2017年10月23日

第22回釜山国際映画祭(2) 中山美穂、新作「蝶の眠り」でレッドカーペット キム・ジェウク共演の純愛作品

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 第22回釜山国際映画祭は、招待作品約300本のうち41本が合作を含む日本映画だった。映画祭の運営側と行政の対立がいまだ解消されていないため、韓国の一部の映画人は今年もボイコットを続け、スター不在の映画祭とも揶揄(やゆ)された。そんな中、日本から大勢のスターが釜山を訪れ、祭りを盛り上げるのに一役買った。

 韓国で「ラブレター」(95)の記憶がいまだ鮮烈な中山美穂は、新作「蝶の眠り」でレッドカーペットを歩き、ファンやメディアの熱い視線を浴びた。

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 「蝶の眠り」は、遺伝性の認知症に侵された人気作家の涼子(中山美穂)と、韓国から来た留学生チャネ(キム・ジェウク)の年齢を超えた純愛がテーマ。悲劇的運命を知りながらも自分を見失わない、自立した女性の強さを、中山が感情を抑制した演技で表現する。

 「子猫をよろしく」(01)のチョン・ジェウン監督を迎えて日本で撮影された。監督はここ数年、建築と都市空間をテーマにしたドキュメンタリーの製作に打ち込んでおり、劇映画の演出は12年ぶり。韓国では男性的な映画が全盛で女性が主人公の映画は多くないが、監督は「女性監督なので女性を描くのには自信がある」と完成度に自信をにじませた。

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 監督は当初から主演に中山を想定していたといい、会見で「中山が引き受けてくれたからこそ作れた映画」と感謝を伝えた。言葉が通じない環境での演出には不安もあったが、「俳優の選択と表現を信じた」。チャネ役のキム・ジェウクはネイティブレベルの日本語がキャスティングの決め手になった。監督が通訳以外で唯一、韓国語で会話ができる存在だったため、現場では心の支えになったという。

 韓国で「ラブレター」が封切られたのは、日本の大衆文化が解禁された直後の1999年。幻想的な雪景色を背景にしたラブストーリーは一大ブームを巻き起こし、中山の劇中のせりふ「お元気ですか」は流行語になった。13年と16年にもリバイバル上映され、人気は根強い。中山は会見で「ラブレター」がいまだに韓国人の記憶に残っていることを問われ、「長く愛されているのは作品の力。恩恵を受けてありがたい」と話した。

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 徐々に記憶を失っていく「蝶の眠り」の役どころについては「実際には病気ではないので本当の気持ちは分からなく、難しかった。監督の考えている世界を演じられるように努力した」と振り返った。また、キム・ジェウクについては「感情を大事にしてそれを演技にぶつけてくる。その情熱に応えたいという気持ちで演じた」と話し、「先が楽しみな俳優」と付け加えた。

 「蝶の眠り」は来春、日韓で公開予定。

(文・芳賀恵、写真・岩渕弘美 芳賀恵)

【写真】
1:レッドカーペット 中山美穂×キム・ジェウク
2:記者会見 中山美穂×チョン・ジェウン監督
3:トークイベントでムン・ソリと登壇した中山美穂=いずれも同映画祭で
4:「蝶の眠り」場面写真=同映画祭事務局提供

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2017年10月19日

「あゝ、荒野」菅田将暉&ヤン・イクチュン、熱くぶつかり「胸いっぱいに」

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 寺山修司原作の映画「あゝ、荒野」前編が2017年10月7日公開され、東京・丸の内で主演の菅田将暉、ヤン・イクチュンら出演俳優と岸善幸監督が舞台あいさつした。

 原作の舞台を近未来の新宿に移し、純粋で無鉄砲な性格の新次(菅田)と、引っ込み思案で吃音に悩む研二(ヤン)が、運命に導かれるように出会い、ぶつかり合う過程を描く。前・後編合わせて305分の長編だ。

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 観客の掛け声の中、ボクシングの試合を思わせる呼び込みで登場したヤンと菅田。菅田は慣れない演出に照れながら「本編では照れずにやってます。楽しんでください」と挨拶。ヤンも「あふれるエネルギーの渦に巻き込まれると思います」と誇らしげに語った。

 ボクサーとして二人を育てるトレーナー役のユースケ・サンタマリアは「昨年ひと夏撮影をした日々がよみがえり、泣くのをこらえるのに必死です」と感慨深い様子。新次のライバルを演じた山田裕貴は「参加していても衝撃で、役を生きたと思える。皆さんの心を揺さぶり、ノックアウト間違いなし」と語った。

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 岸監督は「ボクシングシーンも濡れ場も激しい映画。出演者は美しい肉体をさらけ出して頑張ってくれた。この映画に込めた愛を感じてもらえればうれしい。ボクシング映画でもあり、ラブストーリーでもある」と語った。

 305分の長編。ヤンは「初めは短い一本の映画だと思っていた。前編、後編になると撮影の途中で知りました」と話すと、菅田に「3カ月も撮影していたら気づくでしょ。なんで誰も教えなかったの?」と突っ込みを入れられる一幕も。

 ヤンは「500分を超えても飽きないと思う」と自信を示し、菅田は「岸監督は編集が好きな人。70時間撮ったものを何とか5時間に収めた」と明かした。監督も「あと2時間は長くしたかった」と語るなど思いは尽きない様子だった。

 韓国映画「息もできない」で強面のイメージのあるヤン。高橋が「ヤンさんのかわいさにスタッフが惚れてました」と話すと、菅田も「途中からこの映画はヒロインが芳子(木下あかり)とバリカン(ヤン)の二人なのかなと思った」と話して場内を沸かせた。

 最後に「胸がいっぱいになる作品。素晴らしい原作、素晴らし俳優、素晴らし撮影を経て、いい作品が生まれた」とヤン。菅田は「かかわった人の思いがこんなに熱いことはない。平成の時代にもそういう輪が広がることがあるんだなと嬉しく思う」と観客に語りかけた。

(文・写真 岩渕弘美)

「あゝ、荒野」(2017年、日本)

監督:岸善幸
出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、木下あかり、モロ師岡、高橋和也

2017年10月7日(土)前編、10月21日(土)後編、新宿ピカデリーほかで2部作連続公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kouya-film.jp/

作品写真:(c)2017「あゝ荒野」フィルムパートナーズ

フォトセッション 左から 岸善幸監督 木村多江、ユースケ・サンタマリア、ヤン・イクチュン、菅田将暉、木下あかり、高橋和也、山田裕貴

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2017年10月15日

第22回釜山国際映画祭2017、今年も盛大に 日本から有村架純らも参加

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 アジア最大級の映画祭「第22回釜山国際映画祭2017」が、韓国・釜山市で開催されている。同市海雲台地区の「映画の殿堂」で行われたオープニング・セレモニーでは、国内外のスターが次々にレッドカーペットを歩いて祭りに華を添えた。21日まで76カ国・地域の約300本の映画を上映する。

 レッドカーペットには開幕作「ガラスの庭園」のシン・スウォン監督と主演のムン・グニョン、司会を務めるチャン・ドンゴンと「少女時代」のユナらが登場。秋雨が降る肌寒い気候のなか、観客の熱い歓声が響いた。「ナラタージュ」の行定勲監督と有村架純、「彼女がその名を知らない鳥たち」の白石和彌監督と蒼井優が姿を見せると会場からひときわ大きな声援が送られていた。

有村架純、行定勲監督.jpg ムン・グニョン、シン・スウォン監督.JPG

 今年は日本映画が合作を含め41本に上り、外国映画では最大となる。「あゝ、荒野」(岸義幸監督)や「アウトレイジ」(北野武監督)など話題作も上映される。

 釜山映画祭は、2014年の政権批判のドキュメンタリーの上映をきっかけに映画祭と釜山市が対立し、昨年は組織改編を経て中断の危機を免れた。今年のセレモニーには昨年不参加だったソ・ビョンス釜山市長が出席して和解をアピールした。

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ムン・グニョン、大人への脱皮
 開幕作「ガラスの庭園」は、葉緑体を使った人工血液を研究する女性が、後輩の女性に研究テーマと愛する男性を奪われ、森の中に閉じこもる物語。スランプ中の作家が偶然知った彼女に興味をもち、森での暮らしを盗み見て連載小説を書きはじめるが、やがて作家は衝撃的な光景を目撃する。

 2010年の東京国際映画祭で「虹」が最優秀アジア映画賞を受賞したシン・スウォン監督の新作。幻想的な森を舞台に、ファンタジーとミステリーの要素を巧みに織り込んだ。韓国で「国民の妹」と呼ばれる子役出身のムン・グニョンが愛らしい子役のイメージから脱皮し、ひたむきな女性の強さと危うさを繊細な感性で演じた。

(文・芳賀恵、写真・岩渕弘美) 
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2017年10月03日

「パーフェクト・レボリューション」困難に挑む“最強のふたり” 愛は障害を乗り越えるか

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 幼少時に患った脳性麻痺のせいで、手足が思うように動かせない男、クマ(リリー・フランキー)。体こそ不自由だが、性欲は旺盛だ。エロ本を買いに書店へ行けば、女性店員のスカートの中や胸の谷間を凝視。自宅には自慰に使う“テンガ”がゴロゴロ。クマはそんな自分のスケベさを恥じるどころか、積極的に公表し、障害者への偏見をなくす啓蒙活動をしている。

 クマに共感し、恋心をいだくのが、風俗嬢のミツ(清野菜名)だ。直情径行型のミツは、講演会で話すクマに一目惚れし、その場で猛烈アタック。最初は迷惑がるクマだったが、やがて情にほだされ、相思相愛に。

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 長年クマの介助を担ってきたヘルパーの恵理(小池栄子)、親代わりにミツの世話をしてきた占い師の晶子(余貴美子)。少数ながらよき理解者のサポートを得て、交際を続ける二人だったが、現実は甘くない。

 実はミツには人格障害があり、感情が不安定。ちょっとしたことで、自分や他人を攻撃し傷つける危険性を秘めている。世間の無理解や、好奇の目に加え、彼女の暴発も、二人にとっては高いハードルだ。これらの障壁を二人は乗り越えられるのか。幸せをつかむことができるのか――。

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 脳性麻痺をかかえる市民活動家、熊篠慶彦の実話をベースにしたフィクションである。クマとミツとのラブストーリーを軸に、彼らを取り巻くさまざまな人々との関わりも描かれる。その中で垣間見えてくるのが、彼らの人生の闇の部分だ。テレビ局からの取材に「両親から愛されて育った」と嘘をつくミツ。クマの父親の法事の席で、「クマの世話に明け暮れ人生を犠牲にした」と告白する親族。

 天真爛漫に見える二人だが、実は心に屈託をかかえており、葛藤にもだえている。全体にポップでユーモラスな演出が貫かれているからこそ、随所に露呈するリアルな現実が、見る者の心に突き刺さる。「ぐるりのこと。」(2008年)、「凶悪」(2013年)のリリー・フランキー、「TOKYO TRIBE」(2014年)の清野菜名。ともに全身全霊の熱演で、深い感動を誘う。

 監督は「まだ、人間」(92年)、「最後の命」(2014年)の松本准平。シリアスな作風から一変した印象だが、追求されているテーマは一貫しているように思える。すなわち「人間はみな平等で、互いを分け隔てる壁など存在しない」という信念だ。本作中の「生まれも、性別も、職業も、能力も、お金も、年齢も、幸せには関係ない」というミツのセリフに、それは集約されている。

 障害者だからと手心を加えるのではなく、同じ人間として対等に向き合い、接すること。同情は無用。必要なのは、共感すること、共鳴すること。重要なのは、同じ高さで見つめ合うこと。クマとミツのラブストーリーは、そんな信念の上に成立しているのである。

(文・沢宮亘理)

「パーフェクト・レボリューション」(2017年、日本)

監督:松本准平

出演:リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音、余貴美子

2017年9月29日(金)、TOHOシネマズ新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://perfect-revolution.jp/

作品写真:(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会
タグ:レビュー
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2017年09月27日

「ユリゴコロ」初日舞台あいさつ 吉高由里子「引きずられ、摩耗した作品。涙を絞り出した」

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 沼田まほかるのベストセラー小説を映画化した「ユリゴコロ」が2017年9月23日公開され、東京・新宿で主演の吉高由里子、松坂桃李、佐津川愛美、清野菜名、清原果耶、熊澤尚人監督が舞台挨拶した。

 松坂桃李演じる亮介が、父の部屋であるノートを発見。記された「殺人者の告白」の真相に迫る。過去と現在、愛情が絡み合い、真実にたどり着くサスペンスだ。絶望的な喪失感を抱えながら生きる主人公の美紗子を、吉高由里子が体当たりで演じている。

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 吉高は上映後「自分が引きずられ、摩耗した作品。多くの人に見てもらいたい」とあいさつ。最後のシーンは「2日かかって撮影した。こめかみが切れるんじゃないかと思うくらい涙腺を絞り出して、ずっと泣いていた。毎カット、毎カット、本当に大変だった」と振り返った。

 一方、現在のパートで亮介を演じた松坂。出来上がった作品をみて「過去のパートにも出演したかった。過去と現在は静と動。静かな流れの中で動いていく過去パート。感情と空気感を肌で感じたかった」と話した。

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 熊澤監督は「見終わって言葉にできない人、揺さぶられてる人がいると思う。主人公は矛盾と葛藤しながら生きていく。見終わって一日引っ張ると思う」と熱く語った。

 さらに熊澤監督は「吉高さんなくしては『ユリゴコロ』は作れなかった。血と涙を流しながら熱演してくれた。彼女の100年残る代表作だと思っている」と締めくくった。

(文・写真 岩渕弘美)

「ユリゴコロ」(2017年、日本)

監督:熊澤尚人
出演:吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ、佐津川愛美、清野菜名

2017年9月23日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://yurigokoro-movie.jp/

作品写真:(C)沼田まほかる/双葉社 (C)2017「ユリゴコロ」製作委員会
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