2018年01月23日

クァク・ジェヨン監督新作「風の色」 一人二役の古川雄輝「頑張った分、楽しんで」

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 「猟奇的な彼女」(01)、「僕の彼女はサイボーグ」(08)のクァク・ジェヨン監督(韓国)が日本で撮影した映画「風の色」が、1月26日から全国で公開される。主演の古川雄輝が都内をはじめ各都市で上映記念イベントやキャンペーンに参加。ロケ地の札幌市で行われた先行上映会にも登場した。

 劇中でマジシャンを演じる古川は、Mr.マリックの指導を受けて見事な手さばきを披露している。舞台あいさつでは、一部のマジックを除き、本番直前に練習しただけでリハーサルなしで演じたエピソードを紹介した。観客役エキストラのダイレクトな反応を撮るためにクァク監督が取った演出方法だったが、「マジックは初めてなので所作も難しく、緊張した」と振り返った。クライマックスの海中イリュージョンのシーンでは、長時間の水中撮影がたたり低体温症と酸欠で倒れたことを明かし「これよりも大変な作品はなかったし、これからもないだろう(笑)。頑張った分、楽しんでもらいたい」と詰めかけたファンに呼びかけた。

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 クァク監督ら韓国のスタッフを迎えて東京や北海道で撮影した日韓合作映画。古川は国際合作映画への出演も多いが、今回の現場は特に興味深かったという。「独特なセリフ回しや演出に、文化や感覚の微妙な違いが出ている。普通の日本映画ではなく、海外の映画の吹き替えのつもりで見ると面白いと思う」と話していた。

 「風の色」は、同じ容貌の二組の男女が織りなす、ミステリーが加味されたラブストーリー。東京に住む涼(古川)は恋人ゆり(藤井武美)の死を知らされるが、旅先の北海道で彼女とうり二つの彩(藤井・二役)に出会う。彩は恋人のマジシャン隆(古川・二役)を海中イリュージョンの事故で失っていたが、隆は涼とそっくりだった。マジシャンを目指した涼はやがて「隆のドッペルゲンガー」と呼ばれるようになる。涼は隆が失敗したイリュージョンを再現するため真冬の知床に向かう。

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(文・写真 芳賀恵)

「風の色」(2017年、日本)

監督:クァク・ジェヨン
出演:古川雄輝、藤井武美、石井智也、袴田吉彦、小市慢太郎

2018年1月26日(金)、TOHOシネマズ日本橋ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kaze-iro.jp/

写真1と2:古川雄輝=札幌市で2018年1月16日
作品写真:(C)「風の色」製作委員会
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2017年12月26日

「勝手にふるえてろ」恋愛に突如目覚めた妄想女子、毒気あふれる異色ラブコメ 松岡茉優が好演

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 24歳のOLヨシカ(松岡茉優)は、中学の同級生「イチ」(北村匠海)に10年の片思い中。そこへ突然、暑苦しい会社の同期「ニ」(渡辺大知)に告白される。テンションが上がるも、ニとの関係に乗り気れない。「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこう」と思い立ち、同窓会を計画。ついに再会の日が訪れる──。

 芥川賞作家・綿矢りさの同名小説の映画化。監督、脚本は「恋するマドリ」(07)の大九明子。今年の東京国際映画祭コンペティション部門に出品され「観客賞」など2賞に輝いた。

 ヨシカは恋愛には奥手、不器用に妄想するオタク系女子だ。会社では経理課に所属し、アパートで独り暮らし。アンモナイトの化石を集めて癒されている。ところが「二」に告白され、恋愛感情が目覚めてしまう。「イチ」への思いが募り、暴走する姿がコミカルに描かれる。

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 なんといっても映画初主演の松岡の演技に尽きる。ネガティブなオタク系で夢見がち、妄想世界に生きる。泣き、笑い、叫び、歌う。感情の起伏が激しい難役を、誰もが共感できるキャラクターに転じた。思いを寄せる「イチ」はクールな二枚目。リアルな相手の「二」は厚かましいお笑いキャラ。妄想と現実に迷うヨシカの葛藤が、手に取るように伝わってくる。

 大九監督は、くせのある原作を、小気味よく映像化した。ヨシカに毒のあるモノローグを多用させつつ、現実と妄想をまぜこぜにしてカラフルに描く。ところがそんなヨシカを一瞬で空虚な灰色の世界に引き戻す。斬新、残酷、すさまじい破壊力だ。初めての恋愛で暴走するヨシカを、背中から押していくさじ加減も絶妙。

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 優しくしたり、突き放したりした後、最後は温かく手を差し伸べる。かなり変わったくせのある物語だが、着地点は地に足がついている。今年公開の邦画では一押し、毒気あふれる異色のラブコメディーだ。

(文・藤枝正稔)

「勝手にふるえてろ」(2017年、日本)

監督:大九明子
出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海、趣里

2017年12月23日(土)、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://furuetero-movie.com/

作品写真:(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
タグ:レビュー
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2017年12月14日

「Mr.Long ミスター・ロン」チャン・チェン主演、SABU監督 暴力、人情、食、疑似家族──奇跡の化学反応

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 「ポストマン・ブルース」(97)、「天の茶助」(15)のSABU監督最新作「Mr.Long ミスター・ロン」。15年、台湾・高雄国際映画祭に参加した監督に、顔見知りだったチャン・チェンが出演を希望したことで始まった作品。監督は数カ月後、チャン・チェン(張震)にあて書きした脚本を完成させた。

 台湾南部の高雄。パスポートと札束入りのバッグの前で、バカ話する5人の男。そこへ殺し屋のロン(チャン・チェン)が現れ、場は凍りつき、5人は瞬時に殺されてしまう。ナイフ1本で仕事を片付けたロンは、バッグを依頼主に渡す。凄腕の殺し屋ぶりが強烈に焼き付けられる。

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 次の殺しの依頼を受けたロンは、台湾を離れ、六本木のナイトクラブに現れる。台湾マフィアのジャンを狙うも失敗。ジャンと手を組む日本のヤクザにつかまってしまう。麻袋をかぶせられ、河川敷に連れて行かれ、パスポートも焼かれ、半殺しにされるロン。そこへ突然、青年の賢次(青柳翔)が飛び出した。賢次が刺され、混乱する現場。ロンはナイフを奪って逃走する。

 命からがらたどり着いた場所は、北関東の空き家街だった。瀕死のロンに、近所の少年・ジュン(バイ・ルンイン)は食べ物や薬を運んでくる。体力を回復した後、ジュンの家に行くと、薬漬けになった台湾人の母リリー(イレブン・ヤオ)がいた──。

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 「クーリンチェ少年殺人事件」(91)、「レッドクリフ」(08)、「グランド・マスター」(13)など、中華圏で活躍する台湾人俳優のチャン・チェンを迎え、暴力、人情、食、疑似家族と、結びつきそうにない要素を混ぜ合わせ、奇跡の化学反応を引き出した。

 凄惨な暴力で幕を開けた物語は、逃亡先での近所の人たちとの交流に広がる。ロンへの親切な対応が、温かい空気となって場を包む。冒頭に刺された賢次の過去が、重要な鍵になる構成がうまい。

 ロンがめぐり合う幸せと反比例するように、膨らみ続ける不穏な空気。クライマックスでは再び刃が登場、暴力がさく裂する。さらに一歩踏み込み、それまでのネガティブな要素をすべて洗い流す幕引き。監督の力技が心地よい。相反する暴力と人情、静と動を使い分け、演出は繊細でダイナミック。寡黙だが情に厚い殺し屋、チャン・チェンの魅力も十二分に引き出している。台湾と日本で繰り広げられる斬新で心温まる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「Mr.Long ミスター・ロン」(2017年、日本・香港・台湾・ドイツ合作)

監督:SABU
出演:チャン・チェン(張震)、青柳翔、イレブン・ヤオ、バイ・ルンイン、有福正志

2017年12月16日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://mr-long.jp/

作品写真:(C)2017 LIVE MAX FILM / HIGH BROW CINEMA

タグ:レビュー
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2017年12月11日

「恋とボルバキア」体は男、心は女 切ない思いがほとばしる

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 体の性イコール心の性。それが当たり前と思って生きている人は多いだろう。しかし、世の中には、そうでない人も存在する。体の性と心の性が一致しない人たち。「恋とボルバキア」は、そんな人たちにカメラを向け、彼らの私生活や恋愛を追ったドキュメンタリーだ。男性として生まれながら、男という性になじめず、女装をしたり、男性に恋をしたり――。

 周囲の人間がみな理解してくれるわけではない。差別もある。好奇の目もある。想像もできない困難や障害。それらに耐えながら、彼らは自分たちなりに生きる道を模索している。そんな生々しい息づかいまで伝わってくる。

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 監督は「アヒルの子」(10)でデビューした小野さやか。7年ぶりの劇場公開作となるが、その間、テレビでドキュメンタリー番組を手がけるなどしながら、機をうかがってきた。満を持して完成させた作品だ。

 養父への思慕から女装に走った男性。妻子を養いながら女装イベントに参加し、抑圧してきた願望を解き放つ中年男性。さまざまな登場人物の中で、ひときわ輝いて見えるのが、“みひろ”だ。おしゃれしたさから女装を始め、男の姿では味わえなかった快感に酔った。多くの男性からアプローチされ、心がどんどん女になっていった。

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 やがてひとりの男性に恋をした。彼の前で、みひろは完全に女になりきる。男でいる時のみひろ。女装した時のみひろ。映画は2人のみひろを映し出す。男に戻れば声まで男になり、女装すれば声も、体つきも女に変身してしまう。変幻自在。でも、ベースはあくまで女。

 みひろには意中の男性がいる。彼を呼び出し、2人きりになる。期待に胸が高鳴る。しかし、思いがけない事実を知らされる。泣き濡れるみひろの顔。感情が噴き出し、素顔があらわになる瞬間。ドキュメンタリーの醍醐味である。

 トランスジェンダーは他人事(ひとごと)だと思っていた。だが、この映画を見終わって、彼らと自分を隔てる境界が少し薄れたように感じる。他者と共存するには、他者への想像力が不可欠。しかし、他者を知らないことには、想像力も働かない。「恋とボルバキア」は、彼らと私たちとの共存に必要な想像力を与えてくれる。

(文・沢宮亘理)

「恋とボルバキア」(2017年、日本)

監督:小野さやか

2017年12月9日(土)、ポレポレ東中野ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://koi-wol.com/

作品写真:(c)2017「恋とボルバキア」製作委員会
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2017年12月08日

第18回東京フィルメックス ジャック・ターナー特集「私はゾンビと歩いた!」「夕暮れのとき」

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 第18回東京フィルメックス(2017年11月18〜26日)「ジャック・ターナー特集」では、没後40周年を迎えたターナー監督の「私はゾンビと歩いた!」(43)と「夕暮れのとき」(56)が、ともに35ミリフィルムで上映された。

 「私はゾンビと歩いた!」は、「キャット・ピープル」(42)に続きターナー監督が再びヒットさせたホラー映画。南国ハイチの豪邸で住み込みの看護婦として働くことになったカナダ人のヒロインが、病に伏せる当主の夫人を治療する過程で経験する不気味な出来事を、美しいモノクロ映像の中に描いた作品だ。 精神を患った夫人の奇怪な行動、当主と弟との確執、当主の母親とブードゥー教との関わりなど、ミステリアスな要素が絡み合い、サスペンスを盛り上げていく。

 雪の降り積もるカナダと、太陽の降り注ぐハイチ。支配する白人と、隷属する黒人。寡黙で内向的な兄と、饒舌で社交的な弟。そして生と死。ストーリーは決して単純ではないものの、二項対立の構成にインパクトがあり、最後まで緊張が途切れない。タイトルの意味がついに不明である点など、解明されない謎も多いが、そこがまた魅力でもある。不思議な作品だ。

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 ホラー映画で有名なターナー監督だが、「過去を逃れて」(47)などフィルム・ノワールにもすぐれた作品がある。「夕暮れのとき」はその1本。レストランで美しい女と知り合った主人公が、怪しい2人組に連れ去られる。彼らは何者なのか。主人公はなぜ襲われたのか。物語が進行するにしたがって、主人公と2人組との因縁が明かされ、女の素性も分かってくる。

 冒頭シーンで主人公に話しかける男は、味方なのか敵なのか。主人公と女の運命はどうなるのか。予断を許さぬ展開、小気味よい演出、キレのあるアクション。ターナー円熟期を代表する傑作だ。

(文・沢宮亘理)

「私はゾンビと歩いた!」(1943年、米国)

監督:ジャック・ターナー
出演:フランシス・ディ、トム・コンウェイ、ジェームズ・エリソン、エディス・バレット

「夕暮れのとき」(1956年、米国)

監督:ジャック・ターナー
出演:アルド・レイ、ブライアン・キース、アン・バンクロフト、ジョスリン・ブランド、ジェームズ・グレゴリー

作品の詳細は公式サイトまで。

http://filmex.net/2017/

posted by 映画の森 at 15:48 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする