2017年11月07日

東京国際映画祭・特別企画「ゴジラ」シネマコンサート 上映&オーケストラ なじみのテーマ曲、新たに息を吹き込まれ

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 1954年に公開された「ゴジラ」(本多猪四郎監督)を上映しながら、伊福部昭が作曲した音楽パートをフルオーケストラが生演奏するぜいたくなイベント。第30回東京国際映画祭の特別企画として開催された。

 映画上映にオーケストラ演奏をシンクロさせたシネマコンサートは最近の流行で、多くは海外作品で行われている。「スター・ウォーズ」や「ハリー・ポッター」シリーズ、最近では「ラ・ラ・ランド」(16)のシネマコンサートも日本で開催された。しかし邦画では少なく、野村芳太郎監督の「砂の器」(74)ぐらいだろう。

 今回の「ゴジラ」シネマコンサートは、「ゴジラ」のサウンドトラックを伊福部の弟子で作曲家の和田薫が指揮し、東京フィルハーモニー交響楽団が演奏。劇中歌の「平和の祈り」を女声合唱団「Chor June」が歌い上げた。

 本編上映前には「平成ゴジラシリーズ」のプロデューサー・富山省吾氏、音楽プロデューサーの岩瀬政雄氏、「シン・ゴジラ」(16)の樋口真嗣監督を招き、「ゴジラ」の魅力と裏話を紹介するトークショーが行われた。岩瀬氏は今回の企画の苦労話として「『ゴジラ』は台詞、効果音、音楽全てが一つのトラックで録音された。今回はコンピューターで音楽トラックだけ消した」と語る。

 冒頭、東宝ロゴマークからスタッフとキャストロール、ゴジラの足音と雄叫びが入るはずだが、なぜか無音状態から音楽が始まるトラブルに見舞われた。しかし、そんなトラブルはなかったかのように、オーケストラはメーンタイトルを悠々と演奏し始める。

 今まで見てきた平面的でチープなモノラル版「ゴジラ」と別次元だ。3次元的で重厚、立体感に包まれた演奏に鳥肌が立った。本編に合わせて演奏される有名な「ゴジラのテーマ」。数々の聞きなれた曲が、まるで新たなサウンドトラックの公開収録を見ているような不思議な感覚にとらわれる。

 今さら言うまでもないが、終戦から9年後に作られた作品だけに、戦争の暗い影が随所に見え隠れする。巨大生物になす術を失くし、復興した東京の街がゴジラに破壊される。東京は再び焼け野原になり、呆然と立ち尽くす人々。視線の先には戦争で体験した恐怖と、絶望に隣り合わせた記憶がある。その後の「ゴジラ」シリーズにはない、市民の死への恐怖がダイレクトに描かれている。「ゴジラ」が怪獣映画の形を借りながら、痛烈な反戦映画となっていることを痛感させられた。

 旧作をリバイバル上映するだけの従来の方法とは異なり、今回のような切り口なら既存作品を新たに息を吹き込むことができるのだ。アンコールでは東宝怪獣映画音楽をメドレーでつないだ「SF怪獣ファンタジー」が演奏された。伊福部氏が音楽を担当した作品には「地球防衛軍」(57)、「宇宙大戦争」(59)、「海底軍艦」(63)など、オーケストラとシンクロ上映すると面白そうな作品がまだ多くある。「今後も第2、第3のシネマコンサートを見たい」と感じさせる素晴らしい企画だった。

(文・写真 藤枝正稔)

写真:(左から)樋口真嗣氏、富山省吾氏、岩瀬政雄氏

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2017年11月05日

「おじいちゃん、死んじゃったって。」本音を爆発させる家族 死について考えるヒロイン

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 夏の終わり。若い男女がセックスをしている。主人公の吉子とボーイフレンドの圭介だ。自宅の2階、吉子の部屋である。階下で電話が鳴り始めた。行為を中断し、受話器を取る吉子。祖父が死去したとの知らせだった。「おじいちゃん、死んじゃったって」。吉子はベランダに出ると、庭にいる父親の清二に向かって叫んだ。

 早速葬儀の準備が始まる。喪主は長男である叔父の昭男。サポート役が父親の清二だが、2人の意見はなかなか折り合わない。もともと仲が悪いのか、何かにつけていがみ合い、怒鳴り合う。未亡人となったハルは認知症。子や孫の顔も認識できず、夫の死も理解できない。彼女を預けるホームの手配もしなければならない。

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 そうこうしているうちに、次々と親族が集まってくる。離婚した昭男の妻と娘。東京の大学に進学した弟。大学浪人中で引きこもりの従弟。故人を悼むというより、浮き世の義理を果たすため一堂に会した家族たち。

 昭男と清二の兄弟げんかが呼び水となり、家族は長年ため込んできた鬱積を爆発させる。颯爽と赤いフェラーリで乗り付けた叔母の薫が、車上荒らしで高額の香典を奪われるなど、予想外のアクシデントも発生。厳粛であるべき祖父の葬儀は、罵詈雑言飛び交う喧騒と混乱の場と化す。

 そんなドタバタ劇をちょっと冷めた眼差しで眺めているのが吉子だ。「なぜみんな悲しそうじゃないんだろう」。「死後の世界って、天国か地獄しかないのかな」。祖父が死んだときセックスをしていたことに罪悪感を抱きつつ、吉子は人の死について真剣に考える。

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 全体はコメディー仕立て。昭男と清二が遺体の上で取っ組み合いをしたり、はげ隠しに吹きかけたスプレーが葬式の挨拶中に溶けて昭男の顔が真っ黒になったり。爆笑を誘うシーンが目白押しだ。昭男に扮した岩松了がはまり役。認知症のハルには「恋の罪」(11)の怪演などで知られる大方斐紗子が扮し、強烈な存在感を放っている。

 ヒロインの吉子にはNHK大河ドラマ「真田丸」で注目を浴びた実力派で、映画初主演となる岸井ゆきの。クールさとウェットさを併せ持った現代っ子の立場から、家族の見届け役をしっかり演じ切った。

 新鋭・山崎佐保子のオリジナル脚本、CM界で活躍する森ガキ侑大監督がメガホンを取った初長編。どんなにいがみ合っても家族は家族。誰かが死んでも、また誰かが生まれ、延々と家族は続いていく――。シンプルな真実を、美しい田園地帯に浮かび上がらせた。第30回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門公式出品。

(文・沢宮亘理)

「おじいちゃん、死んじゃったって。」(2017年、日本)

監督:森ガキ侑大
出演:岸井ゆきの、岩松了、美保純、岡山天音、水野美紀、光石研

2017年11月4日(土)、テアトル新宿、テアトル梅田、Denkikanほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://ojiichan-movie.com

作品写真:(c)2017「おじいちゃん、死んじゃったって。」製作委員会
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2017年10月27日

「彼女がその名を知らない鳥たち」蒼井優+阿部サダヲ+松坂桃李、絡み合う愛憎劇

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 2006年に出版された沼田まほかるの同名小説を、「凶悪」(13)、「日本で一番悪い奴ら」(16)の白石和彌監督が映画化した。

 舞台は大阪。建設会社で働く15歳年上の陣治(阿部サダヲ)の部屋に、働きもせず居候する十和子(蒼井優)。腕時計を買ったデパートにネチネチとクレームを入れる。レンタルビデオ店で「借りたDVDが再生できない」と難癖をつける。“クレーマー”十和子の日課は、近所の食堂で軽く一杯飲んで帰宅することだった。

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 陣治の前では女王気取りの十和子だが、8年前に別れた恋人・黒崎(竹野内豊)に未練たっぷり。陣治と十和子は男女の関係はなく、同居人のようだった。陣治は十和子に「不潔だ」、「下品だ」とののしられながら、無償の愛を捧げる。が、十和子から見れば陣治は迷惑で目障りでしかなかった。

 ある日、十和子の前に男が現れる。彼女がクレームを入れたデパート時計売り場の主任・水島(松坂桃李)だ。十和子の腕時計が修理できず、代わりの品をみつくろい、わざわざマンションまで持ってきたのだ。十和子は交換を断るが、水島の真摯な態度に思わず涙する──。

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 本格的な恋愛映画をうたっているが、登場するのは最低な人間ばかり。甘い物語を期待すると痛い目にあう。十和子が放つ負のオーラが全体を覆いつくし、取り巻きの男たちの下衆な素性が明らかになっていく。ミステリーの要素もある作品だ。

 ポイントは絶妙なキャスティングにある。蒼井優が貪欲で自堕落な女を悠々と好演。これまで好青年を演じてきた松坂桃李は計算高い下衆男、竹野内豊まで女を踏み台にするDV男。見た目で損する阿部サダヲの純愛こそ核心になるのだ。

 陰湿で辛辣な展開が続く前半から中盤。一転、後半に思い切り恋愛に舵を切り、バランスが悪くなった。しかし、白石監督の的確な描写を積み重ねる語り口は健在。十和子の心理を投影した幻想描写にはっとさせられる。監督は妥協せずに個性を保ち、新たな演技と魅力を引き出した。どす黒い欲望と相反する純愛。絡み合う境地を描いた作品だ。

(文・藤枝正稔)

「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017年、日本)

監督:白石和彌
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋

2017年10月28日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kanotori.com/

作品写真:(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

タグ:レビュー
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2017年10月23日

第22回釜山国際映画祭(2) 中山美穂、新作「蝶の眠り」でレッドカーペット キム・ジェウク共演の純愛作品

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 第22回釜山国際映画祭は、招待作品約300本のうち41本が合作を含む日本映画だった。映画祭の運営側と行政の対立がいまだ解消されていないため、韓国の一部の映画人は今年もボイコットを続け、スター不在の映画祭とも揶揄(やゆ)された。そんな中、日本から大勢のスターが釜山を訪れ、祭りを盛り上げるのに一役買った。

 韓国で「ラブレター」(95)の記憶がいまだ鮮烈な中山美穂は、新作「蝶の眠り」でレッドカーペットを歩き、ファンやメディアの熱い視線を浴びた。

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 「蝶の眠り」は、遺伝性の認知症に侵された人気作家の涼子(中山美穂)と、韓国から来た留学生チャネ(キム・ジェウク)の年齢を超えた純愛がテーマ。悲劇的運命を知りながらも自分を見失わない、自立した女性の強さを、中山が感情を抑制した演技で表現する。

 「子猫をよろしく」(01)のチョン・ジェウン監督を迎えて日本で撮影された。監督はここ数年、建築と都市空間をテーマにしたドキュメンタリーの製作に打ち込んでおり、劇映画の演出は12年ぶり。韓国では男性的な映画が全盛で女性が主人公の映画は多くないが、監督は「女性監督なので女性を描くのには自信がある」と完成度に自信をにじませた。

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 監督は当初から主演に中山を想定していたといい、会見で「中山が引き受けてくれたからこそ作れた映画」と感謝を伝えた。言葉が通じない環境での演出には不安もあったが、「俳優の選択と表現を信じた」。チャネ役のキム・ジェウクはネイティブレベルの日本語がキャスティングの決め手になった。監督が通訳以外で唯一、韓国語で会話ができる存在だったため、現場では心の支えになったという。

 韓国で「ラブレター」が封切られたのは、日本の大衆文化が解禁された直後の1999年。幻想的な雪景色を背景にしたラブストーリーは一大ブームを巻き起こし、中山の劇中のせりふ「お元気ですか」は流行語になった。13年と16年にもリバイバル上映され、人気は根強い。中山は会見で「ラブレター」がいまだに韓国人の記憶に残っていることを問われ、「長く愛されているのは作品の力。恩恵を受けてありがたい」と話した。

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 徐々に記憶を失っていく「蝶の眠り」の役どころについては「実際には病気ではないので本当の気持ちは分からなく、難しかった。監督の考えている世界を演じられるように努力した」と振り返った。また、キム・ジェウクについては「感情を大事にしてそれを演技にぶつけてくる。その情熱に応えたいという気持ちで演じた」と話し、「先が楽しみな俳優」と付け加えた。

 「蝶の眠り」は来春、日韓で公開予定。

(文・芳賀恵、写真・岩渕弘美 芳賀恵)

【写真】
1:レッドカーペット 中山美穂×キム・ジェウク
2:記者会見 中山美穂×チョン・ジェウン監督
3:トークイベントでムン・ソリと登壇した中山美穂=いずれも同映画祭で
4:「蝶の眠り」場面写真=同映画祭事務局提供

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2017年10月19日

「あゝ、荒野」菅田将暉&ヤン・イクチュン、熱くぶつかり「胸いっぱいに」

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 寺山修司原作の映画「あゝ、荒野」前編が2017年10月7日公開され、東京・丸の内で主演の菅田将暉、ヤン・イクチュンら出演俳優と岸善幸監督が舞台あいさつした。

 原作の舞台を近未来の新宿に移し、純粋で無鉄砲な性格の新次(菅田)と、引っ込み思案で吃音に悩む研二(ヤン)が、運命に導かれるように出会い、ぶつかり合う過程を描く。前・後編合わせて305分の長編だ。

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 観客の掛け声の中、ボクシングの試合を思わせる呼び込みで登場したヤンと菅田。菅田は慣れない演出に照れながら「本編では照れずにやってます。楽しんでください」と挨拶。ヤンも「あふれるエネルギーの渦に巻き込まれると思います」と誇らしげに語った。

 ボクサーとして二人を育てるトレーナー役のユースケ・サンタマリアは「昨年ひと夏撮影をした日々がよみがえり、泣くのをこらえるのに必死です」と感慨深い様子。新次のライバルを演じた山田裕貴は「参加していても衝撃で、役を生きたと思える。皆さんの心を揺さぶり、ノックアウト間違いなし」と語った。

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 岸監督は「ボクシングシーンも濡れ場も激しい映画。出演者は美しい肉体をさらけ出して頑張ってくれた。この映画に込めた愛を感じてもらえればうれしい。ボクシング映画でもあり、ラブストーリーでもある」と語った。

 305分の長編。ヤンは「初めは短い一本の映画だと思っていた。前編、後編になると撮影の途中で知りました」と話すと、菅田に「3カ月も撮影していたら気づくでしょ。なんで誰も教えなかったの?」と突っ込みを入れられる一幕も。

 ヤンは「500分を超えても飽きないと思う」と自信を示し、菅田は「岸監督は編集が好きな人。70時間撮ったものを何とか5時間に収めた」と明かした。監督も「あと2時間は長くしたかった」と語るなど思いは尽きない様子だった。

 韓国映画「息もできない」で強面のイメージのあるヤン。高橋が「ヤンさんのかわいさにスタッフが惚れてました」と話すと、菅田も「途中からこの映画はヒロインが芳子(木下あかり)とバリカン(ヤン)の二人なのかなと思った」と話して場内を沸かせた。

 最後に「胸がいっぱいになる作品。素晴らしい原作、素晴らし俳優、素晴らし撮影を経て、いい作品が生まれた」とヤン。菅田は「かかわった人の思いがこんなに熱いことはない。平成の時代にもそういう輪が広がることがあるんだなと嬉しく思う」と観客に語りかけた。

(文・写真 岩渕弘美)

「あゝ、荒野」(2017年、日本)

監督:岸善幸
出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、木下あかり、モロ師岡、高橋和也

2017年10月7日(土)前編、10月21日(土)後編、新宿ピカデリーほかで2部作連続公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kouya-film.jp/

作品写真:(c)2017「あゝ荒野」フィルムパートナーズ

フォトセッション 左から 岸善幸監督 木村多江、ユースケ・サンタマリア、ヤン・イクチュン、菅田将暉、木下あかり、高橋和也、山田裕貴

posted by 映画の森 at 11:33 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする