2017年12月08日

第18回東京フィルメックス ジャック・ターナー特集「私はゾンビと歩いた!」「夕暮れのとき」

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 第18回東京フィルメックス(2017年11月18〜26日)「ジャック・ターナー特集」では、没後40周年を迎えたターナー監督の「私はゾンビと歩いた!」(43)と「夕暮れのとき」(56)が、ともに35ミリフィルムで上映された。

 「私はゾンビと歩いた!」は、「キャット・ピープル」(42)に続きターナー監督が再びヒットさせたホラー映画。南国ハイチの豪邸で住み込みの看護婦として働くことになったカナダ人のヒロインが、病に伏せる当主の夫人を治療する過程で経験する不気味な出来事を、美しいモノクロ映像の中に描いた作品だ。 精神を患った夫人の奇怪な行動、当主と弟との確執、当主の母親とブードゥー教との関わりなど、ミステリアスな要素が絡み合い、サスペンスを盛り上げていく。

 雪の降り積もるカナダと、太陽の降り注ぐハイチ。支配する白人と、隷属する黒人。寡黙で内向的な兄と、饒舌で社交的な弟。そして生と死。ストーリーは決して単純ではないものの、二項対立の構成にインパクトがあり、最後まで緊張が途切れない。タイトルの意味がついに不明である点など、解明されない謎も多いが、そこがまた魅力でもある。不思議な作品だ。

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 ホラー映画で有名なターナー監督だが、「過去を逃れて」(47)などフィルム・ノワールにもすぐれた作品がある。「夕暮れのとき」はその1本。レストランで美しい女と知り合った主人公が、怪しい2人組に連れ去られる。彼らは何者なのか。主人公はなぜ襲われたのか。物語が進行するにしたがって、主人公と2人組との因縁が明かされ、女の素性も分かってくる。

 冒頭シーンで主人公に話しかける男は、味方なのか敵なのか。主人公と女の運命はどうなるのか。予断を許さぬ展開、小気味よい演出、キレのあるアクション。ターナー円熟期を代表する傑作だ。

(文・沢宮亘理)

「私はゾンビと歩いた!」(1943年、米国)

監督:ジャック・ターナー
出演:フランシス・ディ、トム・コンウェイ、ジェームズ・エリソン、エディス・バレット

「夕暮れのとき」(1956年、米国)

監督:ジャック・ターナー
出演:アルド・レイ、ブライアン・キース、アン・バンクロフト、ジョスリン・ブランド、ジェームズ・グレゴリー

作品の詳細は公式サイトまで。

http://filmex.net/2017/

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2017年12月06日

「ビジランテ」地方の閉鎖社会と深い闇 父の暴力に支配される三兄弟 入江悠監督、地元を舞台に渾身の作品

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 幼い頃に失踪した長男・一郎(大森南朋)。市議会議員の次男・二郎(鈴木浩介)。デリヘル雇われ店長の三男・三郎(桐谷健太)。別々の道、世界を生きてきた三兄弟が、父親の死を機に再会。運命は交差し、欲望、野心、プライドがぶつかり合い、凄惨な方向へ向かう──。「SRサイタマノラッパー」の入江悠監督がオリジナル脚本で挑む渾身の新作。監督の地元・埼玉県深谷市で撮影された。

 兄弟の子供時代。暴力で息子たちを支配してきた父・武雄(菅田俊)を3人がナイフで切りつけ、逃げるように川を渡り、凶器のナイフを小箱に入れて埋める。追いついた父は力づくで自宅に連れ戻し、容赦なくせっかんする。耐えられなくなった一郎は弟2人を残し、行方不明となる。

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 それから30年。二郎は地元の有力者だった父の跡を継ぐように議員となり、街の自警団のリーダーも兼任していた。議会最大会派に所属し、妻・美希(篠田麻里子)の尻に敷かれつつ、出世コースを這い上がろうともがいていた。三郎は地元暴力団が経営するデリヘルの雇われ店長として、裏社会を渡り歩いていた。

 そんな矢先、父の武雄が亡くなった。地元市議会は、武雄の所有地にモールの建設を計画。了承すれば二郎の出世は約束される。あとは三郎が同意するだけだった。三郎は二郎を思い、父の遺産と相続を一任する。しかし二郎の計画は、30年ぶりに現れた一郎が持つ「遺産相続に関する公正証書」で狂い始める。

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 入江監督は「SRサイタマノラッパー」(09)、続編「SRサイタマノラッパー 女子ラッパー☆傷だらけのライム」(10)で、遊び半分だったラップが魂の叫びに変わる瞬間をエモーショナルに描いた。3作目「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」(12)でコミカルなタッチは影を潜め、暴力と焦燥感が作品を支配。方向性の変化が感じられた。続く「22年目の告白 私が殺人犯です」(17)がヒットし、今回初心に立ち返り、地元を舞台に勝負に出た。

 「ビジランテ」とは「法や正義が及ばない世界。大切なものを自ら守り抜く集団」を意味するという。父の暴力に支配され育った三兄弟。閉鎖的な地方都市を舞台に、痛く息苦しい暴力描写を交え、人生の悪循環を描き出す。外国人住民と地元自警団との摩擦と抗争。街を支配する市議会の黒い闇。三郎が生きる裏社会。地方の濃密な社会が映し出される。

 大森、鈴木、桐谷の熱演もさることながら、二郎を陰で操る妻役の篠田が一皮むけ、悪女をあやしく演じる。暴力で息子たちにトラウマを植え付けた父役の菅田は、インパクト絶大な凄みのある演技。鈍いボディブローを長時間打たれ続けたように、体に衝撃が残る渾身の一作だ。

(文・藤枝正稔)

「ビジランテ」(2017年、日本)

監督:入江悠
出演:大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作

2017年12月9日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://vigilante-movie.com/

作品写真:(C)2017「ビジランテ」製作委員会

タグ:レビュー
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2017年11月29日

「探偵はBARにいる3」人気シリーズ第3作 大泉×松田コンビ、緩急つけてテンポよく

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 なじみのクラブでバカ騒ぎをする探偵(大泉洋)。相棒の高田(松田龍平)の後輩・原田(前原滉)から「恋人の麗子(前田敦子)を探してほしい」と依頼が舞い込む。軽い気持ちで引き受けた探偵は、麗子がモデル事務所を装った風俗店でバイトしていたと知る。探偵はオーナーを名乗る美女、峠マリ(北川景子)と偶然すれ違い、かすかに既視感を覚える──。

 「探偵はBARにいる3」は、札幌在住の推理小説家・東直己の「ススキノ探偵」シリーズが原作。2011年から映画化されてシリーズになった。大泉と松田のコンビで人気を博し、今回は初のオリジナル・ストーリー。監督は前2作の橋本一から吉田照幸にバトンタッチした。

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 行方不明になった麗子は、謎の殺人事件を目撃していた。探偵のもとに持ち込まれた麗子探しは、探偵と高田を窮地に陥れる入り口だった。モデル事務所のバックには極悪非道な北城仁也(リリー・フランキー)率いる北城グループ、北城の愛人の峠がいた。街の探偵には手に負えない強大な悪が敵に回る。

 シリーズ3作目の今回は、おなじみの舞台である札幌の歓楽街・ススキノを舞台に、ささいな依頼が大事件に発展する。探偵のモノローグを多用するハードボイルドの王道を受け継ぎ、脚本と演出に小技を利かせる。大泉と松田のかけあい、間合いが絶妙だ。ガチガチの推理ものと違い、コミカルな要素をふんだんに取り入れる。松田の父、優作が演じたドラマ「探偵物語」に通じる作風だ。

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 監督が代わってアクションが大々的に押し出された。これまでは危機一髪の探偵を、遅れて高田が助けに入り、無敵ぶりを痛快に披露してきた。今回は空手の師範代で鳴らす高田も太刀打ちできない強敵。アクションの見せ方も工夫され、前2作にない緩急ある動きが特徴だ。

 今回は探偵の過去がキーになる。探偵と峠をつなぐ線が、峠の切ない過去を浮かび上がらせる。クライマックスはエキストラ約2000人を動員。松重豊、田口トモロヲ、マギー、安藤玉恵ら常連キャストの息の合ったアンサンブル。初参加の北川景子の憂い。リリー・フランキーのサディスティックな演技。前2作を上回り、歯切れ良く仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「探偵はBARにいる3」(2017年、日本)

監督:吉田照幸
出演:大泉洋、松田龍平、北川景子、前田敦子、鈴木砂羽

2017年12月1日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.tantei-bar.com/

作品写真:(C)2017「探偵はBARにいる3」製作委員会
タグ:レビュー
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2017年11月07日

東京国際映画祭・特別企画「ゴジラ」シネマコンサート 上映&オーケストラ なじみのテーマ曲、新たに息を吹き込まれ

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 1954年に公開された「ゴジラ」(本多猪四郎監督)を上映しながら、伊福部昭が作曲した音楽パートをフルオーケストラが生演奏するぜいたくなイベント。第30回東京国際映画祭の特別企画として開催された。

 映画上映にオーケストラ演奏をシンクロさせたシネマコンサートは最近の流行で、多くは海外作品で行われている。「スター・ウォーズ」や「ハリー・ポッター」シリーズ、最近では「ラ・ラ・ランド」(16)のシネマコンサートも日本で開催された。しかし邦画では少なく、野村芳太郎監督の「砂の器」(74)ぐらいだろう。

 今回の「ゴジラ」シネマコンサートは、「ゴジラ」のサウンドトラックを伊福部の弟子で作曲家の和田薫が指揮し、東京フィルハーモニー交響楽団が演奏。劇中歌の「平和の祈り」を女声合唱団「Chor June」が歌い上げた。

 本編上映前には「平成ゴジラシリーズ」のプロデューサー・富山省吾氏、音楽プロデューサーの岩瀬政雄氏、「シン・ゴジラ」(16)の樋口真嗣監督を招き、「ゴジラ」の魅力と裏話を紹介するトークショーが行われた。岩瀬氏は今回の企画の苦労話として「『ゴジラ』は台詞、効果音、音楽全てが一つのトラックで録音された。今回はコンピューターで音楽トラックだけ消した」と語る。

 冒頭、東宝ロゴマークからスタッフとキャストロール、ゴジラの足音と雄叫びが入るはずだが、なぜか無音状態から音楽が始まるトラブルに見舞われた。しかし、そんなトラブルはなかったかのように、オーケストラはメーンタイトルを悠々と演奏し始める。

 今まで見てきた平面的でチープなモノラル版「ゴジラ」と別次元だ。3次元的で重厚、立体感に包まれた演奏に鳥肌が立った。本編に合わせて演奏される有名な「ゴジラのテーマ」。数々の聞きなれた曲が、まるで新たなサウンドトラックの公開収録を見ているような不思議な感覚にとらわれる。

 今さら言うまでもないが、終戦から9年後に作られた作品だけに、戦争の暗い影が随所に見え隠れする。巨大生物になす術を失くし、復興した東京の街がゴジラに破壊される。東京は再び焼け野原になり、呆然と立ち尽くす人々。視線の先には戦争で体験した恐怖と、絶望に隣り合わせた記憶がある。その後の「ゴジラ」シリーズにはない、市民の死への恐怖がダイレクトに描かれている。「ゴジラ」が怪獣映画の形を借りながら、痛烈な反戦映画となっていることを痛感させられた。

 旧作をリバイバル上映するだけの従来の方法とは異なり、今回のような切り口なら既存作品を新たに息を吹き込むことができるのだ。アンコールでは東宝怪獣映画音楽をメドレーでつないだ「SF怪獣ファンタジー」が演奏された。伊福部氏が音楽を担当した作品には「地球防衛軍」(57)、「宇宙大戦争」(59)、「海底軍艦」(63)など、オーケストラとシンクロ上映すると面白そうな作品がまだ多くある。「今後も第2、第3のシネマコンサートを見たい」と感じさせる素晴らしい企画だった。

(文・写真 藤枝正稔)

写真:(左から)樋口真嗣氏、富山省吾氏、岩瀬政雄氏

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2017年11月05日

「おじいちゃん、死んじゃったって。」本音を爆発させる家族 死について考えるヒロイン

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 夏の終わり。若い男女がセックスをしている。主人公の吉子とボーイフレンドの圭介だ。自宅の2階、吉子の部屋である。階下で電話が鳴り始めた。行為を中断し、受話器を取る吉子。祖父が死去したとの知らせだった。「おじいちゃん、死んじゃったって」。吉子はベランダに出ると、庭にいる父親の清二に向かって叫んだ。

 早速葬儀の準備が始まる。喪主は長男である叔父の昭男。サポート役が父親の清二だが、2人の意見はなかなか折り合わない。もともと仲が悪いのか、何かにつけていがみ合い、怒鳴り合う。未亡人となったハルは認知症。子や孫の顔も認識できず、夫の死も理解できない。彼女を預けるホームの手配もしなければならない。

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 そうこうしているうちに、次々と親族が集まってくる。離婚した昭男の妻と娘。東京の大学に進学した弟。大学浪人中で引きこもりの従弟。故人を悼むというより、浮き世の義理を果たすため一堂に会した家族たち。

 昭男と清二の兄弟げんかが呼び水となり、家族は長年ため込んできた鬱積を爆発させる。颯爽と赤いフェラーリで乗り付けた叔母の薫が、車上荒らしで高額の香典を奪われるなど、予想外のアクシデントも発生。厳粛であるべき祖父の葬儀は、罵詈雑言飛び交う喧騒と混乱の場と化す。

 そんなドタバタ劇をちょっと冷めた眼差しで眺めているのが吉子だ。「なぜみんな悲しそうじゃないんだろう」。「死後の世界って、天国か地獄しかないのかな」。祖父が死んだときセックスをしていたことに罪悪感を抱きつつ、吉子は人の死について真剣に考える。

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 全体はコメディー仕立て。昭男と清二が遺体の上で取っ組み合いをしたり、はげ隠しに吹きかけたスプレーが葬式の挨拶中に溶けて昭男の顔が真っ黒になったり。爆笑を誘うシーンが目白押しだ。昭男に扮した岩松了がはまり役。認知症のハルには「恋の罪」(11)の怪演などで知られる大方斐紗子が扮し、強烈な存在感を放っている。

 ヒロインの吉子にはNHK大河ドラマ「真田丸」で注目を浴びた実力派で、映画初主演となる岸井ゆきの。クールさとウェットさを併せ持った現代っ子の立場から、家族の見届け役をしっかり演じ切った。

 新鋭・山崎佐保子のオリジナル脚本、CM界で活躍する森ガキ侑大監督がメガホンを取った初長編。どんなにいがみ合っても家族は家族。誰かが死んでも、また誰かが生まれ、延々と家族は続いていく――。シンプルな真実を、美しい田園地帯に浮かび上がらせた。第30回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門公式出品。

(文・沢宮亘理)

「おじいちゃん、死んじゃったって。」(2017年、日本)

監督:森ガキ侑大
出演:岸井ゆきの、岩松了、美保純、岡山天音、水野美紀、光石研

2017年11月4日(土)、テアトル新宿、テアトル梅田、Denkikanほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://ojiichan-movie.com

作品写真:(c)2017「おじいちゃん、死んじゃったって。」製作委員会
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