2017年05月30日

「家族はつらいよ2」悲劇と喜劇は紙一重 現代の“無縁社会”を斬る 山田洋次の職人技

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 渥美清主演の松竹映画「男はつらいよ」シリーズで一時代を築いた山田洋次監督の最新作「家族はつらいよ2」。監督は「男はつらいよ」シリーズ終了後、西田敏行主演の喜劇「虹をつかむ男」(96)と続編を製作。いったん喜劇を封印し、「学校」シリーズや、時代劇「たそがれ清兵衛」(02)、「母べえ」(08)などさまざまなジャンルの作品を生んできた。

 13年には「東京家族」を発表した。小津安二郎監督へのオマージュを捧げた家族の物語で手ごたえを感じ、「東京家族」で同じ俳優を起用。封印していた喜劇映画を再開したのが「家族はつらいよ」(16)だった。“熟年離婚”をテーマに観客動員数120万人、興行収入13億8000万円の大ヒットを記録。勢いに乗ってわずか1年で続編「家族はつらいよ2」を完成させた。

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 今回のテーマは“無縁社会”だ。監督ならでは、社会への嗅覚が敏感に感じられる。近年社会問題となっている“高齢者の危険運転”が導入部。平田家の家長・周造(橋爪功)のささやかな楽しみであるマイカーでの外出。しかし、愛車はへこみ傷が目立ち、家族は危機感を覚えていた。周造に免許証返上させようと画策するが、頑固者の周造に誰が言うかでもめてしまう。

 妻・富子(吉行和子)が旅行で不在をいいことに、つかの間の独身生活を満喫する周造。行きつけの小料理屋の女将かよ(風吹ジュン)とドライブ中、大型トラックと接触する事故を起こしてしまう。かよの気転で示談となるが、割れたヘッドライトの破片を家族が発見。事故がばれてしまう。激怒した長男・幸之助(西村雅彦)は、家族会議をするため、離れて暮らす兄妹夫婦たちを招集する。

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 一方、周造はかよとのドライブ中、工事現場で交通整理する同級生・丸田(小林稔侍)を見た。後日、周造は丸田の連絡先を聞き出し、もう一人の同級生・向井と、かよの店で40年ぶりの同窓会を開く。呉服屋の跡取り息子で長身の丸田は高校時代は憧れの的。妻との離婚、事業の失敗で落ちぶれてしまい、小さなアパートで一人暮らしをしながら工事現場で働いている。旧友との再会で上機嫌の丸田を自宅に連れて帰ってきた周造だったが、翌朝、丸田は息を引き取ってしまった──。

 “高齢者の危険運転”で幕を開けた物語は、周造の同級生・丸田の登場により本題の“無縁社会”へ突入する。一人で孤独な老後を送る丸田を通して、孤独死が多い冷めきった現代社会へ警鐘を鳴らす。無縁仏となった丸田を悲劇としてとらえながら、絶妙の笑いを交えた喜劇へ転換させる。職人技だ。悲劇と喜劇は紙一重。監督の演出は一連の松竹喜劇を継承した昭和テイストといえる。

 「東京家族」含めて3本目のキャストの息の合ったアンサンブルも楽しく、古くから山田監督作品に慣れ親しんだシニア層に絶大に支持される作品であろう。

(文・藤枝正稔)

「家族はつらいよ2」(2017年、日本)

監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優、林家正蔵

2017年5月27日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kazoku-tsuraiyo.jp/

作品写真:(C)2017「家族はつらいよ2」製作委員会
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2017年05月25日

「光をくれた人」偽りの親子、真実の愛 感涙必至の極上メロドラマ

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 第一次大戦から帰還したトムは、灯台守の仕事に就く。苛烈な戦闘体験に心傷つき、他人を遠ざけたい気持ちから、あえて孤島での勤務を望んだのだ。楽しみも喜びもなく、黙々と単調な日課をこなす日々。そんなトムが、一人の女性との出会いによって、生きる情熱を取り戻す。

 町の名士の娘で、二人の兄を大戦で亡くしていたイザベル。トムはイザベルと愛し合い、結婚し、幸福な生活が始まる。だが、2度の妊娠がともに流産に終わり、イザベルは深く落ち込む。傷心のイザベルを救ったのは、ある日、海岸に打ち寄せられた一隻のボートだった。そこには男性の遺体とともに幼い女児が乗っていた。

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 「生まれなかった子の代わりに、この子を育てたい」。許されない行為だと知りつつ、トムはイザベルの懇願を受け入れる。女児が持たされていたガラガラをそっとポケットにしまうと、トムは2番目の子の墓標を捨てた。

 トムとイザベルの夫婦以外に住む者もいない孤島。だからこそ可能な“犯行”だった。ルーシーと名付けられた女児は、“両親”の愛情を一身に受け、すくすくと育つ。しかし、娘の洗礼のため町に戻った日、トムはルーシーの実の母であるハナと遭遇してしまう。

 トムの葛藤が始まる。事実を告げるべきか。隠し通すべきか。イザベルには何も知らせていない。ルーシーを思う気持ちは、イザベルも自分も同じである。だからといって、ハナの人生はどうでもいいのか――。

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 そもそも、ボートはなぜ漂着したのか。遺体の男性は何者か。後半、いくつもの謎が解けるにつれ、もっぱらトムとイザベルの夫婦に感情移入していた観客は、実の母であるハナの人生にも共感と同情を寄せることになる。ルーシーの居場所はどちらであるべきか。見る者の心は千々(ちぢ)に乱れることだろう。

 ラスト、1950年へと大きく時間を飛ばしたエピローグで、感動はクライマックスに達する。それまで感情の噴出を堪えていた観客も涙腺決壊は必至。「ブルー・バレンタイン」のデレク・シアンフランス監督がベストセラー小説を見事に映像化した、極上のメロドラマである。

(文・沢宮亘理)

「光をくれた人」(2016年、米・豪・ニュージーランド)

監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ

2017年5月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://hikariwokuretahito.com/

作品写真:(c)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC
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2017年05月20日

「家族はつらいよ2」舞台あいさつ 山田洋次監督ファミリー喜劇続編「本当の家族のように」

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 山田洋次監督のファミリー喜劇「家族はつらいよ2」の完成披露試写会がこのほど東京都内であり、出演した橋爪功、吉行和子、西村雅彦、妻夫木聡、蒼井優ら出席した。

 熟年離婚をテーマにした前作「家族はつらいよ」(16)の続編。離婚の危機を乗り越えた平田家の人々が、ある人の「死」を通じて起こす騒動と絆を描くコメディーだ。舞台挨拶でもキャストは本当の家族のよう。和気あいあいとした雰囲気で盛り上がった。

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 山田監督は「とうとうこの日が来たな、という思い。全国のたくさんの人たちに見てほしい」とあいさつ。橋爪は「監督からパート2を作ると聞いた時、うれしかった。本当に幸せ。1作目どころではなく面白い。楽しんで」と自信をのぞかせた。

 林家正蔵が「監督の厳しい演技指導にやりがいを感じた。でも監督より怖いのが蒼井優さん。悪魔に近いような(笑)。とにかく楽しい。家族っていいな、と思う映画」と話すと、すかさず蒼井の夫を演じた妻夫木が「うちの嫁がご迷惑をおかけしてすみません」とフォロー。「(キャスト)それぞれの役割が広がり、面白味が増している。大いに笑って楽しんで」と呼びかけた。

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 前作では妻夫木の恋人役で登場した蒼井は、今回「私も家族になりました」。「リラックスして話せるのも、続編をやらせてもらったから」と感謝。「(山田監督の)『東京家族』(13)でこのメンバーが一つの家族を作り、『またやりたいね』と話してできたのが前作。俳優さんを回を重ねるごとに楽しく、中身も良くなっていくように思えた。親戚がまた集まったようで嬉しかった」と話した。「平田家」の雰囲気そのままに、笑いの絶えない舞台あいさつとなった。

(文・写真 岩渕弘美)

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「家族はつらいよ2」(2017年、日本)

監督:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優、林家正蔵

2017年5月27日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kazoku-tsuraiyo.jp/

作品写真:(C)2017「家族はつらいよ2」製作委員会

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2017年05月16日

「夜明け告げるルーのうた」心を閉ざした少年、島で人魚の少女に出会う 繊細で躍動的な青春アニメ

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 さびれた港町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年カイ(声:下田翔大)は、父と祖母の3人暮らし。両親の離婚で東京から引っ越してきた。親への複雑な思いを抱え、学校生活にも後ろ向きのカイ。ある日、同級生に「バンドに入らないか」と誘われ、練習場所の島へ行くと、人魚の少女ルー(谷花音)が現れた──。

 先月公開されたアニメーション映画「夜は短し歩けよ乙女」(17)を監督した湯浅政明が、初めて取り組んだ完全オリジナルの劇場用長編アニメだ。「マインド・ゲーム」(04)、「四畳半神話大系」(10)、「ピンポン THE ANIMATION」(14)など個性的な作風の湯浅。今回は人間の少年と人魚の少女の出会いを繊細に描く。

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 海に面した町を舞台に、少年が人魚に出会い、町の人々を巻き込む騒動を起こしながら、成長していく。甘酸っぱいジュブナイル(少年少女)作品だ。未知なる生物と少年の邂逅といえばスティーブン・スピルバーグ監督「E.T.」(82)を思い出す。が、今回の“生物”はかわいい人魚。片言だが話すこともでき、音楽を聴くと尾びれが二本足に。よちよち歩く子どものようだ。物語の主眼はカイの心の解放に置かれている。

 “ボーイ・ミーツ・ガール”の王道に、湯浅監督得意の疾走する躍動感が合わさっている。宮崎駿監督率いる「スタジオジブリ」作品に対抗できるクオリティーだ。キャラクターの随所にジブリ作品の影響を感じさせる部分があり興味深い。

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 親の離婚で心を閉ざした少年が、天真爛漫な人魚に寄せる初恋にも似た感情。心の動きが丁寧に、繊細に描かれる一方、“湯浅節”と呼ばれる躍動感が心地よく響く。細部まで精密に描き込まれた背景と相反するように、キャラクターは極端にデフォルメされ、ユニークだ。ジブリ作品と一線を画して見事。独創的な水の表現、レトロなダンスシーン。監督の魅力とアイデアが凝縮し、大人から子どもまで楽しめる作品に仕上がった。

「夜明け告げるルーのうた」(2017年、日本)

監督:湯浅政明
声の出演:谷花音、下田翔大、篠原信一、柄本明、斉藤壮馬

2017年5月19日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://lunouta.com/

作品写真:(C)2017ルー製作委員会

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2017年05月07日

「八重子のハミング」病を抱えた夫妻、喜びと苦難の12年 佐々部清監督渾身の自主映画

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 4度のがん手術から生還した夫が、若年性アルツハイマー病の妻を介護した記録「八重子のハミング」。陽信孝の同名原作を「半落ち」(04)、「夕凪の街、桜の国」(07)の佐々部清が監督。大手映画会社の出資を受けず脚本、製作も兼ねて完成させた自主製作映画だ。ベテラン俳優の升毅が映画初主演。「サンダカン八番娼館 望郷」(74)などに出演後、作家に転身した高橋洋子の28年ぶりの映画女優復帰作である。

 舞台は山口県。実在の八重子さんが好きだった場所でロケ撮影したという。幕開けは街が見渡せる高台の風景。石橋夫妻が覚悟を決めたような表情でたたずんでおり、一瞬不安がよぎる。時と場所は変わり、白髪の誠吾(升)が妻の介護について講演している。テーマは「やさしさの心って何?」。妻の八重子(高橋)との思い出が回想シーンとなり、夫婦と家族の12年が過去と現在を交差して描かれる。

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 夫のがんに妻のアルツハイマー症。重く難しいテーマだ。しかし、夫婦の苦難を丁寧に回想する一方、老いた誠吾が講演会で過去の出来事をユーモラスに話す様子や、心温まるエピソードに救われる。バランスをうまく取った演出と構成だ。

 自分も病に苦しむ誠吾が、次第に「赤ちゃん返り」する妻に優しく接する。排便など映像として見せるのが難しいシーンは、誠吾の講演会での話術で乗り切る。升の柔軟な演技が作品を引っ張る。物語の中心になる八重子役の高橋が、復帰作でこんな難役を演じ切ったことに心打たれた。高橋はデビュー作「旅の重さ」(72)の無垢な家出少女が印象深い。今回は教師同士の夫妻が出会った若き日から、病で天真爛漫になった晩年まで魅力的に演じた。

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 がん、闘病、若年性アルツハイマー病、介護、老い、死。ネガティブな要素を真正面から描く一方、夫妻が友人や家族に見守られつつ、困難を乗り越える過程をバランス良く描いた。一歩間違えればつらい作品になる恐れがあったが、重い部分は浄化させて夫婦愛に焦点をしぼった。佐々部監督渾身の1本だ。

(文・藤枝正稔)

「八重子のハミング」(2016年、日本)

監督:佐々部清
出演:升毅、高橋洋子、文音、中村優一、安倍萌生

2016年5月6日(土)、有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://yaeko-humming.jp/

作品写真:(C)Team「八重子のハミング」

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