2018年12月24日

「こんな夜更けにバナナかよ」前田哲監督が札幌で撮影秘話 当時の状況、再現に腐心

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 大泉洋主演の「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督がこのほど、撮影地の札幌市でトークイベントに参加し、撮影秘話を語った。

 人工呼吸器を使いながら車いすで「自立生活」を送る筋ジストロフィー患者と、彼を24時間体制で支える介助ボランティアたちの交流と葛藤を描く。実在のモデルは2002年に42歳で亡くなった鹿野靖明さんで、作家の渡辺一史氏のノンフィクションが原作。鹿野役を大泉洋が演じるほか、鹿野が心を寄せる新人ボランティア役を高畑充希、美咲の恋人の医大生ボランティア役を三浦春馬が演じている。

 前田監督は原作を読んで、「感動を売り物にしているのでは」という先入観が覆され衝撃を受けたという。鹿野さんをスクリーンによみがえらせたい、との思いで映画化の企画が始まった。鹿野役は大泉洋しか考えられないと、監督とプロデューサー、脚本家の意見が一致。本人も快諾した。

 ロケは幸運続きだったと監督は振り返る。映画の中の鹿野の自宅は、鹿野さんが実際に暮らしていたケア付き住宅。クランクイン直前に「たまたま」空室になり、当時を再現することができたという。鹿野さんのかかりつけの病院や実際に旅行に行った美瑛のペンションも快く撮影スケジュールを調整してくれた。

 1994年の物語であるため、当時の医療環境の再現には気を使った。鹿野さんの使用していたものと同タイプの人工呼吸器が入手できたのも幸運だった。

 大勢のエキストラを集めた野外ジンギスカンのシーンで、撮影前に大泉が始めたあいさつが10分以上にも及び、エキストラを喜ばせたというエピソードも披露された。

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原作はノンフィクション

 原作の「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」は渡辺氏が2003年に発表した作品。渡辺氏は鹿野さんのボランティアの一員となり、美談では済まされない「重度障がい者の自立」という問題を内部から見つめた。その視点は高く評価され、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞した。

 タイトルは、鹿野さんが夜中に「バナナが食べたい」と言ってボランティアに買いに行かせたエピソードがもとになっている(映画の序盤にも主人公のキャラクターを象徴するものとして描かれる)。ボランティアの若者たちに介助の仕方を指導し、言いたいことは遠慮なく口に出し、アメリカに行く夢を持って英語の勉強を続ける鹿野さん。その姿は時に反発を呼びながらも、多くのボランティアたちの人生に多大な影響を与えた。

 鹿野さんは生前、メディアにたびたび登場していた。障がい者は「肩身の狭い」存在ではなく、ボランティアは「崇高」な行為ではない。人間は対等で、互いに助け合って生きるものだと身をkもって訴えてきた。その思いを、映画はあらためて観客に差し出す。

(文・写真 芳賀恵)

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」
12月28日(金)より全国ロードショー。作品の詳細は公式サイトまで。
http://bananakayo.jp

写真:トークイベントに参加した(右から)前田哲監督、石塚慶生プロデューサー=札幌市で12月16日
作品写真:(c)2018映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

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2018年11月27日

「ハード・コア」山田孝之×山下敦弘監督 世渡り下手で社会不適合な男たち

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 都会の片隅で生きる権藤右近(山田孝之)は純粋で、曲がったことが大嫌い。しかし信念を暴力に転嫁させるため、仕事も居場所もなくし、山奥で怪しい活動家の埋蔵金探しを手伝うことになる。共に働く牛山(荒川良々)だけが心を許せる友人だ。そんな二人を右近の弟・権藤左近(佐藤健)が見守る。一流企業のエリートだが、腐った世の中にうんざりしていた──。

 1990年代のコミック「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」を、ドラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」(15)、「山田孝之のカンヌ映画祭」(17)コンビの山下敦弘監督、山田主演で送る作品だ。

 純粋すぎて社会に適合できない兄・右近。世間をうまく渡り歩くエリート商社マンの弟・左近。対照的な兄弟と、右近同様社会に居場所がない男たちの物語。結社を組織する怪しい活動家・金城(首くくり栲象)の下で働く右近と牛山。軍隊ばりに厳しい上下関係を貫く番頭・水沼(康すおん)に監視され、埋蔵金発掘に没頭している。

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 女を知らない牛山のため、右近は自宅アパートにデリヘル嬢を呼ぶが、金を持ち逃げされる。厳しい現実に直面しながら生きる彼らに、突然変化が訪れる。牛山が寝床にしている廃工場で古びたロボットを発見したのだ。つまらぬ日常が変化するきっかけだった。

 原作に魅了された山下監督と山田。出会いとなったオムニバス映画「BUNGO ささやかな欲望」(12)の初号試写の時、漠然と「ハード・コア」映画化構想が持ち上がり、ドラマ「山田孝之の東京都北区赤羽」の前から現実味を帯びたという。

 出だしで社会不適合の若者の日常を辛辣に描く。高性能ロボットの出現で空想のエッセンスが加わり、ドロップアウトした男たちの物語は加速を始める。「苦役列車」(12)の山下監督は、はみ出し者を描くのがうまい。右近も融通の利かない強情な奴に見えるが、彼なりの理論と考え方がある。信念を貫き行動しているだけで、生き方に迷いはなく、世に迎合する若者を揶揄しているようにも映る。

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 山田はバリバリ硬派な右近を、ぶれずに演じている。一方、水沼の娘・多恵子(石橋けい)との禁断の愛では、悲しき男の滑稽な性(さが)を見せる。世渡り上手な左近を演じた佐藤が、厳しい現実を突きつけるクールな弟を好演し、俗世間と無縁な牛山を荒川が怪演する。後半の展開は唐突な印象だが、幕引きにほっこりさせられる。浮かれた現代と逆に生きる男たち。山下監督×山田コンビによる風変わりな佳作といえよう。 

(文・藤枝正稔)

「ハード・コア」(2018年、日本)

監督:山下敦弘
出演:山田孝之、佐藤健、荒川良々、石橋けい、首くくり栲象

2019年11月23日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hardcore-movie.jp/

作品写真:(C)2018「ハード・コア」製作委員会
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2018年11月21日

第31回東京国際映画祭 コンペ受賞作を中心に振り返る

P1000207 「テルアビブ・オン・ファイア」ヤニム・ビトン、サメフ・ゾアビ.jpg 「三人の夫」フルーツ・チャン、クロエ・マーヤン.jpg

 11月3日まで東京・六本木を中心に開催された「第31回東京国際映画祭」コンペティション部門の受賞作品を中心に、映画祭を振り返りたい。

【東京グランプリ/東京都知事賞】&【最優秀脚本賞】

「アマンダ」(フランス) 監督:ミカエル・アース

 パリで起こったテロ事件で姉を失った24歳の青年ダヴィッドと、残された姉の娘、7歳のアマンダの、心の崩壊と再生の物語。なにげない日常の幸せな描写と対比させるように、事件後の苦しみと喪失感にさいなまれる主人公を描く。テロを被害者家族の視点で見ており、不穏な世界情勢が生み出した作品だ。

【最優秀監督賞】&【最優秀女優賞】

「堕ちた希望」(イタリア)監督、脚本:エドアルド・デ・アンジェリス

 ナポリ北西の海沿いの街が舞台。妊娠した娼婦を人身売買組織に渡す仕事をするマリアは、希望がない荒れた街で年老いた母の世話をしている。マリア役のピーナ・トゥルコが図太い生命力を感じる演技。根底には「聖母マリア」や「処女受胎」といったキリスト教の教えを深読みできる。

【最優秀芸術貢献賞】

「ホワイト・クロウ」(イギリス)監督:レイフ・ファインズ

 ソ連のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの生涯を、英の名優レイフ・ファインズが3本目の監督作として描いた。1950年代のソ連。貧しかった少年時代、レニングラードでの修業時代、西側への亡命劇。ヌレエフを演じた現役ダンサーのオレグ・イヴェンコのダイナミックな踊り、手に汗握るスリリングな逃亡劇。隅々まできめ細かく行き届いた演出だ。

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【観客賞】

「半世界」(日本)監督:阪本順治

 地方の炭火焼職人・鉱(稲垣吾郎)と、突然町に帰ってきた元自衛官の瑛介(長谷川博己)、二人の中学の同級生・光彦(渋川清彦)。40歳を目前にした男3人の物語。芸術家肌やインテリ系の役を得意とする稲垣が、中学生の息子を持つ炭火焼職人。人間くさいおじさん役で新境地を開拓した。長谷川が心に闇を抱えた男を好演。渋川がガス抜き的でうまい。阪本監督の「大鹿村騒動記」(11)と通じる土着的なドラマだ。ラストにデビュー作「どついたるねん」(89)を思わせるカットを持ってきた。監督自身の折り返し点的作品かもしれない。

 このほかおすすめは、せりふを使わず映像と音楽と効果音だけでつづった独創的な「ブラ物語」(独・アゼルバイジャン)、人気ドラマ制作現場を通じて、中東情勢をコミカルに描いた「テルアビブ・オン・ファイア」(ルクセンブルク・仏・イスラエル・ベルギー)。香港のフルーツ・チャン監督が描いた「三人の夫」は、セックスを大らかに描きつつ、共有すべき物を独占しようとする某国を風刺したような刺激的作品。1本でも多く日本で一般公開されることを願うばかりだ。

(文・写真 藤枝正稔)

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2018年11月20日

「半世界」稲垣吾郎主演・阪本順治監督 「見たことのない自分がスクリーンに現れた」

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 山間の田舎町を舞台に、四十路男の日常と葛藤を描いた映画「半世界」主演の稲垣吾郎、阪本順治監督がこのほど記者会見した。第31回東京国際映画祭で上映され、炭焼き職人を演じた稲垣は「本当に夢のよう」と笑顔。阪本監督は「稲垣君は難しい役だっただったと思う。みんなにとって新鮮な撮影だったことが一番うれしい」と振り返った。

 主なやり取りは次の通り。

 ――「半世界」という言葉をどうとらえるか。

 稲垣:シンプルだけれど奥が深い。自分にとっての半世界ってなんだろうと、いろいろ想像してみた。それぞれの人が小さいけれど自分の世界の主人公で、人生がある。いろいろな気持ちで見てもらえれば。

 阪本監督:日中戦争の従軍カメラマンとして中国へ渡った写真家・小石清の写真展のタイトルが「半世界」だった。勇ましい軍人より、現地の人、動物を撮っていた。名もなき人の営みも世界なんだと解釈し、少しでも近づこうとして企画した。

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 ――情けないダメおやじの役がはまっていた。演じてどうだったか。

 稲垣:はまっているといわれると複雑。そもそも自分がどういう人間か分からない。自分にぴったりな役が分からなくていい。今回大きかったのは、ここ数年の自分の環境の変化。仕事の仕方も変わって、これが1作目。見たことのない自分がスクリーンに現れた。この作品に巡り合え、届けられるのは幸せだ。

 ――「見たことのない」とはどんな自分か。

 すべて。チェーンソーをを持って、頭にタオルを巻いて、。日本の原風景の中で生活している。自分をよく俯瞰で見るが、こういう稲垣吾郎は見たことがない。自分ひとりの力ではなく、監督や共演者のおかげ。撮影地の伊勢志摩の土地にも誘われた。

 ――(阪本監督に)稲垣にぴったりの役だと思ったのか。

 阪本監督:稲垣君の印象はごまかさない、自分を前に出さない。淡々と寡黙に、山の中で土にまみれるイメージが浮かんだ。変えようとか、無理にやらせようというのはなかった。主人公と稲垣君の性格はもちろん違い、紘は家庭を顧みず、どこか欠けている。映画はそういう人物を真ん中に据えた方がいろいろな話が作れる。

 ――監督はもう少しかっこよくなど指示はあったか。

 稲垣:僕はクールな役、一見かっこいい役、超人的な役が多い。実際はかっこよくない。身のこなしは細かく指導があった。序盤の(長谷川博己演じる)瑛介との再会シーンが一番初めに撮った長回しのワンカット。そこがきっかけを作ってくれた。そこで生まれた物を指さすしぐさ……ぶっきらぼうに男らしくやってみろと。監督はみかんの皮のむき方まで、細かく指導してくれた。

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 ――炭焼き職人、中古車のディーラー、元自衛官の登場人物。親から継いだ仕事にした理由、地方都市を舞台にした理由は。

 阪本監督:私自身が代々続いた店を最近たたんだ。商店街なので入ってくる後継の話をヒントにした。海外での撮影が多かったので、地元に帰るような気持ちで撮りたかった。小さな都市の小さな町、間口が狭いけど奥が深い町から世界を見たかった。

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 ――男三人の友情と絆が主人公を動かす。稲垣さん自身に経験は。

 稲垣:男のグループでずっとやってきて、香取君、草g君と「新しい地図」を広げていくことに無我夢中。友情と仕事での仲間は違うと思うが、僕らにも絆はある。二人にも早くみてほしい。

(文・写真 岩渕弘美)

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「半世界」(2018年、日本)

監督:阪本順治
出演:稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦、竹内都子

2019年2月、TOHOシネマズ 日比谷他で全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hansekai.jp/

作品写真:(C)2018「半世界」FILM PARTNERS
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2018年11月16日

「アウト&アウト」元ヤクザの探偵と少女、巻き込まれる難事件 遠藤憲一主演の犯罪エンタメ作品

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 小学2年生の少女、栞(白鳥玉季)と探偵事務所を営む元ヤクザの矢能(遠藤憲一)のもとに依頼の電話が入る。指定された場所に向かうと、依頼人は銃で撃たれて死体となっていた。矢能は容疑者にされかねない状況に、素早く対応を始めるが、事態は思いもよらぬ方向へ転がっていく──。

 漫画「ビー・バップ・ハイスクール」の原作者で、映画監督として「カルロス」(91)、「JOKER」(96)、「鉄と鉛」(97、)「共犯者」(99)を監督したきうちかずひろが、自作の同名小説を映画化した。三池崇史監督の「藁の楯」の原作者でもあるマルチな才能の持ち主だ。

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 危ない事件に巻き込まれた矢能は、ヤクザ時代の人脈をフルに使い、真相を突き止めようと動く。事件の背後には与党議員の鶴丸(要潤)と、鶴丸のトラブルを裏で解決してきた武道家の堂島(成瀬正孝)、弟子の数馬(岩井拳士朗)が絡んでいた。

 ドラマ、CM、映画と引っ張りだこの遠藤憲一主演で、Vシネマの遺伝子を感じる犯罪エンターテインメント映画だ。強面の探偵と少女のコンビは、手塚治虫の漫画「ブラック・ジャック」とピノコを思わせる。2人は不思議な疑似親子のよう。怖いものなしの矢能にとって、幼い栞はアキレス腱のような弱点となる。栞は裏社会どっぷりの男臭いドラマで、清涼剤の様な役割を果たす。栞を演じた白鳥は、西川美和監督の「永い言い訳」(16)に出演した注目の子役だ。

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 きうち監督作品常連の竹中直人を筆頭に、渋川清彦、要潤、高畑淳子ら人気俳優が出演。監督の「鉄と鉛」に出演した成瀬正孝が、事件のカギを握る堂島を演じている。成瀬は1970年代東映ヤクザ映画の常連で、悪役が集まった「ピラニア軍団」に所属。同じ軍団の室田日出男、川谷拓三、志賀勝、片桐竜次らと画面の中を暴れまわっていた。往年の名脇がいぶし銀のごとく鈍く輝き、画面を引き締め、貫禄の演技で他を圧倒する。
 
 演出はやや稚拙ところもあるが、漫画でつちかった無駄のない場面運び、リズム感が観客の意表を突く。事件の謎解き、血のつながらない矢能と栞の絆を描いたサイドストーリーが物語に膨らみを持たせた。犯罪エンタメ作品として申し分のないクオリティーだ。

(文・藤枝正稔)

「アウト&アウト」(2018年、日本)

監督:きうちかずひろ
出演:遠藤憲一、岩井拳士朗、白鳥玉季、小宮有紗、中西学

2018年11月16日(金)、TOHOシネマズ 新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://out-and-out.jp/

作品写真:(C)2017「アウト&アウト」製作委員会
posted by 映画の森 at 23:51 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする