2021年04月18日

「戦場のメリークリスマス」4K修復版 大島渚監督の代表作 ボウイ・たけし・坂本が異色のアンサンブル

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 日本を代表する映画監督の一人、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」(83)、「愛のコリーダ」(76)がこのほどデジタル修復され、再公開が始まった。
 
 「戦場のメリークリスマス」は1942年、インドネシア・ジャワ島の日本軍俘虜収容所が舞台。軍属が俘虜(捕虜)を犯した事件の処理にあたった粗暴なハラ軍曹(ビートたけし)と、英国人俘虜ロレンス大佐(トム・コンティ)は、東洋と西洋の価値観を語り合ううちに、奇妙な友情で結ばれるようになる。一方、武士道精神を重んじる所長のヨノイ大尉(坂本龍一)は、英国人俘虜のセリアズ少佐(デビッド・ボウイ)の魔性というべき美しさに心を奪われ葛藤する。収容所に波乱を巻き起こすセリアズは禍(わざわい)の神なのか──。

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 原作はローレンス・バン・デル・ポストの俘虜体験記「影の獄にて」。オール海外ロケで国際的なキャストを迎え、戦闘シーンのない戦争映画となっている。大島にとって異色作だ。カンヌ国際映画祭では最高賞・パルムドールを逃したが、日本国内で大ヒットした。魅力はなんといってもキャスティングだ。

 1980年代に漫才ブームをけん引したビートたけし。音楽グループ「YMO」で人気を博したミュージシャンの坂本龍一。英ロックスターのデビッド・ボウイ。3人の1人でも欠けたら作品は成功しなかった。今は大御所になった坂本は、映画音楽に初挑戦している。テーマ曲はあまりにも有名になり、シンセサイザーを駆使してオリエンタルな香りのする音楽を作り上げた。ミニマルな音を積み重ねて大きなうねりを作り出し、製作された83年当時の映画音楽とは全く違うアプローチ。素晴らしいスコアだ。

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 戦争映画の形をとりながら、同性愛を大胆に取り入れ、軍属と俘虜の心の揺れと友情を描いた。自分たちの行動が「正しい」と突き進む日本兵の誤った姿、「腹切り」を美学と考えていた日本人の思想。戦争の矛盾を示しているが、時代背景の説明を排除したことで、戦争を知らない世代には分かりづらいかもしれない。

 たけし、坂本、ボウイのアンサンブルは、プロの俳優とは一味違う魅力を放つ。坂本の楽曲も心に残る。内田裕也、ジョニー大倉、室田日出男、戸浦六宏に加え、若き日の内藤剛志も出演。2023年に大島渚監督作は国立機関に収蔵される予定で、今回が最後の大規模上映になるという。4Kデジタル修復で美しく蘇った「戦場のメリークリスマス」。必見だ。

(文・藤枝正稔)

「戦場のメリークリスマス」(1983年、日・英・ニュージーランド)

監督:大島渚
出演:デビッド・ボウイ、トム・コンティ、坂本龍一、ビートたけし、ジャック・トンプソン、ジョニー大倉、内田裕也、三上寛、室田日出男、戸浦六宏、金田龍之介、内藤剛志

2021年4月16日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://oshima2021.com/

作品写真:(C)大島渚プロダクション
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2021年03月15日

「すくってごらん」左遷でどん底のエリート 金魚すくいで救われる人生

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 東京から田舎へ左遷された大手銀行員・香芝誠(尾上松也)は、金魚すくい店を営む吉乃(百田夏菜子)と運命的に出会う。ネガティブ思考の香芝は心を閉ざし、仕事に専念しようとするが、吉乃が気になって仕方がない。しかし吉乃は幼なじみの王寺昇(柿澤勇人)を想い、ある秘密を抱えていた。一方、女優の夢破れて地元のカフェで働く明日香(石田ニコル)は、香芝に一目ぼれする──。

 大谷紀子原作の同名漫画を実写化で、監督は「ボクは坊さん。」(15)で劇場長編デビューした真壁幸紀。漫画の実写化映画には、原作の世界観を忠実に映像化した作品と、今回のように大胆に脚色した作品の二通りある。「すくってごらん」はミュージカルふうの歌とダンス、百田のピアノによる吉乃の感情表現など、実写ならではのアプローチがとられた。宣伝コピーに「新感覚ポップエンターテインメント」とある。

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 歌舞伎界のホープ・尾上演じる香芝が、不似合いなスーツに眼鏡で田舎道に登場するシーンで映画は幕を開ける。道に迷った香芝は通りかかった親切な金魚売りの車に乗せられ、観客は香芝とともに不思議な世界に迷い込む。突然、心境を吐露するように歌い出す香芝。一筋縄ではいかぬ作品と匂わせ、攻めた演出が際立つ。

 目指す町に着いた香芝は、目に入った浴衣の美女の後を追う。着いた先は、浴衣の美女が踊る狭い通路。美女が走ったところに道ができ、金魚すくい店「紅燈屋」にたどり着く。「不思議な国のアリス」のような導入でドラマが始まり、演出は漫画の世界を越えていく。 

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 金魚すくいの「すくい」を「救い」にかけたテーマが隠されている。エリートだった香芝が左遷で人生どん底となり、金魚すくいと町の人たちとの交流を通じ、ネガティブな自分を見つめ直し、前向きに歩き出す。凛々しい姿がテーマを象徴する。

 個性的なキャストもポイントだ。映画初主演の尾上は演技と歌で存在感を示し、映画初ヒロインの百田は大人の演技とピアノで「ももクロ」と違う一面を見せる。劇団四季出身の柿澤は歌、ダンス、ピアノと芸達者ぶりを披露。石田はギターの弾き語りとミュージカル経験を生かしている。監督はキャストの新たな一面を引き出しながら、歌やダンス、テロップを多用して「新感覚ポップエンターテインメント」に仕立てた。

(文・藤枝正稔)

「すくってごらん」(2021年、日本)

監督:真壁幸紀
出演:尾上松也、百田夏菜子、柿澤勇人、石田ニコル

2021年3月12日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://sukuttegoran.com/

作品写真:(C)2020映画「すくってごらん」製作委員会 (C)大谷紀子/講談社

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2021年03月02日

「あのこは貴族」格差を生きる女性二人 新たな出発を清々しく

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 東京の上流家庭で成長し、「結婚=幸せ」と信じる華子(門脇麦)。20代後半で恋人にふられ、初めて人生の危機に立たされる。あらゆる手で相手を探した結果、良家出身のハンサム弁護士・幸一郎(高良健吾)との結婚が決まり、順風満帆と思えたが──。

 「アズミ・ハルコは行方不明」(16)、「ここは退屈迎えに来て」(18)の原作者・山内マリコの同名小説を、「グッド・ストライプス」(15)で新藤兼人賞金賞の岨手由貴子監督が映画化した。東京の箱入り娘と、大学中退の上京組が、一瞬交差して新たな人生を切り開く。

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 お嬢様と庶民の落差を端的に描きながら物語は始まる。高級レストランから華子を乗せた個人タクシーの高齢運転手は、「私も行ってみたい」とうらやむが、華子は困って言葉を返せない。かみ合わない会話で変な空気が漂うタクシーが向かった場所は、家族がそろう正月恒例の食事会。華子は恋人を紹介するはずだったが、直前に恋人に振られていた。華子の新たな恋人を探す婚活が始まる。

 父から紹介された縁談、友達がセッティングした合コン。なかなかいい相手に巡り合えない中、義兄の紹介で弁護士の幸一郎と出会う。二人は愛をはぐくみ結婚が決定。しかし、眠る幸一郎のスマホに「美紀」という女から「私の充電器持って帰らなかった?」とメッセージが入り、華子の胸はざわつき始める。

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 一方、富山出身の美紀(水原希子)は、苦労して名門大学に入学。付属学校から進学した内部生と地方出身の外部生の格差に苦しんでいる。ある日、講義ノートを強引に借りた内部生の幸一郎と知り合う。しかし、父の失業で学費が払えなくなり、キャバクラでアルバイト。気力が持たずに大学は中退したが、店に客で来た幸一郎と再会する。華子が見たスマホの名前は、幸一郎が都合のいい女としてつながり続けた美紀だった。

 生まれも育ちも違う二人の女性を通し、日本の格差が描かれる。地方出身者は東京育ちに憧れ、箱入り娘は上京組に憧れる。二人はないものねだりのように互いに憧れ、新しい生き方を見いだす。格差を飛び越え次のステージへ向かう姿は、清々しく凛々しい。

(文・藤枝正稔)

「あのこは貴族」(2021年、日本)

監督:岨手由貴子
出演:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、高橋ひとみ、津嘉山正種、銀粉蝶

2021年2月26日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://anokohakizoku-movie.com/

作品写真:(C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会

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2021年02月13日

ゆうばり映画祭作品の上映会 グランプリ作品「湖底の空」も

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 昨年9月にオンラインで開催された第30回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020の舞台あいさつ付き上映会が2月11日、北海道夕張市で行われ、グランプリ作品「湖底の空」の佐藤智也監督らが駆けつけた。

 冬の風物詩だったゆうばり映画祭は2020年から夏開催になることが決まっていたが、その初回は新型コロナウイルス感染防止のため、オンライン開催に転換せざるをえなかった。

 今回の上映会は、スクリーンでも映画を楽しんでもらいたいと企画されたもので、1月末から東京、神戸、佐賀、名古屋のミニシアターで順次開催。夕張市が最終回となった。

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 複合施設「りすた」で行われた上映会は、2019年3月に廃線となったJR北海道石勝線夕張支線のラストランを描く「夕張支線ノスタルジア」(西田知司監督)でスタート。続いてファンタスティック・ゆうばり・コンペティション部門グランプリとシネガーアワード(批評家賞)を受賞した「湖底の空」が上映された。

 「湖底の空」は日中韓の合作。韓国インディペンデント映画界で活躍する女優イ・テギョンが主演し、日中で活動する阿部力、韓国で活動する武田裕光らが共演している。

 登壇した佐藤監督は韓国映画界との縁について「2000年にゆうばりで『L’Ilya』が審査員特別賞を受賞し、姉妹映画祭の富川国際ファンタスティック映画祭に招かれたことがきっかけ」と明かし、「ゆうばりで生まれた縁を今後も広げていきたい」と語った。

 中国語や日本語のせりふをこなしながら双子の一人二役を高い演技力で表現したイ・テギョンは、ビデオメッセージを寄せ「3カ国のみんなが一丸となって力を注いだ映画。心が温かくなってくれたらうれしい」とあいさつした。

 「湖底の空」は新宿K‘s cinemaで今夏に一般公開される予定。

今年は9月に開催

 2021年の映画祭は9月16〜20日に開催することが決まり、作品の募集も始まった。現時点では、夕張市内の上映とオンライン上映のハイブリッド方式が予定されている。

 ただ、ゆうばり映画祭には逆風が吹く。最近、参加者の宿泊と上映に使われていた市内のホテルの運営会社が経営破綻したのだ。コロナ禍による観光客の激減が背景だった。市内には他に大規模ホテルがなく、代わりの宿泊場所や上映会場は未定だ。

 2007年の市の財政破綻に続く最大のピンチに直面し、キャッチフレーズの「世界で一番、楽しい映画祭」を実現できるか、これからが正念場となる。

(文・写真 芳賀恵)

「湖底の空」公式サイト
https://www.sora-movie.com/movie

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭映画祭
https://yubarifanta.jp

作品エントリーページ
https://yubarifanta.jp/entry2021en/

写真1:舞台挨拶する佐藤智也監督(左)
写真2:「湖底の空」(映画祭事務局提供)
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2021年02月07日

「哀愁しんでれら」幸せに始まったおとぎ話 事態へ思わぬ方向へ

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 海辺の町の児童相談所で働く福浦小春(土屋太鳳)は、自転車店を営む父、大学受験を控えた妹、祖父と4人で暮らしている。母親は小春が10歳の時、「あなたのお母さんをやめました」と吐き捨てるように言ったまま消息不明になった。4人は平和に暮らしていたが、ある夜突然の不幸に見舞われる──。

 自主製作映画「かしこい狗は、吠えずに笑う」(12)のほか、ドラマや映画脚本を書いてきた渡部亮平による初監督劇場作品。自らの「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016」グランプリ企画で監督・脚本を担当した。

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 継母にいじめられていた娘が、王子に見初められ幸せになる童話「シンデレラ」。題名の通り童話をなぞるように始まるが、話が進むにつれ、観客の予想の斜め上方向に展開していく。「裏」おとぎ話サスペンスの趣がある。明るく前向きなイメージがある土屋と田中が、後ろ向きで暗い世界へ踏み込む。

 福浦家の夕食時、突然不幸が襲う。祖父が倒れて残りの家族が病院に向かう途中、自損事故を起こす。酒を飲んだまま運転していた父は警察に連れて行かれ、留守宅は火の不始末で火事になり、自転車店は廃業に追い込まれる。小春が恋人の家に行くと、恋人は浮気の真っ最中。茫然自失で夜道を歩いていた小春は、踏切に倒れていた男性を助ける。泥酔していた男性は、タクシーで去り際に「お礼をしたい」と小春に名刺を渡す。男性はクリニック経営者の泉澤大吾(田中圭)だった。窮地の小春は大吾に連絡する。

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 小春と大吾の出会いから、話は「シンデレラ」のように軽妙に進んでいく。しかし、幸せすぎる展開が妙に心に引っかかり、ざわついた悪い予感が現実になる。きっかけは大吾の8歳の一人娘、ヒカリ(COCO)だ。一見人なつこい少女だが、明るい笑顔に隠された素顔が見え隠れする。同時に娘を偏愛する大吾の裏の顔も明らかに。小春は大吾親子に迎合するように変貌していく。

 ポイントは小春の過去だ。10歳で母に捨てられたトラウマから、自分も母と同じようにヒカリに接してしまう。スイッチが入った小春はモンスター・ペアレントとなり、凶悪事件を起こす。娘への思いが誤った方向に向かい、善悪の判断ができなくなり、行動はエスカレート。玉の輿のシンデレラストーリーは、予想を超えた場所に着地する。後味の悪さが作品の肝だ。

 土屋は「3度出演を断った」というネガティブな役で新境地。田中も王子様から一転、暗い本性を見せる怪演だ。今回が映画初出演の子役、COCOも大人顔負けの演技。おとぎ話をうまく利用しつつ、現代社会の闇を描いている。 

(文・藤枝正稔)

「哀愁しんでれら」(2021年、日本)

監督:渡部亮平
出演:土屋太鳳、田中圭、COCO、山田杏奈、正名僕蔵、銀粉蝶、石橋凌

2021年2月5日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://aishu-cinderella.com/

作品写真:(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

posted by 映画の森 at 23:30 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする