2019年02月20日

「サムライマラソン」日本初の幕末マラソン、国際的スタッフで現代的に

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 幕末、1855年。米政府の使者ペリー(ダニー・ヒューストン)の黒船が幕府を揺るがせた時代。安中藩主・板倉勝明(長谷川博己)は藩士を鍛えるため、十五里(約58キロ)を走らせる遠足(とおあし)を開催する。優勝者の望みは「何でもかなえてもらえる」という。「姫と結婚したい」、「侍になりたい」、「もうひとはな咲かせたい」など願いを胸にスタートした侍たち。一方、裏では陰謀がめぐらされていた──。

 「超高速!参勤交代」の原作者、土橋章宏の小説「幕末まらそん侍」を実写化。日本初のマラソンとされる「安政十足(あんせいとおあし)」を題材にしている。企画・製作は「ラストエンペラー」(88)のジェレミー・トーマス、監督は「不滅の恋 ベートーヴェン」(94)、「アンナ・カレーニナ」(97)のバーナード・ローズ、衣装はワダエミ、音楽は「めぐりあう時間たち」(02)のフィリップ・グラス。そうそうたるスタッフが顔をそろえた。

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 藩主・板倉の目的は「米国の侵略から国と藩を守ること」。「何でも望みをかなえる」ことが賞品と知り、色めき立つ藩士の姿はほほえましい。逆に、わいろを使って足の速い者を買収しようとしたり、コースを外れて近道をもくろむ輩もいるのは、現代とあまり変わらない。一方、幕府の大老・五百鬼祐虎(豊川悦司)は遠足を謀反の動きととらえ、江戸から刺客を差し向ける。藩士の鍛錬のはずの遠足の帰路は、壮絶な戦いと化してしまう。

 五百鬼の動きを察知したのは、安中藩の勘定方を務めつつ、実は幕府の隠密である(佐藤健)だった。「るろうに剣心」(12)を思わせる侍役で、研ぎ澄まされたたたずまい、無駄のない所作が美しい。原作では小さな役の雪姫(小松菜奈)を大きくふくらませ、物語に大々的にからませたのもいい。雪姫の色鮮やかな衣装に、ワダエミが手腕を発揮する。黒澤明監督「隠し砦の三悪人」(58)の「雪姫」へのオマージュか。コメディーリリーフに徹した竹中直人が、老いた侍役で一癖ある演技を見せる。

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 日本を舞台に、日本人俳優による時代劇を、外国人監督が演出する。やや堅苦しさはあるものの、大きな違和感はない。原作の面白さをうまく脚本に取り入れ、俳優たちの好演が化学反応を起こした。今の世に合ったエンターテインメント時代劇に仕上がっている。

(文・藤枝正稔)

「サムライマラソン」(2019年、日本)

監督:バーナード・ローズ
出演:佐藤健、小松菜奈、森山未來、染谷将太、青木崇高

2019年2月22日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/SAMURAIMARATHON/



作品写真:(C)“SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners
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2019年02月14日

「女王陛下のお気に入り」18世紀イングランド王室、女3人の愛憎劇 古典的な物語、斬新な撮影技術で

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 18世紀初頭、イングランド。ルイ14世のフランスと戦争中の女王のアン(オリビア・コールマン)を、女王の幼なじみのレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)が操っていた。そこにサラの従妹の没落貴族、アビゲイル(エマ・ストーン)が、召使いとしてやってくる。サラに気に入られ、侍女に昇格したアビゲイルに野望が芽生える──。

 気まぐれで病弱、頑固に国を守るアン女王。女王の寵愛を受けるサラ。サラの立場を奪おうとするアビゲイル。女3人の争いを、きらびやかな衣装と豪華な宮廷セットで描く。監督は「ロブスター」(15)、「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(17)のヨルゴス・ランティモス。ギリシャ生まれの奇才だ。

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 史実をベースにしつつ、女王の威厳ある話は描かない。取り巻く侍女たちの腹黒い思惑をシニカルに表現する。女王の気まぐれに振り回されながら、サラは裏で彼女を操り、愛人にもなっている。二人の絶対的な関係に割って入るのがアビゲイルだ。若さと美貌でサラに取って代わろうと、裏工作をしながらタイミングをうかがい、ついにチャンスが訪れる。

 古典的なストーリーに対し、撮影方法は斬新だ。自然光やろうそくの明かりを使い、観客が宮廷内部をのぞき見るしかけになっている。画角が180度を超える魚眼レンズや広角レンズ。360度の撮影技法「ヴィプ・パン」により、素早い平行移動でカメラをパン。カット割りはせず、複数の人物が向き合う様子を、ワンカットでとらえている。

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 さらに、カメラの振動を抑える特殊な装置「ステディカム」で、宮廷や屋外を左右対称な構図でとらえる。「シャイニング」(80)の移動シーンで、スタンリー・キューブリック監督が用いたことで知られる技法だ。動きのある移動が、幻想的で浮遊感を持つようになる。古典的な物語から古臭さを払拭したのは、そんな技術にあるだろう。

 主役の女性3人のうまさも際立つ。わがままで気難しく、病弱な女王役のコールマン。クールな美貌と気品で女王に愛されるワイズ。若さ、野心、行動力、計算高さを併せ持ったストーン。アンサンブルが絶妙である。

 年明けから米ゴールデングローブ賞、英アカデミー賞と、賞レースで快進撃を見せてきた。2月下旬の米アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演&助演女優賞など10部門で候補になっている。豪華絢爛な愛憎劇に注目だ。

(文・藤枝正稔)

「女王陛下のお気に入り」(アイルランド・英・米)

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン

2019年2月15日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/

作品写真:(C)2018 Twentieth Century Fox

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2019年02月10日

「洗骨」沖縄に残る弔いの風習、ゴリこと照屋年之監督が映画化

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沖縄の離島・粟国島に住む新城家。母・恵美子(筒井真理子)が亡くなり、島を離れていた息子と娘が帰ってきた。東京の大企業で働く長男の剛(筒井道隆)と、名古屋で美容師をしている長女・優子(水崎綾女)だ。恵美子の葬儀は終わったが、父・信綱(奥田瑛二)は酒を飲んで悲しみを忘れようとし、剛に愛想を尽かされている。島に残る習慣「洗骨」が近づき、家族はそれぞれの思いを抱いていた──。

 お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリこと照屋年之が監督・脚本を担当した「洗骨」。25分の短編「born、born、墓音。」(16)の長編化だ。「洗骨」は、土葬や風葬で遺体が骨となった後、海水や水、酒で洗い、再び埋葬する風習という。

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 照屋監督は06年、短編「刑事ボギー」でデビューした。短編8本と長編「南の島のフリムン」(09)を経て、満を持して演出したのが「洗骨」だ。沖縄県出身の照屋にとって必然に向かい合うべきテーマだったのだろう。ドラマは葬式で幕を開け、悲しみに暮れる家族とは対照的に、ほのぼのとしたご近所さんとのやり取りが笑いを呼ぶ。笑いの間合いが良く、楽しいシーンはコントのようだ。

 苦労人の長男・剛、妊婦の長女・優子、酒浸りで無職の父・信綱。葬儀の4年後、再び家族は島に集まった。剛は父を許せず、父と息子の軋轢は家族崩壊の危機さえ予感させる。

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 しかし、監督は険悪な空気を和らげるように、鈴木Q太郎演じる美容師・神山を投入する。優子を妊娠させた張本人で、信綱に結婚を認めてもらうため島に来たのだ。Q太郎はお笑いコンビ「ハイキングウォーク」の芸人。ロン毛に口ひげをたくわえ、島では浮きまくる。空気が全く読めない男だが、憎めないキャラでガス抜き的な存在になる。

 バラバラになりかけた家族をつなぎ、物語を引き締めるのが信綱の姉・信子役の大島蓉子だ。どこまでも情けない信綱に代わり、場を仕切り、おろおろする男たちを大声で叱咤する。たくましい叔母さん役の大島が、情けない奥田の演技を引き立てた。

 家族は感情をぶつけ合い、荘厳な「洗骨」を迎える。親族が集まり、風葬された美恵子がいる場所まで道具を運ぶ。しかし、厳かな儀式は、予想外のハプニングで、とんでもない展開になってしまう。

 離島に伝わる風習を通して、家族という名の命のバトンがつながれる。監督はユーモアを交え、笑いと涙をバランス良く配合。感動的なドラマに仕上げた。

(文・藤枝正稔)

「洗骨」(2018年、日本)

監督:照屋年之
出演:奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら

2019年2月9日(土)、丸の内TOEIほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://senkotsu-movie.com/

作品写真:(C)「洗骨」製作委員会


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2019年02月07日

ゆうばり映画祭ラインアップ発表、開幕作はキム・ギドク監督新作「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)

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 第29回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019のラインアップ発表記者会見が6日、札幌市内で行われた。開幕作は韓国のキム・ギドク監督の「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)。3月7日から10日の4日間、73作品を上映する。

 キム監督は韓国の「♯Me Too」運動により表舞台から姿を消しており、本作も欧州などの映画祭で上映されたものの、韓国では未上映となっている。退役軍艦が海から未知の空間に迷い込み、乗っていた多くの旅客が生存競争を繰り広げるストーリー。チャン・グンソク、韓国で活躍する藤井美菜、韓国映画の重鎮アン・ソンギ、オダギリジョーという豪華キャストも注目を集めそうだ。

 ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門は334本の応募の中から6本がノミネート。北海道出身の白石和彌監督ら5人の審査員により審査が行われる。ゆうばり常連の西村喜廣監督がプログラミングを担当する新設の「コアファンタ部門」は、ファンタ映画ファン必見のラインアップをそろえる。

 ゆうばり映画祭は、第30回を迎える来年、大幅な刷新を予定している。深津修一エグゼクティブプロデューサーによると、詳細は決定していないものの、冬季間の開催は今年で最後になるという。

 昨年のゆうばり映画祭で上映された後、全国的に人気が爆発した「カメラを止めるな!」にちなみ、今年のテーマは「ファンタを止めるな!」。開催日程が昨年より1日短縮となり上映本数やスクリーン数も縮小するなど、運営が厳しさを増すなか、身の丈に合った映画祭への模索が続きそうだ。

 雪景色がトレードマークの映画祭は大きな転機を迎える。

(文・芳賀恵)

・招待作品
【オープニング】 「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)キム・ギドク監督
【クロージング】「レゴ・ムービー2」マイク・ミッチェル監督
「アナと世界の終わり」ジョン・マクフェール監督

・作品写真
「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)
(c)2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

・映画祭HP
http://yubarifanta.com
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2019年01月10日

「この道」北原白秋と山田耕筰 珠玉の童謡を生んだ名コンビ あふれる人間味と固い友情

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 昭和27年(1952年)、神奈川県小田原市で「北原白秋 没後十周年記念コンサート」が開かれ、白秋が作詞した「この道」が、少女合唱隊とオーケストラによって披露された。指揮は作曲した山田耕筰。コンサート終了後、若い女性記者に「白秋はどんな人だったか」と尋ねられ、耕筰は出会いと交流を回想する──。

 詩人・歌人で童謡作家の北原白秋と、作曲家・指揮者の山田耕筰の友情を描いた「この道」。白秋役を「ハゲタカ」の大森南朋、山田耕筰役にEXILEのパフォーマーで、映画「沈黙 サイレンス」(17)などに出演したAKIRA。監督は「半落ち」(04)、「夕凪の街 桜の国」(07)の佐々部清。

 佐々部監督は白秋を偉人として描かない。観客が抱くイメージを壊す人物造形に驚かされる。過去に一緒に仕事をしたことがあるチェコ出身のミロス・フォアマン監督が、作曲家・モーツァルトを下品な人物として描いた「アマデウス」(85)を参考にしたという。

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 白秋と耕筰は全く性格が異なり、水と油のように交わらなかった。大正7年(1918年)に「赤い鳥」創刊者の鈴木三重吉(柳沢慎吾)の仲介で知り合ったものの、反発し合いけんか別れする。大正12年(1923年)に関東大震災後、耕筰が白秋を案じて会いに行く。耕筰が「僕の音楽と君の詩で、傷ついた人々の心を癒す歌ができるはず」と言い意気投合。二人はコンビを組み、数々の童謡を生み出すことになる。

 白秋は「女好き、酒好き、泣き上戸の遊び人」として描かれる。大森は「破天荒な白秋」を喜怒哀楽を全開に、愛すべき人物として演じる。耕筰は逆に真面目な勤勉家の堅物。AKIRAはりりしい若き日、特殊メイクの晩年の双方を演じる。硬さの残る演技が、遊び人に徹した大森の演技を引き立てた。

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 ドラマ演出に定評のあるベテラン佐々部監督らしく、白秋の人物像をじっくり掘り下げながら、日常生活を通して見た情景や聞こえる音から詩が生まれる瞬間を軽妙に描く。耕筰との最悪の出会いから、震災を境に友情が育まれていく。

 二人のあふれる人間味、友情を通じ、歴史に残る「からたちの花」、「この道」など数々の名曲が生み出された。笑いと涙のバランスもほどよく、親しみやすい作品だ。

(文・藤枝正稔)

「この道」(2019年、日本)

監督:佐々部清
出演:大森南朋、EXILE AKIRA、貫地谷しほり、松本若菜、小島藤子

2019年1月11日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://konomichi-movie.jp/

作品写真:(C)映画「この道」製作委員会

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