2020年01月21日

「シグナル100」自殺催眠に翻弄される高校生、阿鼻叫喚のデスゲーム

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 学園祭の準備で慌ただしい聖新学園高校3年C組の生徒たち。担任の教師・下部(中村獅童)に呼び出された樫村怜奈(橋本環奈)ら36人は、突然不気味な映像を見せられる。それは特定の行動を取ると自ら命を絶ってしまう“自殺催眠”の暗示だった──。

 宮月新原作、近藤しぐれ作画の同名コミックを、「さまよう小指」(14)、「春子超常現象研究所」(15)の竹葉リサが監督した。

 担任の下部がかけた“自殺催眠”。「スマホを使う」「泣く」「あくびをする」などのなにげない日常の行動に、催眠発動のシグナルが100あるという。シグナルの詳細は担任の下部だけが知っている。生徒たちは生きるために下部を問い詰めるが、彼は答えを封印するかのごとく教室の窓から飛び降り、自殺してしまう。

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 催眠を解く方法を失い、絶望状態に置かれた生徒たちは、下部が残したメッセージからシグナルを解こうと奮闘する。だが、次々と下部の罠にはまり命を落としていく。疑心暗鬼に駆られ、相手を出し抜こうとする生徒がいる一方、仲間のために犠牲となって死ぬ者もおり、校内は阿鼻叫喚の修羅場と化す。

 外部と連絡が取れず、学校から出られず、死に直面した生徒たちがパニックになる。無人島に隔離された中学生のサバイバル映画「バトル・ロワイアル」(00、深作欣二監督)を彷彿とさせ、竹葉監督も「影響を受けた」と明言している。「クラスの中で生徒1人だけが生き残る」設定や、15歳未満は鑑賞できない「R15」指定なことも共通する。文字で表しがたい壮絶な死に様が描かれる。

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 「1000年に1度の逸材」と期待される橋本が、血まみれの制服姿で生き残りゲームに挑んでいる。多くの生徒たちの中では存在感が抜きん出ており、物語の流れが想像できてしまうのが難点か。担任役の中村は、短い出演ながら独特の不気味さ。生徒役の俳優たちと格の違いを見せ付けた。

 「バトル・ロワイアル」から20年。遺伝子は「シグナル100」に受け継がれたようだ。担任が仕掛けたシグナルに生徒たちが翻弄されるように、観客も監督の巧みなトラップに惑わされるだろう。

(文・藤枝正稔)

「シグナル100」(2020年、日本)

監督:竹葉リサ
出演:橋本環奈、小関裕太、瀬戸利樹、甲斐翔真、中尾暢樹、福山翔大

2020年1月24日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://www.signal100.jp/

作品写真:(C)2020「シグナル100」製作委員会

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2019年12月25日

「男はつらいよ お帰り 寅さん」人気シリーズ50作目、思い出を名場面とともに

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 山田洋次監督の人情喜劇シリーズ50作目「男はつらいよ お帰り 寅さん」。“寅さん”こと渥美清が亡くなった翌年の「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」(97)以来、22年ぶりに製作されたシリーズ最新作だ。おなじみの主題歌を桑田佳祐が歌っている。

 人気小説家の満男(吉岡秀隆)は、中学3年生の娘と2人暮らし。妻の七回忌の法要で柴又の実家を久々に訪れ、母・さくら(倍賞千恵子)と父・博(前田吟)、近所の人たちと昔話に花を咲かせる。騒々しく楽しかった伯父・寅次郎との日々。いつも味方でいてくれた寅さんに会えず、満男の心には大きな穴が開いていた。出版社の担当編集者・高野(池脇千鶴)から次作の執筆を勧められるが、今ひとつ気乗りしない。そんなある日、書店のサイン会で、初恋の人・イズミ(後藤久美子)と再会する──。

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 「男はつらいよ」は、渥美は病で42作目「ぼくの伯父さん」(89)以降助演に回り、寅次郎の妹・さくらの息子・満男が実質的に主演を務めて48作まで続いた。渥美の没後、シリーズはいったん終了。今回の「男はつらいよ お帰り 寅さん」は、シリーズの後日譚で、満男主演シリーズの完結編といって問題ないだろう。

 満男は50歳になり、7年前に妻に先立たれ、娘・ユリ(桜田ひより)と二人で暮らしている。両親は健在だが、肝心の寅次郎の消息は語られない。小説家でひとり親の満男の物語が進む一方で、登場人物が寅次郎を回想する形で旧作の名場面が挿入される。現在のシーンに、過去作から抜き出した寅次郎がCG合成され、満男に寅次郎が寄り添う。

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 「寅次郎忘れな草」(73)から「寅次郎紅の花」(95)まで、4度も恋仲となったマドンナ・リリー(浅丘ルリ子)の登場。舞台となる柴又の団子屋「くるまや」。隣接する印刷工場を経営するタコ社長の娘・朱美(美保純)と息子。過去の物語が現在と地続きになっている。

 池脇演じる編集者・高野の登場は、満男の新たなパートナー登場を予感させ、山田監督の人情喜劇作家としての健在ぶり感じさせる。主演を亡くし、完結できなかった「男はつらいよ」。執念でシリーズ50作目を撮り上げた監督の作家精神に頭が下がる。

(文・藤枝正稔)

「男はつらいよ お帰り 寅さん」(2019年、日本)

監督:山田洋次
出演:渥美清、倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、前田吟、池脇千鶴、夏木マリ、浅丘ルリ子、美保純、佐藤蛾次郎

2019年12月27日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/movie50/

作品写真:(C)2019 松竹株式会社

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2019年12月20日

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」すずのもう一つの物語 エピソードを加えて誕生

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 昭和19年。絵を描くのが好きな18歳のすず(のん)が、広島・呉に嫁いでくる。夫・周作(細谷佳正)や家族に囲まれ、見知らぬ土地で暮らし始めるすず。次第に戦争が迫り、食べ物や物資が少なくなる中、工夫を重ねて日々を過ごしていた。ある日、迷い込んだ遊郭で、すずは同世代の女性リン(岩井七世)と出会う。いつしか二人は互いを大切な存在に思うようになるが、ふとしたことで、すずは周作とリンの過去に触れてしまう──。

 こうの史代原作、片渕須直監督・脚本の「この世界の片隅に」に、250カットを超える新エピソードを加え、キャラクターの秘められた思いや新たな解釈とともに、もう一つの物語が誕生した。

 呉を舞台に戦争を庶民目線で描いたアニメーション「この世界の片隅に」。主人公すずの子ども時代から始まるドラマは、戦争で物資や食料が困窮していく中、知恵を絞り嫁ぎ先の家族とつつましく生きる姿が描かれた。劇中、すずが道に迷い、遊郭で働くリンと出会うエピソードがある。「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」は、現行版でさらりと描かれたすずとリンとの関係を深く掘り下げた。

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 エピソードが増えたことで、大人向けのビターな味わいになった。年齢も近く、名前も「鈴」の音読みと訓読み。表意一体のような二人に、意外な関係が見えてくる。現行版で描かれた周作のノートの裏表紙の一部が四角く切り取られた意味が詳細に明かされ、りんが周作に抱く感情が現行版より複雑になる。新たにリンと同じ遊郭で働くテル(花澤香菜)とすずのエピソードも加わり、すずと周作の関係描写も濃密になった。長尺版は約40分長く、現行版がダイジェストに感じるほどだ。

 太平洋戦争をテーマに、反戦を高らかに叫ぶのではない。平穏なすずの目線で日常を描き、戦争の無情、悲惨を鮮明に浮かび上げた。物資も食料もない戦時、呉の街並み、港に浮かぶ軍艦など、徹底的に調査して物語に真実味を持たせた。柔らかいタッチの細部や背景も、非常に丁寧で親しみやすい。

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 一番の功労者はすずの声を演じたのんだ。おっとりした性格のすずだが、芯の強さもあわせ持っている。のんは柔軟にキャラクターに命を吹き込んだ。既存の映画音楽と一味違い、劇伴にスキャットを加えたコトリンゴの音楽も秀逸。

 日本がたどった戦争の現実を受け止めながら、ネガティブに走らず、前向きにとらえる演出の押し引きもうまい。現行版を見た人には新たな発見をもたらし、未見の人は一本の新作として楽しめるだろう。

(文・藤枝正稔)

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(2019年、日本)

監督:片渕須直
声の出演:のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世

2019年12月20日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://ikutsumono-katasumini.jp/

作品写真:(C)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
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2019年11月30日

「ハルカの陶」備前焼がつなぐ師弟愛 奈緒が映画初主演

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 OLの小山はるか(奈緒)はある日、デパートでふと見た備前焼の大皿に強くひかれる。気付けば備前焼のことばかり考える日々。言葉にできない思いを胸に、岡山県備前市へ赴く。意気込んで大皿の作者を訪ねたが、現れたのは頑固でぶっきらぼう、職人気質な修(平山浩行)だった。しかし、一人ろくろに向かう修を見て、備前焼への興味は一層強くなる──。

 週刊漫画TIMESで連載され、第13回岡山「芸術文化功労賞」を受賞した同名コミックの映画化。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」の奈緒が映画初主演、ほか「本能寺ホテル」(17)の平山浩行、「釣りバカ日誌」シリーズの笹野高史。監督・脚本の末次成人は、2006年にシンガポールに渡り、ベトナムなどアジアでテレビCMやPVを演出した後、2016年に日、中、韓、台湾合作の短編映画「Timeless KOTOHIRA」を監督。今回が初の長編映画となる。

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 岡山県備前市を舞台に、漫然と日々を過ごしてきたOLが備前焼と出会い、生きる道を見つけるドラマだ。備前焼と無縁だった主人公を通し、「備前焼とは何か」を分かりやすく描く。備前市と備前焼のPR映画の側面を持ちつつ、主人公の成長ドラマとして感動的に仕上げている。周りを巻き込みながら、無謀なチャレンジ精神で、はるかは成長していく。夢見がちなはるかを、修は怒鳴り、現実を突きつける。ストイックな職人像が物語の肝だ。

 さらに、はるかを引き立てるのが、榊陶人(笹野高史)だ。いつも同じ格好で、修の工房近くの公園で酒を飲んでいる。修に怒鳴られ落ち込むはるかを慰める。はるかはホームレスと思い込んでいるが、実は備前焼の人間国宝で、修も頭の上がらない恩人だった。物腰が柔らかく、人当たりもいい陶人を、笹野はうまく演じている。ベテランならではだ。

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 土と炎と職人の思いが作り上げた備前焼。職人がろくろで成型し、何日も付ききりで温度調整しながら、窯の高温で焼かれる。クライマックスにこの「窯炊き」を配して、職人の修と、彼に弟子入りしたはるかの、信頼を超えた師弟愛を描く。

 二人を安易に恋愛関係にさせず、師弟にとどめたことで、物語の筋が一本通った。はるかを演じた奈緒は、表情豊かに生き生きと喜怒哀楽を表現。修役の平山もストイックな役を好演している。分かりやすい題材を、絶妙なバランス感覚で描くことに成功した。

(文・藤枝正稔)

「ハルカの陶」(2019年、日本)

監督:末次成人
出演:奈緒、平山浩行、笹野高史、村上淳

2019年11月30日(土)、ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://harukano-sue.com/

作品写真:(C)2019「ハルカの陶」製作委員会
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2019年11月21日

第32回東京国際映画祭を振り返る スペイン、インドネシアの個性派作品に注目

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 2019年10月28日〜11月5日に開催された「第32回東京国際映画祭」。審査員長に中国映画女優チャン・ツィイーを迎え、世界各国から応募された14作品がグランプリを争う「コンペティション」部門を中心に、アジアの新鋭監督たちが競いあう「アジアの未来」、個性あふれる日本映画が世界を目指す「日本映画スプラッシュ」など、世界中の様々な映画が一堂に会する日本を代表する映画祭だ。今回、私が鑑賞出来た受賞作品と共にお勧めな紹介したい。

【東京グランプリ・東京都知事賞】

「わたしの叔父さん」(デンマーク)監督、脚本、撮影、編集フラレ・ピーダゼン、出演イェデ・スナゴー

 体の不自由な叔父と牛舎で牛の世話をする姪クリス。獣医になる夢を持つクリスの前に立ちはだかる叔父の世話。夢と現実の狭間で葛藤するクリスの選択という普遍的なテーマを、監督は静かな洞察力で描いた。キャストが絶妙で、実生活で血縁関係のある演技経験のない叔父と女優の姪が生み出す無言のハーモニーに惹きつけられる作品だ。

【審査員特別賞】

「アトランティス」(ウクライナ)監督、脚本、撮影監督、編集、プロデューサーのヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ、出演アンドリュー・リマルーク

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 近未来2025年のウクライナ東部を舞台に、戦争で受けたPTSDに苦しむ元兵士の心の葛藤を音楽を使わず、殆どワンシーン、ワンカット、ワンフレームという斬新な撮影法を使い、戦争がもたらす代償と心に闇を抱えてしまった兵士の心情を掘り下げた異色作だ。実際に元兵士だったリマルークが武骨な元兵士を体現した。

【最優秀監督賞、最優秀男優賞】

「ジャスト6.5」(イラン)監督、脚本サイード・ルスタイ、出演ナヴィド・モハマドザデー

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 イラン警察と大物ドラッグ売人との戦いを、捜査過程から検挙、ジャンキーのたまり場、取り調べ、逮捕者であふれかえる拘置所、裁判、死刑執行までを、膨大なセリフとハイテンションな演技で魅せた力作だ。貧困から脱出するために薬物売買に手を染める売人の姿にイランの深い闇を感じた。

【アジアの未来 作品賞】

「夏の夜の騎士」(中国)監督ヨウ・シン、出演ホァン・ルー

 1997年、親と離れ祖父母の家に預けられて生活する小学生ティエンディエン。祖母の自転車が盗まれた事で経験する夏休みの日々を、少年の目を通して大人たちに対する不条理な思いと、小学生らしい純粋な眼差しを繊細に描いた作品だ。

 他にもお勧めな2本を紹介したい。

 「コンペティション」に出品されたスペインのカルト小説を映画化した「列車旅行のすすめ」(スペイン、フランス)は、摩訶不思議な迷宮的な物語をぶっ飛んだ演出で魅せた。監督のセンスに魅了される大人の寓話だ。

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 「CROSSCUT ASIA」で上映された「フォックストロット・シックス」(インドネシア)は、「トータルリコール」(90)「ターミネーター2」(91)など80〜90年代ハリウッドを一世風靡した大物プロデューサーのマリオ・カサールがエグゼクティブプロデューサーを務めた近未来SFアクション超大作だ。ややCGにチープさは否めないが、悪徳政府に対して元海兵隊員の国会議員がかつての兵隊仲間たちと力を合わせて、インドネシアの未来ために正義の戦いに挑むアクション満載の男気溢れる娯楽作だ。

 日本で見ることが難しい世界の映画に気軽に触れられるのが映画祭の醍醐味だ。今回「東京国際映画祭」で上映された世界の映画が、一本でも多く日本で劇場公開されることを願う。

(文・写真 藤枝正稔)

写真:

「わたしの叔父さん」(左から)プロデューサーのマーコ・ロランセン、女優イェデ・スナゴー、フラレ・ピーダセン監督

「アトランティス」(左から)ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督、男優アンドリュー・リマルーク

「ジャスト6.5」(左から)サイード・ルスタイ監督、男優ナヴィド・モハマドザデー

「列車旅行のすすめ」(左から)アリツ・モレノ監督、原作者アントニオ・オレフド

posted by 映画の森 at 23:22 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする