、帰ってきた町で甥と交流する中で、どれほど回復していくのか。決して楽観的なストーリーではない。予定調和のハッピーエンドとは無縁だ。だからと言って、全編が暗いトーンに覆われているわけでもない。ユーモアもふんだんに詰まっている。絶望のふちにも希望の光は差し込むのである。

 この映画が見る者の心をとらえるのは、単純に割り切ることのできない人生を、真正面から見つめ、ごまかしのないやり方で、ありのままに描き出しているからだろう。隅々まで血の通った脚本が秀逸。リーに扮したケイシー・アフレックの演技が出色である。アカデミー賞、ゴールデングローブ賞など、主要映画賞を席巻したのもうなずける。

(文・沢宮亘理)

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年、米国)

監督:ケネス・ロナーガン
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ、カーラ・ヘイワード

2017年5月13日(土)、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.manchesterbythesea.jp/

作品写真:(c)2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.
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2017年04月02日

「はじまりへの旅」森で暮らす風変わりな家族 父と子6人の破天荒ロードムービー

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 米北西部の森で暮らす風変わりな家族が主人公のロードムービー「はじまりへの旅」。監督のマット・ロス自身の子供時代の体験をもとにしているという。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した。

 厳格な父のベン(ビゴ・モーテンセン)は、独自の教育方針に基づき子供6人を育てていた。18歳の長男ボウドヴァン(ジョージ・マッケイ)は、ナイフ1本で野生の鹿を仕留める。家族は鹿を解体し、その夜のごちそうとして食べる。森でサバイバル生活を送る家族は、哲学者のノーム・チョムスキーを崇拝している。資本主義を否定し、自給自足の生活。本で文学や哲学を学んだ子供たちは6カ国語に通じ、強靭な体力を誇る。ボウドヴァンは名門大学に次々合格するほどだ。

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 文明社会に触れない毎日を送る家族のもとに、ある日突然訃報が入る。長期入院中の母レスリーが亡くなったのだ。葬儀に出るため、父子は改造バスに乗り、2400キロ離れたニューメキシコ州を目指す。仏教徒だった母の願いを尊重し、父子は奇想天外な行動を起こす。

 一行の行動は奇妙だ。腹をすかせて入った食堂で、食事をすべて「毒」とみなす。スーパーへ行けば「食材の救済」と称して大量の食べ物を万引きする。家族の理解者であるベンの妹夫妻の家に泊めてもらうが、あまりに常識はずれのため対立する。ボウドヴァンはキャンプ場で知り合った少女に恋をし、プロポーズまでするが振られてしまう。葬儀にはド派手な衣装で参列し、ベンと妻の父ジャック(フランク・ランジェラ)は激しく衝突する。

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 ネットなど最新技術と無縁の家族をコミカルに描写しつつ、現代人が持つ自然への憧れも浮かび上がらせる。母と子の生前の姿を回想するシーンがあってもよかったが、モーテンセン演じる型破りだが繊細な父親、個性豊かな子供たちの演技に魅せられる。便利すぎる社会に慣れた人々へ、皮肉を込めた独創的作品だ。

(文・藤枝正稔)

「はじまりへの旅」(2016年、米国)

監督:マット・ロス
出演:ビゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、ジョージ・マッケイ、サマンサ・アイラー、アナリース・バッソ

2017年4月1日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで、

http://hajimari-tabi.jp/

作品写真:(C)2016 CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
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2017年02月24日

「ラ・ラ・ランド」人生の夢と希望、甘さと苦さ 50年代ミュージカル形式で描く

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 女優の卵とジャズピアニストとの恋を、ミュージカル仕立てで描いた「ラ・ラ・ランド」。高速道路上で繰り広げられる冒頭の群舞シーンから、1950年代ミュージカルのテイストがあふれ、目を引き付ける。俳優たちの歌い踊る姿や表情も、古き良き時代の雰囲気たっぷりだ。「キャロル」(15)や「ブルックリン」(15)などと同じ、50年代を舞台にした“レトロムード”な作品かと一瞬思う。しかし、違った。

 時代は現代、場所はロサンゼルス。登場人物はケータイを所有し、ファッションもイマ風である。要するに、今日の男女の恋物語を、50年代ミュージカルのスタイルで撮った映画なのだ。

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 だが、50年代ミュージカルといえば、歌も踊りも超一流。圧倒的なテクニックを備えたスターたちが、最高のパフォーマンスで観客を魅了したもの。主演のライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが、どこまでその境地に迫り得ているのか。

 フレッド・アステアやジーン・ケリー、シド・チャリシーやレスリー・キャロン。もちろん彼らの美技・神技には及ばない。とはいえ、数分間もの長回しに耐えるダンスの完成度は十分称賛に値する。ジャズピアニスト役のゴズリングの演奏シーンも吹き替えなし。たった3カ月の特訓でものにしたというから大したものだ。

 場面転換ごとに一変する服装。画面を彩るカラフルな色彩。いかにもミュージカルらしい楽しさ、華やかさが横溢(おういつ)している。若い男女が互いに夢を追いながら、励まし合い、愛し合う、青春の喜びに満ちたラブストーリー。

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 ところが、終盤から様相が変わる。2人の人生を揺るがす大きな転機が訪れ、物語にサスペンスの色合いが加わっていく。2人は夢を実現できるのか。幸福を手にできるのか。答えを出さないまま、映画は5年後のエピローグに飛ぶ。

 ここから本作は、ハッピーなミュージカルから厳しいリアリズムの世界に移行。2人の運命がドラマティックに紹介される。ともにゴールデングローブ賞を受賞したゴズリングとストーン。その視線の演技に注目したい。人生の苦味、酸味を凝縮したようなラストの数分間は圧巻だ。

 監督は、「セッション」(14)で脚光を浴びたデイミアン・チャゼル。単なる50年代ミュージカルへのオマージュに終わらせず、ずしりと心に響く人間ドラマに仕立て上げた手腕はさすがである。

(文・沢宮亘理)

「ラ・ラ・ランド」(2016年、米国)

監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、ソノヤ・ミズノ、J・K・シモンズ

2017年2月24日(金)、TOHOシネマズみゆき座、TOHOシネマズシャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/lalaland/

作品写真:(c)2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.
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2017年02月20日

「ラ・ラ・ランド」夢の街で出会った男女 歌と踊りで紡ぐ甘くほろ苦い人生 オスカー14部門候補の話題作

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 夢追い人が集まる米ロサンゼルス(L.A.)。女優を目指して映画スタジオのカフェで働くミア(エマ・ストーン)は、オーディションに落ちるばかり。ある夜、場末のバーでピアノを引くセブ(ライアン・ゴズリング)に出会う。前作「セッション」が注目を集めたデイミアン・チャゼル監督の最新作。米ゴールデングローブ賞7部門を制し、米アカデミー賞も14部門で候補となっている話題作だ。

 「ラ・ラ・ランド」はロスのハリウッド周辺地域の愛称で、「ハイになり陶酔する」、「夢の国」を意味するという。ハリウッドのミュージカル映画は1950〜70年代が最盛期。「シカゴ」(02)や「マンマ・ミーア!」(08)のように最近多い舞台の映画化ではなく、久しぶりに完全オリジナルなミュージカル作品だ。

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 チャゼル監督が目指したのは、仏ミュージカルの名作「シェルブールの雨傘」(64)、「ロシュフォールの恋人たち」(67)で知られるジャック・ドゥミ監督へ壮大なオマージュを捧げることだろう。せりふをすべて歌でつづった切ない恋愛劇「シェルブールの雨傘」に、男女の出会いと別れを歌い上げた「ロシュフォールの恋人たち」を重ね、ドゥミ監督の遺作「想い出のマルセイユ」(88)を隠し味に使っている。

 ドゥミ作品は原色の衣装や背景が視覚に訴え、ジャズベースのビッグバンドや甘いメロディーが耳を刺激する。そんなスタイルをチャゼル監督は現代の技術で再現した。ドゥミ作品を多く手がけたミシェル・ルグランの作曲法を徹底的に研究したようだ。ミアが演じる一人芝居の主人公“ジュヌヴィエーヴ”は「シェルブールの雨傘」の主人公と同じ。ドゥミ作品で特徴的に使われる画面転換法「アイリスイン&アウト」(黒字に丸枠が閉じて広がる表現)まで使われている。

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 プロローグ。高速道路で渋滞に巻き込まれた人々が、ワンカットで歌い踊る。高揚感あふれる幕開けだ。二人の出会いを描いた「冬」に始まり、四季でエピソードを区切りつつ、物語は進んでいく。男女が愛を育む過程が、シンプルな歌と踊りで語られ、監督は最後に「もう一歩」踏み込む。

 エピローグ。渋滞に巻き込まれたミアは、運命に導かれてたどり着いた場所で、「もしも」に裏打ちされたもう一つの人生を夢想する。「シェルブールの雨傘」のラストを観客に予感させ、さらに一歩踏み込んだことで、極上の深みが加わり、心地よい余韻が引き出された。ゴズリングは3カ月でピアノをマスターし、プロ級の腕前を披露している。歌と踊りを吹き替えなしで演じたゴズリング、ストーンが素晴らしい。

 同じ音楽を取り上げた「セッション」で、カリスマ教師のしごきで神経をすり減らす主人公の狂気を描いたチャゼル監督。今回は一転、ハリウッドが忘れていたミュージカルの夢を抜群のセンスで復活させた。美しい歌と踊りが高揚感を生み、ミュージカルの新たな可能性と醍醐味を存分に感じられる秀作だ。

(文・藤枝正稔)

「ラ・ラ・ランド」(2016年、米国)

監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、キャリー・ヘルナンデス、ジェシカ・ローゼンバーグ、ソノヤ・ミズノ

2017年2月24日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/lalaland/

作品写真:Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
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