2017年07月18日

「アリーキャット」窪塚洋介&降谷建志、アウトローを魅力的に

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 窪塚洋介と「Dragon Ash」の降谷建志が共演したバディー映画「アリーキャット」。俳優、監督として活動する榊英雄がメガホンを取り、妻の榊いずみが音楽を担当した。

 頭に後遺症を抱えた元ボクサーの朝秀晃(窪塚洋介、マル)と、自動車整備工場で働く梅津郁巳(降谷建志、リリィ)。秀晃が世話する野良猫「マル」が行方不明になり、保健所で知り合った。郁巳は猫を勝手に「リリィ」と呼んで自分のものと主張。怒る秀晃を置いて立ち去る。

 警備会社で働く秀晃のもとに、「ストーカーに悩むシングルマザーのボディーガード」の仕事が来る。気乗りしない秀晃だったが、会社は冴子(市川由衣)の警護を押し付ける。冴子をつけ回していたのは、元恋人の玉木(品川祐)だった。冴子と玉木の話し合いを監視する秀晃のところに、偶然郁巳が登場。話し合いがもつれ、秀晃と郁巳が割って入ったことで警察沙汰になってしまう。

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 水と油の秀晃と郁巳だったが、同じ猫をかわいがることで距離が縮まり意気投合する。互いに猫に名付けた「マル」、「リリィ」と呼び合うようになり、いつの間にか冴子のボディーガードも二人でするように。しかし、玉木と別の謎の男たちが冴子を狙うようになっていた──。

 社会の底辺でもがきながら自由に生きるマルとリリィ。冴子の警護を通して巨大な力にぶつかりながら、相手に一泡吹かせてやろうと奮闘する。1970年代のテレビドラマ「傷だらけの天使」、「探偵物語」を思わせるアウトローな生き様。松田優作主演作を作り続けた「東映セントラルフィルム」の匂いも感じる。

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 社会に迎合せず自分のルールで生きるマル。猫のように気ままなリリィ。キャラクター造形が秀逸だ。マルを演じた窪塚は久々のはまり役。映画初主演の降谷の未知数が合わさり、化学反応が起きている。負け犬二人が仕掛ける痛快な大勝負。粘着系の品川の演技もぴったり。火野正平の貫禄と凄みあるアドリブ、三浦誠己の小悪党演技。監督はそれぞれの個性を生かしている。アンダーグラウンドをしたたかに生きる男たちが魅力的な作品だ。

(文・藤枝正稔)

「アリーキャット」(2017年、日本)

監督:榊英雄
出演:窪塚洋介、降谷建志、市川由衣、土屋冴子、品川祐、柳英里紗

2017年7月15日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://alleycat-movie.com/

作品写真:(C)2017「アリーキャット」製作委員会

タグ:レビュー
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2017年07月16日

ゆうばり映画祭、2018年は3月15日から開催

 SFやホラー、ファンタジー、サスペンスなどのジャンル映画の祭典「ゆうばり国際ファンタスティック2018」が、来年は3月15日(木)〜19日(月)の5日間、北海道夕張市で開かれる。通算28回目、民間主催に転換してから11回目となる。

 深津修一プロデューサーは「財政破たんした夕張市も、10年間の雌伏の時を待って、ようやく今年から積極財政に打って出ました。映画祭も2017年、民間だけで10回目の開催を実現し、いよいよ夕張市とともに、守りから外に打って出る時期が来たものと強く感じています」とコメント。次回から海外の映画祭との連携をさらに強化し、ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門の受賞作品を提携映画祭で上映する流れを作りたいと意欲をみせている。

 オフシアター・コンペティション部門はメジャーへの登竜門として若手クリエーターの注目が集まる部門。これまでに「天然コケッコー」、「味園ユニバース」の山下敦弘監督、「22年目の告白―私が犯人です」の入江悠監督らを輩出している。
コンペを含む主要プログラムの作品募集は7月14日から10月24日まで。詳細は映画祭公式サイト内の作品応募ページ(http://yubarifanta.com/entry/)で参照できる。

映画祭公式サイト
http://yubarifanta.com/

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2017年07月08日

「クロス」交差する二つの殺人 過去に向き合う二人の女

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 集団リンチ殺人の加害者の現在が暴かれ、もう一つの殺人が明るみに出る「クロス」。人間が過去と向き合い、思わぬ運命に対峙する様子を描く。映画プロデューサーで監督の奥山和由、撮影監督の釘宮慎治が共同でメガホンを取った。

 集団リンチ殺人を追っていたジャーナリストの柳田(斎藤工)は、加害者の知佳(Sharo)の居場所を突き止める。知佳の夫の孝史(山中聡)は柳田に事実を知らされ動揺。夫婦関係に亀裂が入る。知佳の過去は記事になり、孝史が経営する会社は倒産。愛犬の里親を募集したところ、真理子(紺野千春)が名乗り出る。

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 孝史の娘・聖羅(前野えま)は愛犬と離されてふさぎ込む。娘思いの孝史は真理子に頼み、犬を通じた交流が始まった。しかし、知佳は夫と真理子の仲を疑う。集団リンチ殺人が起きた同じ時期に発生した不倫殺人事件に、真理子が絡んでいるのではないか──疑った知佳は柳田を呼び出し、告げ口をする。

 過去に起きた二つの殺人が交差する。着眼点とアイデアは優れている。しかし、全体に掘り下げが浅い。不倫殺人は理解できるところまで描かれるが、集団リンチ殺人は背景説明にとどまった感がある。土台となるべき「過去」が安定しないため、描かれる「現在」が説得力を欠く。

 重点が置かれているのが、真理子の心情だ。もう人を会いしてはいけないのに、内に眠る女の部分と葛藤する。そんな姿に知佳は嫉妬するが、演じるSharoが表面的な演技に終始している。一方、柳田役の斎藤は短い出演ながら、ふてぶてしくしたたかな記者役で存在感を見せている。

(文・藤枝正稔)

「クロス」(2017年、日本)

監督:奥山和由、釘宮慎治
出演:紺野千春、山中聡、Sharo、前野えま、那波隆史

2017年7月1日(土)、ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.cross2017.com/

作品写真:(C)2017「クロス」製作委員会

タグ:レビュー
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2017年05月30日

「家族はつらいよ2」悲劇と喜劇は紙一重 現代の“無縁社会”を斬る 山田洋次の職人技

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 渥美清主演の松竹映画「男はつらいよ」シリーズで一時代を築いた山田洋次監督の最新作「家族はつらいよ2」。監督は「男はつらいよ」シリーズ終了後、西田敏行主演の喜劇「虹をつかむ男」(96)と続編を製作。いったん喜劇を封印し、「学校」シリーズや、時代劇「たそがれ清兵衛」(02)、「母べえ」(08)などさまざまなジャンルの作品を生んできた。

 13年には「東京家族」を発表した。小津安二郎監督へのオマージュを捧げた家族の物語で手ごたえを感じ、「東京家族」で同じ俳優を起用。封印していた喜劇映画を再開したのが「家族はつらいよ」(16)だった。“熟年離婚”をテーマに観客動員数120万人、興行収入13億8000万円の大ヒットを記録。勢いに乗ってわずか1年で続編「家族はつらいよ2」を完成させた。

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 今回のテーマは“無縁社会”だ。監督ならでは、社会への嗅覚が敏感に感じられる。近年社会問題となっている“高齢者の危険運転”が導入部。平田家の家長・周造(橋爪功)のささやかな楽しみであるマイカーでの外出。しかし、愛車はへこみ傷が目立ち、家族は危機感を覚えていた。周造に免許証返上させようと画策するが、頑固者の周造に誰が言うかでもめてしまう。

 妻・富子(吉行和子)が旅行で不在をいいことに、つかの間の独身生活を満喫する周造。行きつけの小料理屋の女将かよ(風吹ジュン)とドライブ中、大型トラックと接触する事故を起こしてしまう。かよの気転で示談となるが、割れたヘッドライトの破片を家族が発見。事故がばれてしまう。激怒した長男・幸之助(西村雅彦)は、家族会議をするため、離れて暮らす兄妹夫婦たちを招集する。

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 一方、周造はかよとのドライブ中、工事現場で交通整理する同級生・丸田(小林稔侍)を見た。後日、周造は丸田の連絡先を聞き出し、もう一人の同級生・向井と、かよの店で40年ぶりの同窓会を開く。呉服屋の跡取り息子で長身の丸田は高校時代は憧れの的。妻との離婚、事業の失敗で落ちぶれてしまい、小さなアパートで一人暮らしをしながら工事現場で働いている。旧友との再会で上機嫌の丸田を自宅に連れて帰ってきた周造だったが、翌朝、丸田は息を引き取ってしまった──。

 “高齢者の危険運転”で幕を開けた物語は、周造の同級生・丸田の登場により本題の“無縁社会”へ突入する。一人で孤独な老後を送る丸田を通して、孤独死が多い冷めきった現代社会へ警鐘を鳴らす。無縁仏となった丸田を悲劇としてとらえながら、絶妙の笑いを交えた喜劇へ転換させる。職人技だ。悲劇と喜劇は紙一重。監督の演出は一連の松竹喜劇を継承した昭和テイストといえる。

 「東京家族」含めて3本目のキャストの息の合ったアンサンブルも楽しく、古くから山田監督作品に慣れ親しんだシニア層に絶大に支持される作品であろう。

(文・藤枝正稔)

「家族はつらいよ2」(2017年、日本)

監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優、林家正蔵

2017年5月27日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kazoku-tsuraiyo.jp/

作品写真:(C)2017「家族はつらいよ2」製作委員会
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2017年05月25日

「光をくれた人」偽りの親子、真実の愛 感涙必至の極上メロドラマ

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 第一次大戦から帰還したトムは、灯台守の仕事に就く。苛烈な戦闘体験に心傷つき、他人を遠ざけたい気持ちから、あえて孤島での勤務を望んだのだ。楽しみも喜びもなく、黙々と単調な日課をこなす日々。そんなトムが、一人の女性との出会いによって、生きる情熱を取り戻す。

 町の名士の娘で、二人の兄を大戦で亡くしていたイザベル。トムはイザベルと愛し合い、結婚し、幸福な生活が始まる。だが、2度の妊娠がともに流産に終わり、イザベルは深く落ち込む。傷心のイザベルを救ったのは、ある日、海岸に打ち寄せられた一隻のボートだった。そこには男性の遺体とともに幼い女児が乗っていた。

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 「生まれなかった子の代わりに、この子を育てたい」。許されない行為だと知りつつ、トムはイザベルの懇願を受け入れる。女児が持たされていたガラガラをそっとポケットにしまうと、トムは2番目の子の墓標を捨てた。

 トムとイザベルの夫婦以外に住む者もいない孤島。だからこそ可能な“犯行”だった。ルーシーと名付けられた女児は、“両親”の愛情を一身に受け、すくすくと育つ。しかし、娘の洗礼のため町に戻った日、トムはルーシーの実の母であるハナと遭遇してしまう。

 トムの葛藤が始まる。事実を告げるべきか。隠し通すべきか。イザベルには何も知らせていない。ルーシーを思う気持ちは、イザベルも自分も同じである。だからといって、ハナの人生はどうでもいいのか――。

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 そもそも、ボートはなぜ漂着したのか。遺体の男性は何者か。後半、いくつもの謎が解けるにつれ、もっぱらトムとイザベルの夫婦に感情移入していた観客は、実の母であるハナの人生にも共感と同情を寄せることになる。ルーシーの居場所はどちらであるべきか。見る者の心は千々(ちぢ)に乱れることだろう。

 ラスト、1950年へと大きく時間を飛ばしたエピローグで、感動はクライマックスに達する。それまで感情の噴出を堪えていた観客も涙腺決壊は必至。「ブルー・バレンタイン」のデレク・シアンフランス監督がベストセラー小説を見事に映像化した、極上のメロドラマである。

(文・沢宮亘理)

「光をくれた人」(2016年、米・豪・ニュージーランド)

監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ

2017年5月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hikariwokuretahito.com/

作品写真:(c)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC
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